remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

「ウィメンズヘルスリテラシー協会」とは

ウィメンズヘルスリテラシー協会は、2017年7月設立の一般社団法人。しかし、現在のところ、ウェブサイト http://www.womenshealthliteracy.website にはほとんど情報がなく、「協会概要」のページなど「ただいま、テキストを準備中です」と書いてあるだけの状態である。

http://www.womenshealthliteracy.website/pages/1222280/aboutus

2017年5月30日に岩永直子が BuzzFeed に書いた記事 ホルモン・冷え・骨盤 その健康情報は正確ですか? 「体の平和ボケ」憂う医師らが立ち上がる で、陣容があるていどわかるので、そちらをてがかりにさぐってみよう。それによると、役員等はつぎのような感じである。

「一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会」とは

宋美玄さんが代表理事に、国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター副センター長の齊藤英和さん、日本医療政策機構理事の宮田俊男さん、女性医療ジャーナリストの増田美加さん、BuzzFeed Japanの岩永が理事に就任し、設立する。

顧問に元日本産科婦人科学会理事長の吉村泰典さん、大阪大学産婦人科教授の木村正先生さんを迎え、産婦人科、小児科、内科、救命救急、精神科などの協力医と共に、様々な企画を実施する。

まずは一般向けのシンポジウムで医療情報を選び取る大切さを伝え、医療情報を扱う編集者やライター向けに連続セミナーも開く予定。

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岩永 直子 (2017-05-30)「ホルモン・冷え・骨盤 その健康情報は正確ですか? 「体の平和ボケ」憂う医師らが立ち上がる」『BuzzFeed』

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/women-health-iteracy

「BuzzFeed Japan の岩永」という部分に注目しよう。そう、これはこの記事を書いている岩永直子本人のことなのだ。ある団体の理事に就任予定の記者が、その団体の活動予定について、記事を書いて配信する、要するに身内の宣伝なのである。

この記事は、つぎのような書き出しではじまる。

「布ナプキンで子宮を温める」「セックスで女性ホルモンアップ」。女性誌やインターネットなどに載る女性向けの健康記事には、眉唾ものの情報がいっぱい散りばめられています。

こんな状況を変えていこうと、産婦人科医の宋美玄さんらが今月中にも、正しい情報発信を啓発する団体「一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会」を設立します。この団体の狙いを聞きました。

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岩永 直子 (2017-05-30)「ホルモン・冷え・骨盤 その健康情報は正確ですか? 「体の平和ボケ」憂う医師らが立ち上がる」『BuzzFeed』

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/women-health-iteracy

このあと、「――どのような団体なのでしょうか?」「――女性向けの健康情報には問題が多いのでしょうか?」といった記者からの質問に、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事 (に就任予定) の宋美玄がこたえる形式で話が進んでいく。

ふつう、この記事を読んだ人は、この団体とは無関係な立場の記者が、外部から取材をおこなって記事を書いたものと理解するだろう。記事を最後まで読まない人も多いだろうし、読んだとしても、理事就任予定の「BuzzFeed Japan の岩永」と、冒頭の記者署名「岩永直子 BuzzFeed News Editor, Japan」が同一人物を指すと理解できるとはかぎらない。

現在のところ、BuzzFeed のこの記事以外には、「ウィメンズヘルスリテラシー協会」の活動内容や人員構成をくわしくとりあげたメディアはみあたらない。まだ活動開始しておらず、なんの実績もない団体なのだから、それがあたりまえである。そのような段階で、肯定的な情報だけをならべたてて好い印象をあたえる記事を、自分たちでつくり、職業的な地位を利用して世の中に配信している。客観的な報道をよそおいながら実は特定の団体について宣伝する、俗に「ステルスマーケティング」「偽装広告」「自作自演」などと呼ばれる宣伝手法である。

この時点で、「ウィメンズヘルスリテラシー協会」があやしい団体であることは見当がつく。このような手段で情報を操作しようとする団体が、まともな学術的知識を出してくるわけがないからだ。

高校保健副教材「妊娠のしやすさ」グラフを改竄した吉村泰典 (内閣官房参与) が顧問に就任

さて、上記の役員就任予定者のうちでいちばんのビッグネームは、「元日本産科婦人科学会理事長の吉村泰典さん」だろう。慶應義塾大学の名誉教授、福島県立医科大学の現副学長であり、日本生植医学会の元理事長。2013年以降、内閣官房参与として安倍政権の「少子化対策」に深く食い込んでいる人物。2015年8月に公開された文部科学省製の高校保健副教材『健康な生活を送るために』に載った、女性の「妊娠のしやすさ」が22歳のピークのあと直線的に減少していくかのようみせかけた改竄グラフをつくった本人である。このことはすでに当ブログで何度もとりあげている。


厚生労働省 (2014) 「妊娠と不妊について」https://www.youtube.com/watch?v=mgW51 6'53付近で改竄グラフを使って「女性の妊娠適齢期」を説明する吉村泰典。この動画は現在は見られなくなっているが、当該部分のみ https://twitter.com/twremcat/status/800561970877317120 にコピーあり。厚生労働省は、グラフをさしかえた動画を https://www.youtube.com/watch?feature=youtu.be&v=Xhkw0UtV3y8 に 2016-10-19 付けで載せている。

https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20160528/mhlw

このグラフがつくられた経緯は非常に複雑で理解しづらいものだが、おおまかには、つぎのポイントをおさえておけばよい。

  1. アメリカの大学院生が、20世紀中盤のある宗教教団コミュニティの人口統計データを使って年齢別の受胎確率 (fecundability) を推定した論文を発表 (1978年)。その際、データのなかから自説に適合した部分だけを切り出して使い、20代なかば以降の受胎確率の減少は直線的 (the decline is approximately linear) との結果を導く (実際のグラフは上に膨らんだ曲線をふたつ組み合わせたような形状なのだが、論文本文には思い切り単純化してそう書いてある)。
  2. この論文のグラフを人口学者が適当に改変して論文や書籍で引用 (1989-1998年)。22歳をピークとするグラフが創られる。
  3. 吉村泰典がこのグラフをさらに改変 (2013年)。22歳ピークを強調し、そこから直線的に「妊孕力」が落ちていくように単純化したグラフができる。
  4. 高校保健副教材『健康な生活を送るために』改訂にあたり、吉村泰典がこのグラフを提供。縦軸ラベルを「妊娠のしやすさ」に改変し、適切な出典表示なしに掲載 (2015年)。

くわしくは、つぎの情報を参照のこと。いちおう人口学の名誉のためにつけくわえるなら、1978年の論文は、出た次の年には人口学界内部で批判を受けており、その後ほとんど引用されていない。グラフがコピーされる場合も、基本的に批判対象として言及されているのであって、「妊娠のしやすさ」をあらわす正しい研究成果としてあつかわれてきたわけではない。吉村泰典は、そのような研究をわざわざ持ってきて、「22歳時の妊孕力を1.0とすると、30歳では0.6を切り、40歳では0.3前後となる。」 などとして、女性の妊孕力は20代のうちから急激に減少するという自説の根拠にしていた。高校副教材のほうは、その後グラフを差し替えたり、内容を完全に入れ替えた改訂版を出したりしているが、吉村泰典のウェブサイト記事では、現在も改竄グラフがなんの注釈もなくそのまま使われている。

トンデモ調査「スターティング・ファミリーズ」を少子化対策に持ち込んだ齊藤英和 (国立成育医療研究センター) が理事に就任

もうひとりのビッグネームが、理事に就任するという「国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター副センター長の齊藤英和さん」。政府の「少子化危機突破タスクフォース」や「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」などで、「出生率のピークを医学的な妊娠適齢期に変化させる」ために「妊孕性の知識教育が必要である」 などと主張してきた人物である。この主張の根拠となってきたのが、英カーディフ大学の研究グループが多国籍製薬会社のメルクセローノなどからの支援を得ておこなった「スターティング・ファミリーズ」調査 (International Fertility Decision-Making Study (IFDMS) とも呼ばれる) であり、齊藤英和はしばしばこの研究グループによる論文からのグラフを引用している。


齊藤 英和 (2014)「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」(新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会, 第3会会合 2014-12-12) p. 2.

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou/k_3/pdf/s2-1.pdf

「スターティング・ファミリーズ」調査がダメなのは、調査票をみれば誰でもわかるようなレベルの話である。日本語版調査票には、たとえば「妊娠とは受胎能力、つまり女性が妊娠し、男性が父親になる能力を意味します」とか「推奨されれば、私の共同体の大多数は不妊治療を (何度でも) 私達にしてもらいたいのではないかと思う」といったぐあいに、意味のよくわからない文章がならんでいる。くわえて、質問をならべる順序が英語版と日本語版でちがっていたり、国によって対象者の集めかたがちがっていたりするので、およそまともな社会調査と呼べるものではない。くわしくは、つぎのところに書いたものを参照。

  • 「日本人は妊娠・出産の知識レベルが低いのか?: 少子化社会対策大綱の根拠の検討」編= 西山 千恵子 + 柘植 あづみ『文科省/高校 「妊活」教材の嘘』論創社: 第6章 (pp. 135-159) (2017) http://tsigeto.info/17b
  • 「日本人は妊娠リテラシーが低い、という神話: 社会調査濫用問題の新しい局面」『Synodos』2016.06.01 http://synodos.jp/science/17194
  • 「濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱」第61回数理社会学会大会 (2016-03-17) http://tsigeto.info/16z

齊藤英和は「スターティング・ファミリーズ」調査の問題点を知っていたはずである。この調査の質問文を改良したものをFacebookに載せている ので、すくなくとも日本語版調査票がそのまま使ってはならないものであることはわかっていたはず。しかし、そのことは伏せたまま、「日本はトルコの次に知識が低い」などとして危機感をあおり、この調査を根拠として、「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての理解の割合」が2009年には34%であったものを2020年までに70%まで引き上げる、という数値目標を「少子化社会対策大綱」(2015年) に盛り込ませたのである。(齊藤英和は、政府が設置した「少子化危機突破タスクフォース」「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」などのメンバー。)

「エビデンス」概念の特異な理解

もうひとり、「女性医療ジャーナリストの増田美加さん」にも注意しておこう。私はこの人は知らなかったのだが、あちこちのメディアに医療・美容関係のことを書いているライターのようである。「増田美加」の名前で検索すると、たとえばつぎのような記事がみつかる。

こだわりにこだわってセレクトした地球由来のオイル成分とそのブレンド法。そのオイルと、私たちの体と心が対話することで、生命エネルギーや免疫システムにまで働きかけるフェイシャルオイルが話題になっています。

〔……〕

アーユルヴェーダでは、宇宙や自然を支配する法則として、3つの生命エネルギーが働いていると考えられています。この生命エネルギーをドーシャ(体質)と言います。
アーユルヴェーダでは、ひとりひとりのドーシャ(体質)を診断し、ヴァータ、ピッタ、カパの3つに大別します。
そして、この3つの体質に合わせた製品がそれぞれ作られています。

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増田美加 (2017-04-26) 「内面から輝かせて美しさを引き出す、魅惑の「フェイシャルオイル」とは?」『Spark GINGER』

https://www.spark-ginger.jp/beauty-diet/49854.html

これ流石に大丈夫なのか、という内容であるが、……いや、本当に大丈夫?

と思って本人の公式サイト http://office-mikamasuda.com に行ってみると、なんと「エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う」と謳っている。実は、ウィメンズヘルスリテラシー協会が9月28日におこなうという「ウィメンズヘルスリテラシーサミット」の開催通知ページにも、そのように書いてあるのだ。

・増田美加(女性医療ジャーナリスト)
〔写真省略〕
エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。女性誌やWEBマガジンでヘルスケアや女性医療の連載を行うほか、テレビ、ラジオにも出演。乳がんサバイバーでもあり、がんの啓発活動を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人「みんなの漢方○R」理事長。NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク(BCIN)」副理事長。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事「マンマチアー委員会 〜乳房の健康を応援する会」。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。

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ウィメンズヘルスリテラシー協会 (2017.08.30)「第一回 ウィメンズヘルスリテラシーサミット開催を開催します」

http://www.womenshealthliteracy.website/posts/2874275

今日、医療関係で「エビデンス」といえば、「根拠に基づく医療」(EBM: evidence-based medicine) での用語法にしたがうのがふつうであろう。それは通常、医学研究の成果を適切に反映した現時点で最善の診断や治療をおこなうための根拠として利用する目的で、文献を網羅的に収集して検討した結果得られる知識を指す。

エビデンスに基づいた情報をあつかうなら、文献レビューが不可欠だ。ところが、すくなくともネットで見かける増田美加執筆記事では、文献レビューなどおこなっていないようである。それでいったい何が「エビデンスに基づいた健康情報」だというのか?

実は、産婦人科業界では、それらしい見かけの出所不明データで素人を納得させる技術を指して「証拠に基づく医学」と呼んできたらしいのである。くわしくは 2017-03-17に書いた「産婦人科医の考える「エビデンス」とは 」 http://d.hatena.ne.jp/remcat/20170317 を読んでいただきたい。増田美加のいう「エビデンス」がそういうものなのかどうかはさだかでないが、すくなくとも、何らかの診断法の妥当性や治療法の有効性について文献を網羅的に集めて評価した結果、というような意味でないことは確かである。

宋美玄とその人脈

「ウィメンズヘルスリテラシー協会」の理事代表をつとめるのが宋美玄(丸の内の森レディースクリニック 院長)。この人は、こういうものを作って売っているらしい。

http://shime-kyu.com

小さい字で「※骨盤まわりの体型補正と尿モレ防止は装着中の効果」と書いてある。これはつまり、この下着 (?) を着けると体型が元に戻ったように見えたり尿漏れが少なくなったりするが、それは下着を着けている間だけのことであり、体型等それ自体を変えるような効果があるわけではない、ということだろう。いちおう正直に書いてあるわけだ (もっと目立つように書けよ、と思うけど)。

ところが、そのあとの利用者の声では「体型が産前に戻り始めている」「尿漏れも改善されている気がします」などとある。ふつうに読めば、これらは、下着を着けている間だけの話だとは解釈できないのではないか。そのあとの「医師コラム」では「インナーマッスルが使われ、連動して、骨盤低筋肉がしなやかになり、ベストな体型作りや、女性特有の悩みの軽減につながります」とあり、さらにそのあとにはつぎの図が出てくる。

http://shime-kyu.com

……どう見ても、「この下着を着けている間だけ体型が改善され、尿漏れが軽減します」とは読めないと思う。

この製品を販売している会社のプレスリリースではつぎのようになっていて、やはり「下着を着けている間だけ効果がある」とは読めない。

上記でも述べたように、「尿漏れ」対策には、骨盤底筋を鍛えることが最も効果的といわれています

更に、ヒールを履いたり、子供の抱っこなどで普段から腰痛に悩む女性の声も多数寄せられました。
腰椎のずれは「骨盤」のゆがみによるものなので、骨盤を締め、ゆがみを矯正すれば背筋も伸び、腰痛防止へ
繋がります。
“締めきゅっと”を履くだけで、骨盤底筋を鍛え、産後の回復機能を早め、「尿漏れ」や「腰痛」を予防します。

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イッティ (2015.11.12) 「女性の「尿漏れ」は晩婚化による高齢出産が原因だった!? 宋美玄(そんみひょん)さん監修『尿漏れ自己ケア商品“締めきゅっと”』の売れ行き好調!!」『@Press』

https://www.atpress.ne.jp/news/80925

そして、広告のどこにも、この製品の効果をあらわすエビデンス (通常の意味での) は示されていない。効果があることを示した文献があるなら広告に載せないはずはないのだから、エビデンスは何もないにちがいない。つまり、装着中に体型が変わって見えたり尿漏れがおさえられたりするということ自体、根拠のない話なのである。そういえば、上記の利用者の声でも、体型が戻り「始めている」とか、尿漏れが改善されている「気がします」とか書いてあるので、利用者の主観の範囲でさえも、はっきりと認識できる効果はあがっていないことがわかる。

宋美玄は読売新聞のウェブサイト「ヨミドクター」でコラムを書いていた。この時の編集者が、前述の岩永直子である。今回の団体設立以前から、このふたりにはつながりがあったわけだ。岩永直子は2017年5月に BussFeed に転職。そういうふたりが組んで創り上げたのが上記の偽装広告記事ということになる。

なお、上記の吉村泰典による「妊娠のしやすさ」グラフ改竄事件の際、宋美玄は「ヨミドクター」につぎのような文章を書いている。

実際の副読本を見ていただくと分かると思いますが、医学的な事実が書かれていて、別に「早く産みましょう」と早期の出産を促すようなことは書かれていません。

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宋美玄 (2015-08-26)「ネットで炎上 妊娠しやすい年齢の知識、教えちゃだめ?」(宋美玄のママライフ実況中継)

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150826-OYTEW55150/

また、この記事について、自身のTwitterアカウントでつぎのように述べている。

なお、教材のグラフが間違っていたので訂正が入るそうだけれど、本質的には何も変わらないので教育の是非には関係ないですね

https://twitter.com/mihyonsong/status/636440143985930240

上記のように、この副教材に載ったのは、大学院生が適当にトリミングしてつくったデータをさらに何重にも改変して22歳ピークを創り出したグラフであった。この記事が出た8月26日にはすでに データ改変過程の概要はあきらかになっていた のだし、たとえそのようなネット上の議論を追跡していなくても、副教材の出典表示がデタラメである(文献を特定できないので、出典表示としての意味がない)ことは、実際の副教材を見ればあきらかであった。さらに、この教材には、ほかにもさまざまなまちがい(ないしデータ改竄)が見つかっている (『文科省/高校 「妊活」教材の嘘』 参照)。「医学的な事実が書かれていて」というのは、端的に言って「嘘」である。そして、この事件は、単に吉村泰典個人の問題にとどまらず、日本の産科・婦人科関連の学会が揃って改竄グラフを政治活動に利用していた というものなので、「本質的には何も変わらない」どころか、医学に対する信頼を根底から毀損する出来事であった。もし誤った医療情報を正そうとする意思が本当にあるなら、学会が平気で改竄グラフを使っている現状をまずなんとかすべきである。

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本生殖医学会、日本母性衛生学会、日本周産期・新生児医学会、日本婦人科腫瘍学会、日本女性医学学会、日本思春期学会、日本家族計画協会の9団体が改竄グラフを使って学校教育に干渉しようとしていたことを報じる日本家族計画協会機関紙。「スターティング・ファミリーズ」調査の結果も使われていたことがわかる。
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日本家族計画協会 (2015-03-01) 『家族と健康』732:1 http://ci.nii.ac.jp/ncid/AA1151359X
(http://web.archive.org/web/20150826040308/http://www.jfpa.or.jp/paper/main/000430.html#1 も参照)

さて、「ウィメンズヘルスリテラシー協会」のほかのメンバーは、「日本医療政策機構理事の宮田俊男さん」(理事) と「大阪大学産婦人科教授の木村正先生さん」(顧問) ということになる。これらふたりについては私はよく知らないので、ネットで調べてみた情報のみ。

木村正は 1997年から2000年まで大阪大学医学部産科学婦人科学講座で助手をしていた。宋美玄 (2001年大阪大学医学部卒) とはそこで接点があったことになる。

宮田俊男について調べると、つぎのようなページが出てくる。「2003年阪大医学部卒業」ということなので、宋美玄とはたぶんおなじ時期に大阪大学にいたはずである。ただ、宮田俊男は心臓外科だったようなので、直接の接点があったのかどうかはわからない。

宮田 俊男
Toshio Miyata 外科専門医。1999年早大理工学部卒業、2003年阪大医学部卒業。阪大病院で心臓外科医として緊急手術、人工心臓、再生医療に従事、その後、厚労省医系技官として薬事法改正をはじめ数々の改革に関わったことで知られる。金美齢氏から現場をよく分かる医系技官として評される。2013年11月より、内閣官房健康医療戦略室、戦略推進補佐官として安部晋三総理から任命され、アベノミクス第3の矢実現のキープレイヤーの1人として期待が大きい。

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JBPress (日付なし)「コラムニスト一覧」

http://jbpress.ismedia.jp/search/author/%E5%AE%AE%E7%94%B0%20%E4%BF%8A%E7%94%B7

安倍政権の政策に深くかかわっている人、ということのようだ。また、日本医療政策機構というのは、日本ではじめて妊孕力の問題を「少子化対策」としてとりあげた シンクタンクなので、そういうことも意識しておいたほうがいいだろう。

バイラルメディアと「少子化対策」

2017年9月7日、BuzzFeed Japan は 医療・健康情報に特化した「BuzzFeed Japan Medical」 をスタートさせた。ウィメンズヘルスリテラシー協会理事の岩永直子は、この新しいサービスの担当者のひとりでもある。

BuzzFeed Japan Medical は「信頼でき、わかりやすく、患者の心に寄り添う記事」を標榜しているのだが、肝心の「信頼でき」るかどうをどうやって判断しているのか。

https://www.buzzfeed.com/jp/medicaljp に並んでいる記事を上から10本程度読んでみたが、医学文献を根拠としてあげている記事は1本もない。つまり、ふつうの意味での「エビデンス」によって信頼性を確保するという姿勢はまったくみられない。おそらく、編集者が個人的に「信頼できる」と判断した専門家が内容を書いたりチェックしたりしている、ということをもって「信頼できる」と称しているのだろう。実際、記事のうちいくつかは「●●医師に話を聞いた」という形式で書かれていて、その内容が検証されることなく掲載されている。その医師がちゃんと文献を読んで誠実に答えていればまともな内容になるだろうし、そうでなければデタラメな内容になるだろう。このサービスの信頼性は、編集者が、話を聞きに行く専門家をきちんと選別できるだけの「目利き」であるかどうかに依存しているのだ。

さて、 BuzzFeed Japan Medical 担当者のひとりである岩永直子は、専門家の質をみきわめるだけの鑑識眼を持っているだろうか? ここまでみてきたことから明らかなように、答えはNoである。吉村泰典や齊藤英和や宋美玄のような、過去の言動をちょっと探ればすぐわかるようなトンデモさんたちと一緒に活動しているのだから。

BuzzFeed のような、SNS等で注目を集めて情報を拡散させることに特化したウェブサービスを「バイラルメディア」(viral media)] と呼ぶ。

まるでウィルスのように広がることから“ウイルス性の”という意味を持つ「バイラル(Viral)」と名付けられたこれらのサービスは、とにかく「シェア」「いいね」「RT」を呼びこむコンテンツを量産しました。彼らは検索で集客しようなどとは毛頭考えていませんから、テキストやキーワード情報は二の次。たとえどんな内容でも、とにかく多くの人の目に留まれば勝ちです。
 その参入障壁の低さ、コンテンツ制作の容易さ、そして何より、急激に影響力を伸ばしてきたソーシャルメディアの勢いを背に、世界中でまさに雨後の筍のごとく、数多くのバイラルメディアが現れました。
〔……〕
 そんなバイラルメディアの先駆けと言えるのが、今夏Yahoo! Japanとの提携を発表した、アメリカ発祥の「BuzzFeed」であることに異論はないでしょう。すでに月間来訪者2億人超えという恐るべき力をもったこのサービスは、一体何が新しかったのでしょうか。
 今ではおなじみとなった「○○を成功させる9つの方法」とか「××が人気な7つの理由」とかいった記事。この、箇条書きで記事を構成する「Listicle(ListとArticleを組み合わせた造語)」と言われる手法を定着させたのがBuzzFeedだといわれています。
 ついついクリックしてしまうタイトルや、簡潔で読みやすい文体。そして、内容にあえて「突っ込みどころ」を作ることで、読み手に「それは違う」「これが足りない」などの議論を促す、いわば「話のネタ」としての仕組みは、ソーシャル時代に最適でした。

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渡邊 徹則 (2016-01-08)「ついに日本上陸。バイラルメディアの代名詞「BuzzFeed」がもたらすものとは」『MarkeZine』

https://markezine.jp/article/detail/23548

「ウィメンズヘルスリテラシー協会」設立の動きは、これまで「卵子の老化」「妊娠適齢期」などのバズワードと偽造した医学知識を武器に政治活動を続けてきた勢力 が、新しいメディアを手中におさめたことを意味する。日本のいわゆる「少子化対策」は、既存マスメディアや学校教材、中央政府や自治体による各種広報活動に加えて、バイラルメディアを動員したプロパガンダによって推進される段階に入ったのである。