remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

日本社会学会 (2009)『社会学評論スタイルガイド』(第2版) 第3.8.2項

日本社会学会『社会学評論スタイルガイド』の規定が 話題になっている ようだが、ちゃんと文言を読まずに解釈している人が多そうで、かつ、ちゃんと文言を読むととんでもないことが書いてある規定なので、ちゃんと説明しておこうと思った次第。なお、私はたぶん1996年から日本社会学会会員で、『社会学評論スタイルガイド』(第1版) がつくられた1999年当時のことはうっすら覚えている。ただし学会の役などやっていたわけではないので、一会員としての情報しか持っていない。

以下、本文。next49「2017年人工知能学会全国大会でのpixiv作品を用いた研究発表」(発声練習) http://next49.hatenadiary.jp/entry/20170527/1495859912 へのコメントに加筆したもの。

『社会学評論スタイルガイド』のなりたちについて簡単な説明

『社会学評論スタイルガイド』は、日本社会学会が発行する雑誌『社会学評論』に載せる原稿の書きかたを決めているもの。基本的に、「書きかた」のガイドである。たとえば「、。 と ,.のどちらを使うか」「著者が大勢いる論文の情報はどう書けばいいのか」といったことについて統一ルールを示している。研究倫理等については論文投稿に必要な範囲のことしか書いていない。

最初につくられたのは1999年。それ以前は『社会学評論』誌には簡単な「執筆要項」の規定しかなく、原稿の体裁不統一が問題になっていた。

『社会学評論スタイルガイド』は,『社会学評論』の執筆要項の書式部分を全面的に拡充・改訂したものである.
〔……〕
編集委員の役目柄,私たちは『社会学評論』に投稿された論文を最終点検しているが,痛感するのは,執筆要項がかならずしも守られておらず,投稿者によって論文の書き方がまちまちであるという残念な事実である.まったくの我流によっているのではないかと思われることもしばしばあった.学会誌にふさわしい誌面の統一性を保持するために,また近年の投稿数の増大に対応して,学会誌としての水準を維持しながら,査読を円滑におこなっていくためにも,ぜひとも書式などにかんする詳細なルールづくりが必要であると判断した.
〔……〕
私たちは1998年春から編集委員会で協議を重ね,成案をまとめる努力をしてきた.日本社会学会理事会,査読を担当する本誌専門委員,データベース委員会委員から意見をうかがったほか,日本社会学会ニュースや本編集委員会のホームページをとおして,一般会員からもひろく意見を募集し,改訂につとめてきた.さらに『社会学評論』の発売元の有斐閣をはじめ,社会学書の出版で実績のある数社の編集者からも参考意見を聴取した.ご意見をお寄せいただいたみなさまに深く感謝申し上げたい.編集委員のなかでも,スタイルガイドを担当された福岡安則委員は,原案作成,専用ホームページサイトの運営・改訂などに労を惜しまれなかった.
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長谷川公一 (1999)「刊行のことば」日本社会学会編集委員会『社会学評論スタイルガイド』

http://web.archive.org/web/20090813083742/http://www.gakkai.ne.jp/jss/bulletin/guide.php

このときの「一般会員からの意見」は学会サイト (当時は wwwsoc.nii.ac.jp/jss/) で公開されていたはずであるが、現在は載っておらず、Internet Archive にも記録がない。秘密情報ではないはずなので、学会に問い合わせれば入手可能ではないかと思う。

当時、学会ニュースなどで、公開された草案への意見が募集されていたことは覚えている。私も何か書くべきかと思って考えた記憶はあるのだが、最終的に意見を出したかどうかは記憶にない。

オンラインで公開されるHTML版と冊子体のものがつくられた。冊子体は学会員に配布されたほか、500円で売られている。奥付には「1999年9月25日印刷」「1999年9月30年発行」とある。

このあと、『日本社会学会倫理綱領』(2005) 『日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針』(2006) が制定された。

そのあと、2009年になって『社会学評論スタイルガイド』は改訂され、第2版となる。

改訂のポイントは大きくみて3つある.第1は,インターネット環境の普及に伴い,一般化した電子情報の扱い方などにかんして,適切な指針を打ち出す必要があった.これは,今回の改訂の目玉とも言うべき部分であって,「3.8 ウェブ文書からの引用」という節を新たに加え,「4.5 電子化された資料」は大幅に書き足した.旧版の『スタイルガイド』をお持ちの方は,この部分がもっとも異なる箇所なので,ご注意いただきたい.
 第2の改訂のポイントは,旧版が刊行されたときにはなかった「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」が2006年10月に制定されたので,その内容を『スタイルガイド』にも反映することであった.旧版には,社会学評論独自の指針として,「バイアス・フリー」や「調査倫理」について述べられていたが,ずれが生じてはいけないので,この改訂版では,それらをけずり,「6.2 論文執筆のさいに守るべき倫理」に,「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」の「4.論文執筆など研究結果の公表にあたって」を全文掲載することとした.
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片桐新自 (2009)「第2版刊行のことば」日本社会学会編集委員会『社会学評論スタイルガイド』(第2版)

http://www.gakkai.ne.jp/jss/bulletin/guide.php

この第2版もオンライン版と 印刷版 が発行されている。私も印刷版を持っているはずであるが、行方不明。

第2版発行に先立って会員に意見を求める、というようなことはなかったのではないかと思う。オンラインデータベースの書誌情報記述 (4.5.4.1) などひどいことになってるので、意見募集があれば私は絶対に文句を付けたはずである。

第2版第3.8.2項

今回問題になっている のは、第2版 (現行版:2009年8月25日) の第3.8.2項である。10章に分かれている『社会学評論スタイルガイド』のうち、第3章「引用」の第8節「ウェブ文書からの引用」のなかの第3項「ウェブ文書を論文で使用する場合の注意点」。

3.8.2 ウェブ文書を論文で使用する場合の注意点
 図書館等で半永久的に閲覧可能な紙媒体の資料と異なり,ウェブ文書を論文で使用するさいは独自の注意が必要となる.以下に特に注意が必要と思われる点について示す.

(1) 作成者の意思の尊重
 インターネット上に存在する電子情報は万人の閲覧に開かれてはいるが,調査が回答者の協力を必要とするのと同様に,作成者が拒否する場合に論文で使用することはできない.「無断引用不可」「無断転載不可」の意思表示があるウェブサイトや,加入手続きが必要となるインターネット上のコミュニティでのやりとりを論文で使用する場合は,使用許可を得た旨を明記するなどの注意が必要となることに留意する.
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日本社会学会編集委員会 (2009)『社会学評論スタイルガイド』(第2版)

http://www.gakkai.ne.jp/jss/bulletin/guide3.php#sh3-8-2

『社会学評論スタイルガイド』第1版 (1999年8月15日) では第3章「引用」は第7節までしかなく、この3.8.2項に該当する記述はなかった。ただし、関連する記述が第6.3節「調査倫理」にあった。これは Internet Archive に残っていないので、冊子版 (1999年9月30日) から引用する。

 当面は,社会学者ひとりひとりが,自分なりの調査倫理を定めて,みずから守るというのが,ベストであろう.
〔……〕
 いずれにせよ,学術雑誌に掲載される論文は,調査対象とした当事者たちに読まれることはない,といった安易な考えに依存してはならない.投稿者自身が熟考して決めた調査倫理にのっとって実施した調査研究の成果を,『社会学評論』に投稿していただきたい.
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日本社会学会編集委員会 (1999)『社会学評論スタイルガイド』 p. 32

http://f.hatena.ne.jp/remcat/20170527224541

現行の第2版にはこの記述はない。「調査倫理」(6.3) の節はあるが、ぜんぜんべつの内容 (2重投稿の禁止) である。→ http://www.gakkai.ne.jp/jss/bulletin/guide6.php#sh6-3


(つづく) → 「作成者が拒否する場合に論文で使用することはできない」とはどういうことか