remcat: 研究資料集 (TANAKA Sigeto) 2024-03-09T15:04:16+09:00 remcat Hatena::Blog hatenablog://blog/10257846132669208862 事典項目の執筆:「公的統計の利用」日本家族社会学会 (2023)『家族社会学事典』丸善出版 hatenablog://entry/6801883189089383312 2024-03-09T15:04:16+09:00 2024-03-09T15:47:23+09:00 日本家族社会学会 (2023)『家族社会学事典』(丸善出版) の項目「公的統計の利用」(146-147頁) を執筆しました。田中重人 (2023)「公的統計の利用」日本家族社会学会『家族社会学事典』丸善出版 (pp. 146-147) http://tsigeto.info/23k ISBN: 978-4-621-30834-9 出版社ページ: https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b305112.html家族社会学事典丸善出版Amazon 公的統計 (すなわち政府その他の公的機関が作成する統計) について、それを研究において利用するための原則と注… <p>日本家族社会学会 (2023)『家族社会学事典』(丸善出版) の項目「公的統計の利用」(146-147頁) を執筆しました。</p><p>田中重人 (2023)「公的統計の利用」日本家族社会学会『家族社会学事典』丸善出版 (pp. 146-147) <a href="http://tsigeto.info/23k">http://tsigeto.info/23k</a><br /> ISBN: 978-4-621-30834-9<br /> 出版社ページ: <a href="https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b305112.html">https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b305112.html</a></p><p><div class="hatena-asin-detail"><a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4621308343?tag=hatena-22&amp;linkCode=ogi&amp;th=1&amp;psc=1" class="hatena-asin-detail-image-link" target="_blank" rel="noopener"><img src="https://m.media-amazon.com/images/I/31m5ajP7vyL._SL500_.jpg" class="hatena-asin-detail-image" alt="家族社会学事典" title="家族社会学事典"></a><div class="hatena-asin-detail-info"><p class="hatena-asin-detail-title"><a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4621308343?tag=hatena-22&amp;linkCode=ogi&amp;th=1&amp;psc=1" target="_blank" rel="noopener">家族社会学事典</a></p><ul class="hatena-asin-detail-meta"><li>丸善出版</li></ul><a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4621308343?tag=hatena-22&amp;linkCode=ogi&amp;th=1&amp;psc=1" class="asin-detail-buy" target="_blank" rel="noopener">Amazon</a></div></div></p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20240125153324" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20240125/20240125153324.jpg" width="640" height="360" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>公的統計 (すなわち政府その他の公的機関が作成する統計) について、それを研究において利用するための原則と注意事項を、「公的統計の目的と目的外利用」「個人情報の管理と匿名化」「集計表」「メタデータ」の4項目をとりあげて説明しました。公開される集計表を利用する方法と、ミクロデータを利用する方法 (日本の統計法の規定では匿名データ、調査票情報、あるいはオーダーメード集計) の両方をふくみます。</p> remcat 厚生労働省からの回答 PART IV hatenablog://entry/820878482969907065 2023-09-23T12:34:03+09:00 2023-09-23T12:41:46+09:00 前回までのあらすじ 毎月勤労統計調査に関して、昨年8月8日 以降、厚生労働省とやりとりをつづけている。前回 (今年7月20日) には、調査対象事業所の労働者数が規模区分をこえて増減した場合のあつかいに関して、「少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更せず、労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する取り扱いとしていることが分かりました」との説明 を受け取り、それに対してこちらからつぎのような返信を送っていた (前後省略)。 少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更しない方式だったとしますと、 『毎月勤労統計要覧』等の記述は事実と… <div class="section"> <h3 id="intro">前回までのあらすじ</h3> <p>毎月勤労統計調査に関して、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220808/mhlwletter">&#x6628;&#x5E74;8&#x6708;8&#x65E5;</a> 以降、厚生労働省とやりとりをつづけている。前回 (今年7月20日) には、調査対象事業所の労働者数が規模区分をこえて増減した場合のあつかいに関して、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230910/answer3#answer">&#x300C;&#x5C11;&#x306A;&#x304F;&#x3068;&#x3082;&#x5E73;&#x6210;&#xFF12;&#xFF10;&#x5E74;&#x9803;&#x304B;&#x3089;&#x96C6;&#x8A08;&#x306B;&#x7528;&#x3044;&#x308B;&#x4E8B;&#x696D;&#x6240;&#x898F;&#x6A21;&#x306E;&#x5C64;&#x306F;&#x539F;&#x5247;&#x3068;&#x3057;&#x3066;&#x5909;&#x66F4;&#x305B;&#x305A;&#x3001;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x304C;&#x5927;&#x304D;&#x304F;&#x5909;&#x5316;&#x3059;&#x308B;&#x5834;&#x5408;&#x306B;&#x4E8B;&#x696D;&#x6240;&#x898F;&#x6A21;&#x306E;&#x5C64;&#x3092;&#x5909;&#x66F4;&#x3059;&#x308B;&#x53D6;&#x308A;&#x6271;&#x3044;&#x3068;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x308B;&#x3053;&#x3068;&#x304C;&#x5206;&#x304B;&#x308A;&#x307E;&#x3057;&#x305F;&#x300D;&#x3068;&#x306E;&#x8AAC;&#x660E;</a> を受け取り、それに対してこちらからつぎのような返信を送っていた (前後省略)。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230910/answer3"> <p>少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更しない方式だったとしますと、<br /> 『毎月勤労統計要覧』等の記述は事実と異なっていたということになるのだと思いますが、<br /> 訂正は出されるのでしょうか?<br /> ――――<br /> 厚生労働省への電子メール (2023-07-23)</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230910/answer3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230910/answer3</a></cite> </blockquote> </div> <div class="section"> <h3 id="answer">回答</h3> <p>これに対して、一昨日 (9月21日) にきた返事がこちら。</p> <blockquote> <p>東北大学 田中様</p><p>いつもお世話になっております。厚生労働省統計企画調整室でございます。</p><p>追加でいただきました御質問につきまして、以下のとおりご回答させていただきます。</p><p> ---------------------------------------------------------------------------------------<br /> 『毎月勤労統計要覧』等の記載について、毎月勤労統計調査年報において、令和元年<br /> より記載を変更しておりますがこれは記載を適正化したものです。訂正等を出す予定<br /> はありませんが、経緯等についてはワーキンググループで御説明したとおりであり、<br /> 当ワーキンググループの報告書(案)にもその旨を記載しております。<br /> 御指摘ありがとうございました。<br /> ---------------------------------------------------------------------------------------</p><p>どうぞよろしくお願いいたします。<br /> 〔以下、過去メールの引用を省略〕<br /> ―――――<br /> 厚生労働省からの電子メール (2023-09-21)</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">評価</h3> <div class="section"> <h4 id="ウソを禁止する規範がないことについて">ウソを禁止する規範がないことについて</h4> <p>返信内容から、「訂正等を出す予定はありません」ということであり、<strong>報告書に正確な内容を書かなければならないという意識はない</strong> ことがわかる。</p><p>前回の記事で確認したように、『毎月勤労統計調査年報』やそれを市販本化した『毎月勤労統計要覧』、あるいは<a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12648899/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x30A6;&#x30A8;&#x30D6;&#x30B5;&#x30A4;&#x30C8;</a> などにおいてはずっとちがう説明をしてきたわけである。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8"> <p>2022年7月22日の第5回ワーキンググループ会議で、驚愕の事実が判明している。毎月勤労統計調査では、調査対象事業所の規模が変化しても所属する層を変更しない原則で集計している、という説明がはじめて出てきたのである。それまでは「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更」と説明してきたのだから、要するにウソをついてきたということである。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2023-09-17) 「第8回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料解釈」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8</a></cite> </blockquote> <p>実際におこなっている集計方法とはちがうことを報告書に書いていたというのは、あってはならないことのはずである。実際に過去の報告書にウソが書いてあったということであれば、その事実をきちんと認めて訂正する手順を踏まなければならないのであるが、そういうことをする気はないらしい。</p><p>これは、日本の公的統計にはずっと付きまとってきた問題である。毎月勤労統計調査の東京都不正抽出があきらかになったあとの専門家たちの反応は、この問題の深刻さを裏付けるものであった。</p> <blockquote cite="https://wezz-y.com/archives/63479/3"> <p>毎月勤労統計調査は、この四半世紀以上の間、改ざんした数値を使って調査の精度を偽装し、実態よりも価値の高い調査であるかのように見せかけてきたのです。</p><p> 問題が発覚した後、厚生労働省の特別監察委員会が調査をおこないました。その結果が〔2019年〕1月22日に報告されたのですが、その内容は耳を疑うものでした。監察委員会は、上記のような問題を基本的には事実として認めながら、それらは「改ざん」ではないと結論付けたのです (〔特別監察委員会報告書の〕27ページ)。つまり、調査対象の数を実際より大きく見せかけることも、標本誤差を実際よりも小さく見せかけることも、改ざんではないというのです。この委員会には経済学者などの学識経験者も入っていました。そういうメンバーのいる委員会から、調査の規模を過大に報告したり誤差が過小に出るように数値を加工したりするのは「改ざん」にあたらない、との見解が出てきたのは衝撃的です。</p><p> 調査対象の数や推定値の誤差率といった数値は、調査の精度を知るための基礎的な指標です。こうした数値を改ざんしてもかまわないという意識が政府にも学術界にも蔓延しているとしたら、今回の不祥事は起こるべくして起こったことといえます。そしてまた、毎月勤労統計調査にかぎらず、政府統計や科学研究の成果とされる知見の多くはデータ改ざんの結果導き出された恣意的なものではないのかという疑いを、私たちは持たざるをえないのです。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 「「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた?: データ改ざんに甘い社会」『Wezzy』2019.02.07 16:05</p> <cite><a href="https://wezz-y.com/archives/63479/3">https://wezz-y.com/archives/63479/3</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190208/wezzy"> <p>ここまでデータ改ざんに甘い社会にあって、統計の信頼性だけを云々するのは、すごく滑稽なことです。どんな調査をしたかについては嘘をついてもいいといっておきながら、調査の結果として報告される平均給与などについてだけは、「正しい数値」を報告しろというのですから。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2019-02-08) 「データ改ざんに甘い社会で統計の信頼性を云々することの無意味さについて」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190208/wezzy">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190208/wezzy</a></cite> </blockquote> <p>この5年間繰り返し確認してきたことであるが、<strong>日本の公的統計の作成者は、統計の作成プロセスについて真実を報告する義務を負っていない。</strong> したがって、報告書にウソを書いてもかまわない。それがバレたからといって制裁を受けることもないし、過去の報告書を訂正する義務もない。すくなくとも担当者はそのように理解しているのである。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="ワーキンググループ報告書案について">ワーキンググループ報告書案について</h4> <p>もうひとつ問題なのは、(こまかい話であるが) 上記の回答メールにあったつぎの部分である。</p> <blockquote> <p>経緯等についてはワーキンググループで御説明したとおりであり、<br /> 当ワーキンググループの報告書(案)にもその旨を記載しております。</p> </blockquote> <p>「当ワーキンググループの報告書(案)」というのは、昨日 (9月22日) の<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35053.html">&#x7B2C;9&#x56DE;&#x300C;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x300D;&#x4F1A;&#x8B70;</a> で提示された<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001148335.pdf">&#x8CC7;&#x6599;</a> であるが、<strong>この資料には、問題の「集計に用いる事業所規模の層は原則として変更しない方式」導入の経緯は記載されていない</strong>。資料40頁には、1990年 (平成2年) には「規模変更があった場合には,その都度,集計規模区分を変更」としていたものが、現在では「層の変更は原則として行わない」ことになっているという図 (参考図表(3)-3 と(3)-4) があるのだが、その変更がいつおこなわれたかの説明はない。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001148335.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230923113016" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230923/20230923113016.png" width="800" height="509" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2023-09-22) 「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ報告書(案)」(第9回毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ資料 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35053.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35053.html</a>)<br /> p. 40<br /> 〔赤図形は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001148335.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001148335.pdf</a></cite> </blockquote> <p>資料の本文 (33頁) には「労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する取扱いは、少なくとも平成20年頃から行っている」という記述はあるのだが、これでは、変化が大きい場合の例外的取り扱いが平成20 (2008) 年ごろに始まったかのように読めてしまう。事業所規模の層を原則として「変更しない」という取扱いを、少なくとも平成20年頃から行っている、という風には読めないのである。</p><p>7月21日の第8回会議の議事録にもつぎのような記録があるが、これもやはり変化が大きい場合の例外的取り扱いについての説明にしか見えない。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html"> <p>○角井統計管理官<br /> 〔……〕<br /> この労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する方法について調べたところ、少なくとも平成20年ぐらいから行っているようでした。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第8回会議 (2023-07-21) 議事録</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a></cite> </blockquote> <p>これが大問題であるのは、この<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8#intro">&#x300C;&#x5C64;&#x306E;&#x5909;&#x66F4;&#x306F;&#x539F;&#x5247;&#x3068;&#x3057;&#x3066;&#x884C;&#x308F;&#x306A;&#x3044;&#x300D;&#x3068;&#x3044;&#x3046;&#x306E;&#x306F;&#x307E;&#x3061;&#x304C;&#x3063;&#x305F;&#x8A08;&#x7B97;&#x65B9;&#x6CD5;</a> であり、これが導入されて以降の推計母集団労働者数はすべてでたらめな値になっているからである。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5"> <p>需要の季節変動が大きい事業では、忙期に人手を増やし、閑期には減らすことがよくある。そうした理由で毎年おなじような労働者数変動を示す事業所の場合、増加か減少のどちらか一方だけが毎年母集団労働者数推計に反映し、他方はまったく反映しないことになってしまう。どちらが反映するかは、調査開始時点が忙期であるか閑期であるかによるだろう。調査開始はふつう1月 (第二種事業所の一部は7月) だから、それが忙期にあたる産業では小規模事業所が過大に、閑散期にあたる産業では大規模事業所が過大にカウントされる。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2022-07-24) 「第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2の解釈」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5</a></cite> </blockquote> <p>当然、この数値をもとにしたウエイト (推計比率) によって計算される平均賃金等の値も、でたらめな値である。したがって、この層間移動事業所のあつかいの原則変更がいつおこなわれたかは、毎月勤労統計調査のデータを利用するときの非常に重要な情報なのである。</p> </div> </div> remcat 第8回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料解釈 hatenablog://entry/820878482968225982 2023-09-17T16:57:25+09:00 2023-09-21T11:35:49+09:00 厚生労働省「厚生労働統計の整備に関する検討会」の下に設置されている「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」の第8回会議が2023年7月21日に開催されたので、その様子を傍聴した (オンライン)。その際の資料と議事録が、厚生労働省ウエブサイトで公開されている: 資料: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html 議事録: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html 会議では、毎月勤労統計調査における母集団労働者数推計についての検討結果が報告されたのだが、ひとことでいえば、これまで私が指摘し… <p>厚生労働省「<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_127023.html">&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7D71;&#x8A08;&#x306E;&#x6574;&#x5099;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x691C;&#x8A0E;&#x4F1A;</a>」の下に設置されている「<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;</a>」の第8回会議が2023年7月21日に開催されたので、その様子を傍聴した (オンライン)。その際の資料と議事録が、厚生労働省ウエブサイトで公開されている:</p> <ul> <li>資料: <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html</a></li> <li>議事録: <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a></li> </ul><p>会議では、毎月勤労統計調査における母集団労働者数推計についての検討結果が報告されたのだが、ひとことでいえば、<strong>これまで私が指摘してきたことがほぼ正しかった</strong> という内容であった。ただし、こまかいことについてはこれまで不明だったことが新しく公表された部分や、断片的な情報から推測していたことにはっきりと裏付けがとれた部分もある。また出席の各委員からの意見にも、注目すべき内容がふくまれている。</p><p>本記事では、毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計における層間移動事業所のあつかいについて、この会議での資料と議事録からわかることをまとめておきたい。なお、母集団労働者数推計に関してはもうひとつ、雇用保険データのあつかいも同会議で議論されているのだが、そちらはとりあげない。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8#intro">&#x524D;&#x56DE;&#x307E;&#x3067;&#x306E;&#x3042;&#x3089;&#x3059;&#x3058;&#x3068;&#x4ECA;&#x56DE;&#x306E;&#x7126;&#x70B9;</a> <ul> <li>母集団労働者数推計の仕組みと層間移動事業所</li> <li>過去のワーキンググループ会議でわかったこと <ul> <li>抽出率逆数について</li> <li>「集計に用いる層は変更しない」という原則</li> </ul></li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8#wg8">&#x4ECA;&#x56DE;&#x306E;&#x4F1A;&#x8B70;&#x3067;&#x306E;&#x8AAC;&#x660E;&#x5185;&#x5BB9;</a> <ul> <li>母集団労働者数のシミュレーションの方法</li> <li>規模境界を超える労働者数変化があった事業所数</li> <li>シミュレーション結果 <ul> <li>1000人以上規模</li> <li>500-999人規模</li> <li>100-499人規模</li> <li>30-99人規模</li> <li>5-29人規模</li> <li>ウエイト設定による差</li> </ul></li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8#diss">&#x7DCF;&#x62EC;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="intro">前回までのあらすじと今回の焦点</h3> <div class="section"> <h4 id="母集団労働者数推計の仕組みと層間移動事業所">母集団労働者数推計の仕組みと層間移動事業所</h4> <p>毎月勤労統計調査では、調査対象となる事業所を、産業分類と事業所規模によって細かい層にわけている。この層ごとに、母集団の労働者数を推計した値を毎月求め、この値から作成したウエイト (「推計比率」と呼ぶ) を使って各層調査結果の数値を重みづけて集計することで、全体の平均給与などを算出する仕組みである。つまり、事業所ごとに毎月の賃金等を調査して集計するプロセスとならんで、母集団労働者数を毎月推計するプロセスが、毎月勤労統計調査の重要な柱となっている。</p><p>この母集団労働者数推計は、4つの要素からなっている: </p> <ul> <li>[A] 既存事業所の労働者増加/減少を毎月勤労統計調査データから推計</li> <li>[B] 事業所の新設/廃止などを雇用保険データから推計</li> <li>[C] 規模区分が変わった事業所の労働者数を毎月勤労統計調査データから推計</li> <li>[D] 経済センサス等による母集団労働者の全数調査データによって推計結果を調整 (これを「ベンチマーク更新」と呼ぶ)</li> </ul><p>これらのうち、[B] と [C] が今回のワーキンググループ会議での検討対象である。</p><p>この毎月の母集団労働者数推計について従来どのように説明されてきたかと、毎月勤労統計調査の公表データ (「毎勤原表」と呼ばれるもの) とそれがどう対応しているかは、つぎの記事で説明した:</p> <ul> <li>2021年9月11日「毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ」(<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method</a>) </li> <li>2021年10月14日「層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角」(<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#hon">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#hon</a>) </li> </ul><p>これらの記事執筆の時点では、『毎月勤労統計要覧』や、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#appendix">&#x7D71;&#x8A08;&#x59D4;&#x54E1;&#x4F1A;&#x306B;&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x304C;&#x63D0;&#x51FA;&#x3057;&#x305F;&#x8CC7;&#x6599;</a> などに記載された内容しか手がかりがなかった。事業所が雇う労働者を増やしたり減らしたりして規模区分の境界 (たとえば500人) を超えた場合のあつかいについて、これらの資料に書いてあることを総合すると、つぎのようになる。</p> <ol> <li>事業所が雇う労働者の増減によって規模区分を超えた (たとえば労働者数499人だった事業所が500人になった) 場合には、その事業所の所属層を移動させて、そちらの層での集計対象とする</li> <li>その時点でのその事業所の労働者数にウエイトをかけて、層間移動した労働者数が母集団で何人いるかを推計し、それに所定の「適用度合い」(L) をかけた人数が母集団において層間移動したものとする (これが上記 [C] の作業)</li> <li>これと上記 [A] [B] による変化をあわせて母集団労働者数の推計値を更新し、そこから作成した推計比率を翌月分調査の集計で使う</li> </ol><p>これらのうち2番目の手順で使用する「適用度合い」は L=0.5 に固定されているのであるが、そうする根拠は不明であった (本来なら L=1 でよいはず)。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="過去のワーキンググループ会議でわかったこと">過去のワーキンググループ会議でわかったこと</h4> <div class="section"> <h5 id="抽出率逆数について">抽出率逆数について</h5> <p>上記で不明であったことは、まず「ウエイト」がどういう値になっているかである。これについては、2021年10月17日にワーキンググループ参加者に私からメールを送り (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter</a>)、その内容が <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21639.html">11&#x6708;5&#x65E5;&#x306E;&#x7B2C;3&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;</a> において取り上げられた。その際の厚生労働省担当者の説明ではじめて、ウエイトのあたえかたを2017年までと2018年以降で変えていたことが明らかになった。</p> <ul> <li>2017年12月調査までは、事業所をサンプリングした時の抽出率の逆数をウエイトとして使用</li> <li>2018年1月調査以降は、集計時点の所属層に割り当てられた抽出率の逆数をウエイトとして使用</li> </ul><p>後者は誤った方法である。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3"> <p>もちろんこれはダメな操作である。調査の結果えられた数値に「抽出率逆数」をかけるのは、サンプリングのときの抽出確率が事業所によってちがうからなので、当然サンプリング時に適用した抽出率から求めるべきもの。同一の事業所に対しては、おなじ値を一貫して使うべきものである。</p><br /> <p>厚生労働省の担当者は、この理屈を理解していないようだ。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2021-12-29) 「毎月勤労統計調査、抽出率逆数の扱いを2018年1月から改悪していたことが判明」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3</a></cite> </blockquote> <p>後に <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220808/mhlwletter">&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x306B;&#x9001;&#x3063;&#x305F;&#x8CEA;&#x554F; (2022&#x5E74;8&#x6708;8&#x65E5;)</a> に対する回答 (10月4日受領) で、この方法 (集計時点の所属層に割り当てられた抽出率の逆数をウエイトとして使用) が、2019年になってからおこなわれた2012-2018年データの再集計にも使われていたことが判明する。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer"> <p>【御質問】<br /> (5) 2019年1月に公表された再集計(現在「本系列」と呼ばれているものの2012年から2018年分)では、母集団労働者数推計についてどのような方法が使われたのでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (5)について、<br /> 2012年から2018年までの「再集計値」の計算においては、東京都の一部抽出調査分を復元するため集計に抽出率逆数が必要となったことと併せ、現在の方法と同様、母集団労働者数の推計においても集計時点に属する層の抽出率逆数を使用しています。</p> </blockquote> <p>―――――<br /> 田中重人 (2022-10-09) 「厚生労働省からの回答」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer</a></cite> </blockquote> <p>現在公開されている毎月勤労統計調査のデータのうち、2012年分以降のものは、まちがった方法で母集団労働者数を推計したものになっている。この母集団労働者数をもとにした「推計比率」を使用して賃金・労働時間その他の集計値を求めるので、これらの結果はすべて間違いである。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="集計に用いる層は変更しないという原則">「集計に用いる層は変更しない」という原則</h5> <p>すこし時間を巻き戻そう。<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26894.html">2022&#x5E74;7&#x6708;22&#x65E5;&#x306E;&#x7B2C;5&#x56DE;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x4F1A;&#x8B70;</a> で、驚愕の事実が判明している。毎月勤労統計調査では、調査対象事業所の規模が変化しても所属する層を変更しない原則で集計している、という説明がはじめて出てきたのである。<a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12648899/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">&#x305D;&#x308C;&#x307E;&#x3067;&#x306F;&#x300C;&#x898F;&#x6A21;&#x5909;&#x66F4;&#x304C;&#x3042;&#x3063;&#x305F;&#x5834;&#x5408;&#x306B;&#x306F;&#x3001;&#x305D;&#x306E;&#x90FD;&#x5EA6;&#x3001;&#x96C6;&#x8A08;&#x898F;&#x6A21;&#x533A;&#x5206;&#x3092;&#x5909;&#x66F4;&#x300D;&#x3068;&#x8AAC;&#x660E;&#x3057;&#x3066;&#x304D;&#x305F;</a> のだから、要するにウソをついてきたということである。</p><p>ただし、集計に用いる層自体は変更しないのだが、事業所の規模の変化については一定の基準で評価して、母集団労働者数推計に反映させるという。これについては、2022年7月24日の記事「<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">&#x7B2C;5&#x56DE;&#x300C;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x300D;&#x8CC7;&#x6599;2&#x306E;&#x89E3;&#x91C8;</a>」で説明した。<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">&#x540C;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x7B2C;5&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;2</a> の p. 5 にはつぎのような説明が載っている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220724093706" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220724/20220724093706.png" width="800" height="536" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第5回会議 (2022-07-22) <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html</a><br /> 資料2 (p. 5).</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a></cite> </blockquote> <p>「条件 (A)」に該当する事業所についてのみ、移動した労働者数を母集団労働者数の推計に反映させるというのだけれども、この条件 (A) はかなり奇妙なものである。集計に用いる層は原則として変更しないのに、そこからの流出の人数だけをカウントするという。くわしいことは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop</a> の解説を読んでほしいが、これは要するに、 <strong>調査開始時に設定された層からの流出だけを層間移動としてカウントする</strong> 原則になっているということである。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5"> <p>需要の季節変動が大きい事業では、忙期に人手を増やし、閑期には減らすことがよくある。そうした理由で毎年おなじような労働者数変動を示す事業所の場合、増加か減少のどちらか一方だけが毎年母集団労働者数推計に反映し、他方はまったく反映しないことになってしまう。どちらが反映するかは、調査開始時点が忙期であるか閑期であるかによるだろう。調査開始はふつう1月 (第二種事業所の一部は7月) だから、それが忙期にあたる産業では小規模事業所が過大に、閑散期にあたる産業では大規模事業所が過大にカウントされる。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2022-07-24) 「第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2の解釈」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5</a></cite> </blockquote> <p>これはあまりに不合理な仕様なので、本当にそういう解釈でいいのかどうか、上記の2022年8月8日の <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220808/mhlwletter">&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x3078;&#x306E;&#x8CEA;&#x554F;</a> であわせて訊いたのだけれど、その解釈でまちがいないという回答であった。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer"> <p>【御質問】<br /> (4) 「資料2」 p. 5 の説明では、「集計に用いる層」から別の層に移動した事業所の労働者数だけがカウントされ、それ以外の移動がカウント対象にならないように見えます。その理解で正しいでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (4)について、<br /> ワーキング資料2P5に記載のとおり、母集団労働者数の補正に計上されるのは、集計に用いる層からの移動に限ります。</p> </blockquote> <p>―――――<br /> 田中重人 (2022-10-09) 「厚生労働省からの回答」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer</a></cite> </blockquote> <p>なお、この「集計に用いる層は変更しない」方法をいつから採用したのかの詳細は不明である。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230910/answer3#answer">&#x4ECA;&#x5E74;7&#x6708;20&#x65E5;&#x306B;&#x53D7;&#x3051;&#x53D6;&#x3063;&#x305F;&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x304B;&#x3089;&#x306E;&#x30E1;&#x30FC;&#x30EB;</a> によれば、「少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更せず、労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する取り扱いとしている」とのことなので、これを信用するなら、遅くとも平成20年 (=2008年) ごろまでに、事業所規模変化による層間移動をしない原則になっていたということである。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="wg8">今回の会議での説明内容</h3> <div class="section"> <h4 id="母集団労働者数のシミュレーションの方法">母集団労働者数のシミュレーションの方法</h4> <p>今回 (7月21日) の<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html">&#x7B2C;8&#x56DE;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x4F1A;&#x8B70;</a>では、「<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf">&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a>」という資料が提示され、厚生労働省担当者からの説明があった。その内容は、調査対象事業所の労働者数の増減を母集団労働者数推計に反映させる方法 (上記の [C]) について、いくつかちがう条件を設定して、2014年7月分から2016年5月分までの23か月分の毎月勤労統計調査データを用いたシミュレーションをおこなった結果である (上記 [B] にあたる、雇用保険データを使った母集団労働者数補正についての報告もあるが、そちらはこの記事ではあつかわない)。</p><p>2014年7月から2016年5月という設定にしたのは、これら2時点の経済センサスによる母集団労働者数のデータが入手できるからである。2014年の経済センサス-基礎調査の結果によって2014年7月分の産業別・事業所規模別の労働者数を決めてそれを出発点とし、それに毎月勤労統計調査データと雇用保険データによる毎月の母集団労働者数推計を23か月分重ねていき、それでえた労働者数を2016年の経済センサス-活動調査等の結果 (2022年1月のベンチマーク更新に用いた労働者数) とくらべるという段取りになっている。</p><p>規模が変化した事業所のあつかいに関しては、ウエイトの設定と「適用度合い」L の値の2種類の組み合わせで5種類の条件がある:</p> <ol> <li>L = 0 (つまり事業所の規模変化を母集団労働者数推計にまったく反映させない)</li> <li>L = 0.5 で、集計に用いる層の抽出率逆数をウエイトとして使用 (現在の推計方法とおなじ)</li> <li>L = 1 で、集計に用いる層の抽出率逆数をウエイトとして使用</li> <li>L = 0.5 で、抽出時の抽出率逆数をウエイトとして使用 (2017年までの推計方法とおなじ)</li> <li>L = 1 で、抽出時の抽出率逆数をウエイトとして使用</li> </ol><p>シミュレーションの対象時期 (2014-2016年) に関していうと、2019年におこなわれた再集計は2番目の条件に、それ以前に公表されていたもともとの値 (従来の公表値) は4番目の条件に該当する。再集計値と従来の公表値の間には、不正抽出の結果として表面化した問題である、東京都とそれ以外の地域との500人以上規模事業所の抽出率のちがいを調整したことと、事業所の規模変化にともなう母集団労働者数推計でつかうウエイトの変更という2種類の条件のちがいが重なっている。今回のシミュレーションは、これらのうちのふたつめの条件だけをとりだして、どのような差が生まれるかを観察したものといえる (ただし出発点となる2014年7月の母集団労働者の分布として経済センサスの結果を代入しているため、その点が実際の毎月勤労統計調査のデータとはちがうことになる)。</p><p>すでに述べたように、「集計に用いる層は変更しない」原則に基づくとすれば、ほとんどの事業所は調査の最初から最後までおなじ層で集計されるわけである。それなのにどうして「抽出時」の抽出率と「集計に用いる層」の抽出率にちがいが出るのだろうか。</p><p>ひとつの理由は、この原則には例外があって、規模区分を2段階以上超えるような労働者数の変動があった事業所については、集計に用いる層を変更することになっているからである (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">&#x7B2C;5&#x56DE;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;2 p. 6</a> 参照)。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27722.html"> <p>○野口統計管理官</p><p>〔……〕</p><p>事業所の労働者数が大きく変化した場合、集計においても事業所の層の変更を行っています。具体的には事業所規模が2段階以上変化した場合、その変化が安定したと見込まれた場合に、集計における事業所の層を変更しています。特に事業所規模が大きく増加した場合については、速やかに事業所の層の変更を行っています。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第5回会議 (2022-07-22) 議事録</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27722.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27722.html</a></cite> </blockquote> <p>もっとも、あとでみるように、データ中にこの条件に該当する事業所はあまりなく、それによる影響は小さい。</p><p>もうひとつの理由は、集計に用いる層を変更しないという原則は調査を開始したあとの話であり、抽出時に用いた台帳に記載された労働者数と調査開始時の労働者数がちがっている場合には、調査開始時の労働者数のほうで層を決めているということだ。これに該当するケースはかなり大量にあるらしく、<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf">&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;&#x4E2D;</a> では p. 15 に架空例が提示されている。当日の担当者による説明は、つぎのとおり。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html"> <p>ケースⅡの場合は抽出時点が110人で、そのときの区分は100~499人になりますので、ここは12〔というウエイト〕が付きます。しかし実際に〔初回の〕調査票を配って戻ってきたら、90人になっている場合があります。抽出時点は少し古いデータベースを使いますので、こういう場合が出てきます。では、90人になっている場合はどこに集計されるかと言いますと、100~499人区分ではなく、30~99人区分になります。したがって、ここでの倍率は30~99人の倍率なので、右上に書いてあるように、12ではなくて48が付きます。ただし抽出時点は12が付きます。ここで倍率が変わってくるということになります。<br />  こういう事業所がN月目でまた110人に戻った場合は、110人が移動しますが、集計に用いる層は30~99人で変わりませんから48です。したがって、110×48×0.5で2,640人が100~499人区分に母集団労働者数が加わります。ただ、抽出時点はと言いますと12のままなので、計算すると660人になりますから、660しか上がりません。したがって、このケースの場合は14ページの表の数字の違いが出てくるところです。<br />  このケースⅡは規模が上がる場合でしたが、逆に下がる場合も当然あります。下がる場合は抽出率逆数の逆転と言いますか、大きさが逆転しますので、集計時点の方が数字が小さくなる動きになってきます。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第8回会議 (2023-07-21) 議事録</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a></cite> </blockquote> <p>この例では、100-499人規模の事業所は1/12の抽出率で、30-99人規模の事業所は1/48の抽出率で、事業所母集団データベースから抽出するという設定である。こうして抽出した事業所について実際に調査を開始してみると、データベース記載の労働者数よりも増えたり減ったりしていることがありうる。このような場合には、データベースの記載とはかかわりなく、初回の調査のときの労働者数によって、「集計に用いる層」を割り当てる。この設定で、「集計に用いる層」のウエイトを使うとすると、1/12の抽出率でサンプリングされたのに48のウエイトになる事業所 (これがケースⅡ) とか、その逆に1/48の抽出率でサンプリングされたのに12のウエイトになる事業所とかが出てきてしまうわけである。なお、毎月勤労統計調査の標本設計では、おおむね、事業所規模が小さいほど抽出率が小さくなるようになっている。このため、「集計に用いる層」のウエイトを使うことにした場合、初回調査で労働者数が減っていた事業所は前者 (ケースⅡ) のようにウエイトが過大になる。逆に、初回調査で労働者数が増えていた事業所は、後者のようにウエイトが過少になる傾向を持つことになる。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="規模境界を超える労働者数変化があった事業所数">規模境界を超える労働者数変化があった事業所数</h4> <p>まず、資料の p. 13 から、対象の23か月の間に、「事業所規模間移動により、母集団補正の対象となった事業所数」の類型を確認しておこう。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114326" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114326.png" width="656" height="213" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2023-07-21) 「母集団労働者数の推計について」 (毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第8回会議 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html</a> 資料)<br /> p. 13</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf</a></cite> </blockquote> <p>対象となった23か月間に、事業所規模区分を超えて労働者が増減したとカウントされた事例は、累計で1104件あったことがわかる。</p><p>規模が上昇した件数を見ると、各規模区分に上昇移動で流入してきた件数と、それぞれの1段階下の規模区分から上昇移動で流出した件数がすべて一致している。上昇移動については、ひとつ上の規模区分への移動に相当する労働者増加しか起こっておらず、2段階以上を一度に移動するケースはなかったことがわかる。</p><p>規模が下降した件数については事情が異なる。たとえば1000人以上規模からの下降移動による流出は98件あるが、500-999人規模への下降移動による流入は93件しかないので、2段階以上下降したケースが5件あったことがわかる。100-499人規模への下降移動による流入126件のうち5件はこの1000人以上規模からの下降だと考えると、残る121件が500-999人規模からの1段階の下降移動だということになるが、500-999人規模からの下降移動の総数は123件なので、このうち2件は2段階以上の下降移動だった可能性がある。30-99人規模への下降移動による流入157件のうち2件がこれに該当するとすると、残る155件が100-499人規模からの1段階の下降移動だということになるが、100-499人規模からの下降移動の総数は157件なので、このうち2件は2段階以上の下降移動だった可能性がある。5-29人規模への下降移動による流入は222件あるが、30-99人規模からの下降移動による流出は220件しかないので、プラス2件が100-499人規模から2段階下への下降移動だと考えると、つじつまがあう。このように考えると、5 + 2 + 2 = 9件は、2段階以上の下降移動であった可能性がある。逆にいえば、下降移動598件のうち589件は、隣どうしの規模区分の間での移動だったと考えていいだろう。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="シミュレーション結果">シミュレーション結果</h4> <p>これら事業所規模区分を超えて労働者が増減したケースのそれぞれについて、増減後の労働者数がわかるので、それにウエイト (抽出時または集計に用いる層のもの) と適用の度合い L (0, 0.5, 1) をかけた値を計算し、その分を各層の母集団労働者数から増減させる。この手続きを、経済センサス-基礎調査の労働者数による2014年7月分からスタートして、23か月分にわたって繰り返すわけである。</p><p>結果のグラフ (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;</a> p. 17) は、つぎのような凡例で表示されている。</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114323" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114323.png" width="535" height="99" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>黒丸で表示されるのが2回のセンサスによる労働者数。左側のほうがシミュレーションの出発点になる2014年経済センサス-基礎調査の値である。ここから23か月にわたって、5種類の条件の下で母集団労働者数の推計をおこない、右側の黒丸 (2016年経済センサス-活動調査等による労働者数) とどれくらいずれるかを評価することになる。</p><p>青色のラインのうち、青い丸でマークされている ① が、L=0 の仮定の下での結果である。これはつまり、規模区分を超えて移動する事業所の労働者数をまったくカウントしないことを意味する。ただし、各規模区分内での各事業所の労働者数の増減 (上記の [A]) と、雇用保険データによる新設/廃止事業所等の労働者数の補正 (上記の [B]) は毎月おこなうので、そのことによる増減だけが反映する。</p><p>青い三角でマークされている ② が、L=0.5 で、集計に用いる層の抽出率逆数をウエイトとして計算したものである。これは2018年以降の毎月勤労統計調査で使われている方式であるとともに、2012-2018年のデータの再集計値で使われている方式でもある。</p><p>一方、赤い三角でマークされている ④ は、L=0.5で、抽出時の抽出率逆数をウエイトとして計算したものである。これは2017年以前の毎月勤労統計調査 (現在は「従来の公表値」として公表されているデータ) で使われていた方式でもある。</p><p>つまり、青い三角 (②) と赤い三角 (④) のラインを比較すると、規模区分を超えて移動する事業所の労働者数についての従来の公表値と再集計値の間の計算方式の差異が、母集団労働者数推計にどのような影響をあたえたかがわかることになる。</p><p>では、各事業所規模区分について、シミュレーション結果をみていこう。</p> <div class="section"> <h5 id="1000人以上規模">1000人以上規模</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114319" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114319.png" width="785" height="503" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>経済センサスによれば、1000人以上規模事業所の労働者数は、2014年と2016年の間で減少している。しかし、毎月勤労統計調査のデータでは、この間の労働者数は減少しておらず、むしろやや増加傾向になる。</p><p>ただ、どの条件のシミュレーションでも、この結果はほとんどおなじであり、条件間の差は小さい。センサスとずれが生じているのは、層間移動事業所のあつかいによるのではなく、毎月勤労統計調査のデータ自体がそうなっているのだと考えるべきであろう。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="500-999人規模">500-999人規模</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114314" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114314.png" width="789" height="509" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>500-999人規模事業所では、シミュレーション条件によるちがいが明瞭にみられる。この間、センサスによる労働者数は微増しているが、これによく合致しているのは、L=0 (つまり層間移動事業所に関する労働者数の補正をおこなわない) 仮定による ① (青い丸) と、抽出時点の抽出率逆数をウエイトとする ④ ⑤ (赤の三角と四角) である。これらに対して、集計に用いる層について設定された抽出率逆数をウエイトとする ② ③ (青の三角と四角) は、センサスの値をはるかに上回って増加している。特に毎年5月の増加 (つまり4月の労働者数増加を反映したもの) が顕著に出ている。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="100-499人規模">100-499人規模</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114310" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114310.png" width="787" height="506" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>100-499人規模事業所でも、シミュレーション条件によるちがいは大きい。この間、センサスによる労働者数は増加しているが、これによく合致しているのは、L=0.5 で抽出時点の抽出率逆数をウエイトとする ④ (赤の三角) である。L=0 とする ① (青い丸) はそれよりやや低い。集計に用いる層について設定された抽出率逆数をウエイトとする ② ③ (青の三角と四角) は、センサスの値よりもかなり上方にある。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="30-99人規模">30-99人規模</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114306" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114306.png" width="787" height="504" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>30-99人規模事業所では、ウエイト (抽出率逆数) に関する条件のちがいが明瞭である。この間、センサスによる労働者数は増加しているが、これによく合致しているのは、抽出時点の抽出率逆数をウエイトとする ④ ⑤ (赤の三角と四角) と、L=0 とする ① (青い丸) である。集計に用いる層について設定された抽出率逆数をウエイトとする ② ③ (青の三角と四角) では、労働者数は減少しており、センサスの値よりもかなり下方にある。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="5-29人規模">5-29人規模</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114340" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114340.png" width="783" height="505" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>5-29人規模事業所では、シミュレーション条件によるちがいはそれほど大きくはない。この間、センサスによる労働者数自体も増加しているのであるが、それを上回る増加が、いずれの条件のシミュレーション結果でもみられる。L=0 を仮定する ① (青い丸) が最も大きく増加しているのに対して、Lが大きくなると、労働者数増加を若干抑制する傾向がある。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="ウエイト設定による差">ウエイト設定による差</h5> <p>このような条件のちがいのうち、ウエイト (抽出率逆数) の設定によるちがいでどれくらいの差がつくのかを比較した表も、ワーキンググループ会議資料に載っている。この表は、L=0.5に設定したときの、抽出時点の抽出率逆数をウエイトとする条件 (①) と、集計に用いる層について設定された抽出率逆数をウエイトとする条件 (②) で上記の23か月にわたって計算をつづけたときに結果がどうなるかを表示している。なお、これらの番号は、上記のグラフでいうと ② (青い三角) と ④ (赤い三角) にあたっている。</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230916114330" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230916/20230916114330.png" width="800" height="564" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2023-07-21) 「母集団労働者数の推計について」 (毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第8回会議 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html</a> 資料)<br /> p. 14<br /> 〔色枠は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>ふたつの条件間の差を示した「差分 (①-②)」の表をみると、集計に用いる層について設定された抽出率逆数をウエイトとして使う ① の場合、抽出時点の抽出率逆数を使う ② にくらべて、500-999人規模事業所と100-499人規模事業所の労働者数が、どちらも20万人程度増えることがわかる。これに対して、30-99人規模事業所の労働者数は40万人程度減っている。(紫の色枠部分)</p><p>こまかくみると、この動きのかなりの部分は、相対的に小規模な事業所から大規模な事業所への上昇移動が増加することによってもたらされている (緑の色枠部分)。一方で、大規模な事業所から小規模な事業所への下降移動は減少しているので、そのことの寄与もある (橙の色枠部分) が、その人数は多くない。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">総括</h3> <p>以上のシミュレーション結果から、<strong>毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計がセンサスから大きく乖離するのは、層間移動事業所の労働者数を計算するときのウエイトのあたえかたを間違っている (集計に用いる層に設定した抽出率逆数を使っている) せいであった</strong> ことがわかる。この乖離は、500-999人規模と100-499規模事業所の労働者数が過大に、30-99人規模事業所の労働者数が過少に推計されることで生じている。特に、500-999人規模事業所の母集団労働者数は250万人程度しかいないので、そこで約20万人 (8%) の過大推計が生じるのは非常に大きなインパクトである。2年弱の期間についてのシミュレーションでこれだけ過大になるのだから、これがさらに長期間累積した場合には、深刻な影響が生じるはずだ (毎月勤労統計調査のベンチマーク更新は、2018年の前は2012年だったから、その6年間は影響が累積していたわけである)。30-99人規模事業所についても、1300万人程度の母集団労働者数に対して約40万人 (3%) の過少推計が2年弱で生じており、無視できる数値ではない。</p><p>この結果は、これまで当ブログにおいて、再集計値と従来の公表値との差などから推測してきたこととほぼおなじである。昨年1月2日の記事で書いたことを引用しておこう。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019"> <p>2012年分以降の「本系列」(=再集計値) の推計母集団労働者数は、従来の公表値から大きくはずれており、500-999人規模では増加、30-99人規模では減少する。この動きはセンサスの動きからも乖離しているので、実態を反映したものではなく、層間移動事業所のウエイトが不適切であったために創り出されたものであろう。相対的に規模の大きな事業所のシェアを拡大し、規模の小さな事業所のシェアを縮小させることになるので、この動きは <strong>平均給与を過大に成長させるバイアス</strong> を生み出す<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2022-01-02)「毎月勤労統計調査、不正な結果を是正したはずの2019年再集計値も間違っていた」<br /> 〔強調は原文による〕</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019</a></cite> </blockquote> <p>ワーキンググループの委員間でも、現行方式が問題だという認識は共有されたようだ。当日の議事録には、つぎのような意見が収録されている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html"> <p>○樋田委員<br /> 〔……〕<br /> 三つ目は、ウエイトについてです。ウエイトには抽出率の逆数を使いますが、<strong>理論的にはサンプルの抽出時点の抽出率の逆数をウエイトとして使うというのが適当ではないかと考えます。</strong> 今回の検証の方法で安全なのかというのは判断が難しいところですが、18ページの計算結果を見ますと、丸4と丸5の方法は抽出時点のものをウエイトとして使っており、丸1~丸3に比べて、ベンチマークに近い結果ということになっています。この結果からも、<strong>抽出時点のものに戻すことも視野に入れた検証が、今後必要なのではないかと考えます。</strong><br /> 〔……〕<br /> 検証の作業は大変だと思いますが、抽出率の逆数は結構大事な問題なので、十分に時間を掛けて検証していただきたいと思います。</p><br /> <p>○稲葉委員<br /> 〔……〕<br /> 2点目として、母集団労働者数の推計において、事業所が移転した先の層の乗率を用いているというところに疑問が生じております。<strong>なぜ標本抽出時の抽出率の逆数を乗率として用いていないのか</strong> といった点です。<br />  このような2つの疑問点がある中で、母集団労働者数推計において考慮するべき事項について私の考えを申し上げます。これらの事項は3点あり、まず第1点として、母集団労働者数は全ての調査結果に影響を及ぼしているということが挙げられます。これは常用雇用指数だけではなく、賃金指数や労働時間指数のウエイトとしても影響を及ぼしています。<br /> 〔……〕<br /> 労働時間や賃金については、ベンチマーク更新時のウエイトをそのまま固定して計算を行うという方法もあり、そのほうが労働時間や賃金の変動を捉えられる可能性もあるのではないかと思います。<br /> 〔……〕<br /> もう一点付け加えるならば、資料の17ページを御覧ください。これにつきましては、先ほど樋田先生から御指摘がありました事項と同じです。<strong>標本抽出時の抽出率の逆数を乗率とするケース、つまり現状の方法を変更したほうが事業所規模別の労働者数のギャップは小さくなるということがわかりました。この事項は、検証結果として追加しておいたほうがよいのではないかと考えます。</strong><br /> ―――――<br /> 厚生労働省「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」(2023-07-21) 議事録<br /> 〔強調は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a></cite> </blockquote> <p>なお、この後に、担当者 (角井統計管理官) からつぎのような応答がある。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html"> <p>抽出率の倍率を抽出時点のもので推計するかということについてですが、これまでの推計方法は、<strong>実査をしながら、長い時間をかけてこういう形になってきたもの</strong> ですから、実査でどうなるかといった動きも考慮しながら、さらに理論的な考え方も含めて、両方見ながら考えていかなければと思っていました。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」(2023-07-21) 議事録</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a></cite> </blockquote> <p>これは奇妙な説明である。<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">2021&#x5E74;11&#x6708;5&#x65E5;&#x306E;&#x7B2C;3&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8B70;&#x4E8B;&#x9332;</a> であきらかになっているとおり、2017年までは「抽出率の倍率を抽出時点のもので推計」してきたはずだからである。集計に用いる層に設定した抽出率逆数を使うように変更したのは2018年のことであり、6年前のことに過ぎない。それまで長い時間をかけて実査をしながら形成されてきた推計方法は、抽出時の抽出率の逆数を使う方法だった。今回のシミュレーションの対象期間であった2014-2016年においても、その方式が本来は使われていたのであった。</p><p>次回の同ワーキンググループ会議 (第9回) は今週 (9月22日) 開催予定であり、議題として「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ報告書(案)について」(<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35052.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35052.html</a>) [2023-09-21 URL訂正] があがっている。上記のような委員の意見がある以上、現行の母集団労働者数推計における抽出率の問題が報告書に入る可能性は高い。しかし、具体的にどのような内容が盛り込まれるかについては要注意である。<hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2023-09-17</dt> <dd> 記事公開</dd> <dt>2023-09-21</dt> <dd> 第9回ワーキンググループ会議開催案内のURL、誤って <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html</a> と書いていたところを <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35052.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35052.html</a> に訂正。</dd> </dl> </div> remcat 厚生労働省からの回答 PART III hatenablog://entry/820878482966247322 2023-09-10T13:56:30+09:00 2023-09-19T14:41:48+09:00 前回までのあらすじ 毎月勤労統計調査に関する質問について、昨年10月4日に厚生労働省から受け取った回答 についての私からの3点の追加質問に対する 回答を昨年10月26日に受け取っていた。このときの回答では、1つ目の質問については「確認中」ということで、つぎのように「改めてご連絡をさせていただきたく存じます」との回答であった。 (1) について、「「集計に用いる層の変更」の変遷については確認中です。」 とのことですが、確認が終わりましたらご連絡くださいますでしょうか。 【回答】 確認ができましたら改めてご連絡をさせていただきたく存じます。 ――――― 「厚生労働省からの回答 PART II」(2… <div class="section"> <h3 id="intro">前回までのあらすじ</h3> <p>毎月勤労統計調査に関する質問について、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">&#x6628;&#x5E74;10&#x6708;4&#x65E5;&#x306B;&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x304B;&#x3089;&#x53D7;&#x3051;&#x53D6;&#x3063;&#x305F;&#x56DE;&#x7B54;</a> についての私からの3点の追加質問に対する <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221031/answer2">&#x56DE;&#x7B54;&#x3092;&#x6628;&#x5E74;10&#x6708;26&#x65E5;&#x306B;&#x53D7;&#x3051;&#x53D6;&#x3063;&#x3066;&#x3044;&#x305F;</a>。このときの回答では、1つ目の質問については「確認中」ということで、つぎのように「改めてご連絡をさせていただきたく存じます」との回答であった。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221031/answer2"> <p>(1) について、「「集計に用いる層の変更」の変遷については確認中です。」<br /> とのことですが、確認が終わりましたらご連絡くださいますでしょうか。</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> 確認ができましたら改めてご連絡をさせていただきたく存じます。</p> </blockquote> <p>―――――<br /> 「厚生労働省からの回答 PART II」(2022-10-31)</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221031/answer2">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221031/answer2</a></cite> </blockquote> </div> <div class="section"> <h3 id="answer">回答</h3> <p>この件について、今年7月20日に、確認結果を知らせていただいた。内容は、つぎのとおり。</p> <blockquote> <p>東北大学 田中様</p><br /> <p>いつもお世話になっております。厚生労働省統計企画調整室でございます。</p><br /> <p>下記メールにて、確認ができましたら改めてご連絡をさせていただくとお伝えして<br /> おりましたご質問内容について、回答が遅くなり恐縮ではございますが、以下のと<br /> おり回答いたします。</p><br /> <p> ---------------------------------------------------------------------------------------<br /> 「集計に用いる層の変更」の変遷について、過去の担当者に聞き取り等を行った結果、<br /> 少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更せず、<br /> 労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する取り扱いとしていることが<br /> 分かりましたので、ご回答をさせていただきます。<br /> ---------------------------------------------------------------------------------------</p><br /> <p>どうぞよろしくお願いいたします。</p><br /> <p>〔以下、過去メールの引用を省略〕<br /> ―――――<br /> 厚生労働省からの電子メール (2023-07-20)</p> </blockquote> <p>というわけで、<strong>遅くとも平成20年 (=2008年) ごろまでに、事業所規模変化による層間移動を原則としてしない方式に変更していた</strong> ことが判明したわけである。これが何を意味するかは後述。</p><p>私のほうからは、つぎの返信を7月23日に返している:</p> <blockquote> <p>厚生労働省 御担当者様<br /> 東北大学の田中重人です。</p><br /> <p>ご回答くださり、ありがとうございます。<br /> また、先週金曜日 (7月21日) の毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ<br /> 第8回会合も傍聴させていただき、同趣旨のご説明があったことを確認しました。</p><br /> <p>少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更しない方式だったとしますと、<br /> 『毎月勤労統計要覧』等の記述は事実と異なっていたということになるのだと思いますが、<br /> 訂正は出されるのでしょうか?</p><br /> <p>また、この件とは別のことですが、先週金曜日のワーキンググループ第8回会合では、<br /> 母集団労働者数推計について、長い間おなじ方法でやってきた旨のご発言がありましたが、<br /> これまでにいただいてきた説明では、集計時の所属層の抽出率を使うようになったのは2018年から<br /> であり、今回検討の対象とした2016年までの調査では、今とは違う方法で計算していたものと思います。</p><br /> <p>〔以下、署名と過去メールの引用を省略〕<br /> ――――<br /> 厚生労働省への電子メール (2023-07-23)</p> </blockquote> <p>これに対する返答は、いまのところ返ってきていない。</p><p>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 第8回会合」というのは、厚生労働省からの上記の回答が返ってきた翌日 (7月21日) に厚生労働省で開かれたもの。この会議の議事録が最近 (9月8日) になって公開されたのだけれど、そこにも上記回答と同様の内容の説明がある。</p> <blockquote cite="https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776"> <p>〔角井統計管理官〕<br /> この労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する方法について調べたところ、少なくとも平成20年ぐらいから行っているようでした。<br /> ―――――<br /> 「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 議事録 - 厚労省」(2023-07-21)<br /> (発信元:<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a>)</p> <cite><a href="https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776">https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776</a></cite> </blockquote> <p>また、「長い間おなじ方法でやってきた旨のご発言」というのは、議事録ではつぎの部分にある (発言者は前と同じく角井統計管理官):</p> <blockquote cite="https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776"> <p>抽出率の倍率を抽出時点のもので推計するかということについてですが、これまでの推計方法は、実査をしながら、長い時間をかけてこういう形になってきたものですから、実査でどうなるかといった動きも考慮しながら、さらに理論的な考え方も含めて、両方見ながら考えていかなければと思っていました。<br /> ―――――<br /> 「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 議事録 - 厚労省」(2023-07-21)<br /> (発信元:<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html</a>)</p> <cite><a href="https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776">https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776</a></cite> </blockquote> <p>ここで問題になっているのは、抽出時点の抽出率を使うか、集計時点の所属層に設定された抽出率を使うかという点である。これは、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3</a> で述べたとおり、2017年までは前者でやってきた (統計学的にはこれが正しい) 方法を、2018年から後者 (統計学的に間違った方法) に切り替えたものである。5年前に突然おこなった変更を、「長い時間をかけてこういう形になってきた」と強弁するのはかなり苦しい。だいたい、この第8回ワーキンググループ会議で議題になっていたのは、2014年から2016年の数値の動きを追跡した資料 (<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html</a> 参照) であり、その当時の集計では、抽出時の抽出率を使っていたはずである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">問題点</h3> <p>毎月勤労統計調査の2018年調査までの報告書 (『毎月勤労統計要覧』) には、「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計」と書いてあった。これが「規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計」に変わったのは、2019年調査についての報告書からである。昨年8月6日に書いた <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus</a> では、これを根拠に、規模が変化した事業所のあつかいは2019年に変更されたのだろうと推測した。<a href="#f-4fc0c23d" name="fn-4fc0c23d" title="厚生労働省ウエブサイトでの説明ページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html の記述は、[https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12648899/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html:title=2023年2月4日] までは「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計」となっていた。これが [https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12764107/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html:title=同年3月3日]までに「規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計」に書き換えられている。">*1</a></p><p>しかし今回の厚生労働省回答 (およびワーキンググループでの口頭説明) では、2008年にはすでに事業所の集計規模区分を変更しない方式に変更していたというのである。これが正しいなら、層間移動事業所のあつかいを変更したにもかかわらず、従来の方式を継続しているかのような <strong>虚偽記載を、10年以上にわたってつづけてきた</strong> ことになる。</p><p>なお、この方式 (事業所規模が変化しても集計規模区分を原則として変更しない) をとると、調査開始時の所属層からの流出だけは推定母集団労働者数に反映するが、それ以外の移動は反映しない。そのため、推定母集団労働者数に歪みを生じることになる。これについては、昨年7月24日の記事 (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop</a>) でその恐れを指摘し、10月4日の厚生労働省からの回答 (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer</a>) の (4) で、実際にそのとおりの計算になっていることを確認した。これに加えて、母集団労働者数を推定するときのウエイトとして集計時所属層に割り当てられた抽出率逆数を使うことにより、推定される母集団労働者数がセンサスの数値から大きくはずれて不自然な動きになることが、ワーキンググループ第8回会議 (2023-07-21) の資料「<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/001122515.pdf">&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a>」で報告されている。この件については、あらためて別記事で論じることにしたい。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>ワーキンググループ第8回会議 (2023-07-21) の資料と議事録についての解説記事を書きました:</p> <ul> <li>第8回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料解釈 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230917/wg8</a> (2023-09-17)</li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2023-09-10</dt> <dd> 記事公開</dd> <dt>2023-09-19</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-4fc0c23d" name="f-4fc0c23d" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">厚生労働省ウエブサイトでの説明ページ <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html</a> の記述は、<a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12648899/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">2023&#x5E74;2&#x6708;4&#x65E5;</a> までは「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計」となっていた。これが <a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12764107/www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">&#x540C;&#x5E74;3&#x6708;3&#x65E5;</a>までに「規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計」に書き換えられている。</span></p> </div> remcat 「日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録」出版のお知らせ hatenablog://entry/820878482965429451 2023-09-07T14:34:12+09:00 2024-03-09T16:31:42+09:00 『文化』(東北大学文学会発行の学内誌) 86巻3/4合併号に、論文「日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録」を掲載した。 内容は、日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応において重要な役割を果たした語「クラスター」について、その意味の変遷を、出現当初から約1年間 (2020年2月から2021年1月まで) 追ったものである。おおむね、2020年5月までを「第1波」、6月から9月を「第2波」、10月以降を「第3波」と区分して、それぞれの期間の政府文書やマスメディア記事などを収集し、「クラスター」ということばがどのように使われているのかを調べた。特に、政府内の専門家の会議 (新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、新型コロナウイルス感染症対策分科会など) の記録において、「クラスター」の用法が第1波→第2波→第3波とどう変化してきたかを中心に検討している。 <p>『文化』(東北大学文学会発行の学内誌) 86巻3/4合併号に、論文「日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録」を掲載した。</p> <ul> <li>田中 重人 (2023)「日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録」『文化』86(3/4): 239-219, 208. <a href="http://tsigeto.info/23a">http://tsigeto.info/23a</a></li> </ul><p>『文化』は縦書き (右→左) の論文と横書き (左→右) の論文が両方載る関係上、右→左に振ったページ番号と左→右に振ったページ番号があり、しかも前者については通巻と号ごとの2種類がある (つまり3種類のページ番号が共存している) というややこしいことになっている。上記のページ範囲 (239-219, 208) は通巻の右→左ページである (208は英文抄録のページ番号)。</p><p><del>東北大学の機関リポジトリ TOUR <a href="https://tohoku.repo.nii.ac.jp">https://tohoku.repo.nii.ac.jp</a> で公開されるはずであるが、<a href="https://www.library.tohoku.ac.jp/news/2023/20230609.html">9&#x6708;18&#x65E5;&#x307E;&#x3067;&#x65B0;&#x898F;&#x767B;&#x9332;&#x304C;&#x505C;&#x6B62;</a> しているため、しばらくかかる見込みである。その代わりに、印刷版PDFファイルを <a href="http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf">http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf</a> で公開している。</del><br /> <ins>東北大学の機関リポジトリ TOUR には2023年11月16日に掲載されました (<a href="http://hdl.handle.net/10097/0002000300">http://hdl.handle.net/10097/0002000300</a>)。</ins> [2024-03-09 追記]</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230813115850" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230813/20230813115850.jpg" width="800" height="461" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>1ページ目にとんでもないまちがいがある (私の責任ではないが)。</p><p>内容は、日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応において重要な役割を果たした語「クラスター」について、その意味の変遷を、出現当初から約1年間 (2020年2月から2021年1月まで) 追ったものである。おおむね、2020年5月までを「第1波」、6月から9月を「第2波」、10月以降を「第3波」と区分して、それぞれの期間の政府文書やマスメディア記事などを収集し、「クラスター」ということばがどのように使われているのかを調べた。特に、政府内の専門家の会議 (新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、新型コロナウイルス感染症対策分科会など) の記録において、「クラスター」の用法が第1波→第2波→第3波とどう変化してきたかを中心に検討している。</p> <div class="section"> <h3 id="intro">内容の要約</h3> <p>当ブログで2020年末から2021年初にかけて書いた一連の記事がベースである。ただし、この当時 (第3波真っ只中) にはまだよく見えていなかった事柄もあり、その部分の考察を補足した内容になっている。</p> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201216/cluster">&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x300D;&#x5B9A;&#x7FA9;&#x5404;&#x7A2E;</a> (2020-12-16)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs">&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC; vs. &#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;</a> (2021-01-03)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210106/eat">&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x5206;&#x985E;&#x306F;&#x81EA;&#x7531;&#x81EA;&#x5728;?: &#x5206;&#x79D1;&#x4F1A; (&#x7B2C;12, 19&#x56DE;) &#x8CC7;&#x6599;&#x306B;&#x307F;&#x308B;&#x6570;&#x5024;&#x64CD;&#x4F5C;</a> (2021-01-06)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster">&#x65E5;&#x672C;&#x653F;&#x5E9C;&#x306E;&#x3044;&#x3046;&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x300D;&#x306F;&#x300C;&#x8907;&#x6570;&#x611F;&#x67D3;&#x4E8B;&#x4F8B;&#x300D;&#x3067;&#x3059;</a> (2021-01-08)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters">&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;&#x306B;&#x57FA;&#x3065;&#x3044;&#x3066;&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x5BFE;&#x7B56;&#x300D;&#x3092;&#x8A55;&#x4FA1;&#x3059;&#x308B;</a> (2021-01-09)</li> </ul><p>「クラスター」の3つの意味の登場とその後の変遷について簡単に書くと、つぎのような感じになる。</p> <div class="section"> <h4 id="3つのクラスター">3つの「クラスター」</h4> <div class="section"> <h5 id="意味A-ひとりから大勢への感染">意味A: ひとりから大勢への感染</h5> <p>「クラスター対策」が打ち出されたころに盛んに喧伝されたのが、COVID-19感染者のほとんどは2次感染を引き起こしておらず、ごく少数の感染者が大規模な感染を引き起こして流行を拡大させているのだ、という仮説である。しばしば「8割は人にうつさない」と形容される怪しげなグラフが引用される (そのグラフが「8割は人にうつさない」説の根拠にならないということは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200403/80pct">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200403/80pct</a> ほかで論じてきた<a href="#f-faf27f70" id="fn-faf27f70" name="fn-faf27f70" title=" さらにいうと、日本の第1波で収集されたデータはすべて、発見されたCOVID-19感染者の大半が小規模な感染によるものだったことを示しており、ごく少数の感染者が大規模な感染を引き起こすことで流行が拡大したという仮説を支持するデータはない。http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1 の文献レビューを参照。">*1</a> が、それは今回の論文には直接関係しない)。</p><p>このプロパガンダに引っ張られて、ひとりから多数への感染が起きたケース (いわゆる「スーパースプレッダー」による感染) を「クラスター」という、と理解されていることが多い。私も当時はそういう理解であった。しかし、実は、政府の文書で明文でそう説明した事例はみあたらない。唯一存在するのは、「クラスター対策班」発足当時に厚生労働省が発表した文書の中にあった、つぎのような図だけである。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000599837.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20201231193412" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20201231/20201231193412.png" width="317" height="169" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2020-02-25)「新型コロナウイルス クラスター対策班の設置について」 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09743.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09743.html</a></p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000599837.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000599837.pdf</a></cite> </blockquote> <p>図からは、ひとりから大勢への感染を「クラスター」、そこで感染した人がまた多くの感染を生じさせることを「クラスターの連鎖」といっているように読みとれる。しかし、この文書の文章自体には、そのような定義はない。</p><p>政府の外での専門家の文書としては、日本公衆衛生学会感染症対策委員会 (委員長として前田秀雄、委員として押谷仁の名前がある) による「クラスター対応戦略の概要」(3月10日) がある。</p> <blockquote cite="https://www.jsph.jp/files/docments/COVID-19_031102.pdf"> <p>感染者のごく一部が2次感染者を数多く生み出すという、いわゆるクラスター(患者の集積)の発生が、流行につながっていると考えられる。逆に、新たな場所にウイルスが入り込み、家族内感染や医療従事者への感染などの2次感染が起きても、一定規模のクラスターさえ起きなければ、そのような感染連鎖の R<sub>0</sub>は1未満なので、そのような感染連鎖は継続できず、消滅していくことになる。<br /> ―――――<br /> 日本公衆衛生学会感染症対策委員会 (2020-03-10)「クラスター対応戦略の概要」(3月10日暫定版).<br /> 2ページ。</p> <cite><a href="https://www.jsph.jp/files/docments/COVID-19_031102.pdf">https://www.jsph.jp/files/docments/COVID-19_031102.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この記述に関しては、「感染者のごく一部が2次感染者を数多く生み出す」ことを指して「クラスター」と定義しているものといちおうは考えることができる。ただし、この前には「感染者が誰から感染したのかをはっきりと認識できていない例が多く見ら〔れ〕、そのことにより感染源を認識できないままに感染連鎖が継続すると、感染連鎖を検出することは困難になる」という記述もある。また、つぎのページには「クラスターの感染源となったイベントや会合の参加者全員に、症状の有無を問わずに自宅待機を要請することが原則となる」ともある。これらを考え合わせると、「クラスター」の字義的な定義としては「感染者のごく一部が2次感染者を数多く生み出す」ことであったとしても、実際にこの文書全体を通読した読み手がイメージするのは、誰から誰に感染したかはよくわからないが、特定のイベントや会合で感染した可能性が高いことは推測できる、というような状態であろう。感染力の高いスーパースプレッダが、家庭・職場・交通機関・飲食店・小売店のような日常的に立ち寄る場所のあちこちで感染を引き起こすような状況は、この文書からは想定しにくい。</p><p>これ以外には、ひとりから大勢への感染という意味で「クラスター」を定義しているケースは、政府や専門家が2020年2-3月に発表した文書には、発見することができなかった。おそらく、この意味の「クラスター」は、政府によるCOVID-19対応の実際の場面では、ほぼ使われることがなかったのではないか。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="意味B-感染の連鎖">意味B: 感染の連鎖</h5> <p>一方で、感染対策の最前線である保健所においては、まったくちがう「クラスター」定義が使われれている。大雑把に言うと「感染の連鎖」を「クラスター」と呼ぶ用法で、これは流行のごく初期 (2020年2月27日) から2023年に至るまで、一貫して使われてきたものである (多少の文面の変遷はある)。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227.pdf"> <p>「患者クラスター(集団)」とは、連続的に集団発生を起こし(感染連鎖の継続)、大規模な集団発生(メガクラスター)につながりかねないと考えられる患者集団を指す。<br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領 (暫定版):患者クラスター(集団)の迅速な検出の実施に関する追加」(2020年2月27日版). <a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html">https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html</a><br /> 2枚目</p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この2月27日の「積極的疫学調査実施要領」、日本語版だけ読むとわけがわからない (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201216/cluster#niid">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201216/cluster#niid</a> 参照) のだが、同日に作られた英訳版はつぎのようになっている。これとあわせると、意味が確定できる。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227-en.pdf"> <p>A “cluster (population) of patients” is a population of patients that may continuously cause outbreaks (continuation of a chain of infection), leading to a large outbreak (mega cluster).<br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター「Manual for active epidemiological surveillance of patients with novel coronavirus infection (provisional version): addition for the implementation of rapid detection of clusters (populations) of patients」(2020年2月27日版英訳)<br /> 2枚目</p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227-en.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200227-en.pdf</a></cite> </blockquote> <p>日本語版で「連続的に集団発生を起こし(感染連鎖の継続)」となっている部分は、英訳版では「a population of patients that may continuously cause outbreaks (continuation of a chain of infection)」のようになっている。つまり、連続的に集団発生を起こす (continuously cause outbreaks) というのは可能性についての表現 (may) なのであり、すでに集団発生 (outbreaks) を起こしたことを示すのではない。ここで言おうとしているのは、患者からの感染がつぎつぎ引き起こされて患者が増えていく状態 (感染連鎖の継続) であればいつでも集団発生 (outbreaks) やメガクラスター (mega cluster) が起きうるのだから、そのような可能性のある感染連鎖を「クラスター」と呼んで監視対象としましょう、ということである。</p><p>実際、「積極的疫学調査実施要領」のなかには、スーパースプレッダーを特定せよというような指示はないし、いわゆる「クラスター対策」で喧伝されたような、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree">&#x5927;&#x898F;&#x6A21;&#x306A;&#x611F;&#x67D3;&#x304C;&#x78BA;&#x8A8D;&#x3055;&#x308C;&#x3066;&#x304B;&#x3089;&#x306E;&#x5F8C;&#x308D;&#x5411;&#x304D;&#x63A2;&#x7D22;&#x3067;&#x611F;&#x67D3;&#x6E90;&#x3092;&#x7279;&#x5B9A;&#x3057;&#x3066;&#x5BFE;&#x5FDC;&#x3059;&#x308C;&#x3070;&#x3088;&#x3044;&#x3068;&#x3044;&#x3046;&#x30C8;&#x30C1;&#x72C2;&#x3063;&#x305F;&#x6226;&#x7565;</a> が示されているわけでもない。やるべきことは、すべての感染連鎖 (=積極的疫学調査でいう「クラスター」) について、そこから感染が拡大しないよう、感染している可能性のある濃厚接触者の調査 (=前向きの調査) をもれなくおこなって患者を発見し、治療について手配し、接触歴について調査する――というごく常識的な対策である。<a href="#f-ecb7c722" id="fn-ecb7c722" name="fn-ecb7c722" title=" 後向きの調査 (感染源の探索) もおこなうが、濃厚接触者に関する前向きの調査のほうが優先度が高い。そして実際、後向きの調査で見つかった大規模感染に関連する感染者の数は、当時 (2020年1-3月) みつかった感染者数全体の1割程度に過ぎない ([http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1])。">*2</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h5 id="意味C-1か所での多数の感染">意味C: 1か所での多数の感染</h5> <p>これらに対し、「クラスター」の定義として最も人口に膾炙したものは、「1か所での多数の感染」を「クラスター」とするものであろう。この系統の用法と思しきものは、3月初めに新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (以下「専門家会議」と呼ぶ) の出した一般向け文書に出てくる。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html"> <p>一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、〔……〕等です。このことから、屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されます。<br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-20)「新型コロナウイルス感染症対策の見解」(3月2日) </p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html</a></cite> </blockquote> <p>ここでは「クラスター」が何であるかについて、はっきりと定義されているわけではない。しかし、特定の空間で生まれる患者集団のことを「クラスター」と呼んでいるので、場所の共通性に着目していることはあきらかであり、その点で、上記の意味A (感染源となった個人の共通性に着目) とも意味B (同一の関連連鎖であることに着目) ともちがっている。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4 id="第1波-2-5月-クラスター概念の創出と拡散">第1波 (2-5月): 「クラスター」概念の創出と拡散</h4> <p>これら3つの「クラスター」の用法 (意味 A, B, C) は、2020年2月末から3月頭にかけてのごく短い期間に生み出された。これらのうち、Aはすぐに使われなくなり、BとCが残った。</p><p>感染連鎖を「クラスター」とするBの用法は、保健所がおこなう積極的疫学調査でずっと使われてきた。この文脈で「クラスター」といえば、誰から誰が感染したかという関連によってつながった感染者のネットワーク (=感染連鎖) を指す。また、「クラスター対策」といえば、感染者の濃厚接触者をたどった調査 (=前向き調査) によって感染者あるいはその疑いのあるものを探し出し、治療や健康観察や隔離などの措置をおこなっていく、再帰的な感染者対策をいう。</p><p>専門家の文書 (たとえば<a href="https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf">&#x62BC;&#x8C37;&#x4EC1;&#x304C;&#x304A;&#x3053;&#x306A;&#x3063;&#x305F;&#x65E5;&#x672C;&#x516C;&#x8846;&#x885B;&#x751F;&#x5B66;&#x4F1A;&#x306E;&#x7814;&#x4FEE;&#x4F1A;&#x306E;&#x8CC7;&#x6599;</a>) や新型コロナウイルス感染症対策本部の「<a href="https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h.pdf">&#x65B0;&#x578B;&#x30B3;&#x30ED;&#x30CA;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x306E;&#x57FA;&#x672C;&#x7684;&#x5BFE;&#x51E6;&#x65B9;&#x91DD;</a>」(2020-03-28) などでも、同様の意味にとれる「クラスター」の定義がある。ただし、これらの文書中で一貫した使われかたをしているかは疑問である。</p><p>3月中旬には、この意味Bによって既発見の「クラスター」(=感染連鎖) を数え上げ、日本地図上に都道府県別にプロットした「全国クラスターマップ」を厚生労働省が発表。このころまでは、専門家の間でも、日本政府の見解としても、意味Bが主流になっていたとみることができよう。</p><p>しかし、これに大分県が抗議したことで状況が一変する。厚生労働省は この抗議を受けて、クラスターマップをいったん撤回し、意味Cによる「クラスター」(=1か所での接触歴のある5人以上の感染者) のマップに差し替えて公表した。この事件の結果として、意味Cによる「クラスター」用法が覇権を握るとともに、その具体的な基準として「5人以上」の感染者という数的な共通理解が出来上がる。これ以降、日本政府や自治体が一般向けに広報する場においては「1か所で5人以上の感染者」という基準で「クラスター」を識別するようになっていく。(「全国クラスターマップ」騒動については <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#mhlw">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#mhlw</a> を参照。)</p> </div> <div class="section"> <h4 id="第2波-6-9月-クラスターの小規模化">第2波 (6-9月): 「クラスター」の小規模化</h4> <p>以上のように、第1波の中ごろには、「クラスター」といえば「1か所での多数の感染」を指す (意味C)、というのが、(専門家の一部や保健所などの現場の調査活動を除けば) 一般的な認識になっていた。実際、自治体によって発表される「クラスター」の大部分は病院や福祉施設などで長い期間かけて感染が広がったケースだったから、到底「ひとりから大勢への感染」とはいえないものであった。また、複数の場所にまたがって感染が連鎖していた場合には場所ごとに別々の「クラスター」としてあつかわれていたから、「感染の連鎖」をクラスターと呼んでいるわけでないこともあきらかであった。</p><p>ところが、第2波に入ると、「感染の連鎖」を指す意味Bが復活してくる。それだけではなく、「1か所での少数の感染」も「クラスター等」と呼ばれるようになって、意味Cを小規模な感染にまで拡張した用法 (意味C') が登場。実際その定義に基づいた統計が政府の会議で資料として使われるようになる。</p><p>小規模な感染の連鎖を「クラスター」と呼ぶ用法は、<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_free17">2020&#x5E74;7&#x6708;30&#x65E5;&#x306E;&#x539A;&#x52B4;&#x7701;&#x65B0;&#x578B;&#x30B3;&#x30ED;&#x30CA;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x30A2;&#x30C9;&#x30D0;&#x30A4;&#x30B6;&#x30EA;&#x30FC;&#x30DC;&#x30FC;&#x30C9;&#x306E;&#x7B2C;4&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;</a> の参考資料「クラスター事例集」に出てくる。これは国立感染症研究所の感染症疫学センター/実地疫学専門家養成コース (Field Epidemiology Training Program: 以下「FETP」と呼ぶ) が作成したもので、<a href="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200814/k10012566171000.html">&#x5F8C;&#x306B;NHK&#x30CB;&#x30E5;&#x30FC;&#x30B9;&#x3067;&#x3082;&#x53D6;&#x308A;&#x4E0A;&#x3052;&#x3089;&#x308C;&#x3066;&#x3044;&#x308B;</a>。具体的な事例は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july</a> に載せている図をみてもらえばいいのだけれど、1か所で1人しか感染していない場合でも「クラスター事例」なのである。</p><p>その翌日、7月31日の<a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf">&#x65B0;&#x578B;&#x30B3;&#x30ED;&#x30CA;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x5206;&#x79D1;&#x4F1A; (&#x4EE5;&#x4E0B;&#x300C;&#x5206;&#x79D1;&#x4F1A;&#x300D;&#x3068;&#x547C;&#x3076;) &#x306E;&#x7B2C;4&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;</a> には、つぎのような表が「7月のクラスター等発生状況」として載っている。</p> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210106003739" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210106/20210106003739.png" width="705" height="530" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-07-31) 第4回会議資料<br /> 60枚目</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf</a></cite> </blockquote> <p>これは1か所での感染の事例を数えたものだが、「会食」「職場」の行に注目すると、「1件あたりの人数」が4.0人である。「最大人数」がそれぞれ15人と17人なので、多人数のケースもあるのだろうが、4人未満の小規模感染をふくんでいることはあきらかだ。つまり、第1波のころにあれだけ喧伝した、COVID-19は大規模感染でしか広がらないので大規模感染だけ警戒しておけばよいという「クラスター対策」の主張を引っ込めて、小規模感染も警戒対象にしなければならないという方針転換を図ったわけである。</p><p>こうして、政府資料では、小規模な感染をふくめて「クラスター等」として数えるようになった。一方で、自治体の認定するクラスターの基準は、従前のままであった。メディアが感染事例を報道する場合、自治体からの発表に基づくことが多い。結果として、報道を通じてクラスターの具体例として認識されるのは依然として「1か所での5人以上の集団感染」であるにもかかわらず、政府が「1か月に○○件のクラスター等が発生」などというときには小規模な感染もカウントされている、という変則的な状況がこれ以降つづくことになる。</p><p>もっとも、このようにちがう基準が共存する状況について、政府は広報をおこなわず、メディアも報道しなかった。このため、個別事例としてとりあげられるクラスターの定義と政府の統計でいうクラスター (等) とのくいちがいが問題になることもなかった。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="第3波-10-1月-質的把握の重視">第3波 (10-1月): 質的把握の重視</h4> <p>政府は小規模感染までふくめてクラスターを数えている、という事実が一般に報じられるようになったのは、いわゆる「第3波」が進行した11月のことである。このあたりのことは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster#gov">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster#gov</a> 参照。</p><p>その前月の10月には、分科会が各自治体からの「クラスター」事例ヒアリングをおこなったり、FETPに「集団感染」事例の資料を求めたりと、感染拡大事例の質的な情報を収集する動きが活発になっていた。その結果として、2021年1月7日に2度目の緊急事態が宣言された際には「感染リスクが高く感染拡大の主な起点となっている場面」(<a href="https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_20210107.pdf">&#x5BFE;&#x7B56;&#x672C;&#x90E8;2021&#x5E74;1&#x6708;7&#x65E5;&#x300C;&#x57FA;&#x672C;&#x7684;&#x5BFE;&#x51E6;&#x65B9;&#x91DD;&#x300D;</a>) として「飲食」が名指しされ、それを前提とした対策が組まれることになった。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="まとめクラスター用法の変遷">まとめ:「クラスター」用法の変遷</h4> <p>以上の変遷をまとめると、COVID-19第1波序盤で使われ始めた当初の「クラスター」が持っていた「ひとりから大勢への感染」という意味 (A) はすぐに廃れ、「感染の連鎖」(B) および「1か所での多数あるいは複数の感染」(C あるいは C') という意味が生き残ったことがわかる。第1波の後半には、意味Cが、「5人以上」という具体的な基準をともなって覇権を握った。ところが第2波に入ると、より小規模な感染をふくめる意味C' が台頭し、また感染連鎖を指して「クラスター」とする意味Bも復権。第3波までに、それらの複数の意味 (B, C, および C') が併存して使われる混乱状況になっていた。</p><p>このような意味変容と混乱の過程は、日本のCOVID-19対応がその重点を変化させてきたことの反映であろう。</p><p><strong>2020年2月に政府と専門家が提唱した「クラスター対策」は、例外的に大量の感染を起こす人 (スーパースプレッダー) の存在を前提としたものだった。</strong> スーパースプレッダーは稀にしか出現しないが、いったん出現すると流行を一気に加速させる重大な結果をもたらす。このようなスーパースプレッダーによって引き起こされる、「ひとりから大勢への感染」(=意味Aの「クラスター」) を特に警戒の対象にするため、このことばが焦点化された。</p><p>しかし、3月に実際に流行が拡大した時期以降、この意味Aはほとんど使われなくなっていった。それとともに、「クラスター」が当初持っていた、稀であるが重大な結果をもたらすという含意も薄くなり、小規模な感染 (意味C') やそれが多数つながった感染連鎖 (意味B) が「クラスター」にふくまれるようになっていく。この意味でのクラスターは稀なものではなく、また全体的な感染状況を単独で大きく変えるようなものではない。<strong>第2波以降の日本のCOVID-19対応は、このような小規模な事例が多数つながることで流行が拡大するというモデルにしたがって組み立てられるようになった。</strong> 第1波当初の、大規模な感染が稀に起きることで流行が拡大するというモデルは、事実上放棄されている。にもかかわらず、政府や政府に関連する専門家たちは、当初掲げた「クラスター」という看板を使いつづけた。しかし、そこでの使いかたは、当初のものとは大きくちがう。</p><p>第2波、第3波では、自治体からの聴き取り、FETPからの報告、報道された事例などを収集して、対策を打つべき条件を特定することが、「クラスター」ということばを使っておこなわれた。その探索の対象は、感染拡大につながりそうな事例はどういうものが多いかということであり、「クラスター」はそういう可能性のあるものに投網をかけることばだった。「感染事例について教えてください」と訊ねるかわりに「クラスター事例について教えてください」と訊ねたほうが、感染拡大につながりそうなヤバそうな事例を想起してもらえる可能性が高いだろうという程度のことである。<strong>ここでは、「クラスター」は警戒すべき対象そのものをあらわすのではなく、警戒対象になりうる事柄の候補をリストアップするための言語的手がかりのひとつに過ぎないものになっている。</strong><br /> </p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">解釈</h3> <p>以上が、論文のだいたいの中身である (論文に書いていない情報を補ったところが一部あるが)。分量の制約により、ほぼ資料から確認できることをまとめただけの内容になっている。</p><p>さて、ここから先は、論文で書けなかったことを、もうすこし考えてみたい。――なぜ、このような多様な意味をもったことばが、日本のCOVID-19対応のキーワードになったのだろうか? こういう重要なことについて一般向けのメッセージを出す場合には、なるべく誤解の余地のない表現を選んで使うものではないだろうか?</p><p>はっきりしていることは、日本のCOVID-19対応における「クラスター」は、登場したいちばん最初のところから多義語であった、ということである。2020年2月25日のクラスター対策班発足の際の文書 (意味A) と、2月27日に改訂された積極的疫学調査実施要領 (意味B) との間には2日しかないのだから。つまり、最初は単一の定義を持つ用語だったものが使っているうちに意味が拡散してしまったというような話ではなく、<strong>最初から二枚舌を使い分けるための用語だった</strong> ということだ。</p><p>ここで思い出しておくべきことは、2020年1月当時、日本政府は感染者をなるべく見つけない方針をとっていたという事実である。COVID-19に感染している疑いがある者として扱われるのは、</p> <ol> <li>流行地 (当時は中国の武漢周辺のみ) からの入国者で、発熱と呼吸器症状の両方がある場合</li> <li>感染が確定した者の濃厚接触者と認定された場合</li> </ol><p>に限られていた。武漢からの入国者が発熱していた1月中旬のケースでは、(呼吸器症状がないため) 基準にあわないとして、医療機関からのPCR検査の要請を厚生労働省が拒絶している (<a href="https://www.asahi.com/articles/ASN466H53N46PLBJ005.html">https://www.asahi.com/articles/ASN466H53N46PLBJ005.html</a>)。1月下旬の、武漢からの団体旅行客が宴会をおこなった屋形船の従業員が肺炎を発症して入院したケースでも、COVID-19の検査はおこなわれなかった (<a href="https://www.asahi.com/articles/ASN5G63FRN5BUTIL031.html">https://www.asahi.com/articles/ASN5G63FRN5BUTIL031.html</a>)。この屋形船の宴会に関しては、実は大量の感染が発生していたらしいことが2週間以上たってからようやく判明した。しかしその頃にはすでに神奈川や東京の病院に感染が広がっており、結果として40人以上が死亡した可能性があることが指摘されている (<a href="https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000180769.html">https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000180769.html</a> と <a href="http://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.02.065">http://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.02.065</a> 参照)。</p><p>日本政府がこのような方針をとった理由については、いろいろな憶測がある (たとえば日本が流行地だとみなされることによる経済的な不利益を避けようとしたとか、同年開催予定だった東京オリンピックの障害になることを恐れたとか)。どのような解釈をとるにせよ、感染者を早期発見して隔離するのが世界的に標準的な感染症対策だとみなされているなかで、日本のこのような消極的姿勢は異様に映るものであった。これに対して、日本政府は、なにか合理的な理由があってこのような一見不合理な対策をとっているのだという説明を、嘘でもいいから示す必要に迫られていた。</p><p>専門家が2月下旬に編み出した「クラスター対策」の説明は、この要求に応えたものといえよう。大規模感染を事後的に発見すればそこから感染の連鎖をたどって流行を抑えることができる。だから、大規模な感染がみつかるまでは待っていてよいのであって、1人2人の感染者をみつけるために貴重な検査資源を浪費するのは馬鹿げたことだ――という理屈になっていたからだ。実際、この説明は、国際的にも国内的にも大した批判もなく受け入れられ、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree">&#x65E5;&#x672C;&#x306F;&#x5927;&#x898F;&#x6A21;&#x611F;&#x67D3;&#x306E;&#x767A;&#x898B;&#x3092;&#x512A;&#x5148;&#x3057;&#x305F;&#x5408;&#x7406;&#x7684;&#x306A;&#x5BFE;&#x7B56;&#x3092;&#x3068;&#x3063;&#x305F;</a> のだ、と多くの人が信じた。</p><p>しかし、大規模感染を事後的に見つけることができるのだとしても、発見までの間にすでに多方面に感染が広がっていれば、追跡は困難である。上記の屋形船のケースのように、見逃した感染連鎖があればそこから流行が広がってしまう。大規模感染がわかってから感染連鎖をたどって感染者を網羅的に見つけるのは、実際にはむずかしいのだ。そうすると、そもそも大規模感染が起きないように感染連鎖を事前にストップさせなければならないということになる。COVID-19は大規模感染で広がるという仮説が正しいか正しくないかにかかわらず、個別の症例とそこからの感染連鎖をなるべくたくさん捕捉するという世界標準の対策以外の選択肢は、どのみち存在しないのである。</p><p>積極的疫学調査実施要領の「連続的に集団発生を起こし(感染連鎖の継続)、大規模な集団発生(メガクラスター)につながりかねないと考えられる患者集団」というクラスター定義 (意味B) は、まさにこのような発想に沿ったものであった。大規模な感染を起こしたケースをあとから追跡するのではなく、そもそもそういうことが起きないように、感染連鎖を前もって止めなければならない。実施要領では、そのための手順 (検査による感染者の確定や隔離、追跡すべき濃厚接触者や感染源候補の聴き取り調査など) を定めているわけである。そこでは、感染の規模にかかわらず、すべての感染者とその接触歴を、一定の基準で追跡することになる。日本の「クラスター対策」を率いていた押谷仁も、積極的疫学調査を実際に担当する保健師などを対象とした研修資料では、「感染者・接触者・感染連鎖・クラスター連鎖は制御下に置けている限り大規模な地域流行につながらない」ということを「クラスター対策の基本となっている考え方」だとちゃんと書いている (<a href="https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf">https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf</a>)。小規模感染であれば放置してよいなどということはなく、すべての感染者・接触者を発見して制御下に置かなければならない、というのが現場の担当者に向けて語られた「クラスター対策」であった。</p><p>このように考えれば、<strong>意味Aは実態から乖離した説明を一般向けに展開するため、意味Bは実態に即した説明を現場担当者向けに展開するために創られた</strong> ことが理解できよう。大本営発表は一般人に向けたものであって、実働部隊がそれを真に受けて小規模感染の探索を後回しにしてしまうようでは困るのである。</p><p>意味Cについては、状況が異なる。この意味での「クラスター」の初出である <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html">2020&#x5E74;3&#x6708;2&#x65E5;&#x306E;&#x5C02;&#x9580;&#x5BB6;&#x4F1A;&#x8B70;&#x300C;&#x898B;&#x89E3;&#x300D;</a> では、「一人の感染者が複数人に感染させた事例」に注目する文脈で「クラスター」が使われているので、複数の感染者からの感染が重複して起きるようなケースは念頭になかった可能性が高い。この時点では、専門家たちは意味A (ひとりから大勢への感染) のなかには、それが1か所で起きるケースと、複数個所で起きる (各箇所での感染者数は少ない) ケースがあると認識しており、前者だけに言及するかたちで「クラスター」の用法を制限しようとしたのだろう。そうとすると、意味Aに限定を加えたのが意味Cだと当初は考えていたのであり、多数の固定的メンバーが特定の場所 (典型的には病院や福祉施設) で長期間にわたって日常的に接触を繰り返すことで徐々に広まる感染をふくめる意図はなかった可能性がある。しかし、2020年3月15日に発表した「全国クラスターマップ」(5人以上からなる感染連鎖をとりあげたもの) が <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#mhlw">&#x5927;&#x5206;&#x770C;&#x304B;&#x3089;&#x306E;&#x6297;&#x8B70;&#x3092;&#x53D7;&#x3051;&#x3001;&#x300C;1&#x304B;&#x6240;&#x3067;&#x306E;&#x63A5;&#x89E6;&#x6B74;&#x306E;&#x3042;&#x308B;5&#x4EBA;&#x4EE5;&#x4E0A;&#x306E;&#x611F;&#x67D3;&#x8005;&#x300D;&#x306E;&#x30DE;&#x30C3;&#x30D7;&#x306B;&#x5DEE;&#x3057;&#x66FF;&#x3048;&#x305F;</a> こと (3月17日) で、まさにこの意味で「クラスター」を使う用法が定着してしまう。</p><p>以上をまとめると、専門家たちが「クラスター」を使いはじめた当初は、「ひとりから大勢への感染」(A) と「感染の連鎖」(B) の間で二枚舌を使い分ける意図はあったといえそうだが、「1か所での多数の感染」(C) をもふくめる意図はなかったのではないか。ところが、自治体からの抗議に迎合したことで、この意味 C が結果として優勢になってしまったと考えることができる。<hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2023-09-07</dt> <dd> 記事公開。</dd> <dt>2024-03-09</dt> <dd> 東北大学機関リポジトリ TOUR に掲載されたことの情報追記。</dd> </dl> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-faf27f70" id="f-faf27f70" name="f-faf27f70" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> さらにいうと、日本の第1波で収集されたデータはすべて、発見されたCOVID-19感染者の大半が小規模な感染によるものだったことを示しており、ごく少数の感染者が大規模な感染を引き起こすことで流行が拡大したという仮説を支持するデータはない。<a href="http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1">http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1</a> の文献レビューを参照。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-ecb7c722" id="f-ecb7c722" name="f-ecb7c722" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 後向きの調査 (感染源の探索) もおこなうが、濃厚接触者に関する前向きの調査のほうが優先度が高い。そして実際、後向きの調査で見つかった大規模感染に関連する感染者の数は、当時 (2020年1-3月) みつかった感染者数全体の1割程度に過ぎない (<a href="http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1">http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1</a>)。</span></p> </div> remcat ヤミ統計の研究 hatenablog://entry/820878482964862540 2023-09-05T13:03:46+09:00 2024-03-09T17:38:36+09:00 採択されました。 [2024-03-09 加筆]KAKENHI research plan (2024-2026) 科学研究費補助金 (基盤研究(C)) 2024-2026年度小区分: 社会学関連 研究代表者: 田中 重人 状況: 書類作成中※ 現在作成中の研究計画です。今後修正する可能性があります。 1. 研究目的、研究方法など 概要 日本の公的統計は、統計法に基づき、総務大臣と統計委員会が統括する建前になっている。しかし、実際には、このような規定の枠外で作成される公的統計が多数存在することが知られている。そのような統計のことを「ヤミ統計」と呼ぶ。本研究では、まず、ヤミ統計の実態とその影響を… <p><ins><strong>採択されました。</strong> [2024-03-09 加筆]</ins></p><p>KAKENHI research plan (2024-2026)<br /> 科学研究費補助金 (基盤研究(C)) 2024-2026年度</p><p>小区分: 社会学関連<br /> 研究代表者: 田中 重人<br /> 状況: 書類作成中</p><p><strong>※ 現在作成中の研究計画です。今後修正する可能性があります。</strong><br /> </p> <div class="section"> <h3 id="aim">1. 研究目的、研究方法など</h3> <div class="section"> <h4 id="概要">概要</h4> <p>日本の公的統計は、統計法に基づき、総務大臣と統計委員会が統括する建前になっている。しかし、実際には、このような規定の枠外で作成される公的統計が多数存在することが知られている。そのような統計のことを「<strong>ヤミ統計</strong>」と呼ぶ。</p><p>本研究では、まず、ヤミ統計の実態とその影響を探求する。これまでヤミ統計についての包括的な研究はおこなわれておらず、その実態は不明であった。本研究では、政府の公表資料からヤミ統計の事例を収集し、どのようなヤミ統計がどれくらい存在し、日本政府の政策等にどのような影響をどの程度あたえてきたかを明らかにする。</p><p>もうひとつの研究目的は、ヤミ統計の評価の基準を確立することである。「ヤミ統計」という名称はそれ自体、質の低さや政策立案における恣意的利用、安易な調査を乱発することによる対象者の負担増大といったマイナス面に注目して作られている。しかしその一方、ヤミ統計には、統計法の厳格な手続きを免れているので機動性が高いとか、学術研究に流用されて事後検証を受けることが容易であるとかのプラス面も想定できる。本研究では、このようなプラス面もふくめ、ヤミ統計の功罪をどのように評価するかの基準について考察する。</p><p>そして、これらを統合して、現代的な環境に適合した公的統計システムについての提言をおこなう。専門家を擁する中央統計機構が公的機関の作成する統計全般を制御するという現在の公的統計の発想は、統計法 (1947年) と統計報告調整法 (1952年) の立案過程で確立したもの (森博美『統計法規と統計体系』法政大学出版局、1991) であり、現在も基本的におなじ発想にしたがって公的統計体制が運営されている (松井博『公的統計の体系と見方』日本評論社、2008)。しかしその一方で、時代の変化と技術的環境の変化、統計に対するニーズの変化などによって従来の体制では現代的な環境にそぐわなくなっている部分があり、今後変動を余儀なくされる可能性が高い。古い制度の規制をかいくぐって統計法の制約を受けないかたちで作成されるヤミ統計のなかには、このような変動を先取りした部分がふくまれている可能性がある。具体的なヤミ統計事例を検討することにより、現在の公的統計制度の問題点を考察し、現代的な環境に適合的な公的統計制度のありかたを提言することが、本研究の最終的な目標である。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="本文">本文</h4> <div class="section"> <h5 id="1-学術的背景と問いの設定">(1) 学術的背景と問いの設定</h5> <p>日本の公的統計(政府、地方公共団体その他の公的機関が作成する統計)は、その一部については、統計法(1947年制定、2007年全部改正)に基づき、総務大臣(実質的には、統計制度担当の総務省政策統括官)および専門家による第三者機関である統計委員会が、その計画を事前に審査・承認する仕組みになっている。この審査・承認の対象となるのは、公的統計のなかでも特に重要なものとして総務大臣が指定する「基幹統計」と、一定の条件を満たす「一般統計調査」によって作成される統計である。</p><p>これらに該当しない公的統計は、総務大臣・統計委員会の管理システムの外で作成されることになる。これらが「ヤミ統計」と呼ばれるものであり、つぎのように大別できる。</p> <ul> <li>A: 既存の統計を加工して作る2次的統計 (加工統計)</li> <li>B: 自組織内部の調査だけで作成する統計</li> <li>C: 統計法以外の法的根拠に基づく調査による統計</li> <li>D: 事実の調査を主目的としない、意識調査・世論調査等による統計</li> <li>E: 他の組織に委託した研究活動の結果として作成される統計</li> </ul><p>たとえば、国立社会保障・人口問題研究所が毎年公表する出生・死亡に関する諸指標は A に、新型コロナウイルス感染症の感染者数等の統計 (感染症法に基づく) は C に、内閣府が男女共同参画に関しておこなう意識調査は D に、独立行政法人の研究機関が省庁からの委託でおこなった研究報告書に記載される調査結果は E に該当する。</p><p>「ヤミ統計」が言及される場合、その呼称から示唆されるように、事前のチェックを受けないことによる統計の質の低さや、各省庁がこれらの統計を政策立案にあたって恣意的に使用してきたこと、大量の調査が安易におこなわれることによる調査対象者の負担の増大といったマイナス面が強調されることが多い (経済団体連合会「わが国官庁統計の課題と今後の進むべき方向」1999年3月16日; 松本健太郎『データから真実を読み解くスキル』日経BP、2021)。しかし、ヤミ統計には、統計法の厳格な手続きを免れていることによる機動性の高さや、学術研究に流用しやすいことからくる事後的検証の容易さなどのプラス面も想定することができる。このように功罪両面からとらえることのできるヤミ統計であるが、包括的な研究はおこなわれておらず、どのような統計がどれくらいあり、日本政府の政策等にどの程度どのように影響しているかといった点は明らかでない。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="2-学術的独自性と創造性">(2) 学術的独自性と創造性</h5> <p>統計の質を評価するのに従来重視されてきたのは、「真実性」と「重複除去」という基準である。1947年の統計法は、「統計の真実性を確保」し「統計調査の重複を除」くことを目的とした (第1条)。この目的を達成するため、統計調査への回答義務や虚偽回答への罰則が規定され、また収集した情報の目的外使用の禁止や秘密の保護などの規定が設けられた。これらは統計委員会が特に重要な統計として指定した「指定統計」(現在の基幹統計に相当する) に適用される。指定統計以外の統計調査についても、1952年に成立した統計報告調整法によって「承認統計」の制度がはじまり、政府機関がおこなうほとんどすべての統計調査について、計画を事前に提出して、既存の統計との大きな重複がないか、統計理論的に不合理でないかのチェックを受ける仕組みになった。現在の制度でも、用語法や適用範囲が違うものの、基本的におなじ制度が存続している。</p><p>公的統計制度において「真実性」の確保が重視されてきたのは、統計の公表数値がそのまま種々の政策の基礎数値となることに関連する。たとえば選挙の区割りや市制施行の際の基準として使われる「法定人口」は国勢調査に基づいて定められるものであり、調査結果が公表された段階で、人口に関する公的な「事実」としてあつかわれる。このような性格の数字である以上、それを真実の人口とみなして問題ないことの保証が必要であり、そのために統計作成計画を提出して事前に審査を受けることになっている。</p><p>もう一方の、重複を除去するという観点は、調査対象の負担を軽減することと、その結果として正確な回答をしてもらえる可能性を高める効果を見込んだものであった。</p><p>これらに対し、調査実施過程や集計方法などの詳細を公表して批判を受けることは、公的統計においては必ずしも重視されてこなかった。特に基幹統計以外の統計については、作成過程の情報が詳しく公表されないことが多く、事後的にその内容が批判されるようなことはほとんどない。</p><p>このような体制は、20世紀半ばの状況では合理性を備えていたのかもしれない。しかし、今日の状況は大きく変わっている。特に重要なのは、統計に対するニーズが変化し、意思決定を支援するための科学的なエビデンスの源泉 (evidence resource) としての役割を果たすことが求められるようになってきたという点である。この場合、エビデンスとなるのは、統計の公表数値そのものではない。答えを出すべき問いを絞り込んだうえで、統計データを分析した結果に基づいて答えを出し、それを批判的に吟味することによってはじめて意思決定のためのエビデンスがえられる。このような発想はしばしば evidence-based と形容される (D. L. Sackett ほか『根拠に基づく医療』オーシーシー・ジャパン、1999)。そこでは、統計分析から導かれる結果は、直ちに「真実」とみなせるようなものではない。結果が公表されたあとで批判的吟味がおこなわれることが重要であり、その結果次第で評価は変わる。また異なる立場の研究機関や研究者が同様の手続きによっておこなった同様の結果が多数重なることによって、よりよいエビデンスがえられると考える。このような観点が、「真実性」「重複除去」を重視する公的統計制度と矛盾するのは明らかであろう。</p><p>Evidence-based の発想に対応するには、科学的研究のデータ収集・公開手続きに近づける必要があり、そのためには統計法が適用されないヤミ統計のほうが有利になる可能性がある。一方で、従来考えられてきたのは、事前の審査を受けるための手間や時間を節約したいとか、自組織に都合のよい結果を出すために統計を操作したいとかいう理由でヤミ統計が作られるケースである。このように、ヤミ統計の中にもさまざまな性格のものがあるということが予測される。まずは実証的な研究によって実態をつかみ、そのうえで類別して検討をおこなっていくべき状況である。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="3-着想に至った経緯国内外の研究動向と本研究の位置づけ">(3) 着想に至った経緯、国内外の研究動向と本研究の位置づけ</h5> <p>この数年の間に公的統計に関する不祥事が相次いで起こった (労働時間等総合実態調査、毎月勤労統計調査、賃金構造基本統計調査など) が、それらの顛末は、科学的な研究と公的統計制度との間に、基本的な発想に関して大きな乖離があることを示唆するものであった。これらの不祥事では、調査報告書に事実と異なる記載がなされていても、大きな問題とはみなされず、厳しい処分はおこなわれなかったのである。科学者の研究報告であれば、データ取得プロセスについて虚偽を記載するのは特定不正行為 (捏造あるいは改竄) にあたり、所属組織において厳しい処分が下されることを覚悟しなければならない (文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」2014年8月26日)。しかし、政府が統計を作成する際のルールは、そのようにはなっていない。統計法第60条には統計の真実性の侵害に対する罰則が規定されているものの、この規定は、調査のプロセスについての虚偽記載には適用されないのである (毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」2019年1月22日)。</p><p>一方で、ヤミ統計のなかには、中央統計機構によるチェック以外の方法で信頼性を高める工夫がなされているものもある。たとえば国立社会保障・人口問題研究所が出生・死亡に関連する加工統計指標を毎年公表しているが、これは研究員個人の名前で、同研究所が発行する『人口問題研究』に掲載される。このような出版物は学術論文と同等のものと考えられるから、もし捏造や改竄が認められたときは、特定不正行為として扱われるであろう。このようなケースでは、学術倫理の基準を流用することにより、統計への信頼性を確保しているものと考えることができる。また、東京大学社会科学研究所が整備する社会調査のデータアーカイブSSJDA (<a href="https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp">https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp</a>) には、内閣府・経済産業省・農林水産省等がミクロデータを寄託している。SSJDAの登録データは、統計法に基づくミクロデータ使用 (第33-36条) にくらべて簡便な手続きで研究者が利用できるので、データの不審な点や調査方法の問題などが事後的に洗い出される確率の高まることが期待できる。</p><p>このようなデータ公表方法は、通常の科学的な研究手続きに近いかたちで公的統計をあつかうものであり、evidence-based の考えかたに適合的なものといえる。その一方で、上記の労働時間等総合実態調査のように、そもそも調査に関する情報がほとんど公開されず (田中重人「厚生労働省「労働時間等総合実態調査」に関する文献調査」『東北大学文学研究科研究年報』68: 68-30、2019)、事後的な検証がむずかしかったヤミ統計も存在する。いずれの場合も、公的統計のあつかいとしては非主流的なものであるため、これまで研究の対象になってこなかった。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="4-本研究で何をどのようにどこまで明らかにしようとするのか">(4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか</h5> <p>基幹統計と一般統計調査 (2007年以前は指定統計と承認統計) は簡単に情報を収集できるが、ヤミ統計のリストは存在しないので、各省庁の発行する白書、関連団体の報告書、委員会・審議会等の資料、国会の会議録などから統計が使用されている例を抽出する必要がある。戦後の全期間にわたってこの作業を遂行するのは本研究の規模では不可能であるため、特定の年次をサンプリングしてその年次の事例を収集する。</p><p>収集したヤミ統計の事例について、それがどういう性質のものか、また政府の政策にどのような影響をあたえたかを記述したデータベースを作成する。その上で、これらのヤミ統計がどのようなプラス面とマイナス面を持つかを分析し、評価のための基準を考案するとともに、現代的な環境に適合した公的統計システムについての提言をおこなう。</p> </div> <div class="section"> <h5 id="5-準備状況">(5) 準備状況</h5> <p>次項で述べるように、2018年に問題が発覚した厚生労働省「労働時間等総合実態調査」(ヤミ統計) 「毎月勤労統計調査」(基幹統計) についての資料収集と分析をすでにおこなってきており、またそれに関連して、日本の公的統計制度の歴史や、近年の「根拠に基づく政策立案」(evidence-based policy making) の潮流についても文献を収集している。本研究課題が採択されれば直ちに本格的な資料収集を開始できる状態にある。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="history">2. 応募者の研究遂行能力及び研究環境</h3> <div class="section"> <h4 id="1-これまでの研究活動">(1) これまでの研究活動</h4> <p>申請者は、現代日本における女性の労働や家族形成、それにともなう経済的な男女格差の実態について、社会調査とその統計的分析による研究をおこなってきた。有志の社会学者による「社会階層と社会移動」(SSM) 全国調査プロジェクト (1995年、2005年) および日本家族社会学会による「全国家族調査」(NFRJ) プロジェクト (1999, 2004, 2009-2013, 2019) に参加し、全国規模での社会調査 (層化2段無作為抽出標本に対する訪問/留置調査) をおこなってきた。SSMプロジェクトにおいては調査対象者自宅を訪問しての面接を、NFRJプロジェクトにおいてはサンプリングおよび調査実施をおこなった。それらの経験を通じて、日本社会における社会調査の実施上の注意事項を熟知している。</p><p>NFRJプロジェクトでの活動については以下の文献を参照:</p> <ul> <li>田中重人 (2004)「無効回答の発生」渡辺秀樹・稲葉昭英・嶋崎尚子 (編)『現代家族の構造と変容』東京大学出版会 (pp. 25-37). <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4130560581/hatena-22/">ISBN:4130560581</a></li> <li>田中重人 (2009)「NFRJ08 標本抽出と調査実施」『家族社会学研究』21: 208-213. <a href="http://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.21.208">http://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.21.208</a></li> <li>田中重人 (2014)「NFRJ-08Panel 第1波~第5波回収の状況 」『家族社会学研究』26: 165-168. <a href="http://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.26.165">http://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.26.165</a></li> </ul><p>また、日本社会学会データベース委員会委員を2001-2012年につとめた経験などから、文献資料とそのメタデータの編集や検索の方法についてくわしい。</p><p>2018年から2019年に厚生労働省「労働時間等総合実態調査」(ヤミ統計) や「毎月勤労統計調査」(基幹統計) における問題が国会でとりあげられた際にも、これらの調査の過去の資料を渉猟し、それまで明らかになっていなかった過去の調査の問題点・疑問点をまとめた論文を出版した。</p> <ul> <li>田中重人 (2019)「厚生労働省「労働時間等総合実態調査」に関する文献調査: 「前例」はいつ始まったのか」『東北大学文学研究科研究年報』68: 68-30. <a href="http://hdl.handle.net/10097/00125161">http://hdl.handle.net/10097/00125161</a></li> <li>Tanaka S. (2019) Monthly Labour Survey misconduct since at least the 1990s: falsified statistics in Japan. SocArXiv (preprint). <a href="http://doi.org/10.31235/osf.io/2bf3z">http://doi.org/10.31235/osf.io/2bf3z</a></li> <li>田中重人 (2020)「毎月勤労統計調査の諸問題」『東北大学文学研究科研究年報』69: 210-168. <a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a></li> <li>田中重人 (2022)「毎月勤労統計調査問題における政府と専門家:データに基づく批判の不在」社会政策学会第144回大会 <a href="http://hdl.handle.net/10097/00135038">http://hdl.handle.net/10097/00135038</a></li> </ul><p>2020年以降の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の流行にあたっては、感染症法に基づいて感染者やその接触者の調査がおこなわれ、その結果として感染者数や「クラスター」に関する数値が公表された。これもヤミ統計の一種といえるが、これらの数値についても、申請者は批判的な観点から検討をおこなっている。</p> <ul> <li>Tanaka S. (2023) "Was Japan's cluster-based approach toward coronavirus disease (COVID-19) a fantasy?: Re-examining the clusters' data of January-March 2020". Research Square (preprint). <a href="http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1">http://doi.org/10.21203/rs.3.rs-2647575/v1</a></li> <li>田中重人 (2023)「日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法 : 2020年の記録」『文化』86(3/4): 239-219. <a href="http://tsigeto.info/23a">http://tsigeto.info/23a</a></li> </ul><p>このように、申請者はこれまでの研究経験によって、統計調査に関する資料を網羅的に収集し、その内容を照合しながら問題点を検討する訓練を積んできており、本研究課題を遂行する上でじゅうぶんな能力がある。</p> </div> <div class="section"> <h4 id="2-研究環境">(2) 研究環境</h4> <p>申請者の所属する大学では、本研究課題を遂行する上で必要となる資料の多くを図書館に所蔵しており、その利点を活かして研究を進めることができる。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="ethics">3. 人権の保護及び法令等の遵守への対応</h3> <p>本研究で収集する資料はすべて公刊された文書または電子データであり、個人情報や生命倫理、安全に関する問題は生じない。</p><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2023-09-05</dt> <dd> 記事公開。</dd> <dt>2024-03-09</dt> <dd> 採択されたのでその旨追記。</dd> </dl> </div> remcat 人口動態統計における出生率等の計算式の1967年変更 hatenablog://entry/820878482947312933 2023-07-05T12:08:26+09:00 2023-07-05T18:52:04+09:00 前回記事「合計特殊出生率の計算式の1971年変更について」で書いたつぎの問題について、図書館で人口動態統計関連資料を確認してきた。 私は『人口問題研究』の記事しかみていないので、「厚生省統計調査部においては,昭和42年以降,人口動態統計に関する諸率の算出に当たり,分母人口を,従来用いてきた外国人を含む総人口から日本人人口に置き換えて算出するようになった」という 116号記事 の記述が正しいのか判断できないからである。人口問題研究所が何かまちがった情報をつかまされただけで、厚生省は以前から日本人人口を分母とした率しか計算していなかったのかもしれない。 ――――― 田中重人 (2023-07-02… <p>前回記事「<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef">&#x5408;&#x8A08;&#x7279;&#x6B8A;&#x51FA;&#x751F;&#x7387;&#x306E;&#x8A08;&#x7B97;&#x5F0F;&#x306E;1971&#x5E74;&#x5909;&#x66F4;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a>」で書いたつぎの問題について、図書館で人口動態統計関連資料を確認してきた。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef"> <p>私は『人口問題研究』の記事しかみていないので、「厚生省統計調査部においては,昭和42年以降,人口動態統計に関する諸率の算出に当たり,分母人口を,従来用いてきた外国人を含む総人口から日本人人口に置き換えて算出するようになった」という <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212206.pdf">116&#x53F7;&#x8A18;&#x4E8B;</a> の記述が正しいのか判断できないからである。人口問題研究所が何かまちがった情報をつかまされただけで、厚生省は以前から日本人人口を分母とした率しか計算していなかったのかもしれない。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2023-07-02)「合計特殊出生率の計算式の1971年変更について」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef</a></cite> </blockquote> <p>結論からいうと、人口問題研究所がガセネタをつかまされていたとかいうことはなかった。厚生省 (当時) の『人口動態統計』報告書をみるかぎり、「分母人口を,従来用いてきた外国人を含む総人口から日本人人口に置き換えて算出するように」する変更が、1966年 (昭和41年) 分と1967年 (昭和42年分) との間で起きている。</p> <div class="section"> <h3 id="report1966">1966年報告書</h3> <p>まず1966年 (昭和41年) 分に関する報告書をみよう。ここで「1966年」というのは、1966年に起きた出生や死亡などがこの報告書であつかわれるという意味である。実際に計算がおこなわれるのは1967年以降のことであり、報告書の刊行日付は、2年以上たった1969年2月28日となっている。なお、以下の引用は東北大学附属図書館所蔵の冊子体によるが、読者の便宜のため、国立国会図書館デジタルコレクションへのリンクを示す。</p><p>まず、各種比率の計算式を書いた部分。</p> <blockquote cite="https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230705103740" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230705/20230705103740.png" width="655" height="611" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生省 (1969-02-28) 『昭和41年人口動態統計 (上下2冊) 上巻』厚生統計協会。<br /> 44頁。〔赤線は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25">https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25</a></cite> </blockquote> <p>もうこれを見た時点で、ダメな感じである。これらの式を見る限り、「年央人口」(7月1日の人口) で割っているようにしか読めない。しかし実際には、人口動態統計で使っているのは10月1日の人口である。そういう事情を知らない人が読んだら誤解する書きかたになっているのだ。<strong>利用者に情報を正確に伝えようという意思のないことが感じられる。</strong></p><p>が、7月1日か10月1日かということは別として、ここで使われているのが単なる「人口」であり、国籍等の限定がついていないことはわかる。</p><p>つぎのページには、ほかの指標についての式も載っている。</p> <blockquote cite="https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230705103729" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230705/20230705103729.png" width="539" height="216" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生省 (1969-02-28) 『昭和41年人口動態統計 (上下2冊) 上巻』厚生統計協会。<br /> 45頁。〔赤線は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25">https://dl.ndl.go.jp/pid/3048831/1/25</a></cite> </blockquote> <p>合計特殊出生率の算出に必要になる、母親の年齢別出生率は、ここで定義されている。性別の限定 (「女子」) はついているものの、国籍は限定されていないことがわかる。なお、注で「総数」とか「45才以上」といっているのは、報告書の掲載表のなかにそういう行があり、ちょっとイレギュラーな処理をしているので、それらが何を意味するかについての注釈。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="report1967">1967年報告書</h3> <p>つぎの年 (1967=昭和42年) 分の報告書で、定義が変わる。この報告書の刊行日付は、1970年3月30日。</p> <blockquote cite="https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230705103733" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230705/20230705103733.png" width="630" height="539" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生省 (1970-03-30) 『昭和42年人口動態統計 (上下2冊) 上巻』厚生統計協会。<br /> 40頁。〔赤線は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287">https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20230705103737" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20230705/20230705103737.png" width="640" height="105" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生省 (1970-03-30) 『昭和42年人口動態統計 (上下2冊) 上巻』厚生統計協会。<br /> 40頁。〔赤線は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287">https://dl.ndl.go.jp/pid/9528287</a></cite> </blockquote> <p>「10月1日現在」と書くようになって、そこは改善されている。</p><p>そして、「人口」ではなく「日本人人口」となっているので、国籍による限定が加わったことがわかる。しかし、変更したということについての断り書きは特にないので、前年の報告書と照合してよく見ないと、変更があったということ自体がわからない。<a href="#f-834708f6" name="fn-834708f6" title=" 過去の値を掲載した時系列表のほとんどは、1967年だけが日本人人口による率で、それ以外は総人口によっている。つまりそのまま数値を比較してはいけないのだが、しかし各表にはそのような注釈はなく、基礎人口に関する表2「年次・性別人口」(231頁) の備考欄をみなければそのことはわからない。ただし、そのあとの表3 (232-233頁) に、いくつかの年次について「換算係数」が示されているので、それをかけることで比較可能な数値に換算することはできる。【この注、本記事公開後に追加:2023-07-05 18:50】">*1</a> また、旧来の方法で計算した参考値を示すとか、過去の値についてさかのぼって再計算するとかいうこともされていない。<a href="#f-4f0e8aa4" name="fn-4f0e8aa4" title=" 例外は母の年齢別出生率で、5歳刻みの年齢層について日本人人口のみで求めた数値が表4.10 (61頁) に示されている。ただし全部の年次ではなく、一部のみである。また、1966年の報告書に載っていた1歳刻みの年齢別出生率は、この1967年報告書には載っていない。【この注、本記事公開後に追加:2023-07-05 18:50】">*2</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="why">なぜ変更したのか</h3> <p>さて、1967年分から人口動態統計の計算式が変わっていたことは確認できた。つぎの疑問は、なぜこの年に変えたのか? である。上記のように、報告書には何も説明はないのだが、推測できる要因はある。それは、総理府統計局への最新技術導入による国勢調査の集計迅速化である。</p> <blockquote> <p>統計局に大型計算機が初めて導入されたのは一九六一年のことであり、これは中央政府機関としては気象庁に続いて二番目であった。ついで一九六四年には光学読み取り装置 (OCR) が導入され、一九六五年〔国勢〕調査からは、従来のパンチカード方式に代わって、光学読み取り方式による集計方法が採用された。<br /> ―――――<br /> 佐藤正広 (2015)『国勢調査 日本社会の百年』岩波書店 <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000291610/hatena-22/">ISBN:9784000291613</a><br /> 137頁。〔 〕は引用時に補ったもの。</p> </blockquote> <p>国勢調査は日本居住者全員について調べる全数調査であり、5年に一度おこなわれる。この調査が日本の人口の正式な公表値になるのだが、なにしろ対象者数が多いので、集計には大変な手間がかかる。1960年の国勢調査の場合、年齢別・国籍別の人口を掲載した報告書 (第3巻全国編その1) が出たのは1964年2月25日のことであった。それが、コンピュータ技術の導入により、つぎの1965年国勢調査では、同様の数値 (第3巻全国編その1) が1967年5月5日に刊行されている。</p><p>1960年国勢調査までは、調査が完了してから、日本人のみの人口がわかるデータが出るまでに3年以上かかっていたわけである。これを待っていたのでは、人口動態統計の公表期日に間に合わない。国籍を区別しない総人口の数値はもっと早く入手できるので、そちらを使わざるをえなかったのだろう。</p><p>技術革新によって国勢調査の集計作業がスピードアップし、1965年調査では、日本人に限定した年齢別人口が1967年前半にはわかるようになった。厚生省は、この状況を見て、日本人に限定した人口データが手に入るまで待っても公表期日にじゅうぶん間に合うと判断したのではないか。それで、1967年分の人口動態統計の計算 (実際に作業をおこなうのは1968年以降) から、国籍の限定がつくことになる。実際に使用したのは、おそらく、この1965年の人口にその後2年間の変動分を加減した1967年10月1日現在推計人口である。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">議論</h3> <p>以上のように、人口動態統計における出生率などの数値は、1967年分から、日本人人口を分母に使う計算式に変更されていた。したがって、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で引用した <a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366">&#x6771;&#x4EAC;&#x65B0;&#x805E;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> に載っている厚生労働省担当者のコメント「計算式は一度も変わっておらず」は、事実に反する。また、「途中で変えれば比較できなくなる」は命題としては正しいが、実際に <strong>途中で計算式を変えて比較できなくしたのは厚生労働省の前身組織であった厚生省自身</strong> なのだから、どの口がそれをいうのか、という話である。厚生労働省のいうことは信用してはならないという前例が、またひとつ積みあがったことになる。</p><p>もっとも、この担当者は、意図的に嘘をついたわけではないのかもしれない。上記のように、過去の報告書においても、計算式を変更したということ自体は説明されておらず、当時の報告書を引っ張り出してきて前年度報告書といちいち数式を突き合わせて変更点を確認しないと、いつどのような変更がなされたかを追跡できない状態である。たぶん当時においても、計算式を変更したという事実は周知されず、変更したことによる統計への影響の検討などもおこなわれなかったのだろう。上述のように、この変更は総務省統計局がコンピュータ等を導入して国勢調査の集計スピードが上がったからだろうと私は思っているのだが、実際の変更のいきさつや理由がどうだったかについての記録は、どこにも残っていない可能性がある。件の担当者は、過去に計算式を変更したという事実を本当に知らなかったのではないか。</p><p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230702/tfrdef">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で検討した人口問題研究所の対応は、これにくらべるとずいぶんましではある。研究所が発行する雑誌に毎年載せる定例の記事において、変更の3年前から予告をおこない、変更した当年については過去との比較のために従来の方法で計算した参考値を掲げ、さらに翌年には過去にさかのぼって新計算式を適用した値を公表している。現在の人口統計資料集などで私たちが見る「合計特殊出生率」の値はこうして改算した値であり、過去からの連続性は確保されているはずである (日本人人口の信頼できる値が入手できる1940年代以降に限る)。さらに、それらの雑誌記事は電子化バージョンが公開されているので、バックナンバーをたどっての検証が簡単にできる。もしこのような記録を人口問題研究所がきちんと残して公開してくれていなかったら、私もこの事実にたどり着けなかっただろう。</p><p>とはいえ、人口問題研究所 (現国立社会保障・人口問題研究所) においても、この計算式変更という歴史的事実は忘れられている。<a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366">&#x6771;&#x4EAC;&#x65B0;&#x805E;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> でコメントしている別府志海第2室長は、2011年分以降現在までの「全国人口の再生産に関する主要指標」をずっと担当してきている人である。この「全国人口の再生産に関する主要指標」では、過去にさかのぼっての長期的な趨勢に必ず触れる。10年以上やってきて、自分があつかっている過去の統計について、当時の状況を一度も調べなかったのだろうか?</p><p>このように、過去の歴史を軽視する、あるいは未来に向けて記録を残すことを軽視するのは、厚生労働省の統計業務では日常茶飯的にみられる。今回のようにたまたま報道された場合には、多くの人の目に触れて問題になる。その極端な事例が2019年に問題化した毎月勤労統計調査の一連の不正だったのだけれども、それで担当者たちが反省しておこないをあらためるようなことにはならなかった。毎月勤労統計調査では、不正が問題化した後の2019年以降にも、推計方法を説明なく変更していたことが、報告書を突き合わせるとわかる (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus</a> 参照)。おそらく、勝手に集計方法を変更してそのことを説明せずに済ませる事例は、毎年のように、いろいろな統計で起きているのだろう。</p><p>2007年に改正された統計法では、公的統計は「国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤」だということになっている。その前提の上に立って、同法は「公的統計の体系的かつ効率的な整備」を進めるとしている。実際、<a href="https://www.e-stat.go.jp">&#x300C;&#x653F;&#x5E9C;&#x7D71;&#x8A08;&#x306E;&#x7DCF;&#x5408;&#x7A93;&#x53E3;&#x300D;(e-Stat)</a> での集計表の公開や <a href="https://www.e-stat.go.jp/microdata/">&#x30DF;&#x30AF;&#x30ED;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;&#x306E;&#x5229;&#x7528;</a> などについては、近年大きく前進してきたといっていいだろう。</p><p>しかしそれで公開が進んだのは、出来上がった数値の羅列としてのデータだけである。そのデータがどのようにしてつくられたのかという最も大事な情報は、あいかわらずほとんど公開されていないか、公開されてもアクセスしにくいところに置かれている。実際にアクセスできたとしても、眼を皿のようにして文章や数式の変化を追わないと、いつどこでどういう変更がおこなわれたかということ自体を知ることができない。そして、担当者は事実を調べもせずに (あるいは事実は承知した上で) 事実とちがう説明を平然とおこなうのである。<hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-834708f6" name="f-834708f6" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 過去の値を掲載した時系列表のほとんどは、1967年だけが日本人人口による率で、それ以外は総人口によっている。つまりそのまま数値を比較してはいけないのだが、しかし各表にはそのような注釈はなく、基礎人口に関する表2「年次・性別人口」(231頁) の備考欄をみなければそのことはわからない。ただし、そのあとの表3 (232-233頁) に、いくつかの年次について「換算係数」が示されているので、それをかけることで比較可能な数値に換算することはできる。【この注、本記事公開後に追加:2023-07-05 18:50】</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-4f0e8aa4" name="f-4f0e8aa4" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 例外は母の年齢別出生率で、5歳刻みの年齢層について日本人人口のみで求めた数値が表4.10 (61頁) に示されている。ただし全部の年次ではなく、一部のみである。また、1966年の報告書に載っていた1歳刻みの年齢別出生率は、この1967年報告書には載っていない。【この注、本記事公開後に追加:2023-07-05 18:50】</span></p> </div> remcat 合計特殊出生率の計算式の1971年変更について hatenablog://entry/820878482946648569 2023-07-02T22:44:42+09:00 2023-07-05T18:59:21+09:00 今日の東京新聞ウェブサイト (TOKYO Web) にこんな記事が載っていた: 少子化対策の重要な指標の一つ「合計特殊出生率」の公表値が、実態より過大であることが分かった。基となる厚生労働省の統計の対象が「日本における日本人」で、外国人の女性は計算に入らないのに、国際結婚で生まれた日本人の子は入っているためだ。 ――――― 東京新聞「合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは」(TOKYO Web 2023年7月2日 06時00分) https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366 うん。まあそれは専門家なら誰でも知っ… <p>今日の東京新聞ウェブサイト (TOKYO Web) にこんな記事が載っていた:</p> <blockquote cite="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366"> <p>少子化対策の重要な指標の一つ「合計特殊出生率」の公表値が、実態より過大であることが分かった。基となる厚生労働省の統計の対象が「日本における日本人」で、外国人の女性は計算に入らないのに、国際結婚で生まれた日本人の子は入っているためだ。<br /> ―――――<br /> 東京新聞「合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは」(TOKYO Web 2023年7月2日 06時00分)</p> <cite><a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366">https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366</a></cite> </blockquote> <p>うん。まあそれは専門家なら誰でも知ってる話である。そういう計算式であることは以前から公表されていて、この50年間一貫してるのだから、それで計算した結果が何を意味してるかについてちゃんと議論すればよかろう。</p><p>これ自体はそういうことなのだが、その後に掲載されている厚生労働省と国立社会保障・人口問題研究所の専門家のコメントが大嘘であった。</p> <blockquote cite="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366"> <p> 厚労省の担当者は「人口動態統計は、出生率に限らず婚姻や死亡など全ての事象で日本における日本人を対象にしている。計算式は一度も変わっておらず、途中で変えれば比較できなくなる」と説明する。</p><p> 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)情報調査分析部の別府志海第2室長は「おそらく統計が始まった明治期に、根拠となる戸籍法の対象が日本人だったため日本人に限定した集計にしたのだろう」と推察する。</p><p> 合計特殊出生率については「計算方法が考えられた戦後期は外国人の割合がわずかだったが、時代が変わって無視できる範囲を逸脱してきた」と指摘。「外国の統計で一部の人口に限定したものしかないというのは見かけない。外国人を含む総人口で出すのが望ましいと思う」と話した。<br /> ―――――<br /> 東京新聞「合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは」(TOKYO Web 2023年7月2日 06時00分)</p> <cite><a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366">https://www.tokyo-np.co.jp/article/260366</a></cite> </blockquote> <p>この件は、2015年のはじめごろに『人口問題研究』バックナンバーをひっくり返して確認したので、よく覚えている。合計特殊出生率 (TFR: total fertility rate) ――当時は「粗再生産率」と呼ばれていた―― の計算式は、<strong>1971年分から変更されている</strong> のである。</p> <div class="section"> <h3 id="art">『人口問題研究』の人口再生産指標記事</h3> <p>『人口問題研究』は、1939年に設立された国立の研究所「厚生省人口問題研究所」が1940年に創刊した雑誌である。層が決して厚いとはいえない日本の人口学研究の成果をまとめて読める雑誌として知られている。同研究所が社会保障研究所と合併して「国立社会保障・人口問題研究所」となった後も、現在まで継続して出版されている。非常に感心なことに、この雑誌は、早い時期 (たぶん2003年?) に創刊号以来のすべての号を電子化しており、研究所サイトで無料で読める (ときどき欠けている論文はある)。</p> <ul> <li>『人口問題研究』創刊以来のバックナンバー: <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/jsakuin1.htm">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/jsakuin1.htm</a></li> </ul><p>この雑誌には、研究論文以外にいろんな人口学/人口統計関係の情報が載る。そのなかで、出生に関する人口指標が1年に1度掲載されるのが「全国人口の再生産に関する主要指標」(ちょっとちがうタイトルになっていることもある) という記事であり、<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/104.htm">1967&#x5E74;&#x306E;104&#x53F7;</a> (1965年分データ) 以降毎年つづいている。それ以前も、すこしちがうかたちで人口再生産指標の記事がときどき載っていた。古いものとしては、<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/064.htm">64&#x53F7; (1956&#x5E74;)</a> 75-97頁に「統計」という記事があり、その85頁の表「女子の年齢別特殊出生率」で、大正14年 (1925年) から昭和29年 (1954年) までの合計特殊出生率 (Σ の行) がわかる。<br /> <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14207005.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14207005.pdf</a></p><p>それ以降、2014年分までの当該記事へのリンクは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20150207/fertility">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20150207/fertility</a> にまとめてある (英語である)。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="change1971">1971年分からの計算式変更</h3> <p>この一連の記事のうち、1968年分データについての計算結果が載った1970年の記事 (116号60-66頁) に、つぎの注釈がある。</p> <blockquote cite="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212206.pdf"> <p>なお,厚生省統計調査部においては,昭和42年以降,人口動態統計に関する諸率の算出に当たり,分母人口を,従来用いてきた外国人を含む総人口から日本人人口に置き換えて算出するようになった.分子である人口動態数が日本人に関するものなのでその方が適当であるわけで,ここに示す諸指標も近い将来それにあわせる予定である.ちなみに,日本人人口を分母にした場合の率は,総人口を分母にして算出した率よりもわずかずつであるが高く現れる.<br /> ―――――<br /> 山口喜一「全国人口の再生産に関する主要指標: 昭和43年」<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/116.htm">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x7814;&#x7A76;&#x300F;116</a>: 60-66 (1970).<br /> 60頁脚注2。</p> <cite><a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212206.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212206.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この注釈から、つぎのことが読み取れる:</p> <ul> <li>厚生省は、昭和41年 (1966年) までは「外国人を含む総人口」を分母として、「人口動態統計に関する諸率」を計算してきた</li> <li>しかし昭和42年 (1967年) 以降、厚生省は「日本人人口」のみを分母として、「人口動態統計に関する諸率」を計算するようになった</li> <li>人口問題研究所の専門家も、「日本人人口」のみを分母とする後者の方法のほうが「適当である」と判断した</li> <li>この時点では、人口問題研究所が算出する数値は「外国人を含む総人口」を分母としたものである</li> <li>しかし、近い将来、人口問題研究所も、「日本人人口」のみを分母とする方法に変更する予定である</li> <li>その場合、「外国人を含む総人口」を分母として計算した数値よりもわずかに高くなる</li> </ul><p>私は厚生省が発表する数値や文書までは追っていないので、山口の記述が正しいのかどうか、またここでいう「人口動態統計に関する諸率」が合計特殊出生率をふくむのかどうかはわからない。</p><p>つぎの年の記事 (山口喜一「全国人口の再生産に関する主要指標: 昭和44年」<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/119.htm">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x7814;&#x7A76;&#x300F;119</a>: 56-62 (1971)) は1969年分のデータをあつかっているのだが、ここにも同様の記述がある。ただし掲載場所は脚注ではなく本文であり、字句がちょっとちがう。<br /> <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212508.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212508.pdf</a></p><p>1970年分データについての記事は、すこしおくれて1973年の号に載った。この記事 (野原誠「全国人口の再生産に関する主要指標: 昭和45年」<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/126.htm">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x7814;&#x7A76;&#x300F;126</a>: 44-50 (1973)) にも同様の記述がある (担当者が代わっている)。字句がちょっとちがうほか、最後に「現在その算出作業を行いつつある」とあり、脚注で「昭和45年についての日本人人口を分母にした場合の率」をいくつかの指標について挙げている (計算方法を変えると数値が高くなるという記述はなくなっている)。<br /> <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213206.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213206.pdf</a></p><p>そのつぎの年――1971年分――で、予告どおり、計算式が変更される (担当者がまた代わっている)。</p> <blockquote cite="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213407.pdf"> <p>なお,人口問題研究所では昭和45年まで,人口再生産諸率の算出に当たり,分母人口に,外国人を含む総人口を用いてきたが,分子である人口動態数が日本人に関するものなので,分母人口として日本人人口を使用する方が妥当なわけで,今回は分母人口として,日本人人口を使用している.したがって,第1表から第3表までの時系列表は昭和45年までと46年とはつながらないことになる (日本人人口を分母にした場合の率は総人口を分母にして算出した率よりもわずかであるが高く現れる).近い将来,45年以前も日本人人口分母にあわせる予定であるが,今回はとりあえず,昭和45年について,総人口分母と日本人人口分母との両方を掲げてある.<br /> ―――――<br /> 金子武治「全国人口の再生産に関する主要指標: 昭和46年」<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/128.htm">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x7814;&#x7A76;&#x300F;128</a>: 59-65 (1973).<br /> 59頁</p> <cite><a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213407.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213407.pdf</a></cite> </blockquote> <p>同記事60ページ以降の第1表、第2表、第3表には、最下部の「46 1971」の行の直前に「(日本人)」という行が挿入されており、「46 1971」よりも少しずつ低い値になっている。たとえば第2表「粗再生産率」(Toral fertility rate = 合計特殊出生率) の値は、「46 1971」の行では2.16であるが、「(日本人)」の行では2.13である。逆じゃないのか?</p><p>つぎの1972年分になると、過去のデータ (昭和22=1947年以降) も「日本人人口を分母」にして再計算した値に差し替えられている。</p> <blockquote cite="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf"> <p>なお,人口問題研究所では昭和45年まで,人口再生産諸率の算出に当たり,分母人口に,外国人を含む総人口を使用してきたが,分子である人口動態数が日本人に関するものであり,分母人口として日本人人口を使用する方が妥当なわけである.したがって,昭和46年から分母人口として,日本人人口を使用しているが,45年以前についても,戦後,昭和22年より,分母人口を日本人人口に置きかけて算定したので,その結果を掲載してある.<br /> ―――――<br /> 金子武治「全国人口の再生産に関する主要指標: 昭和47年」<a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/jinko/131.htm">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x7814;&#x7A76;&#x300F;131</a>: 47-63 (1974).<br /> 59頁.<br /> 〔「置きかけて」は原文どおり〕</p> <cite><a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この131号記事とその前の128号記事の第2表で、合計特殊出生率 (粗再生産率) の再計算によって生じた差をみると、おおむね0.01程度である。ただし、0.03の差が生じている年が2か所ある。1949年 (4.29→4.32) と1971年 (2.13→2.16) である。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">議論</h3> <p>というわけで、人口問題研究所が計算する数値に関しては、1970年代前半に意図的に計算式を変更したのはあきらかである。戦後から変えていないというのは、事実に反する。</p><p>なお、現在、国立社会保障・人口問題研究所が発行する <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2023RE.asp?chap=4">&#x300E;&#x4EBA;&#x53E3;&#x554F;&#x984C;&#x8CC7;&#x6599;&#x96C6;&#x300F;2023&#x5E74;&#x6539;&#x8A02;&#x7248; IV. &#x51FA;&#x751F;&#x30FB;&#x6B7B;&#x7523;</a> 表4-3に載っている合計特殊出生率の値も、1940年以降に関しては、この <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf">131&#x53F7;&#x8A18;&#x4E8B;</a> の第2表に載っていたものとおなじ数値である。つまり、わざわざ過去にさかのぼって計算しなおした数値に差し替えて、それ以前に発表していた、総人口を分母にした数値はなかったことにしたのである。しかしそれは、歴史上の事実として、日本人人口だけを分母にした計算式をずっと使ってきたということを意味するものではない。</p><p>一方で、厚生労働省の言い分に関しては、ちょっとよくわからない。私は『人口問題研究』の記事しかみていないので、「厚生省統計調査部においては,昭和42年以降,人口動態統計に関する諸率の算出に当たり,分母人口を,従来用いてきた外国人を含む総人口から日本人人口に置き換えて算出するようになった」という <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14212206.pdf">116&#x53F7;&#x8A18;&#x4E8B;</a> の記述が正しいのか判断できないからである。人口問題研究所が何かまちがった情報をつかまされただけで、厚生省は以前から日本人人口を分母とした率しか計算していなかったのかもしれない。また、「人口動態統計に関する諸率」のなかに合計特殊出生率をふくむのかどうかもわからない。</p><p>ともかく、当時の『人口問題研究』の記事 (として研究所がウエブサイトに掲載している電子ファイル) にそう書いてあるのだから、まずそのことを前提にして議論するべきものではある。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="tokyo">東京新聞への意見投稿</h3> <p>以上のようなことを踏まえて、東京新聞に意見を送ってみた:</p> <blockquote> <p>7月2日 06時00分「合計特殊出生率 実態は公表値よりもっと低かった…専門家が「信じられない」統計手法とは」</p><br /> <p>記事中に、厚労省担当者と専門家の説明で「計算式は一度も変わっておらず」「統計が始まった明治期に、根拠となる戸籍法の対象が日本人だったため日本人に限定した」とありますが、それは事実に反します。1970年以前、厚生省人口問題研究所の雑誌『人口問題研究』が毎年掲載していた合計特殊出生率(当時はそう呼んでいませんでしたが)ほかの人口再生産指標は、国籍を問わない日本在住女性人口を使用したものでした。分母を日本人女性に限定するよう計算方法が変更されたのは1971年です。そのあと、1974年に、新定義に合わせて過去データを計算しなおした表が『人口問題研究』131号に載っています:<br /> <a href="http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf">http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213707.pdf</a> <br /> (最初の頁の説明の最後の部分と、第2表「年次別女性の人口再生産率:大正14年~昭和47年」の第1列「粗再生産率」を参照)</p><br /> <p>なお、その前に1970年分のデータの計算結果を出した時の記事 (『人口問題研究』126号(1973年)) に事情説明が書いてあります (最初の頁の説明の最後の部分と脚注2):<br /> <a href="https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213206.pdf">https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/14213206.pdf</a></p><br /> <p>このあたりのことは、8年ほど前に一度調べてまとめています (英語しかありませんが):<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20150207/fertility">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20150207/fertility</a><br /> ―――――<br /> 東京新聞ウエブサイト <a href="https://www.tokyo-np.co.jp/toiawase_f">https://www.tokyo-np.co.jp/toiawase_f</a> の「お問い合せフォーム>Web記事について」から投稿 (2023-07-02 17:40 ごろ)</p> </blockquote> <p>「変更されたのは1971年です」というのはちょっと変で、正しくは「変更されたのは1971年分からです」と書くべきだったと思う (実際にその作業がおこなわれたのは1973年ごろ)。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>人口動態統計における出生率等の計算式の1967年変更<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230705/vital1967">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230705/vital1967</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2023-07-02</dt> <dd>記事公開</dd> <dt>2023-07-05</dt> <dd>「つづき」追加</dd> </dl> </div> remcat 大和総研の研究に基づく12月16日朝日新聞DIGITAL記事に対する質問書 hatenablog://entry/4207112889946050509 2022-12-18T09:46:01+09:00 2022-12-18T09:46:01+09:00 『朝日新聞DIGITAL』サイトに掲載された記事「正社員女性、出産しやすくなった? 20年間を調査、出生率上昇 被扶養者では低下 大和総研」(浜田陽太郎 https://www.asahi.com/articles/DA3S15503331.html 2022年12月16日 5時00分) に、専門用語の誤用および分析上の問題等があったので、下記の質問書を朝日新聞社に送りました。 (https://digital.asahi.com/info/inquiry/asadigi/shimbun.php のフォームから 2022-12-18 08:45 ごろ送信) 大和総研の研究に基づく12月16日記… <p>『朝日新聞DIGITAL』サイトに掲載された記事「正社員女性、出産しやすくなった? 20年間を調査、出生率上昇 被扶養者では低下 大和総研」(浜田陽太郎 <a href="https://www.asahi.com/articles/DA3S15503331.html">https://www.asahi.com/articles/DA3S15503331.html</a> 2022年12月16日 5時00分) に、専門用語の誤用および分析上の問題等があったので、下記の質問書を朝日新聞社に送りました。<br /> (<a href="https://digital.asahi.com/info/inquiry/asadigi/shimbun.php">https://digital.asahi.com/info/inquiry/asadigi/shimbun.php</a> のフォームから 2022-12-18 08:45 ごろ送信)<hr></p> <div class="section"> <h3 id="title">大和総研の研究に基づく12月16日記事について</h3> <p>12月16日『朝日新聞デジタル』記事「正社員女性、出産しやすくなった? 20年間を調査、出生率上昇 被扶養者では低下 大和総研」に問題があります。</p><p>(1) 記事のもととなった研究結果を報告する論文等の情報が記載されていません。</p><p>(2) 出生数の「20~44歳の女性加入者数に対する割合」を「粗出生率」と呼んでいますが、これは人口学用語の誤用です。「粗出生率」(clude birthrate) は「普通出生率」とも訳しますが、人口全体 (全年齢男女) に対する出生数の割合をいいます。この記事で算出しているのはおそらく再生産年齢の女性人口に対する出生数の割合を求める意図のものですが、それは「総出生率」(general fertility rate) と呼びます。</p><p>(3) 総出生率は、再生産年齢集団の内部の年齢分布を標準化していないため、年齢分布の変動に影響されます。現在の日本では30歳前後の女性の出生力が高いので、その年齢層の女性が多ければ総出生率は高く、少なければ低くなります。したがって、総出生率が変化した場合には、実質的な出生行動の変化によるのか、単に年齢分布が変動したことによるのかを識別する必要があります。たとえば、人数の多いいわゆる「団塊ジュニア」世代がその年に何歳であったかとか、時期によって若年層が正規雇用に就く確率が異なるなどの条件によって、「被保険者」「被扶養者」集団内の年齢分布が変化していた可能性があります。しかし、元の論文と思われる <a href="https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20221129_023435.pdf">https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20221129_023435.pdf</a> にはそのような分析がありません。</p><p>(4) そもそも、「被保険者」「被扶養者」間を妊娠や出産によって移動する女性が多いのですから、そのような流動的な集団の人口については、出生行動ではなく、集団間移動の影響をまず考えるべきです。退職する時期が出産前から出産後にかわれば「被保険者」集団での出生は増えるわけですが、それは集団間を移動するタイミングがすこし後ろにずれただけであって、「被保険者」の女性が出産しやすくなったとか、「子育てをしながら、正社員として共働きできるようになった」とかいうことではない可能性があります。もし出産後も長く「被保険者」集団にとどまる女性が増えたなら、分母の人口が増えるのですから、総出生率を引き下げる効果を持つはずです。<hr>(以上)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">追記</h3> <p>記事のもとになった大和総研の研究の報告は、おそらくつぎのもの:</p> <ul> <li>是枝 俊悟 + 佐藤 光 + 和田 恵 (2022-11-29)「希望出生率を実現するために必要な政策: 「夫婦とも正規雇用の共働き」実現による子育て世帯の所得増を目指せ」 <a href="https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20221129_023435.html">https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20221129_023435.html</a></li> </ul><p>著者3人の過去の文章をざっとチェックしたところでは、人口学をあつかったことはない模様です。網羅的にみたわけではありませんが。</p> <ul> <li><a href="https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/koreedas.html#more-open">https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/koreedas.html#more-open</a></li> <li><a href="https://www.businessinsider.jp/author/shungo-koreeda/">https://www.businessinsider.jp/author/shungo-koreeda/</a></li> <li><a href="https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/satoh.html#more-open">https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/satoh.html#more-open</a></li> <li><a href="https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/wadam.html#more-open">https://www.dir.co.jp/professionals/researcher/wadam.html#more-open</a></li> </ul> </div> remcat 厚生労働省からの回答 PART II hatenablog://entry/4207112889932492944 2022-10-31T19:13:52+09:00 2022-10-31T19:15:32+09:00 毎月勤労統計調査に関する質問について10月4日に厚生労働省から受け取った返信 について前回とりあげたが、その際に書いたとおり、折り返し追加の質問を送っていた。 なお、(1) について今後の確認が進んだときには連絡をもらえるか、(2) (3) については統計委員会点検検証委員会の資料・議事録での説明内容が現在の毎月勤労統計調査にも妥当するのか、確認中である。 ――――― 「厚生労働省からの回答」(2022-10-09) https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer これらについて10月26日に回答を受領したので、以下に転載する。前回と同様… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x8CEA;&#x554F;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;10&#x6708;4&#x65E5;&#x306B;&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x304B;&#x3089;&#x53D7;&#x3051;&#x53D6;&#x3063;&#x305F;&#x8FD4;&#x4FE1;</a> について前回とりあげたが、その際に書いたとおり、折り返し追加の質問を送っていた。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer"> <p>なお、(1) について今後の確認が進んだときには連絡をもらえるか、(2) (3) については統計委員会点検検証委員会の資料・議事録での説明内容が現在の毎月勤労統計調査にも妥当するのか、確認中である。<br /> ―――――<br /> 「厚生労働省からの回答」(2022-10-09)</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer</a></cite> </blockquote> <p>これらについて10月26日に回答を受領したので、以下に転載する。前回と同様、質問を書いたあとに回答を書く構成であるが、今回はWord添付ファイルではなく、メール本文に直接書かれている。以下、回答部分を引用の形式にして示す。なお、今回のこちらからの質問には、追加の解説はつけなかったので、下記の質問部分が質問の全部である。</p><p><hr><br /> (1) について、「「集計に用いる層の変更」の変遷については確認中です。」<br /> とのことですが、確認が終わりましたらご連絡くださいますでしょうか。</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> 確認ができましたら改めてご連絡をさせていただきたく存じます。</p> </blockquote> <p><br /> (2) について、「抽出時と調査時で事業所規模が異なっていた場合の取り扱い」<br /> の部分は、統計委員会点検検証部会 (第9回) 資料2P6での説明と同じ方法が<br /> 現在も使われているということでよろしいでしょうか。</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> ご指摘のとおり、現在でも同様の取り扱いとしています。</p> </blockquote> <p><br /> (3) について、統計委員会点検検証部会 (第10回) 資料2-1P2では<br /> 「産業変更があった事業所については、変更後の産業の事業所として取り扱う」<br /> とありますが、この説明は、現在使用されている方法とおなじと考えてよいでしょうか。<br /> また、同日の議事録では<br /> 「産業間の移動でありますとか、……については全て毎月勤労統計調査のデータでやっている」(p. 13)<br /> 「産業変更等については、これは毎月勤労統計調査のデータを使って」(p. 13)<br /> 「産業間でどれだけ人が動いているかというところを加算しています」(p. 23)<br /> との発言がありますが、これらについても、現在もおなじ方法が使用されていると考えてよいでしょうか。</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> ご指摘の点につきましても取り扱いに変更ありませんが、調査対象事業所の<br /> 産業の変更については、統計委員会点検検証部会 (第10回)資料2-1<br /> 別紙2①P6にも記載のとおり、母集団労働者数の補正は行っておりません。</p> </blockquote> <p><hr></p> remcat 厚生労働省からの回答 hatenablog://entry/4207112889925782483 2022-10-09T09:46:13+09:00 2022-10-09T09:47:49+09:00 前回記事 のとおり8月8日に厚生労働省あてに毎月勤労統計調査に関する質問を送ったのだが、その回答が10月4日に届いた。全文を記事末尾に示す。詳細はあらためて記事を書くこととしたいが、簡単に書いておくと、つぎのような感じである。 (1) (「資料2」の集計方法はいつから?) についての回答は、「確認中です」というもの。回答に2か月近くかかって、こんな単純なことがわからんの? と思うが。 (2)(抽出時と調査時で事業所規模が違う場合のあつかい) と (3) (産業間の移動は層間移動なのか) については、回答の文面が微妙であるが、すくなくとも統計委員会点検検証委員会での説明を否定しているわけではない… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220808/mhlwletter">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> のとおり8月8日に厚生労働省あてに毎月勤労統計調査に関する質問を送ったのだが、その回答が10月4日に届いた。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer#answer">&#x5168;&#x6587;&#x3092;&#x8A18;&#x4E8B;&#x672B;&#x5C3E;&#x306B;&#x793A;&#x3059;&#x3002;</a></p><p>詳細はあらためて記事を書くこととしたいが、簡単に書いておくと、つぎのような感じである。</p> <ul> <li>(1) (「資料2」の集計方法はいつから?) についての回答は、「確認中です」というもの。回答に2か月近くかかって、こんな単純なことがわからんの? と思うが。</li> <li>(2)(抽出時と調査時で事業所規模が違う場合のあつかい) と (3) (産業間の移動は層間移動なのか) については、回答の文面が微妙であるが、すくなくとも統計委員会点検検証委員会での説明を否定しているわけではない。</li> <li>(4) (「集計に用いる層」からの移動しかカウントしないのか?) については、明確に「母集団労働者数の補正に計上されるのは、集計に用いる層からの移動に限ります」という回答。「資料2」の説明は書き間違えではなく、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop</a> で示した懸念があたっていたことになる。</li> <li>(5) (「再集計」の集計方法) と (6) (「時系列比較のための推計値」の集計方法) については予想通りであり、2012-2018のデータの再集計と2004-2011の「時系列比較のための推計値」とでウエイトのあたえかたが異なるというもの。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019</a> 参照。</li> <li>(7) (既公開データの母集団労働者数は検証しない?) と (8) (経済センサスの労働者数が誤ってる可能性は検討しない?) については、いずれも検証/検討しないという回答である。これまでの母集団労働者推計の誤りや経済センサスとのずれについては、ワーキンググループの今後の検討を待っていても、有益な情報は出てこない可能性が高い。</li> </ul><p>なお、(1) について今後の確認が進んだときには連絡をもらえるか、(2) (3) については統計委員会点検検証委員会の資料・議事録での説明内容が現在の毎月勤労統計調査にも妥当するのか、確認中である。</p> <div class="section"> <h3 id="answer">回答全文</h3> <p>厚生労働省からの回答 (2022年10月4日、電子メールの添付ファイル (Word形式、全8ページ) による) の全文を以下に示す。原文は、各質問ごとに1ページを使い、質問を書いたあとに回答を書く構成になっている。以下では、回答部分を引用の形式にして示す。</p><p>なお、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220808/mhlwletter">&#x3053;&#x3061;&#x3089;&#x304B;&#x3089;&#x51FA;&#x3057;&#x305F;&#x8CEA;&#x554F;&#x306E;&#x30E1;&#x30FC;&#x30EB;</a> では、後半に、質問の趣旨や根拠資料についての解説をつけていたのだが、それらは下記の回答にはふくまれていない。</p><p><hr><br /> 【御質問】<br /> (1) 「資料2」の説明によると、調査対象事業所の労働者数が増減した場合でも、「集計に用いる層」は原則として変更しないことになっています。この方法は、いつから使われているものでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (1)について、<br /> 「集計に用いる層の変更」の変遷については確認中です。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (2) 2019年7月19日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第9回) では、抽出時と調査時で事業所規模がちがった場合には、調査時の規模区分で集計し、その事業所の労働者数を母集団労働者数に反映させることになっています。この方法は、現在も使われているのでしょうか? また、その際の母集団労働者数の推計の方法は、ワーキンググループ第5回の「資料2」のものとおなじでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (2)について、<br /> 統計委員会点検検証部会 (第9回) 資料2P6は、<br /> 抽出時と調査時で事業所規模が異なっていた場合の取り扱い及び、<br /> 調査途中で事業所規模が変更になった場合の母集団労働者数に反映する旨をお示ししたものです。<br /> 母集団労働者数への反映の詳細はワーキンググループの資料のとおりです。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (3) 2019年8月28日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第10回) では、事業所規模だけでなく、産業の移動についても、その分の労働者の増減を母集団労働者数推計に反映させると説明しています。この推計方法は、現在も使われているのでしょうか? また、その場合、「集計に用いる層」は変更するのでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (3)について、<br /> 統計委員会点検検証部会 (第10回) 資料2-1P2では、産業変更があった事業所については、補正率を算定するための増減被保険者数にはカウントしない としており、雇用保険データによる補正には反映されず、母集団労働者数にも反映されません。<br /> 集計に用いる層の変更については、ワーキンググループの資料のとおりです。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (4) 「資料2」 p. 5 の説明では、「集計に用いる層」から別の層に移動した事業所の労働者数だけがカウントされ、それ以外の移動がカウント対象にならないように見えます。その理解で正しいでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (4)について、<br /> ワーキング資料2P5に記載のとおり、母集団労働者数の補正に計上されるのは、集計に用いる層からの移動に限ります。<br /> 母集団労働者数の推計方法については、事業所規模の変化がどの程度発生しているか等を検証した上で今後の改善の方向性を検討することとしています。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (5) 2019年1月に公表された再集計(現在「本系列」と呼ばれているものの2012年から2018年分)では、母集団労働者数推計についてどのような方法が使われたのでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (5)について、<br /> 2012年から2018年までの「再集計値」の計算においては、東京都の一部抽出調査分を復元するため集計に抽出率逆数が必要となったことと併せ、現在の方法と同様、母集団労働者数の推計においても集計時点に属する層の抽出率逆数を使用しています。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (6) 2004年から2011年までの調査データについての「時系列比較のための推計値」の計算では、母集団労働者数推計についてどのような方法が使われたのでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (6)について、<br /> 2004年から2011年の「時系列比較のための推計値」は、再集計ができなかった期間について、推計の方法を検討して行ったものです。そのため、一部抽出調査分の必要な復元を行う以外は従来の方法を用いており、母集団労働者数の推計においては、抽出時点の抽出率逆数を用いています。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (7) 「資料2」 p. 9 に、今後の検証内容の案が提示されています。この検証は、すでに公開されているデータ (「本系列」「従来の公表値」および「時系列比較のための推計値」) の母集団労働者数にどのような偏りがあるかをあきらかにするものではないと理解しましたが、その理解で正しいでしょうか?<br /> また、その場合、すでに公開されているデータの偏りについて、別途検討する予定はありますでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (7)について、<br /> 今回の検証は、すでに公開されているデータを検証、検討することが目的ではなく、毎月勤労統計調査の今後の改善の方向性を検討するために行うものです。</p> </blockquote> <p><br /> 【御質問】<br /> (8) 経済センサスの労働者数が誤っている可能性については、検証をおこなうのでしょうか? それとも、経済センサスの値は正しいという前提での検証だけをおこなうのでしょうか?</p> <blockquote> <p>【回答】<br /> (8)について、<br /> 今回の検証は、毎月勤労統計調査の今後の改善の方向性を検討するために、全数調査である経済センサスの結果を用いて行うものであり、経済センサスの労働者数について検証するものではありません。</p> </blockquote> <p><hr></p> </div> remcat 厚生労働省への問い合わせ hatenablog://entry/4207112889906879327 2022-08-08T17:35:55+09:00 2022-08-12T17:55:10+09:00 前々回の記事 と 前回の記事 でとりあげたように、7月22日の厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」(第5回) 資料2、内容がよくわからない。ほかの資料とつきあわせて想像できることはいろいろあるのだが、どうも決定打にかけるので、作成組織 (厚生労働省) に直接聞いてみることにした。(本日17:26にメール送信)Subject: 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ (第5回) 資料2についての質問厚生労働省 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、労使関係担当)付 参事官(企画調整担当)付統計企画調整室 統計企画係 御中東北大学の田中重人と申します。 近年の公… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> と <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus">&#x524D;&#x56DE;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> でとりあげたように、7月22日の厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」(第5回) 資料2、内容がよくわからない。ほかの資料とつきあわせて想像できることはいろいろあるのだが、どうも決定打にかけるので、作成組織 (厚生労働省) に直接聞いてみることにした。(本日17:26にメール送信)</p><p><hr>Subject: 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ (第5回) 資料2についての質問</p><p>厚生労働省 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、労使関係担当)付<br /> 参事官(企画調整担当)付統計企画調整室 統計企画係 御中</p><p>東北大学の田中重人と申します。<br /> 近年の公的統計の問題に興味をもって研究しております。<br /> 7月22日に開催されました「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」<br /> の第5回会議につきまして、貴サイトで公開されている資料2<br /> 「母集団労働者数の推計について」を拝読しました。<br /> <a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a><br /> (以下ではこれを「資料2」と略称します)。</p><p>この「資料2」の説明には、いろいろと理解しがたいことがあります。<br /> あきらかに不合理な内容のところや、これまで公開資料でなされてきた説明と<br /> 大きくちがう部分があり、全体としてどのように理解すればよいか悩んでおります。</p><p>私が感じた疑問について、以下に質問を列挙しております。<br /> これらの質問にお答えくださるとありがたいです。<br /> なお、各質問について、詳細な説明をこのメールの末尾につけております。<br /> かなりの長文になっていますが、そちらにもお目通しのうえでご回答いただければと思います。</p><p>――――――――――――――――――――――――――――――――――――――</p><p>【質問】</p><p>(1) 「資料2」の説明によると、調査対象事業所の労働者数が増減した場合でも、<br /> 「集計に用いる層」は原則として変更しないことになっています。<br /> この方法は、いつから使われているものでしょうか?</p><p>(2) 2019年7月19日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第9回) では、<br /> 抽出時と調査時で事業所規模がちがった場合には、調査時の規模区分で集計し、<br /> その事業所の労働者数を母集団労働者数に反映させることになっています。<br /> この方法は、現在も使われているのでしょうか? また、その際の母集団労働者数の<br /> 推計の方法は、ワーキンググループ第5回の「資料2」のものとおなじでしょうか?</p><p>(3) 2019年8月28日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第10回) では、<br /> 事業所規模だけでなく、産業の移動についても、その分の労働者の増減を母集団労<br /> 働者数推計に反映させると説明しています。この推計方法は、現在も使われている<br /> のでしょうか? また、その場合、「集計に用いる層」は変更するのでしょうか?</p><p>(4) 「資料2」 p. 5 の説明では、「集計に用いる層」から別の層に移動した<br /> 事業所の労働者数だけがカウントされ、それ以外の移動がカウント対象にならない<br /> ように見えます。その理解で正しいでしょうか?</p><p>(5) 2019年1月に公表された再集計(現在「本系列」と呼ばれているものの<br /> 2012年から2018年分)では、母集団労働者数推計についてどのような方法が<br /> 使われたのでしょうか?</p><p>(6) 2004年から2011年までの調査データについての「時系列比較のための推計値」<br /> の計算では、母集団労働者数推計についてどのような方法が使われたのでしょうか?</p><p>(7) 「資料2」 p. 9 に、今後の検証内容の案が提示されています。この検証は、<br /> すでに公開されているデータ (「本系列」「従来の公表値」および<br /> 「時系列比較のための推計値」) の母集団労働者数にどのような偏りがあるかを<br /> あきらかにするものではないと理解しましたが、その理解で正しいでしょうか?<br /> また、その場合、すでに公開されているデータの偏りについて、<br /> 別途検討する予定はありますでしょうか?</p><p>(8) 経済センサスの労働者数が誤っている可能性については、検証をおこなう<br /> のでしょうか? それとも、経済センサスの値は正しいという前提での検証だけをおこなうのでしょうか?</p><p>――――――――――――――――――――――――――――――――――――――</p><p>【各質問について解説】</p><p>(1) 『労働統計調査月報』の3巻5号 (1951年) p. 11,<br /> 31巻8号 (1979年) p. 26, 42巻10号 (1990年) p. 12 とその後<br /> 令和元年版までの『毎月勤労統計要覧』では、一貫して、事業所の規模変更に<br /> ともなって集計規模区分を変更する、と記載していました。<br /> このことから、従来は、事業所の規模変更によって<br /> 「集計に用いる層」を変更する方式だったことがわかります。<br /> 一方、令和2年版の『毎月勤労統計要覧』で記述が変わっていることから、<br /> 最近の2年ほどの間に集計方法を変え、「集計に用いる層」を原則として固定<br /> しておくようになったものだとの推測が成り立ちます。<br /> この推測が正しいのかどうか、また正しいとすれば、<br /> 変更の正確な時期はいつだったのかを知りたく存じます。</p><p>(2) 統計委員会点検検証部会 (第9回) 資料2「毎月勤労統計調査について」<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf</a> の p. 6 および<br /> 議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000650925.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000650925.pdf</a> の p. 9<br /> をご覧ください。</p><p>(3) 統計委員会点検検証部会 (第10回) 資料2-1<br /> 「8月28日の部会審議及びその後の委員から指摘を踏まえた質問等及び回答」<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000641634.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000641634.pdf</a> の2枚目および<br /> 議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000650927.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000650927.pdf</a> の<br /> pp. 15, 23 をご覧ください。</p><p>(4) 「資料2」 <a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a><br /> p. 5 の説明では、事業所規模別の母集団労働者数の増減については、<br /> 「条件 (A)」の表に基づいて判定を行うことになっています。<br /> この表は「事業所規模の層 (k) (集計に用いる層)」をキーとして条件判定する<br /> 仕組みであり、k は原則として変更しないとの説明があります。<br />  たとえば、「100人~499人」層で集計されている労働者数499人の事業所s が、<br /> ある月に労働者を52人増やして551人になると、条件 (A) に該当することになり、<br /> 母集団労働者数に sの労働者数×抽出率逆数×0.5 の移動が反映されます。<br /> このとき、集計に用いる層kは変わらず、「100人~499人」のままです。<br /> その翌月、sの労働者数が102人減ったとすると、551人→449人に事業所規模が<br /> 縮小しますが、これは条件 (A) の「100人~499人」層の条件に合致せず、<br /> この規模縮小は母集団労働者数には反映しません。<br />  「資料2」に書かれている通りに条件 (A) を読めばこのようになるので、<br /> バイアスのある推計方法をわざわざ採用している (この例の場合は、事業所規模<br /> が拡大したときには母集団労働者数に反映するのに対し、縮小したときには<br /> 反映しない) ことになります。これはあまりにも不合理ですから、<br /> 本当にこの方法で推計しているのかどうか、確認したいのです。</p><p>(5) および (6) の疑問点は (1) と重なるものです。集計のおこなわれた<br /> 時期によって方法が異なると思われるため、再集計にあたって採用された<br /> 方法がどのようなものであったかを確認させてください。</p><p>(7) 「資料2」 p. 9 の「検証内容 (案)」では、検証すべき項目として、<br /> ②雇用保険データの補正の影響、③事業所規模の変化の発生頻度、<br /> ④事業所規模変更の影響、⑤抽出率逆数の違い (抽出時点/集計時点) の影響<br /> を挙げており、これらについて、平成26年経済センサス-基礎調査から出発して<br /> 毎月の母集団労働者数の推計を行い、平成28年経済センサス-活動調査等との<br /> 当てはまりを確認する、としています。これらのなかには、現在公開されている<br /> 「本系列」「従来の公表値」「時系列比較のための推計値」の母集団労働者数が<br /> 経済センサスと乖離している現状についての検討がありません。<br /> それは検討しないのかどうかを確認したく存じます。</p><p>(8) 経済センサスの労働者数と毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数がずれる<br /> 場合、経済センサスのほうが誤っている可能性があります。特に、第二種事業所<br /> については、毎月勤労統計調査は現地リスティングに基づき独自のサンプリング<br /> をおこなっていますから、経済センサスが捕捉できていないタイプの事業所を<br /> カバーして、より正確な結果を得ているかもしれません。この点について、<br /> 検証をおこなう予定があるかどうかを知りたいと思っています。</p><p>――――――――――――――――――――――――――――――――――――――</p><p>以上、多項目にわたる質問で恐縮ですが、ご回答をよろしくお願い申し上げます。</p><p>2022年8月8日<hr>署名省略</p> <div class="section"> <h3 id="history">経過 [2022-08-12 追記]</h3> <dl> <dt>2022-08-08</dt> <dd>メール送信、当記事公開</dd> <dt>2022-08-09</dt> <dd>メール受信の連絡を担当部署から受領</dd> </dl> </div> remcat 追記:第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2 hatenablog://entry/4207112889906299612 2022-08-06T18:46:00+09:00 2022-08-06T22:20:49+09:00 前の記事 で「現在の『毎月勤労統計要覧』にも、同様の記述がある」と書いてしまった (訂正済) のだが、このときは2019年版 (=2018年調査を解説したもの) までしかみていなかった。その後、2020年版と2021年版 (=今年5月に出た最新版) を確認した結果、さらにとんでもないことが判明。2020年版以降は内容が変わり、「集計規模区分を変更」との記述がなくなっていた のである。 『毎月勤労統計要覧』2019-2021年版の変更点 まず、2019年版 (令和元年版) の記述を確認しておこう。前回記事では「調査事業所の常用労働者数が変動した……」の部分 (箇条書きの「イ」項) しか載せなかっ… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">&#x524D;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で「現在の『毎月勤労統計要覧』にも、同様の記述がある」と書いてしまった (訂正済) のだが、このときは2019年版 (=2018年調査を解説したもの) までしかみていなかった。その後、2020年版と2021年版 (=今年5月に出た最新版) を確認した結果、さらにとんでもないことが判明。2020年版以降は内容が変わり、<strong>「集計規模区分を変更」との記述がなくなっていた</strong> のである。</p> <div class="section"> <h3 id="changes">『毎月勤労統計要覧』2019-2021年版の変更点</h3> <p>まず、2019年版 (令和元年版) の記述を確認しておこう。前回記事では「調査事業所の常用労働者数が変動した……」の部分 (箇条書きの「イ」項) しか載せなかったのだが、今回は前後をふくめて引用する。また、箇条書き部分 (ア、イ、ウ) の字下げは再現していない (以下同様)。</p> <blockquote> <p>(3) 母集団労働者数の補正<br />  全国調査においては、事業所の新設・廃止等に伴う労働者数の増減を推計労働者数に反映させるため、次により、毎月、母集団労働者数の補正を行っている。</p><br /> <p>ア 全国調査の対象範囲である5人以上事業所の新設、廃止、5人未満からの規模上昇及び5人未満への規模下降に伴う労働者数の変動分を、雇用保険事業所データにより、産業、規模別に推計する。</p><br /> <p>イ 調査事業所の常用労働者数が変動したことにより、対象範囲の中で規模変更があった場合には、<strong>その都度、集計規模区分を変更</strong> し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計する。</p><br /> <p>ウ ア、イで推計した産業、規模別労働者数の変動分を、前月分調査による本月末推計労働者数に加えたものを(又は減じたものを)、今月分調査の集計で使用する母集団労働者数とする。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2020)『毎月勤労統計要覧』(2019年版) 労務行政. <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845204320/hatena-22/">ISBN:9784845204328</a><br /> 〔p. 289から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>ちなみに、厚生労働省サイトに現在載っている説明も、これとおなじ (ただし文末の「する」を「します」に置き換えた文章) である。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html"> <p>(3) 母集団労働者数の補正<br />  全国調査においては、事業所の新設・廃止等に伴う労働者数の増減を推計労働者数に反映させるため、次により、毎月、母集団労働者数の補正を行っています。</p><br /> <p>ア 全国調査の対象範囲である5人以上事業所の新設、廃止、5人未満からの規模上昇及び5人未満への規模下降に伴う労働者数の変動分を、雇用保険事業所データにより、産業、規模別に推計します。</p><br /> <p>イ 調査事業所の常用労働者数が変動したことにより、対象範囲の中で規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計します。</p><br /> <p>ウ ア、イで推計した産業、規模別労働者数の変動分を、前月分調査による本月末推計労働者数に加えたものを(又は減じたものを)、今月分調査の集計で使用する母集団労働者数とします。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (n.d.)「毎月勤労統計調査 (全国調査・地方調査):調査の結果:集計・推計方法」 (2022-08-06 閲覧)</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html</a></cite> </blockquote> <p><br /> これが、2020年版 (令和2年版)『毎月勤労統計要覧』では、つぎのように変化している (変化部分を <strong>強調</strong> して示す)。</p> <blockquote> <p>(3) 母集団労働者数の補正<br />  全国調査においては、事業所の新設・廃止等に伴う労働者数の増減を推計労働者数に反映させるため、次により、毎月、母集団労働者数の補正を行っている。</p><br /> <p>ア 全国調査の対象範囲である5人以上事業所の新設、廃止、5人未満からの規模 <strong>の拡大</strong> 及び5人未満への規模 <strong>の縮小</strong> に伴う労働者数の変動分を、雇用保険事業所データにより、産業、規模別に推計する。</p><br /> <p>イ 調査 <strong>対象</strong> 事業所の常用労働者数が変動した <strong>場合、一定の基準に従い当該調査対象事業所の規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分</strong> を推計する。</p><br /> <p>ウ ア、イで推計した産業、規模別労働者数の変動分を、前月分調査による本月末推計労働者数に <strong>加味したものを</strong> 今月分調査の集計で使用する母集団労働者数とする。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2021)『毎月勤労統計要覧』(2020年版) 労務行政. <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845214334/hatena-22/">ISBN:9784845214334</a><br /> 〔pp. 289-290から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>変更箇所を並べてみると、つぎのとおり。</p> <ol> <li>「ア」項目中、「規模上昇」→「規模の拡大」</li> <li>「ア」項目中、「規模下降」→「規模の縮小」</li> <li>「イ」項目中、「調査事業所」→「調査対象事業所」</li> <li>「イ」項目中、常用労働者数の変動による事業所規模の変化に言及した部分 (次節参照)</li> <li>「ウ」項目中、「加えたものを (又は減じたものを)」→「加味したものを」</li> </ol><p>「上昇」「下降」を「拡大」「縮小」に変えたり、「調査事業所」に「対象」を挿入したり、「加えたものを (又は減じたものを)」というややこしい表現を「加味したものを」に置き換えたり、というのは、ことばづかいをあらためただけであって、意味としては変更ないのかもしれない (あるのかもしれないので油断してはならないが)。</p><p>これらに対して、4番目の、労働者数が変わった事業所をどうあつかうかという記述の変更は、実際のデータ処理が変わったことを示している。詳細は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus#strata">&#x6B21;&#x7BC0;</a> で論じることにしよう。</p><p>今年5月刊行の2021年版 (令和3年版) では、つぎのようになっている (2020年版からの変化部分を <strong>強調</strong> して示す)。</p> <blockquote> <p>(3) 母集団労働者数の補正<br />  全国調査においては、事業所の新設・廃止等に伴う労働者数の増減を推計労働者数に反映させるため、次により、毎月、母集団労働者数の補正を行っている。</p><br /> <p>ア 全国調査の対象範囲である5人以上事業所の新設、廃止、5人未満からの規模の拡大及び5人未満への規模の縮小に伴う労働者数の変動分を、雇用保険事業所データにより、産業、規模別に推計する。</p><br /> <p>イ 調査対象事業所の常用労働者数が変動した場合、一定の基準に従い当該調査対象事業所の規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計する。</p><br /> <p>ウ ア、イで推計した産業、規模別労働者数の変動分を、前月分調査による本月末推計労働者数に加味したものを <strong>本</strong> 月分調査の集計で使用する母集団労働者数とする。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2022)『毎月勤労統計要覧』(2021年版) 労務行政. <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845224119/hatena-22/">ISBN:9784845224111</a><br /> 〔pp. 289-290から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>ここでの変更点は、「ウ」項で、従来「今月分調査」と書いていた部分を「本月分調査」としたことだけである。これはおそらく、推計方法の実質的な変化を示すものではないだろう。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="strata">「集計規模区分を変更」しなくなったことについて</h3> <p>上でみたように、『毎月勤労統計要覧』2019年版と2020年版との間で、記述が大きく変わったことがわかる。特に、「イ」項の「常用労働者数が変動した」事業所のあつかいに関する変更点が重要である。</p> <dl> <dt>2019年版</dt> <dd> 常用労働者数が変動したことにより、対象範囲の中で規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計する</dd> <dt>2020年版および2021年版</dt> <dd> 常用労働者数が変動した場合、一定の基準に従い当該調査対象事業所の規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計する</dd> </dl><p>前者 (2019年版) の解説は、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で論じたように、「毎月勤労統計調査」に関する過去の解説記事の内容もあわせ、</p> <ul> <li>調査対象事業所の労働者数が変動した場合は、集計の時に使う規模区分を変更する</li> </ul><p>ことを示しているものと読める。<strong>この時点までは、労働者数の変動にあわせて事業所の所属する層を変更して集計していた</strong> ものとみることができる。</p><p>これに対して、後者 (2020年版以降) では、「集計」「変更」という語がなくなり、それにかわって「規模区分」の「変化」という表現に置き換えられている。この置き換えが何を意味するかは、『毎月勤労統計要覧』を読んだだけではよくわからない。しかし、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で検討したように、第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2 (母集団労働者数の推計について) における「集計に用いる事業所規模の層については、原則として変更しない」という記述とあわせれば、意味するところは明瞭であろう。</p><p>2020年版『毎月勤労統計要覧』が解説対象としているのは、2019年の毎月勤労統計調査である。つまり、2018年までの調査では労働者数の変動にあわせて所属層を変更して集計していたのに対し、 <strong>2019年からは、原則として調査開始時の所属層のまま固定しておく方式に移行した</strong> ということになる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="effect">母集団労働者数推計方式変更のまとめ</h3> <p>毎月勤労統計調査では、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">&#x6628;&#x5E74;12&#x6708;29&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で書いたように、2018年1月から集計や母集団労働者数推計に用いるウエイトを変更し、集計時点の所属層による抽出率逆数を用いて計算するようになったことがすでにわかっている。それまでは、層間移動事業所の労働者数を母集団労働者数推計に反映させるにあたっては、サンプリング時の抽出率の逆数を使っていたものとみられる。</p><p>そのうえで、2019年からは、今回あきらかになった変更が加わった。その結果、調査開始時に設定された層からの流出だけが規模区分の変化として認定されるようになってしまった。これは、実際の事業所の労働者数にかかわらず原則固定とした「集計に用いる層」を、層間移動の判定条件のキーとしているからだ。これは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で指摘したとおりである。</p><p>これらのことを総合すると、事業所の労働者数が規模区分間の境界 (多少の余裕をもたせた範囲に設定されている) をこえて変化した場合に、その事業所の労働者数の変化を母集団労働者数推計に反映させる方法は、つぎのように変遷してきたことになる。</p> <dl> <dt>2017年まで (従来の集計値)</dt> <dd> サンプリング時の抽出率の逆数をウエイトとして、層間移動した事業所の労働者数を母集団労働者数推計に反映</dd> <dt>2018年</dt> <dd> 移動元の所属層に設定された抽出率の逆数をウエイトとして、層間移動した事業所の労働者数を母集団労働者数推計に反映</dd> <dt>2019年以降</dt> <dd> 調査開始時所属層からの移動である場合に限り、移動元所属層に設定された抽出率の逆数をウエイトとして、当該事業所の労働者数を母集団労働者数推計に反映 <a href="#f-3415f83e" name="fn-3415f83e" title=" ただし規模区分2段階以上の変化があった場合は原則をはずれたあつかいとなる。この点は、[https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf:title=毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ第5回会議資料2「母集団労働者数の推計について」] p. 6 参照。">*1</a></dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-3415f83e" name="f-3415f83e" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> ただし規模区分2段階以上の変化があった場合は原則をはずれたあつかいとなる。この点は、<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x7B2C;5&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;2&#x300C;&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;&#x300D;</a> p. 6 参照。</span></p> </div> remcat 第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2の解釈 hatenablog://entry/4207112889902189060 2022-07-24T16:50:58+09:00 2022-08-06T19:32:57+09:00 厚生労働省「厚生労働統計の整備に関する検討会」の下に設置されている「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」の第5回会議が2022年7月22日に開催された。その資料が前日の7月21日から厚生労働省サイトで公開されている。これらの資料のうち、資料2「母集団労働者数の推計について」があまりにもおかしいので、どこが変なのか、解説する。 <p>厚生労働省「厚生労働統計の整備に関する検討会」の下に設置されている「<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;</a>」の第5回会議が2022年7月22日に開催された。その資料が前日の7月21日から <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26894.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26894.html</a> で公開されている。</p><p>これらの資料のうち、資料2「母集団労働者数の推計について」(<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a>) があまりにもおかしいので、どこが変なのか、解説しておきたい。</p><p>なお、同ワーキンググループと毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計の問題については、過去記事を参照のこと。</p> <dl> <dt>毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> (2021年9月11日)</dd> <dt>母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> (2021年9月20日)</dd> <dt>毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> (2021年10月9日)</dd> <dt>層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate</a> (2021年10月14日)</dd> <dt>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者への手紙</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter</a> (2021年10月17日)</dd> <dt>毎月勤労統計調査、抽出率逆数の扱いを2018年1月から改悪していたことが判明</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3</a> (2021年12月29日)</dd> <dt>毎月勤労統計調査、不正な結果を是正したはずの2019年再集計値も間違っていた</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019</a> (2022年1月2日)</dd> <dt>統計委員会への手紙「毎月勤労統計調査で2018年1月から採用されている誤った推計法について」</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220122/toukeiiinkai">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220122/toukeiiinkai</a> (2022年1月22日)</dd> </dl> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#stratum">&#x96C6;&#x8A08;&#x306B;&#x7528;&#x3044;&#x308B;&#x5C64;&#x306F;&#x5909;&#x66F4;&#x3057;&#x306A;&#x3044;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop">&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x63A8;&#x8A08;&#x306E;&#x5947;&#x5999;&#x306A;&#x6761;&#x4EF6;&#x8A2D;&#x5B9A;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#mis">&#x8CC7;&#x6599;&#x304C;&#x9593;&#x9055;&#x3063;&#x3066;&#x308B;&#x306E;&#x3067;&#x306F;?</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#diss">&#x554F;&#x984C;&#x70B9;&#x3068;&#x63D0;&#x8A00;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="stratum">集計に用いる層は変更しない</h3> <p>同ワーキンググループ第5回会議の資料2には、毎月勤労統計調査の集計の際に使っている産業・事業所規模別の層について、「原則として変更しない」という記述がある。これは驚愕の新情報である。なぜ驚愕なのかというと、これまで公表されてきた同調査の資料では、事業所の労働者数が増減するなどした場合に、それにあわせて層を変更することになっていたからだ。</p><p>古くは、『労働統計調査月報』に掲載された1951年の解説記事に、つぎの記述がある。</p> <blockquote> <p>標本は昭和23年の事業所調査において調査された事業所より、産業別規模別に任意抽出されたものである。〔……〕その爲にともなう抽出誤差が、2年をへた25年9月にどの程度になるものか、製造工業について計算した。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>規模の變化した事業所について云えば、抽出は23年10月の規模に於いてなされ、<strong>集計の時は現在の規模にいれる</strong> から、推計は次の様になる。<br /> ―――――<br /> 松村 雅央 (1951)「毎月勤勞統計調査の抽出誤差」『労働統計調査月報』3(5): 11-14.<br /> 〔p. 11から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>1979年には、同年4月の抽出替えによって平均給与が低下した原因についての解説記事のなかに、つぎの記述がある。</p> <blockquote> <p> ロ 集計上の要因<br />  抽出替え以後の変動により規模変動した調査対象事業所については6ヵ月ごとに <strong>集計区分を変更している</strong> が,一般に大規模ほど抽出間隔が小さく(特に規模500人以上は悉皆調査)小規模ほど抽出間隔が大きくなっているので,規模下降する事業所は規模上昇する事業所に比べて数のうえでより多くは握される。これを,規模100~499人の区分を例にとってみると,規模500人以上から規模450~499人程度に規模下降したものは全数は握されるのに対して抽出替え時からこの区分に属する事業所は,例えば抽出率1/4で抽出されているので,規模450~499人以上へと逆に規模上昇する事業所は全数の1/4しかは握されない。このように規模500人前後の規模異動があると,母集団全体としては互いに相殺するような上昇下降であっても,規模100~499人の区分の中では規模450-499人程度の調査対象事業所のウエイトが相対的に増加する結果となる。また,規模100人前後の規模移動についても,その前後の規模上昇規模下降によって規模100~150人程度の調査対象事業所のウエイトが相対的に低下する傾向になる。<br />  こうしてひとつの集計区分内においても大規模(又は抽出替え時に大規模であった事業所)に標本が偏る傾向が生じるのであるが,集計上は,前出(1)式のとおり,同一集計区分内ではすべて同等の扱いを受けるので,規模別の賃金格差を反映して推計値は高めにあらわれるのである。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>労働者数550人の事業所が規模下降して450人になって〔ママ〕とすると,規模500人以上は悉皆調査だからその間の雇用は100人減と推計される。集計区分の変更では,規模500人以上の労働者数から450人×1倍(抽出率)を減じ,同数を規模100~499人の労働者数に加えるという補正が行われる。その後450人からさらに350人に雇用が減少すれば,この減少分は規模100~499人の推計比率(≒抽出率逆数,したがって1より大)により復元されるので,規模100~499人の区分の減少数は100人よりも大きく推計される。<br /> ―――――<br /> 等々力 正夫 (1979)「毎月勤労統計調査の標本事業所の抽出替えについて」『労働統計調査月報』31(8): 24-27, 32.<br /> 〔pp. 26, 27, 32から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p>この記事は、調査対象事業所の集計区分を変更すると同一区分内に抽出率のちがう事業所が混在すること、にもかかわらず同一区分内では同一の集計方法を一律に適用していること、それらが集計結果に偏りを生じさせることにも言及している。この問題については、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3#weight">2021&#x5E74;12&#x6708;29&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> でも触れた。</p><p>毎月勤労統計調査は1990年に調査方法の大きな変更をおこなったが、その際の解説記事にもつぎのようにある。</p> <blockquote> <p> (4) このような変更に伴って,サンプルの事業所規模が変わった際の集計上の取扱いなども変更になり,従来明確に区分されていなかった,標本事業所の管理と母集団労働者数の管理をはっきりさせることになった。<br />  標本事業所の管理については次のとおり。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p> ② サンプルの集計区分の変更<br />  従来,サンプルの集計規模区分は一年間固定し,その間に変更があった場合は中間補正時に変更処理をしていた。改正後は,5人以上の中で <strong>規模変更があった都度,随時,集計規模区分も変更</strong> している。</p><br /> <p>(注) これに伴い規模別母集団労働者数も修正する。</p><br /> <p> ただし,サンプルが規模区分の境界付近で月々変動した場合には,規模別の集計結果の月々の変動が不安定になる恐れがあるので,次のように境界線に一定の幅をもたせ,その幅をこえて別の規模区分に移った時点で集計規模区分の変更を行うこととしている。</p> <table> <tr> <td> 規模区分の境界 </td> <td> 幅 </td> </tr> <tr> <td> 1,000人 </td> <td> △50人~+50人 </td> </tr> <tr> <td> 500 </td> <td> △50 ~+50 </td> </tr> <tr> <td> 100 </td> <td> △10 ~+ 5 </td> </tr> <tr> <td> 30 </td> <td> △ 5 ~+ 5 </td> </tr> </table><p> (5) 母集団労働者数の管理については次のとおり。<br />  ① 新設・規模上昇等による母集団の補正<br />  毎月,5人以上事業所の新設,廃止,5人未満からの規模上昇及び5人未満への規模下降等を推計して,母集団労働者数の補正を行うこととした。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p> ② サンプルの集計区分の変更<br />  〔……〕(4)の②によって,サンプルの集計規模区分を変更した場合には,推計労働者数の修正を行う。変更前の産業・規模区分の推計労働者数から変更したサンプルの本月末労働者数に抽出率〔ママ〕を乗じた値を差し引き,変更後の産業・規模区分の推計労働者数にその値を足し込む。<br />  ③ 翌月分の母集団労働者数<br />  月々,「毎勤」の集計完了後に,上記①,②の処理を施した後の推計労働者数を,翌月分の集計の母集団労働者数として用いる。<br />  すなわち,5人の境とした事業所の変動は雇用保険のデータを利用してとらえ,5人以上の規模間の変動はサンプルの動きから推計することとしている。<br /> ―――――<br /> 吉田 裕繁 (1990)「毎月勤労統計調査の改正について (中間報告): 改正毎勤の現状と5人以上接続指数」『労働統計調査月報』42(10): 6-20.<br /> 〔pp. 12, 13から引用。強調は引用時に付加したもの〕</p> </blockquote> <p><del>現在の</del>『毎月勤労統計要覧』にも、同様の記述がある。[2022-08-06 修正]</p> <blockquote> <p>調査事業所の常用労働者数が変動したことにより、対象範囲の中で規模変更があった場合には、<strong>その都度、集計<ins>規模</ins>区分を変更</strong> し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計する。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2020)『毎月勤労統計要覧』(2019年版) 労務行政. <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845204320/hatena-22/">ISBN:9784845204328</a><br /> 〔p. 289から引用。強調は引用時に付加したもの〕<br /> [2022-07-25 引用文を訂正:「集計区分」→「集計規模区分」]</p> </blockquote> <p>いずれの解説でも、</p> <ol> <li>調査対象事業所の労働者数が変動した場合は、集計の時に使う規模区分を変更する</li> <li>その規模区分変更による労働者数の増減を、母集団労働者数の推計値に反映させる</li> </ol><p>という基本的な方針はおなじである。ただし、変更のタイミング等こまかい方法にはちがいがある。</p><p>ところが、今回の「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第5回会議資料2では、</p> <ul> <li>調査対象事業所の労働者数が変動した場合でも、集計の時に使う規模区分は、原則として変更しない</li> </ul><p>という。これまでの公表資料とはぜんぜんちがうのである。過去に公表してきた内容がまちがっていたのだろうか。あるいは最近になって集計方法を変えたのだろうか。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="pop">母集団労働者推計の奇妙な条件設定</h3> <p>とりあえず、「集計に用いる層は変更しない」という設定は仮に受け入れたことにして、先に進もう。</p><p>同ワーキンググループ第5回会議資料2には、「母集団労働者数の推計は、事業所規模の変化について、可能な限り実態を反映させるよう実施する」(p. 7) とある。ある事業所の労働者数が増減した場合、上記のように、その事業所をどこの層に属するものとして集計に使うかは変更しないのが原則なのだが、しかし、その事業所が層間移動した分の労働者数については、母集団労働者数に反映させるのだ、ということである。</p><p>母集団労働者数推計についての説明は、p. 5 にまとまっている。重要なので、ページまるごと画像を掲載しておこう。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220724093706" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220724/20220724093706.png" width="800" height="536" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」第5回会議 (2022-07-22) <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html</a><br /> 資料2 (p. 5).</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この説明によれば、ある事業所 s の労働者数が増減した場合のあつかいは、「集計に用いる層」(k) によって定められた条件にしたがう。すなわち、kの各層について、前月末労働者数と本月末労働者数の条件が決めてあり、これらの条件 (A) に合致した場合に、(本月末労働者×抽出率逆数) 分の労働者が層間移動したものとするのである。これをどのように使うかというと、</p> <ul> <li>s の集計に用いる層 k によって</li> <li>前月末労働者数と本月末労働者数それぞれの条件が決めてあり、</li> <li>これらの条件 (A と呼ぶ) に合致した場合に、</li> <li>(本月末労働者×抽出率逆数) 分の労働者が層間移動したものとする</li> </ul><p>という感じになる。</p><p>条件 (A) はつぎのような表で提示されている (上記画像参照):</p> <div class="section"> <h4 id="増加減少の対象となる事業所の条件">増加・減少の対象となる事業所の条件</h4> <table> <tr> <th>事業所規模の層 (k)<br>(集計に用いる層) </th> <th> 前月末労働者数 </th> <th> 本月末労働者数 </th> </tr> <tr> <td> 1000人以上 </td> <td> 950人以上 </td> <td> 949人以下 </td> </tr> <tr> <td> 500~999人 </td> <td> 450~1050人 </td> <td> 449人以下又は1051人以上 </td> </tr> <tr> <td> 100~499人 </td> <td> 90~550人 </td> <td> 89人以下又は551人以上 </td> </tr> <tr> <td> 30~99人 </td> <td> 25~105人 </td> <td> 24人以下又は106人以上 </td> </tr> <tr> <td> 5~29人 </td> <td> 35人以下 </td> <td> 36人以上 </td> </tr> </table><p>(<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf</a> p. 5)</p><p>労働者数499人だった事業所がひとり増やして500人になったとしても、それで層間移動したとみるわけではなく、もっと増えて550人を超えるまでは放置しておくわけである。551人以上になってはじめて、「500~499人」層に移動したとみなして、母集団労働者数をその分だけ変化させる。</p><p>ほかの層も同様であり、上限と下限に5-10%程度の余裕を持たせた許容範囲が設定されている。この許容範囲をこえた増減があった場合に、はじめて層間移動を認める仕組みである。この基準は、上記の1990年の『労働統計調査月報』(42巻15号12頁) の「規模区分の境界」の表と同様である。</p><p>さて、労働者数499人の事業所 s が、「100人~499人」層で集計されているとしよう。この事業所 s が労働者を52人増やして551人になると、条件 (A) に該当することになり、母集団労働者数に s の移動分が反映される。</p><p>このとき、集計に用いる層 k は変更されない――ここが重要である。</p><p>翌月、s は労働者を減らし、449人になったとしよう。この場合、条件 (A) は満たされない。なぜなら</p> <ul> <li>事業所 s の集計に用いる層 k は「100人~499人」のままである</li> <li>「100人~499人」層に設定されている条件は、「前月末労働者数90~550人」「本月末労働者 89人以下又は551人以上」である</li> <li>s の実際の値は「前月末労働者数 551人」「本月末労働者 449人」であり、両者とも条件に該当しない</li> </ul><p>からである。</p><p>このように、この事業所 s については、労働者数が499人から551人に増えたときには、その分の労働者数が「500~999人」層へ上昇移動したものとしてあつかわれるが、おなじ事業所の労働者数がその後449人まで減ったとしても、層間移動したものとはみなされず、母集団労働者数推計に反映されないことになる。</p><p>さらにこの翌月、また s の労働者数が増えて、551人になったとしよう。このときは</p> <ul> <li>事業所 s の集計に用いる層 k は「100人~499人」のままである</li> <li>「100人~499人」層に設定されている条件は、「前月末労働者数90~550人」「本月末労働者 89人以下又は551人以上」である</li> <li>s の実際の値は「前月末労働者数 449人」「本月末労働者 551人」であり、両者とも条件に該当する</li> </ul><p>ので、「500~999人」層への上昇移動があったものとして、母集団労働者数推計に反映される。</p><p>以下、事業所 s が労働者増減を繰り返すたびに、おなじことが起きる。規模間上昇移動のみが母集団労働者数推計に反映し、下降移動は反映しない。長期的にみて s の事業所規模は増える傾向も減る傾向もないにもかかわらず、母集団労働者数においては「100~499人」規模事業所を減らして「500~999人」規模事業所を増やす方向に作用する。</p><p>需要の季節変動が大きい事業では、忙期に人手を増やし、閑期には減らすことがよくある。そうした理由で毎年おなじような労働者数変動を示す事業所の場合、増加か減少のどちらか一方だけが毎年母集団労働者数推計に反映し、他方はまったく反映しないことになってしまう。どちらが反映するかは、調査開始時点が忙期であるか閑期であるかによるだろう。調査開始はふつう1月 (第二種事業所の一部は7月) だから、それが忙期にあたる産業では小規模事業所が過大に、閑散期にあたる産業では大規模事業所が過大にカウントされる。それらの集積が、全産業を合計した数値の動きにどんな影響をあたえるかは、相当に複雑なものになっているはずだ。</p><p>資料2が説明する母集団労働者数推計の方法は、調査開始時に設定された層 k からの流出だけを層間移動としてカウントする仕様になっているのである。どうしてそんなことになるかといえば、条件 (A) を設定するキーとなる k を変更しないからだ。当該事業所の実際の労働者数が k に対応する労働者数の許容範囲から外れてしまっても、k は変更されないから、その状態でどのように労働者数が増減しても条件 (A) には該当しない。したがって推計母集団労働者数には反映しないのである。</p><p>この方法では、「事業所規模の変化について、可能な限り実態を反映させる」ことはできない。たとえば上記のような毎年同様の季節変動を繰り返す産業では、忙期の労働者増または閑期の労働者減のどちらかだけが反映するから、推計母集団労働者数の分布は、時間とともに実態から大きく乖離していくことになる。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="mis">資料が間違ってるのでは?</h3> <p>さて、</p> <ul> <li>集計に用いる層は原則として変更しないが</li> <li>事業所規模の変化は可能な限り実態を母集団労働者数推計に反映させる</li> </ul><p>という原則を忠実に実現する方法を考えるのであれば、</p><p> 「集計に用いる層」とは別に「母集団労働者数推計に用いる層」を設定する</p><p>のが自然な発想といえる。</p><p>上の例でいうと、「100人~499人」層で集計されている事業所 s の労働者数が551人まで増加すると、「500人~999人」層に移動したものとして母集団労働者数が推計される。しかし「集計に用いる層」(k) は変化しないので、依然として s は「100~499人」層に属しているものとして条件判定される――というのが問題であった。そこで、この時点で s は母集団労働者数推計に関しては「500人~999人」層に移動したものと考え、k とは別の変数にそれを記録する。この変数を「母集団労働者数推計に用いる層」と呼び、h であらわすことにしよう。</p><p>資料2 p. 5で「集計に用いる層」(k) を指す部分のうち、右下の点線囲み部分 (【事業所規模の層について】) 以外は、すべてこの「母集団労働者数推計に用いる層」(h) に置き換えることができる。これらを置き換えるほか、<事業所規模の変更手順>の第3段階として、</p><p> ③ 条件 (A) に該当する事業所の「母集団労働者数推計に用いる層」を、当該事業所の本月末労働者数から判定した事業所規模に、翌月から変更する</p><p>を追加しよう。</p><p>こうすれば、上記のような無茶苦茶さはなくなる。つまり、母集団労働者数推計のために設定した許容範囲 (条件A) をこえて労働者数が増減した事業所については、その分を母集団労働者数に反映するとともに、その事業所の「母集団労働者数推計に用いる層」(h) も変更する。条件 (A) も k ではなく h にしたがって定めるよう置き換えられているとすれば、条件判定は変更された h によることになり、その事業所の労働者数が許容範囲を超えて増減したときには母集団労働者数推計に反映するのである。</p><p>このように考えてくると、資料2 p. 5 は単に書き間違えなのではないかと思えてくる。毎月勤労統計調査の集計プログラムは、実はこうして「母集団労働者数推計に用いる層」(h) を管理し、それにしたがって母集団労働者数推計を毎月おこなっているのではないか。ところが資料2の作成者はそれを理解しておらず、「集計に用いる層」と「母集団労働者数推計に用いる層」を混同して頓珍漢なことを書いたのではないか。</p><p>とはいえ、資料2の p. 5 に出てくる「集計に用いる層」を全部「母集団労働者数推計に用いる層」に置き換えると、別の問題が出てくる。このページには「抽出率逆数は、事業所sの属する層(集計に用いる層)のものを用いる」とも書いてあるからだ。この「集計に用いる層」(k) を「母集団労働者数推計に用いる層」(h) に置き換えてしまうと、h を変更するたびに、母集団労働者数推計に使うウエイトが変わることになる。</p><p>これでは結局、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3#ratio">2021&#x5E74;12&#x6708;29&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で指摘したのとおなじ問題が起きる。隣接する層間で同一事業所が往復移動を繰り返すと、抽出率の低い層から高い層に向かって (データ上の) 労働者数の流出が起き、推計母集団労働者数は実態から乖離していくことになる。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3"> <p>ある産業の500-999人規模事業所は全数抽出 (抽出率=1/1)、100-499人規模事業所は1/4の抽出率だとしよう。抽出されたなかにちょうど500人規模の事業所があったとする。この事業所の抽出率は1/1である。</p><br /> <p>しばらくして、この事業所の労働者がひとり辞め、499人になったとする。そうすると、この事業所は100-499人の規模区分に移動することになり、その分の労働者数に対応する249.5人を、500-999人規模の推計母集団労働者数から減らして100-499人規模に加える。なぜ499人ではなくその半分の人数になっているかというと、ここで「補正の適用度合い」という謎の係数 L = 0.5 をかけるからなのだが、これについてはここでは突っ込まない。</p><br /> <p>ここで移動が終わり、この事業所がずっと100-499人規模区分にとどまれば、それでたいして問題はない。問題が大きくなるのは、この事業所が再び人数を増やして500-999人規模に戻ったときである。ひとり増えて500人になったとすると、その分を推計母集団労働者数に反映させるのだが、そこで、4倍のウエイトをかけてしまう。つまり、500×4×0.5 = 1000 人分を、100-499人規模の推計母集団労働者数から減らして500-999人規模に加えている。この間に起こったことは、ひとつの事業所の労働者数が1人減ったあと、1人増えて元に戻ったということである。ところが、推計母集団労働者数は元に戻らない。1000 - 249.5 = 750.5人分が、100-499人規模から500-999人規模に移動してしまっていることになる。</p><br /> <p>こういうことが起きるのは、移動するたびにウエイトを変えているからだ。500-999人規模にいるときはその規模区分に割り当てられた抽出率逆数=1を使い、100-499人規模にいるときは抽出率逆数=4を使うので、上昇移動のときに移動させる人数は、下降移動のときの4倍になってしまうのである。</p><br /> <p>正しい推計にする方法は簡単であって、標本抽出時の抽出率を常に使うようにすればよい。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2021-12-29)「毎月勤労統計調査、抽出率逆数の扱いを2018年1月から改悪していたことが判明」.</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3</a></cite> </blockquote> <p>今回のワーキンググループ資料2では、層間移動を認める境界に5-10%程度の余裕を持たせた許容範囲を設定しているので、この引用とは条件がちがう。とはいえ、数十人以上の増減が起こった場合には、この引用で描写したのとおなじ現象が起きる。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">2021&#x5E74;10&#x6708;9&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> 以来論じてきた通り、毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数にはセンサス・データからの大きな乖離があり、それは層間移動事業所のあつかいに起因するとみられる。抽出率の低い層から高い層に向かって労働者数が流出しているためだと考えると、この乖離をよく説明できる。また各種資料の記述とも矛盾しないのである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">問題点と提言</h3> <p>以上の検討から、第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2の問題点は、つぎのようにまとめることができよう。問題点に対応するために何をすればよいかもあわせて提言しておく。</p> <ol> <li>「集計に用いる層は変更しない」という資料2の説明は、毎月勤労統計調査に関する従来の説明と矛盾する。従来の説明が間違っていたのであれば、それらを訂正すべきである。最近になって方法を変えたのであれば、そのことを周知するとともに、いつ変えたのか、そのためにデータにどのような変化が生じているかをあきらかにすべきである。</li> <li>母集団労働者数推計の際の層間移動の判定条件を「集計に用いる層」に基づいて定めたのでは、実態を反映した推計にはならない。もし資料2のこの記述が正しいとしたら、推計方法がおかしいのであり、即刻是正すべきである。一方、資料2の記述が間違っているのだとすれば、その記述を訂正した資料を公開すべきである。</li> </ol> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>追記:第5回「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」資料2<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2022-07-24</dt> <dd> 記事公開</dd> <dt>2022-07-25</dt> <dd> 『毎月勤労統計要覧』(2019年版) からの引用文中で「集計区分」となっていた箇所を「集計規模区分」に訂正</dd> <dt>2022-08-06</dt> <dd> 「現在の『毎月勤労統計要覧』にも、同様の記述がある」となっていた箇所から「現在の」を削除 (この件に関しては <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus">&#x5225;&#x306B;&#x8AAC;&#x660E;&#x8A18;&#x4E8B;&#x3092;&#x66F8;&#x304D;&#x307E;&#x3057;&#x305F;</a>)。「つづき」 を追記。</dd> </dl> </div> remcat 統計委員会への手紙「毎月勤労統計調査で2018年1月から採用されている誤った推計法について」 hatenablog://entry/13574176438055343000 2022-01-22T16:06:34+09:00 2022-01-22T16:06:34+09:00 統計委員会メンバー のうち、メールアドレスが公開されている方々にあてて、本日つぎのようなメールを発送しました。Subject: 毎月勤労統計調査で2018年1月から採用されている誤った推計法について統計委員会委員の先生方 (BCCでお送りしています。)東北大学文学部の田中重人と申します。 毎月勤労統計調査について、2018年以降、文献とデータを集めて検討してきました。 このほど、同調査の母集団労働者数推計の仕組みに重大な欠陥があることを 確認しましたので、情報提供いたします。ご存知のとおり、毎月勤労統計調査では、比推定に使用する「推計比率」を求める ため、層別の母集団労働者数の推計を毎月おこな… <p><a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/iin_bukai.html">&#x7D71;&#x8A08;&#x59D4;&#x54E1;&#x4F1A;&#x30E1;&#x30F3;&#x30D0;&#x30FC;</a> のうち、メールアドレスが公開されている方々にあてて、本日つぎのようなメールを発送しました。</p><p><hr>Subject: 毎月勤労統計調査で2018年1月から採用されている誤った推計法について</p><p>統計委員会委員の先生方<br /> (BCCでお送りしています。)</p><p>東北大学文学部の田中重人と申します。<br /> 毎月勤労統計調査について、2018年以降、文献とデータを集めて検討してきました。<br /> このほど、同調査の母集団労働者数推計の仕組みに重大な欠陥があることを<br /> 確認しましたので、情報提供いたします。</p><p>ご存知のとおり、毎月勤労統計調査では、比推定に使用する「推計比率」を求める<br /> ため、層別の母集団労働者数の推計を毎月おこないます。その手続きの中に、<br /> 労働者数の変化などで所属層を移した事業所の分の労働者数を加減する操作が<br /> あります。その際は、移動した事業所の人数に抽出率の逆数をかけて加減します。<br /> この「抽出率」は、本来は、事業所の【サンプリング時の】抽出率であるべき<br /> ものです。2017年までの毎月勤労統計調査 (現在「従来の公表値」として<br /> 公開されている) は、その方法で推計をおこなってきたはずでした。</p><p>ところが2018年1月以降は、【集計時の】所属層の抽出率逆数を使うよう変更<br /> されており、そのために推計母集団労働者数の分布が歪んで、経済センサス等の<br /> 労働者数から乖離しています (30-99人規模事業所の労働者が過少、500-999人<br /> 規模事業所の労働者が過大です)。</p><p>たとえば、ある産業において、100-499人規模事業所は 1/144 の抽出率、<br /> 500-999人規模事業所は 1/1 の抽出率だとします。当初は499人規模だった事業所が<br /> 労働者1人を新しく雇い、500人規模になったとすると、これに相当する労働者数を、<br /> 100-499人の層から500-999人の層に移動させることになります。<br /> このとき抽出率逆数として144をかけるので、これに相当する労働者数は<br /> 500×144=7万2000人です。しばらくして、おなじ事業所が労働者を1人減らし、<br /> 499人規模になったとすると、500-999人から100-499人への移動が発生します。<br /> このときは抽出率逆数として1をかけるので、相当する労働者数は499人です。<br /> この間に起こったことは、あるひとつの事業所が労働者数を1人増やし、<br /> しばらくして1人減らして、元に戻っただけなのですが、推計母集団労働者数は<br /> 100-499人規模の層で大きく減り、その分500-999人規模の層で増えることになる<br /> のです (このときに「補正の適用度合い」という係数 (0.5に設定されています)<br /> もかけるので、実際に移動させる労働者数は半分になりますが)。</p><p>100人、500人などの規模境界付近に位置する事業所が労働者数を少し減らしたり<br /> 増やしたりを繰り返すと、抽出率の小さい層から大きい層に向かって推計母集団<br /> 労働者数が大量に移動してしまいます。毎月勤労統計調査の抽出率は、おおむね、<br /> 小規模事業所で小さく、大規模事業所で大きくなるよう設定されていますので、<br /> 時間の経過とともに、相対的に大規模な事業所の重みを大きくするバイアスが<br /> かかることになります。</p><p>このように推計方法を変更したという事実は、昨年11月5日の厚生労働省「毎月勤労<br /> 統計調査の改善に関するワーキンググループ」第3回会議において、はじめて報告<br /> されました。私自身はこの会議は傍聴できなかったのですが、後日公表された<br /> 議事録 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html</a> で、2018年1月から<br /> 【集計時の】所属層の抽出率逆数を使うように変更したとの説明があったことがわかります。</p><p>この新事実は、統計委員会のこれまでの審議の前提を覆すものです。<br /> 2018年1月におこなわれた集計プログラム改修については2019年1月17日の第130回<br /> 統計委員会で基本的な確認をしていますが、その際の議事録に、層間移動事業所の<br /> 扱いを変更したとの説明はありません。その後もこの事項についての報告はなかった<br /> ため、2018年1月のプログラム改修は妥当な内容だったと統計委員会では判断<br /> されたものと思います。しかし実際には、大規模事業所の重みが過大になる<br /> バイアスが持ち込まれていたわけです。この改修は不適切だったことを確認し、<br /> 正しいプログラムに修正するとともに、2018年以降のデータを計算しなおすべきです。</p><p>さらに重大な問題は、2012-2017年のデータを再集計した際も、これとおなじ集計法<br /> が使われたということです。これは「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキング<br /> グループ」会議では明言されていませんが、再集計値の挙動と2018年1月以降の値の<br /> 挙動とが共通であることから、そのように推測できます。従来、再集計によって<br /> 「きまって支給する給与」平均が約0.6%上昇したと説明されており、それは東京都と<br /> それ以外の事業所の抽出率のちがいを反映するように正しく計算しなおした結果だと<br /> 理解されてきました。しかし実際には、層間移動事業所の扱いを改悪したことで<br /> 大規模事業所を過大に代表させるバイアスが持ち込まれていますから、そのせいで<br /> 平均給与を過大に推計しているはずです。これについても、正しいプログラムに<br /> 修正して再集計を再度やり直し、正しいデータに差し替えるべきと思います。</p><p>なお、2011年から2004年までさかのぼって推計した「時系列比較のための推計値」<br /> の変動には、不審な点はありません。この期間については正しい推計法がとられて<br /> いるのかもしれませんが、この点も確認が必要です。</p><p>以上の結論に至ったデータと分析結果は、個人ブログの記事として公表しています:</p><p>毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> (2021-09-11)<br /> 母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> (2021-09-20)<br /> 毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> (2021-10-09)<br /> 層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate</a> (2021-10-14)<br /> 「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者への手紙<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter</a> (2021-10-17)<br /> 毎月勤労統計調査、抽出率逆数の扱いを2018年1月から改悪していたことが判明<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3</a> (2021-12-29)<br /> 毎月勤労統計調査、不正な結果を是正したはずの2019年再集計値も間違っていた<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019</a> (2022-01-02)</p><p>毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計法については、今後、厚生労働省の<br /> 上記ワーキンググループで検討されるとのことですが、<br /> 現在の調査だけでなく、2012年までさかのぼる過去データもふくむ問題であり、<br /> またこの3年間の統計委員会での決定事項の前提に関わる問題でもありますので、<br /> やはり統計委員会で扱われるべき議題であろうと思っております。</p><p>以上、公的統計への信頼に関する重大な疑義と考え、お伝えさせていただきました。<br /> 適切な対処がなされるよう、祈念しております。</p><p>2022年1月22日<hr>署名省略</p> remcat 毎月勤労統計調査、不正な結果を是正したはずの2019年再集計値も間違っていた hatenablog://entry/13574176438048611504 2022-01-02T13:03:42+09:00 2022-01-22T16:59:20+09:00 前回記事 で、毎月勤労統計調査における抽出率逆数の間違った利用法について解説した。この問題には調査数値復元と比推定のための母集団労働者数推計における層間移動事業所のカウントのふたつの側面がある。それらは2018年1月に始まったというのが厚生労働省の説明であった。*1 毎月勤労統計調査は、この間違った集計方法を現在も使いつづけている。それは重大な問題である。が、それはそれとして、もうひとつ見逃してならないのは、2018年末に東京都不正抽出が発覚したあと、この間違った方法を使って過去のデータを再集計した ことだ。この再集計作業は、 2017年まで使っていた集計方法が間違っていて、 2018年から導… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で、毎月勤労統計調査における抽出率逆数の間違った利用法について解説した。この問題には調査数値復元と比推定のための母集団労働者数推計における層間移動事業所のカウントのふたつの側面がある。それらは2018年1月に始まったというのが厚生労働省の説明であった。<a href="#f-74a61bb3" name="fn-74a61bb3" title=" この変更は、始めてすぐに影響が出るものではない。影響が出てくるのは、層間移動事業所がある程度積み上がったあとからである。[https://www.nishinippon.co.jp/item/n/448833/:title=2018年に毎月勤労統計調査の数値のおかしいことが噂されるようになったのは年初めではなく、3月以降の数値に関してであった] のは、この変更の性質を考えると重要かもしれない。">*1</a> 毎月勤労統計調査は、この間違った集計方法を現在も使いつづけている。それは重大な問題である。</p><p>が、それはそれとして、もうひとつ見逃してならないのは、2018年末に東京都不正抽出が発覚したあと、<strong>この間違った方法を使って過去のデータを再集計した</strong> ことだ。この再集計作業は、</p> <ul> <li>2017年まで使っていた集計方法が間違っていて、</li> <li>2018年から導入したのが正しい方法である、</li> </ul><p>という前提でおこなったのだから、そうなるのが当然である。データの動きからも、そうなっていることが読みとれる――というのは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">2021&#x5E74;10&#x6708;14&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で指摘した。</p> <div class="section"> <h3 id="maikinhistory">間違いの歴史</h3> <p>毎月勤労統計調査の集計間違いの履歴については、現在、つぎのことがわかっている。</p> <ul> <li>2004年から東京都の事業所の一部で他地域とちがう抽出率で抽出していたにもかかわらず、それを反映しない集計方法をとっていた (2017年まで)</li> <li>2010-2011年には抽出時とちがう産業分類に変更して集計したため、同一層内に抽出率のちがう事業所が入り混じる事態になったが、それを反映した適切なウエイトをあたえず集計していた (<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の5節参照) </li> <li>2018年からは層間移動した事業所に関する抽出率逆数の扱いがおかしくなった (現在も継続中)</li> </ul><p>2004年以降現在にいたる毎月勤労統計調査は、どの時期をとっても、これらの問題のどれかに該当する。 <strong>正しく集計できていた時期が存在しない</strong> のである。さらにいえば、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190820/diff">&#x304A;&#x305D;&#x304F;&#x3068;&#x3082;1994&#x5E74;&#x304B;&#x3089;&#x6A19;&#x672C;&#x898F;&#x6A21;&#x3084;&#x8AA4;&#x5DEE;&#x306E;&#x7D71;&#x8A08;&#x91CF;&#x3092;&#x6B63;&#x3057;&#x304F;&#x5831;&#x544A;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x306A;&#x3044;</a> ので、そういうことまでふくめれば、四半世紀以上にわたってまともな調査結果報告がないという惨状である。</p><p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;&#x3067;&#x6307;&#x6458;&#x3057;&#x305F;</a> ように、2018年1月から導入した新集計方式も間違っていた。しかしそれが明るみにでないまま、同年末に <a href="https://www.asahi.com/articles/DA3S13831541.html">2004&#x5E74;&#x4EE5;&#x6765;&#x306E;&#x6771;&#x4EAC;&#x90FD;&#x4E0D;&#x6B63;&#x62BD;&#x51FA;&#x306E;&#x4EF6;&#x3092;&#x671D;&#x65E5;&#x65B0;&#x805E;&#x306B;&#x3059;&#x3063;&#x3071;&#x629C;&#x304B;&#x308C;&#x305F;</a>。翌2019年1月には、この間違った新方式を適用して2012年以降の調査結果の再集計をおこない、公表してしまう。ここで、<strong>層間移動事業所に関する抽出率逆数の誤用を、過去のデータにも持ち込んでしまった</strong> わけである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="revise">2019年再集計</h3> <p>2018年末の報道に対する厚生労働省の対応は、まず2019年1月11日の発表「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」(<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03207.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03207.html</a>) としてあらわれた。<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">&#x4ED8;&#x5C5E;&#x6587;&#x66F8;&#x306E;PDF&#x30D5;&#x30A1;&#x30A4;&#x30EB;</a> ではつぎのようにいう。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf"> <p><strong>2.確認された事実</strong></p><p>〔……〕</p><p>(2) 統計的処理として復元すべきところを復元しなかったことについて<br />  「500 人以上規模の事業所」については、他の道府県では全数調査ですが、東京都のみ抽出調査が行われたため、東京都と他の道府県が異なる抽出率 (※1) となっていました。<br />  一方、毎月勤労統計調査の平成29年までの集計は、同一産業・同一規模では全国均一の抽出率という前提で行われており、前述の異なる抽出率の復元 (※2) が行われない集計となっていました。このため東京都分の復元が行われていませんでした。<br />  なお、東京都における「499人以下規模の事業所」等についても平成21年から平成29年までについて、一部に、異なる抽出率の復元が行われない集計となっていました。<br />  これらの結果、平成16年から平成29年までの調査分の「きまって支給する給与」等の金額が、低めになっているという影響がありました。</p><p> ※1 抽出率とは、母集団に占める調査対象事業所の割合。<br />  ※2 復元とは、抽出調査を行った際に行うべき統計的処理で、母集団の調査結果として扱うための計算。<br />  (注)なお、平成30年1月以降の調査分の集計については、復元されています。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p><strong>4.今後の対応について </strong></p><p>(1) 公表値において行うべき復元を行っていなかった平成16年から平成29年までの期間のうち、復元に必要なデータ等が存在する平成24年以降について復元して「再集計値」として公表します(平成24年から平成30年10月までの、「きまって支給する給与」の「再集計値」の金額については、別添1のとおりです。)。<br />  「きまって支給する給与」の「再集計値」は、本来の全数調査という方法に基づくものではありませんが、実際の調査において採用した抽出率に基づいて復元しているので、統計処理的にはより有効な母集団推計によるものです。<br />  「きまって支給する給与」の「再集計値」の公表値とのかい離は金額ベースでは平均で0.6%でした。<br />  時系列比較の観点から、これまでの公表値についても、今後も引き続き提供してまいります。<br />  なお、以上の取扱いについては総務大臣から報告を求められており、1月17日の統計委員会に報告する予定です。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2019-01-11)「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」(Press Release) pp. 2-3.<br /> <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03207.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03207.html</a></p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf</a></cite> </blockquote> <p>再集計値については、東京都とそれ以外の道府県との抽出率の違いを「復元」したということしか書いていない。<strong>この文書を読んでも、層間移動事業所の扱いを変更したという事実は読み取れない</strong> のだ。この文書が言及した「0.6%」という平均値は、その後、東京都不正抽出によるインパクトをあらわすものとして受けとられるようになった。</p><p>この時点では、2011年12月分以前のデータは再集計されていない。しかし、雇用保険・雇用保険・労災保険・船員保険の給付と雇用調整助成金などについて、従来の公表値に基づいて設定されていた基準を見直して追加給付をおこなう必要があるというので、2004年1月から2013年3月までをカバーする「給付のための推計値」がつくられた (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">&#x540C;&#x6587;&#x66F8;</a> p. 6)。これについては「平成24年から平成29年までの「再集計値」と公表値のかい離幅の平均(0.6%)を平成16年の公表値に加え、それ以降の平成17年から平成25年3月までの期間は公表値の伸び率に合わせて推計しました」(<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">&#x540C;&#x6587;&#x66F8;</a> p. 4) とあるのみで、具体的にどう計算したのかはよくわからない。実際、この「給付のための推計値」と従来の公表値を比べて増分を計算してみると、0.46%から0.82%まで大きくばらついている。<a href="#f-96d5c70a" name="fn-96d5c70a" title=" 「政府統計の総合窓口」(e-Stat) の「毎月勤労統計調査 全国調査」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791 から「実数原表・実数推計」の「給付のための推計値 (2004年1月~2013年3月)」掲載のExcelファイルによる (2022-01-01 ダウンロード)。 ">*2</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="data">再集計値の再検討</h3> <p>その後、2020年8月になって、2011年12月から2004年1月までさかのぼって再集計した「<a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1h.html">&#x6642;&#x7CFB;&#x5217;&#x6BD4;&#x8F03;&#x306E;&#x305F;&#x3081;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x5024;</a>」が公表された。このデータも加えて、再集計結果と従来の公表値との間で、「きまって支給する給与」を比較してみよう。</p><p>データは「政府統計の総合窓口」(e-Stat) の「毎月勤労統計調査 全国調査」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> からカンマ区切り (CSV) ファイルをダウンロードした (2021-12-31)</p> <ul> <li>「長期時系列表」の「実数・指数累積データ」から 「実数・指数累積データ 実数」(表番号1) のファイル (<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031913616&fileKind=1">hon-maikin-k-jissu.csv</a>)</li> <li>「【参考】従来の公表値」の「長期時系列表」の「実数・指数累積データ」から 「実数・指数累積データ 実数」(表番号1) のファイル (<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031981250&fileKind=1">juu-maikin-k-jissu.csv</a>)</li> </ul><p>これらのファイルから、調査産業計 (TL)、5人以上規模 (T)、就業形態計 (0) の各月の「きまって支給する給与」を抜き出せばよい。結果数値は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019#appendix">&#x4ED8;&#x9332;&#x306E;&#x8868;</a> を参照。2014年分以降の数値は、 <a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">&#x539A;&#x751F;&#x52B4;&#x50CD;&#x7701;&#x306E;2019&#x5E74;1&#x6708;11&#x65E5;&#x5831;&#x9053;&#x767A;&#x8868;&#x8CC7;&#x6599;&#x300C;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306B;&#x304A;&#x3044;&#x3066;&#x5168;&#x6570;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3059;&#x308B;&#x3068;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x305F;&#x3068;&#x3053;&#x308D;&#x3092;&#x4E00;&#x90E8;&#x62BD;&#x51FA;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3067;&#x884C;&#x3063;&#x3066;&#x3044;&#x305F;&#x3053;&#x3068;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;&#x300D;</a> 別添の表と若干の食い違いがある。これは、大阪府における不正調査が判明したために2019年8月26日付で公表結果の訂正があったことによるものであろう (<a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-teisei-20190826-dou29tsuiki.pdf">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-teisei-20190826-dou29tsuiki.pdf</a> 参照)。</p><p>図1の黒い実線が従来の公表値、赤い×印が再集計について「きまって支給する給与」平均値を示している。図の左の方では黒実線と赤×印がそれほどずれていないのに対して、右の方ではずれが大きくなっていることがわかる。なお、2007年、2009年、2018年等に給与水準が大きく動いているようにみえるのは、これらの時期に調査対象事業所の入れ替え<a href="#f-ec433259" name="fn-ec433259" title=" 第一種事業所 (労働者30人以上規模) は2007, 2009, 2012, 2015, 2018年に対象事業所の入れ替えをおこなっている。 ">*3</a>、ベンチマークの更新 <a href="#f-3eb097bb" name="fn-3eb097bb" title=" 2009, 2012, 2018年にベンチマークを更新している。 https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#benchmark 参照。">*4</a>、産業分類の切り替え <a href="#f-29b2667b" name="fn-29b2667b" title=" 2010-2011年は、標本抽出時と集計時で異なる産業分類を使ったために不正な集計となっていた。 http://hdl.handle.net/10097/00127285 5節参照。">*5</a> などがあったせいではないかと推測できるが、正確なところはわからない。</p> <div class="section"> <h4>図1: 「きまって支給する給与」再集計値と従来の公表値</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220101160119" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220101/20220101160119.jpg" alt="f:id:remcat:20220101160119j:image" width="800" height="416" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 「政府統計の総合窓口」(e-Stat) 掲載のCSVファイルによる (2021-12-31)。「New」が再集計値、「Old」が従来の公表値。</p> </blockquote> <p>再集計によって「きまって支給する給与」がどれだけ増えたか (%) を示したのが図2である。2011年12月までは増分はあまり大きくはなく、最大でも0.3%である。2004年中は値が下降しているが、2005-2008年は0.2%弱程度で一定である。2009-2011年は少し水準が上がり、0.3%弱で一定。これが2012年になると、水準がさらに上昇するとともに、時間の経過にともなって値が上昇するようになり、2014年10月には0.75%に達する。2015年にいったん0.5%強の水準まで落ちるがその後ふたたび上昇し、2017年には0.6%を超える。2018年には0.4%水準まで落ちている。</p> </div> <div class="section"> <h4>図2: 「きまって支給する給与」再集計による増分 (%)</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220101160123" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220101/20220101160123.jpg" alt="f:id:remcat:20220101160123j:image" width="800" height="416" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 「政府統計の総合窓口」(e-Stat) 掲載のCSVファイルによる (2021-12-31)</p> </blockquote> <p>図2から、2011年調査分までの「時系列比較のための推計値」と2012年以降調査分に関する再集計値 (本系列) とでは「従来の公表値」とのずれかたがかなりちがうことがわかる。前者ではずれは0.3%以下と小さく、時間とともに拡大する傾向もない。それに対して後者では、ずれが最大0.75%と大きく、また時間とともに拡大する傾向をみせる。</p><p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#oldnew">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#oldnew</a> で分析したとおり、「時系列比較のための推計値」の推計母集団労働者数は、「従来の公表値」とほとんど一致する。ちがいが出てくるのは、2012年分以降だけである。特に差の大きい500-999人規模と30-99人規模について、データ出所をわかりやすく整理した図を載せておこう。</p> </div> <div class="section"> <h4>図3: 推計母集団労働者数の再集計値と従来の公表値との比較:500-999人規模</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220101164415" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220101/20220101164415.jpg" alt="f:id:remcat:20220101164415j:image" width="800" height="240" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 矢印はベンチマーク更新。データと計算方法は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> および <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> を参照</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h4>図4: 推計母集団労働者数の再集計値と従来の公表値との比較:30-99人規模</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20220101164422" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20220101/20220101164422.jpg" alt="f:id:remcat:20220101164422j:image" width="800" height="230" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 矢印はベンチマーク更新。データと計算方法は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> および <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> を参照</p> </blockquote> <p>図3, 図4からわかるように、2012年分以降の「本系列」(=再集計値) の推計母集団労働者数は、従来の公表値から大きくはずれており、500-999人規模では増加、30-99人規模では減少する。この動きはセンサスの動きからも乖離しているので、実態を反映したものではなく、層間移動事業所のウエイトが不適切であったために創り出されたものであろう。相対的に規模の大きな事業所のシェアを拡大し、規模の小さな事業所のシェアを縮小させることになるので、この動きは <strong>平均給与を過大に成長させるバイアス</strong> を生み出す。</p><p>一方、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#before2011">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#before2011</a> で議論したように、公表されている文書の説明では、「時系列比較のための推計値」は2012年分以降の再集計とは異なり、層間移動事業所について抽出率逆数による重み付けをおこなっていなかったように読める。従来の公表値がどのように層間移動事業所をあつかっていたかはわからないのだが、推計母集団労働者数がほとんど一致することから、「時系列比較のための推計値」と同様に、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#juu">&#x62BD;&#x51FA;&#x7387;&#x9006;&#x6570;&#x3092;&#x4F7F;&#x3063;&#x3066;&#x3044;&#x306A;&#x304B;&#x3063;&#x305F;&#x3082;&#x306E;&#x3068;&#x79C1;&#x306F;&#x5224;&#x65AD;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x305F;&#x3002;</a> もっとも、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で検討した <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">&#x300C;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x300D;&#x7B2C;3&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x306E;&#x8B70;&#x4E8B;&#x9332;</a> によれば、「母集団労働者数の推計についてですが、ローテーションサンプリング導入以前から抽出率逆数を用いていましたが、平成30年1月以降については、集計時に用いる抽出率逆数の使い方との整合性を保つという考えに立ちまして、集計時点の抽出率逆数を用いることとしています」と厚生労働省の担当者が回答している。この回答が真実を語っているのであれば、従来の公表値では、抽出時の抽出率の逆数で重み付けた (つまり統計学的に正しい) 集計をおこなっていたのかもしれない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">結論</h3> <p>以上の考察から、つぎのような推論を導くことができる。</p> <ul> <li>2012年分以降の再集計値で「きまって支給する給与」平均額が従来の公表値より上方に乖離していくのは、集計ウエイトの算出に使われる母集団労働者数の推計の誤りの影響をふくんだものである</li> <li>このような問題がなかったと想定できる2004-2011年の数値をみるかぎり、再集計による「きまって支給する給与」の増分は0.2%から0.3%程度であり、2012年分以降の再集計を根拠とする数値「0.6%」よりはずっと小さい</li> </ul><p>2004-2011年調査についての再集計 (時系列比較のための推計値) は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">&#x3055;&#x307E;&#x3056;&#x307E;&#x306A;&#x4EEE;&#x5B9A;&#x3092;&#x7F6E;&#x3044;&#x305F;&#x5F37;&#x5F15;&#x306A;&#x3082;&#x306E;</a> だから、それに依存して結論を出すのは危険である。とはいえ、2012年分以降の再集計が母集団労働者数推計のゆがみをもたらすことは、使用している方法の性質上、確かなことだ。毎月勤労統計調査は前年との比較などで伸び率を知るために使われることが多いので、<strong>時間とともに平均値を上昇させてしまうこのような集計方法は大きな弊害をもたらす。</strong>今後の検討次第ではあるが、従来の公表値のほうが (東京都不正抽出の影響を差し引いても) まだしも実態に近い、ましな数値だった可能性はじゅうぶんある。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">付録:再集計値と従来の公表値による「きまって支給する給与」平均値の推移 (2004-2020)</h3> <p>「政府統計の総合窓口」(e-Stat) の「毎月勤労統計調査 全国調査」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> から「実数・指数累積データ 実数」(表番号1) カンマ区切り (CSV) ファイルによる (2021-12-31 ダウンロード)</p> <ul> <li>再集計値: 「長期時系列表」の「実数・指数累積データ」</li> <li>従来の公表値: 「【参考】従来の公表値」の「長期時系列表」の「実数・指数累積データ」</li> </ul><p>厚生労働省による2019年1月11日報道発表資料「毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて」(<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf</a>) 別添の表と比較されたい。</p> <table> <tr> <th> 年月 </th> <th> 再集計値 </th> <th> 従来の公表値 </th> <th> 超過% </th> </tr> <tr> <td> 200401 </td> <td> 271,152 </td> <td> 270,668 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200402 </td> <td> 272,118 </td> <td> 271,733 </td> <td> 0.14 </td> </tr> <tr> <td> 200403 </td> <td> 273,963 </td> <td> 273,463 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200404 </td> <td> 274,971 </td> <td> 274,597 </td> <td> 0.14 </td> </tr> <tr> <td> 200405 </td> <td> 270,004 </td> <td> 269,736 </td> <td> 0.10 </td> </tr> <tr> <td> 200406 </td> <td> 273,164 </td> <td> 272,652 </td> <td> 0.19 </td> </tr> <tr> <td> 200407 </td> <td> 272,319 </td> <td> 272,113 </td> <td> 0.08 </td> </tr> <tr> <td> 200408 </td> <td> 270,579 </td> <td> 270,462 </td> <td> 0.04 </td> </tr> <tr> <td> 200409 </td> <td> 271,245 </td> <td> 270,911 </td> <td> 0.12 </td> </tr> <tr> <td> 200410 </td> <td> 272,317 </td> <td> 272,090 </td> <td> 0.08 </td> </tr> <tr> <td> 200411 </td> <td> 273,149 </td> <td> 273,048 </td> <td> 0.04 </td> </tr> <tr> <td> 200412 </td> <td> 273,350 </td> <td> 273,111 </td> <td> 0.09 </td> </tr> <tr> <td> 200501 </td> <td> 270,292 </td> <td> 269,796 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200502 </td> <td> 271,843 </td> <td> 271,336 </td> <td> 0.19 </td> </tr> <tr> <td> 200503 </td> <td> 273,183 </td> <td> 272,662 </td> <td> 0.19 </td> </tr> <tr> <td> 200504 </td> <td> 276,380 </td> <td> 275,876 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200505 </td> <td> 271,615 </td> <td> 271,075 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200506 </td> <td> 274,344 </td> <td> 273,767 </td> <td> 0.21 </td> </tr> <tr> <td> 200507 </td> <td> 273,074 </td> <td> 272,542 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200508 </td> <td> 272,053 </td> <td> 271,514 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200509 </td> <td> 272,785 </td> <td> 272,232 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200510 </td> <td> 274,129 </td> <td> 273,593 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200511 </td> <td> 275,018 </td> <td> 274,447 </td> <td> 0.21 </td> </tr> <tr> <td> 200512 </td> <td> 275,333 </td> <td> 274,770 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200601 </td> <td> 270,004 </td> <td> 269,586 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200602 </td> <td> 272,030 </td> <td> 271,613 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200603 </td> <td> 274,119 </td> <td> 273,502 </td> <td> 0.23 </td> </tr> <tr> <td> 200604 </td> <td> 276,659 </td> <td> 276,152 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200605 </td> <td> 271,527 </td> <td> 270,991 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200606 </td> <td> 274,534 </td> <td> 273,979 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200607 </td> <td> 272,868 </td> <td> 272,310 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200608 </td> <td> 271,692 </td> <td> 271,155 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200609 </td> <td> 272,851 </td> <td> 272,297 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200610 </td> <td> 274,261 </td> <td> 273,725 </td> <td> 0.20 </td> </tr> <tr> <td> 200611 </td> <td> 273,446 </td> <td> 272,880 </td> <td> 0.21 </td> </tr> <tr> <td> 200612 </td> <td> 273,702 </td> <td> 273,175 </td> <td> 0.19 </td> </tr> <tr> <td> 200701 </td> <td> 266,889 </td> <td> 266,474 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200702 </td> <td> 268,241 </td> <td> 267,801 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200703 </td> <td> 269,657 </td> <td> 269,174 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200704 </td> <td> 272,621 </td> <td> 272,153 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200705 </td> <td> 268,686 </td> <td> 268,212 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200706 </td> <td> 270,779 </td> <td> 270,302 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200707 </td> <td> 270,227 </td> <td> 269,810 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200708 </td> <td> 268,841 </td> <td> 268,408 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200709 </td> <td> 269,400 </td> <td> 268,991 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200710 </td> <td> 270,810 </td> <td> 270,408 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200711 </td> <td> 271,339 </td> <td> 270,942 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200712 </td> <td> 271,778 </td> <td> 271,348 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200801 </td> <td> 268,679 </td> <td> 268,267 </td> <td> 0.15 </td> </tr> <tr> <td> 200802 </td> <td> 271,419 </td> <td> 270,994 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200803 </td> <td> 272,550 </td> <td> 272,092 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200804 </td> <td> 274,569 </td> <td> 274,121 </td> <td> 0.16 </td> </tr> <tr> <td> 200805 </td> <td> 270,219 </td> <td> 269,730 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200806 </td> <td> 271,172 </td> <td> 270,712 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200807 </td> <td> 271,861 </td> <td> 271,392 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200808 </td> <td> 269,775 </td> <td> 269,325 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200809 </td> <td> 270,241 </td> <td> 269,756 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200810 </td> <td> 271,291 </td> <td> 270,843 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200811 </td> <td> 270,434 </td> <td> 269,954 </td> <td> 0.18 </td> </tr> <tr> <td> 200812 </td> <td> 269,450 </td> <td> 268,989 </td> <td> 0.17 </td> </tr> <tr> <td> 200901 </td> <td> 262,841 </td> <td> 262,147 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 200902 </td> <td> 263,763 </td> <td> 263,056 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 200903 </td> <td> 263,203 </td> <td> 262,436 </td> <td> 0.29 </td> </tr> <tr> <td> 200904 </td> <td> 265,731 </td> <td> 264,946 </td> <td> 0.30 </td> </tr> <tr> <td> 200905 </td> <td> 261,132 </td> <td> 260,391 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 200906 </td> <td> 263,386 </td> <td> 262,658 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 200907 </td> <td> 262,956 </td> <td> 262,214 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 200908 </td> <td> 261,969 </td> <td> 261,237 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 200909 </td> <td> 262,060 </td> <td> 261,373 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 200910 </td> <td> 263,174 </td> <td> 262,506 </td> <td> 0.25 </td> </tr> <tr> <td> 200911 </td> <td> 263,328 </td> <td> 262,557 </td> <td> 0.29 </td> </tr> <tr> <td> 200912 </td> <td> 263,505 </td> <td> 262,786 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201001 </td> <td> 261,235 </td> <td> 260,643 </td> <td> 0.23 </td> </tr> <tr> <td> 201002 </td> <td> 262,544 </td> <td> 261,910 </td> <td> 0.24 </td> </tr> <tr> <td> 201003 </td> <td> 264,631 </td> <td> 263,987 </td> <td> 0.24 </td> </tr> <tr> <td> 201004 </td> <td> 267,161 </td> <td> 266,438 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201005 </td> <td> 262,485 </td> <td> 261,742 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 201006 </td> <td> 264,679 </td> <td> 263,993 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 201007 </td> <td> 264,143 </td> <td> 263,431 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201008 </td> <td> 263,211 </td> <td> 262,525 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 201009 </td> <td> 263,736 </td> <td> 263,036 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201010 </td> <td> 264,390 </td> <td> 263,695 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 201011 </td> <td> 264,231 </td> <td> 263,500 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 201012 </td> <td> 264,757 </td> <td> 264,048 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201101 </td> <td> 260,841 </td> <td> 260,146 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201102 </td> <td> 262,235 </td> <td> 261,546 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 201103 </td> <td> 263,085 </td> <td> 262,355 </td> <td> 0.28 </td> </tr> <tr> <td> 201104 </td> <td> 264,981 </td> <td> 264,299 </td> <td> 0.26 </td> </tr> <tr> <td> 201105 </td> <td> 260,881 </td> <td> 260,166 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201106 </td> <td> 264,008 </td> <td> 263,305 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201107 </td> <td> 263,372 </td> <td> 262,709 </td> <td> 0.25 </td> </tr> <tr> <td> 201108 </td> <td> 262,141 </td> <td> 261,513 </td> <td> 0.24 </td> </tr> <tr> <td> 201109 </td> <td> 262,954 </td> <td> 262,339 </td> <td> 0.23 </td> </tr> <tr> <td> 201110 </td> <td> 263,935 </td> <td> 263,332 </td> <td> 0.23 </td> </tr> <tr> <td> 201111 </td> <td> 263,824 </td> <td> 263,118 </td> <td> 0.27 </td> </tr> <tr> <td> 201112 </td> <td> 264,298 </td> <td> 263,630 </td> <td> 0.25 </td> </tr> <tr> <td> 201201 </td> <td> 260,216 </td> <td> 259,230 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 201202 </td> <td> 262,775 </td> <td> 261,798 </td> <td> 0.37 </td> </tr> <tr> <td> 201203 </td> <td> 264,423 </td> <td> 263,557 </td> <td> 0.33 </td> </tr> <tr> <td> 201204 </td> <td> 265,288 </td> <td> 264,388 </td> <td> 0.34 </td> </tr> <tr> <td> 201205 </td> <td> 261,559 </td> <td> 260,653 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201206 </td> <td> 263,166 </td> <td> 262,262 </td> <td> 0.34 </td> </tr> <tr> <td> 201207 </td> <td> 262,653 </td> <td> 261,695 </td> <td> 0.37 </td> </tr> <tr> <td> 201208 </td> <td> 261,320 </td> <td> 260,326 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 201209 </td> <td> 261,530 </td> <td> 260,493 </td> <td> 0.40 </td> </tr> <tr> <td> 201210 </td> <td> 262,870 </td> <td> 261,692 </td> <td> 0.45 </td> </tr> <tr> <td> 201211 </td> <td> 262,396 </td> <td> 261,543 </td> <td> 0.33 </td> </tr> <tr> <td> 201212 </td> <td> 262,299 </td> <td> 261,398 </td> <td> 0.34 </td> </tr> <tr> <td> 201301 </td> <td> 258,397 </td> <td> 257,253 </td> <td> 0.44 </td> </tr> <tr> <td> 201302 </td> <td> 260,596 </td> <td> 259,413 </td> <td> 0.46 </td> </tr> <tr> <td> 201303 </td> <td> 262,058 </td> <td> 260,853 </td> <td> 0.46 </td> </tr> <tr> <td> 201304 </td> <td> 265,220 </td> <td> 263,932 </td> <td> 0.49 </td> </tr> <tr> <td> 201305 </td> <td> 261,195 </td> <td> 259,835 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201306 </td> <td> 262,353 </td> <td> 261,015 </td> <td> 0.51 </td> </tr> <tr> <td> 201307 </td> <td> 261,417 </td> <td> 259,950 </td> <td> 0.56 </td> </tr> <tr> <td> 201308 </td> <td> 260,661 </td> <td> 259,206 </td> <td> 0.56 </td> </tr> <tr> <td> 201309 </td> <td> 261,012 </td> <td> 259,504 </td> <td> 0.58 </td> </tr> <tr> <td> 201310 </td> <td> 262,716 </td> <td> 261,149 </td> <td> 0.60 </td> </tr> <tr> <td> 201311 </td> <td> 262,995 </td> <td> 261,354 </td> <td> 0.63 </td> </tr> <tr> <td> 201312 </td> <td> 262,349 </td> <td> 260,735 </td> <td> 0.62 </td> </tr> <tr> <td> 201401 </td> <td> 259,345 </td> <td> 257,739 </td> <td> 0.62 </td> </tr> <tr> <td> 201402 </td> <td> 260,730 </td> <td> 259,067 </td> <td> 0.64 </td> </tr> <tr> <td> 201403 </td> <td> 263,004 </td> <td> 261,353 </td> <td> 0.63 </td> </tr> <tr> <td> 201404 </td> <td> 266,108 </td> <td> 264,413 </td> <td> 0.64 </td> </tr> <tr> <td> 201405 </td> <td> 262,574 </td> <td> 260,690 </td> <td> 0.72 </td> </tr> <tr> <td> 201406 </td> <td> 263,945 </td> <td> 262,105 </td> <td> 0.70 </td> </tr> <tr> <td> 201407 </td> <td> 263,165 </td> <td> 261,291 </td> <td> 0.72 </td> </tr> <tr> <td> 201408 </td> <td> 261,789 </td> <td> 259,941 </td> <td> 0.71 </td> </tr> <tr> <td> 201409 </td> <td> 262,878 </td> <td> 261,022 </td> <td> 0.71 </td> </tr> <tr> <td> 201410 </td> <td> 263,634 </td> <td> 261,662 </td> <td> 0.75 </td> </tr> <tr> <td> 201411 </td> <td> 263,518 </td> <td> 261,574 </td> <td> 0.74 </td> </tr> <tr> <td> 201412 </td> <td> 263,318 </td> <td> 261,505 </td> <td> 0.69 </td> </tr> <tr> <td> 201501 </td> <td> 258,025 </td> <td> 256,662 </td> <td> 0.53 </td> </tr> <tr> <td> 201502 </td> <td> 258,422 </td> <td> 257,075 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201503 </td> <td> 260,606 </td> <td> 259,253 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201504 </td> <td> 264,471 </td> <td> 263,067 </td> <td> 0.53 </td> </tr> <tr> <td> 201505 </td> <td> 259,684 </td> <td> 258,383 </td> <td> 0.50 </td> </tr> <tr> <td> 201506 </td> <td> 261,836 </td> <td> 260,549 </td> <td> 0.49 </td> </tr> <tr> <td> 201507 </td> <td> 261,248 </td> <td> 259,949 </td> <td> 0.50 </td> </tr> <tr> <td> 201508 </td> <td> 259,480 </td> <td> 258,149 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201509 </td> <td> 260,049 </td> <td> 258,714 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201510 </td> <td> 261,302 </td> <td> 259,912 </td> <td> 0.53 </td> </tr> <tr> <td> 201511 </td> <td> 260,811 </td> <td> 259,449 </td> <td> 0.52 </td> </tr> <tr> <td> 201512 </td> <td> 260,966 </td> <td> 259,686 </td> <td> 0.49 </td> </tr> <tr> <td> 201601 </td> <td> 257,639 </td> <td> 256,250 </td> <td> 0.54 </td> </tr> <tr> <td> 201602 </td> <td> 259,812 </td> <td> 258,561 </td> <td> 0.48 </td> </tr> <tr> <td> 201603 </td> <td> 262,375 </td> <td> 261,059 </td> <td> 0.50 </td> </tr> <tr> <td> 201604 </td> <td> 264,610 </td> <td> 263,175 </td> <td> 0.55 </td> </tr> <tr> <td> 201605 </td> <td> 259,531 </td> <td> 258,078 </td> <td> 0.56 </td> </tr> <tr> <td> 201606 </td> <td> 262,119 </td> <td> 260,621 </td> <td> 0.57 </td> </tr> <tr> <td> 201607 </td> <td> 261,820 </td> <td> 260,343 </td> <td> 0.57 </td> </tr> <tr> <td> 201608 </td> <td> 259,938 </td> <td> 258,452 </td> <td> 0.57 </td> </tr> <tr> <td> 201609 </td> <td> 260,588 </td> <td> 259,097 </td> <td> 0.58 </td> </tr> <tr> <td> 201610 </td> <td> 261,903 </td> <td> 260,350 </td> <td> 0.60 </td> </tr> <tr> <td> 201611 </td> <td> 261,716 </td> <td> 260,225 </td> <td> 0.57 </td> </tr> <tr> <td> 201612 </td> <td> 262,131 </td> <td> 260,508 </td> <td> 0.62 </td> </tr> <tr> <td> 201701 </td> <td> 259,005 </td> <td> 257,431 </td> <td> 0.61 </td> </tr> <tr> <td> 201702 </td> <td> 260,444 </td> <td> 258,984 </td> <td> 0.56 </td> </tr> <tr> <td> 201703 </td> <td> 262,386 </td> <td> 260,753 </td> <td> 0.63 </td> </tr> <tr> <td> 201704 </td> <td> 265,818 </td> <td> 264,224 </td> <td> 0.60 </td> </tr> <tr> <td> 201705 </td> <td> 261,204 </td> <td> 259,549 </td> <td> 0.64 </td> </tr> <tr> <td> 201706 </td> <td> 263,381 </td> <td> 261,774 </td> <td> 0.61 </td> </tr> <tr> <td> 201707 </td> <td> 263,238 </td> <td> 261,640 </td> <td> 0.61 </td> </tr> <tr> <td> 201708 </td> <td> 261,116 </td> <td> 259,433 </td> <td> 0.65 </td> </tr> <tr> <td> 201709 </td> <td> 262,590 </td> <td> 260,937 </td> <td> 0.63 </td> </tr> <tr> <td> 201710 </td> <td> 262,930 </td> <td> 261,135 </td> <td> 0.69 </td> </tr> <tr> <td> 201711 </td> <td> 263,003 </td> <td> 261,425 </td> <td> 0.60 </td> </tr> <tr> <td> 201712 </td> <td> 263,703 </td> <td> 262,048 </td> <td> 0.63 </td> </tr> <tr> <td> 201801 </td> <td> 261,140 </td> <td> 260,196 </td> <td> 0.36 </td> </tr> <tr> <td> 201802 </td> <td> 261,492 </td> <td> 260,562 </td> <td> 0.36 </td> </tr> <tr> <td> 201803 </td> <td> 264,889 </td> <td> 263,967 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201804 </td> <td> 267,501 </td> <td> 266,566 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201805 </td> <td> 264,087 </td> <td> 263,171 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201806 </td> <td> 265,922 </td> <td> 265,078 </td> <td> 0.32 </td> </tr> <tr> <td> 201807 </td> <td> 265,162 </td> <td> 264,321 </td> <td> 0.32 </td> </tr> <tr> <td> 201808 </td> <td> 263,714 </td> <td> 262,838 </td> <td> 0.33 </td> </tr> <tr> <td> 201809 </td> <td> 263,681 </td> <td> 262,816 </td> <td> 0.33 </td> </tr> <tr> <td> 201810 </td> <td> 265,714 </td> <td> 264,855 </td> <td> 0.32 </td> </tr> <tr> <td> 201811 </td> <td> 266,324 </td> <td> 265,408 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201812 </td> <td> 265,166 </td> <td> 264,240 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 201901 </td> <td> 259,485 </td> <td> 258,445 </td> <td> 0.40 </td> </tr> <tr> <td> 201902 </td> <td> 261,171 </td> <td> 260,101 </td> <td> 0.41 </td> </tr> <tr> <td> 201903 </td> <td> 263,044 </td> <td> 261,950 </td> <td> 0.42 </td> </tr> <tr> <td> 201904 </td> <td> 266,899 </td> <td> 265,764 </td> <td> 0.43 </td> </tr> <tr> <td> 201905 </td> <td> 262,793 </td> <td> 261,720 </td> <td> 0.41 </td> </tr> <tr> <td> 201906 </td> <td> 265,378 </td> <td> 264,286 </td> <td> 0.41 </td> </tr> <tr> <td> 201907 </td> <td> 265,340 </td> <td> 264,397 </td> <td> 0.36 </td> </tr> <tr> <td> 201908 </td> <td> 264,042 </td> <td> 263,082 </td> <td> 0.36 </td> </tr> <tr> <td> 201909 </td> <td> 264,359 </td> <td> 263,393 </td> <td> 0.37 </td> </tr> <tr> <td> 201910 </td> <td> 266,282 </td> <td> 265,207 </td> <td> 0.41 </td> </tr> <tr> <td> 201911 </td> <td> 265,804 </td> <td> 264,801 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 201912 </td> <td> 265,453 </td> <td> 264,445 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202001 </td> <td> 261,364 </td> <td> 260,485 </td> <td> 0.34 </td> </tr> <tr> <td> 202002 </td> <td> 262,278 </td> <td> 261,362 </td> <td> 0.35 </td> </tr> <tr> <td> 202003 </td> <td> 263,130 </td> <td> 262,134 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202004 </td> <td> 264,336 </td> <td> 263,289 </td> <td> 0.40 </td> </tr> <tr> <td> 202005 </td> <td> 257,675 </td> <td> 256,696 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202006 </td> <td> 261,493 </td> <td> 260,511 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202007 </td> <td> 262,474 </td> <td> 261,470 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202008 </td> <td> 260,689 </td> <td> 259,727 </td> <td> 0.37 </td> </tr> <tr> <td> 202009 </td> <td> 262,430 </td> <td> 261,431 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202010 </td> <td> 265,000 </td> <td> 263,967 </td> <td> 0.39 </td> </tr> <tr> <td> 202011 </td> <td> 263,368 </td> <td> 262,369 </td> <td> 0.38 </td> </tr> <tr> <td> 202012 </td> <td> 263,644 </td> <td> 262,654 </td> <td> 0.38 </td> </tr> </table> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>統計委員会への手紙「毎月勤労統計調査で2018年1月から採用されている誤った推計法について」<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220122/toukeiiinkai">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220122/toukeiiinkai</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2022-01-02</dt> <dd>公開</dd> <dt>2022-01-22</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-74a61bb3" name="f-74a61bb3" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> この変更は、始めてすぐに影響が出るものではない。影響が出てくるのは、層間移動事業所がある程度積み上がったあとからである。<a href="https://www.nishinippon.co.jp/item/n/448833/">2018&#x5E74;&#x306B;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6570;&#x5024;&#x306E;&#x304A;&#x304B;&#x3057;&#x3044;&#x3053;&#x3068;&#x304C;&#x5642;&#x3055;&#x308C;&#x308B;&#x3088;&#x3046;&#x306B;&#x306A;&#x3063;&#x305F;&#x306E;&#x306F;&#x5E74;&#x521D;&#x3081;&#x3067;&#x306F;&#x306A;&#x304F;&#x3001;3&#x6708;&#x4EE5;&#x964D;&#x306E;&#x6570;&#x5024;&#x306B;&#x95A2;&#x3057;&#x3066;&#x3067;&#x3042;&#x3063;&#x305F;</a> のは、この変更の性質を考えると重要かもしれない。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-96d5c70a" name="f-96d5c70a" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 「政府統計の総合窓口」(e-Stat) の「毎月勤労統計調査 全国調査」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> から「実数原表・実数推計」の「給付のための推計値 (2004年1月~2013年3月)」掲載のExcelファイルによる (2022-01-01 ダウンロード)。 </span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-ec433259" name="f-ec433259" class="footnote-number">*3</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 第一種事業所 (労働者30人以上規模) は2007, 2009, 2012, 2015, 2018年に対象事業所の入れ替えをおこなっている。 </span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-3eb097bb" name="f-3eb097bb" class="footnote-number">*4</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 2009, 2012, 2018年にベンチマークを更新している。 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#benchmark">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#benchmark</a> 参照。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-29b2667b" name="f-29b2667b" class="footnote-number">*5</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 2010-2011年は、標本抽出時と集計時で異なる産業分類を使ったために不正な集計となっていた。 <a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> 5節参照。</span></p> </div> remcat 毎月勤労統計調査、抽出率逆数の扱いを2018年1月から改悪していたことが判明 hatenablog://entry/13574176438047290567 2021-12-29T16:05:35+09:00 2022-01-02T14:54:18+09:00 毎月勤労統計調査の抽出率逆数の扱いがおかしいことについて、10月に「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者にあてて情報提供していた。その内容が、11月5日の第3回会議 で言及されたようである。この件についてこれまで書いてきた記事は、つぎの5本。 毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap (9月11日) 母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか https://remcat.hatenadiary.jp/entry/202… <p>毎月勤労統計調査の抽出率逆数の扱いがおかしいことについて、10月に「<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;</a>」参加者にあてて情報提供していた。その内容が、<a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21639.html">11&#x6708;5&#x65E5;&#x306E;&#x7B2C;3&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;</a> で言及されたようである。</p><p>この件についてこれまで書いてきた記事は、つぎの5本。</p> <dl> <dt>毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> (9月11日)</dd> <dt>母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> (9月20日)</dd> <dt>毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> (10月9日)</dd> <dt>層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角</dt> <dd> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate</a> (10月14日)</dd> <dt>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者への手紙</dt> <dd><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter</a> (10月17日)</dd> </dl><p>さて、この第3回ワーキンググループ会議でどんなやりとりがあったのか、議事録で確認しておこう。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html"> <p>○加藤主査<br /> 〔……〕<br /> 外部の有識者の方から、母集団労働者の補正に関して雇用保険データの適用だけでなく、抽出率逆数の扱いの影響もある旨の情報を頂いています。事務局から、現状の抽出率逆数の取扱いについて教えていただきたいと思います。また、今後の取扱いや検討の方向性について、考えがあれば教えていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。</p><br /> <p>○野口統計管理官<br /> 〔……〕毎月勤労統計調査の結果の推計についてですが、結果の推計を用いている事業所規模30人以上の第一種事業所の抽出率逆数については、平成30年1月にローテーションサンプリングを導入したことに伴って抽出率逆数を使用することになっています。その際の抽出率逆数ですが、 <strong>抽出時点ではなく、集計時点の産業規模により抽出率逆数を用いています。 </strong>これは調査対象事業所の規模が変わった場合に、抽出時点の産業規模による抽出率逆数を用いますと、<strong>同じ規模の他の調査票と異なる重み、いわゆるウェイトが異なることとなりますので、</strong> 特定の調査票が結果に大きく影響を与えることがあるということを懸念したものです。特定の調査票の影響を避け、安定的な結果を得るための対応として、毎月勤労統計調査では抽出率逆数を集計時点のものを用いて、結果の推計をさせていただいています。</p><p>一方、主査から御質問がありました毎月勤労統計調査の <strong>母集団労働者数の推計について</strong> ですが、<strong>ローテーションサンプリング導入以前から抽出率逆数を用いていました</strong> が、<strong>平成30年1月以降については、集計時に用いる抽出率逆数の使い方との整合性を保つという考えに立ちまして、集計時点の抽出率逆数を用いる</strong> こととしています。結論から申しますと、結果の推計の時点、それから母集団労働者の推計の時点、この両方について調査の集計時点の抽出率逆数を用いて、整合性を持って毎月勤労統計調査のデータを作成するという方式です。なお、抽出率逆数の取扱いについては、母集団労働者数の推計で用いていますので、今後の課題として母集団労働者数の推計における雇用保険データの補正の適合度合いの検証の中で、併せて御議論いただくということも考えています。その議論の中で、改めて私ども事務局から抽出率逆数の取扱いの考え方やデータをお示ししながら、委員の皆様に御議論いただけると有り難いと考えています。以上です。<br /> ―――――<br /> 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 第3回会議 (2021-11-05) 議事録<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用者による〕</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html</a></cite> </blockquote> <p>野口統計管理官の答えのうち、第1段落が (給与等の) 結果推計に関わるもの、第2段落が母集団労働者数推計に関わるものである。どちらについても、2018年1月以降は<a href="#f-e110f6b4" name="fn-e110f6b4" title=" 野口統計管理官の「ローテーションサンプリング導入以前から抽出率逆数を用いていましたが、平成30年1月以降については……」という説明は、2017年12月までは抽出率逆数を正しく用いて推計をおこなっていたように読める。そうであれば、これは朗報である。事業所別に抽出率を参照する仕組みを現行のシステムがすでに持っているのであれば、大きな改修を施すことなく正しい集計方法に戻せる。 ">*1</a> 「集計時点の抽出率逆数」を用いている、という。これはつまり、おなじ事業所であっても、層間移動するたびに、適用される抽出率逆数の値が変わる、ということを意味している。</p><p>もちろんこれはダメな操作である。調査の結果えられた数値に「抽出率逆数」をかけるのは、サンプリングのときの抽出確率が事業所によってちがうからなので、当然サンプリング時に適用した抽出率から求めるべきもの。同一の事業所に対しては、おなじ値を一貫して使うべきものである。</p><p>厚生労働省の担当者は、この理屈を理解していないようだ。「同じ規模の他の調査票と異なる重み」をあたえて集計することが何か問題であるかのような言い方である。おなじ規模の事業所を全部おなじ重みで集計するというのは単純加算するのとおなじことだ (これは後の段階で「推計比率」によって調整されるからなのだが、それについては <a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の2.4節参照)。2017年12月までの第一種事業所に関しては、実際そうやっていた。それではまずい (抽出率がちがう事業所はちがう重みで集計しなければならない) というので、抽出率逆数をかけるステップをわざわざ設けたのではないか。</p><p>これだけでもヒドいのであるが、議事録を読むかぎり、統計の専門家としてこの会議に参加していた委員も、この点わかっていないようである。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html"> <p>○高橋委員<br /> 肌感覚で結構なのですが、推計などをされていて、事業所規模が急に大きくなったり、小さくなったり、産業が急に変わるということが、頻繁に起こるということはありますか。最近M&Aなども特に増えていますので、そういうこともあるのかなと思いますが。</p><br /> <p>○高田雇用・賃金福祉統計室長補佐<br /> 厚生労働省の高田です。御質問について、具体的な数字が今手元にあるわけではないので、感覚的な部分によるのですが、先生がおっしゃられたとおり、正に合併などでの事業所規模が大きく変わる場合なども、比較的見受けられるように思います。あるいは業種によっては、季節性である時期にちょっと規模が大きくなったりなど、そういったケースも、ものによっては見受けられます。ちょっと細かいところまで申し上げられないのですが、感覚的には、特定の業種ではそれなりの頻度で規模変更は起こっていると感じています。</p><br /> <p>○高橋委員<br /> ありがとうございます。そういうことがやはり頻繁に起こるようであれば、<strong>現状の推計方法も合理性がある</strong> のではないでしょうか。<strong>どちらが正しいということもない</strong> と思いますが、現状そういう感覚を踏まえて今の推計方法を取っていらっしゃると思いますので、毎勤の場合はどうするのがより適しているか、数字を確認しながら、今後、皆さんで話し合えたらと思っています。</p><br /> <p>○加藤主査<br /> ありがとうございます。なかなか難しい問題で、確かに高橋先生の御指摘のとおりかなと私も思っています。ほかにいかがでしょうか。〔……〕<strong>移動した場合に抽出率逆数の取扱いについては、いろいろな考え方がある</strong> のだろうと思います。どのような取扱いがよいのかということについては、慎重な検討が必要かと考えますが、現行の取扱いは結果の集計と母集団労働者数の推計の整合性を保つための処理であって、一定の合理性があるのではないかと現時点では判断できるかと思います。<br /> ―――――<br /> 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 第3回会議 (2021-11-05) 議事録<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用者による〕</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html</a></cite> </blockquote> <p>もちろん、「移動した場合に抽出率逆数の取扱いについては、いろいろな考え方がある」などということはない。抽出したときに決まるウエイトを使う以外に、偏りのない推計値を得る方法がないからだ。それ以外のウエイトを使う方法はすべて非合理である。</p> <div class="section"> <h3 id="explan">毎月勤労統計調査における2段階の推計</h3> <p>これだけでは納得いかない読者もいるかもしれないので、説明を加えておく。</p><p>まず、毎月勤労統計調査における「推計」は2段階にわけておこなわれることを理解しておく必要がある (<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の2節も参照のこと)。</p> <ol> <li>標本抽出枠 (事業所母集団データベース) に登録されている事業所のうち、調査によって有効回答が得られた事業所が代表する部分について、値を推定</li> <li>これで得た労働者数と全国全事業所の労働者数推計値との比 (推計比率) を使って、母集団の値を推定</li> </ol><p>以下では、 前者を「調査数値復元」、後者を「比推定」と呼ぶ。抽出率逆数の扱いは、これらの両方に関わる。</p> <ul> <li>調査数値復元では、抽出率逆数をそのままウエイトとして使う</li> <li>比推定では、母集団労働者数の推計値を調査数値復元した労働者数で割ってウエイトを求める (これを「推計比率」と呼んでいる) のだが、母集団労働者数推計値を求めるときの数式に、抽出率逆数が入っている</li> </ul><p>議事録中の野口統計管理官の発言で「結果の推計についてですが」と言っているのが「調査数値復元」に関わる部分、「母集団労働者数の推計について」と言っているのが「比推定」に関わる部分である。</p><p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">10&#x6708;17&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で取り上げたのは後者だけだったのだが、ここではまず前者から、簡単な架空例を使って説明しよう。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="weight">調査数値復元と抽出率逆数</h3> <p>ある産業について事業所母集団データベースをみたとき、規模496-504人の事業所が各4つ (合計32事業所) 登録されていたとしよう (図1)。これを標本抽出枠として、500人以上規模は1/1の抽出率、499人以下規模は1/4の抽出率で事業所を抽出する。抽出した調査対象が緑丸と赤丸である。白丸の事業所は調査しないので、調査データが得られない。</p><p>調査した事業所からはすべて有効な回答を得られたとしよう。</p> <div class="section"> <h4>図1: 移動がない場合の調査数値復元</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229105911" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229105911.png" alt="f:id:remcat:20211229105911p:image" width="765" height="300" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>このとき、事業所の規模がまったく変動していなければ、500人以上規模を重み1で、499人以下規模を重み4で集計すれば、ほぼ真の労働者数に近い結果になる (図1)。500人以上規模は全数調査だから、そのまま合計すればいい。<br /> 499人以下規模は、全16事業所中4つしか調査していないから、調査結果を4倍する。抽出事業所がちょっと偏っている (498人規模事業所が1つも選ばれず、496人規模事業所が2つ選ばれてる) ために労働者数がわずかに小さくなってしまうものの、ほぼ正確な推計値が得られる。</p><p>しかし現実の世界では、時間が経つと、事業所が雇う労働者数が変化する。当初は500人以上だった事業所が499人以下に減ったり、499人以下だった事業所が500人以上になったりして、次第に混ざりあっていき、たとえば図2のようになる。</p> </div> <div class="section"> <h4>図2: 相当量の移動が起きた後の調査数値復元:正しい方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229110611" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229110611.png" alt="f:id:remcat:20211229110611p:image" width="775" height="293" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>このときも、抽出時の抽出率逆数をそのまま使って集計すれば、偏らない推定値が得られる。</p><p>ところが、厚生労働省が実際つかっている調査数値復元の方法はこれとはちがい、集計時に500人以上規模の事業所はすべて重み1で、499人以下規模なら重み4で復元する、というのである (図3)。これでは、500人以上規模事業所の労働者数は過少に、499人以下規模事業所の労働者数は過大に出てしまう。特に後者での乖離が著しい。</p> </div> <div class="section"> <h4>図3: 相当量の移動が起きた後の調査数値復元:間違った方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229110830" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229110830.png" alt="f:id:remcat:20211229110830p:image" width="772" height="293" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>こういうことが起きてしまうのは、調査対象事業所の背後に隠れて暗数となっている事業所のことを正しく推測できていないからだ。</p><p>図2, 図3では、標本抽出時点では499人以下の規模だった事業所4つのうち、2つが集計時点で500人以上規模になっている。1/4の確率で調査対象にした事業所のうち半分が移動したことを観測したのだから、調査対象にならなかった残り3/4の事業所も、半分くらいは移動している可能性が高い。その分を推測して加えなければ、推計値が過少になってしまう。図2 (正しい方式) ではこの推測をきちんとおこなっているのだが、図3 (厚生労働省方式) ではおこなっていない。</p><p>一方で、標本抽出時点で500人以上規模だった16事業所のうち7つが499人以下規模に移動しているが、これらは全数抽出されているので、背後に隠れて暗数となっている事業所は存在しない。499人以下規模の白丸 (非対象事業所) が7つあるが、これらについてはこの規模区分に残っている赤丸事業所の数値を4倍することで推測されているので、それでじゅうぶんなのだ。ところが図3では、緑丸事業所の数値も4倍するという本来不要な操作を加えることで、暗数を過大に推測する結果になっている。</p><p>以上が統計学上の標準的な説明ということになる。ところが、厚生労働省はこうした標準的な見解をとらない。 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">&#x7B2C;3&#x56DE;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x8B70;&#x4E8B;&#x9332;</a> では、野口統計管理官が「抽出時点の産業規模による抽出率逆数を用いますと……特定の調査票が結果に大きく影響を与えることがあるということを懸念した」と述べて、厚生労働省の調査数値復元方式を正当化していた。これは、図4, 図5のような状況を念頭に置いているのだろう。499人以下から500人以上への移動が1件だけあり、その1件がたまたま調査対象であった、というようなケースである。この移動事業所について4倍する (図4) よりは、1倍 (図5) のほうが、500人以上規模区分についての誤差は確かに小さくなる (499人以下規模のほうはどちらの方式でも変わらない)。</p> </div> <div class="section"> <h4>図4: 調査対象事業所1件のみが499人以下→500人以上に移動した場合の調査数値復元:正しい方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229113607" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229113607.png" alt="f:id:remcat:20211229113607p:image" width="800" height="291" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h4>図5: 調査対象事業所1件のみが499人以下→500人以上に移動した場合の調査数値復元:間違った方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229113633" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229113633.png" alt="f:id:remcat:20211229113633p:image" width="787" height="295" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>しかし、そういう特殊な状況をことさら抜き出して、それに特化した調査数値復元方法をとるというのはおかしな話である。499人以下規模から500人以上規模への移動が1件だけ起きるという場合、その1件がたまたま調査対象事業所の場合もあれば、非対象事業所の場合もある。後者の場合、移動自体を検知できないので、重み付けをどう操作しようと、500人以上規模の推計労働者数は過少になる (図6)。</p> </div> <div class="section"> <h4>図6: 非対象事業所1件のみが499人以下→500人以上に移動した場合の調査数値復元</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229114404" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229114404.png" alt="f:id:remcat:20211229114404p:image" width="787" height="296" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>厚生労働省の主張は、非対象事業所のみの移動については過少推計になることを許容するが、調査対象事業所のみが移動した場合だけは正確に推計しなければならない、ということに帰着する。しかし、そんなやりかたでは、500人以上規模の労働者数は平均的に過少推計されることになる。移動する事業所が調査対象であるかないかはランダムに決まる事柄であり、後者の確率は前者の3倍ある。したがって、調査対象事業所の移動を観測したときには、3倍の移動量を加算しなければならない。それではじめてバランスがとれる。図4がおこなっているのは、まさにそういうことだ。この特殊ケースだけをみたときに過大推計になることを、避ける必要はないのである。</p><p>さらに厚生労働省が見落としているのは、500人以上規模から499人以下規模への移動のことである。この場合、499人以下規模事業所の数値を厚生労働省方式 (図7) で復元すると、実際に移動した事業所数を4倍に水増ししてしまうので、必ず過大になる (500人以上規模のほうは正確に推計できる)。</p> </div> <div class="section"> <h4>図7: 調査対象事業所1件のみが500人以上→499人以下に移動した場合の調査数値復元:間違った方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229115712" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229115712.png" alt="f:id:remcat:20211229115712p:image" width="788" height="295" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h4>図8: 調査対象事業所1件のみが500人以上→499人以下に移動した場合の調査数値復元:正しい方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229115750" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229115750.png" alt="f:id:remcat:20211229115750p:image" width="787" height="297" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>調査数値復元において抽出率逆数をウエイトとして使うのは、調査対象事業所の背後には選ばれなかった非対象事業所が隠れており、その数は抽出率が小さいほど大きくなる、という理屈による。 1/<i>x</i> の確率で抽出された事業所から得た観測値は、その背後に <i>x</i> - 1 個の非対象事業所が隠れているものとしてあつかわなければならない。このウエイトは、その対象事業所がどれだけの確率で抽出されたかで決まるものであって、調査時点でどのような「層」に属しているかとは関係ないのである。全数抽出なら、隠れている非対象事業所はないのだから、ウエイトは1に固定しなければならない (図8)。</p><p>さて、上記例の検討からわかる通り、厚生労働省方式 (移動先の抽出率逆数を使う) の調査数値復元では、規模区分の境界付近の事業所は、抽出率の大きい側 (上記の例では500人以上規模) で過小に、抽出率の小さい側 (上記の例では499人以下規模) で過大になる。つまり、</p> <ul> <li>500人以上規模区分の下限付近<ins>に存在する事業所が、実態よりも少なく</ins></li> <li>499人以下規模区分の上限付近<ins>に存在する事業所が、実態よりも多く</ins></li> </ul><p><del>に存在する事業所が、実際よりもすくなく</del>カウントされているのである。<br /> [この上3行を 2021-12-30 訂正]</p><p>毎月勤労統計調査の標本設計は、おおむね、事業所規模が大きいほど抽出率も大きくなるようになっている。このため、厚生労働省方式の調査数値復元では、各規模区分内の事業所規模の分布が、真の分布より上方に偏って出てくることになる。一般に、事業所規模が大きいほど給与も高い傾向があるので、この方式を導入することで、平均給与を実態よりも高く推計しているものと期待できる。ただし、これが実際の集計結果においてどの程度のインパクトとなっているかはわからない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="ratio">比推定のための母集団労働者数推計</h3> <p>以上のようにして得られた調査数値復元結果に対して、さらに「推計比率」というのをかける。これは、</p> <ol> <li>調査対象のなかには回答してくれない事業所もあるが、その分は調査数値にはカウントされていない</li> <li>標本抽出以降に、事業所が新設されたり廃業したり規模・産業が変わったりして、母集団自体が変化している</li> </ol><p>からである。最新の情報を集めて、最新時点での各層の母集団労働者数を推計しておく。そして、それと上記の調査数値復元で得た労働者数との比を計算する。これを「推計比率」と呼ぶ。</p> <blockquote> <p>推計比率 = 推計母集団労働者数 / 調査数値復元による労働者数</p> </blockquote> <p>この推計比率をウエイトとした集計により、母集団についての推計値を得るのが「比推定」である。</p><p>この手続きは、調査数値復元における抽出率逆数の利用とはちがい、統計学的にきちんとした理屈がついてくるような話ではない。単に、産業がおなじで事業所規模がおなじなら似たような感じであることが多い、という素朴な経験則によりかかった推計である。本来であれば、実際のデータによってこの経験則を裏付ける作業 (たとえば新設事業所も既設事業所も平均給与はほぼおなじであることを定期的に確認する、など) が必要なはずであるが、そういう正当化はおこなわれていない。</p><p>ともかく、比推定をおこなうには、最新時点の母集団労働者数を推計しておく必要がある。この推計は、以下のようにして、毎月おこなわれる (くわしくは <a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の2節や <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method</a> を参照のこと)。<a href="#f-0e0c9912" name="fn-0e0c9912" title=" なお、事業所の全数調査である経済センサス等の結果が得られた場合、その値とその時点での母集団労働者数推計値との比を計算し、適当な時期にその比を使った補正をおこなう。これを「ベンチマークの更新」と呼ぶ。">*2</a><br /> </p> <ul> <li>毎月勤労統計調査の調査対象事業所に雇用されている労働者数の変動について調査数値復元をおこなうことにより、各層内での労働者数の変化を追跡する</li> <li>事業所新設・廃止等による労働者数の増減の比率を雇用保険事業所データから計算し、その分を加減する</li> <li>層間を移動した事業所の労働者数を毎月勤労統計調査から推計し、その分を加減する</li> </ul><p>この3番目の層間移動事業所の推計のところで、抽出率逆数問題が再び出てくる。この問題については <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">&#x300C;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x300D;&#x53C2;&#x52A0;&#x8005;&#x3078;&#x306E;&#x624B;&#x7D19;</a> (11月9日) で説明したところなので、くわしくはそちらを読んでいただきたい。</p><p>簡単に説明すると、図9のような感じである。</p> <div class="section"> <h4>図9: 規模境界付近の事業所が移動を繰り返した場合の母集団労働者数の推計:間違った方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229142512" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229142512.png" alt="f:id:remcat:20211229142512p:image" width="753" height="194" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>ある産業の500-999人規模事業所は全数抽出 (抽出率=1/1)、100-499人規模事業所は1/4の抽出率だとしよう。抽出されたなかにちょうど500人規模の事業所があったとする。この事業所の抽出率は1/1である。</p><p>しばらくして、この事業所の労働者がひとり辞め、499人になったとする。そうすると、この事業所は100-499人の規模区分に移動することになり、その分の労働者数に対応する249.5人を、500-999人規模の推計母集団労働者数から減らして100-499人規模に加える。なぜ499人ではなくその半分の人数になっているかというと、ここで「補正の適用度合い」という謎の係数 <i>L</i> = 0.5 をかけるからなのだが、これについてはここでは突っ込まない。</p><p>ここで移動が終わり、この事業所がずっと100-499人規模区分にとどまれば、それでたいして問題はない。問題が大きくなるのは、この事業所が再び人数を増やして500-999人規模に戻ったときである。ひとり増えて500人になったとすると、その分を推計母集団労働者数に反映させるのだが、そこで、4倍のウエイトをかけてしまう。つまり、500×4×0.5 = 1000 人分を、100-499人規模の推計母集団労働者数から減らして500-999人規模に加えている。この間に起こったことは、ひとつの事業所の労働者数が1人減ったあと、1人増えて元に戻ったということである。ところが、推計母集団労働者数は元に戻らない。1000 - 249.5 = 750.5人分が、100-499人規模から500-999人規模に移動してしまっていることになる。</p><p>こういうことが起きるのは、移動するたびにウエイトを変えているからだ。500-999人規模にいるときはその規模区分に割り当てられた抽出率逆数=1を使い、100-499人規模にいるときは抽出率逆数=4を使うので、上昇移動のときに移動させる人数は、下降移動のときの4倍になってしまうのである。</p><p>正しい推計にする方法は簡単であって、標本抽出時の抽出率を常に使うようにすればよい。そのような設定に変更した図10では、下降移動では249.5人、上昇移動では250人が移動することになり、図9のような大きな差は出ない。(0.5人の差が生じているのが気になる人もいると思うが、この前に層内での事業所の労働者数の増減を推計する段階があり、そちらでその層の労働者数を増減させたうえで移動させるので、推計母集団労働者数に最終的にあらわれる差はもっと小さくなる。)</p> </div> <div class="section"> <h4>図10: 規模境界付近の事業所が移動を繰り返した場合の母集団労働者数の推計:正しい方法</h4> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211229144221" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211229/20211229144221.png" alt="f:id:remcat:20211229144221p:image" width="756" height="192" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>厚生労働省が現在使っている方式では、図9のようなまちがった推計がおこなわれるため、抽出率の低い層から高い層に向かって労働者数が流出してしまう。毎月勤労統計調査の標本設計では事業所の規模が大きいほうが抽出率が高く設定されていることが多いので、実態とくらべて、大規模事業所を過剰に代表させた推計をおこなっているわけである。このことは、平均給与等を不当に高く推計するバイアスをもたらす。</p><p>特に500-999人規模においては、抽出率が基本的に1に設定されている (つまり全数調査) 一方で、隣接する100-499人規模では1/24, 1/36, 1/144といった小さな値が設定されている産業がある。これらの産業において500人前後の事業所がわずかな労働者数増減を繰り返しただけで、母集団労働者数推計値は非常に大きな影響を受けることになる。たとえば、500人に144×0.5をかけると3万2000人である。500-999人規模事業所全体の母集団労働者数 (200万人から300万人程度) の1%以上が、これで動いてしまう。</p><p><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x306E;&#x7B2C;2&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;&#x8CC7;&#x6599;</a> で示されたように、毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計値は、全数調査であるセンサスの値から大きく乖離している。この乖離の大部分は、母集団労働者数の推計において抽出率逆数の使いかたをまちがえているせいであろう、というのが、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">9&#x6708;11&#x65E5;&#x4EE5;&#x964D;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で私が指摘してきたことであった。</p><p>今回、私が懸念したとおりの抽出率逆数の扱いになっていたことを厚生労働省が認めたのは、一歩前進と言えよう。一方で、この扱いがまちがった推計結果をもたらしていることについては厚生労働省は認めておらず、またワーキンググループに参加する専門家も厚生労働省の担当者の強弁に同調しているようにみえる。この点は大変残念なのだが、地道に批判を続けていくしかないのだろう。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>毎月勤労統計調査、不正な結果を是正したはずの2019年再集計値も間違っていた<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220102/rev2019</a> (2022年1月2日)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-12-29</dt> <dd>記事公開</dd> <dt>2021-12-30</dt> <dd>「・500人以上規模区分の下限付近 ・499人以下規模区分の上限付近 に存在する事業所が、実際よりもすくなくカウントされているのである。」となっていた箇所3行を「・500人以上規模区分の下限付近に存在する事業所が、実態よりも少なく ・499人以下規模区分の上限付近に存在する事業所が、実態よりも多くカウントされているのである。」に訂正</dd> <dt>2022-01-02</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-e110f6b4" name="f-e110f6b4" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 野口統計管理官の「ローテーションサンプリング導入以前から抽出率逆数を用いていましたが、平成30年1月以降については……」という説明は、2017年12月までは抽出率逆数を正しく用いて推計をおこなっていたように読める。そうであれば、これは朗報である。事業所別に抽出率を参照する仕組みを現行のシステムがすでに持っているのであれば、大きな改修を施すことなく正しい集計方法に戻せる。 </span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-0e0c9912" name="f-0e0c9912" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> なお、事業所の全数調査である経済センサス等の結果が得られた場合、その値とその時点での母集団労働者数推計値との比を計算し、適当な時期にその比を使った補正をおこなう。これを「ベンチマークの更新」と呼ぶ。</span></p> </div> remcat 自動音声のみの電話調査に答えてはならない hatenablog://entry/13574176438028351965 2021-11-01T08:36:21+09:00 2021-11-01T12:32:31+09:00 衆議院議員選挙期間中に、「ミヤギテレビ」を名乗る自動音声調査の電話がかかってきた。「ミヤギテレビ」というのは 宮城テレビ放送 が使っている通称なので、同社に問い合わせてみたところ、本当にそういう調査をやっているという答えだった。これは大変な事態だと判断して、警告を発するためにこの記事を書いている。電話は、冒頭で「ミヤギテレビ」と名乗り、衆議院議員選挙に関する特定の選挙区の調査であること、その選挙区の有権者でなければ電話を切ってください、データは匿名化して統計的分析結果だけを使います、というような説明をつづけたあと、具体的な質問項目を読み上げ、プッシュホンで番号を回答させる内容だった。質問がはじ… <p>衆議院議員選挙期間中に、「ミヤギテレビ」を名乗る自動音声調査の電話がかかってきた。「ミヤギテレビ」というのは <a href="https://www.mmt-tv.co.jp">&#x5BAE;&#x57CE;&#x30C6;&#x30EC;&#x30D3;&#x653E;&#x9001;</a> が使っている通称なので、同社に問い合わせてみたところ、本当にそういう調査をやっているという答えだった。これは大変な事態だと判断して、警告を発するためにこの記事を書いている。</p><p>電話は、冒頭で「ミヤギテレビ」と名乗り、衆議院議員選挙に関する特定の選挙区の調査であること、その選挙区の有権者でなければ電話を切ってください、データは匿名化して統計的分析結果だけを使います、というような説明をつづけたあと、具体的な質問項目を読み上げ、プッシュホンで番号を回答させる内容だった。質問がはじまったところで電話を切ったので、そこから先はわからない。質問項目に入るまでの部分 (冒頭の20秒程度?) に調査の目的やデータの使用範囲の説明はなく、連絡先の電話番号等も言わなかった。いそがしいときに電話をとったので、録音をすることができず、メモもとれなかったため、内容は正確には再現できない。</p><p>以前にも自動音声による同様の電話調査が来たことはあった。<a href="https://twitter.com/twremcat/status/625113333843144704">&#x6700;&#x521D;&#x306F;2015&#x5E74;7&#x6708;</a> だったのだが、それ以降の約6年間には一度もなかった (留守中にかかってきていた可能性はある)。ところが、今年7月から10月中旬までの間に同様の電話がおなじ電話番号に3件かかってきており、急激に増えている印象を持ってはいた。</p><p>拙宅は固定電話の番号をふたつ持っているのだが、計5件 (2015年の1件、今年10月中旬までの3件、今回の「ミヤギテレビ」調査) の電話は、すべてその片方にかかってきたものである。もうひとつには一度もきていない。また、日頃かかってくる各種セールス・勧誘の電話も同様の傾向であり、ふたつある電話番号の片方だけに来る。この辺もあからさまに不審である<a href="#f-a3934d8c" name="fn-a3934d8c" title="裏と表が半分ずつの確率で出るコインを5枚投げたとき、5枚すべてが表になる確率は、1/32 すなわち約3%である。ありえないこととは言い切れないのだが、相当に稀な現象。電話する先は無作為には選ばれていないのだろうと考えておくべき状況である。">*1</a>。 なにか電話番号リストが出回っていて、そこに載っている番号に集中的にかけているのではないだろうか<a href="#f-3fcc28d1" name="fn-3fcc28d1" title="2014年のブログ記事 https://gl17.hatenadiary.org/entry/20140531/1401522035 で「年2~3回くらい」電話世論調査が来る、と書いていた人がいる。正体不明の調査に答えているとそういうことになるのであろう。">*2</a>。</p><p>ただ、これまでかかってきた電話は、「ヨロンチョーサセンター」のような、聞いたこともない会社によるものであった。もうちょっと外来語っぽい名前のものもあったと思うが、ちゃんとおぼえていない。電話調査にかぎらず、質の低い調査が横行しているのは以前から問題になってきたのだが、調査をおこなう企業や団体は無数にあり、それらのすべてに質の高い仕事を期待するのも詮無いことである。幸い、6年前に調べたところでは、大手の調査会社や報道機関が自動音声のみによる電話調査をおこなうことはないようであった。</p><p>現在でも、新聞社等の電話調査の説明は、つぎのような内容である。(そうでない事例については<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211101/miyatele#appendix">&#x300C;&#x4ED8;&#x8A18;&#xFF1A;&#x8ABF;&#x67FB;&#x696D;&#x754C;&#x306F;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3059;&#x308B;&#x5074;&#x306E;&#x90FD;&#x5408;&#x3057;&#x304B;&#x8003;&#x3048;&#x306A;&#x3044;&#x300D;</a> 参照。)</p> <blockquote cite="https://www.asahi.com/politics/yoron/rdd/"> <p> 朝日新聞社では、「電話」「郵送」などの方法で、国民の意見を探るさまざまな世論調査を実施しています。このうち、内閣支持率などを調べる毎月の調査や、大きな出来事があったときに実施する緊急調査は、RDD方式による電話調査で行っています。</p><p>〔……〕</p><p> 「RDD」とは「ランダム・デジット・ダイヤリング(Random Digit Dialing)」の略で、コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号を作り、電話をかけて調査する方法です。この方式だと、電話帳に番号を掲載していない人にも調査をお願いすることができます。</p><p>〔……〕</p><p>調査当日は、これらの番号に調査員が次々と電話をかけます。朝日新聞社では、<strong>機械による自動音声を使っての調査は実施していません。</strong></p><p>〔……〕</p><p> 世帯に電話がつながったら、調査の趣旨を説明した後、その世帯に住んでいる有権者の人数を聞きます。コンピューターでサイコロを振る形で、その中から1人を選んで調査の対象者になってもらいます。電話に最初に出た方を対象にすると、在宅率の高い主婦やご高齢の方の回答が多くなってしまい正確な調査になりません。</p><p> 選ばれた方が不在でも、一度決めた対象者は変えず、時間を変えて複数回電話をかけます。また、すぐには応じていただけない場合でも、重ねて協力をお願いしています。これも、回答者の構成を「有権者の縮図」に近づけるためです。<br /> ――――――<br /> 朝日新聞DIGITAL「「RDD」方式とは」(2021-10-31 閲覧)<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.asahi.com/politics/yoron/rdd/">https://www.asahi.com/politics/yoron/rdd/</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="https://www.nikkei-r.co.jp/pollsurvey/subjects.html"> <p>日本経済新聞社と日経リサーチは全国の有権者の皆様を対象に、電話による世論調査を実施し、日本経済新聞で報道しています。調査の対象者に選ばれたお宅には、日経リサーチが電話をかけさせていただき、調査へのご協力をお願いいたします。ご協力を了承していただければ、<strong>家族の中からお1人だけ回答していただく方をこちらで決めさせていただき、電話口でオペレーターが質問を読み上げます。</strong><br /> ――――――<br /> 日経リサーチ「対象に選ばれた方へ」(2021-10-31 閲覧)<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.nikkei-r.co.jp/pollsurvey/subjects.html">https://www.nikkei-r.co.jp/pollsurvey/subjects.html</a></cite> </blockquote> <p>2007年の統一地方選挙の際、『朝日新聞』が「自動音声でお手軽?世論調査 安く早く人気、質に課題も」という記事をウエブサイトに掲載している。</p> <blockquote cite="http://www.asahi.com/senkyo2007t/news/aTKY200703130274.html"> <p>「興味のない方はこのままお切りください」「次の、どの候補を支持しますか」……。</p><p> 受話器から録音された女性の声が流れ始める。4月の滋賀県議選を前に、ある候補者が都内の業者に依頼したオートコールによる世論調査だ。関心のある県政課題なども尋ね、プッシュボタンを押して答えてもらう。依頼した候補の関係者は「焦点の新幹線新駅の是非など有権者の風向きを見るのに参考にする」と話す。</p><p> オートコール技術を提供している市場調査会社「ジー・エフ」(本社・東京都文京区)が今年の統一地方選で請け負うのは、県議選や市長選の候補者ら合計で100人を超える。03年春の前回と比べ、ほぼ2倍に増えたという。</p><p> 〔……〕費用は従来の電話世論調査の10分の1程度と安く、1回1000サンプルで150万円。発注から2日後には結果が届く。</p><p>〔……〕</p><p> 〔……〕業者は乱立気味で、スーパーや住宅リフォームの市場動向調査の傍ら、副業で請け負う業者もいる。日本世論調査協会の吉川伸事務局長は「調査方法や個人情報の扱いなどは業者の倫理観に任されているのが現状。質の低い調査が増えれば、世論調査自体の信頼性を損なう」と心配もしている。<br /> ――――――<br /> 朝日新聞「自動音声でお手軽?世論調査 安く早く人気、質に課題も」asahi.com 2007年03月15日10時17分</p> <cite><a href="http://www.asahi.com/senkyo2007t/news/aTKY200703130274.html">http://www.asahi.com/senkyo2007t/news/aTKY200703130274.html</a></cite> </blockquote> <p>この記事の事例では、自動音声のみによる電話調査を使っていたのはマスメディアではなくて候補者本人であり、選挙戦を展開するための情報を迅速に得るためのものであったことがわかる。また、そのような調査は専門家からは「質の低い」ものとみなされており、世論調査自体の信頼性を損なう有害なものになりうることが指摘されていた。</p><p>候補者にしてみれば、このような「調査」は、街の声を聞いて有権者の意見を知る活動の一環なのだろうから、代表性のある標本で信頼性の高い分析結果をえるというようなことは必要ないのだろう。また、自分が当選することが最優先であって、社会にどのような損害をあたえようと気にしないのかもしれない。対象者に向けて開示されるのは調査会社の名前であって、依頼者の名前は秘密であるから、いい加減な調査会社を使っているということも表に出てこない。調査会社の陰に隠れて、裏で情報を集めるという話なのである。</p><p>今回の宮城テレビ放送の件は、そういうものとはかなり性格がちがう。これまでは「裏」の稼業としてコソコソとやられていたいい加減な調査を、いちおうは名の通った報道機関が「表」でやりはじめたのだ。これがさらにひろまっていくと、そのようなやりかたが調査方法として当たり前のものとみなされるようになってしまう可能性がある。それはふたつの意味で危険である。ひとつは、調査に答えた人の個人情報等が、情報を適切に管理しない (あるいは悪用する) 組織にわたってしまうこと。もうひとつは、社会調査全体が信用を失うので、調査によって精確なデータを得ることがますますむずかしくなる――結果として、さまざまな社会問題に適切な対応をすることができなくなる――ということである。</p> <div class="section"> <h3 id="why">何がまずいのか</h3> <p>自動音声のみによる電話調査がダメなのは、インフォームド・コンセントの原則に反しているからである。</p><p>たとえば、病院で何らかのリスクをともなう治療を開始するときには、病状とその治療方法、予想される効果と副作用などについて説明の説明を受けるだろう。不動産契約を結ぶ際には、業者がやはり契約の重要事項について説明する。そのときの「説明」が、自動音声での説明を一度再生するだけのもので、疑問に思ったことを質問する機会がなく、聞き逃したことについて再度聞かせてもらうこともできないとしたら、あなたはその相手を信用できるだろうか?</p><p>社会調査の場合も同様である。調査に応じるというのは、自分の個人情報やプライバシー (このケースでは政治信条に関わる意識と行動) を他人に渡して管理を委ねるということだ。それは危険な行為である。調査に協力する側としては、そのような情報をわたして大丈夫な相手かどうかが大問題であり、疑念を払拭する責任は調査を実施する側が負う。</p><p>自動音声だろうと何だろうと調査についての説明を対象者に聞かせたのだからそれで責任は果たしているのだ、というのが、このような調査を実施する側の言い分だろう。だが以下に論じるように (論じなくても常識的にわかる事柄のはずであるが)、そのようなやりかたでは、対象者が調査の意義とリスクを理解して合理的に判断できるとは期待できない。これではインフォームド・コンセントの原則は骨抜きになってしまう。そのことに気付かなかったとしたらその組織は無能であり、わかってやっているなら邪悪である。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="miyatele">ミヤギテレビ調査の問題点</h3> <p>具体的に、今回の自称「ミヤギテレビ」自動音声電話と宮城テレビ放送の対応について、問題点を洗い出しておこう。</p> <div class="section"> <h4>同一性問題</h4> <p>最も大きな問題は、その電話が <a href="https://www.mmt-tv.co.jp">&#x5BAE;&#x57CE;&#x30C6;&#x30EC;&#x30D3;&#x653E;&#x9001;</a> によるものだという保証がなにもなされなかったことである。両者を結びつけるのは、自動音声による電話の冒頭で「ミヤギテレビ」と名乗った、ということしかない。宮城テレビ放送が実施しているという調査と、私のところにかかってきた電話による調査が同一のものなのかどうかは、実はわからない。</p><p>そもそも「ミヤギテレビ」というのは通称に過ぎないし、類似した名前の別会社もあるのだから、それだけを名乗る (それ以上の自己紹介が何もない) というのが社会通念上不可解である。冒頭からいかにも「まともな団体ではない」感を漂わせる電話。この時点で相手をやめて電話を叩き切るのがまともなリスク感覚というものであろう。</p><p>「宮城県で放送事業をおこなっている株式会社宮城テレビ放送、通称ミヤギテレビです」とでも自己紹介すれば、かなりまともな感じにはなる。ただ、それは第一印象が多少よくなるというだけの話であって、信用できるかどうかはまた別の話である。人間は嘘をつく生き物なのだから、電話を突然かけてきた相手の言うことを全面的に信用するというのではお人好しに過ぎる。</p><p>この人は嘘をついていない、と対象者に確信してもらうことは、社会調査における最重要事項のひとつである。なにしろ、プライバシーに属する情報を見知らぬ人から聞き出そうというのだから。まともな団体が誠実にやっている調査であることを最初の接触で示し、信用してもらうための工夫を、私たちは発達させてきた。</p><p>訪問調査の場合には、調査そのものの前に、ハガキなどで協力の依頼をおこなうのが通例である。協力依頼状には、調査の目的や回答方法、日程などのほか、調査主体への連絡先を示し、問い合わせに答えられる態勢を整えておく。加えて、ウエブサイトを開設するなどして、複数の情報源でその調査について調べられるようにする。実際に訪問して調査をおこなう際には、調査員に身分証を携行させるとか、対象者から出るさまざまな疑問に答えられるようマニュアルを用意するなど、できる限り疑念を払拭する努力をする。</p><p>たとえば総務省統計局がおこなう「国勢調査」では、調査の詳細な解説が <a href="https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/">https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/</a> 以下にある。調査員については、Q&Aでつぎのように説明している。</p> <blockquote cite="https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/qa-7.html#g6"> <p>国勢調査の調査員は、総務大臣によって任命された非常勤の国家公務員で、調査員は、顔写真つきの「調査員証」や国勢調査の「腕章」を身に着けています。不審に思われた時は、訪問者の氏名を確認いただいて、お住まいの市区町村にお問い合わせいただければ、市区町村で身元の確認を行います。<br /> ――――――<br /> 総務省統計局「令和2年国勢調査に関するQ&A: 7.調査員について」(2021-10-31 閲覧)</p> <cite><a href="https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/qa-7.html#g6">https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/qa-7.html#g6</a></cite> </blockquote> <p>調査専門会社の場合も、つぎのような感じである。</p> <blockquote cite="https://www.crs.or.jp/contact/#faq"> <p>お宅を訪問する調査員は、原則として皆様がお住まいの都道府県内に在住の者です。主婦や定年退職者が中心で、全国で約800名が当社の登録調査員として稼動しており、調査期間中、当社の「調査員証」を携帯しています。<br /> ――――――<br /> 中央調査社「調査対象者の皆様へ」(2021-10-31 閲覧)</p> <cite><a href="https://www.crs.or.jp/contact/#faq">https://www.crs.or.jp/contact/#faq</a></cite> </blockquote> <p>郵送調査の場合には、通常は調査実施組織の住所に調査票を返送するので、それが直接的な保証になる。調査目的やデータ管理について説明する文書を添えるとか、連絡先を示して質問を受け付ける、ウエブサイトでも情報を公開するといったことも当然おこなう。</p><p>電話調査の現状についてはくわしくないのだが、私の知る範囲では、通常は人間のオペレーターが話す (上記の朝日新聞社や日経リサーチの説明を参照) ので、疑問点はその場で質すことができる。「怪しい団体の怪しい調査でないか、裏をとってから考えたいので、1時間後にかけなおして」といった交渉をすることも可能である。1時間もあれば、その団体の公式サイトに調査の情報が載っているか調べ、調査で使用している電話番号を入手する、といった手段で同一性を確認できる。</p><p>さて、今回、宮城テレビ放送の調査について調べたり、視聴者センターに問い合わせたりして驚いたのは、彼らが <strong>自分たちがかけている電話の同一性を保証する手段をなにも提供しなかった</strong> ことである。</p><p>宮城テレビ放送の公式サイト <a href="https://www.mmt-tv.co.jp">https://www.mmt-tv.co.jp</a> には、調査に関する情報は、すくなくも簡単に目につくところにはない。だから、まず調査をおこなっているかどうか自体が確認できない。そして当然のことながら、どこにどういう手段で質問を送ればいいかもわからない。やむをえず、 <a href="https://www.mmt-tv.co.jp/company/request.html">&#x3054;&#x610F;&#x898B;&#x30FB;&#x3054;&#x8981;&#x671B;</a> コーナーから「ミヤギテレビ視聴者センター」の番号を探し出してそこに電話をかけた。「視聴者」としての問い合わせではないからおかしいような気はするのだが、ほかに適当な窓口がないのでしかたない。</p><p>で、視聴者センターに電話して、「ミヤギテレビ」を名乗るこういう電話がかかってきたのだが……、とたずねてみたところ、それはうちでやってる調査です、という答えであった。これも驚きである。私のところにかかってきた電話が確かにその調査であるかどうかを確認するには、細かく事情をきいて判断する必要があるはず。しかし、そういうことをなにも質問されなかったのだ。</p><p>そのあと、文句をいいたいので責任者を出して、といって担当者をかわってもらい、私のところにかかってきた電話がその調査によるものだったことを証明する方法があるかきいたのだが、それは証明できないですね、という回答だった。この回答はおかしくて、実際には発信元電話番号を確認すればいちおうの証明がつくはず (後述) なのだが、そういう準備なしに調査実施しているということなのだろう。</p><p>つまり、私のところにかかってきた電話が本当に宮城テレビ放送によるものだったかどうかは、結局わからなかったのである。私の政治的志向を知りたい人や組織が、「ミヤギテレビ」の名を騙って電話をかけてきたのかもしれない。</p><p>いずれにせよ、自動音声電話をかける側が、その電話が怪しい相手からのものでないことを示す努力をまったくしていないわけである。電話を受けた側がそのような相手を信用する義理はどこにもない。</p> </div> <div class="section"> <h4>時間的切迫性</h4> <p>つぎの論点に移ろう。第2の問題は、対象者が説明を聞いて判断するために使える時間がごくわずかしかないことである。</p><p>上述のとおり、電話の最初には調査に関する説明があり (計測はしていないが20秒くらい?)、そのあとすぐ質問がはじまる形式になっていた。つまり、<strong>自動音声によるひととおりの説明が1回だけあり、その情報だけで、そのあとの質問に答えるかどうかを決めなければならない</strong> のだ。答えないまま放置するとどうなるのかはわからないのだが、たぶん自動的に切れるのではないだろうか。そうすると、ごく短い時間 (せいぜい数十秒くらい?) で、調査に協力するか否かを即決するよう要求されていることになる。これでは、対象者がきちんと内容を理解して納得して同意するということは、実質的に期待できない。電話の冒頭に説明を流すのは、説明をおこなったというアリバイ作りのためのものであって、対象者に理解してもらうことを真摯に意図したものではないのだといわざるをえない。</p><p>ある程度複雑な事柄について口頭で説明を受けた場合、1回聞いただけでそれを完全に理解するということはふつうできない。加えて、今回の場合、その電話がそのような内容であることは受話器をとるまでわからないから、何の心的準備のないまま一方的に説明を聞かされるのである。私は社会調査を専門としているので、こうした説明がどのような要素から成り立っているか重々知っており、どこに気をつけなければならないかも簡単に見当がつく立場にいるが、それでも、自分が聞いた説明内容を完全には再現できない (たとえば電話をかける対象をどのように選んだかの説明があったかどうかおぼえていない)。まして、そうした専門的知識のない人がいきなり説明を聞かされた場合には、内容を把握すること自体がむずかしいはずである。</p><p>人間同士が口頭でやりとりする場合に、複雑な内容でも正確に伝えることができるのは、聞き取れなかったところを訊き返すとか、自分が理解した内容を伝えてその理解でいいか確認する、といった交渉を双方向におこなうからだ。話し手が一方的にしゃべる場合――講演とか講義とか――には、理解を助けるための画像を提示したり、文章で書いた説明を別に配布したりして、それをみながら話を聞いてもらい、しかも重要なポイントは何度も繰り返すなどして、ようやく聴衆に必要な情報を伝えることができる。何の補助資料もなく繰り返しもない話を一度だけ聞いて理解できる、というのは日常的コミュニケーションで期待できるレベルをはるかに超えた高度な能力である。</p><p>仮に内容は的確に理解できたとしても、そのうえで調査に協力する意義とリスクを比較考量して合理的に判断しなければならないところが、第二の関門になる。それを数十秒程度で完了せよというのは、やはり無理というものであろう。上記のように、その電話の同一性とか調査主体の信頼性についても裏をとる必要があるのだから、最短でも数十分から1時間程度は欲しいところである。</p><p>調査倫理のことを離れて考えてみると、突然電話をかけて、出た相手を有無を言わせず数分間拘束する、という発想がそもそも非常識である。相手は何か手の離せない仕事をしているかもしれない。観ているTVドラマがクライマックスを迎えているかもしれない。重要な電話の最中にキャッチホンで割り込んだのかもしれない。まずは現在回答する余裕があるかどうかを聞いて、忙しい場合にはあとでかけなおします、というのが常識的なやりとりである。</p><p>だから、調査対象者の立場に立って電話調査を設計するなら、</p> <ul> <li>聞き逃した説明を再度聞き直す</li> <li>わからないところについて質問する</li> <li>いったん中断してあとで回答する</li> </ul><p>といった機能が必要になる。これらを用意することは技術的にはじゅうぶん可能なはず (後述) だから、用意していないということは、調査設計の際に調査対象者側の事情を真剣に考えなかったということである。</p> </div> <div class="section"> <h4>重要説明事項の欠落</h4> <p>件の「ミヤギテレビ」自動音声調査電話では、冒頭の説明の中に、重要な要素が3つ欠落していた。(A) 調査主体への連絡先、(B) 調査目的、 (C) データ利用範囲、である。連絡先のこと (A) は「同一性問題」の項の内容と重なるので、ここでは (B) (C) について論じる。</p><p>電話冒頭の説明のなかには、衆議院議員選挙について宮城県の特定の選挙区の有権者に意見を聞く調査である (したがって、その選挙区の有権者でない場合はこのまま電話を切ってほしい) という話はあった。しかし、そうやって <strong>集めたデータを誰が何の目的で使うのかについては、説明がなかった</strong> のである。</p><p>宮城テレビ放送というテレビ局がおこなう選挙関連の調査ということで、私がすぐに思いつくのは、たとえばつぎのようなものである:</p> <ol> <li>宮城テレビ放送のニュースで、宮城県における衆議院議員選挙の情勢を伝える際に、集計結果を紹介する</li> <li>加盟しているテレビ局ネットワークNNNのキー局 (日本テレビ放送網) やその系列局の衆議院議員選挙関連特別番組において、全国の選挙結果を分析する際に、分析対象データの一部として使用する</li> <li>○○研究所と提携して、日本の政党支持構造の変遷とその規定要因の分析をおこない、結果を論文や書籍のかたちで出版する</li> </ol><p>もちろんこれ以外に私が思いつきもしないようなデータ利用者、利用方法があるかもしれないが、上記の範囲内でも、かなりおおきなちがいがあることがわかるだろう。それらのちがいは、調査に協力することの意義とリスクの両方に関わっている。</p><p>調査に協力する意義の点からいうと、最初のふたつはテレビ局の番組の材料として使うというもので、要は特定の私企業の商品開発に協力してください、といっているわけである。対して、最後の調査目的であれば、一企業の利害を超えた、はっきりとした公共的意義を持つものであり、ずいぶんと位置づけが変わってくる。もちろん、宮城テレビ放送ないし日本テレビ放送網 (NNN) のニュースは質が高いのでぜひ協力したい、という人もいるだろうし、○○研究所の研究能力では大した分析はできないので協力するだけムダ、みたいなこともあるかもしれない。いずれにせよ、それらはきちんと情報を得たうえで、各自が判断すべき事柄である。</p><p>一方、調査に協力するリスクという点からいうと、調査をおこなう主体である宮城テレビ放送内部でデータ利用が完結しているのは、最初のひとつのみである。あとのふたつでは、他のテレビ局や○○研究所にデータがわたる。もしそうであれば、そこでデータがきちんと管理されるのか、という問題が生じる。つまり、宮城テレビ放送が信用できるか、という以外に、NNN系列の各テレビ局は信用できるか、○○研究所は信用できるか、といったこともリスク要因として勘案しなければならなくなる。</p><p>これらの情報が提供されていないということは、意義とリスクを総合的に勘案して意思決定するために必要な条件を伏せているということであり、インフォームド・コンセントの原則から逸脱している。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="how">どうすればよかったのか</h3> <p>こまかくみていけばもっと問題はあるのかもしれないが (なにしろ電話の内容を完全には覚えていないので)、とりあえず「ミヤギテレビ」を名乗る自動音声電話調査について私が指摘できる問題は上記の3つ。すなわち、(1) 同一性の保証がない、(2) 判断に必要な時間的余裕を確保していない、(3) 調査目的とデータ利用範囲の説明がない、ということになる。</p><p>これらのうち、(3) については解決は簡単であって、説明をちゃんと加えればいいわけである。説明の時間がすこし長くなって情報量が増えるだけの話で、調査方法は変える必要がない。</p><p>一方、(1) (2) については、調査方法自体を大きく変更する必要がある。これらの問題は、短時間に一方的に自動音声を流す方法では対処することができないからである。ほかの方法で情報を提供したり、電話をいったん中断して後でかけなおすなどの機能を新設したりしないといけない。</p> <div class="section"> <h4>時間的余裕を確保する方法</h4> <p>先に (2) のほう (判断に必要な時間的余裕がない問題) について検討しよう。この問題には、(a) 一度だけの説明では理解できない、(b) 説明内容について対象者が持った疑問に答えなければならない、(c) 理解した内容に基づいて考えたりほかの情報を調べて意思決定するのに時間がかかる、という3つの部分がある。</p><p>(a) については、一度しか聞かせない仕様が悪い。そこで、リピート機能をつけるという解決法がある。たとえば、説明が終わったところで</p> <blockquote> <p>調査についての説明をもう一度聞きたいかたは、0 を押してください。</p> </blockquote> <p>みたいなメニューを提示して、0 が押されたら最初に戻って繰り返す仕組みにすればよい。</p><p>説明をちゃんと聞いたところ疑問を感じる部分があったという人 (b) に対しては、より詳細な文書や質問を受け付ける窓口を案内すべきであろう。その場合、いったん電話を切って、文書を読むなり窓口に質問するなりして、協力する意思が固まれば調査を再開することになる。そのために、都合のいい時間を予約してから電話を切るようにできるとよい。これで、時間をかけて決めたい人 (c) にも対応できる。さらにいうと、この機能は、今は忙しいのであとで回答したい、という人も利用することができる。</p> <blockquote> <p>この調査について、インターネットでは ...... にくわしい解説を用意しています。電話での質問は 0120-xxx-yyy で受け付けています。</p><br /> <p>いったん電話を切った場合、約x時間後にもう一度お電話差し上げます。お電話の時間を指定したい場合は、9 を押してください。</p> </blockquote> <p>9 が押された場合は、かけなおす時間を指定するメニューが流れ、指定が終わると電話が切れる。</p> </div> <div class="section"> <h4>同一性を保証する方法</h4> <p>最初に指摘した同一性の問題 (1) についてはどうか。かかってきた電話がまちがいなく宮城テレビ放送からのものであることを調査対象者が確認できるようにするには、どうしたらいいだろうか?</p><p>発信元電話番号が記録できる環境で、インターネットが使える人に限定していいなら、最も簡単な方法は、</p> <ul> <li>調査について説明するウエブページを作り、宮城テレビ放送の公式サイトの目立つところからリンクする</li> <li>そのページに、調査で使用する発信元電話番号を記載する</li> </ul><p>というものであろう。上で示したように、どのみち調査説明のウエブページはつくらなければならない。そのページが公式サイト内にあるか、公式サイトからリンクされていれば、宮城テレビ放送がその調査の存在を認知していることは確認できる。そこに載っている発信元電話番号と調査対象者の電話機にのこる受信記録とが一致すれば、その電話はその調査によるものだと証明できる。</p><p>発信元電話番号が記録できない場合、あるいはインターネットが使えない場合には、スマートな解決はむずかしいかもしれない。電話をかけたときのログを参照すれば、「2021年10月XX日 HH時MM分に 022-aaa-bbbb に電話したか?」のような問い合わせに答えることは可能である。しかしそれには回答者の電話番号 (=個人情報) の記録を検索・参照可能にしないといけないから、データ管理の点で問題が生じる可能性がある。問い合わせてきた人にその情報を開示していいかどうかも問題になりうる。このあたりは、さまざまなリスクを考慮して、注意深く仕様を決める必要がある。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="conclusion">結論</h3> <p>とまあ、提案できる改善策はいろいろあり、議論の余地もあるのだが、そういうものを参考にして調査方法を改善していくのは、調査実施側の責任になる。</p><p>では、調査依頼を受けた側はどうすればよいか? 私の答えは単純である――<strong>自動音声のみの電話調査に答えてはならない!</strong></p><p>ここまで議論してたことからわかるように、インフォームド・コンセントの原則を尊重したまっとうな調査といえるためには、調査対象者から出てくる疑念をクリアして、調査に協力する意義とリスクの情報を提供し、合理的な意思決定をおこなえるだけの時間を確保する必要がある。自動音声だけで一方的に調査する方法では、そのような条件を整えることはできない。必ず自動音声電話以外の手段で調査実施者にアクセスする経路を確保し、それを明示しなければならないのである。</p><p>だから、自動音声だけで一方的に調査する内容であれば、まっとうな調査でないことはあきらかなのだ。即座に電話を切っていい。</p><p>自動音声電話以外のアクセス方法が明示されているなら、考慮の余地はある。そのときは、指示されたアクセス方法をふくめ、さまざまな経路から、その調査と実施団体について情報をあつめ、信用できるかどうか、調査に回答することにどのようなリスクがあるか、協力するに値する意義があるか、など総合的に判断すればよい。これは通常の調査に対するのとおなじである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">付記:調査業界は調査する側の都合しか考えない</h3> <p>自動音声電話による調査技術「オートコール」は、近年、マスメディアと連携する調査会社なども採用しつつあるようだ。ちょっと調べてみたので、最後に付記しておく。</p><p>この技術を応用した「世論観測」サービスなるものを、日経リサーチが昨年はじめている。</p> <blockquote cite="https://www.nikkei-r.co.jp/news/release/id=7250"> <p>株式会社日経リサーチ(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:福本敏彦)はこれまで蓄積してきた世論調査と市場調査のノウハウに、自動音声応答通話(オートコール)システムを組み合わせ、従来の世論調査とは異なる手法で世論の動きを捉える新しいサービス「世論観測」の提供を開始します。</p><p>〔……〕</p><p>オートコールを使った調査は、電話番号の抽出はRDD法を使うものの、電話口での無作為抽出や対象者の追跡を行わないため、回答サンプルは電話口に出やすい人や調査に協力的な人に偏る特性があり、有権者の縮図とはなりません。また、回答率(電話がつながった対象のうち、実際に回答を得られる割合)は10%前後に留まります。このため、回答サンプルには代表性が認められず、世論調査としては活用できません。<br />  しかし、自動音声により、すべての調査対象に対して均一の声質や抑揚で調査票を読み上げて回答が得られることや、コールセンターでオペレーターが密な状態をつくることなく運用できることなどから、安定的に調査を実施するには優れた手法と言えます。<br /> ―――――<br /> 日経リサーチ (2020-06-05) 「自動音声応答通話(オートコール)を使った「世論観測」サービスを開始:世間の声はどう変動したか 新型コロナ緊急事態宣言の期間中に測定」</p> <cite><a href="https://www.nikkei-r.co.jp/news/release/id=7250">https://www.nikkei-r.co.jp/news/release/id=7250</a></cite> </blockquote> <p>この記事は、オートコールの問題点として標本の代表性のことにしか触れていない。このあとの調査事例紹介でも、対象者に対してどのような説明を準備したのか、対象者からの疑義にどのように答えたのかといったことはまったく書いていない。そうした困難点を隠して、新しい技術を売り込む記事になっている。</p><p><a href="https://mainichi.jp/articles/20200331/ddm/041/040/092000c">&#x57FC;&#x7389;&#x5927;&#x5B66;&#x3068;&#x6BCE;&#x65E5;&#x65B0;&#x805E;&#x793E;&#x304C;&#x8A2D;&#x7ACB;</a> した株式会社である <a href="https://ssrc.jp">&#x793E;&#x4F1A;&#x8ABF;&#x67FB;&#x7814;&#x7A76;&#x30BB;&#x30F3;&#x30BF;&#x30FC;</a> (株式会社グリーン・シップの社長が取締役になっている) は、オートコールを一部で採用した「ノン・スポークン」(non-spoken) 方式の調査をはじめている。自動音声で電話をかけるものであるが、スマートフォンと固定電話とで方法を変える。</p><p>スマートフォンの場合には、電話の自動音声で回答を要請し、承諾した対象者にSMSでURLをおくってウエブサイトに誘導する。「ノン・スポークン」調査について解説する論文に、つぎの図が載っている。</p> <blockquote cite="http://doi.org/10.24561/00019168"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211031225354" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211031/20211031225354.png" alt="f:id:remcat:20211031225354p:image" width="318" height="495" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 大隈 慎吾 (2020) 「「ノン・スポークン(Non-spoken)調査」の方法と品質」『政策と調査』19:15-24<br /> 図表2 (p. 17)</p> <cite><a href="http://doi.org/10.24561/00019168">http://doi.org/10.24561/00019168</a></cite> </blockquote> <p>ウエブサイトをみてからいろいろ調べたり考えたりすることができるなら、自動音声のみの電話調査よりはかなりまともな方式といえるかもしれない。</p><p>ただ、実際の調査は、まったくダメなもののようだ。まず、自動音声による最初の説明はつぎのような内容だという。</p> <blockquote cite="http://doi.org/10.24561/00018598"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211031235154" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211031/20211031235154.png" alt="f:id:remcat:20211031235154p:image" width="368" height="621" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 前納 玲 + 松本 正生 (2019)「IVRとSMSを利用したスマートフォン調査」『政策と調査』16:61-72.<br /> 図表1 (p. 63)</p> <cite><a href="http://doi.org/10.24561/00018598">http://doi.org/10.24561/00018598</a></cite> </blockquote> <p>これは無茶苦茶である。調査主体は何者か、調査の目的は何かといった基本的なことが何もわからない。「GS調査センター」は「ジーエスチョーサセンター」と発音されるのだろう。本当は調査を実施しているのは「株式会社グリーン・シップ」なのだそうだが、そのことはまったくわからない。承諾すると短縮URLが送られてくる……というのだけれど、正体不明の「ジーエスチョーサセンター」が送り付けてきたURL、踏んで大丈夫なんでしょうかね?</p><p>ともかく、送られてきたURLをクリックすると、ウエブサイトに飛ぶ。</p> <blockquote cite="http://doi.org/10.24561/00018598"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211031235157" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211031/20211031235157.png" alt="f:id:remcat:20211031235157p:image" width="523" height="429" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 前納 玲 + 松本 正生 (2019)「IVRとSMSを利用したスマートフォン調査」『政策と調査』16:61-72.<br /> 図表3「回答用Webサイトの画面 (例)」 (p. 64)</p> <cite><a href="http://doi.org/10.24561/00018598">http://doi.org/10.24561/00018598</a></cite> </blockquote> <p>「株式会社グリーン・シップ」の名前はここで出てくるのだが、冒頭の「GS調査センター」との関係はわからない。「回答結果は、株式会社グリーン・シップのホームページで公開します」と書いておきながら「ご回答の内容……は厳重に守られております」というのもおかしい (意地悪く読めば、現在は守られているが将来は守られない、ともとれる)。そして、現にこの論文に分析結果が載っているので、「株式会社グリーン・シップのホームページ」以外のところに公開しているわけであり、しかもグリーン・シップ社員でない人が共著者になっている。問い合わせ先が指定されているので、そうした疑問をぶつければ答えてもらえるのかもしれないが、これだけ無茶苦茶な説明文を平気で出してくる人たちに真摯な回答が期待できる気は、私ならしない。ただし、この文面をみてから回答をやめることはできるから、その点では (ダメな調査であることを判断するための) じゅうぶんな情報が提供されているともいえる。</p><p>一方、固定電話の場合には、電話がつながったらそのまま自動音声による調査をおこなう。</p> <blockquote cite="http://doi.org/10.24561/00019168"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211031225346" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211031/20211031225346.png" alt="f:id:remcat:20211031225346p:image" width="349" height="469" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 大隈 慎吾 (2020) 「「ノン・スポークン(Non-spoken)調査」の方法と品質」『政策と調査』19:15-24.<br /> 図表3 (p. 17)</p> <cite><a href="http://doi.org/10.24561/00019168">http://doi.org/10.24561/00019168</a></cite> </blockquote> <p>これはここまで論じてきた自動音声のみの電話調査とまったくおなじ方式であるから、おなじ批判がそのままあてはまる。対象者への説明と問い合わせの機会を周到に用意しないかぎり、インフォームド・コンセント原則を尊重したまともな調査にはならない。実際に使うスクリプトが <a href="https://f.hatena.ne.jp/remcat/20211031235154">&#x4E0A;&#x8A18;&#x306E;&#x30B9;&#x30DE;&#x30FC;&#x30C8;&#x30D5;&#x30A9;&#x30F3;&#x7528;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x3082;&#x306E;</a> と同様だとすると、そういうことを議論するまでもなくアウトである。</p><p>ところが、この調査方式について解説した論文を読むかぎり、推進者たちはそのようなことを問題として認識していないようだ。論点となっているのは、標本の代表性や回収状況や結果の偏りのことだけ。つまり、調査をする側が欲しいデータを得られるかどうかのみが関心事なのである。</p><p>ここまで検討してきたように、この種の調査を <strong>調査対象者の側から</strong> みたときの最大の問題は、対象者の権利が侵害される危険性にある。一方で、調査する側、あるいは調査の技術を売る側からみれば、対象者の権利など無視してデータをとることができるならそのほうがいい――安くあがるし技術的にも簡単――だろう。彼らがやろうとしているのは、自動音声調査であることを言い訳にして、これまでに確立してきたインフォームド・コンセントの原則を骨抜きにすることなのである。その企てに、大手の調査会社、報道機関、大学までもが乗りはじめている。</p><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-a3934d8c" name="f-a3934d8c" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">裏と表が半分ずつの確率で出るコインを5枚投げたとき、5枚すべてが表になる確率は、1/32 すなわち約3%である。ありえないこととは言い切れないのだが、相当に稀な現象。電話する先は無作為には選ばれていないのだろうと考えておくべき状況である。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-3fcc28d1" name="f-3fcc28d1" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">2014年のブログ記事 <a href="https://gl17.hatenadiary.org/entry/20140531/1401522035">https://gl17.hatenadiary.org/entry/20140531/1401522035</a> で「年2~3回くらい」電話世論調査が来る、と書いていた人がいる。正体不明の調査に答えているとそういうことになるのであろう。</span></p> </div> remcat 「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者への手紙 hatenablog://entry/13574176438023375982 2021-10-17T13:52:26+09:00 2021-12-30T10:31:16+09:00 「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者のうち、メールアドレスが公開されている方にあてて、本日つぎのようなメールを発送しました。Subject: 毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計に関する情報提供毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループご参加の先生方 (BCCでお送りしています。)東北大学文学部の田中重人と申します。 この3年ほど、毎月勤労統計調査の問題について検討しており、先々月の 第2回ワーキンググループ会議もオンラインで傍聴させていただきました。会議の際に報告のあった、毎月勤労統計調査調査の推計母集団労働者数と 経済センサス等の労働者数との乖離について、 政府… <p>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者のうち、メールアドレスが公開されている方にあてて、本日つぎのようなメールを発送しました。</p><p><hr>Subject: 毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計に関する情報提供</p><p>毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループご参加の先生方<br /> (BCCでお送りしています。)</p><p>東北大学文学部の田中重人と申します。<br /> この3年ほど、毎月勤労統計調査の問題について検討しており、先々月の<br /> 第2回ワーキンググループ会議もオンラインで傍聴させていただきました。</p><p>会議の際に報告のあった、毎月勤労統計調査調査の推計母集団労働者数と<br /> 経済センサス等の労働者数との乖離について、<br /> 政府統計の総合窓口 (e-Stat) で公開されている「毎勤原表」データを<br /> 分析した結果、つぎのような結論に至りました。</p><p>(1) 現在公開されている「本系列」データでは、労働者数が<br />  30-99人規模事業所では減少、500-999人規模と5-29規模事業所では増加する<br />  傾向にある。そのためにセンサスの労働数から乖離していく。<br /> (2) 第一種事業所 (30-99人規模、500-999人規模) で生じる乖離は、<br />  事業所規模区分を超えて移動した事業所の分の労働者数を母集団労働者数から<br />  増減させるときに、抽出率逆数のあつかいを間違えて計算しているためである。<br /> (3) 第二種事業所 (5-29人規模) ではそのような間違いの徴候はみられない。</p><p>これらのうち、(2) は、毎月勤労統計調査の労働者数推計が間違っている<br /> ということですから、過去にさかのぼって正しい値を集計しなおして<br /> 訂正すべきということになります。<br /> 現在のワーキンググループ (あるいは厚生労働統計の整備に関する検討会)<br /> の議論では、毎月勤労統計調査とセンサスとの乖離はベンチマーク更新によって<br /> 調整すればよいとの前提で試算をおこなっていますが、<br /> 現状の推計方法自体がまちがっていたとなれば、そのような議論は無意味です。<br /> 早急に方向転換を図る必要があると思います。</p><p>この結論に至ったデータと分析結果は、個人ブログの記事として公表しています:</p><p>毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ<br />  <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap</a> (9月11日)<br /> 母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか<br />  <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> (9月20日)<br /> 毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様<br />  <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> (10月9日)<br /> 層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角<br />  <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate</a> (10月14日)</p><p>データ分析にあたっては、労働者数の「前月末」→「本月末」の変化と、<br /> 「本月末」→「前月末」の変化を区別し、<br /> 前者を「毎勤推計」、後者を「雇用保険等補正」と呼んでいます。<br /> 「雇用保険等補正」は、さらに、毎月勤労統計調査による事業所層間移動を反映<br /> する部分と、雇用保険による事業所新設・廃止等を反映する部分にわかれます。</p><p>分析結果から、第一種事業所の推計母集団労働者数とセンサスの労働者数との<br /> 乖離は「雇用保険等補正」によって生じていること、2017年12月までの<br /> 「従来の公表値」にはそのような乖離がなかったことがわかります。<br /> そこからつぎの結論が導けます。</p><p>(a) センサスとの乖離は、2018年1月の集計方法変更に起因するものであり、<br /> (b) 2019年の再集計作業で、2012年1月以降の「本系列」データに持ち込まれた。<br /> (c) この変化は、層間移動事業所の数値が変わったことによる<br />  (「従来の公表値」と「本系列」で使用した雇用保険データは共通なので)。</p><p>そして、公開されている文書から層間移動事業所に関する記述を探すと、<br /> つぎのことがわかります。</p><p>(d) 2019年4月の時点で、層間移動事業所の労働者数に抽出率逆数をかけて<br />  当該層から増減させるという説明がなされている<br /> (e) その際の「抽出率逆数」は産業・事業所規模等に基づいて割り当てるので、<br />  層間移動した事業所については正しい値にならない<br /> (f) 2011年以前にさかのぼっての「時系列比較のための推計値」の説明では、<br />  抽出率逆数を使わずに単に合計することになっている<br /> (g) 過去の集計方法については説明が見当たらないが、<br />  「時系列比較のための推計値」による労働者数は「従来の公表値」とほぼ<br />  同じなので、同じ方法を使ったものである可能性が高い</p><p>層間移動した事業所の労働者数はその移動直前に所属していた層の抽出率逆数<br /> をかけて合計される (e) のだとすると、抽出率の低い層からの移動は大きく<br /> カウントされ、高い層からの移動は小さくカウントされます。<br /> 規模区分の境界に近い (たとえば500人前後の) 事業所が労働者数の増加・減少<br /> を繰り返すと、そのたびに境界をまたいだ移動が起き、<br /> 抽出率の低い層から高い層に向かって労働者が流出します。</p><p>実際、データからは、年度初めの雇用保険等補正によって、500-999人規模<br /> 事業所(抽出率が大きい) で労働者が増えるという動きがみられます。<br /> このような季節的な増加を毎年繰り返して、この事業所規模の労働者数は<br /> センサスを大きく上回って増えています。<br /> 30-99人規模事業所 (抽出率が小さい) では、<br /> 雇用保険等補正によって年度初めなどに労働者数が大きく減る現象が<br /> 繰り返し起き、センサスの数値を下回るようになります。<br /> 1000人以上規模 (500-999人規模と共通の抽出率) では<br /> そのような増減がみられません。<br /> これらは、移動前の所属層の抽出率の逆数をかけて事業所層間移動による<br /> 労働者数を増減させているせいで、抽出率の低い層から高い層への<br /> 過大な移動が起きてしまうのだと考えると、整合的な説明が可能です。</p><p>以上の推測が正しければ、毎月勤労統計調査の第一種事業所の労働者数が増減<br /> してセンサスから乖離していくのは、サンプリングの時の抽出率とは別の値を<br /> 「抽出率」逆数としてかけるという、筋の通らないことをやっているからです。<br /> 各種文書を読む限り、毎月勤労統計調査には抽出率を事業所ごとに記録する<br /> 仕組みが存在せず、所属層によって割り当てる簡易な方法をとっているようです。<br /> 事業所が層間を移動せず、調査期間の最初から最後までおなじ層にとどまる<br /> ならこれでもよいのですが、実際には移動する事業所があるのですから、<br /> これでは駄目です。</p><p>本来であれば、事業所ごとに抽出率を記録する変数を持たせ、それを使って<br /> 計算するようプログラムを改修すべきです。そのような大規模な改修は、<br /> すぐにはむずかしいのかもしれません。また、もし抽出時の記録が廃棄されて<br /> いれば、過去に戻っての再適用ができないこともありえます。<br /> そのような場合には、層間移動事業所の労働者数の補正自体をやめてしまう<br /> のが現実的な解であろうと思います。</p><p>なお、以上の推測は、第一種事業所に関するものです。<br /> 第二種事業所 (5-29人規模) については、このような集計方法変更の影響が<br /> みられません。また、雇用保険等補正の効果がなくとも、<br /> 毎勤推計の効果だけで労働者数がセンサスを上回って増加しているので、<br /> 別のメカニズムを考えるべきところです。<br /> センサスのほうが労働者数増加をとらえそこなっており、毎月勤労統計調査の<br /> とらえている労働者数のほうが真の値に近い、ということもありえます。<br /> その場合には、センサスの値に基づいてベンチマークを更新する<br /> 根拠がそもそもないことになります。</p><p>以上、長文になりましたが、公的統計の正確性と透明性に<br /> 重大な疑義が生じる内容ですので、お伝えさせていただきました。<br /> 厚生労働省のほうでは非公開情報も使って分析できるはずですので、<br /> 以上の推測について検証するよう働きかけていただけると幸甚に存じます。</p><p>2021年10月17日<hr>〔署名省略〕</p> <div class="section"> <h3 id="next">その後</h3> <p>この手紙を送ったあと、11/5の第3回会議で、この件が言及されました (議事録: <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22422.html</a>)。これについての記事: 「<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3001;&#x62BD;&#x51FA;&#x7387;&#x9006;&#x6570;&#x306E;&#x6271;&#x3044;&#x3092;2018&#x5E74;1&#x6708;&#x304B;&#x3089;&#x6539;&#x60AA;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x305F;&#x3053;&#x3068;&#x304C;&#x5224;&#x660E;</a>」(12月30日)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-10-17</dt> <dd>記事公開</dd> <dt>2021-12-30</dt> <dd>「その後」を追記</dd> </dl> </div> remcat 層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角 hatenablog://entry/13574176438022478402 2021-10-14T18:00:28+09:00 2021-12-28T23:21:28+09:00 これまでの3つの記事で、毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数がセンサスの労働者数から乖離している原因を、データ分析によりあきらかにした。 毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ (2021-09-11) 母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか (2021-09-20) 毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様 (2021-10-09) 乖離の原因は、第二種事業所 (5-29人規模) と第一種事業所 (30人以上) とで異なる。第二種事業所では、2段階にわけておこなわれる母集団労働者数推計の両方が乖離を生み出して… <p>これまでの3つの記事で、毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数がセンサスの労働者数から乖離している原因を、データ分析によりあきらかにした。</p> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3001;&#x4ECA;&#x5F8C;&#x306E;&#x30D9;&#x30F3;&#x30C1;&#x30DE;&#x30FC;&#x30AF;&#x66F4;&#x65B0;&#x3067;&#x5927;&#x304D;&#x306A;&#x30AE;&#x30E3;&#x30C3;&#x30D7;&#x767A;&#x751F;&#x306E;&#x304A;&#x305D;&#x308C;</a> (2021-09-11)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x63A8;&#x8A08;&#x306E;&#x8B0E;&#xFF1A;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3068;&#x30BB;&#x30F3;&#x30B5;&#x30B9;&#x306F;&#x306A;&#x305C;&#x4E56;&#x96E2;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x308B;&#x306E;&#x304B;</a> (2021-09-20)</li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3001;2018&#x5E74;&#x306E;&#x96C6;&#x8A08;&#x65B9;&#x6CD5;&#x5909;&#x66F4;&#x3067;&#x4F55;&#x304B;&#x9593;&#x9055;&#x3048;&#x305F;&#x6A21;&#x69D8;</a> (2021-10-09)</li> </ul><p>乖離の原因は、第二種事業所 (5-29人規模) と第一種事業所 (30人以上) とで異なる。</p><p>第二種事業所では、2段階にわけておこなわれる母集団労働者数推計の両方が乖離を生み出しており、特に2014年以降は、各層内での調査対象事業所の月々の労働者数の増減による推計が乖離を拡大させる度合が顕著である。2018年1月の集計方法変更やそれを過去にさかのぼって適用した再集計の影響はなかったようであり、「従来の公表値」と現在の「本系列」「時系列比較のための推計値」の間には、ほとんどちがいがない。</p><p>これに対して、第一種事業所では、2017年12月までにおこなわれた集計 (従来の公表値) では、推計母集団労働者数が大幅な減少・増加をみせること自体がなく、センサスからの大きな乖離もなかった。第一種事業所の推計母集団労働者数がセンサスから乖離するようになったのは、2018年1月に集計方法が変更されて以降のことだ。それは、母集団労働者数推計の第2段階において、層間移動した事業所の労働者数の集計方法を変更したことによるものとみられる。その後、2018年末に発覚した東京都不正抽出問題への対応のため、この新集計方式を適用した再集計が2012年1月分以降についておこなわれた。このため、現在公開されている「本系列」の2012年1月以降のデータに、30-99人規模事業所の労働者数が減少して500-999人規模事業所の労働者が増加するという偏りが生じている。ただし、2011年12月分以前にさかのぼって再集計をおこなった「時系列比較のための推計値」では、このような偏りはみられない。</p><p>第二種事業所に関しては、毎月勤労統計調査の母集団労働者推計が誤っているという根拠はないので、センサスのほうが真の労働者数を捕捉しそこねている可能性を考慮しておくべきだろう。これに対して、第一種事業所に関しては、集計方法の変更によってセンサスから乖離しはじめたのだから、その変更のときに何かを間違えた可能性をまず疑うべきである。</p><p>というわけで、今回の記事では、毎月勤労統計調査の集計方法変更で何を間違えたのかを、現状で入手可能なデータと文書から推測する。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#hon">&#x300C;&#x672C;&#x7CFB;&#x5217;&#x300D;(2012&#x5E74;1&#x6708;&#x5206;&#xFF5E;) &#x306E;&#x96C6;&#x8A08;&#x306B;&#x304A;&#x3051;&#x308B;&#x5C64;&#x9593;&#x79FB;&#x52D5;&#x4E8B;&#x696D;&#x6240;&#x306E;&#x6271;&#x3044;</a> <ul> <li>抽出率逆数問題</li> <li>架空例による考察</li> <li>500-999人規模事業所の労働者数変動</li> <li>1000人以上規模事業所の労働者数変動</li> <li>100-499人規模事業所の労働者数変動</li> <li>30-99人規模事業所の労働者数変動</li> <li>5-29人規模事業所の労働者数変動</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#before2011">&#x300C;&#x6642;&#x7CFB;&#x5217;&#x6BD4;&#x8F03;&#x306E;&#x305F;&#x3081;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x5024;&#x300D;&#x306B;&#x304A;&#x3051;&#x308B;&#x5C64;&#x9593;&#x79FB;&#x52D5;&#x4E8B;&#x696D;&#x6240;&#x306E;&#x3042;&#x3064;&#x304B;&#x3044;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#juu">&#x300C;&#x5F93;&#x6765;&#x306E;&#x516C;&#x8868;&#x5024;&#x300D;&#x306B;&#x304A;&#x3051;&#x308B;&#x5C64;&#x9593;&#x79FB;&#x52D5;&#x4E8B;&#x696D;&#x6240;&#x306E;&#x3042;&#x3064;&#x304B;&#x3044;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#change2018">2018&#x5E74;1&#x6708;&#x306E;&#x96C6;&#x8A08;&#x65B9;&#x6CD5;&#x5909;&#x66F4;&#x3067;&#x4F55;&#x304C;&#x8D77;&#x3053;&#x3063;&#x305F;&#x304B;</a> <ul> <li>2017年までの状況</li> <li>2018年の集計方法変更</li> <li>システム改修の実態</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#sai">2019&#x5E74;&#x306E;&#x518D;&#x96C6;&#x8A08;&#x4F5C;&#x696D; (2012&#x5E74;1&#x6708;&#x5206;&#xFF5E;) &#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#mks190">&#x6642;&#x7CFB;&#x5217;&#x6BD4;&#x8F03;&#x306E;&#x305F;&#x3081;&#x306E;&#x63A8;&#x8A08;&#x5024; (2011&#x5E74;12&#x6708;&#x5206;&rarr;2004&#x5E74;1&#x6708;&#x5206;) &#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#stone">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x8E93;&#x304D;&#x306E;&#x77F3;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#appendix">&#x4ED8;&#x9332;&#xFF1A;&#x7D71;&#x8A08;&#x59D4;&#x54E1;&#x4F1A;&#x3067;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x554F;&#x984C;&#x3092;&#x53D6;&#x308A;&#x4E0A;&#x3052;&#x305F;&#x56DE;&#x306E;&#x8CC7;&#x6599; (2019&#x5E74;-)</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#note">&#x6CE8;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="hon">「本系列」(2012年1月~) の集計における層間移動事業所の扱い</h3> <div class="section"> <h4>抽出率逆数問題</h4> <p>毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計については、くわしい資料が長年公開されておらず、具体的に何をどう計算しているのかわからない状態がつづいてきた。2019年になって、東京都不正抽出事件の真相究明と過去にさかのぼった再集計のために、統計委員会などが厚生労働省に対して説明を求め、それではじめて計算方法の詳細がわかるようになった。</p><p>2019年4月18日に統計委員会に提出された資料には、つぎのような記述がある。</p> <blockquote cite="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211010120610" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211010/20211010120610.png" alt="f:id:remcat:20211010120610p:image" width="606" height="359" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省政策統括官 (総合政策、統計・情報政策、政策評価担当)「「統計委員会の意見書についての審議結果を受けた厚生労働省への情報提供の要望」に対する回答」統計委員会 2019-04-18 資料2<br /> p. 3<br /> 〔赤下線は引用時に書き加えたもの〕</p> <cite><a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a></cite> </blockquote> <p>層間移動事業所に関連するのは <i>f<sub>i</sub><sup>i</sup></i>(<i>t</i>) と <i>g<sub>i</sub><sup>i</sup></i>(<i>t</i>) である (<i>i</i> は産業、 <i>j</i> は事業所規模区分、 <i>t</i> は調査月をあらわす)。前者 (<i>f<sub>i</sub><sup>i</sup></i>(<i>t</i>)) は「毎月勤労統計データにおける、当該産業・規模への編入事業所における本月末調査労働者数に抽出率逆数を乗じたもの」、後者 (<i>g<sub>i</sub><sup>i</sup></i>(<i>t</i>)) は同様の数値の「転出事業所」についてのものである。</p><p>調査対象事業所が、ある月に雇用者数を増やすなどして別の層に移動した場合、その移動分の労働者数が、つぎの月に新しい層に移動する。そのときには、抽出率逆数×0.5で重みづけた労働者数を移動させる (つまり移動前の層から減じて移動後の層に加える)。ここで「0.5」は「補正の適用度合い」と呼ばれ、式中では <i>L</i> で表されている係数で、なんのためのものかよくわからないのだが、ともかくこの数値をかけることになっている。なお、この資料では「現行は0.5で設定」と書いてあって、一見、過去にはちがう数値を使っていたかのようにみえるのであるが、実際にはこの数値は過去もずっと0.5であって、動かしたことはないそうである (2019-08-28 第10回点検検証部会議事録 <a href="http://www.soumu.go.jp/main_content/000650927.pdf">http://www.soumu.go.jp/main_content/000650927.pdf</a> p. 21)。</p><p>ここで、この「抽出率逆数」をどうやって決めているかが問題である。おなじ資料の前のページにはこうある:</p> <blockquote cite="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211010120606" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211010/20211010120606.png" alt="f:id:remcat:20211010120606p:image" width="800" height="179" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省政策統括官 (総合政策、統計・情報政策、政策評価担当)「「統計委員会の意見書についての審議結果を受けた厚生労働省への情報提供の要望」に対する回答」統計委員会 2019-04-18 資料2<br /> p. 2<br /> 〔赤下線は引用時に書き加えたもの〕</p> <cite><a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a></cite> </blockquote> <p>「抽出率」というのは、母集団 (の台帳等) から調査対象を選んだときの、その調査対象が選ばれる確率のことである。これは標本抽出の計画によって決まるので、本来は、あとから変更されることはないはずのものだ。しかしこの説明によると、「産業i、規模j、都道府県l、抽出時期m」によって「抽出率逆数」を決めることになっている。これは、調査を開始したあとに産業や規模や都道府県を移動したときには、それ以降は移動先の「抽出率逆数」を使う――したがって値が変わる――ということである。</p> </div> <div class="section"> <h4>架空例による考察</h4> <p>例として、2015年1月からの調査対象として抽出された、運輸業・郵便業 (産業分類 H) の500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模の事業所を考えよう。このときのこの産業の事業所抽出率は、どの都道府県でも1であった (<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf</a> p. 2 など参照)。</p><p>2015年1月には、この事業所の労働者数は500人ちょうどだったとしよう。それから2か月たって、3月末には、ひとり減って499人になっていたとする。そうすると、この事業所の規模区分は、500-999人規模から100-499人規模に変更される。</p><p>この分の労働者数を500-999人規模から引いて100-499人規模に足すのであるが、その際には、上記のように、抽出率逆数×0.5を掛ける。運輸業・郵便業の500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模事業所の抽出率逆数は1だったから、 499 × 1 × 0.5 = 245.5人が、この事業所の層間移動にともなって移動する労働者数である。</p><p>さて、4月になって、この事業所はあたらしくひとり雇い入れ、500人に戻ったとしよう。そうすると、この事業所はまた層間移動するので、その分の労働者数×抽出率逆数×0.5 を100-499人規模から500人規模に移動させる。このときに適用される運輸業・郵便業の<del>5</del><ins>1</ins>00-499人規模事業所の抽出率逆数は、24である (<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf</a> p. 2)。したがって、500 × 24 × 0.5 = 6000人が、100-499人規模から500-999人規模に移動することになる。</p><p>この間に起こったのは、ある事業所に雇われる労働者がひとり減ってひとり増え、最初とおなじ状態に戻ったということだ。ところが、推計母集団労働者数は、元には戻らない。6000-245.5 = 5754.5人の労働者が、100-499人規模から500-999人規模に移動したことになってしまうのである。</p><p>500-999人規模事業所の労働者数は全産業合計で300万人弱なので、5754.5人というのはその約0.2%にあたる。この事業所が規模区分の境界をまたいだ往復移動を5回繰り返せば、この規模区分の推計母集団労働者数が約1%増えてしまう勘定である。同様に移動する事業所が10個あれば、総計で労働者数が約10%増加する。</p><p>もちろん、産業と事業所規模によって抽出率がちがうため、層間移動が労働者数にあたえるインパクトは、抽出率の設定如何で異なる。</p><p>上でとりあげた「H 運輸業・郵便業」の場合、抽出率逆数は500人以上規模では1なのに対し、100-499人規模では24であった。このため、規模区分の境界を越えての上昇移動と下降移動とでは、移動させる労働者数に約24倍のちがいが出るわけである。ほかの産業をみると、たとえば「Q 複合サービス事業」の場合、500人以上規模では1、100-499人規模では4となっており、4倍しかちがわない。一方、「P83 医療業」の場合は500人以上規模では東京都で12、それ以外の道府県では1なのに対して、100-499人規模ではどの都道府県でも144となっている (つまり、東京以外では上昇移動と下降移動で144倍ちがう)。このように抽出率の設定はさまざまであるが、全体的にみると、事業所規模が小さいほど抽出率逆数が大きい傾向がある (<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf</a> pp. 2, 3 参照)。</p><p>500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模と1000人以上規模の事業所のあいだではおなじ抽出率が適用されている、という点も注意を要する。500人以上の事業所は、東京都以外では抽出率がすべて1である。東京都では産業によっては1以外の場合があるが、その場合でも500-999人規模と1000人以上規模との区別なくおなじ抽出率である。このため、500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模と1000人以上規模の間での層間移動については、上昇移動でも下降移動でもおなじ係数をかけて移動させるべき労働者数をカウントしているので、層間移動を繰り返す事業所が多数あっても、どちらかの規模区分の労働者数を一方的に増加させるようなことにはならない。</p><p>「H 運輸業、郵便業」の場合、500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模を中心にして考えると、同産業内での規模区分間移動にともなう推計母集団労働者数の増減は、</p> <ul> <li>1000人以上規模への流出 → 労働者数 × 0.5 だけ減少</li> <li>1000人以上規模からの流入→労働者数 × 0.5 だけ増加</li> <li>100-499人規模への流出 → 労働者数 × 0.5 だけ減少</li> <li>100-499人規模からの流入→労働者数 × 12 だけ増加</li> </ul><p>のようになっている。最後の「100-499人規模からの流入」のみ、ほかとはケタのちがうインパクトを持つことがわかる。</p> </div> <div class="section"> <h4>500-999人規模事業所の労働者数変動</h4> <p>以上の考察は架空の事例に基づくものだが、ここで実際のデータを確認してみよう。グラフ1は、2012年以降の「本系列」のデータから、500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模事業所の労働者数の各月の変動を、推計のふたつの段階に分解して示したものである。「毎勤推計」(第1段階) はその月の「前月末」から「本月末」への変化を、「雇用保険等補正」(第2段階) は前の月の「本月末」からその月の「前月末」への変化を示す (いずれも増加率の自然対数)。</p> <div class="section"> <h5>グラフ1: 毎月勤労統計調査「本系列」による500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模事業所の各月の母集団労働者数変化</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211010184729" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211010/20211010184729.jpg" alt="f:id:remcat:20211010184729j:image" width="800" height="311" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) と「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) について、増加率の自然対数を示す。データは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> のグラフ3(d) 4(d) とおなじ。「前月末」「本月末」の労働者数については、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method</a> 参照。</p> </blockquote> <p>「毎勤推計」は、産業と事業所規模によって設定された「層」の内部での調査対象事業所の月間の労働者数変動を重み付きで合計したものである。毎年4月に上方へのスパイクがあって労働者数が増え、2-3月はマイナスになって労働者が減るという規則的な変動を示している。年度末に減った人員を年度はじめにまとめて補充する慣行は広くみられるが、それを反映しているのだろう。このように調査対象事業所の労働者数は周期的に増減しており、年間を均してみるとやや増加気味である。</p><p>これに対して、事業所の新設、廃止、層間移動などによる労働者の増減を補正する「雇用保険等補正」(新設/廃止事業所等は雇用保険事業所データによるが、層間移動事業所は毎月勤労統計調査による: 補正方法はややこしいので、<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の198-197ページを参照) のほうは、ほとんど常に増加率がプラスである。上方への大きなスパイクがいくつもみられるが、下方へのスパイクはなく、労働者数を増大させていく効果を持っていることがわかる。</p><p>「雇用保険等補正」のスパイクの多くは5月に記録されている。これは4月中の事業所の新設・廃止・層間移動などによる労働者数変動分を4月の「本月末」母集団労働者数に足して5月の「前月末」母集団労働者数とする、という操作に対応する。つまり、これらのスパイクがあらわしているのは、4月中の労働者数の変動である。年度はじめに新しく労働者を雇い入れて事業所規模区分が変わったとすると、それによる推計母集団労働者数の変化は、5月の「前月末」母集団労働者数にあらわれる。このとき、上でみたように、500-999人規模から1000人規模への流出にくらべ、100-499人規模から500-999人規模への流入が過大にカウントされる。このために母集団労働者数が大きく増えるものと解釈できる。最大のスパイク (2014年5月) は0.05を超えているが、これを指数変換して増加率に戻すと、5%を超える増加である。実際の増加人数は約12万人。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">9&#x6708;11&#x65E5;&#x306E;&#x8A18;&#x4E8B;</a> のグラフ8では、この月に500-999人規模の母集団労働者数が大きく増えて段差ができていることが確認できる。</p><p>2-3月には労働者数が減る事業所が多いので、小さい規模区分への下降移動が起きるはずだが、それは「雇用保険等補正」による労働者数変動にはあらわれない。これは、事業所規模が縮小するために同時に起こる1000人規模からの流入と100-499人規模への流出の両方がおなじ倍率 (東京都以外なら全産業で0.5) であるため、互いに相殺するのだと考えることができる。</p><p>上述のように、500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模区分では、100-499人規模からの流入による労働者数増加だけが大きな倍率で加算される。このため、毎年4月のように、上昇移動が多く起きたときには、労働者数が過大に増えることになる。他方、下降移動が多く起きたときには、流入と流出が同程度にカウントされるため、労働者数の大きな変動は起きないのである。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>1000人以上規模事業所の労働者数変動</h4> <p>1000人以上規模事業所ではどうなっているか。グラフ1と同様に、母集団労働者数推計の2段階の効果を分離して示したのがグラフ2である。</p> <div class="section"> <h5>グラフ2: 毎月勤労統計調査「本系列」による1000人以上規模事業所の各月の母集団労働者数変化</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011155401" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011155401.jpg" alt="f:id:remcat:20211011155401j:image" width="800" height="311" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) と「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) について、増加率の自然対数を示す。データは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> のグラフ3(e) 4(e) とおなじ。</p> </blockquote> <p>「毎勤推計」に周期的変動がみられることは500-999人規模事業所と同様である。これに対して、「雇用保険等補正」ではスパイクが上にも下にも伸びており、500-999人規模事業所とは異なった様相を呈している。</p><p>上で論じたように、1000人以上規模事業所と500-<del>4</del><ins>9</ins>99人規模事業所はおなじ抽出率なので、1000人の境界をまたいだ事業所の移動については、上昇移動でも下降移動でも、同一倍率で労働者数をカウントしている。上昇移動が多い月には流入してくる労働者数が上方へのスパイクを生み、下降移動が多い月には流出する労働者数が下方へのスパイクを生む。これらの増加と減少が打ち消しあうため、長期的に均せば労働者数は一定である (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1</a> のグラフ1(e) 参照)。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>100-499人規模事業所の労働者数変動</h4> <p>100-499人規模事業所では、「雇用保険等補正」による各月の労働者数増加率は、上下に突き出た箇所がいくつもあるものの、それぞれは大きなものではない (グラフ3)。全体としてみるとゼロより大きいところが多いため、緩やかに増加していく傾向 (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1</a> グラフ1(c) 参照) ではある。しかし、季節的スパイクのたびごとに一気に増えるようなことにはなっていない。</p> <div class="section"> <h5>グラフ3: 毎月勤労統計調査「本系列」による100-499人規模事業所の各月の母集団労働者数変化</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011155350" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011155350.jpg" alt="f:id:remcat:20211011155350j:image" width="800" height="305" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) と「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) について、増加率の自然対数を示す。データは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> のグラフ3(c) 4(c) とおなじ。</p> </blockquote> <p>これは、500-999人規模区分への流出と30-99人規模区分からの流入が相殺する結果だと解釈できる。実際、母集団労働者数の増加分の人数 (比ではなく人数そのもの) をプロットしてみると、500-999人規模の上方スパイクと30-99人規模の下方スパイクがほぼ対応していることがわかる (グラフ4)。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ4: 30-99人規模事業所と500-999人規模事業所の各月の母集団労働者数の増減</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011162020" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011162020.jpg" alt="f:id:remcat:20211011162020j:image" width="800" height="316" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 毎月勤労統計調査「本系列」(2012年-) データから、推計母集団労働者数の「本月末」→「前月末」の増減 (雇用保険等補正) の人数を示す。</p> </blockquote> <p>さらに、30-99人規模事業所の労働者減少数と500-999人規模事業所の労働者増加数との差分を求めてみる (グラフ5の赤の×印: 前回記事のRスクリプトを使って、 data.new$size30$worker.diff などを取り出せばよい)。100-499人規模事業所の労働者増加数 (紫の実線) と重ねてみると、スパイクのある月にはそれらがかなりよく一致する。30-99人規模事業所の労働者減少は100-499人規模事業所への流入に、500-999人規模事業書の労働者増加は100-499人規模事業所からの流出に対応すると考えると、流入-流出の差 (の絶対値) が大きい場合に、100-499人規模事業所の労働者数の増加/減少が起きるのだと解釈することができる。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ5: 100-499人規模事業所の労働者数変化と、隣接規模区分の増加・減少数との関係</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011162015" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011162015.jpg" alt="f:id:remcat:20211011162015j:image" width="800" height="316" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 毎月勤労統計調査「本系列」(2012年-) データから、推計母集団労働者数の「本月末」→「前月末」の増減 (雇用保険等補正) の人数に基づいて計算した。<br /> 移動相殺分 = (30-99人規模事業所の労働者減少数) - (500-999人規模事業所の労働者増加数)</p> </blockquote> <p>「H 運輸業・郵便業」の場合について考えてみると、抽出率逆数の設定は、<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">500-999&#x4EBA;&#x898F;&#x6A21;&#x3067;&#x306F;1&#x306A;&#x306E;&#x306B;&#x5BFE;&#x3057;&#x3066;&#x3001;100-499&#x4EBA;&#x898F;&#x6A21;&#x3067;&#x306F;24&#x3067;&#x3042;&#x308A;&#x3001;30-99&#x4EBA;&#x898F;&#x6A21;&#x3067;&#x306F;144</a> である。100-499人規模を中心にして考えると、同産業内での規模区分間移動にともなう推計母集団労働者数の増減はつぎのようになる。</p> <ul> <li>500-999人規模への流出 → 労働者数 × 12 だけ減少</li> <li>500-999人規模からの流入→労働者数 × 0.5 だけ増加</li> <li>30 - 99人規模への流出 → 労働者数 × 12 だけ減少</li> <li>30 - 99人規模からの流入→労働者数 × 72 だけ増加</li> </ul><p>労働者が増える局面では500-999人規模への流出と30-99人規模からの流入が大規模に起きることになり、そのどちらが大きいかによって100-499人規模の労働者数の増減が決まる、というのが上記のグラフ4, グラフ5の示していることである。</p><p>適用される倍率は産業によってちがうが、500-999人規模への流出よりも30-99人規模からの流入のほうが大きく設定されていることが多い。それなのに流入と流出の間にそれほど大きな差が出ないということは、流出事業所の数が流入よりもかなり多かったということであろう。労働者が減る局面において下方へのスパイクがあらわれないのも、同様の理由によって、流入と流出が結果的にほぼ釣り合っているということで説明がつくのかもしれない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>30-99人規模事業所の労働者数変動</h4> <p>グラフ6に示したように、30-99人規模事業所では、「雇用保険等補正」による労働者増加は、ほとんどの月でマイナスとなっており、ゼロを大きく上回る月はない。5月には下方に飛び出るスパイクを生じていることが多い。このため、この規模区分の労働者数は減少傾向にある。「毎勤推計」のほうは2014年以降は横ばいから増加に転じるのだが、「雇用保険等補正」は一貫して労働者数を減少させている (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#graph1</a> のグラフ1(b) 参照)。</p> <div class="section"> <h5>グラフ6: 毎月勤労統計調査「本系列」による30-99人規模事業所の各月の母集団労働者数変化</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011155353" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011155353.jpg" alt="f:id:remcat:20211011155353j:image" width="800" height="305" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) と「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) について、増加率の自然対数を示す。データは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> のグラフ3(b) 4(b) とおなじ。</p> </blockquote> <p>グラフ4で検討したように、30-99人規模事業所の労働者数減少、特に毎年5月の下方スパイクは、100-499人規模へ事業所が上昇移動したことによる労働者数の流出によって起きていると考えることができる。また、労働者数が減少する時期には逆に100-499人規模からの流入があるはずであるが、その時期には5-29人規模へ流出する労働者も増える。結果としてそれらが釣り合っているので、増加がほとんどゼロになっている、と考えることができる。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>5-29人規模事業所の労働者数変動</h4> <p>ここで問題なのは、5-29人規模事業所の「雇用保険等補正」による労働者数の増減には、30人以上の規模区分にみられるような季節的変動がほとんどないことである。</p> <div class="section"> <h5>グラフ7: 毎月勤労統計調査「本系列」による5-29人規模事業所の各月の母集団労働者数変化</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011155357" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011155357.jpg" alt="f:id:remcat:20211011155357j:image" width="800" height="299" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) と「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) について、増加率の自然対数を示す。データは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> のグラフ3(a) 4(a) とおなじ。</p> </blockquote> <p>グラフ7からわかるとおり、「毎勤推計」のほうには、2-3月に労働者数が減って4月に増えるという、周期的な変動が毎年みられる。これに対して、「雇用保険等補正」のほうは、ゼロをすこし上回る程度で平坦であり、大きく変化する箇所がない。</p><p>5-29人規模事業所には、事業所層間移動に起因すると推測できる労働者数の特徴的変動がないのだ。<strong>5-29人規模についてだけ、ほかの規模区分とは集計方法がちがう</strong> ことを示唆するデータである。この問題は、あとであらためて取り上げる。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="before2011">「時系列比較のための推計値」における層間移動事業所のあつかい</h3> <p>2012年1月分以降の毎月勤労統計調査「本系列」データには以上のような特徴があるのだが、このような特徴は2011年12月以前の「時系列比較のための推計値」にはみられない (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly</a> 参照)。「時系列比較のための推計値」は、2019年になってから、強引な仮定を置いて必要なデータを逆算するなどして、2012年1月から2004年1月までさかのぼって推計値を算出したものである (後述)。この推計の際の方法が、「本系列」の (再) 集計とはちがっていたのだろう。</p><p>「時系列比較のための推計値」については、「政府統計の総合窓口」(e-Stat) に「「時系列比較のための推計値」作成方法の概要」(<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2</a> ファイル名:suikei-manual.pdf) がある。その3ページにはつぎのように書かれている:</p> <blockquote cite="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211011110003" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211011/20211011110003.png" alt="f:id:remcat:20211011110003p:image" width="800" height="567" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 政府統計の総合窓口「「時系列比較のための推計値」作成方法の概要」 p. 3<br /> 〔2021-08-14ダウンロード〕</p> <cite><a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2</a></cite> </blockquote> <p>層間移動事業所の労働者数のあつかいについて説明しているところ、「毎月勤労統計データにおける、当該産業・規模への編入事業所における本月末調査労働者数」までは <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">2019&#x5E74;4&#x6708;18&#x65E5;&#x306E;&#x7D71;&#x8A08;&#x59D4;&#x54E1;&#x4F1A;&#x306E;&#x8CC7;&#x6599;2</a> とおなじであるが、そのあと「に抽出率逆数を乗じたもの」という部分がなく、単に「の合計」となっている。「転出事業所」に関する説明も同様である。</p><p>つまり、この「時系列比較のための推計値」の計算に際しては、<strong>抽出率逆数をかけるステップがなくなり、調査対象事業所の労働者数をそのまま使っている</strong> ということである。「補正の適用度合い」<i>L</i> が0.5だというところはおなじなので、結局、移動した事業所の労働者数の半分だけを移動させていることになる。</p><p>この方法であれば、「本系列」のように上昇移動と下降移動とで移動する労働者数が大きく異なる事態は起きない。労働者数500人の事業所でひとり辞めて499人になった場合に移動する労働者数は249.5人、そのあとひとり雇い入れて500人に戻った場合には移動する労働者数は250人なので、推計母集団労働者数もほぼもとに戻るわけである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="juu">「従来の公表値」における層間移動事業所のあつかい</h3> <p>2017年12月まで使われていた集計方法で層間移動事業所がどのようにあつかわれていたかはわかっていない。前述のとおり、層間移動事業所のあつかいがきちんと説明に出てくるようになったのは2018年末に東京都での不正抽出が発覚して以降なのだが、そのあとも、従来どのように計算していたのかは説明されていないのである。</p><p>しかし、上でみたとおり、2011年12月までの「従来の公表値」の第一種事業所の推計母集団労働者数は「時系列比較のための推計値」と一致するのだから、おなじ方法――つまり抽出率逆数をかけない――だったものと推測できる。2018年1月以降は「本系列」と一致するので、「本系列」とおなじ方法――抽出率逆数をかける――だろう。なお、第二種事業所に関しては、「従来の公表値」「本系列」「時系列比較のための推計値」はすべてほぼ一致する。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="change2018">2018年1月の集計方法変更で何が起こったか</h3> <p>以上の知見を総合すると、毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計における層間移動事業所のあつかいの変遷は、概略つぎのような感じである:</p> <ul> <li>2017年までは、抽出率逆数は使っていなかった</li> <li>2018年1月の集計方法変更時に、第一種事業所のみ、抽出率逆数で重み付けする方式を導入</li> <li>2019年1月の再集計時に、この方法を2012年1月分から適用</li> <li>2011年分から2004年分までさかのぼって推計した際には、抽出率逆数を使わない方法を採用</li> </ul><p>結果として、現在公表されているデータの2004年以降では、事業所が層間移動際の労働者数の移動量はつぎのようになっている:</p> <ul> <li>第一種事業所では、「本系列」(2012年1月分以降) のデータと「従来の公表値」の2018年1月分以降のデータのみ、抽出率逆数をかけている。それ以外は抽出率逆数を使わない方式。</li> <li>第二種事業所では、抽出率逆数はまったく使っていない。</li> </ul><p>何をどうしたらこんなことになるのか。以下は推測をまじえた考察である。</p> <div class="section"> <h4>2017年までの状況</h4> <p>第二種事業所では、2017年以前から同一層内に抽出率のちがう事業所が混在していたので、抽出率逆数で重み付ける仕組みがあった。しかし、これは平均賃金などの算出や、母集団労働者数推計の第1段階 (毎勤推計) にのみ使われていただけであり、層間移動事業所の労働者数の計算には使っていなかったようである。</p><p>第一種事業所に関する集計では、そもそも調査対象事業所の抽出率を考慮していなかった。毎月勤労統計調査による最終的な推計値は、「推計比率」(母集団労働者数と調査労働者数との比) をかけて求めるため、同一層内の事業所がすべて同一の抽出率であれば、それで問題は起こらない。<a href="#f-74300193" name="fn-74300193" title="実際には層間移動する事業所があるのだし、産業分類の変更によって抽出率のちがう事業所が同一層内に混在していた時期もあるため、この前提は成り立たない。しかしそのことは無視されてきた。http://hdl.handle.net/10097/00127285 の201-197ページおよび189-188ページを参照。">*1</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h4>2018年の集計方法変更</h4> <p>2018年1月にローテーション・サンプリングを導入した結果、第一種事業所でも層内に抽出率のちがう事業所が混在することになった。これに対応するため、第一種事業所の集計にも、抽出率逆数で重み付けする方式を導入することになった。――というのが、厚生労働省がこれまでおこなってきた説明である (<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf</a>)。今回の記事で検証してきた内容が事実なら、この <strong>2018年1月のシステム改修には、「抽出率逆数で重み付けする方式」を層間移動事業所の労働者数についても適用するという変更をふくんでいた</strong> はずだが、そういう説明はおこなわれてこなかった。</p><p>この推測が正しければ、この記事で指摘してきたような、<strong>事業所が規模区分の境界をまたいでの移動を繰り返すと抽出率逆数の大きい層から小さい層に労働者数が流出してしまうというバイアスは、この2018年1月分からの集計方法変更が創り出した</strong> ということになる。</p><p>本来なら、サンプリング時の抽出率を事業所ごとに記録し、事業所がどこの層に移動しようとも常にその値を適用するシステムにすべきであった。そうすれば、100人の事業所 (抽出率 1/R) の労働者がひとり減ったときには 99×R×0.5人の移動が生じるが、その後ひとり増えたときには 100×R×0.5人が逆方向に移動するので、ほぼ元の労働者数に戻る。若干の食い違いはのこるものの、現状のように上昇移動と下降移動でちがう抽出率逆数が適用されて大きな非対称性が出るのとはくらべものにならない。</p><p>なお、抽出率を考慮しない従来の集計方式というのは、常に R=1 に固定しておくのとおなじである。抽出率が本当に1であった場合以外は移動量が過少になってしまうので、その意味ではバイアスはある。とはいえ、労働者数が過大に増加・減少するよりは、過少なほうがずっとましだっただろう。どうせ数年に一度は、ベンチマーク更新によって直近のセンサスの水準に労働者数を調整するのである。「補正の適用度合い」という謎の係数 <i>L</i>=0.5 をかけているのも、労働者数の増減が過大に出るよりは過少なほうがよい、という保守的な判断によるものではないだろうか。しかし、所属する層によってRを決める方式が2018年1月から採用された結果として、事業所層間移動の労働者数に対するインパクトが巨大なものになってしまった。</p> </div> <div class="section"> <h4>システム改修の実態</h4> <p>この2018年1月分からの集計方法変更をどのようにおこなったかについては、あまり情報がない。2019年1月22日の特別監察委員会報告書によると、つぎのようである。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf"> <p>雇用・賃金福祉統計室長(当時)Fは、平成29(2017)年度開始後遅くとも5月以降、当時のプログラム担当者に対し、平成30(2018)年1月調査以降の毎月勤労統計調査におけるローテーション・サンプリングの導入に向けたプログラム改修を指示した。その中で、それまで実施していなかった東京都における規模500人以上の事業所に係る抽出調査の結果及び30人以上499人以下の事業所のうち東京都と他の道府県で抽出率が異なる一部の産業の調査結果についてプログラム上適正に復元されるよう改修がなされた。<br /> ―――――<br /> 毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会 (2019-01-22)「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」<br /> p. 12</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf</a></cite> </blockquote> <p>改修を指示した時期は、2017年の「年度開始後遅くとも5月以降」となっていて、日付が特定されていない。文書が残っていたなら、その日付がわかるはずだ。そうすると、この指示は文書によるものではなかったか、文書があったとしてもそれが保存されていなかったかである。</p><p>また、このときの改修に限らず、毎月勤労統計調査のシステム保守作業に関しては、全般的につぎのような状況だったという。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf"> <p>職員・元職員のヒアリング調査によれば、企画担当係とシステム担当係との間の作業発注及び作業のフォローアップの仕組みやシステム改修の進め方については、以下のような供述が見られる。</p><p>・ 抽出替え等によりシステム改修の必要性が生じた場合には、企画担当係とシステム担当係が打ち合わせをしながら、必要な作業を進めていくが、その際にはすべての仕様をペーパーで依頼する訳ではなく、口頭ベースで依頼することもあった。なお、毎月勤労統計調査については、具体的なシステム改修関係の業務処理は係長以下で行われ、一般的には課長や課長補佐が関与しない。</p><p>・ システム改修の依頼を受けたシステム担当係は外部業者等に委託することなく自前でシステム改修を行うことになるが、毎月勤労統計調査に係るシステムのプログラム言語はCOBOL であり、一般的にシステム担当係で COBOL を扱える者は1人又は2人に過ぎなかった。このため、一般的にシステム改修を行う場合はダブルチェックを行うが、ダブルチェックができない場合も多かった(平成15(2003)年当時は COBOL を扱える者は2人いたが、それぞれが別の仕事を分担して処理していたため、当該者同士でダブルチェックをするようなことはなかった。)。</p><p>・ 一度改修されたシステムのプログラムの該当部分は、それに関連するシステム改修がなされない限り、当該部分が適切にプログラミングされているか検証されることはなく、長期にわたりシステムの改修漏れ等が発見されないことがあり得る。<br /> ―――――<br /> 毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会 (2019-01-22)「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書」<br /> p. 17</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf ">https://www.mhlw.go.jp/content/10108000/000472506.pdf </a></cite> </blockquote> <p>これらの供述が2018年1月分からの集計方法変更にもあてはまるとすると、<strong>口頭での適当な説明をもとにプログラミング担当者が適当に実装し、その後だれも検証しなかった</strong>、という可能性がある。</p><p>2018年1月分からの集計方法変更についての指示が「第一種事業所の調査数値を合計する際には抽出率逆数を掛けるよう改修する」というような内容だったとすると、それを聞いたプログラミング担当者が、層間移動事業所の労働者数の処理も「調査数値を合計する」作業であるからこの改修の対象となる、と考えたとしても不思議はない。また、第一種事業所だけが対象であるから、第二種事業所からの層間移動は対象外だ、と考えたかもしれない。そのように想像すると、5-29人規模 (=第二種事業所) だけは変更せずに従来の方式をそのままのこし、それ以外の規模区分 (=第一種事業所) からの層間移動については移動元の抽出率逆数をかけて計算する、というシステム改悪がなされた背景が理解できる。</p><p>以上の考察に基づくと、2018年1月のシステム改修の結果として、規模区分間を事業所が移動した場合の労働者数は、下図のようになっているのではないかと想像できる (運輸業・郵便業についての例)。</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211012010510" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211012/20211012010510.png" alt="f:id:remcat:20211012010510p:image" width="364" height="445" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 産業分類H「運輸業、郵便業」の事業所が規模区分を変更した場合に移動する労働者数 (2018年1月以降の毎月勤労統計調査システムについての推測)。Rは抽出率逆数。</p> </blockquote> <p>500人以上の規模区分 (抽出率1) を起点とする移動は、労働者数の半分だけがカウントされる。100-499人規模 (抽出率 1/24)を起点とする移動は、12倍のカウントである。したがって、たとえば500-999人規模への流入は、1000人以上規模からやってくる場合は0.5倍、100-499人規模からやってくる場合は12倍の係数をかけて計算される。</p><p>5-29人規模 (第二種事業所) については、抽出率が公表されておらず、不明である。ただし、抽出率逆数をかける手順自体が採用されていないものと考えると、1000人以上規模と同様に、流出も流入も0.5倍ということになる。</p><p>30-99人規模 (抽出率 1/144) に関しては、100-499人規模からの流入は12倍、100-499人規模への流出は72倍で計算される。5-29人規模への流出も同様に72倍。しかし、5-29人規模からの流入については、抽出率逆数自体が利用されないので、0.5倍と考えている。</p><p>このシステムにおいては、30-99人規模から5-29人規模への移動以外は、ある層から別の層へ労働者数を移動させるだけなので、全体の労働者数は一定に保たれる。どこかで労働者を減らした分は、別のどこかで増やしているのである。ただし、30-99人規模から5-29人規模へ移動した場合は例外で、移動元 (30-99人規模) ではその事業所の労働者数の72倍の労働者が減るのに、移動先 (5-29規模) では0.5倍分しか増えないので、全体の労働者数が71.5倍分減ることになる。</p><p>2018年1月のシステム改修が以上のようなものだったと考えると、</p> <ul> <li>5-29人規模事業所では「雇用保険等補正」による労働者数の増減に季節的変動がみられず、また「従来の集計値」と「本系列」データがほとんど一致すること、</li> <li>30-99人規模事業所の労働者数が減る一方であること</li> </ul><p>をふくめ、データの動きを整合的に説明できる。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="sai">2019年の再集計作業 (2012年1月分~) について</h3> <p>2018年末に <a href="https://www.asahi.com/articles/DA3S13831541.html">&#x6771;&#x4EAC;&#x90FD;&#x3067;&#x306E;&#x4E0D;&#x6B63;&#x62BD;&#x51FA;&#x304C;&#x767A;&#x899A;</a> した。これは、2004年以降、東京都の一部の事業所ではほかの地域とちがう抽出率が適用されていたのに、それに対応していない集計を2017年12月までおこなっていたというものである。当時公表されていた毎月勤労統計調査の結果数値は間違いだったということになるので、計算をやりなおして正しい値に差し替える必要があった。</p><p>おそらく、当時の担当者は、2018年1月以降に稼働しているプログラムでは問題はなくなっているという認識のもと、2012年1月からの再集計をおこなう際にもおなじプログラムを適用したのであろう。そのようにして、2018年のシステム改修で導入された層間事業所への不適切な抽出率逆数の適用は、2012年1月分からの「本系列」データに持ち込まれることになった。</p><p>このときの再集計の適用範囲が2012年1月分以降に限定されたのは、2011年12月分以前の毎月勤労統計調査については、再集計をおこなうための情報が、すでに廃棄されてしまっていたりしていて、じゅうぶんにそろわなかったからである。欠けている情報を強引に推測して集計値を求めた「時系列比較のための推計値」がe-Statに掲載されたのは、2020年8月以降のことになる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="mks190">時系列比較のための推計値 (2011年12月分→2004年1月分) について</h3> <p>すでに述べたように、「時系列比較のための推計値」を求める際には、層間移動事業所については、2012年1月以降のデータの再集計とは異なり、従来の公表値とおなじ方式で計算したようだ。すなわち、該当労働者数の半分を増減させるだけで、抽出率逆数による重み付けをおこなわない方式である。</p><p>この「時系列比較のための推計値」を求める作業については、統計委員会において、推計の方法についての検討を繰り返しおこなってきた。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate#appendix">&#x8A72;&#x5F53;&#x3059;&#x308B;&#x8CC7;&#x6599;&#x306E;&#x4E00;&#x89A7;</a> を付録に掲げておこう。層間移動事業所データによる推計母集団労働者数の補正の式が何度も出現するが、それらには抽出率逆数をかけるという記述はなく、労働者数を単純に合計することになっている。統計委員会での検討のときには、層間移動事業所の労働者数について抽出率逆数で重みづけるということは、まったく意識されていなかったようなのである。</p><p>どうしてこのようなことが起きたのだろうか? 2012年以降についての再集計作業も、2011年からさかのぼっての「時系列比較のための推計値」を求める作業も、東京都不正抽出のためにおかしくなったデータを正しい値に戻すための一連の作業であるから、基本的におなじ方法で進めなければならないはず。ちがう方法で計算してしまったのは、異常な事態といえる。</p><p>ひとつの可能性は、2018年1月以降、層間移動事業所の労働者数に抽出率逆数をかける操作が加わった (そして2019年の再集計作業でもおなじ方式を使った) という事実を、担当者が把握していなかった、ということだ。先に述べたように、毎月勤労統計調査のシステム改修の指示事項は、口頭でのあいまいなかたちでしか伝わっていなかった可能性がある。そうとすれば、計算がどのようにおこなわれるかの正確な情報が、担当者間で共有できていなかったとしても不思議はない。</p><p>その場合でも、2012年1月以降のデータについての再集計は、通常の時間順にしたがって順次計算していくのだから、通常の集計手順とおなじであり、2018年1月に改修したプログラムをそのまま適用できる。それなら、担当者が処理の詳細を知っていたか否かにかかわらず、おなじ処理がおこなわれる。ところが2011年以前のデータについては、2012年1月を起点として過去にさかのぼっていく作業になるから、プログラムをそのまま使うわけにはいかない。この作業についてあらためて指示を作成し、それにしたがってプログラミングをおこなったとすれば、指示を出した者の認識にしたがったプログラムになるわけである。</p><p>もうひとつの可能性としては、層間移動事業所の労働者数に抽出率逆数をかけるのはまずい、ということに担当者が途中で気付いたのかもしれない。「時系列比較のための推計値」算出が難航した理由のひとつは、産業分類の変更が途中でおこなわれていたために、抽出率のちがう事業所が同一層内に混在しており、層別の抽出率逆数が一意に決められない、という問題であった。これは、別の層から移動してきた事業所ともとからその層にいた事業所とでは本来適用すべき抽出率が異なる、というのと性質のおなじ問題である。</p> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00127285"> <p>不正抽出でなくても、第一種事業所のおなじ層内にちがう抽出率の調査対象が混じっている事態は、毎月勤労統計調査では常に存在しているはずである。なぜなら、調査期間の途中で事業所が別の層に移動することがあるからだ。それ以降、その事業所は移動先の層に属しているものとして集計される〔……〕。しかし、<strong>移動元の層と移動先の層で抽出率がちがう場合には、移動した事業所をもともとその層にいた事業所とおなじウェイトで集計してはいけない</strong> はずなのである。</p><p> 層間移動する事業所の数が少なければこれはあまり問題ではないかもしれない。しかし大量にそうした移動が起こると、当然大問題になる。そして、そういう事態は実際に2010-2011年の毎月勤労統計調査で起きていたようだ。というのは、このときに産業分類が変更されたからである。サンプリング時点では別の産業とみなされて別の抽出率が適用されていた事業所が、分類変更の結果、おなじ層に混在するようになった。</p><p> この問題は2019年1月17日の統計委員会ではじめて報告された。ただし、このときから現在に至るまで、単に「過去にさかのぼった再集計ができない」という問題としてとらえられているようである。</p><p>〔……〕</p><p> しかし、この問題は、単に再集計が困難だというにとどまるものではない。<strong>第一種事業所では層内に抽出率のちがいはないという前提で集計方法をデザインしていたにもかかわらず、その前提が成り立たない状況を自ら作り出していたことを示している</strong> からである。集計数値のずれかたという点からみると、東京都不正抽出よりもインパクトが大きいかもしれない。また、このような <strong>集計方法の制約を理解せずにずっと調査をつづけてきたのだとすると、ほかにも別のかたちで抽出率のちがうサンプルを不適切にあつかった事例が隠れている可能性がある。</strong></p><p> 厚生労働省は、2018年以降、第一種事業所にもローテーション・サンプリング (部分入れ替え制) を導入したため、抽出率を考慮した集計方法に変更したと説明している。しかしその方法をよくみると、所在地やサンプリング時期によってちがう抽出率を割り当てるだけ [統計委員会 第135回 資料6-2: 2] であり、<strong>個別の事業所について抽出時の抽出率を特定できる仕組みはない</strong> ようである。これでは、予期しない要因によって大量の事業所が層間で移動する事態には対処できない。根本的な対策は実はされていないと考えておいたほうがよさそうだ。今後のシステム改修等できちんとした対応がおこなわれるのかどうか注意して見守る必要がある。 <br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2020)「毎月勤労統計調査の諸問題」『東北大学文学研究科研究年報』69: 210-168<br /> (pp. 189-188)<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a></cite> </blockquote> <p>産業分類変更が問題になったのは、旧分類に基づいて決めた抽出率で事業所を抽出したのに、集計は新分類でおこなっていた、ということであった。各事業所の抽出時の産業分類がわかるデータは廃棄されてしまっていたので、旧分類に基づいて抽出率を割り振ることもできない。結局、新分類をもとに抽出率を割り振る――ただし旧分類でわけたときの事業所の割合を推測して、できるかぎりもっともらしい値にする――という手法が採用されている。</p><p>そのような問題を検討しているところに、層間移動した事業所の労働者数に抽出率逆数をかけるのです、という資料が出てくれば、「ここでいう「抽出率逆数」は何に基づいて決めるのか?」という議論に当然なる。そして、この議論を突き詰めていけば、すでに公表している再集計値の計算がおかしい――そして、再集計値に基づいて決めた <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03463.html">&#x96C7;&#x7528;&#x4FDD;&#x967A;&#x30FB;&#x52B4;&#x707D;&#x4FDD;&#x967A;&#x30FB;&#x8239;&#x54E1;&#x4FDD;&#x967A;&#x7B49;&#x306E;&#x7D66;&#x4ED8;&#x91D1;&#x8FFD;&#x52A0;</a> などもおかしいのではないか――という疑問にたどり着く。このような厄介事を避けるために、抽出率逆数をかける手順はなかったことにしたのかもしれない。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="stone">毎月勤労統計調査の躓きの石</h3> <p>毎月勤労統計調査が現在のような母集団労働者数推計の仕組みを採用したのは、1990年のことである。</p> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00127285"> <p> 1990年における大きな変更点としては、それまでの「甲」「乙」調査が統合されたことがある [神代 1995]。調査内容が統一され、調査票もほぼおなじものになった。ただ、これ以降もサンプリングと調査方法のちがいは存続しており、「第一種事業所」「第二種事業所」の区別が維持されている。</p><p> もうひとつの重要な変更点は、母集団労働者数推定の方法〔……〕が改善されたことである [神代 1995]。それまでの「乙」調査の集計では、抽出率逆数による重み付けがおこなわれるのみであり、母集団労働者数を推定して使う方式は採用していなかった。「甲」調査では母集団労働者数推定値を用いていたが、新設事業所等の情報を補完する方法論が弱かった。1990年調査からは、「第一種事業所」「第二種事業所」の両方で、現在とほぼ同様の推定方法が採用されている [要覧 1991年版: 313-314]。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2020)「毎月勤労統計調査の諸問題」『東北大学文学研究科研究年報』69: 210-168<br /> (pp. 207-206)<br /> [神代 1995] は 神代和欣 (1995)「毎月勤労統計調査」『日本労働研究雑誌』419: 32-33.<br /> [要覧] は『毎月勤労統計要覧』.</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a></cite> </blockquote> <p>結果からみれば、この変更は「改善」ではなく、むしろ「改悪」だったといえよう。この複雑な母集団労働者数推計方法を正しくあつかうことができず、かえって不正確な母集団労働者数を使った推計結果を出すことになってしまっているからだ。 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap</a> で試算したように、月々の労働者数推計をすっぱりやめてしまったほうが、センサスとの乖離はすくない。第二種事業所 (5-29人規模) については <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop#diss1">&#x30BB;&#x30F3;&#x30B5;&#x30B9;&#x306E;&#x307B;&#x3046;&#x304C;&#x9593;&#x9055;&#x3063;&#x3066;&#x3044;&#x308B;&#x7591;&#x3044;&#x304C;&#x3042;&#x308B;</a> が、第一種事業所に関しては、毎月勤労統計調査のほうが間違っているのだと考えるべきであろう。</p><p>こういう変なことが起きてしまう直接の原因は、抽出率を事業所ごとに記録せず、所属層によって割り当てる簡易な方法をとっていることである。この方法をとっていいのは、事業所が層間を異動せず、調査期間の最初から最後までおなじ層にとどまる場合に限られる。<strong>調査期間中に事業所の所属層を移動させたり産業分類を組み替えたりするのであれば、抽出率を所属層によって割り当ててはならない</strong> のだ。</p><p>さらに根本に戻って考えるなら、私がおこなったような反省的なデータ分析を、なぜ厚生労働省自身がやらなかったのか<a href="#f-8eb00358" name="fn-8eb00358" title="毎月勤労統計調査「再集計値」の労働者数の推移がおかしいことをはじめて指摘したのは、山田正夫による2019年4月22日のブログ記事 [http://kagaku7g.g.dgdg.jp/mkt/mkt06sai.htm] である。30-99人規模事業所 (山田の表現では「C群」) の労働者数が再集計作業で大きく減ったことを示して「奇妙なのはC群で、129万~159万人の労働者数が減少している。これが「異なる抽出率の復元」の結果であるとはとても考えにくい」と書いている。この奇妙な労働者数減少を引き起こした原因がこの時点で追究されていたなら、その後の展開はずいぶんちがっていただろう。">*2</a> が問題である。「雇用保険等補正」が労働者数にあたえる影響については、2019年2月20日の第132回統計委員会で議論の俎上に出たのだが、このときのやりとりから、母集団労働者数推計による労働者数の増減がどの程度であるかのデータを持たずに議論していることがわかる。</p> <blockquote cite="https://www.soumu.go.jp/main_content/000626211.pdf"> <p>○西村委員長 はい、分かりました。<br /> それから、これは微妙なところですが、資料の21ページの母集団労働者数の補正について、雇用保険データのインパクトはどの程度ですかという質問があったわけですが、こちらについてはいかがですか。一種のSensitivity Analysis(感度分析)みたいな話なのですが。</p><br /> <p>○瀧原厚生労働省政策統括官付参事官付統計管理官(雇用・賃金福祉統計担当) そうです。これも <strong>今時点でこれにお答えするものは持っていません</strong> けれども、実際の具体的な時期というか、計算時点というのはいろいろ動くかもしれませんけれども、多分、大きなものとしてはそんなに……、大体計量可能かと思いますので、そこの部分も併せて検討してお答えさせていただければとは思っています。<br /> ―――――<br /> 第132回 統計委員会 (2019-02-20) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/kaigi.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/kaigi.html</a> 議事録<br /> p. 15<br /> 〔<strong>強調</strong> は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000626211.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000626211.pdf</a></cite> </blockquote> <p>このときは、2010年以前の雇用保険事業所データがないためにさかのぼっての推計ができないということが問題となり、統計委員会から「雇用保険データが母集団労働者数の補正に与えるインパクトはどの程度か。小さければ、無視することもできるのではないか。」(<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000601139.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000601139.pdf</a>) という質問が出ていたわけである。</p><p>しかし、そのような質問が出なくとも、補正によって労働者数がどれくらいの影響を受けるのか、真の母集団労働者数を首尾よく追尾できているといえるのかは、通常の統計作成活動の一環として、すくなくともセンサスに基づくベンチマーク更新をおこなった際には常にチェックしていなければならないはずのものである。現に、この補正方法を導入した当時の『毎月勤労統計要覧』は、つぎのように書いていた:<a href="#f-9a64c8d4" name="fn-9a64c8d4" title="この『毎月勤労統計要覧』1991年版313ページの説明によれば、規模変更があった場合には、変更前・後の産業・規模区分の母集団労働者数に、「異動分を復元」した増減を加えることになっている。2018年1月の集計方法変更までは抽出率逆数をかけないで移動分の労働者数をそのまま増減していたというのは、この記述どおりの集計になっていなかったということである。なぜそうなったのかは今後あきらかにしていくべき問題のひとつである。">*3</a></p> <blockquote> <p><strong>(4) 母集団労働者数の補正</strong><br />  調査事業所は一定期間固定して調査するので,その後に新設された事業所の状況等は反映されず,したがって,推計労働者数は下方バイアスを持つ傾向がある。そこで,全国調査においては,次により,毎月,労働者数の補正を行っている。<br /> イ 全国調査の対象範囲である5人以上事業所の新設,廃止,5人未満からの規模上昇及び5人未満への規模下降について,雇用保険事業所データにより,その補正数を産業,事業所規模別に推計する。<br /> ロ 調査事業所の常用労働者数について,対象範囲の中で規模変更があった場合には,その都度,集計規模区分を変更する。これに伴い変更前・後の産業・規模区分の母集団労働者数に異動分を復元して増減することによって補正する。<br /> ハ 母集団補正の偏りをできる限り小さくするため調整率 (bias adjusting factor) を設け,イ,ロによる補正数に調整率を乗じた値を本月末労働者数に増減し,それを翌月分の母集団労働者数とする。</p><p> 調整率は,原則として事業所統計調査の結果に基づいて新たにベンチマークを設定した時に,より正確に事業所数の変動を反映するように設定し直すこととする。その他,推計の偏りが大きくなった場合にも見直しを行う。<br /> ―――――<br /> 労働省 (1991)『毎月勤労統計要覧』(平成3年版) 労務行政研究所. <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4897644771/hatena-blog-22/">ISBN:4897644771</a><br /> pp. 313-314</p> </blockquote> <p>「調整率」についてこれ以上の説明はないのだが、たぶん今日では「補正の適用度合い」と呼ばれ、<i>K</i> と <i>L</i> の記号であらわされているものではないかと思う。いずれにせよ、<strong>補正がきちんとした補正になっているかどうかは定期的に見直すことになっていた</strong> のである。2018年にはベンチマークの更新をおこない、<a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-20180927-01.pdf">&#x305D;&#x306E;&#x305F;&#x3081;&#x306B;&#x5927;&#x304D;&#x306A;&#x65AD;&#x5C64;&#x304C;&#x751F;&#x307E;&#x308C;&#x305F;</a> (つまり推計の偏りが大きかった) のだから、その時点で補正による偏りが断層発生にどの程度寄与していたかは検討していなければならなかった。</p><p>もちろん、2017年までの労働者数の補正においては、今回の記事で問題にしてきたような抽出率逆数の問題は出ていなかったので、そこで検討したからといって、今回の問題が摘発できたわけではない。しかし、推計母集団労働者数の動きを定期的にチェックする体制が整っていたなら、遅くとも <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x306B;&#x51FA;&#x3059;&#x8CC7;&#x6599;&#x4F5C;&#x6210;&#x3067;&#x30BB;&#x30F3;&#x30B5;&#x30B9;&#x304B;&#x3089;&#x306E;&#x305A;&#x308C;&#x5177;&#x5408;&#x304C;&#x308F;&#x304B;&#x3063;&#x305F;</a> その段階で、ずれの原因を探る分析がスタートしていたはずであろう。</p><p>集計結果を精査しておかしなところをみつける仕組みがはたらかない組織で、毎月勤労統計調査のような複雑で高度な即時性と精確性を要求するシステムを動かしつづけるのは無理である。組織の抜本的な強化を図るか、別のまともな組織に移管するか、内部文書やプログラムを広く公開して誰でも検証できるようにすべきだ。そうできないのであれば、調査-集計システムのほうをもっと簡略化して、現行の組織でもあつかえる程度にまで複雑さを落とすしかないだろう。<br /> <br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">付録:統計委員会で毎月勤労統計調査問題を取り上げた回の資料 (2019年-)</h3> <p>総務省 統計委員会 会議記録: <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/kaigi.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/kaigi.html</a><br /> </p> <div class="section"> <h4>第130回統計委員会</h4> <p>2019-01-17<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000273.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000273.html</a></p> <ul> <li>資料1 毎月勤労統計及び毎月勤労統計調査に係る統計法の施行状況について(報告) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594891.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594891.pdf</a></li> <li>資料2-1 毎月勤労統計において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて(2019年1月17日 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594892.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594892.pdf</a></li> <li>資料2-2 毎月勤労統計において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて(追加資料)(2019年1月17日 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000594893.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000614754.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000614754.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000622733.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000622733.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第131回統計委員会</h4> <p>2019-01-30<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000276.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000276.html</a></p> <ul> <li>資料4-1 諮問第124号「毎月勤労統計調査の変更について」の概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597493.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597493.pdf</a></li> <li>資料4-2 諮問第124号「毎月勤労統計調査の変更について」 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597494.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597494.pdf</a></li> <li>資料7-1 統計委員会における「毎月勤労統計」の審議について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597497.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597497.pdf</a></li> <li>資料7-2 日本統計学会・日本経済学会・歴代国民経済計算部会長からの要望書 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597498.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597498.pdf</a></li> <li>資料7-3 毎月勤労統計及び毎月勤労統計調査に係る統計法の施行状況に関する意見 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597499.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597499.pdf</a></li> <li>資料8 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597500.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597500.pdf</a></li> <li>資料9-1 毎月勤労統計の再集計値公表を受けた平成29年度国民経済計算年次推計(フロー編)再推計結果について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597501.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597501.pdf</a></li> <li>資料9-2 雇用者報酬における2015年以前への遡及推計について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597502.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597502.pdf</a></li> <li>資料10-1 基幹統計の点検及び今後の対応について(報告) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597503.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597503.pdf</a></li> <li>資料10-2 厚生労働省からの追加報告 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597504.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597504.pdf</a></li> <li>資料10-3 賃金構造基本統計調査の実施状況等について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597505.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597505.pdf</a></li> <li>資料10-4 統計委員会の対応について(案) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000597506.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000597506.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000614756.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000614756.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000624757.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000624757.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第132回統計委員会</h4> <p>2019-02-20<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000286.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000286.html</a></p> <ul> <li>資料5―1 毎月勤労統計 2004年から2011年までの遡及推計における不足しているデータに関する整理 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000601139.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000601139.pdf</a></li> <li>資料5-2 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000601140.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000601140.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000614759.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000614759.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000626211.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000626211.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第133回統計委員会</h4> <p>2019-03-06<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000291.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000291.html</a></p> <ul> <li>資料2 点検検証部会の審議状況について(報告) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605044.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605044.pdf</a></li> <li>資料3-1 経済統計学会からの要望書 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605048.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605048.pdf</a></li> <li>資料3-2 社会調査協会理事長声明 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605052.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605052.pdf</a></li> <li>資料3-3 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605053.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605053.pdf</a></li> <li>資料3-4 毎月勤労統計についてベンチマーク(ウエイト)更新時に賃金・労働時間指数を遡及改定しないことについて <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605054.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605054.pdf</a></li> <li>資料3-5 統計委員会における毎月勤労統計に係る諮問審議(平成28年11月~平成29年1月)に関連する主な審議経緯等 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605055.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605055.pdf</a></li> <li>資料3-6 毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する追加報告書(平成31年2月27日)に対する意見書 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000605056.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000605056.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000614760.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000614760.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000628319.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000628319.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第134回統計委員会</h4> <p>2019-03-18<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000295.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000295.html</a></p> <ul> <li>資料4-1 統計委員会委員の意見書についての審議結果を受けた厚生労働省への情報 提供の要望 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000607311.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000607311.pdf</a></li> <li>資料4-2 情報提供の要望に関する厚生労働省説明資料 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000607312.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000607312.pdf</a></li> <li>資料4-3 毎月勤労統計調査について(厚生労働省説明資料) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000607313.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000607313.pdf</a></li> <li>資料4-4 毎月勤労統計 2004年から2011年までの遡及推計における不足しているデータに関する整理(2) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000607314.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000607314.pdf</a></li> <li>参考1 統計委員会における毎月勤労統計に係る諮問審議(平成28年11月~平成29年1月)に関連する主な審議経緯等 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000607315.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000607315.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000614761.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000614761.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000631244.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000631244.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第135回統計委員会</h4> <p>2019-04-18<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000312.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000312.html</a></p> <ul> <li>資料6-1 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615313.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615313.pdf</a></li> <li>資料6-2 「統計委員会の意見書についての審議結果を受けた厚生労働省への情報提供の要望」に対する回答 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000620839.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000620839.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000632777.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000632777.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第136回統計委員会</h4> <p>2019-04-26<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/02shingi05_02000319.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/02shingi05_02000319.html</a></p> <ul> <li>資料5-1 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000617562.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000617562.pdf</a></li> <li>資料5-2 毎月勤労統計 2004年から2011年までの遡及推計における不足しているデータに関する整理(3) <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000617563.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000617563.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000628318.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000628318.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000634236.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000634236.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第137回統計委員会</h4> <p>2019-05-24<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000326.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000326.html</a></p> <ul> <li>資料4   毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000621414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000621414.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000630002.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000630002.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000635833.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000635833.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第138回統計委員会</h4> <p>2019-06-27<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000336.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000336.html</a></p> <ul> <li>資料9 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000630217.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000630217.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000643379.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000643379.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000643378.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000643378.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第139回統計委員会</h4> <p>2019-07-18<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000345.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000345.html</a></p> <ul> <li>資料4 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000634348.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000634348.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000645348.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000645348.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000645347.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000645347.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第140回統計委員会</h4> <p>2019-08-29<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000357.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000357.html</a></p> <ul> <li>資料3 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000641095.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000641095.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000651707.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000651707.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000651708.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000651708.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第141回統計委員会</h4> <p>2019-09-30<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000366.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000366.html</a></p> <ul> <li>資料4-2 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000646910.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000646910.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000655909.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000655909.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000656294.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000656294.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第143回統計委員会</h4> <p>2019-11-27<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000374.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000374.html</a></p> <ul> <li>資料5-2 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000656778.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000656778.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000664560.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000664560.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000664620.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000664620.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第144回統計委員会</h4> <p>2019-12-20<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000001_00002.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000001_00002.html</a></p> <ul> <li>資料7 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000660658.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000660658.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000668358.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000668358.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000671529.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000671529.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第145回統計委員会</h4> <p>2020-01-24<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000386.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000386.html</a></p> <ul> <li>資料4-1 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000665662.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000665662.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000676032.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000676032.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000676524.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000676524.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第146回統計委員会</h4> <p>2020-03-16<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000396.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000396.html</a></p> <ul> <li>資料6 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000675708.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000675708.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000683795.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000683795.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000710555.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000710555.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第149回統計委員会・第8回企画部会(合同開催)</h4> <p>2020-04-30<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000410.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000410.html</a></p> <ul> <li>資料2-1 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000685671.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000685671.pdf</a></li> <li>議事結果 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000687580.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000687580.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第150回統計委員会</h4> <p>2020-05-28<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000415.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000415.html</a></p> <ul> <li>資料2 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000689816.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000689816.pdf</a></li> <li>議事結果 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000692519.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000692519.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第153回統計委員会</h4> <p>2020-07-31<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000425.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000425.html</a></p> <ul> <li>資料7 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000701014.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000701014.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000717845.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000717845.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000722151.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000722151.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第155回統計委員会</h4> <p>2020-10-01<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000434.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000434.html</a></p> <ul> <li>資料3 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000709346.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000709346.pdf</a></li> <li>議事概要 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000722154.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000722154.pdf</a></li> <li>議事録 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000728827.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000728827.pdf</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第163回統計委員会</h4> <p>2021-04-22<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000481.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000481.html</a></p> <ul> <li>資料4 毎月勤労統計調査の見直しについて <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000746602.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000746602.pdf</a></li> <li> </li> </ul> </div> <div class="section"> <h4>第166回統計委員会</h4> <p>2021-07-30<br /> <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000509.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000509.html</a></p> <ul> <li>資料7 毎月勤労統計調査について <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000761867.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000761867.pdf</a></li> <li> </li> </ul> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」参加者への手紙<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211017/wgletter</a><br /> </p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-10-14</dt> <dd>公開</dd> <dt>2021-10-14</dt> <dd>「500-499」と書いていた11カ所を「100-499」または「500-999」に訂正</dd> <dt>2021-12-28</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-74300193" name="f-74300193" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">実際には層間移動する事業所があるのだし、産業分類の変更によって抽出率のちがう事業所が同一層内に混在していた時期もあるため、この前提は成り立たない。しかしそのことは無視されてきた。<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の201-197ページおよび189-188ページを参照。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-8eb00358" name="f-8eb00358" class="footnote-number">*2</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">毎月勤労統計調査「再集計値」の労働者数の推移がおかしいことをはじめて指摘したのは、山田正夫による2019年4月22日のブログ記事 <a href="http://kagaku7g.g.dgdg.jp/mkt/mkt06sai.htm">http://kagaku7g.g.dgdg.jp/mkt/mkt06sai.htm</a> である。30-99人規模事業所 (山田の表現では「C群」) の労働者数が再集計作業で大きく減ったことを示して「奇妙なのはC群で、129万~159万人の労働者数が減少している。これが「異なる抽出率の復元」の結果であるとはとても考えにくい」と書いている。この奇妙な労働者数減少を引き起こした原因がこの時点で追究されていたなら、その後の展開はずいぶんちがっていただろう。</span></p> <p class="footnote"><a href="#fn-9a64c8d4" name="f-9a64c8d4" class="footnote-number">*3</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">この『毎月勤労統計要覧』1991年版313ページの説明によれば、規模変更があった場合には、変更前・後の産業・規模区分の母集団労働者数に、「異動分を復元」した増減を加えることになっている。2018年1月の集計方法変更までは抽出率逆数をかけないで移動分の労働者数をそのまま増減していたというのは、この記述どおりの集計になっていなかったということである。なぜそうなったのかは今後あきらかにしていくべき問題のひとつである。</span></p> </div> remcat 毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様 hatenablog://entry/13574176438020602253 2021-10-09T11:20:36+09:00 2021-12-28T23:18:45+09:00 前々回記事 で、毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計がセンサスの数値から乖離している問題をとりあげた。 5-29人規模と500-999人規模事業所では、推計母集団労働者数が増加することにより、センサスからの乖離が生じている 30-99人規模事業所では、推計母集団労働者数が減少することにより、センサスからの乖離が生じている さらに、 前回記事 では、母集団労働者推計をふたつの段階にわけて、どこでセンサスとの乖離が生じているかを検討した。調査対象事業所の労働者数の月間の変動データによる推計が第1段階であり (「毎勤推計」と呼ぶ)、事業所新設・廃止等による変動 (雇用保険事業所データによる) と事業… <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で、毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計がセンサスの数値から乖離している問題をとりあげた。</p> <ol> <li>5-29人規模と500-999人規模事業所では、推計母集団労働者数が増加することにより、センサスからの乖離が生じている</li> <li>30-99人規模事業所では、推計母集団労働者数が減少することにより、センサスからの乖離が生じている</li> </ol><p>さらに、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> では、母集団労働者推計をふたつの段階にわけて、どこでセンサスとの乖離が生じているかを検討した。調査対象事業所の労働者数の月間の変動データによる推計が第1段階であり (「毎勤推計」と呼ぶ)、事業所新設・廃止等による変動 (雇用保険事業所データによる) と事業所規模の変化などで別の層に事業所が移動したことによる変動 (毎月勤労統計調査による) の推計をおこなうのが第2段階である (「雇用保険等補正」と呼ぶ)。</p> <ol> <li>5-29人規模事業所の推計母集団労働者数の増加には雇用保険等補正による寄与が大きいが、2012年以降は毎勤推計の寄与も増加してきている</li> <li>30-99人規模事業所での減少と500-999人規模事業所での増加は、雇用保険等補正による</li> </ol><p>後者の、雇用保険等補正による増加については、雇用保険事業所データに由来する部分と、毎月勤労統計調査に由来する部分がある。今回の記事では、さらにこれらを分離することを考える。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#intro">&#x300C;&#x5F93;&#x6765;&#x306E;&#x516C;&#x8868;&#x5024;&#x300D;&#x3068;&#x306E;&#x6BD4;&#x8F03;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#data">&#x65E7;&#x96C6;&#x8A08;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;&#x3068;&#x65B0;&#x96C6;&#x8A08;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;</a> <ul> <li>「従来の公表値」「本系列」「時系列比較のための推計値」</li> <li>データの入手と基本加工</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#oldnew">&#x63A8;&#x8A08;&#x6BCD;&#x96C6;&#x56E3;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x306E;&#x65B0;&#x65E7;&#x6BD4;&#x8F03;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#factor">&#x300C;&#x6BCE;&#x52E4;&#x63A8;&#x8A08;&#x300D;&#x3068;&#x300C;&#x96C7;&#x7528;&#x4FDD;&#x967A;&#x7B49;&#x88DC;&#x6B63;&#x300D;&#x306E;&#x52B9;&#x679C;&#x306E;&#x5206;&#x96E2;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#monthly">&#x5404;&#x6708;&#x306E;&#x5909;&#x52D5;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#diss">&#x8B70;&#x8AD6;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#appendix">&#x4F7F;&#x7528;&#x3057;&#x305F;&#x30D7;&#x30ED;&#x30B0;&#x30E9;&#x30E0;&#x3068;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#note">&#x6CE8;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="intro">「従来の公表値」との比較</h3> <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;</a> および <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">&#x524D;&#x56DE;</a> の記事で使ったのは、東京都での不正抽出が発覚して以降に再集計をおこなったデータである。この再集計は毎月勤労統計調査で発覚した問題に対応するためのにおこなったものであって、雇用保険事業所データのほうに問題があったわけではない。したがって、再集計の際にも、(データのとりあつかいにミスがあった場合<a href="#f-faa76c39" name="fn-faa76c39" title=" 2018年7月分の雇用保険事業所データを別の月ととりちがえるミスがあったことが判明しているが、それはすでに修正されている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20190531teisei.pdf 参照。 ">*1</a> を別とすれば) 従来とおなじデータを使っていたはずだ。</p><p>一方で、その以前に公表されていた「従来の公表値」のデータも、「政府統計の総合窓口」(e-Stat) からダウンロードできる。こちらの毎月勤労統計調査のデータは、再集計後の値とはちがうものを使っているわけである。従来の公表値と再集計後のデータを比較して、雇用保険等補正による労働者数の変動にちがいが出てくれば、そのちがいは雇用保険事業所データによるものではなく、毎月勤労統計調査の層間移動事業所のデータのほうに変化があったものと考えることができる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="data">旧集計データと新集計データ</h3> <div class="section"> <h4>「従来の公表値」「本系列」「時系列比較のための推計値」</h4> <p>現在公表されている毎月勤労統計調査の「従来の公表値」データは、2007年10月以降のものである。</p> <ul> <li>2017年12月までは、第一種事業所 (30人以上の事業所) の層内での抽出率のちがいを考慮せず集計</li> <li>2018年1月から、第一種事業所の抽出率のちがいを考慮した集計方法に変更 (このときに東京都不正抽出による抽出率のちがいの処理も秘密裡に導入)</li> </ul><p>このように、集計方法が時期によってちがうのだが、これらが一括して「従来の公表値」と呼ばれている。</p><p>一方、現在の毎月勤労統計調査の「本系列」のデータは、2012年以降について、抽出率のちがいを考慮した集計方法を適用したものである。これはつまり、「従来の公表値」では2018年1月から採用している集計方法を、6年前の2012年1月から適用したもの、ということになる。だから2018年以降については、「従来の公表値」とおなじ方式で集計しているのだが、2014-2017年の変化がちがうため、2018年1月にベンチマーク更新 (2014年7月の経済センサス-基礎調査による) をおこなったあとの水準がちがい、そのために差が生じている。</p><p>2011年以前は、集計をやり直すのに必要なデータが廃棄されてしまっていたため、「本系列」とおなじ方式での集計が不可能であった。強引な仮定を置いて必要なデータを逆算するなどして、2004年1月までさかのぼって推計値を算出したのが「時系列比較のための推計値」である。</p><p>今回の記事では、「従来の公表値」のことを「旧集計」と呼ぶ。また、「本系列」「時系列比較のための推計値」をあわせて「新集計」と呼ぶことにしよう。</p> </div> <div class="section"> <h4>データの入手と基本加工</h4> <p>「新集計」のデータは、前々回記事 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data</a> で使用したものとおなじである。(<a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt</a>)</p><p>「旧集計」のデータは、 e-Stat 「毎月勤労統計調査 全国調査」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> の「その他」→「【参考】従来の公表値 」から、つぎの2か所のExcelファイル群 (juu-mks******.xls のようなファイル名になっている) をダウンロードする:</p> <ul> <li>「実数原表」→「月次」</li> <li>「実数原表(旧産業分類(平成14年3月改定)(2010年1月まで))」→「月次」</li> </ul><p>テキスト形式に変換して、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> とおなじ Perl スクリプト <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt</a> を適用すればよい (そのままだとファイル名制限に引っかかるので、ファイル名パターンを追記するか、オプション -all を指定する)。変換したテキストファイル (タブ区切り) を <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly-juu.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly-juu.dat.txt</a> に置いておく (6MB)。</p><p>基本的なデータ加工方針は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> と同様である。ただ、今回は新集計と旧集計のふたつのデータにおなじ加工を施すことになるので、共通の処理を関数にするなど、こまかい変更を加えた。当記事で使用したのRスクリプトの全体は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> に置いておく。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>datafile.new <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">&quot;maikin-monthly.dat&quot;</span> datafile.old <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">&quot;maikin-monthly-juu.dat&quot;</span> datafile.kyu201801 <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">&quot;maikin201801kyu.dat&quot;</span> census.date <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200610</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">200907</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201407</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201605.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201905.5</span> <span class="synSpecial">)</span> reset.date0 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200812.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201112.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201712.5</span> <span class="synSpecial">)</span> reset.date1 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200901</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201201</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201801</span> <span class="synSpecial">)</span> checkpoint <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> census.date<span class="synSpecial">,</span> reset.date0<span class="synSpecial">,</span> reset.date1<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">202105</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">202105.5</span> <span class="synSpecial">)</span> read.data.long <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> filename <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> d <span class="synStatement">&lt;-</span> read.delim<span class="synSpecial">(</span> filename<span class="synSpecial">,</span> header<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">T</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># Sort by date and establishment size</span> d <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> d <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">$</span>is <span class="synStatement">&lt;-</span> factor<span class="synSpecial">(</span> paste<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>industry<span class="synSpecial">,</span> d<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">,</span> sep<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;.&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>year <span class="synStatement">&lt;-</span> round<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">/</span> <span class="synConstant">100</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>month<span class="synStatement">&lt;-</span> floor<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">100</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker2 <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>e0 <span class="synStatement">+</span> d<span class="synSpecial">$</span>e1 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span> d1 <span class="synStatement">&lt;-</span> d d2 <span class="synStatement">&lt;-</span> d d1<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">&lt;-</span> d1<span class="synSpecial">$</span>e0 d2<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">&lt;-</span> d2<span class="synSpecial">$</span>e1 d2<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> d2<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">+</span> <span class="synConstant">0.5</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> d1<span class="synSpecial">,</span> d2 <span class="synSpecial">)</span> r<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> list.bysize <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> data <span class="synSpecial">,</span> reset<span class="synStatement">=</span>c<span class="synSpecial">()</span> <span class="synSpecial">){</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">(</span> size5 <span class="synStatement">=</span> subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">5</span> <span class="synStatement">==</span> size <span class="synSpecial">),</span> size30<span class="synStatement">=</span> subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">30</span> <span class="synStatement">==</span> size <span class="synSpecial">),</span> size100<span class="synStatement">=</span>subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">100</span> <span class="synStatement">==</span> size <span class="synSpecial">),</span> size500<span class="synStatement">=</span>subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">500</span> <span class="synStatement">==</span> size <span class="synSpecial">),</span> size1000<span class="synStatement">=</span>subset<span class="synSpecial">(</span>data<span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">1000</span> <span class="synStatement">==</span> size <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> r <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> n <span class="synStatement">&lt;-</span> nrow<span class="synSpecial">(</span> d <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.prev <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> d <span class="synSpecial">[</span> <span class="synStatement">-</span>n<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.next <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> d <span class="synSpecial">[</span> <span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">NA</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.inc <span class="synStatement">&lt;-</span> log<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">/</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.prev <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.diff<span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">-</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker.prev d <span class="synSpecial">[</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">%in%</span> reset <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">NA</span> d <span class="synSpecial">[</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">%in%</span> reset <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.diff&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">NA</span> d <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synComment"># Renewed data</span> x.long <span class="synStatement">&lt;-</span> read.data.long<span class="synSpecial">(</span> datafile.new <span class="synSpecial">)</span> x.bysize <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> x.long<span class="synSpecial">,</span> industry<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">&quot;TL&quot;</span> <span class="synStatement">&amp;</span> <span class="synConstant">0</span><span class="synStatement">&lt;</span>size <span class="synSpecial">)</span> data.new <span class="synStatement">&lt;-</span> list.bysize<span class="synSpecial">(</span> x.bysize<span class="synSpecial">,</span> reset<span class="synStatement">=</span>reset.date1 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># Old data</span> y.long <span class="synStatement">&lt;-</span> read.data.long<span class="synSpecial">(</span> datafile.old <span class="synSpecial">)</span> y.bysize <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> y.long<span class="synSpecial">,</span> industry<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">&quot;TL&quot;</span> <span class="synStatement">&amp;</span> <span class="synConstant">0</span><span class="synStatement">&lt;</span>size <span class="synSpecial">)</span> data.old <span class="synStatement">&lt;-</span> list.bysize <span class="synSpecial">(</span> y.bysize<span class="synSpecial">,</span> reset<span class="synStatement">=</span>reset.date1 <span class="synSpecial">)</span> start.old.mon <span class="synStatement">&lt;-</span> data.old<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> end.old.mon <span class="synStatement">&lt;-</span> data.old<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> nrow<span class="synSpecial">(</span>data.old<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]])</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> start.old.num <span class="synStatement">&lt;-</span> which<span class="synSpecial">(</span> data.new<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm<span class="synStatement">==</span>start.old.mon <span class="synSpecial">)</span> skip.old <span class="synStatement">&lt;-</span> start.old.num <span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span> remain.old <span class="synStatement">&lt;-</span> nrow<span class="synSpecial">(</span> data.new<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">-</span> nrow<span class="synSpecial">(</span> data.old<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">-</span> skip.old </pre><p>新集計のデータのうち、「本系列」は従来の公表値 (=旧集計) の2012年1月を起点に再集計を施したものであり、「時系列比較のための推計値」は2012年1月から過去にさかのぼって推計をおこなったものである。したがって、2012年1月の新集計と旧集計の数値は一致するはずなのだが、実際には若干の食い違いがみられる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Workers at 2012-01</span> w201201 <span class="synStatement">&lt;-</span> cbind<span class="synSpecial">(</span> subset<span class="synSpecial">(</span> x.bysize<span class="synSpecial">,</span> yyyymm<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">201201</span> <span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span>c<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> subset<span class="synSpecial">(</span> y.bysize<span class="synSpecial">,</span> yyyymm<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">201201</span> <span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> w201201 <span class="synStatement">&lt;-</span> cbind<span class="synSpecial">(</span> w201201<span class="synSpecial">,</span> w201201<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">-</span> w201201<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">4</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>w201201<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;month&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.new&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.old&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;difference&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> w201201 </pre><pre class="code" data-lang="" data-unlink> month size worker.new worker.old difference 127038 201201 5 18332606 18332859 -253 127037 201201 30 12341641 12341565 76 127036 201201 100 9663789 9663655 134 127035 201201 500 2213075 2212995 80 127034 201201 1000 3092198 3092198 0</pre><p>この食い違いの原因はわからない。ただ、差は最大でも253人と小さいので、とりあえず放置して先に進もう。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="oldnew">推計母集団労働者数の新旧比較</h3> <p>新集計と旧集計それぞれの推計母集団労働者数の推移を確認する。</p><p>まず、基準となるセンサスの労働者数を求めておく (理屈は <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> を参照)。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Gaps</span> x.cp <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> x.bysize<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%in%</span> checkpoint <span class="synSpecial">)</span> size.cp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> split<span class="synSpecial">(</span> x.cp <span class="synSpecial">,</span> x.cp<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synSpecial">),</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.cp<span class="synStatement">&lt;-</span>sapply<span class="synSpecial">(</span> split<span class="synSpecial">(</span> x.cp <span class="synSpecial">,</span> x.cp<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synSpecial">),</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.cp<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> size.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]</span> gap2009 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200901&quot;</span><span class="synSpecial">]</span><span class="synStatement">/</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200812.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.pop2006 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200610&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2009 gap2012 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201201&quot;</span><span class="synSpecial">]</span><span class="synStatement">/</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201112.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.pop2009 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200907&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2012 kyu2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> read.delim<span class="synSpecial">(</span> datafile.kyu201801<span class="synSpecial">,</span> header<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">T</span> <span class="synSpecial">)</span> kyu2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> kyu2018<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>kyu2018<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">),</span> <span class="synSpecial">]</span> kyu2018.tl0 <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> kyu2018<span class="synSpecial">,</span> industry<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">&quot;TL&quot;</span> <span class="synStatement">&amp;</span> <span class="synConstant">0</span><span class="synStatement">&lt;</span>size <span class="synSpecial">)</span> gap2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201801&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">/</span> kyu2018.tl0<span class="synSpecial">$</span>e0 worker.pop2014 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201407&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2018 <span class="synComment"># From https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf</span> gap2019 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.888</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.092</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.985</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.813</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.947</span> <span class="synSpecial">)</span> names<span class="synSpecial">(</span> gap2019 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;5&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;30&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;100&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;500&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;1000&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop2019 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201905.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2019 census2016 <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind <span class="synSpecial">(</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.878</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.843</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.971</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.880</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.171</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.844</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.973</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.162</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.959</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.843</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.977</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.842</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.970</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.842</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.970</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> gap2016 <span class="synStatement">&lt;-</span> exp<span class="synSpecial">(</span> apply<span class="synSpecial">(</span> log<span class="synSpecial">(</span>census2016<span class="synSpecial">),</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> mean <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> names<span class="synSpecial">(</span> gap2016 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;5&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;30&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;100&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;500&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;1000&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop2016 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201605.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2016 worker.pop <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> worker.pop2006<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2009<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2014<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2016<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2019 <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> census.date temp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply <span class="synSpecial">(</span> data.new<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">%in%</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">),</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> rep<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> t<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> data.new<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm </pre><p>そのうえで、新集計、旧集計、センサスの労働者数のデータを統合する</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Trend of the number of workers by establishment size</span> result <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> data.new <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> cbind<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">,</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker<span class="synSpecial">,</span> worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.new&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;census&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.old <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.old <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker names<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>result<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> result<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.old <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> skip.old<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> worker.old<span class="synSpecial">[,</span> s<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> remain.old<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>結果は下記のグラフ1のようになる。黒い線が新集計 (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">&#x524D;&#x3005;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> とおなじ)、緑が旧集計、×印がセンサスの労働者数である。矢印はベンチマーク更新をあらわす。</p> <div class="section"> <h4>グラフ1: 新集計と旧集計の労働者数</h4> <div class="section"> <h5>グラフ1(a) 5-29人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182358" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182358.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182358j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 矢印はベンチマーク更新。</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ1(b) 30-99人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182355" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182355.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182355j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 矢印はベンチマーク更新。</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ1(c) 100-499人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182351" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182351.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182351j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 矢印はベンチマーク更新。</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ1(d) 500-999人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182409" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182409.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182409j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 矢印はベンチマーク更新。</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ1(e) 1000人以上規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182404" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182404.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182404j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 矢印はベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>5-29人規模事業所と1000人以上規模事業所では、新旧集計の間に差はみられない。5-29人規模では、新集計でも旧集計でも、センサスよりずっと速く労働者数が増加しており、大きな乖離が生じている。他方、1000人以上規模では、センサスとの乖離は大きくはなく、特に2012年にベンチマークを更新して以降は、両者ともほぼ一定で推移している。</p><p>それ以外の規模区分では、新旧集計の間に差がみられる。</p><p>30-99人規模事業所では、2012年以降、新集計の労働者数が減少してセンサスを大きく下回っている。これに対して、旧集計の労働者数は、横ばいか増加しており、センサスに近い値となっている。この事業所規模区分における労働者数のセンサスからの乖離は、 <strong>方式を変更して再集計をおこなったことによってかえって拡大した</strong> のである。</p><p>100-499人規模と500-999人規模の事業所では、2012年以降、新集計の労働者数は旧集計を上回って推移している。これらの事業所規模区分では、センサスの値は新旧集計の間にあることが多く、どちらのほうが乖離が小さいかは一概にはいえない。</p><p>なお、<strong>2011年以前に関しては、どの事業所規模区分でも新旧集計がほぼ一致している</strong> ことに注意されたい。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="factor">「毎勤推計」と「雇用保険等補正」の効果の分離</h3> <p>では、旧集計と新集計との食い違いは、どこから生まれたのだろうか。推計母集団労働者数の変化から、第1段階 (毎勤推計) と第2段階 (雇用保険等補正) 効果を分離してみよう。これには、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> で説明したとおり、「前月末」→「本月末」と「本月末」→「前月末」の労働者数の変化率をそれぞれ抜き出してかけあわせていけばよい (これ以降の計算では、ベンチマーク更新をおこなわないので注意)。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Select record and field</span> select.f <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> mod<span class="synSpecial">,</span> field <span class="synSpecial">){</span> d <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">==</span> mod <span class="synSpecial">)</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> field<span class="synSpecial">]</span> names<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> floor<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synSpecial">)</span> r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synComment"># Distinguish two factors</span> worker.cum <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> v <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> v<span class="synSpecial">[</span> is.na<span class="synSpecial">(</span>v<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">0</span> v<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">0</span> start <span class="synStatement">*</span> exp<span class="synSpecial">(</span> cumsum<span class="synSpecial">(</span>v<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> cum5.new <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.new <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> select.f<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> cum0.new <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.new <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> select.f<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>これで、新集計の推計母集団労働者数の動きから、第1段階と第2段階それぞれの効果を分離して累積した数値が出せる。</p><p>旧集計についても同様にしたいのだが、新集計と比較するため、旧集計の最古のデータである2007年10月時点の数値をそろえて出発することにしよう。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Workers at 2007-10</span> w200710 <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> cum0.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;200710&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">],</span> cum5.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;200710&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>w200710<span class="synSpecial">)</span><span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;e1.e0&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;e0.e1&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>w200710<span class="synSpecial">)</span><span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">30</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">100</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">500</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1000</span><span class="synSpecial">)</span> cum5.old <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.old <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> w200710<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;e0.e1&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> select.f<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> cum0.old <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.old <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> w200710<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;e1.e0&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> select.f<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>センサスの数値も加えて、グラフ描画用にまとめたリストをつくる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># Census</span> temp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply <span class="synSpecial">(</span> as.numeric<span class="synSpecial">(</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>cum0.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> j <span class="synStatement">&lt;-</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> k <span class="synStatement">&lt;-</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">0.5</span><span class="synSpecial">)</span> w <span class="synStatement">&lt;-</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">if</span> <span class="synSpecial">(</span> j <span class="synStatement">%in%</span> w <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> j<span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> k <span class="synStatement">%in%</span> w <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> k<span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> rep<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.yyyymm2 <span class="synStatement">&lt;-</span> t<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm2<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm2<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>cum0.new<span class="synSpecial">)</span> worker.predicted <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:</span>ncol<span class="synSpecial">(</span>cum0.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> s <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>cum0.new<span class="synSpecial">)[</span>i<span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span> yyyymm<span class="synStatement">=</span>rownames<span class="synSpecial">(</span>cum0.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e1.e0.new <span class="synStatement">&lt;-</span> cum0.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> i<span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e0.e1.new <span class="synStatement">&lt;-</span> cum5.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> i<span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>census <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop.yyyymm2<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> i <span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e1.e0.old <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>skip.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">),</span> cum0.old<span class="synSpecial">[,</span>i<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>remain.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e0.e1.old <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>skip.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">),</span> cum5.old<span class="synSpecial">[,</span>i<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>remain.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>結果を下記のグラフ2に示す。新集計については黒い点線 (第1段階) と実線 (第2段階)、旧集計については赤丸 (第2段階) と緑丸 (第1段階) であらわしている。×印はセンサスの労働者数である。</p> <div class="section"> <h4>グラフ2: 「毎勤推計」と「雇用保険等補正」の効果の分離:新旧比較</h4> <div class="section"> <h5>グラフ2(a) 5-29人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182704" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182704.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182704j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ2(b) 30-99人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182701" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182701.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182701j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ2(c) 100-499人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182657" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182657.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182657j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ2(d) 500-999人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182711" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182711.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182711j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ2(e) 1000人以上規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182708" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182708.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182708j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>第1段階 (毎勤推計) に関しては、新集計と旧集計の間に、食い違いはほとんどない。労働者数に差が出ていないわけではないのだが、最大でも3万人弱程度であるため、グラフを描いたときにはっきりわかるほどのちがいにはならない。</p><p>第2段階 (雇用保険等補正) に関しては、5-29人規模事業所と1000人以上規模事業所では差がほとんどないのだが、それ以外の企業規模区分で、2012年以降に差がみられる。グラフ1でみた、 <strong>新集計と旧集計との間のちがいは、この第2段階でもたらされていた</strong> のである。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="monthly">各月の変動</h3> <p>効果を累積したときにみられるこのような変動は、いつ生じているのか。くわしく検討するため、月ごとの増加率によってグラフを描いてみる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>inc.e0.e1.new <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.new <span class="synSpecial">,</span> select.f <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span><span class="synSpecial">)</span> inc.e0.e1.old <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.old <span class="synSpecial">,</span> select.f <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> inc.e0.e1 <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:</span>ncol<span class="synSpecial">(</span>inc.e0.e1.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> s <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>inc.e0.e1.new<span class="synSpecial">)[</span>i<span class="synSpecial">]</span> inc.e0.e1<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span> yyyymm<span class="synStatement">=</span>rownames<span class="synSpecial">(</span>inc.e0.e1.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> inc.e0.e1<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>new <span class="synStatement">&lt;-</span> inc.e0.e1.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> i <span class="synSpecial">]</span> inc.e0.e1<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>old <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>skip.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">),</span> inc.e0.e1.old<span class="synSpecial">[,</span>i<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>remain.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>まず、第1段階 (毎勤推計) による毎月の増加率が新集計と旧集計でどうちがうかをみてみよう。グラフ3は各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数をとってプロットしたものである。黒線が新集計、赤い×印が旧集計のデータ。</p> <div class="section"> <h4>グラフ3: 「毎勤推計」による各月の増加率の新旧比較</h4> <div class="section"> <h5>グラフ3(a) 5-29人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182944" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182944.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182944j:image" width="800" height="265" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ3(b) 30-99人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182940" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182940.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182940j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ3(c) 100-499人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182937" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182937.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182937j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ3(d) 500-999人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182951" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182951.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182951j:image" width="800" height="264" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ3(e) 1000人以上規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007182948" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007182948.jpg" alt="f:id:remcat:20211007182948j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 各月の「前月末」→「本月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> <p>どの事業所規模区分でも、新旧集計の間にちがいはほとんどない。また、毎年4月の労働者数の増加率が高く、グラフにはっきりした周期性がみられることがわかる。</p><p>第2段階 (雇用保険等補正) についても同様にグラフを描いてみよう。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>inc.e1.e0.new <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.new <span class="synSpecial">,</span> select.f <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span><span class="synSpecial">)</span> inc.e1.e0.old <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> data.old <span class="synSpecial">,</span> select.f <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> inc.e1.e0 <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:</span>ncol<span class="synSpecial">(</span>inc.e1.e0.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> s <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>inc.e1.e0.new<span class="synSpecial">)[</span>i<span class="synSpecial">]</span> inc.e1.e0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span> yyyymm<span class="synStatement">=</span>rownames<span class="synSpecial">(</span>inc.e1.e0.new<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> inc.e1.e0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>new <span class="synStatement">&lt;-</span> inc.e1.e0.new<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> i <span class="synSpecial">]</span> inc.e1.e0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>old <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>skip.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">),</span> inc.e1.e0.old<span class="synSpecial">[,</span>i<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span>remain.old<span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>グラフ4は、前月の「本月末」から当月の「前月末」への労働者数の増加率の自然対数をとってプロットしたものである。黒線が新集計、緑の×印が旧集計のデータ。なお、ベンチマークを更新した3か所 (2009年1月、2012年1月、2018年1月) については欠損値とした。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>グラフ4: 「雇用保険等補正」による増加率の新旧比較</h4> <div class="section"> <h5>グラフ4(a) 5-29人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007183150" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007183150.jpg" alt="f:id:remcat:20211007183150j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 前月の「本月末」→当月の「前月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ4(b) 30-99人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007183147" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007183147.jpg" alt="f:id:remcat:20211007183147j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 前月の「本月末」→当月の「前月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ4(c) 100-499人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007183143" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007183143.jpg" alt="f:id:remcat:20211007183143j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 前月の「本月末」→当月の「前月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ4(d) 500-999人規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007183158" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007183158.jpg" alt="f:id:remcat:20211007183158j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 前月の「本月末」→当月の「前月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> </div> <div class="section"> <h5>グラフ4(e) 1000人以上規模事業所</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20211007183154" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20211007/20211007183154.jpg" alt="f:id:remcat:20211007183154j:image" width="800" height="256" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> 前月の「本月末」→当月の「前月末」の労働者数増加率の自然対数</p> </blockquote> <p>5-29人規模事業所と1000人以上規模事業所では新旧のちがいはほとんどないが、それ以外の規模区分では、<strong>2012年から2017年の間に、大きな新旧差がある。</strong> 30-99人規模 (グラフ4(b)) では、旧集計 (緑×) がほぼゼロ前後で一定であるのにくらべて、新集計の黒線はところどころ下方に飛び出しており、労働者数を引き下げていることがわかる。100-499人規模 (グラフ4(c)) では、新集計の黒線は上方に飛び出しているところと、下方に飛び出しているところがある。500-999人規模 (グラフ4(d)) では、上方に飛び出た大きなスパイクがいくつもあり、これらが労働者数を増加させている。</p><p>新集計と旧集計との間にこのようなちがいが出るのは、2012年1月から2017年12月までの6年間だけである。新集計データの値は、2011年12月までは「時系列比較のための推計値」によるものであるが、この区間では旧集計の労働者とほとんど一致する。また、2018年1月には旧集計データの集計方法が変更になっているが、そこからあとの区間でもやはり新旧の差はほとんどない。</p> </div> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">議論</h3> <p>以上の分析から、 <strong>30人以上の規模の事業所 (=第一種事業所) にみられる推計母集団労働者数とセンサスの労働者数との乖離は、2019年の再集計作業によって、雇用保険等補正を通じて、2012年以降の毎月勤労統計調査集計結果に持ち込まれた</strong> ものとみることができる。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold#intro">&#x5148;&#x306B;&#x8AD6;&#x3058;&#x3066;&#x304A;&#x3044;&#x305F;</a> ように、この再集計作業では雇用保険事業所データは変化していなかったはずだとすると、乖離をもたらした原因は、雇用保険等補正のもうひとつの要素すなわち事業所が層間移動したことによる労働者数の移動であろう。</p><p>これはつまり、<strong>2018年におこなわれた毎月勤労統計調査の集計方法の改訂は、層間移動した事業所のあつかいの変更をふくんでいた</strong> ということである。同年末に発覚した東京都不正抽出への対応のために2012年以降のデータを再集計した際にも、この変更をそのまま適用したのだろう。しかし、2011年以前の労働者数の変動には、新旧の集計によるちがいがほとんどないことから、<strong>2011年から2004年までさかのぼって「時系列比較のための推計値」を計算したときには、この変更は適用しなかった</strong> ものとみられる。</p><p>グラフ4でみたように、30-99人規模事業所では、雇用保険等補正による労働者数の増加率に、下方へのスパイクがいくつもみられる。一方、500-999人規模事業所では、上方への巨大なスパイクが周期的に出現する。これらの影響が表れた結果として、推計母集団労働者数は、前者では減少し、後者では増加している。</p><p>層間移動した事業所のあつかいをいったいどう変更したら、こういう特異な変化があらわれるのだろうか? 次回記事ではこの謎解きをおこないたい。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">使用したプログラムとデータ</h3> <dl> <dt>毎勤原表から情報を抽出するPerlプログラム</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt</a></dd> <dt>分析用Rプログラム</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly3.r.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly3.r.txt</a></dd> <dt>毎勤原表2004年1月-2021年5月のデータ (新集計)</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt</a></dd> <dt>毎勤原表2018年1月「旧サンプル」のデータ (新集計)</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin201801kyu.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin201801kyu.dat.txt</a></dd> <dt>毎勤原表2007年10月-2020年12月のデータ (旧集計)</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly-juu.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly-juu.dat.txt</a></dd> <dt>その他の情報</dt> <dd> <a href="http://tsigeto.info/maikin/">http://tsigeto.info/maikin/</a></dd> </dl><p>これらのプログラムとデータを使用するときは、ファイル名末尾の「.txt」を削るか、プログラム中のファイル名指定部分に「.txt」を加える。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>層間移動事業所と抽出率逆数:毎月勤労統計調査問題の死角<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211014/samplingrate</a> (10月14日)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-10-09</dt> <dd>公開</dd> <dt>2021-12-28</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-faa76c39" name="f-faa76c39" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"> 2018年7月分の雇用保険事業所データを別の月ととりちがえるミスがあったことが判明しているが、それはすでに修正されている。 <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20190531teisei.pdf">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20190531teisei.pdf</a> 参照。 </span></p> </div> remcat 母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか hatenablog://entry/13574176438013677776 2021-09-20T10:29:11+09:00 2021-12-28T23:16:00+09:00 毎月勤労統計調査は、母集団労働者数を毎月推計しており、それを利用して集計のためのウエイトを算出している。この推計は、(1) 調査対象事業所に雇用されている労働者数の月間変動の推計、(2) 事業所新設・廃止等 (雇用保険事業所データによる) と事業所規模の変化などによる層間移動 (毎月勤労統計調査による) の推計、の2段階にわけておこなわれている。本稿では、前者を「毎勤推計」、後者を「雇用保険等補正」と呼び、それぞれの効果を分離して、集積したとしたら労働者数がどのように変化したかを示す。 <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> にひきつづき、毎月勤労統計調査が推計する母集団労働者数がセンサスの労働者数から乖離している件について。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#diss"> <p>センサスとの乖離の方向と度合いは、事業所規模と時期によってちがっていることがわかる。5-29人規模事業所では、2004年以降ずっと、センサス結果を上回る増加がつづき、このために大きなギャップが継続して生じている。一方で、30-99人規模事業所では、推計される労働者数が減少したために、増加気味であったセンサス結果との間に乖離があるが、この傾向は2012-2015年の間に集中している。100-499人規模事業所や1000人以上規模の事業所では、毎月勤労統計調査の月々の労働者数推計はセンサスの数値とほとんどずれておらず、ずっと高い精度で追尾できている。このようなちがいが出てくる原因を突き止められれば、毎月勤労統計調査とセンサスのどこにまずい点があり、どのように修正するべきであるかについて、有用な知見がえられるだろう。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2020-09-11) 「毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#diss">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#diss</a></cite> </blockquote> <p>前回も解説したように、毎月勤労統計調査は、母集団労働者数を毎月推計しており、それを利用して集計のためのウエイトを算出している。この推計は、ふたつの段階にわかれる。この記事では、前者を「毎勤推計」、後者を「雇用保険等補正」と呼ぶことにしよう。</p> <dl> <dt>第1段階 (毎勤推計)</dt> <dd> 調査対象事業所に雇用されている労働者数の月間変動データからの推計</dd> <dt>第2段階 (雇用保険等補正)</dt> <dd> 事業所新設・廃止等による変動 (雇用保険事業所データによる) と事業所規模の変化などで別の層に事業所が移動したことによる変動 (毎月勤労統計調査による) の推計</dd> </dl><p>前回記事で使用した「毎勤原表」(月次) データは、労働者数について「前月末」(前調査期間末) と「本月末」(本調査期間末) のふたつの数値を持つ。たとえば2021年4月のデータをみたとき、「前月末」と「本月末」の労働者数の差は、第1段階 (毎勤推計) による変化をあらわす。「本月末」の労働者数と翌月 (5月) データの「前月末」労働者数との差が、第2段階 (雇用保険等補正) による変化である。</p><p>前回記事で紹介したRスクリプトでは、事業所規模区分のそれぞれについて、「前月末」「本月末」の労働者数を1行ずつ格納したデータ・フレームを作成した。このデータの各行について、1行前の労働者数との比をとると、その月の労働者数推計の第1段階、第2段階それぞれで労働者数が何倍になったかを求めることができる。ただし、ベンチマーク更新をおこなった月については、前月の本月末労働者数からの変化は、雇用保険等補正による変化ではなく、ベンチマーク更新による変化なので、これらは欠損値とする。</p><p>(以下のスクリプトは、前回記事のスクリプト <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.r.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.r.txt</a> を実行してから実行する。)</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>data<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> n <span class="synStatement">&lt;-</span> nrow<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">)</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.prev <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> <span class="synStatement">-</span>n<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.next <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> <span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">NA</span> <span class="synSpecial">)</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.inc <span class="synStatement">&lt;-</span> log<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker <span class="synStatement">/</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.prev <span class="synSpecial">)</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> data<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm <span class="synStatement">%in%</span> reset.date1 <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">NA</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>このデータでは、年月をあらわす数値 (yyyymm) について、「前月末」労働者数を格納した行は 202104 (=2021年4月) のようにしているのに対し、「本月末」労働者数の行は 202104.5 のように、0.5を足した値としている。なので、整数の行だけ取り出すと「本月末」→「前月末」の変化 (雇用保険等補正) を、小数点以下の端数がある行だけ取り出すと「前月末」→「本月末」の変化 (毎勤推計) を知ることができる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>worker.cum <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> r <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r<span class="synSpecial">[</span> is.na<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">$</span>worker.inc<span class="synSpecial">),</span> <span class="synConstant">&quot;worker.inc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">0</span> r<span class="synSpecial">$</span>cum <span class="synStatement">&lt;-</span> cumsum<span class="synSpecial">(</span> r<span class="synSpecial">$</span>worker.inc <span class="synSpecial">)</span> r<span class="synSpecial">$</span>worker.cum <span class="synStatement">&lt;-</span> exp<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">$</span>cum<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">*</span> start r <span class="synSpecial">}</span> cum0 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> subset<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">==</span> <span class="synConstant">0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> cum5 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> subset<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">==</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>前回記事で求めたセンサスによる母集団労働者数 (worker.pop) の値も追加しておこう。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>temp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply <span class="synSpecial">(</span> cum0<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> j <span class="synStatement">&lt;-</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> k <span class="synStatement">&lt;-</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">0.5</span><span class="synSpecial">)</span> w <span class="synStatement">&lt;-</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">if</span> <span class="synSpecial">(</span> j <span class="synStatement">%in%</span> w <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> j<span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> k <span class="synStatement">%in%</span> w <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> k<span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> rep<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> t<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> cum0<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm worker.predicted <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>cum5<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> cum5<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> cum0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">TRUE</span><span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e1.e0 <span class="synStatement">&lt;-</span> cum0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.cum&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e0.e1 <span class="synStatement">&lt;-</span> cum5<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.cum&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.predicted<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>census <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>このようにして、毎勤推計と雇用保険等補正の効果を分離して、それぞれを集積したとしたら労働者数がどのように変化したかを示すことができる (グラフ1)。</p> <div class="section"> <h3 id="graph1">グラフ1: 毎勤推計と雇用保険等補正それぞれによる労働者数変動</h3> <p>グラフ1(a) 5-29人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104656" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104656.png" alt="f:id:remcat:20210917104656p:image" width="800" height="348" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ1(b) 30-99人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104729" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104729.png" alt="f:id:remcat:20210917104729p:image" width="800" height="348" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ1(c) 100-499人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104746" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104746.png" alt="f:id:remcat:20210917104746p:image" width="800" height="348" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ1(d) 500-999人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104808" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104808.png" alt="f:id:remcat:20210917104808p:image" width="800" height="348" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ1(e) 1000人以上規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104831" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104831.png" alt="f:id:remcat:20210917104831p:image" width="800" height="348" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>5-29人規模事業所 (グラフ1(a)) では、雇用保険等補正によって労働者数はずっと増加をつづけており、センサスの労働者数を大きく上回って伸びていく。それに対して毎勤推計による労働者数は2011年ごろまではほとんど増加していないが、その後増加するようになり、2014年あたりからは雇用保険等補正と変わらない速度で上昇する。2020年になって増加が鈍るが、これはおそらくCOVID-19の流行にともなう一時的なものだろう (この鈍化は雇用保険等補正のほうにはみられない)。</p><p>30-99人規模事業所 (グラフ1(b)) では、毎勤推計による労働者数は、2009年ごろから2014年ごろまで低下したのち、上昇に転じて現在に至る。それに対して雇用保険等補正による労働者数は、2011年ごろまでは上昇していたが、そのあと低下に転じて現在に至る。このように両者が独立した動きを見せるため、両者が相反している時期には、これらを合計した労働者数の増減はあまり見られない結果になる。ただし、両者の低下が重なった2012-2014年にかけては、労働者数が大きく減り、センサスとの乖離をもたらしていた (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">&#x524D;&#x56DE;&#x8A18;&#x4E8B;</a> の <a href="https://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160540">&#x30B0;&#x30E9;&#x30D5;4</a> を参照)</p><p>100-499人規模事業所 (グラフ1(c)) と500-999人規模事業所 (グラフ1(d)) は似ている。毎勤推計による労働者数が一定または微減であるところ、雇用保険等補正が労働者数を増加させている。最初のデータ (2004年1月) の時点で労働者数がセンサス (2006年10月) より低かったことと、センサスの労働者数が増加傾向にあるため、増加気味である雇用保険等補正による労働者数のほうが、結果として2014年以降のセンサスの数値に近い。</p><p>1000人以上規模事業所 (グラフ1(e)) では、毎勤推計でも雇用保険等補正でも労働者数はほとんど変化していないので、どちらも大差ない。ただ、雇用保険等補正では、2011年ごろにすこし労働者数が増加しているため、その分だけセンサスの労働者数に近い。</p><p>では、毎勤推計だけまたは雇用保険等補正だけをおこないながらセンサスによるベンチマーク更新を加えた場合、どうなるだろうか。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>renew.bm <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> d <span class="synSpecial">,</span> e <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> prev <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synStatement">-</span>nrow<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> e <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> d<span class="synSpecial">$</span>gap <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> e <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">/</span> prev d<span class="synSpecial">$</span>worker.bm <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">NA</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.bm&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> e <span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;gap&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">:</span>nrow<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> gap <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;gap&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> mon <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span>i<span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200901</span> <span class="synStatement">==</span> mon <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> gap <span class="synStatement">&lt;-</span> g2009 <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">201201</span><span class="synStatement">==</span>mon<span class="synSpecial">){</span> gap <span class="synStatement">&lt;-</span> g2012 <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">201801</span><span class="synStatement">==</span>mon<span class="synSpecial">){</span> gap <span class="synStatement">&lt;-</span> g2018 <span class="synSpecial">}</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.bm&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.bm&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;gap&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> gap g <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;census&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">/</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker.bm&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200610</span> <span class="synStatement">==</span> mon <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> g2009 <span class="synStatement">&lt;-</span> g <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">200907</span><span class="synStatement">==</span>mon<span class="synSpecial">){</span> g2012 <span class="synStatement">&lt;-</span> g <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">201407</span><span class="synStatement">==</span>mon<span class="synSpecial">){</span> g2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> g <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">}</span> d <span class="synSpecial">}</span> with.bm.e1.e0 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> worker.predicted <span class="synSpecial">,</span> renew.bm <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;e1.e0&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> with.bm.e0.e1 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> worker.predicted <span class="synSpecial">,</span> renew.bm <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;e0.e1&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> with.bm <span class="synStatement">&lt;-</span> with.bm.e1.e0 <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>with.bm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> with.bm<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> with.bm<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">TRUE</span><span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> with.bm<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e1.e0 <span class="synStatement">&lt;-</span> with.bm.e1.e0<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.bm with.bm<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>e0.e1 <span class="synStatement">&lt;-</span> with.bm.e0.e1<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker.bm with.bm<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>census <span class="synStatement">&lt;-</span>with.bm.e0.e1<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>census <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>2004年1月から出発して、毎勤推計または雇用保険等補正の効果として推定された労働者数増加率を、順にかけていけばよい。ただし、センサスの労働者数がえられる月 (2006年10月、2009年7月、2014年7月) については、推定された労働者数との比を記録しておく。ベンチマーク更新時 (2009年1月、2012年1月、2018年1月) に、それらの数値を前月の労働者数にかける。</p><p>こうして描いたのがつぎのグラフ2である。矢印はベンチマーク更新をあらわす。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="graph2">グラフ2: 毎勤推計と雇用保険等補正それぞれによる労働者数変動 (+ベンチマーク更新)</h3> <p>グラフ2(a) 5-29人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104856" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104856.png" alt="f:id:remcat:20210917104856p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ2(b) 30-99人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104916" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104916.png" alt="f:id:remcat:20210917104916p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ2(c) 100-499人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104930" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104930.png" alt="f:id:remcat:20210917104930p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ2(d) 500-999人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917104948" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917104948.png" alt="f:id:remcat:20210917104948p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ2(e) 1000人以上規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105009" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105009.png" alt="f:id:remcat:20210917105009p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>5-29人規模事業所 (グラフ2(a)) では、毎勤推計でも雇用保険等補正でも、2009年1月ベンチマーク更新によって労働者数が引き下げられているが、これはデータ開始時点 (2004年1月) ですでに高いところから出発していたせいなので、労働者数推計に過大な増加があったわけではない。その後の2012年1月、2018年1月のベンチマーク更新では、毎勤推計による労働者数は大きな変化がない。これに対して、雇用保険等補正による労働者数は、2014年7月のセンサスと大きく乖離していたので、2018年1月のベンチマーク更新で大きく低下している。直近の2019年<del>7</del><ins>6</ins>月のセンサス数値と比較すると、どちらも上方に同程度はなれている。</p><p>30-99人規模事業所 (グラフ2(b)) では、2014年ごろまでは大きなちがいはない。このため、ベンチマーク更新によるギャップも、2012年1月と2018年1月に関しては似たようなものである。しかしその後は、毎勤推計が労働者数を増加させるのに対して雇用保険等補正は労働者数を減少させている。このため、2016年6月と2019年6月のセンサスに対しては、雇用保険等補正による労働者数はかなり過少となっている。</p><p>100-499人規模事業所 (グラフ2(c)) では、2009年7月センサスのあたりまでは、毎勤推計も雇用保険等補正も労働者数をほとんど変化させていないため、ベンチマーク更新によるギャップもほとんどおなじである。その後は雇用保険等補正によって労働者数が伸びるようになるが、毎勤推計では労働者数がほとんど増加しないままである。2014年7月と2016年6月のセンサスの値は、それらの中間にある。2016年6月センサスの値は、雇用保険等補正による労働者数をほぼ一致する。</p><p>500-999人規模事業所 (グラフ2(d)) でも、2012年1月ベンチマーク更新のあたりまでは、両者の間にほとんどちがいが出ない。その後、雇用保険等補正が労働者数を増加させてセンサスの増加を追い抜いていくため、すこし過大になっている。</p><p>1000人以上規模事業所 (グラフ2(e)) では、毎勤推計と雇用保険等補正のちがいはほとんど出ない。2011年ごろからわずかに労働者数に差が出るため、その分だけ、ベンチマーク更新時のギャップに差が出ている程度である。</p><p>以上のように、5-29人規模事業所と30-99人規模事業所では、センサスからの大きな乖離が生じている。この乖離をもたらしてきた毎勤推計と雇用保険等補正のそれぞれによる労働者数増加率が、時期によってどのように変動してきたかを確認しておこう。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>inc.prev12mon <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>v<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> p <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> rep<span class="synSpecial">(</span><span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">12</span><span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> v<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:(</span> length<span class="synSpecial">(</span>v<span class="synSpecial">)</span><span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">12</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> v <span class="synStatement">/</span> p <span class="synSpecial">}</span> inc12mon <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> worker.predicted<span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> r1 <span class="synStatement">&lt;-</span> inc.prev12mon<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>e1.e0 <span class="synSpecial">)</span> r2 <span class="synStatement">&lt;-</span> inc.prev12mon<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>e0.e1 <span class="synSpecial">)</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> cbind<span class="synSpecial">(</span> r1 <span class="synSpecial">,</span> r2 <span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span> r <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;e1.e0&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;e0,e1&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span> r <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> inc12mon.real.e1 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply <span class="synSpecial">(</span> data <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> start <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> wc <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cum<span class="synSpecial">(</span> d <span class="synSpecial">,</span> start <span class="synSpecial">)</span> wc <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> wc<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">==</span> <span class="synConstant">0.5</span> <span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;worker.cum&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> inc.prev12mon<span class="synSpecial">(</span>wc<span class="synSpecial">$</span>worker.cum<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">for</span> <span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:</span>length<span class="synSpecial">(</span>inc12mon<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> inc12mon<span class="synSpecial">[[</span>i<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">$</span> e1.real <span class="synStatement">&lt;-</span> inc12mon.real.e1<span class="synSpecial">[[</span>i<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>1年前 (つまり12行上) の労働者数との比をとるとよい。毎勤推計と雇用保険等補正の2つの系列があるのでそれぞれについて1年分増加率を求める。ついでに、両者を合計した増加率 (つまり実際の毎月勤労統計調査における労働者数の増加率) も求めて、3列のデータ・フレームを作る。</p><p>センサスにおける労働者数の変化も求めておく。隣接数値どうしで割り算すればよいのだが、センサスからセンサスまでの時間がちがうので、それを調整して、1年あたりの増加率とする。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>interval.mon <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">33</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synComment"># 200401-200610</span> <span class="synConstant">33</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synComment"># 200610-200907</span> <span class="synConstant">60</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synComment"># 200907-201407</span> <span class="synConstant">23</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synComment"># 201407-201606</span> <span class="synConstant">36</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synComment"># 201606-201906</span> <span class="synConstant">23</span> <span class="synComment"># 201906-202105</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.inc <span class="synStatement">&lt;-</span> apply<span class="synSpecial">(</span> worker.pop<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>v<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> p <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> v <span class="synSpecial">)</span> n <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> v<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">NA</span> <span class="synSpecial">)</span> n<span class="synStatement">/</span>p <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.inc.yearly <span class="synStatement">&lt;-</span> exp<span class="synSpecial">(</span> log<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.inc<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">*</span> <span class="synConstant">12</span> <span class="synStatement">/</span> interval.mon <span class="synSpecial">)</span> yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> cum0<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm temp <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">matrix</span><span class="synSpecial">(</span> nrow<span class="synStatement">=</span>length<span class="synSpecial">(</span>yyyymm<span class="synSpecial">),</span> ncol<span class="synStatement">=</span>ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.inc<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span><span class="synStatement">&lt;-</span>yyyymm colnames<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span><span class="synStatement">&lt;-</span>names<span class="synSpecial">(</span>cum0<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> end <span class="synStatement">in</span> rev<span class="synSpecial">(</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.inc<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)[</span><span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> size <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">:</span>ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.inc<span class="synSpecial">))</span> <span class="synSpecial">{</span> temp<span class="synSpecial">[</span> yyyymm<span class="synStatement">&lt;=</span>end<span class="synSpecial">,</span> size <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop.inc.yearly<span class="synSpecial">[</span>end<span class="synSpecial">,</span>size<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">}</span> log12mon.census <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>inc12mon<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">){</span> log12mon.census<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> log<span class="synSpecial">(</span> inc12mon<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">)</span> log12mon.census<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> <span class="synSpecial">$</span> census <span class="synStatement">&lt;-</span> log<span class="synSpecial">(</span> temp<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> s<span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> </pre><p>このようにして、1年前からの労働者数の変化率を、毎勤推計、雇用保険等補正、それらの合計についてプロットし、センサスの変化率と比較したのがグラフ3である。縦軸は自然対数に変換している。1年前との比が取れるのは2005年1月のデータからであるため、横軸はそこからはじまっている。なお、センサスの労働者数変化率は、実施月がちがう調査どうしの間での変化に基づいているため、季節要因を除去できていないことに注意されたい。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="graph3">グラフ3: 1年前からの労働者数変化率 (自然対数)</h3> <p>グラフ3(a) 5-29人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105029" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105029.png" alt="f:id:remcat:20210917105029p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ3(b) 30-99人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105047" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105047.png" alt="f:id:remcat:20210917105047p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ3(c) 100-499人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105107" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105107.png" alt="f:id:remcat:20210917105107p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ3(d) 500-999人規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105128" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105128.png" alt="f:id:remcat:20210917105128p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>グラフ3(e) 1000人以上規模事業所<br /> <span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210917105142" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210917/20210917105142.png" alt="f:id:remcat:20210917105142p:image" width="800" height="340" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>5-29人規模事業所 (グラフ3(a)) では、2011年までは、毎勤推計による労働者の増加率がセンサスの増加率を上回っている時期はほとんどなく、センサスと同程度かそれを下回っているかであった。しかし雇用保険等補正による労働者増加率はそれを上回っているので、両者を合計すると、センサスの労働者数を上回って労働者数が増えることになる。</p><p>2012年になると、毎勤推計による労働者の増加率は、単独でセンサスの増加率を上回るようになる。2014年以降になるとさらに上昇して、雇用保険等補正による増加率とおなじ水準になり、両者の合計での増加率が非常に大きなものになっている。2020年には毎勤推計による労働者の増加率は低い水準に落ちているが、これはおそらくCOVID-19の流行による一時的なものである。最新のデータではすでに従前の水準にもどっているので、今後もセンサスを大きく上回る労働者数の増加がつづく見込みである。</p><p>30-99人規模事業所 (グラフ3(b)) では、毎勤推計による変化がプラスで雇用保険等補正による変化がマイナスである (あるいはその逆) の時期が長く、その時期には両者を合算すると増減がほぼなくなる。2009-2011年には、毎勤推計による変化がマイナスで雇用保険等補正による変化がプラスであったが、センサスによる労働者数の増加はその中間くらいだったので、結果として、両者を合算した労働者数の変化率は、センサスの水準と同程度であった。2014年以降は、毎勤推計による労働者増加はセンサスの水準と同程度だが、雇用保険等補正による労働者数の減少のため、合算した労働者数はセンサスを下回って微減傾向である。その間の2012-2013年には、毎勤推計と雇用保険等補正の両方の効果がマイナスだったため、それらを合算した労働者数は大きく減少することになった。</p><p>100-499人規模事業所 (グラフ3(c)) と500-999人規模事業所 (グラフ3(d)) はおなじような傾向である。毎勤推計による労働者の増減はあまりないのに対し、雇用保険等補正のほうは労働者を大きく増やしたり減らしたりする効果が出ていて、これによって労働者数が上下している。この効果は500-999人規模事業所のほうで大きい。特に2012年以降はほとんど常に高い水準にあって、労働者数を増やす効果を持っている。</p><p>1000人以上規模事業所 (グラフ3(e)) では、毎勤推計と雇用保険等補正の効果はほぼ同程度であることが多く、おなじような推移を見せる。ただし、雇用保険等補正のほうはときおり大きな変動を見せることがあり、特に、2010-2011年には大きく労働者数を増やしている。とはいえ、このような増加は一時的であるし、規模の事業所で働く労働者の数自体は少ないので、人数への影響という点ではあまり目立った効果はない。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="result">分析結果のまとめ</h3> <p>以上の分析結果をまとめておこう。</p><p>まず、1000人以上規模事業所と100-499人規模事業所では、毎月勤労統計調査とセンサスとの労働者数の乖離はそれほど大きなものではない。1000人以上規模事業所では毎勤推計も雇用保険等補正も労働者数をほとんど変化させていないので、どちらかの単独の効果を取り出しても、合算しても、両方とも止めてしまっても、センサスとの乖離の度合いはほとんどかわらない。100-499人規模事業所では毎勤推計と雇用保険等補正の間にちがいはあるのだが、センサスによる労働者数変化が両者の中間にある時期が長いため、どちらかが明確にセンサスから乖離しているわけではない。</p><p>500-999人規模事業所では、毎勤推計による労働者数変化はセンサスと近い水準にあるのに対し、雇用保険等補正はそこから離れて労働者数を増減させているため、センサスによる水準から乖離している。特に2012年以降は、雇用保険等補正のためにセンサスの水準を上回って労働者数が増えていく傾向がはっきりと出ている。</p><p>30-99人規模事業所では、毎勤推計と雇用保険等補正の効果は独立して動いている。センサスによる労働者数は一貫して増えていく傾向にあるのに対し、2014年ごろまでは毎勤推計が労働者数を減少させており、2012年以降は雇用保険等補正が労働者数を減少させている。両者が重なった2012-2014年ごろには、労働者数が大きく減ってセンサスによる労働者数から乖離していた。現在は、毎勤推計による増加傾向を雇用保険等補正による減少傾向が打ち消して、全体として減少気味になっており、センサスによる労働者数からのずれが広がりつつある。</p><p>5-29人規模事業所では、雇用保険等補正が一貫して労働者数を増加させる効果を持っており、これがセンサスから大きく乖離して労働者数を上昇させる原動力となっている。一方で、2012年以降は、毎勤推計も労働者数を増加させるようになり、2014年以降は、両者が同等の寄与を持っている。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss1">議論1: センサスは信頼できるのか?</h3> <p>これらの結果からまず考えるべきことは、センサスの労働者数と毎月勤労統計調査の労働者数はちがうものを測定しているのではないか、ということだ。</p><p>分析結果によれば、雇用保険等のデータを使った補正がセンサスとの乖離をもたらしている。これはつまり、センサスの労働者数の増減と、雇用保険等による労働者の増減はちがう動きをしているということである。</p><p>前回記事で紹介したように、雇用保険等補正 (労働者推計の第2段階) は、つぎのところからデータを得ている (<a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html#01">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html#01</a> (3)「母集団労働者数の補正」など参照):</p> <ul> <li>事業所の新設/廃止、および事業所規模が5人以上になったり5人未満になったりしたケースの労働者数 (雇用保険)</li> <li>ある層から別の層に事業所が移動したことによる各層の労働者数の増減 (毎月勤労統計調査)</li> </ul><p>前者は雇用保険の実務に使っているデータであるから、事業所の調査をすること自体が目的の経済センサスや事業所母集団データベースとは、目的がちがうわけである。経済センサス等では見逃している事業所の新設/廃止などが雇用保険では把握できているのだとしたら、両者の間にずれが出てくるのももっともである。</p><p>後者は、毎月勤労統計調査自体のデータである。調査対象となっている事業所が回答する労働者数が変化して別の層に異動した場合、その分 (その事業所の労働者数×抽出率逆数×0.5) を層間で移動させる (<a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a> の3ページ参照) のだけれど、それがセンサスの労働者数と乖離した動きをしているということかもしれない。</p><p>他方、労働者推計の第1段階 (毎勤推計) は、毎月勤労統計調査の調査票からわかる、調査対象事業所に雇用されている労働者数の変動のデータだけを使う。ここで重要なのは、毎月勤労統計調査は、事業所規模によって、調査対象事業所の抽出方法を変えているということだ。30人以上規模の事業所 (「第一種事業所」と呼ばれる) は、事業所母集団データベースから抽出されている。事業所母集団データベースは経済センサスの結果をもとに整備されているのだから、事実上、センサスの調査範囲とおなじものを母集団としたサンプリングだといってよい。これに対して、5-29人規模事業所 (「第二種事業所」と呼ばれる) は、地理的な区域を設定してこれをまず無作為抽出し、そこで選んだ各区域に存在する事業所を実地調査でリストアップしてそこから抽出する (<a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1n.html">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1n.html</a> など参照)。つまり5-29人規模事業所については、事業所母集団データベースや経済センサスに依存しない、独自の標本抽出枠を使っているのだ。</p><p>分析結果からわかるように、30人以上の規模の事業所 (第一種事業所) では、毎勤推計はセンサスからの大きな乖離をもたらしてはいない。これに対して5-29人規模事業所 (第二種事業所) では、毎勤推計が労働者数を大きく増加させるようになってきていて、その傾向は近年になって強まっている。経済センサス等では捕捉できていない事業所を、毎月勤労統計調査の第二種事業所のサンプリングではある程度捕捉できている――そしてそうした事業所は最近になって増加してきている――と考えれば、つじつまはあうのだ。</p><p>このような考察が正しいなら、毎月勤労統計調査のベンチマーク更新でギャップが生じる原因は、センサスのほうが経済の実態を把握しそこねていることにあるわけだ。逆にいえば、経済センサス等の調査がおよんでいない部分の経済活動まで、毎月勤労統計調査は推計できていることになる。そのデータを、センサスにあわせて切り捨てるのは、正当な統計操作なのだろうか?</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss2">議論2: 毎月勤労統計調査は信頼できるのか?</h3> <p>もっとも、このような結論を出す前に、毎月勤労統計調査の労働者数推計のほうが何かおかしい可能性を考えておくべきだろう。</p><p>まず重要なのは、前回と今回の記事で使った「毎勤原表」のデータは、2019年に発覚した東京都での大規模事業所等の不正抽出問題について、数値を事後的に再集計したものだということだ。この再集計作業においては、2011年以前のデータについて必要な情報が欠けていたため、強引な仮定を置いて推計を加えている。雇用保険のデータについても、この際に、毎月勤労統計調査のデータから逆算して求めなおしている。こうした作業の際に、何か間違いが混入しているかもしれない。</p><p>毎月勤労統計調査の毎月の集計作業の際に、雇用保険データの内容はチェックされていないのではないか、という疑いもある。統計委員会の第9回点検検証部会 (2019年7月29日) の資料では、 雇用保険データのチェックについては、つぎのようなことしか書いていない。</p> <blockquote cite="https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf"> <p>・提供された雇用保険データについては、データのレコード数と別途、紙で提供されているデータ件数が一致しているか、目視による確認<br /> ・雇用保険データによる母集団労働者数を補正する際の補正率を出力し目で確認して、異常がないか(補正率がすべて1となっていないか、極端に大きい(又は小さい)補正率となっていないか等)<br /> ―――――<br /> 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)(2019-07-29)「毎月勤労統計調査について」(統計委員会 第9回点検検証部会 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/tenkenkensho/kaigi/02shingi05_02000349.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/tenkenkensho/kaigi/02shingi05_02000349.html</a> 資料2) p. 8</p> <cite><a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf</a></cite> </blockquote> <p>つまり、データの件数がちがうとか、みるからに異常な値が出ているとかいうのでないかぎり、データがまちがっていてもノーチェックで通っている可能性がある。このデータがおかしくても雇用保険の業務には差し障りないのだろうから、毎月勤労統計調査の側で摘発されないかぎり、系統的なまちがいが発見されないまま使われつづけるということが起こりうる。</p><p>そもそも雇用保険の対象となる労働者は、毎月勤労統計調査の対象となる「常用労働者」とはちがう、という根本的な問題もある。雇用保険データからわかる労働者数の増減と、常用労働者の増減とがおなじ傾向を示すかどうかはよくわからない。</p><p>調査対象事業所のサンプリングについても、どこまできちんとした無作為抽出をおこなっているか疑問である。たとえば、40年以上前の話であるが、匿名のブログにつぎのような証言がある。「乙」調査というのは、5-29人規模事業所対象の調査を1990年までそのように呼んでいたもので、今日では「第二種事業所」の調査に相当する。</p> <blockquote cite="https://riberaruhiroba.theblog.me/posts/5638182/"> <p>毎月勤労統計調査は、管理者(私)が、まだ若かりし頃(1977年~1983年)の6年間、直接の担当職員であった。そもそも「毎月勤労統計調査」には「(甲)調査(30人以上事業所:メール調査)と「(乙)調査(30人未満事業所:調査員調査)」(その他、特別調査)があるが、ここで問題暴露したいのは今回、全く問題になっていない「(乙)調査(30人未満事業所:調査員調査)」の方だ。「毎勤統計(甲)調査(30人以上事業所):メール調査」は「事業所抽出調査(但し500人以上事業所は全数調査)であるが、「(乙)調査(30人未満事業所:調査員調査)」の場合は、先ず調査地域を抽出する。その抽出地域は労働省が、名簿的に送付してくるのだが、都道府県「(乙)調査」担当者は、それをチェックし、「被差別部落地域等」は、その段階で「被差別地域」は「特殊地域により調査困難」と書き加え、当時の労働省に差し替えをお願いする。<br />  当時の労働省は、安易に、別の調査地域に差し替えた。<br />  「特殊地域により調査困難」の主な理由は、おそらく調査員調査のため、調査員が嫌がるためと聞いたし、そう思われる。<br /> ―――――<br /> 民守 正義 (2019-01-29) 【まだある?毎月勤労統計調査の誤謬】部落差別と毎勤統計(乙)調査</p> <cite><a href="https://riberaruhiroba.theblog.me/posts/5638182/">https://riberaruhiroba.theblog.me/posts/5638182/</a></cite> </blockquote> <p>匿名のこのような証言が信用できるかは疑問であるが、全区域を調査しなければならないセンサスとちがい、毎月勤労統計調査は第二種事業所については区域を抽出したうえで現場でリストアップした事業所名簿に基づいて調査をおこなうものなのだから、現場の事情によって恣意的に調査区域や対象事業所を選ぶ余地があるのではないかとする疑念自体は、もっともなものであろう。そして、第二種事業所のサンプリング過程はほとんど公表されていないので、こうした疑念を事後的に検証することはむずかしい。そのように考えると、センサスと毎月勤労統計調査との間に乖離がある場合は、まず毎月勤労統計調査のほうに問題があると仮定して対策を考えるほうが合理的なのかもしれない。</p><p>ともかく、今回の分析からは、毎月勤労統計調査とセンサスの間に存在する労働者数の食い違いについて</p> <ul> <li>雇用保険等を利用した補正 (母集団労働者数推計の第2段階) によって食い違いがうまれている</li> <li>5-29人規模事業所については、毎月勤労統計調査自体による「本月末」労働者数の推計 (母集団労働者数推計の第1段階) によっても食い違いがうまれている</li> <li>これらによる食い違いの発生については、時期によって異なる特徴がある</li> </ul><p>というところまでは特定できたことになる。ベンチマーク更新問題をふくめ、毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数の問題については、このような知識を前提として議論を進めるべきである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">使用したプログラムとデータ</h3> <dl> <dt>分析用Rプログラム</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly2.r.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly2.r.txt</a></dd> </dl> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき</h3> <p>毎月勤労統計調査、2018年の集計方法変更で何か間違えた模様<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211009/maikinold</a> (10月9日)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-09-20</dt> <dd>公開</dd> <dt>2021-09-22</dt> <dd>「2019年7月のセンサス数値」を「2019年6月のセンサス数値」に訂正</dd> <dt>2021-12-28</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl> </div> remcat 毎月勤労統計調査、今後のベンチマーク更新で大きなギャップ発生のおそれ hatenablog://entry/13574176438010629873 2021-09-11T22:00:45+09:00 2021-12-28T23:13:42+09:00 8月26日、 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ の 第2回会議 があった。 オンラインで傍聴できる とのことだったので、申し込んで傍聴してみた。この第2回会議の主たる議題は、毎月勤労統計調査の「ベンチマーク更新」について。2016年の経済センサス-活動調査の情報または事業所母集団データベース2019年次フレームの情報を利用して2022年1月にベンチマーク更新をおこなう、という方針に基づいて作成した試算の検討がおこなわれた。この方針は 第1回会議 (2021-07-09) において提案されていたが、これらのふたつの情報源のどちらも精確さを欠くため、試算を作成しての対応を検討するこ… <p>8月26日、 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-toukei_456728_00007.html">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306E;&#x6539;&#x5584;&#x306B;&#x95A2;&#x3059;&#x308B;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;</a> の <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20075.html">&#x7B2C;2&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70;</a> があった。 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20278.html">&#x30AA;&#x30F3;&#x30E9;&#x30A4;&#x30F3;&#x3067;&#x508D;&#x8074;&#x3067;&#x304D;&#x308B;</a> とのことだったので、申し込んで傍聴してみた。</p><p>この第2回会議の主たる議題は、毎月勤労統計調査の「ベンチマーク更新」について。2016年の経済センサス-活動調査の情報または事業所母集団データベース2019年次フレームの情報を利用して2022年1月にベンチマーク更新をおこなう、という方針に基づいて作成した試算の検討がおこなわれた。この方針は <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19486.html">&#x7B2C;1&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70; (2021-07-09)</a> において提案されていたが、これらのふたつの情報源のどちらも精確さを欠くため、試算を作成しての対応を検討することになったものである (第1回会議の <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20584.html">&#x8B70;&#x4E8B;&#x9332;</a> を参照)。</p><p>第2回会議に提出されたこの試算結果をみると、500-999人規模事業所の労働者数が2割近く減ったり、「きまって支給する給与」平均が1000円超増える (いずれも事業所母集団データベース2019年次フレームに基づく試算) など、大きな変動が生じることが予測されている。この試算結果は、現状の毎月勤労統計調査データがセンサスによる母集団情報から大きくはずれている (だからそれを修正するとギャップが生じる) ことを意味する。本来であれば、そのようなずれが生まれる原因を究明し、毎月勤労統計調査の調査・集計方法を見直すことが必要になる局面だ。しかし、この会議では、そうした疑義はまったく提示されず、もっぱらベンチマーク更新の基準となる情報として何が適切かに限定した議論に終始した。</p><p>この記事では、現在入手可能な情報を使い、毎月勤労統計調査のベンチマーク更新で生じるギャップがどのような原因によるものかの推測をおこなう。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#wg">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x4F1A;&#x8B70;&#x5185;&#x5BB9;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#topic">&#x554F;&#x984C;&#x306E;&#x6240;&#x5728;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#benchmark">&#x300C;&#x30D9;&#x30F3;&#x30C1;&#x30DE;&#x30FC;&#x30AF;&#x300D;&#x306E;3&#x3064;&#x306E;&#x610F;&#x5473;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#data">&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;</a> <ul> <li>毎勤原表</li> <li>情報の抽出とテキスト・データ作成</li> <li>分析のためのRスクリプト</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#method">&#x6708;&#x3005;&#x306E;&#x52B4;&#x50CD;&#x8005;&#x6570;&#x63A8;&#x8A08;&#x3068;&#x30D9;&#x30F3;&#x30C1;&#x30DE;&#x30FC;&#x30AF;&#x66F4;&#x65B0;&#x306E;&#x539F;&#x7406;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#gap">2004&#x5E74;&#x4EE5;&#x5F8C;&#x306E;&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x3068;&#x30BB;&#x30F3;&#x30B5;&#x30B9;&#x306E;&#x4E56;&#x96E2;</a> <ul> <li>センサスによる労働者数の推定</li> <li>5-29人規模事業所</li> <li>30-99人規模事業所</li> <li>100-499人規模事業所</li> <li>500-999人規模事業所</li> <li>1000人以上規模事業所</li> <li>月々の労働者数推計の有無による差の評価</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#diss">&#x8B70;&#x8AD6;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#appendix">&#x4ED8;&#x9332;&#xFF1A;&#x4F7F;&#x7528;&#x3057;&#x305F;&#x30D7;&#x30ED;&#x30B0;&#x30E9;&#x30E0;&#x3068;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="wg">ワーキンググループ会議内容</h3> <p>「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」は、厚生労働省の「厚生労働統計の整備に関する検討会」の下に2021年6月23日に設置された。メンバーはつぎのとおり:</p> <ul> <li>加藤久和: 明治大学教授 (主査)</li> <li>稲葉由之: 青山学院大学教授</li> <li>風神佐知子: 慶應義塾大学准教授</li> <li>高橋陽子: 労働政策研究・研修機構副主任研究員</li> <li>樋田勉: 獨協大学教授</li> </ul><p>第2回会議には、メンバーのほかに西郷浩 (早稲田大学教授) が参加していた (ほかにもメンバー外の参加者があったかもしれないが、確認できていない)。</p><p>議題は「毎月勤労統計調査におけるベンチマークの更新等について」。最新の経済センサス-活動調査 (2016年6月) または事業所母集団データベース2019年次フレームの情報を利用してベンチマーク更新をおこなう方法の提案と、会議時点での最新のデータ (2021年5月分の毎月勤労統計調査) に適用した場合の試算結果が報告された。(資料1「ベンチマーク更新の方法等について」<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf</a>)</p><p>2016年経済センサス-活動調査は民営事業所だけの調査であるため、公営の事業所の労働者数の値を補う必要がある。資料では、2014年の経済センサス-基礎調査の公営事業所労働者数をそのまま加算する方法をはじめ、5種類の補正案が提示された。</p><p>「事業所母集団データベース」は、全国の全事業所を登録するデータベースとしてつくられているもの。2019年経済センサス-基礎調査などの情報をもとに、2019年6月1日時点のデータを整備したのが「2019年次フレーム」である。このデータベースでは、事業所を把握することに重点が置かれているため、そこに雇用されている労働者の数については古いまま更新されていないことが多く、そのために、労働者数のデータとしては不正確な面がある。今回の会議資料では、この点について補正をおこなわないままでの試算結果が示されている。</p><p>事業所母集団データベース2019年次フレームに基づくベンチマーク更新をおこなった場合、「きまって支払われる給与」の平均額が、26万2404円から26万3788円へと1,384円 (0.5%) 上がる試算結果となっている (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x8CC7;&#x6599;1</a> の10ページ)。この変動は、事業所母集団データベース2019年次フレームの事業所規模別・産業別の労働者数が、毎月勤労統計調査の当時の推計母集団労働者数から乖離していたことを示している。この乖離分(=ギャップ)を2021年5月のデータにおいて埋め合わせたらどうなるかを試算した結果、このようになったわけである。</p><p>試算結果から、「2019年6月」時点での「ギャップ率」を事業所規模と産業による層別に示した表がつぎのものである。5-29人規模事業所のギャップ率が0.888となっているのは、事業所母集団データベースの労働者数 (a) よりも毎月勤労統計調査で当時推計していた母集団労働者数 (b) のほうが多く、a/b = 0.888 であったことを意味する。5-29人規模事業所は、ほとんどの産業でギャップ率が1未満となっており、a < b であったことがわかる。特に産業分類M (宿泊業、飲食サービス業) においてはギャップ率0.778とかなり小さい。他方、500-999人の比較的大きな事業所でも、ギャップ率が0.813と小さい値であり、やはり毎月勤労統計調査の母集団労働者数の推計が過大になっている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911163004" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911163004.png" alt="f:id:remcat:20210911163004p:image" width="621" height="570" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 政策統括官 (統計・情報政策担当) (2021-08-26)「ベンチマーク更新の方法等について」(第2回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20075.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20075.html</a> 資料1) p. 12<br /> 「TL」は全産業。C-Rの各産業分類については同資料 p. 11 など参照。</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf</a></cite> </blockquote> <p>2016年経済センサス-活動調査の場合、公営事業所の労働者数の補正方法が5種類提案されているため、それにしたがってギャップ率の表も5つ掲載されている (ただしそれらの間で、数値は大きくはちがわない)。つぎに載せたのはいちばん最後の案5であるが、事業所母集団データベースによるギャップ率と同様、5-29人規模事業所と500-999人規模事業所においてギャップ率が大きい傾向がある。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911163007" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911163007.png" alt="f:id:remcat:20210911163007p:image" width="603" height="557" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 政策統括官 (統計・情報政策担当) (2021-08-26)「ベンチマーク更新の方法等について」(第2回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20075.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20075.html</a> 資料1) p. 12<br /> 「TL」は全産業。C-Rの各産業分類については同資料 p. 11 など参照。</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf</a></cite> </blockquote> <p>ただし、2016年経済センサス-活動調査に基づいてベンチマーク更新をおこなった場合の試算結果 (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x8CC7;&#x6599;1</a> の10, 13ページ) では、労働者数の変動の比率はそれほど大きくなく、きまって支給する給与の平均値にもほとんど変動がない。これらは、現行の毎月勤労統計調査は2014年経済センサス-基礎調査に基づくベンチマーク更新を2018年1月にすませていること (そのため2016年経済センサス-活動調査に基づくベンチマーク更新による変化は2014-2016年の2年間の変化だけを反映する) や、産業分類M (宿泊業、飲食サービス業:賃金が低い傾向がある) のギャップ率がそれほど低くないといったことによるのだろう。</p><p>会議資料には、このほか、ベンチマーク更新のために生じる過去の数値との断層を補正して「指数」をなだらかにつなぐ方法についても説明がある。これらの資料が提示されたうえで、どの方法を採用してベンチマーク更新をおこなうのがよいかについて委員からの意見があったが、結論をみたわけではない。最終的にどのような方法をとって統計を整備していくかについては、次回以降の会議での決定になるのだと思う。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="topic">問題の所在</h3> <p>ベンチマーク更新でギャップが生じるのは、要するに、つぎのふたつの値がちがうという問題である。</p> <ul> <li>毎月勤労統計調査が推計する母集団労働者数</li> <li>経済センサスや事業所母集団データベース (以下では単に「センサス」という) が記録する労働者数</li> </ul><p>これらの間に存在する食い違いについて、前者を修正して後者にあわせるのが「ベンチマーク更新」である。ベンチマークを更新すると、層別に推計される母集団労働者数が突然増えたり減ったりするので、層の構成比が変わる。そして、この推計母集団労働者数をウエイトとして計算される平均賃金などの集計値も、突然上がったり下がったりすることになる。</p><p>このようなベンチマーク更新の方法がずっととられてきた背後には、つぎのふたつの前提がある:</p> <ol> <li>毎月勤労統計調査が推計する母集団労働者数とセンサスが測定する労働者数は、おなじものを指している</li> <li>センサスの労働者数のほうが、真の値に近い</li> </ol><p>まず、これらの前提は正しいのか? ということが問題である。この問題については、稿をあらためて論じることにしよう。</p><p>しかし、もしもこれらの前提を承認することにしたとしても、では現行のベンチマーク更新のやりかたが適切であるのかどうかは、また別の問題である。労働者数に食い違いがあらわれる典型的なケースとして、つぎの2種類を考えてみよう。</p> <ul> <li>センサスの労働者数は増減しているのに、それが毎月勤労統計調査の労働者数推計に反映していない</li> <li>センサスの労働者数は一定なのに、毎月勤労統計調査の労働者数推計が増減している</li> </ul><p>前者に対しては、母集団労働者数の変化を忠実に反映するよう、月々の労働者数推計の方法を改善するのが本来のありかたである。それでも生じてしまう微細なちがいがある場合に、それを修正する方法として、センサスの情報を使った労働者数の是正をおこなうことになるだろう。</p><p>後者の場合には、母集団の労働者数が一定なのだから、毎月の労働者数も一定でかまわないのであり、変化させる理由がない。月々の労働者数推計で労働者数を変化させることがかえって統計の精度を下げているのだから、まずこれを停止すべきである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="benchmark">「ベンチマーク」の3つの意味</h3> <p>毎月勤労統計調査における労働者数推計の実態がどうであったかを検討する前に、「ベンチマーク」なる用語の意味するところを確認しておこう。</p><p>このワーキンググループの第1回 (7月9日) の資料3によれば、「ベンチマーク」はつぎのように説明されている:</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802076.pdf"> <p>「経済センサス-基礎調査」等の結果を労働者数のベンチマーク(水準点)として、毎月勤労統計調査の集計に用いる母集団労働者数の実績との乖離を是正するために、母集団労働者数を更新する作業を行っている。この作業を「ベンチマーク更新」という。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2021-07-09)「毎月勤労統計調査におけるベンチマーク更新等」(第1回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19486.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19486.html</a> 資料3) p.1</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802076.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802076.pdf</a></cite> </blockquote> <p>毎月勤労統計調査の集計に用いる母集団労働者数を、センサスの結果を水準点として修正した場合の、その水準点となるセンサスの結果のことを、「ベンチマーク」という。この第1回会議の議事録 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20584.html">https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20584.html</a> によると、事務局からの説明 (野口統計管理官) でつぎのような表現がたくさんでてくる。</p> <ul> <li>「事業所の全数調査である経済センサス等の結果を、ベンチマーク若しくは一般的に言うと真の値として取り扱い」</li> <li>「従来は経済センサス、事業所・企業統計調査などをベンチマークとして活用しています」</li> <li>「前回、平成30年1月分調査から平成26年の経済センサス‐基礎調査をベンチマークとして、ベンチマーク更新をしています」</li> <li>「仮に今回、事業所母集団データベースを毎月勤労統計調査のベンチマークとして定めることとした場合」</li> <li>「乖離を是正するために全数調査である経済センサス等の結果を用いてベンチマーク、いわゆる水準点として母集団労働者数を設定する方法を取っているところです」</li> <li>「令和3年の経済センサス‐活動調査では全数を調査し、労働者数も把握されているので、これをベンチマークとしないという選択肢はないかと考えています」</li> </ul><p>ここで「ベンチマーク」と呼ばれているのは、経済センサスや事業所母集団データベースなど (あるいはそれらの結果として算出された数値) のことである。毎月勤労統計調査の報告書 (年報) をまとめて市販する『毎月勤労統計要覧』では、最新の2020年版 (令和2年版) になって、この定義を採用している。</p> <blockquote> <p>平成30年1月のギャップ修正においては、ベンチマークを「平成21年経済センサス-基礎調査」(平成21年7月1日現在) から「平成26年経済センサス-基礎調査」(平成26年7月1日) に変更したことから、平成21年7月分以降について行った。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省政策統括官 (統計・情報政策担当) (2021)『毎月勤労統計要覧』(令和2年版) 労働法令協会 <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845214334/hatena-blog-22/">ISBN:9784845214334</a> p. 297</p> </blockquote> <p>この場合、「平成21年経済センサス-基礎調査」とか「平成26年経済センサス-基礎調査」とかが「ベンチマーク」にあたる。<ins>[2021-09-22追記:ただしこの直前の p. 296 には、後述の第2の定義に相当する記述もある]</ins></p><p>ところが、それまでの毎月勤労統計調査関連の資料では、ちがう意味で「ベンチマーク」ということばを使っていた。</p> <blockquote> <p>最新の事業所統計調査結果が判明したときには、それから作成した値(事業所統計によるベンチマークという)を前月末母集団労働者数とする。<br /> ―――――<br /> 労働大臣官房政策調査部 (1990) 『毎月勤労統計要覧』(平成2年版) 労働法令協会 <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4897644550/hatena-blog-22/">ISBN:4897644550</a> p. 195</p> </blockquote> <p>この定義では、センサス (ここでは事業所統計) そのものの結果ではなく、そこから作成した前月末母集団労働者数のことを「ベンチマーク」と呼ぶ。『毎月勤労統計要覧』に登場する「ベンチマーク」は、2015年版 (平成27年版) まではこの意味だった。<ins>[2021-09-22追記:2020年版 (令和2年版) p. 296 には「常用労働者のベンチマークの数値 (センサスから作成した前月末母集団労働者数)」との記述があり、これはこの第2の定義に相当する。]</ins>厚生労働省による現在の解説ページ <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html#01">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html#01</a> にも、おなじ定義が載っている。</p><p>さらに、『毎月勤労統計要覧』の2016年版 (平成28年版) から2019年版 (令和1年版) までは、またちがう定義を採用している。</p> <blockquote> <p>単位集計区分毎に前月のベンチマーク (注1) に対して、標本事業所における前月から当月への変動を反映し、当月の値を算出するリンク・リラティブ方式で常用労働者を推計している。<br /> 〔……〕<br /> (注1) 前月の母集団労働者数に雇用保険事業所データによる補正を施したもの。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 政策統括官 (統計・情報政策担当) (2017) 『毎月勤労統計要覧』(平成28年版) 労務行政 <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845272741/hatena-blog-22/">ISBN:9784845272747</a> p. 297</p> </blockquote> <p>この定義では、毎月勤労統計調査が月々推計している「前月末」の労働者数が「ベンチマーク」である。この値は毎月変動する。</p><p>以上のように、「ベンチマーク」についての厚生労働省の説明では、3種類の異なる定義が混在している。どれを採用するかによって、その指示対象がちがってくる。2021年5月の毎月勤労統計調査を例にとってみよう。最後にベンチマークを更新したのは2018年1月、そのときに使用したのは2014年の経済センサス-基礎調査の集計結果である。したがって、「ベンチマーク」が指示する対象はつぎのようになる。</p> <ul> <li>第1の (当ワーキンググループによる) 定義では、2014年の経済センサス-基礎調査の集計結果を指す</li> <li>第2の (2015年版までの『毎月勤労統計要覧』による) 定義では、2018年1月調査用に設定した前月末労働者数を指す</li> <li>第3の (2016年版から2019年版の『毎月勤労統計要覧』による) 定義では、2021年5月調査用に推計した前月末労働者数を指す</li> </ul><p>こういう重要な用語について、複数の意味をあたえるのはやめてほしい。理解を妨げるうえに、議論をいたずらに複雑化して参加障壁を引き上げるだけなので。</p><p>もっとも、「ベンチマーク更新」という表現については、混乱は少ない。第1の定義と第2の定義のどちらでも、「ベンチマーク更新」は、センサスの情報を利用して毎月勤労統計調査で推計する母集団労働者数を変更する作業を指す。第3の定義ではベンチマークの数値は毎月新しくなるので、毎月更新しているといってもおかしくないはずだが、しかし実際には、「ベンチマーク更新」ということばは、通常の方法での月々の労働者数の推計には使わず、センサスの結果を参照して労働者数を設定した場合だけに限定して使っていたようだ。そうすると、どの定義を採用したとしても、「ベンチマーク更新」が意味する内容はおなじだということになる。</p><p>この記事ではこれ以降、混乱を避けるため、「ベンチマーク (の/を) 更新」という表現だけを使い、「ベンチマーク」単独では使用しないことにしよう。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="data">データ</h3> <div class="section"> <h4>毎勤原表</h4> <p>以下で使うデータは、「政府統計の総合窓口 e-Stat」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> に掲載の「毎月勤労統計調査全国調査結果原表」(「毎勤原表」と略称される) による。2021年8月14日に、つぎの2か所からExcelファイルをダウンロードした (下記ファイル名の ****** や **** には、年月をあらわす数字が入る)。</p> <dl> <dt>2004年1月から2011年12月まで</dt> <dd> 「実数原表・実数推計」の「時系列比較のための推計値(2004年1月~2012年1月)」から「月次」 (ファイル名: mks190_******.xls)</dd> <dt>2012年1月から2021年5月まで</dt> <dd> 「実数原表・実数推計」の「実数原表(2012年1月~)」から「月次」 (ファイル名: hon-mks******.xls または sai****mks.xls)</dd> </dl><p>これらのファイルは、東京都の事業所が他地域とはちがう抽出率で抽出されていた (それを適切なウエイトで復元していなかった) 問題などを事後的に訂正したものである。訂正の履歴についてはつぎの情報を参照:</p> <ul> <li>厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)」 <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html</a></li> <li>厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):過去のお知らせ」 <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1i.html">https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1i.html</a></li> </ul><p>特に、2011年までの数値は、かなり強引な仮定を置いての推計結果であることに注意が必要である。これについてはつぎの情報を参照:</p> <ul> <li>e-Stat 「毎月勤労統計調査 全国調査」 <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011791</a> から「実数原表・実数推計」→「時系列比較のための推計値(2004年1月~2012年1月)」→「作成方法の概要」→「「時系列比較のための推計値」作成方法の概要」(<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031972600&fileKind=2</a> ファイル名:suikei-manual.pdf)</li> </ul><p>ちなみに、2003年以前の毎月勤労統計調査についての同様のデータは、「長期時系列表」の「実数・指数累積データ」から <a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031913616&fileKind=1">&#x300C;&#x5B9F;&#x6570;&#x30FB;&#x6307;&#x6570;&#x7D2F;&#x7A4D;&#x30C7;&#x30FC;&#x30BF;&#x3000;&#x5B9F;&#x6570;&#x300D;(&#x8868;&#x756A;&#x53F7;1) &#x306E;CSV&#x30D5;&#x30A1;&#x30A4;&#x30EB; (hon-maikin-k-jissu.csv)</a> にも (簡略なかたちで) 格納されている。しかし、このCSVファイルでは事業所規模500人以上はひとつのカテゴリーとなっており、1000人以上規模事業所を取り分けた分析ができない。今回は、ワーキンググループで提示された枠組みで分析を進めるため、1000人以上規模事業所についてのデータが抽出できる毎勤原表が公表されている2004年以降だけをひとまず対象とする。</p> </div> <div class="section"> <h4>情報の抽出とテキスト・データ作成</h4> <p>毎勤原表のExcelファイルは、ひとつの産業について1枚の紙に印刷するようにできている。行の先頭フィールドがC-Rのアルファベットからはじまる文字列または「TL」(=全産業合計) である場合、産業分類をあらわす。先頭フィールドが「T」(=全事業所規模合計) あるいは1桁の数字である場合、事業所規模をあらわす。4番目と7番目のフィールドの数値がそれぞれ「全調査期間末」(=前月末) と「本調査期間末」(=本月末) の労働者数である (これらについては後述)。男女・就業形態別に1行ずつ数値が記載されているが、今回の分析で必要なのは男女・就業形態合計の数値だけなので、その1行だけ抽出すればよい。</p> <blockquote cite="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032108358&fileKind=4"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911163137" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911163137.png" alt="f:id:remcat:20210911163137p:image" width="800" height="446" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 「毎月勤労統計調査全国調査結果原表」(2021年5月分)<br /> 〔引用時に加工〕</p> <cite><a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032108358&fileKind=4">https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032108358&fileKind=4</a></cite> </blockquote> <p>データを抽出する Perl スクリプトを示す。毎勤原表のExcelファイルをすべてテキストファイルに変換して、このスクリプトを適用する。調査年月はファイル名からのパターンマッチで判断する。</p> <pre class="code lang-perl" data-lang="perl" data-unlink><span class="synComment"># Option:</span> <span class="synComment"># -all (without restriction of file name pattern)</span> <span class="synComment"># -na (print lines with '-' or '*' to STDERR)</span> <span class="synIdentifier">%Option</span> = ( <span class="synConstant">all</span> =&gt; <span class="synConstant">0</span> , <span class="synConstant">na</span> =&gt; <span class="synConstant">0</span>) ; <span class="synIdentifier">$Option{</span><span class="synConstant">all</span><span class="synIdentifier">}</span>= <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">if</span> <span class="synStatement">grep {</span> <span class="synStatement">s/</span><span class="synConstant">^</span><span class="synSpecial">\-</span><span class="synConstant">all$</span><span class="synStatement">//}</span> <span class="synIdentifier">@ARGV</span>; <span class="synIdentifier">$Option{</span><span class="synConstant">na</span><span class="synIdentifier">}</span> = <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">if</span> <span class="synStatement">grep {</span> <span class="synStatement">s/</span><span class="synConstant">^</span><span class="synSpecial">\-</span><span class="synConstant">na$</span><span class="synStatement">//</span> <span class="synStatement">}</span> <span class="synIdentifier">@ARGV</span>; <span class="synIdentifier">@ARGV</span> = <span class="synStatement">grep</span>( <span class="synIdentifier">$_</span> <span class="synStatement">ne</span> <span class="synConstant">''</span>, <span class="synIdentifier">@ARGV</span> ); <span class="synIdentifier">$\</span> = <span class="synConstant">&quot;</span><span class="synSpecial">\n</span><span class="synConstant">&quot;</span> ; <span class="synIdentifier">$,</span> = <span class="synIdentifier">$&quot;</span> = <span class="synConstant">&quot;</span><span class="synSpecial">\t</span><span class="synConstant">&quot;</span> ; <span class="synIdentifier">%Class</span> = ( <span class="synComment"># Size (workers in an establishment)</span> <span class="synConstant">'T'</span> =&gt; <span class="synConstant">0</span>, <span class="synComment"># All sizes</span> <span class="synConstant">1</span> =&gt;<span class="synConstant">1000</span>, <span class="synComment"># 1000 and over</span> <span class="synConstant">3</span> =&gt;<span class="synConstant">500</span> , <span class="synComment"># 500-999</span> <span class="synConstant">5</span> =&gt;<span class="synConstant">100</span> , <span class="synComment"># 100-499</span> <span class="synConstant">7</span> =&gt; <span class="synConstant">30</span> , <span class="synComment"># 30- 99</span> <span class="synConstant">9</span> =&gt; <span class="synConstant">5</span> , <span class="synComment"># 5- 29</span> ) ; <span class="synComment"># Print the header (yyyymm for survey year-month; e0 and e1 for N of workers)</span> <span class="synStatement">print</span> <span class="synConstant">qw( file line yyyymm size e0 e1 wage industry )</span> ; <span class="synStatement">FILE:</span> <span class="synStatement">foreach</span>(<span class="synIdentifier">@ARGV</span>) { <span class="synStatement">open</span> (<span class="synIdentifier">FILE</span>, <span class="synIdentifier">$_</span> ) || <span class="synStatement">die</span>(<span class="synConstant">&quot;Cannot open file </span><span class="synIdentifier">$_</span><span class="synSpecial">\n</span><span class="synConstant">&quot;</span> ); <span class="synStatement">my</span> <span class="synIdentifier">$Filename</span> = <span class="synIdentifier">$_</span>; <span class="synIdentifier">$Filename</span> =~ <span class="synStatement">s/</span><span class="synSpecial">\.</span><span class="synConstant">txt$</span><span class="synStatement">//</span> ; <span 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class="synIdentifier">$e0</span> , <span class="synIdentifier">$e1</span>, <span class="synIdentifier">$wage</span>, <span class="synIdentifier">$Ind</span>, <span class="synConstant">'||'</span> . <span class="synIdentifier">$_</span> ; } <span class="synStatement">print</span> <span class="synIdentifier">$Filename</span>, <span class="synIdentifier">$Line</span> , <span class="synIdentifier">$Ym</span>, <span class="synIdentifier">$class</span>, <span class="synIdentifier">$e0</span> , <span class="synIdentifier">$e1</span>, <span class="synIdentifier">$wage</span>, <span class="synIdentifier">$Ind</span>; ++ <span class="synIdentifier">$Done{$Filename}{$Ind}{$class}</span>; } } </pre><p>おなじ内容のスクリプト (の先頭に説明を付け加えたもの) を <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt</a> に、出力結果 (タブ区切りテキストファイル 7MB) を <a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt</a> に置く。</p><p>毎勤原表の労働者数等のフィールドに、「-」「*」などが入っている場合がある。<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000001257493&fileKind=0">&#x6BCE;&#x52E4;&#x539F;&#x8868;&#x306E;&#x8AAC;&#x660E; (mks.xls)</a> にはこれらについての説明はない。しかし、e-Stat でデータベース化された毎月勤労統計調査の結果の出力 (たとえば <a href="https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003138108">https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003138108</a>) では、「-」は数字が存在しないことを、「*」は秘匿措置によって数値が伏せられていることを示しているので、おそらくおなじ意味であろう。これらは、すべて欠損値としてあつかうことにする。</p><p>なお、毎月勤労統計調査で「労働者」というのは「常用労働者」のことである。ワーキンググループ資料等でも「労働者」といえば「常用労働者」のことであり、この記事でもそれにしたがっている。この「常用労働者」の定義が2018年1月に変更されており、これはこれで大きな問題なのであるが、この問題はこの記事では取り上げない (常用労働者定義問題については <a href="http://tsigeto.info/20a">http://tsigeto.info/20a</a> 第7節および <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190809/jss3">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190809/jss3</a> を参照)。</p> </div> <div class="section"> <h4>分析のためのRスクリプト</h4> <p>こうして抽出したデータを、Rで分析する。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>x <span class="synStatement">&lt;-</span> read.delim<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;maikin-monthly.dat&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> header<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">T</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># Sort by date and establishment size</span> x <span class="synStatement">&lt;-</span> x<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>x<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> x <span class="synStatement">&lt;-</span> x<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>x<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> x<span class="synSpecial">$</span>is <span class="synStatement">&lt;-</span> factor<span class="synSpecial">(</span> paste<span class="synSpecial">(</span> x<span class="synSpecial">$</span>industry<span class="synSpecial">,</span> x<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">,</span> sep<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">&quot;.&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> x<span class="synSpecial">$</span>year <span class="synStatement">&lt;-</span> round<span class="synSpecial">(</span> x<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">/</span> <span class="synConstant">100</span> <span class="synSpecial">)</span> x<span class="synSpecial">$</span>month<span class="synStatement">&lt;-</span> floor<span class="synSpecial">(</span> x<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">%%</span> <span class="synConstant">100</span> <span class="synSpecial">)</span> x<span class="synSpecial">$</span>worker2 <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synSpecial">(</span> x<span class="synSpecial">$</span>e0 <span class="synStatement">+</span> x<span class="synSpecial">$</span>e1 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">/</span><span class="synConstant">2</span> x1 <span class="synStatement">&lt;-</span> x x2 <span class="synStatement">&lt;-</span> x x1<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">&lt;-</span> x1<span class="synSpecial">$</span>e0 x2<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">&lt;-</span> x2<span class="synSpecial">$</span>e1 x2<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> x2<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synStatement">+</span> <span class="synConstant">0.5</span> temp <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> x1<span class="synSpecial">,</span> x2 <span class="synSpecial">)</span> x.long <span class="synStatement">&lt;-</span> temp<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> </pre><p>各月のデータには、「前月末」(e0) 「本月末」(e1) の2種類の労働者数の値がある。これらを順に並べてあつかえるようにしたデータ・フレーム (x.long) をつくり、「本月末」労働者数に対応する月の数値に0.5を足しておく。 たとえば2021年5月分データの場合、「前月末」の労働者数については yyyymm==202105 であるが、「本月末」の労働者数については yyyymm==202105.5 のようにする。</p><p>データにはこまかい産業分類までふくまれているのだが、今回の分析では全産業合計のデータだけをあつかう。また、事業所規模別に分析できるよう、事業所規模別に整理したリストも用意する。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>x.bysize <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> x.long<span class="synSpecial">,</span> industry<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">&quot;TL&quot;</span> <span class="synStatement">&amp;</span> <span class="synConstant">0</span><span class="synStatement">&lt;</span>size <span class="synSpecial">)</span> data <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">list</span><span class="synSpecial">(</span> size5 <span class="synStatement">=</span> x.bysize<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">5</span> <span class="synStatement">==</span> x.bysize<span class="synSpecial">$</span>size <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">],</span> size30<span class="synStatement">=</span> x.bysize<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">30</span> <span class="synStatement">==</span> x.bysize<span class="synSpecial">$</span>size <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">],</span> size100<span class="synStatement">=</span>x.bysize<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">100</span> <span class="synStatement">==</span> x.bysize<span class="synSpecial">$</span>size <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">],</span> size500<span class="synStatement">=</span>x.bysize<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">500</span> <span class="synStatement">==</span> x.bysize<span class="synSpecial">$</span>size <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">],</span> size1000<span class="synStatement">=</span>x.bysize<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1000</span><span class="synStatement">==</span>x.bysize<span class="synSpecial">$</span>size <span class="synSpecial">,</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="method">月々の労働者数推計とベンチマーク更新の原理</h3> <p>毎月勤労統計調査では、母集団における労働者数を毎月推計し、その値を、平均賃金等を集計する際のウエイトとして使っている。この月々の母集団労働者数推計の手順はつぎの2段階にわかれていて、依拠する情報源が異なる。</p> <ol> <li>調査対象事業所に雇用されている労働者数の変動 (毎月勤労統計調査による) の推計 (<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> 199ページ参照)</li> <li>事業所新設・廃止等による変動 (雇用保険事業所データによる) と、事業所規模の変化などで別の層に事業所が移動したことによる変動 (毎月勤労統計調査による) の推計 (<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> 198-197ページ参照)</li> </ol><p>毎月勤労統計調査の毎回の調査では、前月 (前調査期間) の末日とその月 (本調査期間) の末日について、その事業所の労働者の人数をきいている。これで1ヶ月の間に労働者が何人増えたかがわかる。この労働者数増分に、賃金等を集計するときに使うのとおなじウエイトをかけると、母集団における労働者数の増分が推計できる。この分を、月はじめの推計母集団労働者数 (その月の「前月末」の労働者数と呼ばれる) に加えた値が、その月の「本月末」の推計母集団労働者数である (ちなみに毎勤原表においては、前月末労働者数は「前調査期間末」、本月末労働者数は「本調査期間末」と表記されている)。ここまでが第1段階。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/30-1/dl/201905maikin1zenkoku.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911163859" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911163859.png" alt="f:id:remcat:20210911163859p:image" width="800" height="430" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 厚生労働省 (2019) 毎月勤労統計調査全国調査票(第一種事業所用) <br /> 〔赤枠は引用時に付加したもの〕<br /> <a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/#00450071">https://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/#00450071</a></p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/30-1/dl/201905maikin1zenkoku.pdf">https://www.mhlw.go.jp/toukei/chousahyo/30-1/dl/201905maikin1zenkoku.pdf</a></cite> </blockquote> <p>母集団労働者数推計の第2段階は、つぎのふたつについて修正を加えるものである</p> <ul> <li>事業所の新設/廃止、および事業所規模が5人以上になったり5人未満になったりしたケースの労働者数</li> <li>ある層から別の層に事業所が移動したことによる各層の労働者数の増減</li> </ul><p>前者については雇用保険事業所データ、後者については毎月勤労統計調査データを使用する。くわしくは <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a> の3ページおよび <a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> の198-197ページを参照されたい。</p><p>実例をあげて説明するために、近年の毎月勤労統計調査の5-29人規模の事業所の労働者数を抽出してみよう。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>subset<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]],</span> <span class="synConstant">201901</span><span class="synStatement">&lt;=</span>yyyymm<span class="synSpecial">,</span> select<span class="synStatement">=</span>c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>グラフ1の折れ線は、毎月勤労統計調査の2019年4月から2021年5月までの5-29人規模の事業所の労働者数を示している。黒丸●は「前月末」の労働者数、白丸○は「本月末」の労働者数である。●→○ の変化は第1段階の推計による変化 (各事業所が毎月勤労統計調査に回答した、その月の労働者数の増減を母集団について推計したもの) であり、○→● の変化は第2段階の推計 (雇用保険等のデータに基づいて事業所新設/廃止/規模区分変更による労働者数増減を推計したもの) をあらわす。このように月々の母集団労働者数推計を繰り返していくことにより、毎月の「前月末」「本月末」の労働者数が変化していく。</p><p>ちなみに、これらのうち「前月末」の数値 (つまり黒丸) は、毎月勤労統計調査における賃金等の集計でウエイトとして利用しているものである。母集団労働者数推計の第1段階は、毎月勤労統計調査の通常の集計とおなじ方法で計算するものなので、このウエイトによる重み付けがおこなわれる。つまり、黒丸から白丸への値の変化量を計算するにあたっては、黒丸の数値自身がウエイトとして利用されている。</p><p>一方、第2段階 (白丸→黒丸) の推計にも、事業所規模区分が変更になった事業所の労働者数の推計に毎月勤労統計調査データを使うのだが、このときには、この前月末労働者数によるウエイトは使わない。かわりに、対象事業所をサンプリングしたときの抽出確率の逆数を使っている。<a href="#f-9db96bf3" name="fn-9db96bf3" title="この記述は、統計委員会からの要望に対する厚生労働省の回答 (2019年4月18日 [https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf]) の3ページによる。ただし、毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループの第1回会議の資料1 https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802074.pdf の7ページや16ページにはまたちがう説明が書いてあるので、真相はよくわからないところである。">*1</a><br /> </p> <div class="section"> <h5>グラフ1: 5-29人規模事業所の2019年以降の労働者数推移と事業所母集団DBに基づくベンチマーク更新の影響</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210903091727" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210903/20210903091727.png" alt="f:id:remcat:20210903091727p:image" width="800" height="471" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>さて、<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x4ECA;&#x56DE;&#x306E;&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x306E;&#x8CC7;&#x6599;1</a> によれば、事業所母集団データベースの「2019年次フレーム」(2019年6月) の5-29人規模事業所の労働者数は、対応する毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数よりずいぶん低く、0.888倍だったという。ここでこの数値が毎月勤労統計調査のどの数値に対応しているかについて、資料の該当部分には「本月末労働者数」としか書いていないのだが、おなじ資料の15ページの記述から、2019年5月調査の本月末労働者数だと推測できる。これはおかしな話である。「2019年6月」の母集団労働者数の推計値 (すなわち母集団推定をおこなう際のウエイト算出に使うもの) といえるのは、2019年6月の「前月末」の労働者数だからだ。過去のベンチマーク更新の際にも、センサス調査月とおなじ月の「前月末」の労働者数との比をとって補正していた (下記参照)。今回に限ってこの前例を踏襲しない理由が説明されているわけでもない。が、「本月末」の数値を使うと会議資料にはっきり書いてあるのは確かなので、ここでも2019年5月の「本月末」労働者数との比をとることにしよう。幸い、2019年5月の「本月末」労働者数と、2019年6月の「前月末」労働者数の間には、それほど大きなちがいはない。</p><p>2019年5月の毎月勤労統計調査における5-29人規模事業所の「本月末」労働者数は、毎勤原表によれば2111万1140人である。事業所母集団データベースによる労働者数はこの0.888倍だというのだから、1874万6692人ということになる。毎月勤労統計調査が推計していた労働者数のほうが236万4448人多かったわけだ。</p><p>従来のベンチマーク更新の方法では、事業所規模と産業によって細分した層のそれぞれについてこのような計算をして「補正比」を求め、それを最新の毎月勤労統計調査の労働者数にかけることになる (<a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a> 196ページおよび <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190803/jss2#bench">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190803/jss2#bench</a> 参照)。ギャップが生じていたことがわかった時点までさかのぼって補正するわけではなく、最新のデータがえられたところで補正をおこなうので、その間にかなりの時間 (ふつう数年) が経過していることになる。</p><p>今回の会議で報告のあった試算は、2019年5月末時点のデータについてのずれから補正比を求め、それに基づいて2021年5月の本月末労働者数を補正したものである。2019年5月末の毎月勤労統計調査5-29人規模事業所の労働者数は、事業所母集団データベースの労働者数よりも12.6%過大であった。この分の補正を2021年5月末のデータに対して加えると、労働者数が11.3%減る (グラフ1)。</p><p>もし、2019年5月時点でのギャップが、偶発的で一時的な要因で数値が過大に出てしまっただけのものであったなら、このような修正でもまあよいわけである。たとえば、災害による混乱のために正確な調査をおこなうことが一時むずかしかったためにバイアスが生じた、というようなことであれば、他のデータと照合して判明したバイアス分を修正するというのは納得のいく方針である。混乱がおさまって平常の調査態勢にもどればそれ以降バイアスは出なくなるのだから、調査方法そのものを変更する必要はない。</p><p>これに対して、労働者数を過大あるいは過少に計測してしまうバイアスが調査や集計の方法自体に内在している場合、ベンチマーク更新によって数値のずれを修正するのは一時しのぎでしかない。ベンチマーク更新のあとも、そのバイアスはずっと作用しつづけるのである。</p><p>グラフ1では、毎月勤労統計調査の月々の推計母集団労働者数は、2019年5月から2021年5月までの2年間に5%増加している。ベンチマーク更新は2019年6月以降の変化には影響しないので、この増加が結果にそのまま反映する。だから、ベンチマーク更新後の2021年5月末の労働者数は、基準時点である2019年5月末から5%増えることになる。これが母集団における労働者数の増加を反映したものであれば――つまり真の労働者数も2年間に5%の率で増えてきたのなら――これで正しい。しかし、母集団では実際には増加していないのに調査方法あるいは集計方法の問題で増加しているとしたら、労働者数を過大に推計していることになる。調査/集計の方法がおかしいことが数値にずれを生む原因なのであれば、そこを治さなければ根本的な解決にならない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="gap">2004年以後の毎月勤労統計調査とセンサスの乖離</h3> <div class="section"> <h4>センサスによる労働者数の推定</h4> <p>この問題を考えるには、2019年より前にさかのぼり、労働者数のずれがどうやって生じてきたのかを探る必要がある。</p><p>『毎月勤労統計要覧』によると、2004年以降にベンチマーク更新は3回あった:</p> <ul> <li>2009年1月 (2006年10月事業所・企業統計調査による)</li> <li>2012年1月 (2009年7月経済センサス-基礎調査による)</li> <li>2018年1月 (2014年7月経済センサス-基礎調査による)</li> </ul><p>今回のワーキンググループ資料が提案する2016年経済センサス-活動調査と事業所母集団データベース2019年次フレーム (これらについては、ワーキンググループ資料の記述に基づき「本月末」労働者に対応させる) もふくめ、センサス時点に対応する毎月勤労統計調査データの年月はつぎのようになる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>census.date <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200610</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">200907</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201407</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201605.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201905.5</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>ベンチマーク更新が実際におこなわれた時点の前後をふくめ、問題となるタイミングの労働者数だけを集めた行列をつくっておく。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>reset.date0 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200812.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201112.5</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201712.5</span> <span class="synSpecial">)</span> reset.date1 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">200901</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201201</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">201801</span> <span class="synSpecial">)</span> checkpoint <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> census.date<span class="synSpecial">,</span> reset.date0<span class="synSpecial">,</span> reset.date1<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">202105</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">202105.5</span> <span class="synSpecial">)</span> x.cp <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> x.bysize<span class="synSpecial">,</span> yyyymm <span class="synStatement">%in%</span> checkpoint <span class="synSpecial">)</span> size.cp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> split<span class="synSpecial">(</span> x.cp <span class="synSpecial">,</span> x.cp<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synSpecial">),</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;size&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.cp<span class="synStatement">&lt;-</span>sapply<span class="synSpecial">(</span> split<span class="synSpecial">(</span> x.cp <span class="synSpecial">,</span> x.cp<span class="synSpecial">$</span>yyyymm <span class="synSpecial">),</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.cp<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> size.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">]</span> </pre><p>各センサスでの労働者数がいくつであったかの数値は、直接には知ることができない。毎月勤労統計調査による事業所規模にあわせて常用労働者数を示した統計データが公表されていないからである。しかし、その数値を使って2009年、2012年、2018年に毎月勤労統計調査の労働者数が変更されているので、そこから逆算することができる。</p><p>『毎月勤労統計要覧』(<a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845212641/hatena-blog-22/">2010年版</a> 290ページ) によれば、2009年のベンチマーク更新の手順は、産業・規模別に、2006年事業所・企業統計調査の常用雇用者数を2006年10月毎月勤労統計調査の前月末推計労働者数で割った値を2008年12月毎月勤労統計調査の本月末推計労働者数にかけ、その結果を2009年1月の前月末労働者数とした、というものである。2012年のベンチマーク更新においても、2009年経済センサス-基礎調査の結果をもとに、同様の手順がとられている (『毎月勤労統計要覧』<a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845252635/hatena-blog-22/">2014年版</a> 290ページ)。</p><p>したがって、2009年1月の前月末労働者数を2008年12月の本月末労働者数で割った値が、2006年事業所・企業統計調査での常用雇用者数と2006年10月の毎月勤労統計調査の前月末労働者数との比ということになる。2012年1月についても同様の計算ができる。</p><p>この操作は、本来であれば、産業別・事業所規模別にこまかく層にわけておこなうべきものだ。しかし今回は、事業所規模のみをわけ、産業合計について計算した。産業別にわけた場合、秘匿措置等のために労働者数が欠損値になっている層があって、その点の調整が面倒だったからである。センサスの時点とベンチマーク更新の時点との間で、事業所規模別にみた産業の構成比がおおきく変わっていなければ、産業合計の労働者数で計算しても結果は大差ないはずである。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>gap2009 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200901&quot;</span><span class="synSpecial">]</span><span class="synStatement">/</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200812.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.pop2006 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200610&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2009 gap2012 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201201&quot;</span><span class="synSpecial">]</span><span class="synStatement">/</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201112.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> worker.pop2009 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;200907&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2012 </pre><p>2018年ベンチマーク更新については、手続きがちがう。2014年経済センサス-基礎調査 (7月) の常用雇用者数と2014年7月の前月末労働者数との比によって「補正比」を求めるところまではおなじだが、それを2017年12月の本月末労働者数にかけるのではない。ベンチマーク更新をおこなわずに2018年1月の前月末労働者数をいったん求め (=「旧サンプル」の母集団労働者数)、それに補正比をかけるのである。</p> <blockquote cite="https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf"> <p>5.平成30年1月分の新・旧集計等<br /> 事業所規模30人以上のサンプル入替え月(1月)には、旧サンプルと新サンプルの両者を調査対象としているところである。旧サンプルについては、先月までの集計と同様の集計を行う。新サンプルについても通常は旧サンプルと同様の処理を行うが、平成30年1月については、ベンチマーク更新を行ったため、母集団労働者数は経済センサスを元に作り直している。 〔……〕</p><br /> <p>6.集計に使用する母集団労働者数<br /> 産業・事業所規模ごとに、平成26年経済センサスによる常用雇用者数を毎勤の平成26年7月分用母集団労働者数で割ったものを補正比とし、その補正比に旧サンプルの平成30年1月分用母集団労働者数を乗じたものを、新サンプルの平成30年1月分用母集団労働者数としている。<br /> ―――――<br /> 厚生労働省 政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)(2019-07-29) 「毎月勤労統計調査について」(第9回統計委員会点検検証部会 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/tenkenkensho/kaigi/02shingi05_02000349.html">https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/tenkenkensho/kaigi/02shingi05_02000349.html</a> 資料2) 10ページ<br /> 〔原文は表形式〕</p> <cite><a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この手続きにしたがって、<a href="https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031791103&fileKind=0">2018&#x5E74;1&#x6708;&#x306E;&#x300C;&#x65E7;&#x30B5;&#x30F3;&#x30D7;&#x30EB;&#x300D;&#x306E;&#x6BCE;&#x52E4;&#x539F;&#x8868;</a> (hon-mks-kyu201801.xls) を e-Stat からダウンロードし、そこから前述のPerlスクリプトによって抽出したデータ (maikin201801kyu.dat) を使うことにする。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>kyu2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> read.delim<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;maikin201801kyu.dat&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> header<span class="synStatement">=</span><span class="synConstant">T</span> <span class="synSpecial">)</span> kyu2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> kyu2018<span class="synSpecial">[</span> order<span class="synSpecial">(</span>kyu2018<span class="synSpecial">$</span>size<span class="synSpecial">),</span> <span class="synSpecial">]</span> kyu2018.tl0 <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> kyu2018<span class="synSpecial">,</span> industry<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">&quot;TL&quot;</span> <span class="synStatement">&amp;</span> <span class="synConstant">0</span><span class="synStatement">&lt;</span>size <span class="synSpecial">)</span> gap2018 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201801&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">/</span> kyu2018.tl0<span class="synSpecial">$</span>e0 worker.pop2014 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201407&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2018 </pre><p>2016年経済センサス-基礎調査と事業所母集団データベース2019年次フレームについても、<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x8CC7;&#x6599;1</a> の12ページでわかる毎月勤労統計調査とのギャップ率から計算しておこう。2016年については、5種類の試算がおこなわれているため、それらのギャップ率の幾何平均をとる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># From https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf</span> gap2019 <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.888</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.092</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.985</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.813</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.947</span> <span class="synSpecial">)</span> names<span class="synSpecial">(</span> gap2019 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;5&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;30&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;100&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;500&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;1000&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop2019 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201905.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2019 census2016.rev <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind <span class="synSpecial">(</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.878</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.843</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.971</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.880</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.171</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.844</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.973</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.162</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.959</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.843</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.977</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.842</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.970</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">0.877</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">1.161</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.960</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.842</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">0.970</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> gap2016 <span class="synStatement">&lt;-</span> exp<span class="synSpecial">(</span> apply<span class="synSpecial">(</span> log<span class="synSpecial">(</span>census2016.rev<span class="synSpecial">),</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> mean <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> names<span class="synSpecial">(</span> gap2016 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;5&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;30&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;100&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;500&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;1000&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop2016 <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.cp<span class="synSpecial">[,</span><span class="synConstant">&quot;201605.5&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">*</span> gap2016 </pre><p>これらをまとめると、ベンチマーク更新で利用してきたセンサス労働者数の行列がえられる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>worker.pop <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> worker.pop2006<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2009<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2014<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2016<span class="synSpecial">,</span> worker.pop2019 <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> census.date </pre><p>2004年1月から2021年5月までの毎月勤労統計調査における前月末・本月末労働者数と、上記の方法で推定したセンサス労働者数をまとめたデータ・フレームを下記のように求める。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>temp <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply <span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">%in%</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>i<span class="synSpecial">),</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synStatement">else</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> rep<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">NA</span><span class="synSpecial">,</span> ncol<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> r <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> worker.pop.yyyymm <span class="synStatement">&lt;-</span> t<span class="synSpecial">(</span>temp<span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop<span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> data<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm result <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> data <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> cbind<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synSpecial">,</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker<span class="synSpecial">,</span> worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> colnames<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;census&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">(</span>r<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre> </div> <div class="section"> <h4>5-29人規模事業所</h4> <p>このデータ (result) を利用して、5-29人規模事業所について、前月末・本月末労働者数の変化をプロットしたのがグラフ2である。×は、センサスによる労働者数。矢印は、ベンチマーク更新をおこなった時点を示す。</p> <div class="section"> <h5>グラフ2: 労働者数の推移 (5-29人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160441" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160441.png" alt="f:id:remcat:20210911160441p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>このグラフから、毎月勤労統計調査が月々推計する労働者数は、微細な振動をともないながら、増加を続けてきたことがわかる。センサスによる労働者数も増加はしているのだが、毎月勤労統計調査の労働者数のほうが、それを上回る速度で増加してきた。この傾向は、2013年あたりから加速している。2009年のベンチマーク更新では、労働者数をセンサスと同等の水準にいったん引き下げているが、その後すぐに増加し、2014年、2016年にはセンサスの労働者数をはるかに上回っている。2018年のベンチマーク更新では、労働者数を引き下げはしたものの、センサスの水準とは乖離したままの状態にある。</p><p>では、もし月々の労働者数推計をおこなわなかったとしたら、どうなっていただろうか。2009年1月、2012年1月、2018年1月にベンチマークの更新をおこなう (つまりセンサスの労働者数をコピーする) が、それ以外の月には前月の労働者数をコピーするという設定でデータ・フレームをつくりなおしてみる。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>noinc <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> data<span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> size <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span><span class="synConstant">&quot;size&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">$</span>census <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop.yyyymm<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">$</span>noinc <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synConstant">NA</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">[</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">200901</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;200610&quot;</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">[</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">201201</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;200907&quot;</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> d<span class="synSpecial">[</span> d<span class="synSpecial">$</span>yyyymm<span class="synStatement">==</span><span class="synConstant">201801</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> worker.pop<span class="synSpecial">[</span> <span class="synConstant">&quot;201407&quot;</span> <span class="synSpecial">,</span> as.character<span class="synSpecial">(</span>size<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> i <span class="synStatement">in</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">:</span>nrow<span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">if</span><span class="synSpecial">(</span> is.na<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">[</span> i<span class="synStatement">-</span><span class="synConstant">1</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;noinc&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">}</span> d <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> result2 <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> noinc <span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">&lt;-</span> d<span class="synSpecial">$</span>noinc d<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> c<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">&quot;yyyymm&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;worker&quot;</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">&quot;census&quot;</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>この result2 による5-29人規模事業所の労働者数推移がグラフ3である。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ3: 月々の労働者数推計がなかった場合の労働者数の推移 (5-29人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160506" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160506.png" alt="f:id:remcat:20210911160506p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>グラフ3では、労働者数のラインはほとんど平坦で、センサスの値にすこし遅れて追随するだけである。グラフ2と比較すると、2009年7月経済センサス-基礎調査以外では、グラフ3のほうがセンサスの値に近い。グラフ2で2016年や2019年の値が大きく乖離していたのに比べ、ずっと差が小さくなっている。</p><p>この結果から見る限り、5-29人規模事業所でみられた労働者数のセンサスからの乖離は、ほとんど月々の労働者数推計の結果として生じている。センサスの値が正しいものと考えるかぎり、毎月勤労統計調査の月々の労働者数推計は、<strong>やらないほうがまし</strong> だったのである。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>30-99人規模事業所</h4> <p>上記の result, result2 は5-29人規模事業所以外についての結果もふくんでいる。</p><p>30-99人規模事業所について、労働者数の推移を描いたのがグラフ4である。</p> <div class="section"> <h5>グラフ4: 労働者数の推移 (30-99人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160540" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160540.png" alt="f:id:remcat:20210911160540p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>2009年までは、センサスの値をよく追尾している。ところが2012年から労働者数が下がりはじめ、2015年まで下がりつづける。このため、2014年と2016年は、センサスよりも下方に大きくずれている。2018年のベンチマーク更新で上昇したものの、センサスの水準には達しなかった。それ以降、労働者数は減少気味であり、センサスと乖離がひろがる傾向にある。</p><p>この間、センサスによる労働者数は単調に増加している。それにもかかわらず毎月勤労統計調査の推計労働者数が大きく減少してきたのは不審である。推計の方法または実際の計算手続きになにか瑕疵があったのではないだろうか。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ5: 月々の労働者数推計がなかった場合の労働者数の推移 (30-99人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160603" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160603.png" alt="f:id:remcat:20210911160603p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>月々の労働者数推計をおこなっていなければ、30-99人規模事業所の2012年以降の労働者数は、センサスに近い値になっていたと予測できる (グラフ5)。2009年の値をのぞけば、労働者数推計を毎月おこなう現行の毎月勤労統計調査の数値 (グラフ4) のほうが、センサスからの乖離が大きい。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>100-499人規模事業所</h4> <div class="section"> <h5>グラフ6: 労働者数の推移 (100-499人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160623" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160623.png" alt="f:id:remcat:20210911160623p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>100-499人規模事業所について、労働者数の推移を描いたのがグラフ6である。この規模では、毎月勤労統計調査が推計する労働者数とセンサスの間には、食い違いはあまりない。<br /> <br /> </p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ7: 月々の労働者数推計がなかった場合の労働者数の推移 (100-499人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160637" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160637.png" alt="f:id:remcat:20210911160637p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>月々の労働者数推計をおこなわなかった場合 (グラフ7) も、センサスとの乖離はそれほど大きくはならない。ただ、いちばん新しい2019年に関しては、かなり過少となっている。現在以降の統計の精度という観点から考えるなら、労働者数推計をおこなうことのメリットはあるのかもしれない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>500-999人規模事業所</h4> <div class="section"> <h5>グラフ8: 労働者数の推移 (500-999人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160653" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160653.png" alt="f:id:remcat:20210911160653p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>500-999人規模事業所について、労働者数の推移を描いたのがグラフ8である。この規模の事業所の労働者数は、2014年以降、センサスの値を上回って増加をつづけている。とはいえ、5-29人規模事業所ほどには超過の幅は大きくない。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ9: 月々の労働者数推計がなかった場合の労働者数の推移 (500-999人規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160713" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160713.png" alt="f:id:remcat:20210911160713p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>月々の労働者数推計をおこなわない設定でグラフを描くと、センサスとの乖離はかなり小さくなる (グラフ9)。この規模の事業所に関しても、やはり毎月勤労統計調査の労働者数推計方式は問題ありそうである。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>1000人以上規模事業所</h4> <div class="section"> <h5>グラフ10: 労働者数の推移 (1000人以上規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160757" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160757.png" alt="f:id:remcat:20210911160757p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>1000人以上規模事業所について、労働者数の推移を描いたのがグラフ10である。2012年のベンチマーク更新までは労働者数の推計はやや過少であったものの、それ以降は非常にセンサスの数値に近い値となっている。</p> </div> <div class="section"> <h5>グラフ11: 月々の労働者数推計がなかった場合の労働者数の推移 (1000人以上規模事業所)</h5> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210911160815" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210911/20210911160815.png" alt="f:id:remcat:20210911160815p:image" width="800" height="236" loading="lazy" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ×: センサスによる労働者数。 矢印: ベンチマーク更新。</p> </blockquote> <p>グラフ11は、月々の労働者数推計がなかった場合の予測値である。グラフ10にくらべると、2014年、2016年の経済センサスとの乖離がすこし大きい。ただ、ずれている人数自体は大きくはなく、センサスの数値をよく近似できている。</p> </div> </div> <div class="section"> <h4>月々の労働者数推計の有無による差の評価</h4> <p>月々の労働者数推計をするかしないかによってセンサスとの乖離がどう変化するかについて、種々の観点から評価するための指標群をつくってみた。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink>worker.census.gap <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> c <span class="synStatement">&lt;-</span> subset<span class="synSpecial">(</span> d<span class="synSpecial">,</span> <span class="synStatement">!</span>is.na<span class="synSpecial">(</span>census<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> c<span class="synSpecial">$</span>gap <span class="synStatement">&lt;-</span> c<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">/</span> c<span class="synSpecial">$</span>census c <span class="synSpecial">}</span> result.gap <span class="synStatement">&lt;-</span> lapply<span class="synSpecial">(</span> result<span class="synSpecial">,</span> worker.census.gap <span class="synSpecial">)</span> result2.gap<span class="synStatement">&lt;-</span>lapply<span class="synSpecial">(</span> result2<span class="synSpecial">,</span> worker.census.gap <span class="synSpecial">)</span> gap.table <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">data.frame</span><span class="synSpecial">()</span> <span class="synStatement">for</span><span class="synSpecial">(</span> s <span class="synStatement">in</span> names<span class="synSpecial">(</span>result.gap<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> r <span class="synStatement">&lt;-</span> result.gap<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]</span> r<span class="synSpecial">$</span>is <span class="synStatement">&lt;-</span> s r<span class="synSpecial">$</span>noinc <span class="synStatement">&lt;-</span> result2.gap<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>worker r<span class="synSpecial">$</span>gap2 <span class="synStatement">&lt;-</span> result2.gap<span class="synSpecial">[[</span>s<span class="synSpecial">]]$</span>gap r<span class="synSpecial">$</span>gap.rate <span class="synStatement">&lt;-</span> r<span class="synSpecial">$</span>gap <span class="synStatement">/</span> r<span class="synSpecial">$</span>gap2 r<span class="synSpecial">$</span>diff1 <span class="synStatement">&lt;-</span> r<span class="synSpecial">$</span>worker <span class="synStatement">-</span> r<span class="synSpecial">$</span>census r<span class="synSpecial">$</span>diff2 <span class="synStatement">&lt;-</span> r<span class="synSpecial">$</span>noinc <span class="synStatement">-</span> r<span class="synSpecial">$</span>census r<span class="synSpecial">$</span>diff.diff <span class="synStatement">&lt;-</span> abs<span class="synSpecial">(</span> r<span class="synSpecial">$</span>diff1 <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">-</span> abs<span class="synSpecial">(</span> r<span class="synSpecial">$</span>diff2 <span class="synSpecial">)</span> gap.table <span class="synStatement">&lt;-</span> rbind<span class="synSpecial">(</span> gap.table<span class="synSpecial">,</span> r <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">}</span> temp <span class="synStatement">&lt;-</span> split<span class="synSpecial">(</span> gap.table<span class="synSpecial">,</span> gap.table<span class="synSpecial">$</span>is <span class="synSpecial">)</span> diff.diff <span class="synStatement">&lt;-</span> sapply<span class="synSpecial">(</span> temp<span class="synSpecial">,</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span>d<span class="synSpecial">){</span> d<span class="synSpecial">[,</span> <span class="synConstant">&quot;diff.diff&quot;</span><span class="synSpecial">]</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synSpecial">)</span> rownames<span class="synSpecial">(</span>diff.diff<span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">&lt;-</span> result.gap<span class="synSpecial">[[</span><span class="synConstant">&quot;size5&quot;</span><span class="synSpecial">]]$</span>yyyymm diff.diff <span class="synStatement">&lt;-</span> diff.diff<span class="synSpecial">[</span> <span class="synSpecial">,</span> names<span class="synSpecial">(</span>result.gap<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">]</span> round<span class="synSpecial">(</span> addmargins<span class="synSpecial">(</span>diff.diff<span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>最後の diff.diff は、労働者数推計のある場合とない場合のそれぞれについて、センサスとの差の絶対値を計算し、それらの間の差を求めたものである (ある場合-ない場合)。プラスであれば労働者数推計をおこなった場合のほうがセンサスとの乖離が大きいことを、マイナスであれば推計なしのほうが乖離が大きいことを示す。</p> <pre class="code" data-lang="" data-unlink> size5 size30 size100 size500 size1000 Sum 200610 564060 269806 -120448 -76326 -110955 526137 200907 -349875 -351200 -31801 -138973 -144307 -1016156 201407 1356036 1052634 185065 186584 -262137 2518181 201605.5 1876877 1241634 186546 353732 -131867 3526921 201905.5 1540929 304142 -423747 449486 139302 2010112 Sum 4988028 2517015 -204385 774503 -509965 7565196</pre><p>この値は、2009年経済センサス-基礎調査のみ、すべての事業所規模でマイナスである。この時点では、労働者数推計によってセンサスの値に近づける効果のあったことがわかる。2006年10月から2009年7月の間、センサスによる労働者数は、どの事業所規模区分でも増加していた。この時期の毎月勤労統計調査は、この母集団労働者数の増加を適切に推計していたといえる。もっとも、2009年1月にベンチマーク更新をおこなった半年後であったこともあり、乖離の縮小幅は最大でも35万人程度で、それほど大きくない。</p><p>それ以外の年に関しては、5-29人規模と30-99人規模の事業所で、大きなプラスの値が出ている。特に2014年と2016年には100万人を超える。これらの比較的小規模な事業所では、労働者数推計をおこなうことでかえって乖離が大きくなっているのである。</p><p>1000人以上規模事業所では、2019年以外は値がすべてマイナスになっており、労働者数推計が有効にはたらいている。最新の2019年のみプラスであるが、14万人程度なので、大きく外れているわけではない。</p><p>100-500人規模と500-999人規模の事業所も、それほど状況は悪くない。ただし、500-999人規模では徐々に数値が大きくなってきているのが気になるところではある。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">議論</h3> <p>毎月勤労統計調査の月々の労働者数推計は、センサスの数値から外れている。ワーキンググループで検討の対象となった2016年経済センサス-活動調査と事業所母集団データベース2019年次フレームのどちらも、毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数との間に大きなギャップがある。どちらの値を採用するにせよ、次回のベンチマーク更新時には、労働者数に突然の変動が生じることになる。</p><p>また、この労働者数のずれは、ベンチマーク更新の基準となるセンサスのデータ収集時点 (2016年6月または2019年6月) からベンチマーク更新 (2022年1月?) までの間に拡大しているだろう。この点も問題である。このベンチマーク更新時点の値を起点として過去に向かって「指数」を修正する、現在提案されているギャップ修正のやりかた (<a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000823050.pdf">&#x30EF;&#x30FC;&#x30AD;&#x30F3;&#x30B0;&#x30B0;&#x30EB;&#x30FC;&#x30D7;&#x8CC7;&#x6599;1</a> の15ページ) では、修正後の値もこのバイアスをふくんでしまうことになる。</p><p>上記の分析で示したように、センサスの値が真の母集団労働者数だと考えるのであれば、まずは毎月勤労統計調査の月々の労働者数推計を停止すべきである。次回センサスの数値が判明するまでずっとおなじ労働者数を使いつづける――つぎのセンサスの結果が手に入ったところで、それにあわせて修正する――という単純な手法をとったほうが、数値のずれはすくない。過去の指数を書き換えるのであれば、各センサスの労働者数をその時点の労働者数として採用し、その間を何らかの仮定 (たとえば毎月一定の率で変化する、など) をおいた推測値で補完するのがよいだろう。最後のセンサスから現在までの労働者数についても、過去のトレンドを現在まで延長した数値を暫定的に使用する――将来、センサスの値が入手できたところで、さかのぼって指数を修正して確定させる――というやりかたがある。</p><p>もし、月々の労働者数推計を維持することに妥当性があるとしたら、それは、センサスの数値よりも毎月勤労統計調査の推計のほうが真の値に近い場合だ。しかしその場合、センサスの数値のほうが間違っているということなのだから、センサスを基にベンチマーク更新をおこなう理由自体がないことになる。実際、経済センサス等で把握できる事業所が偏っているという指摘はある (たとえば西村淸彦+山澤成康+肥後雅博 (2020)『統計 危機と改革: システム劣化からの復活』日本経済新聞出版 (<a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532135087/hatena-blog-22/">[ISBN:9784532135089]</a> 125-131ページ) や朝日新聞の2020年11月28日の記事 <a href="https://www.asahi.com/articles/DA3S14711643.html">https://www.asahi.com/articles/DA3S14711643.html</a> を参照)。センサスがおかしくて毎月勤労統計調査のほうが正しいということはありうる。</p><p>このような判断をくだすには、もっとくわしい情報が必要となる。上記の分析でも、センサスとの乖離の方向と度合いは、事業所規模と時期によってちがっていることがわかる。5-29人規模事業所では、2004年以降ずっと、センサス結果を上回る増加がつづき、このために大きなギャップが継続して生じている。一方で、30-99人規模事業所では、推計される労働者数が減少したために、増加気味であったセンサス結果との間に乖離があるが、この傾向は2012-2015年の間に集中している。100-499人規模事業所や1000人以上規模の事業所では、毎月勤労統計調査の月々の労働者数推計はセンサスの数値とほとんどずれておらず、ずっと高い精度で追尾できている。このようなちがいが出てくる原因を突き止められれば、毎月勤労統計調査とセンサスのどこにまずい点があり、どのように修正するべきであるかについて、有用な知見がえられるだろう。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="appendix">使用したプログラムとデータ</h3> <dl> <dt>毎勤原表から情報を抽出するPerlプログラム</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.pl.txt</a></dd> <dt>分析用Rプログラム</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.r.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.r.txt</a></dd> <dt>毎勤原表2004年1月-2021年5月のデータ</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin-monthly.dat.txt</a></dd> <dt>毎勤原表2018年1月「旧サンプル」のデータ</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/maikin201801kyu.dat.txt">http://tsigeto.info/maikin/maikin201801kyu.dat.txt</a></dd> <dt>その他の情報</dt> <dd><a href="http://tsigeto.info/maikin/">http://tsigeto.info/maikin/</a></dd> </dl><p>これらのプログラムとデータを使用するときは、ファイル名末尾の「.txt」を削るか、プログラム中のファイル名指定部分に「.txt」を加える。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="next">つづき:</h3> <p>母集団労働者数推計の謎:毎月勤労統計調査とセンサスはなぜ乖離しているのか<br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210920/workerpop</a> (9月20日)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-09-11</dt> <dd>公開</dd> <dt>2021-09-22</dt> <dd>「<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210911/gap#benchmark">&#x300C;&#x30D9;&#x30F3;&#x30C1;&#x30DE;&#x30FC;&#x30AF;&#x300D;&#x306E;3&#x3064;&#x306E;&#x610F;&#x5473;</a>」に『毎月勤労統計要覧』2020年版 (令和2年版) についての記述を追記。</dd> <dt>2021-12-28</dt> <dd>「つづき」を追記</dd> </dl><p><hr></p> </div> <div class="section"> <h3 id="note">注</h3> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-9db96bf3" name="f-9db96bf3" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text">この記述は、統計委員会からの要望に対する厚生労働省の回答 (2019年4月18日 <a href="https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf">https://www.soumu.go.jp/main_content/000615414.pdf</a>) の3ページによる。ただし、毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループの第1回会議の資料1 <a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802074.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000802074.pdf</a> の7ページや16ページにはまたちがう説明が書いてあるので、真相はよくわからないところである。</span></p> </div> remcat 「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」出版のお知らせ hatenablog://entry/26006613724261092 2021-05-04T17:45:22+09:00 2021-05-04T20:37:10+09:00 『東北大学文学研究科研究年報』70号に論文「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」を掲載した。もう2か月近く前の話になってしまったのだが、現物を受け取って写真を撮ったので、ご報告。田中 重人 (2021)「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」『東北大学文学研究科研究年報』70: 140-116. http://tsigeto.info/21a 論文本文は、3月15日に http://hdl.handle.net/10097/00130599 で公開されている。文中で参照した資料については http://t… <p>『東北大学文学研究科研究年報』70号に論文「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」を掲載した。もう2か月近く前の話になってしまったのだが、現物を受け取って写真を撮ったので、ご報告。</p><p>田中 重人 (2021)「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」『東北大学文学研究科研究年報』70: 140-116. <a href="http://tsigeto.info/21a">http://tsigeto.info/21a</a></p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210409171600" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210409/20210409171600.jpg" alt="f:id:remcat:20210409171600j:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> </blockquote> <p>論文本文は、3月15日に <a href="http://hdl.handle.net/10097/00130599">http://hdl.handle.net/10097/00130599</a> で公開されている。文中で参照した資料については <a href="http://tsigeto.info/21a#gov">http://tsigeto.info/21a#gov</a> からリンクをたどれるようにしてある。</p><p>この論文は「3つの密」「3密」という概念 (の元になった発想) の出現から昨年4月までの経過を追ったもの。昨年10月には原稿を公開しており、そのあと若干修正している。執筆過程と過去バージョンについてはつぎのところ参照:</p> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200921/3m">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200921/3m</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201007/25ba6">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201007/25ba6</a></li> <li><a href="https://osf.io/25ba6/">https://osf.io/25ba6/</a></li> </ul><p>私はここ数年、公開情報を追跡することで時事問題の記録を書きのこす作業をつづけてきた。一昨年は <a href="http://tsigeto.info/19a">&#x52B4;&#x50CD;&#x6642;&#x9593;&#x7B49;&#x7DCF;&#x5408;&#x5B9F;&#x614B;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a>、昨年は <a href="http://tsigeto.info/20a">&#x6BCE;&#x6708;&#x52E4;&#x52B4;&#x7D71;&#x8A08;&#x8ABF;&#x67FB;&#x306B;&#x3064;&#x3044;&#x3066;</a> 論文を書いた。今回の論文もそれと同様の手法によるもので、いってみればシリーズ第3作にあたる。「論文」というにはかなり特殊な形態で、学術文献をほとんど参照せず、日本政府のウエブサイト掲載資料などの一般向け情報に依拠している。誰でもアクセスできる公表資料だけでも、大量に集めて丹念に読めば、問題の核心に迫る発見に到達できるのだが、そうした作業を誰もやってくれない。仕方がないので、自分で細々とやっているのである。</p> <div class="section"> <h3 id="recall">「3密」定義とその変遷をもう一度読む</h3> <p>今になってこの論文の紹介を書こうと思ったのには、写真を撮ったから、という以外にもうひとつ理由がある。この4月30日にNHKで流れた「「3密」でなくても集団感染のおそれ」というニュースである。</p> <blockquote cite="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210430/k10013006461000.html"> <p>感染は当初から「3密」の3つの条件がそろわなくても起きるとされていましたが、このところ「密閉」や「密集」といった条件がなくても集団感染したケースが相次いで報告されています。<br /> ―――――<br /> NHK NEWS WEB 「「3密」でなくても集団感染のおそれ」 2021年4月30日 18時43分 </p> <cite><a href="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210430/k10013006461000.html">https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210430/k10013006461000.html</a></cite> </blockquote> <p>今頃になってこんな報道が、何か新しい情報であるかのように流れるというのは、おかしなことだ。「密閉」や「密集」でない状況で集団感染が発生することは昨年3月後半には政府の諮問委員会で報告されていて、それは日本のCOVID-19対策を大きく転換させる重要な議論だったからである。</p><p>そのような議論の結果として2020年4月7日の基本的対処方針で「三つの密」の定義が変更されており、当時の専門家会議も、それにしたがって「3つの密」の定義を昨年4月22日に書き換えていた。専門家会議が当初掲げていた「3つの条件が同時に重なった場」だけを避ければよいという方針はこの時点 (つまり今から1年以上前) において破棄されており、これ以降、「3密回避」といえば、「密閉」「密接」「密集」の <strong>どれかひとつでも存在する状況を回避する</strong>、という意味になったはずなのである。</p><p>本来であれば、この変更は、きわめて大きな意味を持つはずのものであった。それまで、政府と専門家は、3条件が重なった特殊な状況だけを避けるように要請していた――言い換えれば、3条件が重ならなければ従前の生活をそのままつづけてよいといっていた――のだから、180度の大転換である。</p> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00130599"> <p> 3条件の重なった場を避けるよう要請するということは、裏を返せば、それ以外の場は避ける必要はないということになる。実際、「3つの密」をまず使ったのは、「密を避けて外出しましょう!」キャンペーンだった。感染を過度に恐れて活動を制限するのではなく、ほとんどの活動は従来どおりでいい。たとえば友人を集めてのパーティーも、少人数でやるか、換気を徹底するか、屋外開催ならOK。問題がある活動も、工夫してどれかの条件をクリアすれば実施できる。そういうメッセージを「3密」は創り出した。これは、専門家が当時喧伝していたCOVID-19対策の「日本モデル」――クラスター対策と市民の行動変容に力点を置き、社会・経済機能への影響を最小限としながら感染の拡大を防止する――の趣旨にも合致していた</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p> 専門家たちが感染拡大防止のために「3密」回避を勧めた理屈は、3条件がそろわなければクラスターはめったに発生せず、クラスターが発生しなければ感染は拡大しない、という2重の仮説 (押谷 2020: 35) に基づく〔……〕3条件が重ならない活動はクラスターをほとんど発生させず、感染拡大に寄与しない――だからそのような活動を回避する必要はない――というところが「3密」仮説の肝だった。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2021)「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」『東北大学文学研究科研究年報』70: 140-116. <a href="http://tsigeto.info/21a">http://tsigeto.info/21a</a> pp. 122-121<br /> 〔押谷 (2020) は <a href="https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf">https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf</a>〕</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00130599">http://hdl.handle.net/10097/00130599</a></cite> </blockquote> <p>「密を避けて外出しましょう!」というのは、2020年3月19日に公開された、日本政府製のキャッチコピーである。</p> <blockquote cite="https://warp.da.ndl.go.jp/info"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20200920082525" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20200920/20200920082525.png" alt="f:id:remcat:20200920082525p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p> <cite><a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11473041/www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf">https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11473041/www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00130599"> <p>上部に「密を避けて外出しましょう!」と大書し、その下に「①換気の悪い密閉空間」「②多数が集まる密集場所」「③間近で会話や発声をする密接場面」の3つをならべている。さらにその下には「新型コロナウイルスへの対策として、クラスター (集団) の発生を防止することが重要です」「イベントや集会で3つの「密」が重ならないよう工夫しましょう」とあり、ベン図を示して「3つの条件がそろう場所がクラスター (集団) 発生のリスクが高い!」と主張している。3月23日の首相官邸メールマガジンにもこのチラシが載っている (首相官邸3月23日ML)。厚生労働省からは、同様の内容の動画も配信された (厚生労働省3月19日動画)。</p><p> チラシが伝えるメッセージの主成分は、「外出しましょう!」である。3条件が重なる所に行くなということも言ってはいるが、全体として外出を奨励するものになっている。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2021)「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」『東北大学文学研究科研究年報』70: 140-116. <a href="http://tsigeto.info/21a">http://tsigeto.info/21a</a> pp. 133-132<br /> 〔首相官邸3月23日ML は <a href="https://www.kantei.go.jp/jp/mail/back_number/archive/2020/back_number20200323.html">https://www.kantei.go.jp/jp/mail/back_number/archive/2020/back_number20200323.html</a>〕<br /> 〔厚生労働省3月19日動画 は <a href="https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg20434.html">https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg20434.html</a>〕</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00130599">http://hdl.handle.net/10097/00130599</a></cite> </blockquote> <p>堀口逸子も、このチラシについて、当時つぎのように批判していた。</p> <blockquote cite="https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/risk-communication-horiguchi"> <p>例えば「3つの密を避けて外出しましょう」というポスターが作られていますね。</p><p>〔……〕</p><p>これを見て、みんな外に行きますよね。「~しましょう」という単語は、推奨する時に使うのです。「手を洗いましょう」とかですね。そしてここには「外出しましょう」と書かれています。<br /> ―――――<br /> 岩永 直子 (2020-03-26) 「「同時に引き締めと励ましのメッセージを」 リスク・コミュニケーションの専門家が評価する日本の新型コロナ対応」(堀口逸子インタビュー) BuzzFeed News</p> <cite><a href="https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/risk-communication-horiguchi">https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/risk-communication-horiguchi</a></cite> </blockquote> <p>このチラシは3月末には削除され、「3つの密を避けましょう!」という穏当なコピーに置き換わった。しかし、3月中旬の時点では、政府は外出を奨励していたのである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="dogma">「3密」と「クラスター対策」のドグマ</h3> <p>さて、上の引用でもふれたように、「3条件が重なったところを避ければよい」という発想は、「COVID-19は大量感染を通じて広がるので、小規模な感染は放置してよい」というドグマに基づいている。専門家がプロパガンダに使用していた当時のグラフをみる限り、大量感染というのは、おおむね8人以上が1か所で一度に感染する、ということを指していたようである。</p> <blockquote cite="https://twitter.com/ClusterJapan/status/1246269915314577408"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20200407223844" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20200407/20200407223844.jpg" alt="f:id:remcat:20200407223844j:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 新型コロナクラスター対策専門家 @ClusterJapan 2020-04-04 11:54 のツイート添付画像</p> <cite><a href="https://twitter.com/ClusterJapan/status/1246269915314577408">https://twitter.com/ClusterJapan/status/1246269915314577408</a></cite> </blockquote> <p>このグラフについては <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200408/making">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200408/making</a> でとりあげたので、そちらも参照していただきたい。現実のデータではなく、専門家が彼らの主張を正当化するために創り上げた虚構である。感染者の大部分は人にうつさないか、うつしても1-5人程度だという設定になっている。一方で、8人以上への感染が少数あることになっており、そこに「3密での伝播」という説明がある。グラフをもとに計算してみると、生じている2次感染206のうちの142 (つまり約3分の2) は「3密での伝播」である。このような理屈に基づいて、「3密」の環境で起きる大量感染さえ防げば流行は終息する、と専門家たちは当時主張していた (くわしくは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200621/sekai">&#x7530;&#x4E2D; &#x91CD;&#x4EBA; (2020)&#x300C;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x300C;&#x65E5;&#x672C;&#x30E2;&#x30C7;&#x30EB;&#x300D;&#x3092;&#x691C;&#x8A3C;&#x3059;&#x308B;: &#x305D;&#x306E;&#x96A0;&#x3055;&#x308C;&#x305F;&#x6063;&#x610F;&#x6027;&#x300D;&#x300E;&#x4E16;&#x754C;&#x300F;934: 97-104</a> を参照)。</p><p>4月初頭までの専門家会議の状況分析と提言は、全面的にこのドグマに基づいている。「3つの密」という概念は、当初、この路線に沿って定義されていた。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf"> <p>「3つの条件が同時に重なる場」: これまで集団感染が確認された場に共通する「①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件が同時に重なった場のこと。以下「3つの密」という。<br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 8 脚注2</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf</a></cite> </blockquote> <p>ちなみにこの4月1日「状況分析・提言」では、3条件がそろわなくても感染の危険があること自体は認めている。しかし、それは「3密」ではないし、避ける必要もなく、手洗いや咳エチケットに留意すればじゅうぶんだというあつかいである。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf"> <ul> <li>ジム、卓球など呼気が激しくなる室内運動の場面で集団感染が生じていることを踏まえた対応をしていただくこと。</li> <li>こうした場所では接触感染等のリスクも高いため、「密」の状況が一つでもある場合には普段以上に手洗いや咳エチケットをはじめとした基本的な感染症対策の徹底にも留意すること。</li> </ul><p>―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 9</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf</a></cite> </blockquote> <p>専門家会議がこうした姿勢をとった理由は、おなじページの別の個所で示されている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf"> <p>2.行動変容の必要性について<br /> (1)「3つの密」を避けるための取組の徹底について<br /> 〇 日本では、<strong>社会・経済機能への影響を最小限としながら</strong>、感染拡大防止の効果を最大限にするため、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「③市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。<br /> 〔……〕<br /> なかでも、「③市民の行動変容」をより一層強めていただく必要があると考えている。<br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 9<br /> 〔強調は引用時に付け加えたもの〕</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf</a></cite> </blockquote> <p>「社会・経済機能への影響を最小限」にしたいのだから、感染のリスクがある場所を何が何でも避ける、という行動変容では困るわけである。つまるところ、</p> <ul> <li>市民は感染リスクを容認して、社会・経済機能を維持するために従来通りの活動をつづけるべきである</li> <li>ただし大量感染だけは避けること</li> </ul><p>というのが、専門家会議が実現しようとした「市民の行動変容」の具体的内容である。そのために市民に示した指針が、「3条件が同時に重なる場所の回避」だった。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="change">定義変更と関連する議論</h3> <p>このような専門家会議の戦略は、2020年4月7日の緊急事態宣言およびそれにともなう「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」改訂によって、あっけなく終了した。この「基本的対処方針」改訂を議論した基本的対処方針等諮問委員会の4月7日会議での西村康稔大臣 (政府対策本部副本部長) の締めくくりの発言が象徴的である。</p> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf"> <p>国民の皆さんには、まさにもう3密が重なっているところではなくて、3密それぞれを避けるということをお願いしたいです。実はいろいろな人から、テレビでもやっていますが、ある商店街に人が多かったり、あるいは公園に若者も集まったり、確かにオープンな空間ですから、重なっていないということなのでしょうけれども、しかし、すごく近い距離で飲食を共にし、また会話をしておりますので、そういう意味では、もう3密それぞれを避けて頂きたい。<br /> ―――――<br /> 基本的対処方針等諮問委員会 2020年4月7日議事録。p. 18</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf</a></cite> </blockquote> <p>最終的に改訂された <a href="https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11519832/www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h(4.7).pdf">&#x300C;&#x57FA;&#x672C;&#x7684;&#x5BFE;&#x51E6;&#x65B9;&#x91DD;&#x300D;(2020&#x5E74;4&#x6708;7&#x65E5;)</a> の文面は、3条件が重なった場所だけに警戒対象をしぼっていた <a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2.pdf">&#x8AEE;&#x554F;&#x59D4;&#x54E1;&#x4F1A;&#x539F;&#x6848;</a> から、最小限の手直しで、ひとつでも条件がある場所は避けることを要請している内容として読めるように書き直されており、非常にわかりにくい。ともかくも矛盾なく読める修正文を短時間のうちに完成させた関係者の努力には、個人的には敬意を表したいのだが……それにしてもわかりにくい。単に「三つの密」といえば3条件自体を示すのに対し、「「三つの密」のある場」といえば3条件が同時に重なった場を示す、という使いわけになっているらしく、そのことに気付かないと、なかなか文意が読みとれない。また、飲食店・医療機関・高齢者施設についてだけは従来どおり3条件が重なるところを避けることのみ要求する二重基準になっている。論文 <a href="http://hdl.handle.net/10097/00130599">http://hdl.handle.net/10097/00130599</a> の3.6.3節と「基本的対処方針」を対照して、各自確認されたい。</p><p>この方針転換は、直接的には、緊急事態宣言を出すほどに感染状況が悪化していた、ということによるのだろう。つまり、「社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にする」などと余裕こいてられる状況ではなくなったため、社会・経済機能への致命的なダメージを覚悟して、人々に閉じ篭ってもらうことを選択したのだ、ということである。実際、接触機会を7割以上減らすことを目標にしていたぐらいであるから、もはや3密であるかどうかは関係ないわけで、とにかく他人と接触するなと要請していた。</p><p>しかし、諮問委員会の議事録をみていくと、それだけが方針転換の理由ではなかったことがわかる。大量感染は3条件がそろった環境で起きるという前提そのものにも、疑問が呈されていたのである。</p> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1_2.pdf"> <p>3密だけではなくて、声出すようなことが危ないということが分かってきて、歌を歌うのはかなり危ないです。カラオケだけではなくて合唱団というのも出てきて、声を出すことはかなり共通項として出てきています。ライブハウスも声を出すということがかなり大きな要素なのだろうと思います。コールセンターがありましたけれども、コールセンターの人たちは朝、みんなで集まって発声練習をするらしいです。<br /> ―――――<br /> 基本的対処方針等諮問委員会 2020年3月27日議事録 p. 24 押谷仁の発言</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1_2.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1_2.pdf</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf"> <p>3密でなくても〔クラスターが〕起こり得る場合があります。例えば〔「基本的対処方針」原案の〕12ページに繁華街の接客を伴う飲食店のところがあるのですけれども、これは必ずしも3密が全部そろっていない環境だと思います。人がたくさんいない、けれども1人の人が不特定多数の人とこういう接触をするという形なのです。歌を歌うとかも、必ずしも3密がそろっていない環境でも起きています。無観客のライブハウスでも起きている<br /> ―――――<br /> 基本的対処方針等諮問委員会 2020年4月7日議事録 p. 12 押谷仁の発言<br /> 〔 〕 内は引用時に付け加えた注釈</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf</a></cite> </blockquote> <p>先にあげた西村大臣の「3密が重なっているところではなくて、3密それぞれを避けるということをお願いしたい」という発言は、専門家からのこのような意見を受けておこなわれた。緊急事態だから経済よりも感染防止を優先したいという意図もあったのだろうが、それだけではなく、3条件が重なったところだけ避ければいいので経済を回しながら感染拡大を防止する、というこれまでの目論見自体を放棄する意味もふくんでいたものと考えることができる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="revisionism">修正される歴史</h3> <p>ところが、このような諮問委員会での議論は、基本的対処方針を最終的に決定する新型コロナウイルス感染症対策本部には伝わらなかったようだ。4月7日の諮問委員会のあとにおこなわれた第27回会議の議事概要では、つぎのようになっている。</p> <blockquote cite="https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/gaiyou_r020407.pdf"> <p><strong>【尾身会長】</strong><br /> 本日の諮問委員会では、緊急事態宣言の公示案と基本的対処方針の変更案について<br /> 諮問を受け議論いたしました。〔……〕</p><p>〔……〕</p><p>まず、諮問委員会の基本的な認識について述べます。<strong>これまで実施してきた対策は間違っていません</strong>。しかし、「国民の行動変容」、「医療体制の整備」、「保健所の支援」などが徹底されていないことが、解決すべき課題だと考えられます。国が明確なメッセージを出すことにより、国民・企業が一丸となって、「接触機会の低減」に徹底的に取り組めば、事態を収束することは可能です。<br />  具体的には、国民の皆様には、「3つの密」や「夜の繁華街」を徹底的に避けて頂き、「外出自粛」を徹底して頂く、また、企業の皆様には、「BCP の一層の取組」や「テレワーク等」の積極的な活用を進めて頂く、こうした取組を国民が一丸となって行えば、全体として7割から8割程度の接触機会を低減することが可能ではないか<br /> と考えています。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p><strong>【内閣総理大臣】</strong><br /> 〔……〕<br /> 密閉、密集、密接の3つの密を防ぐことなどによって、感染拡大を防止していく、という対応に <strong>変わりはありません。</strong><br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策本部 第27回 (2020年4月7日) 議事概要<br /> 〔強調は、【】の発言者名部分をのぞき、引用時に付け加えたもの〕</p> <cite><a href="https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/gaiyou_r020407.pdf">https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/gaiyou_r020407.pdf</a></cite> </blockquote> <p>諮問委員会での議論を伝えるはずの尾身茂・諮問委員会会長が「これまで実施してきた対策は間違っていません」と言ってしまっている。そして、総理大臣 (=対策本部長) も「対応に変わりはありません」という認識である。現実には、「3つの密」の定義を変えて従来とはちがう対応をとるよう指示するのが、ここで了承した基本的対処方針改訂の内容だったはず。しかし、議事の表面上は、従来とおなじ対応をつづけることになっているのだ。</p><p>そして、この「密閉、密集、密接の3つの密を防ぐことなどによって、感染拡大を防止していく、という対応に変わりはありません」という文言が、そのまま総理大臣から国民向けのメッセージとして出てしまう。せっかく諮問委員会でこれまでの対応のまずかった点を議論して方針転換したというのに、その議論はなかったことにされてしまった。</p><p>この尻馬に乗って、専門家会議も歴史を書き換えた。4月22日の「状況分析・提言」では「3つの密」の定義は次のようになっている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf"> <p>「3つの密」:これまで集団感染が確認された場に共通する「①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件。これらを回避することで、感染のリスクを下げられると考えられる。<br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月22日) p. 2-3 脚注2</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00130599"> <p>専門家会議4月22日「状況分析・提言」も、「3つの密」定義変更を踏襲している。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>ここでは「3つの密」は「3つの条件」そのものを指す用語となっており、それらが「重なった場」のことではない。<br />  13ページをみると、「3つの密」の徹底的な回避の例として「人混みや近距離での会話、多数の者が集まる室内で大声を出すことや歌を避ける等」があがっている。近距離での会話はそれだけで「3つの密」に該当し、徹底的に回避しなければならない事柄になったのである。<br />  ところがこの文書には、このように警戒対象を変えたことに注意をうながす記述はない。それどころか、「これまでの対策では、「3つの密」を徹底して避けることを周知してきた」(2頁) とも書いてある。これは事実に反する。4月1日まで使っていた「3つの密」は、今回の「状況分析・提言」での定義とはちがうからだ。これまでの対策で避けるように周知してきたのは「3つの条件が同時に重なった場」だったはずである。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2021)「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」『東北大学文学研究科研究年報』70: 140-116. <a href="http://tsigeto.info/21a">http://tsigeto.info/21a</a> pp. 124-123</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00130599">http://hdl.handle.net/10097/00130599</a></cite> </blockquote> <p>定義変更後の意味で「3つの密」を徹底して避けるというのであれば、</p> <ul> <li>屋外で少人数が会話するのもダメ</li> <li>公共交通機関が無言の乗客で混雑するのもダメ</li> <li>換気の悪い工場などで少人数が黙々と作業するのもダメ</li> </ul><p>ということになるはず。しかし、専門家会議は、こうした状況を避けろなどとはいってこなかった。せいぜい「「密」の状況が一つでもある場合には普段以上に手洗いや咳エチケットをはじめとした基本的な感染症対策の徹底」を要求していた程度であり、むしろそうした場所自体を避ける必要はない (のでリスクを容認して経済を回せ)、というメッセージを発してきた。4月22日「状況分析・提言」はそのような事実を無視し、はじめから3条件がひとつでもあれば徹底して避けるように呼び掛けてきたかのように書いている。</p><p>これ以降、専門家はしばしばメディアに登場し、過去を書き換えて自分たちの言動の正当化を図るようになった。具体的な事例は、 <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200719/import">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200719/import</a> や <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun</a> を参照されたい。</p><p>以上みてきたように、3条件の重なったところだけ避ければ大量感染は起きないので、社会経済機能を維持しつつ感染拡大を防止できる、という理屈は、4月上旬には否定されていたと考えてよい。さらに、7月になると、この発想の大元であった、COVID-19は大量感染で広がるという仮説自体が放棄される。ここは論文の対象外ということになるので、詳細は</p> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#change">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#change</a></li> </ul><p>を読んでいただきたい。7月末以降、専門家たちは、小規模な感染の連鎖を止めなければ感染は終息しない、と認識をあらためた。それ自体はよかったのだが、しかしそこでも、従来の方針から転換したことを広報することはなかった。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210108/govcluster">2&#x4EBA;&#x7A0B;&#x5EA6;&#x3057;&#x304B;&#x611F;&#x67D3;&#x8005;&#x306E;&#x3044;&#x306A;&#x3044;&#x5C0F;&#x898F;&#x6A21;&#x306A;&#x611F;&#x67D3;&#x3082;&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x300D;&#x3068;&#x547C;&#x3076;&#x3088;&#x3046;&#x306B;&#x79D8;&#x5BC6;&#x88E1;&#x306B;&#x5B9A;&#x7FA9;&#x3092;&#x5909;&#x66F4;</a> することで、従来と同様の「クラスター対策」をつづけているかのように糊塗している。</p><p>なぜ専門家は、歴史を修正してまで、「3密」として3条件がそろったところだけを避ける、あるいは「クラスター対策」として大量感染だけに対応する、という発想にこだわりつづけたのだろうか? それは、小規模な感染を放置して経済を優先するという日本政府の基本政策を正当化するのに、好都合だったからだろう。実際、このあと8月には、政府分科会の会長を務める尾身茂が、旅行を奨励する Go To トラベル政策に関して、つぎのようなことをいいはじめる。</p> <blockquote cite="https://bunshun.jp/articles/-/39538?page=2"> <p>伝播が起きるのは、夜の街やライブハウス、小劇場など、基本的には密集、密接、密閉の〈3密〉プラス〈大声〉の状況下に集中していて、新幹線や飛行機の中で感染したという例は、今のところ1件も報告がありません。</p><p> つまり、旅行先で〈3密+大声〉の場に足を運ばない限り、旅行そのものが感染を広げることはない、と考えています。<br /> ―――――<br /> 広野 真嗣 「「帰省は慎重に判断を」コロナ分科会・尾身茂会長が独自取材で吐露した“迷いと苦心”: “政府の追認機関”との批判もあるが…」文春オンライン 2020-08-07</p> <cite><a href="https://bunshun.jp/articles/-/39538?page=2">https://bunshun.jp/articles/-/39538?page=2</a></cite> </blockquote> <p>現実には飛行機の中で感染した報告があったからこの説明は虚偽である、ということは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun</a> で指摘したので、ここでは繰り返さない。それ以上に問題なのは、ここで「3密」と尾身がいっているのは、2020年4月6日以前の定義――つまり「密集」「密接」「密閉」の3条件が同時に重なった場――としてしか解釈しようがないということだ。もし4月7日の定義変更にしたがって、3条件のうちひとつでも存在すれば「3密」と呼ぶならば、</p> <ul> <li>人混みは3密</li> <li>隣りの人と会話すれば3密</li> <li>換気が悪ければ3密</li> </ul><p>ということになる。過疎地を閑散期に自家用車で黙々とめぐる一人旅といったものであれば、このような場所をすべて避けることは可能であろうが、Go To トラベルの補助対象になるのはそのような特殊な旅行ばかりではない。むしろ、実際に補助を受ける旅行者の大部分は、混雑した交通機関で移動し、人混みのなかを歩き、食事しながら同席者と語り合い、換気の悪い施設にも出入りし、ショーをみて歓声を上げるだろう。ふつうの想像力をもって解釈するかぎり、尾身のいう「3密」は、4月7日定義によるものとは考えられない。</p><p>この発言に対してそれほど批判が出なかったのは、3条件が重なる場所さえ避ければ感染拡大のリスクを抑えられる、という昨年3月のプロパガンダで形成された信念が、その後修正されないまま、人々の間に広く残存していたためであろう。あれだけ喧伝された「3密」の定義を多くの人が覚えており、その一方で、その定義やそれを支える理論がその後放棄されたことはほとんど知られていない。この信念にしたがって、「3密」の状況はめったに起きない、それさえ避ければ旅行はOKなんだな、と素直に受け取った人が多かったのではないか。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="share">資料と記憶の共有</h3> <p>さて、<a href="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210430/k10013006461000.html">4&#x6708;30&#x65E5;&#x306E;NHK&#x30CB;&#x30E5;&#x30FC;&#x30B9;</a> の話に戻ろう。このニュースがあらわしているのは、昨年以来おこなわれてきた専門家による議論や政府による政策の記憶が、まったく共有されていないということである。</p><p>そうなってしまった第一の原因は、上記のように、専門家と政府が、方針を変更したときにきちんとした説明をおこなわず、あたかも方針変更していないかのような説明を繰り返してきたことにある。大日本帝国には「転進」という語彙があったが、現在の日本にはそれすら存在しないので、最初から一貫した方針にしたがってCOVID-19対応にあたってきたかのような広報がずっと流れることになる。私たちは知らず知らずのうちにそれに馴らされてしまっている。</p><p>とはいえ、情報統制がおこなわれているわけでもないので、方針を変更したこと自体は記録に残り、きちんと公開されている。これらの記録を丹念に読めば、いつどのように議論が変遷してきたかをたどることができる。多くの会議は議事録がないし、会議資料にはデータ収集や分析の方法が不明のグラフが突然載っているなどの限界はあるが、その限界の範囲内では、かなりのことがわかる。</p><p>本来であれば、こういうことをまとめるのは、ジャーナリストの仕事であっただろう。実際、論文中でも引用したように、「3密」の定義変更については『読売新聞』がいちおう追って記事にしていた。そうした追跡を報道各社が継続しておこない、蓄積した知識に基づいて新しい情報を解釈して記事にしてきていれば、状況はちがっていたはずだ。しかし実際にはそうはなっていない。これは昨年来のCOVID-19問題に限った話ではなく、近年の日本ではずっとそうであった。世間の耳目を集め、連日報道されている事柄であってもそうなのである。</p> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00125161"> <p>政策形成上重要な役割を果たした調査について、まとまった正確な情報を政府が残していないのは困ったことだ。これでは、プロセスを再現して妥当性を検証することができない。標本設計、調査票、調査員への指示、クリーニングの手続き、分析方法など、調査主体が情報を公開しなければ、問題を見つけ出して追及するのはむずかしいのである。<br />  そのような状況でも、公刊文献を中心とした資料の探索は、断片的な情報を再構成する方法として有効である。労働時間 (等) 総合実態調査の場合、調査票の作成、標本設計、調査実施、分析、報告という一連の過程の各所に問題がある。本稿でみてきたように、2013年調査でわかった問題の多くは、以前の調査から引き継いできたものだった。そのことは、公刊されている文献をたどるだけで、かなりの程度わかる。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2019)「厚生労働省「労働時間等総合実態調査」に関する文献調査: 「前例」はいつ始まったのか」『東北大学文学研究科研究年報』68: 68-30. <a href="http://tsigeto.info/19a">http://tsigeto.info/19a</a> p. 35</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00125161">http://hdl.handle.net/10097/00125161</a></cite> </blockquote> <blockquote cite="http://hdl.handle.net/10097/00127285"> <p>問題の多くは、実は見えやすいところにある――公表されている資料を読めばおかしいのはすぐにわかる――ものであった。だから本来はもっと早くに顕在化していてしかるべきだったともいえる。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p> 毎月勤労統計調査は基幹統計のひとつであり、政策上重要な位置にある。多くの学者やアナリストが平均給与等のデータを分析しているし、マスメディアでの関心も高い。にもかかわらず、本稿がとりあげたような基本的な問題には誰も関心を向けてこなかったのである。公的統計に関して、あるいはより広く政策形成や意思決定に使われるデータの素性について、公表資料をきちんとチェックして問題点を摘発できる体制をつくることが、今後私たちが達成すべき目標ということになる。<br /> ―――――<br /> 田中 重人 (2020)「毎月勤労統計調査の諸問題」『東北大学文学研究科研究年報』69: 210-168. <a href="http://tsigeto.info/20a">http://tsigeto.info/20a</a> p. 171</p> <cite><a href="http://hdl.handle.net/10097/00127285">http://hdl.handle.net/10097/00127285</a></cite> </blockquote> <p>昨年以来のコロナ禍は、「公表資料をきちんとチェックして問題点を摘発できる体制をつくること」の重要性を浮き彫りにした。大事な問題について記憶が共有できず、資料が公開されていても誰も読まないという現状は、集合レベルでの合理的な思考力を、私たちが失っていることを意味する。とはいえ、資料そのものが隠蔽されていて公開されない状況よりは、はるかにマシではある。また、情報通信技術の発達で、資料にアクセスするのも、読解した結果を共有するのも、以前より格段に効率よくできるようになっている。とにかく資料を読み、読み取ったことを共有して記憶する、という作業に、もっと資源を投下してもらえないものだろうか。</p> </div> remcat HeiQ Viroblock 使用「ウイルス対策寝具」についてDoherty研究所他に問い合わせた結果 hatenablog://entry/26006613717285162 2021-04-17T18:54:34+09:00 2021-04-17T20:12:19+09:00 前回記事「舘田一博出演 「ハイキュ ヴィロブロック」宣伝動画 (JAPAN magniflex) 書き起こし」で、マニフレックス (Magniflex) が販売している妖しげな「ウイルス対策寝具」をとりあげた。この製品については、新型コロナウイルス感染症対策分科会などで政府のCOVID-19対策に深く関わる舘田一博 (東邦大学教授, 日本感染症学会理事長) がメディカル・アドバイザー契約を結び、広告を打っている。 有効性にかんしましては、オーストラリアのドハーティー研究所、これは非常に権威のある研究所になるわけですけども、そこで、新型コロナウイルス、この用いた実証実験をおこなって、30分間で、… <p>前回記事「<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex">&#x8218;&#x7530;&#x4E00;&#x535A;&#x51FA;&#x6F14; &#x300C;&#x30CF;&#x30A4;&#x30AD;&#x30E5; &#x30F4;&#x30A3;&#x30ED;&#x30D6;&#x30ED;&#x30C3;&#x30AF;&#x300D;&#x5BA3;&#x4F1D;&#x52D5;&#x753B; (JAPAN magniflex) &#x66F8;&#x304D;&#x8D77;&#x3053;&#x3057;</a>」で、マニフレックス (Magniflex) が販売している妖しげな「ウイルス対策寝具」をとりあげた。この製品については、新型コロナウイルス感染症対策分科会などで政府のCOVID-19対策に深く関わる舘田一博 (東邦大学教授, 日本感染症学会理事長) がメディカル・アドバイザー契約を結び、広告を打っている。</p> <blockquote cite="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4"> <p>有効性にかんしましては、オーストラリアのドハーティー研究所、これは非常に権威のある研究所になるわけですけども、そこで、新型コロナウイルス、この用いた実証実験をおこなって、30分間で、このウイルス99.99%を不活化するということが確認されています。<br /> ―――――<br /> JAPAN magniflex (2020-11-05) 「舘田先生 インタビュー」(YouTube動画)</p> <cite><a href="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4">https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4</a></cite> </blockquote> <p>ところが、このドハーティ研究所でおこなったという実証実験のレポートが、どこにも公表されていない。このことも前回の記事で指摘した。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#evidence"> <p>このレポートの所在がわからない。通常の文献検索では、対応するレポートはヒットしない。Googleで探すと、Magniflex等の宣伝ページばかりが出てくる。<a href="https://www.doherty.edu.au/">&#x30C9;&#x30CF;&#x30FC;&#x30C6;&#x30A3;&#x7814;&#x7A76;&#x6240;&#x306E;&#x30B5;&#x30A4;&#x30C8;</a> にも、このようなレポートは載っていない。サイト内検索でも、 HEIQ, Viroblock, Magniflex のキーワードで引き出せる情報はない。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2021-04-03)「舘田一博出演 「ハイキュ ヴィロブロック」宣伝動画 (JAPAN magniflex) 書き起こし」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#evidence">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#evidence</a></cite> </blockquote> <div class="section"> <h3 id="doherty">ドハーティ研究所への質問と回答</h3> <p>しかたがないので、ドハーティ研究所 (Peter Doherty Institute for Infection and Immunity) に直接問い合わせてみた。</p> <blockquote> <p>The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity,</p><br /> <p>I have a question about the following report:</p><br /> <p>M. J. (2020) Report on &quot;Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material&quot;. Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia.</p><br /> <p>This report is cited by <a href="https://m4medical.com.au/pages/faq">https://m4medical.com.au/pages/faq</a> ,<br /> <a href="https://heiq.com/products/functional-textile-technologies/heiq-viroblock/">https://heiq.com/products/functional-textile-technologies/heiq-viroblock/</a><br /> and other webpages.<br /> I cannot obtain the text of the report through the usual literature search.<br /> As the citation says it was published by you institute, I would like to ask you for<br /> information about how could I get the report or whom I should contact.<br /> ―――――<br /> ドハーティ研究所あて電子メールの文面 (2021-04-03 00:23)</p> </blockquote> <p>返信はつぎのとおり。</p> <blockquote> <p>Hi Tanaka,</p><br /> <p>Thank you for your email. Unfortunately this report was completed under a research contract with HeiQ. We do not own the report and it is not publicly accessible so we cannot be of further help in this regard but please direct your enquiry to HeiQ at info@heiq.com, hopefully they will be able to assist further.<br /> ―――――<br /> ドハーティ研究所からの返信 (2021-04-08 09:25)</p> </blockquote> <p>読み返してみると私の書いた文面がいろいろおかしいのであるが、趣旨はちゃんと伝わったようである。そして、「We do not own the report and it is not publicly accessible」ということなので、レポートはやはり入手できない。ただし、HeiQとの契約で研究をおこなったこと自体は確認できる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="magniflex">フラグスポート社への質問と回答</h3> <p>マニフレックスの販売代理店であるフラグスポートにも、ウエブサイトから質問を送ってみた。</p> <blockquote> <p><a href="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/">https://www.magniflex.jp/products/viroblock/</a> で参照されているレポート</p><br /> <p>M.J. (2020) Report on &quot;Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material&quot;.Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia</p><br /> <p>について、内容を確認したく存じます。当該のレポートをお送りくださるか、入手方法をお教えくださいますでしょうか。<br /> ―――――<br /> <a href="https://magniflex.jp/contact/index.php">https://magniflex.jp/contact/index.php</a> から送信した質問内容 (2021-04-08 12:49)</p> </blockquote> <p>これに対する返答がこちら:</p> <blockquote> <p>この度はご連絡ありがとうございます。<br /> この情報は一般に公開しておりません。<br /> よろしくご了承いただきますようお願い申し上げます。<br /> ―――――<br /> フラグスポート社からの返信 (2021-04-15 15:13)</p> </blockquote> <p>ドハーティ研究所の名前を使って、「ウイルス99.99%を不活化する」などとあれだけ宣伝を打っているにもかかわらず、その根拠となるレポートは「一般に公開しておりません」だそうで。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="heiq">HeiQ社への質問</h3> <p>HeiQ社にも問い合わせのメールを送信した。こちらは返信が来ない。</p> <blockquote> <p>I have a question about the following report cited in<br /> <a href="https://heiq.com/products/functional-textile-technologies/heiq-viroblock/">https://heiq.com/products/functional-textile-technologies/heiq-viroblock/</a> :</p><br /> <p>M.J. (2020) Report on &quot;Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material&quot;. Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia</p><br /> <p>I sent an inquiry for this issue to the Doherty Institute,<br /> but I received a response from them that<br /> they did not own the report and it is not publicly accessible.<br /> So I am writing this message.</p><p>Could you please send me the report or let me know how I can get it?<br /> ―――――<br /> HeiQ社へのメール (2021-04-08 12:35)</p> </blockquote> <p>なお、イギリスの金融情報サイト Advanced Financial Network (ADVFN) のユーザーのなかに、すでに同様の探索をおこなった人がいたようである。</p> <blockquote cite="https://uk.advfn.com/stock-market/london/heiq-HEIQ/share-chat?page=4"> <p>I have been doing a bit of research and tried to find the report that Viroblock is effective against SARS-Cov-2. Has anybody seen this report from the Doherty Institute in Melbourne? It is referred to in all the literature on Viroblock as M.J. (2020) Report on “Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material”. Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia. I can't find it, I asked Heiq to send it to me but got no reply. A search of the Doherty Institute website (which seems like a prestigious Institute) gave nothing. I searched all the M.J's that work there and came up with nothing. The closest thing I can find was from a J.M rather than MJ - see 2nd paragraph of Q3 in <a href="htTps://www.doherty.edu.au/news-events/news/dr-julie-mcauley">htTps://www.doherty.edu.au/news-events/news/dr-julie-mcauley</a> The bigger question is why hasn't this report been published? It is being used to sell Covid protection to worried consumers. I did in my research find the presentation below which has lots of background on Heiq <a href="htTp://brubeckskiclub.pl/wp-content/uploads/2020/09/20200414_HeiQ-Viroblock.pdf">htTp://brubeckskiclub.pl/wp-content/uploads/2020/09/20200414_HeiQ-Viroblock.pdf</a><br /> ―――――<br /> ADVFNサイトへのdavemac3の投稿 (2021-01-24 20:50 [GMT?])</p> <cite><a href="https://uk.advfn.com/stock-market/london/heiq-HEIQ/share-chat?page=4">https://uk.advfn.com/stock-market/london/heiq-HEIQ/share-chat?page=4</a></cite> </blockquote> <p>このdavemac3さんの場合、HeiQにといあわせても返信はなかった由。</p><p>ここで言及している <a href="https://www.doherty.edu.au/news-events/news/dr-julie-mcauley">McAuley J.</a> の名前は、 <a href="https://viroproof.health/pages/medic-pack/">https://viroproof.health/pages/medic-pack/</a> などにレポートの著者名としてでてくる。このMcAuleyさんのところにも問い合わせを送ったのだが、不在とのことで、返事はいただけていない。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="eval">中間評価</h3> <p>というわけで、ドハーティ研究所がHeiQからの依頼で (Magniflexからの依頼ではない) 実験をおこなってレポートを作成したこと自体はあったようだ。しかし、その内容はわからない。前回の記事でも書いたとおり、これは非常に不思議なことといわねばならない。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#doctor"> <p>「30分間で、このウイルス99.99%を不活化する」ということが、ドハーティ研究所の実験で、じゅうぶんな信頼性をもって裏付けられているということはおそらくない。そのような結果が出たのなら、論文として公表されていないはずがない。また、寝具メーカーやその輸入代理店は商品を売り出したいのだから、まともな実験結果であれば、それを宣伝しまくるはずである。実際、FFP2マスクの濾過性能テストに関しては、結果の表を載せるだけなく、テスト機関の発行したレポートをウェブサイトで公表しているわけである。彼らが実験結果を伏せて宣伝活動を展開しているということは、商品を売りさばくには不都合な内容がふくまれているということなのだ。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2021-04-03)「舘田一博出演 「ハイキュ ヴィロブロック」宣伝動画 (JAPAN magniflex) 書き起こし」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#doctor">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#doctor</a></cite> </blockquote> <p>一方で、「FFP2マスクの濾過性能テスト」の結果は <a href="https://www.heiqmedica.com/en/documentation/">https://www.heiqmedica.com/en/documentation/</a> などでレポートが公開されている。これらは HeiQ が自信をもって自社製品を売り出すためのもの……かと思いきや、これらも個別にみていくといろいろ妖しい内容をふくんでいる。これらについては別の記事でとりあげたい。</p> </div> remcat 舘田一博出演 「ハイキュ ヴィロブロック」宣伝動画 (JAPAN magniflex) 書き起こし hatenablog://entry/26006613711879739 2021-04-03T19:52:45+09:00 2021-04-17T19:10:14+09:00 下記のツイートで、舘田一博・東邦大学教授 (新型コロナウイルス感染症対策分科会や基本的対処方針等諮問委員会など、政府のCOVID-19対策に深く関わる) が、「世界初のウイルス対策寝具」の広告塔になっていることを知った。 コロナ対策の政府分科会メンバーで日本感染症学会理事長・舘田一博氏とのアドバイザリー契約締結も 世界初のウイルス対策寝具『マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック』11月1日より、店頭取扱いを含む一般販売を開始! 2020年10月27日 ――――― けんもう新型コロナ対策本部 @kenmomd 2021-04-01 23:22 のツイート https://twitter.c… <p>下記のツイートで、舘田一博・東邦大学教授 (新型コロナウイルス感染症対策分科会や基本的対処方針等諮問委員会など、政府のCOVID-19対策に深く関わる) が、「<a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000065999.html">&#x4E16;&#x754C;&#x521D;&#x306E;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x5BFE;&#x7B56;&#x5BDD;&#x5177;</a>」の広告塔になっていることを知った。</p> <blockquote cite="https://twitter.com/kenmomd/status/1377627329044832257"> <p>コロナ対策の政府分科会メンバーで日本感染症学会理事長・舘田一博氏とのアドバイザリー契約締結も<br /> 世界初のウイルス対策寝具『マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック』11月1日より、店頭取扱いを含む一般販売を開始!<br /> 2020年10月27日<br /> ―――――<br /> けんもう新型コロナ対策本部 @kenmomd 2021-04-01 23:22 のツイート</p> <cite><a href="https://twitter.com/kenmomd/status/1377627329044832257">https://twitter.com/kenmomd/status/1377627329044832257</a></cite> </blockquote> <p>こうした行為が無批判で許容されてきたのは、医学業界の闇というべき部分である。また、こうした人々を重用する政府に、まともな政策を期待するほうが無理というものであろう。以下では、本件のどこが問題なのか、具体的に指摘していきたい。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#heiq">&#x300C;&#x30DE;&#x30CB;&#x30D5;&#x30EC;&#x30C3;&#x30AF;&#x30B9; &times; &#x30CF;&#x30A4;&#x30AD;&#x30E5; &#x30F4;&#x30A3;&#x30ED;&#x30D6;&#x30ED;&#x30C3;&#x30AF;&#x300D;&#x3068;&#x306F;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#youtube">YouTube&#x52D5;&#x753B;&#x306B;&#x304A;&#x3051;&#x308B;&#x8218;&#x7530;&#x767A;&#x8A00;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#question">&#x7591;&#x554F;&#x70B9;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#evidence">&#x30A8;&#x30D3;&#x30C7;&#x30F3;&#x30B9;&#x306F;&#x3069;&#x3053;&#x306B;?</a> <ul> <li>パンフレットの表の中身</li> <li>ドハーティ研究所のレポートの所在</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#doctor">&#x30A8;&#x30D3;&#x30C7;&#x30F3;&#x30B9;&#x306A;&#x304D;&#x5546;&#x54C1;&#x3068;&#x5E83;&#x544A;&#x5854;&#x306B;&#x306A;&#x308B;&#x533B;&#x5E2B;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="heiq">「マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック」とは</h3> <p>リンク対象である <a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000065999.html">https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000065999.html</a> およびそこで紹介されているウェブサイトなどの情報によると、この「ウイルス対策寝具」はつぎのような商品であるらしい。</p> <ul> <li><a href="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/">&#x30DE;&#x30C3;&#x30C8;&#x30EC;&#x30B9;&#x3084;&#x30B7;&#x30FC;&#x30C4;&#x306A;&#x3069;&#x3092;&#x3075;&#x304F;&#x3080;&#x5BDD;&#x5177;&#x306E;&#x30B7;&#x30EA;&#x30FC;&#x30BA;</a> である</li> <li>イタリアの寝具会社 <a href="https://www.magniflex.com">&#x30DE;&#x30CB;&#x30D5;&#x30EC;&#x30C3;&#x30AF;&#x30B9; (Magniflex)</a> が製造・販売している</li> <li>日本では <a href="https://magniflex.jp/company/">&#x30D5;&#x30E9;&#x30B0;&#x30B9;&#x30DD;&#x30FC;&#x30C8; (FLAGSPORT INC.)</a> が輸入・販売している</li> <li>これらのシリーズで使われる技術 (銀イオンを利用した抗菌・抗ウイルス繊維) はスイスの <a href="https://heiq.com/inside-heiq/">HeiQ</a> 社が開発した。 <a href="https://heiq.com/products/functional-textile-technologies/heiq-viroblock/">&#x300C;&#x30F4;&#x30A3;&#x30ED;&#x30D6;&#x30ED;&#x30C3;&#x30AF;&#x300D;(Viroblock)</a> という商品名を持つ。</li> </ul><p>フラグスポートによる「マニフレックス公式サイト」には、2020年9月25日付でつぎの記事があがっている。</p> <blockquote cite="https://www.magniflex.jp/news/200925.html"> <p>このたび「マニフレックス」は、 東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座教授 の舘田一博(たてだかずひろ)先生と、「マニフレックス」の新製品『マニフレックス × ハイキュ ヴィロブロック』シリーズにおける、メディカルアドバイザー契約を結ばせていただいたことをご報告いたします。<br /> ―――――<br /> 「マニフレックスが、舘田一博教授とメディカルアドバイザー契約を締結」(2020-09-25)</p> <cite><a href="https://www.magniflex.jp/news/200925.html">https://www.magniflex.jp/news/200925.html</a></cite> </blockquote> <p>舘田がメディカルアドバイザー契約を結んだ相手は、「マニフレックス」だという。これだと、イタリアのMagniflex社と契約を結んだ報告のようにもみえる。しかし、フラグスポートによるプレスリリース <a href="https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/65999">https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/65999</a> (10月27日) では「新型コロナ対策の政府分科会メンバーで日本感染症学会理事長を務め、ウイルス研究における第一人者である舘田一博氏と本製品のメディカルアドバイザー契約を結びました」とあるから、日本の会社であるフラグスポートと、舘田一博との間での契約だとみておいたほうがいいだろう。</p><p>東邦大学サイト <a href="https://www.toho-u.ac.jp/media/202011.html">https://www.toho-u.ac.jp/media/202011.html</a> によれば、『繊維ニュース』に「マニフレックス 抗ウイルスマットレス販売 スイス企業の後加工技術採用」(2020-11-11) という記事が舘田の名前で載ったようである。そのほか、舘田のコメントが載っている広告記事として、つぎのものが確認できる。</p> <ul> <li>嵯峨崎 文香 (2020-09-24)「<a href="http://web.archive.org/web/20200928225211/https://bunshun.jp/articles/-/40085">&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x3092;99.99%&#x30D6;&#x30ED;&#x30C3;&#x30AF;&#x3059;&#x308B;&#x30DE;&#x30CB;&#x30D5;&#x30EC;&#x30C3;&#x30AF;&#x30B9;&times;&#x30CF;&#x30A4;&#x30AD;&#x30E5; &#x30F4;&#x30A3;&#x30ED;&#x30D6;&#x30ED;&#x30C3;&#x30AF;&#x306E;&#x65B0;&#x305F;&#x306A;&#x30DE;&#x30C3;&#x30C8;&#x30EC;&#x30B9;</a>」文春オンライン</li> <li>(2020-10-07)「<a href="https://globe.asahi.com/article/13740222">&#x30CB;&#x30E5;&#x30FC;&#x30CE;&#x30FC;&#x30DE;&#x30EB;&#x306A;&#x6642;&#x4EE3;&#x3060;&#x304B;&#x3089;&#x3053;&#x305D;&#x3001;&#x7720;&#x308A;&#x306E;&#x6642;&#x9593;&#x3082;&#x5B89;&#x5FC3;&#x3057;&#x305F;&#x3044;</a>」朝日新聞GLOBE+</li> </ul><p>現物を確認できていないが、日本経済新聞 (2020-11-18) の広告には、<a href="https://www.facebook.com/MagniflexJP/posts/3285980058179386">&#x6F2B;&#x753B;&#x5BB6;&#x306E;&#x30E4;&#x30DE;&#x30B6;&#x30AD;&#x30DE;&#x30EA;&#x3068;&#x5171;&#x306B;&#x51FA;&#x305F;</a> ということである。また、<a href="https://www.tsuhanshimbun.com/products/article_detail.php?product_id=5507">&#x8AAD;&#x58F2;&#x65B0;&#x805E;&#x306B;&#x3082;&#x5E83;&#x544A;&#x304C;&#x8F09;&#x3063;&#x305F;</a> という情報がある。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="youtube">YouTube動画における舘田発言</h3> <p>ネット上を探してみると、本人の積極的な関与があきらかなものとして、YouTube 上の宣伝動画に出演していたことがわかる。</p> <dl> <dt>URL</dt> <dd> <a href="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4">https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4</a></dd> <dt>作成者</dt> <dd> JAPAN magniflex</dd> <dt>表題</dt> <dd> 舘田先生 インタビュー</dd> <dt>日付</dt> <dd> 2020-11-05</dd> <dt>再生時間</dt> <dd> 2分28秒</dd> <dt>登場人物</dt> <dd> 舘田一博 (マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック メディカルアドバイザー)</dd> </dl><p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210403161050" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210403/20210403161050.png" alt="f:id:remcat:20210403161050p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>動画に登場するのは舘田ひとり、音声があるのも舘田のみ。以下に内容を書き起こしておく。</p> <blockquote cite="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4"> <p>わたくしが、このマニフレックスハイキュー、ヴィロブロックシリーズを推奨させていただく理由は、この寝具シリーズが、ひじょうにおもしろい特徴をもっているからです。</p><br /> <p>マニフレックス社とハイキュー社が合同で開発したものですけども、その繊維のなかに銀をしっかりとしみこませて、定着させる。それによって、非常に強い抗微生物作用、抗ウイルス作用をしめすということが確認されています。そしてその有効性にかんしましては、オーストラリアのドハーティー研究所、これは非常に権威のある研究所になるわけですけども、そこで、新型コロナウイルス、この用いた実証実験をおこなって、30分間で、このウイルス99.99%を不活化するということが確認されています。</p><br /> <p>この新型コロナウイルス感染症が流行しているなかで、だれもが外出したときあるいは仕事にいったときに、無自覚、無症状のまま、このウイルスを家のなかにもちこんでしまう、もちかえってしまう、そういった危険性があります。あのたとえばダイヤモンドプリンセス号のなかでの、その感染。そのときにですね、環境のなかからこのウイルスが、ドアノブや受話器、トイレ、そういったところからも出たんですけど、それとともにですね、枕や寝具、その周辺からも集中的に検出されたという、そういったレポートがあります。</p><br /> <p>この寝具によって、寝室でそれをシャットアウトできるとすれば、お年寄りや赤ちゃん、そして重症化リスクが高いといわれる基礎疾患をおもちのかたがたにとって、なによりの朗報となるにちがいないとかんがえます。人間は、就寝時に汗をかくため、寝具はそもそも病原体が棲息し、そして繁殖しやすい環境になります。新型コロナウイルスはもちろん、インフルエンザウイルスやさまざまなバクテリアにも、すぐれた有効性が確認されているこの寝具シリーズは、いま提唱されている新たな生活様式において、効果的なアイテムのひとつといえるのではないでしょうか。<br /> ―――――<br /> JAPAN magniflex (2020-11-05) 「舘田先生 インタビュー」(YouTube動画)</p> <cite><a href="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4">https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4</a></cite> </blockquote> <p>開始22秒のところで宣伝用パンフレットらしきものが映る (これについてはあとでとりあげる)。これ以外は、当該商品についての情報はほとんどえられない。2分28秒の動画の大部分は、舘田がしゃべっているところ、商品を触っているところ、各種のイメージ画像に字幕が付いたものが映っている。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="question">疑問点</h3> <p>この動画で舘田がいう「ウイルスを家のなかにもちこんでしまう」とは、どのような事態だろうか? 「無自覚、無症状のまま」といっているので、外出中に手、顔、髪、服、靴、鞄、その他の持ち物にウイルスが付着してしまうようなことを指しているのではない。そのようなケースでは、外出中に体や服や持ち物にウイルスがついてしまうことが問題なのだから、ウイルス対策寝具ではなく、ウイルス対策服・靴・鞄などを開発したほうがいいだろう。</p><p>したがって、問題になるのは、同居者のなかに感染した人がいて、それが家屋内で他の人に広がるケースである。しかし、このような場合、おなじ家で起居を共にし、おそらくは食事なども一緒にとっている。寝具を通じての感染だけことさら厳重に防がなければならない理由は考えにくい。</p> <blockquote cite="https://twitter.com/RINN0222/status/1377977105711960071"> <p>このベッドの上でただ寝てる分には感染し難いのかも知れんけど、ダブルベッドで二人があんな事やこんな事したら関係なく感染リスクは大きくなるよなぁ…w<br /> ―――――<br /> RINN(林 康弘)【寸劇の暇人】 @RINN0222 2021-04-02 22:31</p> <cite><a href="https://twitter.com/RINN0222/status/1377977105711960071">https://twitter.com/RINN0222/status/1377977105711960071</a></cite> </blockquote> <p>Twitterではこのような意見もいただいた。別にベットの上でなくても、同居者なら日常的に室内で近距離での接触をするものである。寝具に残存するウイルスが多少減ったからといって、感染の確率が大きく下がることにはならない。</p><p>寝具に特に気を付ける必要があるとしたら、</p> <ul> <li>感染者との接触はない人が</li> <li>寝具には接触する</li> </ul><p>ような状況である。たとえば、ホテルで宿泊客が外出している間に従業員がベッドメイクするとか、交換したシーツ等をクリーニングに出すような場合がこれにあたる。ベッドメイク担当者やクリーニング業者は、宿泊客と直接会話する機会がなくても、使用後の寝具等に触れることで感染する危険がある。このような場合であれば、寝具に残存するウイルス量を減少させることが感染防止に重要であることはわかる。寮などでも同様かもしれない。このように、一般家庭ではなく、分業体制で寝具を管理する組織においてこそ、このような商品が必要なのである。</p><p>病院でもおなじである。入院患者が感染している場合でも、シーツや枕カバーなどがウイルスの残りにくい素材のものになっていれば、それらを交換したり選択したりする業務で感染するリスクを下げることができる。舘田は <a href="https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/infection/members/">&#x6771;&#x90A6;&#x5927;&#x5B66;&#x533B;&#x7642;&#x30BB;&#x30F3;&#x30BF;&#x30FC;&#x5927;&#x68EE;&#x75C5;&#x9662;&#x3067;&#x611F;&#x67D3;&#x7BA1;&#x7406;&#x90E8;&#x9577;&#x3092;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x308B;</a> そうである。もしこの商品が効果的だと本気で考えているのなら、感染防止のため、この病院ではViroblock製の寝具を採用しているはずだ。同病院の状況をご存じのかたがいらっしゃれば、情報をお寄せくださると幸いである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="evidence">エビデンスはどこに?</h3> <p>上記のYouTube宣伝動画では、舘田は、この商品が30分間で新型コロナウイルスの99.99%を不活化することをオーストラリアのドハーティー研究所が確認した、と主張している。しかし、その根拠となる文献は、動画では示していない。</p><p>これは不思議なことだ。フラグスポートのウェブページによれば、舘田はつぎのように言っている:</p> <blockquote cite="https://www.magniflex.jp/news/200925.html"> <p>【舘田先生のコメント】<br /> 私は医師であり科学者ですのでエビデンス(科学的証拠)に基づいたこと以外お話しできないですが、『マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック』シリーズは、ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証しており、非常に信頼できます<br /> ―――――<br /> 「マニフレックスが、舘田一博教授とメディカルアドバイザー契約を締結」(2020-09-25)</p> <cite><a href="https://www.magniflex.jp/news/200925.html">https://www.magniflex.jp/news/200925.html</a></cite> </blockquote> <p>このように言っておきながら、「ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証し」たことを示すエビデンスは何も提示しないのである。</p> <div class="section"> <h4>パンフレットの表の中身</h4> <p>動画中に唯一出てくるのは、開始22秒あたりからしばらく映る、パンフレットらしきもの。このなかに、数値がならんだ表がみえる。その下には「ピーター・ドハーティー研究所」の文字列もみえる。これが「ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証し」た結果なのだろうか?</p> <blockquote cite="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210403174538" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210403/20210403174538.png" alt="f:id:remcat:20210403174538p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> JAPAN magniflex (2020-11-05) 「舘田先生 インタビュー」(YouTube動画) 開始22秒<br /> 〔水色の楕円は引用時に付加したもの〕</p> <cite><a href="https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4">https://www.youtube.com/watch?v=aOW6vdNFde4</a></cite> </blockquote> <p>実は、この表は、フラグスポート社サイトに載っているつぎの表とおなじものである。</p> <blockquote cite="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210403175304" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210403/20210403175304.png" alt="f:id:remcat:20210403175304p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> フラグスポート「抗菌・抗ウイルス加工マットレス「ハイキュ ヴィロブロック」」(マニフレックス公式サイト)</p> <cite><a href="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/">https://www.magniflex.jp/products/viroblock/</a></cite> </blockquote> <p>表の下の注釈からわかるとおり、これは、「N95マスクへの加工テスト」の結果であり、実施したのは「HEIQ社」である。ドハーティ研究所が実施したという寝具の実験とは何の関係もない数値を、いかにもそれらしい風情でならべているのだ。</p><p>なお、この表の数値のうち、コロナウイルスによるテストだという「229E」は、おそらく <a href="https://heiq.com/heiq-viroblock-npj03-test-reports/">https://heiq.com/heiq-viroblock-npj03-test-reports/</a> からリンクされている <a href="https://heiq.com/wp-content/uploads/2020/09/Microbac-798-112-test-report.pdf">https://heiq.com/wp-content/uploads/2020/09/Microbac-798-112-test-report.pdf</a> に載っているものである。これによると、マスクがエアロゾルをどの程度濾過できるかをみるテストであり、しかも使用されたコロナウイルスは旧型 (229E strain) である。つまり、寝具に付着した新型コロナウイルスの残存率の実験とはまったく別の内容である。さらに、試験をおこなったのはアメリカの食品・環境・生命科学等の試験機関 <a href="https://www.microbac.com/about">MicroBac</a> であり、テスト対象はFFP2マスク (これはヨーロッパで使われている規格であり、アメリカのN95規格とは別物) である。したがって、「HEIQ社で実施したN95マスクへの加工テスト結果」という説明自体が、そもそもデタラメということになる。</p> </div> <div class="section"> <h4>ドハーティ研究所のレポートの所在</h4> <p>さて、 <a href="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/">https://www.magniflex.jp/products/viroblock/</a> には、「ウイルスを吸着して破壊 99.99%減少」と大書してある。その右下に小さい文字で「※注1」とある。これに対応する注は、ページのずっと下のほうにある:</p> <blockquote cite="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/"> <p>注1)M.J. (2020) Report on &quot;Viral Stability and Persistence of SARS-CoV-2 on Treated Material&quot;.Doherty Institute for Infection and Immunity, Australia<br /> ―――――<br /> フラグスポート「抗菌・抗ウイルス加工マットレス「ハイキュ ヴィロブロック」」(マニフレックス公式サイト)</p> <cite><a href="https://www.magniflex.jp/products/viroblock/">https://www.magniflex.jp/products/viroblock/</a></cite> </blockquote> <p>このレポートを読めば、ドハーティ研究所でおこなわれたという実験の詳細がわかるはずだ。</p><p>ところが、このレポートの所在がわからない。通常の文献検索では、対応するレポートはヒットしない。Googleで探すと、Magniflex等の宣伝ページばかりが出てくる。<a href="https://www.doherty.edu.au">&#x30C9;&#x30CF;&#x30FC;&#x30C6;&#x30A3;&#x7814;&#x7A76;&#x6240;&#x306E;&#x30B5;&#x30A4;&#x30C8;</a> にも、このようなレポートは載っていない。サイト内検索でも、 HEIQ, Viroblock, Magniflex のキーワードで引き出せる情報はない。</p><p>ということで、このレポートに関しては、直接ドハーティ研究所に問いあわせてみた。現在、返信待ちである。結果がわかったら、追記するか新記事を書くかする。</p><p>【<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210403/magniflex#append">&#x8FD4;&#x4E8B;&#x304D;&#x305F;&#x306E;&#x3067;&#x8FFD;&#x8A18;&#x3057;&#x307E;&#x3057;&#x305F;: 2021-04-08</a>】</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="doctor">エビデンスなき商品と広告塔になる医師</h3> <p>いずれにせよ、新型コロナウイルスの99.99%を破壊あるいは不活化するというのがウリであるにもかかわらず、それを支える実験の詳細は何も示されていない。これは非常におかしなことである。</p><p>このブログでは、以前にも同様の話題をとりあげた。産婦人科のタレント医師、宋美玄がプロデュースしたという触れ込みで通信販売されている体型補正下着「締めキュット」である。</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20170920/whla"> <p>広告のどこにも、この製品の効果をあらわすエビデンス (通常の意味での) は示されていない。効果があることを示した文献があるなら広告に載せないはずはないのだから、エビデンスは何もないにちがいない。つまり、装着中に体型が変わって見えたり尿漏れがおさえられたりするということ自体、根拠のない話なのである。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2017-09-20) 「ウィメンズヘルスリテラシー協会」とは</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20170920/whla">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20170920/whla</a></cite> </blockquote> <p>この商品については、後に宋自身が、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20171126/ameblo">&#x5C65;&#x304D;&#x5FC3;&#x5730;&#x3092;&#x8A66;&#x3057;&#x305F;&#x4EE5;&#x5916;&#x306B;&#x306F;&#x3001;&#x88FD;&#x54C1;&#x306E;&#x6027;&#x80FD;&#x306E;&#x691C;&#x306F;&#x4F55;&#x3082;&#x3057;&#x3066;&#x3044;&#x306A;&#x304B;&#x3063;&#x305F;</a> ことをあきらかにしている。</p><p>「世界初のウイルス対策寝具」についても、とりあえずは同様の態度をとっておいたほうがいいだろう。「30分間で、このウイルス99.99%を不活化する」ということが、ドハーティ研究所の実験で、じゅうぶんな信頼性をもって裏付けられているということはおそらくない。そのような結果が出たのなら、論文として公表されていないはずがない。また、寝具メーカーやその輸入代理店は商品を売り出したいのだから、まともな実験結果であれば、それを宣伝しまくるはずである。実際、FFP2マスクの濾過性能テストに関しては、結果の表を載せるだけなく、テスト機関の発行したレポートをウェブサイトで公表しているわけである。彼らが実験結果を伏せて宣伝活動を展開しているということは、商品を売りさばくには不都合な内容がふくまれているということなのだ。</p><p>もし仮に、ドハーティ研究所が秘密裡に作成したレポートがMagniflex社に秘蔵されており、そこには問題のない実験結果が報告されていたのだとしても、彼らの主張にエビデンスがないことに変わりはない。公表されていないものは検討しようがないからだ。エビデンスがあると主張したいのであれば、実験内容を公開し、世界中の専門家がその内容を吟味できる状態に置く必要がある。そのためにもっともよい方法は、学術雑誌に論文を掲載することである。</p><p>「『マニフレックス×ハイキュ ヴィロブロック』シリーズは、ドハーティー研究所で新型コロナウイルスを使って検証しており、非常に信頼できます」というのは、現時点では、エビデンスに基づかない与太である。エビデンスに基づいたこと以外話せないのが医師と科学者なのだとすれば、舘田は医師でも科学者でもない。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="append">追記 [2021-04-08]</h3> <p>件のレポートについて、 The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity からお返事いただいた。「We do not own the report and it is not publicly accessible」 とのこと (2021-04-08 09:25 JST)</p> </div> <div class="section"> <h3 id="append2">追記2 [2021-04-17]</h3> <p>ドハーティ研究所からの返事ほかについて、記事を書きました: <br /> <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210417/doherty">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210417/doherty</a><br /> HeiQ Viroblock 使用「ウイルス対策寝具」についてDoherty研究所他に問い合わせた結果</p> </div> remcat 「家制度」をめぐる奇妙な言説 hatenablog://entry/26006613703724710 2021-03-15T22:23:25+09:00 2021-09-22T17:15:22+09:00 3月9日の『日本経済新聞』サイトに、「夫婦別姓は家制度を壊すか」というコラムが載った。 吾妻橋「夫婦別姓は家制度を壊すか」(大機小機) 日本経済新聞 2021年3月9日 2:00 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/ このコラム、「家制度」というものの理解があまりにデタラメなので、どこがおかしいのかを指摘しておきたい。 目次 「制度」とは何か 「家」とは何か 明治民法における「家」 経営体としての「家」 家名を存続させるには何が必要か 夫婦別氏反対の論理 「制度」とは何か まず、下記の部分。「家」がどうこういう… <p>3月9日の『日本経済新聞』サイトに、「夫婦別姓は家制度を壊すか」というコラムが載った。</p> <ul> <li>吾妻橋「夫婦別姓は家制度を壊すか」(大機小機) 日本経済新聞 2021年3月9日 2:00 <a href="https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/">https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/</a></li> </ul><p>このコラム、「家制度」というものの理解があまりにデタラメなので、どこがおかしいのかを指摘しておきたい。</p> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210315/ie#inst">&#x300C;&#x5236;&#x5EA6;&#x300D;&#x3068;&#x306F;&#x4F55;&#x304B;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210315/ie#ie">&#x300C;&#x5BB6;&#x300D;&#x3068;&#x306F;&#x4F55;&#x304B;</a> <ul> <li>明治民法における「家」</li> <li>経営体としての「家」</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210315/ie#name">&#x5BB6;&#x540D;&#x3092;&#x5B58;&#x7D9A;&#x3055;&#x305B;&#x308B;&#x306B;&#x306F;&#x4F55;&#x304C;&#x5FC5;&#x8981;&#x304B;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210315/ie#diss">&#x592B;&#x5A66;&#x5225;&#x6C0F;&#x53CD;&#x5BFE;&#x306E;&#x8AD6;&#x7406;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="inst">「制度」とは何か</h3> <p>まず、下記の部分。「家」がどうこういう以前に、「制度」とは何かがわかっていないようである。</p> <blockquote cite="https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/"> <p>ここで夫婦別姓を望むのは、家制度を壊したいウーマンリブ運動家という誤解がある。しかし、少子化が進む中で一人っ子同士が結婚すると、いずれかの家が絶えることを懸念する親もいる。2人の孫に双方の家を継いでもらえることも夫婦別姓選択の大きな効用である。ただし、この場合には子の姓についても統一しない選択肢が必要となる。</p><p>別姓選択とは、夫と妻が同姓でなければならないという現行民法の規制を、自由に選択できるようにするだけだ。これにより、家制度を守りたい人と、壊したい人の双方を満足させることができる。<br /> ―――――<br /> 吾妻橋「夫婦別姓は家制度を壊すか」(大機小機) 日本経済新聞 2021年3月9日 2:00</p> <cite><a href="https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/">https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/</a></cite> </blockquote> <p>個人の自由な選択にまかされる事柄は、「制度」ではない。<strong>「制度」とは、個人に一定の行為を強制したり制限したりするもの</strong> だから。たとえば有斐閣『新社会学辞典』によると、「制度」(institution) はつぎのように説明されている。</p> <blockquote> <p>人々がそれぞれの時代にそれぞれの地域で一定のパターン化された日常生活を営むことができるのは、細かな行為規則から *慣習や *法 に至るさまざまの水準での *社会規範 に準じて、それぞれの生活場面でしかるべき行動様式がみられるからである。この行動様式が社会のさまざまな側面で複合化し体系化したものが制度である。それゆえそれぞれの制度は、日常生活において自明のもの、変わらざるものとして立ち現れ、個人からすれば、外在的で拘束的な性格を有している。こうした制度は、社会の大多数の成員によって受容されると、それへの *同調に対して積極的な評価が行われ、*逸脱に対しては負の *サンクション が加えられる。<br /> ―――――<br /> 佐藤 勉「制度」『新社会学辞典』有斐閣 (<del>2013</del><ins>1993</ins>) <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4641002584/hatena-blog-22/">ISBN:4641002584</a><br /> p. 863<br /> 〔*印は説明が別に立項されている言葉〕</p> </blockquote> <p>ちょっと何いってるのかわかりにくいが、要するに、人々が社会規範にしたがうことによってパターン化された行動体系が維持されている場合、それを「制度」と呼ぶということだ。</p><p>社会規範の典型は法である。たとえば戸籍法によって、戸籍の仕組みが定められている。これは戸籍に関係する人々 (役所で戸籍担当についている公務員もそうであるし、出生届けや死亡届をだす立場の一般人もそうである) に、法律の規定にしたがった行動を強制する。法にしたがって、子供がうまれた人は出生届けを出し、それを窓口で受け取った職員が内容を確認して戸籍のデータベースの更新操作をおこなう、といった一定パターンの行動がみられることになる。このようなパターンを体系化したものが「戸籍制度」ということになる。法以外にも、さまざまな団体が定める規則や、慣習的に私たちがしたがっている秩序も社会規範である。そうした社会規範が私たちに一定の行動パターンを強制することにより、制度が生まれる。</p><p>だから、「家制度を守りたい人と、壊したい人の双方を満足させる」などということは、定義によって起こりえない。「家制度」なる制度があるとして、それを壊したい人が壊してしまえば、家制度はなくなるのである。逆に、家制度が守られているとすれば、その制度 (を支える社会規範) の強制力は、制度を壊したい人にもおよぶ。</p><p>もちろん、日本経済新聞のコラムが社会学の定義に則って書かれているとはかぎらない。ただ、たとえば『広辞苑』(第5版) も「制度」の語義としては「制定された法規。国のおきて。」「社会的に定められている、しくみやきまり。」のふたつを載せており、なんらかのルールによって個人の行為を制限したり強制したりするものであることは共通の要件である。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="ie">「家」とは何か</h3> <p>つぎの問題は、「家」についての理解もおかしいことである。</p><p>日本語の名詞「家」(イエ) は、日常的に使われる語であり、「人が居住する建築物」としての意味をふくめ、多義的に使われる。家族法に関連する用法としては、</p> <ul> <li>明治民法 (1898年成立) が規定した「家」</li> <li>日本社会に伝統的に存在してきた、家業を営み、世代を超えて継続していく、経営体としての性格を持つ親族集団</li> </ul><p>のふたつがある。</p> <div class="section"> <h4>明治民法における「家」</h4> <p>1898年に成立した民法 (「明治民法」と呼ぶ) は、その732条でつぎのように規定した。</p> <blockquote cite="https://www.digital.archives.go.jp/das/meta/F0000000000000017308"> <p>戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス<br /> ―――――<br /> 民法第四編第五編 (1898年法律9号) 732条</p> <cite><a href="https://www.digital.archives.go.jp/das/meta/F0000000000000017308">https://www.digital.archives.go.jp/das/meta/F0000000000000017308</a></cite> </blockquote> <p>「戸主」は、戸籍の先頭に書かれる人のことであり、「其家」はその戸籍を指している。この条文では、戸主が属する戸籍を「家」と呼んでいるのである。</p><p>これに先立って1988年に作成された法律草案 (身分法第一草案) にもすでに類似の条文があった。草案に付された、「戸主」についての説明をみてみよう。</p> <blockquote cite="http://id.nii.ac.jp/1138/00000430/"> <p>第一草案人事編は、第一二章として「戸主及ヒ家族」の章を置いた。第三九二条は、「独立シテ一家ヲ成ス者ヲ戸主ト為(す)」と規定する。本条に付された「理由」によれば、「戸主トハ生計上家居ノ構設即チ一世帯ヲ統括スルト否トニ拘ラス <strong>独立シテ一ノ姓氏ヲ公称シ戸籍ヲ特有シ眷属ヲ董督シ社会ニ対シ其家ヲ代表スル者</strong> ヲ云」う。すなわち、ここで想定されている「一家」は、<strong>現実の家族共同体ではなく、戸籍上の「家」である</strong><br /> ―――――<br /> 近藤 佳代子「夫婦の氏に関する覚書(一)」『宮城教育大学紀要』49: 354-368 (2015).<br /> 〔注番号を省略した。強調部分は引用者による。〕</p> <cite><a href="http://id.nii.ac.jp/1138/00000430/">http://id.nii.ac.jp/1138/00000430/</a></cite> </blockquote> <p>この草案自体は採用されず、さらにそのあとつくられた民法法案は帝国議会に提出されていったん成立したあと、施行を待たずに廃止され、再度法案が作成・提出されて、1898年の明治民法成立に至った。したがってこの草案がそのまま明治民法になったわけではないのだが、「家」とは戸籍上の概念である、という原則は受け継がれている。</p><p>ちなみに、明治民法のこの条文は、戸主の「親族」(この範囲は同法の725条が規定していた) のうちで戸主の戸籍に登録されている者、および彼らの配偶者を、あわせて「家族」と定義する (現在の「家族」の用法とはおおきくちがうので注意)。家 (=戸籍) のメンバーは、おおむね「戸主とその家族」ということになる。もっとも、戸籍のほうが民法よりも20年以上前にできており、今日の住民基本台帳に近い機能を持ったものでもあって、どの範囲の人をどのように登録するかについてしばしば争いが起きて原則が変更されるなど曲折を経ており、実態としては「戸主とその家族」の範囲に合致しない場合があった。しかしこれ以降は、戸籍はこの民法の規定にしたがって編成されていくことになる。</p><p>ということで、この意味での「家」は、当時の戸籍に登録されていた人々のまとまり、ということになる。おなじ家に属する人々はおなじ「氏」を持つだけでなく、「家族」の親族関係上の行為 (たとえば婚姻・養子縁組など) にあたっては戸主の同意を必要とするなど、「家」のことについて戸主がさまざまな権限 (および義務) を持つ設定になっていた。</p><p>当初の戸籍は、実際の居住関係などをもとにつくられ、しばしば非常に広い範囲の親族をふくむ巨大なものであった。時が経てば登録された人々は死去するなどしていなくなるが、あたらしいメンバー (たとえば子供、孫、ひ孫……) が登録されていくため、永久に存続することが想定されている。戸主も代替わりしていく仕組みになっており、そのことに関するこまかい規定が設けられている。なお、「分家」(743条) の規定はあるものの、家族が引っ越すなどして実際の居住形態が変化した場合に、それにしたがって戸籍をいちいち変更する仕組みにはなっていない。そのため、編成から時間が経過するにつれて、戸籍に載っている「家」は、実際の生活の状況とくいちがうようになり、場合によっては実態とほとんど対応しない書類上のみの存在になっていく。</p><p>さて、この意味での「家」の制度は、1947年の法改正で廃止された。したがって、<strong>現在は存在しない。</strong></p><p>現在でも戸籍制度はあるが、明治時代のものとはちがい、「戸主」「家族」という概念はない。ただ、戸籍の記載順でいちばんめの人 (現行の戸籍法 9条にいう「筆頭に記載した者」) が、「筆頭者」と呼ばれている。</p><p>戸籍の筆頭者以外のメンバーは、結婚したとき (戸籍法 16条) か同一氏の子供ができたとき (17条) に独立し、新戸籍が編成される。このため、現行制度の戸籍は、2世代をこえて存続できない。筆頭者からみた場合、子供は同一戸籍に入りうるが、孫は入らないのである。</p><p>明治民法が想定したような、子供、孫、ひ孫……のように未来の世代が戸籍に登録されていくことによって永続する「家」は、現行法の下ではありえない。戸籍に記載された人々は結婚するなどして別の戸籍になるか、死亡するかしていくので、いずれその戸籍は空っぽになる。あとにのこるのは、かつてこの戸籍にこういうメンバーがいたという事実と、その人たちにどのような戸籍上の移動 (出生・死亡・婚姻など) があったかの記録である。</p><p>だから、明治民法型の「家」というのは、今日の制度では実現しようがない。もし実現したいなら、法律を変えて、「家」制度を復活させるしかない。</p> </div> <div class="section"> <h4>経営体としての「家」</h4> <p>もうひとつの「家」の概念は、伝統的な日本社会の家族の実態に根差すものである。</p> <blockquote> <p>日本の近代以前からの *伝統として、家族生活の統率者である家長のもとに、*家族そのものに属する財産をもち、家職や *家業を営み、家族が世代を超えて存続し繁栄することに重点をおく生活規範の体系を家制度とよぶ。<br /> ―――――<br /> 石原 邦雄「家制度」『新社会学辞典』有斐閣 (<del>2013</del><ins>1993</ins>) <a href="https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4641002584/hatena-blog-22/">ISBN:4641002584</a><br /> p. 32<br /> 〔*印は説明が別に立項されている言葉〕</p> </blockquote> <p>「家業」を営む家族経営体は、現在でもたくさんある。時代がちがうので、昔の伝統的な「家」とおなじというわけにはいかないが、同様のことを現代風にアレンジしながら実現している。</p><p>もちろん、家族にそのまま財産をもたせて家業を営ませるような、直接的な法制度は、現在の日本社会にはない。しかし、私たちが団体を創ったり事業を経営したりする自由は一般的にあるわけである。それがたまたま家族によっておこなわれるとしても、何もおかしいことはない。</p><p>ひとつの方法は、会社組織をつくって役員を親族で固め、社長の子供が次の社長になる世襲制度にすることである。もし社長に子供がいなければ、次期社長を養子とすればいい。</p><p>もうひとつの方法は、事業主個人の財産にもとづいて個人が経営する自営業としての体裁をとり、親族がその事業に協力することである。しばしば、明確な雇用契約なしに実質的な労働をおこなういわゆる「家族従業者」のかたちをとる。このような事業体は労働基準法の規定が適用されない例外となっており (労働基準法 116条2項)、その実態を把握しにくいなど、さまざまな問題が指摘されながらも、現在でも広くおこなわれている。</p><p><strong>このような意味での「家」を経営し、存続させていくにあたって、戸籍上の「氏」のちがいは何の障害にもならない。</strong>佐藤氏が社長をつとめる「佐藤商会」の従業員が全員佐藤氏でなければならないということはない。次期社長が鈴木氏であっても何も問題ないであろう。個人自営業として事業をおこなう場合、次世代にどうやって財産等を継承するかが問題になるが、それは遺言 (遺贈の場合) あるいは続柄 (法定相続の場合) で決まる。氏が別だから継承できないとかいうことはない。</p><p>もちろん、当事者の心情として、「佐藤商会は代々佐藤氏の人に継いでいってもらいたい」という希望を持つことはありうる。その場合は、なんとかしてその人に氏を変更してもらえばよい。これは現行法でも養子縁組等を活用することで可能であり、現にしばしばおこなわれている。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="name">家名を存続させるには何が必要か</h3> <p>日経コラムが指す「家」というのは、以上のような意味でのものではなく、子孫が祖先とおなじ氏を保持している、というだけのことのようだ。伝統的な家制度でも、「家名」を継ぐことが大切な要素だったことは確かである。いまやその部分だけが「家」の要素として認識されているのかもしれない。当該部分をもういちどみておこう。</p> <blockquote cite="https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/"> <p>少子化が進む中で一人っ子同士が結婚すると、いずれかの家が絶えることを懸念する親もいる。2人の孫に双方の家を継いでもらえることも夫婦別姓選択の大きな効用である。ただし、この場合には子の姓についても統一しない選択肢が必要となる。<br /> ―――――<br /> 吾妻橋「夫婦別姓は家制度を壊すか」(大機小機) 日本経済新聞 2021年3月9日 2:00</p> <cite><a href="https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/">https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69781280Y1A300C2EN2000/</a></cite> </blockquote> <p>たとえば、佐藤Aという人に子供がひとりだけいたとする。この子供Bが鈴木Xと結婚してその際に「鈴木」氏を選択したとすると、鈴木Bという氏名になり、佐藤氏ではなくなってしまう。Bさんに子供 (Aさんからみると孫) ができたとすると、その氏名は鈴木Y、鈴木Z……等になるので、やはり佐藤氏ではない。こうした状況を「(佐藤) 家が絶える」と表現しているのだろう。</p><p>しかし、ここでどうしても佐藤家が「絶える」のがいやだと考えるなら、それを避ける方法はある。養子をとればいいのである。養子になるのは鈴木Xさんでも鈴木Yさんでもいいし、ほかのだれでもいい。佐藤Aさんを養親とする養子縁組をおこない、養子が佐藤氏となれば、子供の代に「佐藤」氏がのこる。</p><p>一方、法改正して選択的夫婦別氏制度が導入されたとしたらどうか。この場合、確かに、佐藤Bさんと鈴木Xさんが結婚後もそれぞれ佐藤氏、鈴木氏を維持することが可能にはなる。しかしこれは「選択的」な制度なのだから、どちらの氏を選ぶかはBさんやXさんの意思次第であり、Aさんに決定権はない。さらに孫の代まで「佐藤」氏をのこすには、Bさんに子供ができたときに子供に「佐藤」氏をつけてもらう必要があり、さらにその孫がつぎの世代の子供をもうけるときまで「佐藤」氏を保持してもらわねばならない。</p><p>このように考えると、選択的夫婦別氏制度を導入したとしても。「2人の孫に双方の家を継いでもら」うのは簡単なことではない。それには、子供や孫に特定の氏を確実に選択させる強制力が必要になる。そして、たとえば佐藤Aさんの経済力とか同族集団の圧力とかによってそうした強制が実際におこなわれたとしたら、それはBさんやその子供にとっては自由な選択とはいえまい。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">夫婦別氏反対の論理</h3> <p>このように、日経のコラムは基本的な認識がいろいろ変なのであるが、それ以上に問題なことがある。それは、こういう考えかたをしていると、夫婦別氏反対論の論点を見誤るということである。実際、このコラムの主張が正しいなら、夫婦同氏を強制する理由は何もないことになる。それでは、なぜかくも強硬な反対意見が維持されつづけているかがわからないではないか。</p><p>ここまで整理してきたことから、<strong>夫婦別氏反対論者は、家制度を擁護しているわけではない</strong> ことがわかる。彼らは現行法を前提にして議論しているのであり、そこには明治民法型の「家」はすでに存在しない。家族経営体としての「家」は実際に多数存在しているが、それらは戸籍に基づいて維持されているのではなく、氏は一義的に重要なものではない。また当事者たちがもし重視するなら、養子縁組なりなんなりの手段によって同氏だけの経営体を維持することは現在でも可能である。だいたい、もし伝統的な家族経営型自営業がそんなに重要だと考えるなら、苦境に陥っている業者を支援し、その経営基盤を強化するために力を入れるべき実質的な政策がいろいろあるだろう。</p><p>上述のように、現在の戸籍には、2世代の親子しか載らない。夫婦同氏が問題になるのは、夫婦だけの戸籍か、それに未婚の子供が加わった戸籍の2種類である。つまり、その戸籍に載っているのは核家族であり、核家族の内部では氏は統一しなければならない (逆にいえば、核家族の外部とは氏がちがっていても無問題)、というのが夫婦別氏反対派の主張ということになる。<strong>彼らが守ろうとしているものは、核家族なのである。</strong></p><p>もうひとつ、夫婦別氏反対論の重要な特徴として、それが通称使用の拡大の主張とともになされているという点がある。これ自体は昔からあるもので、たとえば1990年代半ばのこととしてつぎのような証言がある:</p> <blockquote cite="https://www.asahi.com/articles/ASP1R5HKWP1NUPQJ011.html"> <p>法制審の幹事役であった私は、95年から96年にかけて、延べ200人近くの自民党議員を回って説明しました。すると、予想に反して、反対する意見が大多数だったのです。</p><p>〔……〕</p><p>――反対の理由は?</p><p> 「家族の絆を弱める」「通称使用を認めれば足りる」というのが主なものでした。<br /> ―――――<br /> 「夫婦別姓、反対派は「生半可じゃない」 無念の元担当者」(小池信行インタビュー) 朝日新聞DIGITAL 2021年1月29日 14時00分</p> <cite><a href="https://www.asahi.com/articles/ASP1R5HKWP1NUPQJ011.html">https://www.asahi.com/articles/ASP1R5HKWP1NUPQJ011.html</a></cite> </blockquote> <p>この動きは近年とみに加速している。住民票やパスポートは全部「佐藤」名義でよい。税や社会保険の手続きも「佐藤」の名前でおこない、周囲もみんな「佐藤さん」と呼んでいる。それで何の問題もないが、ほとんど誰も知らない戸籍上の氏だけは「鈴木」にしないといけない、という主張が、現在の夫婦別氏反対論である。つまり、<strong>実際の社会生活とは何の関係もないところで、政府が管理する親族関係データベースにだけは「氏」を書き込んでおかないと災いがもたらされる、という呪術的な主張</strong> が大真面目になされてるわけだ。</p><p>これらのことからわかるように、夫婦別氏反対論者がこだわっているのは「家制度」ではない。また私たちが日常生活で使う、個人を識別するための「氏名」でもない。彼らが守りたいのは核家族の内部ではたらく「絆」である。そしてそれを実現するための呪術的な装置として、戸籍と「氏」がある。つまるところ、戸籍に秘められた「氏」のパワーがなくなれば核家族が解体してしまう! というのが、夫婦別氏反対論の要点ということになる。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="history">履歴</h3> <dl> <dt>2021-03-15</dt> <dd>公開</dd> <dt>2021-09-22</dt> <dd>有斐閣『新社会学辞典』の出版年を2013→1993に訂正 (2箇所)</dd> </dl> </div> remcat Interesting papers in IV ISA Forum of Sociology hatenablog://entry/26006613696419900 2021-02-26T00:14:17+09:00 2021-02-26T00:14:17+09:00 International Association of Sociology holds the 4th ISA Forum of Sociology (online) from February 23 (Tuesday) to 28 (Sunday).Below is the list of 98 papers of my interest, selected based on title and abstract.(Date in BRT: Brazil Standard Time = GMT+3)23 February (2021) 09:00 - 09:15 Selen GOBELEZ… <p><a href="https://www.isa-sociology.org">International Association of Sociology</a> holds <a href="https://www.isa-sociology.org/en/conferences/forum/porto-alegre-2021">the 4th ISA Forum of Sociology</a> (online) from February 23 (Tuesday) to 28 (Sunday).</p><p>Below is the list of 98 papers of my interest, selected based on title and abstract.</p><p>(Date in BRT: Brazil Standard Time = GMT+3)</p><p>23 February (2021) 09:00 - 09:15<br /> Selen GOBELEZ DUMAS, EHESS, France<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112135">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112135</a><br /> 177.1 The Impacts of the Upsurge of Caesarean Births on Women’s Childbirth Experiences in Turkey</p><p>23 February (2021) 09:24 - 09:36<br /> Marcela FEITAL, Universidade Estadual de Campinas, Brazil and Lucia DA COSTA FERREIRA, Nepam - Universidade Estadual de Campinas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118176">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118176</a><br /> 281.3 Climate Narratives and the Colonizing Mindset: Reflecting about How New Climate Pattern Has Been Teaching Us about Our Societies</p><p>23 February (2021) 10:30 - 10:45<br /> Leticia DE RESENDE, Fundacao Joao Pinheiro, Brazil and Leticia GODINHO DE SOUZA, Fundacao Joao Pinheiro, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118701">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118701</a><br /> 397.7 Feminist Movements Networks in Minas Gerais, State and Democracy</p><p>23 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Constance BEAUFILS, French Institute for Demographic Studies, France<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112678">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112678</a><br /> 132.1 The Consequences of Non-Employment on Women's Later Life Health: Contributions from a Life Course Perspective.</p><p>23 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Hideki TARUMOTO, Waseda University, Japan<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112661">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112661</a><br /> 378.1 Japanese Super-Diversity in Immigrants?</p><p>23 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Nadia Asheulova<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119188">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119188</a><br /> 268.1 - The Role of the International Sociological Association for Boosting Academic Career and Building Global Networks</p><p>23 February (2021) 11:15 - 11:30<br /> Constance BEAUFILS, French Institute for Demographic Studies, France and Anna BARBUSCIA, INED, France<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114490">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114490</a><br /> 132.3 Work-Family Trajectories and Multidimensional Wellbeing. Evidence from France.</p><p>23 February (2021) 11:30 - 11:45<br /> Anna MORERO BELTRAN, Universitat de Barcelona, Spain and Ana BALLESTEROS PENA, University of Toronto (Canada) and Universidade da Coruna (Spain), Spain<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132440">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132440</a><br /> 226.4 Institutional Violence in Gender-Based Violence Services in Catalonia</p><p>23 February (2021) 11:30 - 11:45<br /> Elisabeth TORRAS GOMEZ, University of Barcelona, Spain<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117344">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117344</a><br /> 398.4 The Pleasure in Falling in Love</p><p>23 February (2021) 11:45 - 12:00<br /> Jessica FERNANDES, Federal University of Sao Paulo, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116150">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116150</a><br /> 634.5 Gender and Law Schools in Sao Paulo</p><p>23 February (2021) 11:45 - 12:00<br /> Terra MANCA, Dalhousie University, Canada<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132940">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132940</a><br /> 740.5 “Protect Your Baby:” Narratives of Risk and Maternal Responsibility in Information about Vaccination in Pregnancy</p><p>23 February (2021) 12:00 - 12:15<br /> Felicia PICANCO, Federal University of Rio de Janeiro, Brazil and Clara ARAUJO, State University of Rio de JAneiro, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117886">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117886</a><br /> 364.6 Gender Roles and Division of Household Work By Gender and Race in Brazil</p><p>23 February (2021) 13:25 - 13:50<br /> Boaventura DE SOUSA SANTOS, University of Coimbra, Portugal<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115442">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115442</a><br /> 1.2 The Utopia of Democracies or the Democracy of Utopias</p><p>23 February (2021) 16:00 - 16:15<br /> Marlise MATOS ALMEIDA, Universidade Federal de Minas Gerais, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115495">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115495</a><br /> 399.1 Gender Ideology, Anti-Gender Activism and Political Violence in Brazil</p><p>23 February (2021) 16:30 - 16:45<br /> Xu CHEN, School of Sociology, Wuhan University, China; Gerontology Research Center, Wuhan University, China<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130915">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130915</a><br /> 133.3 Elderly Care in Wuhan City during COVID-19 Pandemic: New Strategies, New Phenomena and New Outlooks</p><p>23 February (2021) 16:45 - 17:0<br /> Janet CONWAY, Brock University, Canada<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115482">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115482</a><br /> 399.4 Anti-Feminism and the Rise of the Right in Liberal Canada</p><p>23 February (2021) 16:45 - 17:00<br /> Fernando MUNGUIA GALEANA, FCPyS/UNAM, Mexico<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118971">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118971</a><br /> 676.4 Is There a Historical Sociology in Mexico? Expressions and Disputes of a Field Under Construction Since the Global South's View</p><p>23 February (2021) 16:45 - 17:00<br /> Zehra Zeynep SADIKOGLU, Istanbul Medeniyet University, Turkey<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114160">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114160</a><br /> 741.4 Medicalization of Pregnancy in Contemporary Turkey: The Effects of Risk Discourses on Turkish Women’s Experiences</p><p>23 February (2021) 17:00 - 17:15<br /> Analia TORRES, CIEG/ISCSP-University of Lisbon VAT#600019152, Portugal<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120254">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120254</a><br /> 399.5 Why Are Gender Equality Issues Under Attack. a Reflection from a European Perspective</p><p>23 February (2021) 18:00 - 18:15<br /> Pedro BORBA, State University of Londrina (Brazil), Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119185">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119185</a><br /> 677.2 Historical Sociology As Political Theory: A Reappraisal of Postcolonial State Formation in Nineteenth-Century Latin America</p><p>23 February (2021) 18:30 - 18:45<br /> Catharina DE ANGELO, Universidade Estadual de Campinas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120821">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120821</a><br /> 167.4 Korean Softpower through Cultural Centers</p><p>23 February (2021) 18:45 - 19:00<br /> Jane PILCHER, Nottingham Trent University, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/131619">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/131619</a><br /> 228.5 Names and Naming in Adoption: A Critical Analysis of Social Policy and LAW in England</p><p>24 February (2021) 09:00 - 09:15<br /> Marilia DAVID, Adriano PREMEBIDA, Jalcione ALMEIDA and Lorena FLEURY, (1)Federal University of Rio Grande do Sul (UFRGS), Brazil, Brazil, (2)UFRGS, Brazil, (3)Federal University of Rio Grande do Sul, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115050">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115050</a><br /> 270.1 Sociology of Science and Technology in Brazil: Current Themes and Theoretical Perspectives</p><p>24 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Guillermina JASSO, Sociology, New York University, New York, NY, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112884">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112884</a><br /> 525.2 Do Economists Have a Sense of Justice?</p><p>24 February (2021) 09:20 - 09:40<br /> Carolina ASSUMPCAO, Universidade Estadual de Campinas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119503">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119503</a><br /> 168.2 Women As Mediators of National Identities in the Globalization</p><p>24 February (2021) 09:20 - 09:40<br /> Chisato ATOBE, Shizuoka university, Japan<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113242">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113242</a><br /> JS-5.2 Who Supported the Career Development of Japanese Highly Educated Women? : Focus on Social Division of Women between Elementary School Teachers and House Wives in Tokyo between the 1970s and 1980s.</p><p>24 February (2021) 09:45 - 10:00<br /> Alevtina STARSHINOVA, Ural Federal University, Russian Federation and Elena ARKHIPOVA, Ural Federal University named after the first President of Russia B.N.Yeltsin, Russian Federation<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115784">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115784</a><br /> 229.4 Social Entrepreneurship As a New Direction in the Welfare in Russia</p><p>24 February (2021) 10:15 - 10:15<br /> Pavel DERIUGIN, Saint Petersburg State University, Russia, I SHI, Saint-Petersburg State University, Russian Federation and Liubov LEBEDINTSEVA, Saint Petersburg State University, Russian Federation<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118576">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118576</a><br /> 229.10 Values As the Social Fabric of the Modern Social Welfare System in China</p><p>24 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Ganna GERASYMENKO, Institute for Demography and Social Studies, NAS of Ukraine, Kyiv, Ukraine<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/107536">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/107536</a><br /> 402.1 Gender-Specific Forms of Corruption</p><p>24 February (2021) 10:55 - 11:05<br /> Rosemary AUCHMUTY, University of Reading,, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115726">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115726</a><br /> 150.2 Is Divorce Ever a Feminist Issue?</p><p>24 February (2021) 10:57 - 11:09<br /> Henrique COSTA, Universidade Estadual de Campinas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115507">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115507</a><br /> JS-12.2 Entrepreneurship and Engagement Among Young People from the Outskirts of Sao Paulo</p><p>24 February (2021) 11:15 - 11:30<br /> Giuseppe PELLEGRINI, University of Trento, Italy<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116333">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116333</a><br /> 169.3 Public Communication of Science: Trust and Credibility in the Eyes of the Public the Results of the International Concise Project Regarding Channels and Sources of Communication</p><p>24 February (2021) 11:30 - 11:45<br /> Matheus RIBEIRO, University of Brasilia, Brazil and Rodolfo NOBREGA, Universidade de Brasilia, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117482">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117482</a><br /> 91.5 Geopolitics of Knowledge and Social Theory: A Study of Social Theory in Brazilian Social Science Journals</p><p>24 February (2021) 14:15 - 14:30<br /> Maria Isabel ESPINOZA, Rutgers University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/111770">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/111770</a><br /> 170.1 The Stories We Tell about Flooding, Climate Patterns, and Infectious Diseases. Media Framing of a Dengue Epidemic in Peru after the Unexpected El Nino Costero of 2017</p><p>24 February (2021) 14:15 - 14:35<br /> Nathalie ITABORAI, Social and Political Studies Institute (IESP), Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120360">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120360</a><br /> 76.1 Brazilian Family Policies in a Comparative Perspective: Unequal Protection from the Cradle</p><p>24 February (2021) 14:45 - 15:00<br /> Kristy KELLY, Columbia University | Drexel University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/131780">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/131780</a><br /> 107.3 Chasing Shadows: Towards a Theory of Gender and Corruption in Vietnam</p><p>24 February (2021) 15:00 - 15:15<br /> Jaroslaw KILIAS, Institute of Sociology, Warsaw University, Poland<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115503">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115503</a><br /> 92.4 The ISA 1949-1970 ? the European Semiperiphery and the Spread of Americanized Western Sociology into the East European Peripheries</p><p>24 February (2021) 15:00 - 15:15<br /> Theresa MENTRUP, University of Mainz, Germany<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119949">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119949</a><br /> 489.4 Framing Catastrophe: Media Representations of Recent Dam Disasters in Brazil</p><p>24 February (2021) 16:00 - 17:30<br /> Nina RUSANOVA, The Russian Academy of Sciences THE INSTITUTE OF SOCIAL AND ECONOMIC STUDIES OF POPULATION, Russian Federation<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118739">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118739</a><br /> 182.4 Assisted Reproductive Technologies: Infertility Treatment or an Alternative to Natural Conception?</p><p>24 February (2021) 16:15 - 16:30<br /> Yasmin MERTEHIKIAN, University of Pennsylvania, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120802">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120802</a><br /> 518.2 Argentina’s Demographic Transition: A National-Level Analysis of Fertility Patterns (1980-2010)</p><p>24 February (2021) 16:30 - 16:45<br /> Eriko KIMURA, Japan Women's University, Japan and Ichiyo HABUCHI, Hirosaki University, Japan<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116542">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116542</a><br /> 431.3 Romantic Behavior of Young People Living in Rural Japan:Network and Trans-Locality</p><p>24 February (2021) 16:30 - 17:00<br /> Jascha DRAEGER, GESIS, Germany and Alejandra RODRIGUEZ SANCHEZ, Humboldt University Berlin, Germany<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113192">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113192</a><br /> 336.2 The Role of Missing or Wrong Knowledge for Social Stratification at the Transition to Secondary School in Germany</p><p>24 February (2021) 17:45 - 18:00<br /> Sari HANAFI, American University of Beirut, Lebanon<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115480">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115480</a><br /> 13.1 Academic Journals: A Global Academic Division of Labor? or Self-Sufficient National Fields?</p><p>24 February (2021) 18:15 - 18:30<br /> Kwang-Yeong SHIN, Chung-Ang University, Republic of Korea<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/111556">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/111556</a><br /> 12.3 The Politics of Real Utopias in South Korea</p><p>24 February (2021) 18:30 - 18:45<br /> Breno BRINGEL, State University of Rio de Janeiro, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115489">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115489</a><br /> 13.4 Knowledge Production, Asymmetric Diffusion and Hidden Genealogies: the Case of Internal Colonialism</p><p>25 February (2021) 09:00 - 09:20<br /> Dudley POSTON, Mario SUAREZ and Guadalupe MARQUEZ-VELARDE, (1)Texas A&M University, USA, (2)Utah State University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/108912">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/108912</a><br /> 519.1 Demographic Data and Analyses of the Transgender and Cisgender Populations</p><p>25 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Amrita PANDE, Department of Sociology, University of Cape Town, South Africa<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112488">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112488</a><br /> 274.2 Transnational Reproduction of Whiteness</p><p>25 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Josef GINNERSKOV, Uppsala University, Sweden<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117080">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117080</a><br /> 94.2 Outlining the Content of Assessed Sociolgical Knowledge ? the Case of Swedish Sociology Dissertations, 1949-2019</p><p>25 February (2021) 09:32 - 09:48<br /> Falk ECKERT, Institute for Social Science Research - ISF Munich, Germany, Germany and Laura BEHRMANN, DZHW Hannover, Germany<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116470">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116470</a><br /> 245.3 The Practice, Strategies and Boundaries of Method Making in Qualitative Social Science Research on Social Inequality: A Comparative Analysis of Discourse Production in English- and German-Speaking Journals Since 1995 to 2018</p><p>25 February (2021) 09:45 - 10:00<br /> Eduardo ALMEIDA, Universidad Complutense de Madrid, Spain<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130981">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130981</a><br /> 733.4 Social Triage in a Franchised State</p><p>25 February (2021) 09:45 - 10:00<br /> Terra MANCA, Dalhousie University, Canada<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132945">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132945</a><br /> 747.4 Pregnancy, Patriarchy, and the Prioritisation of Risks during the COVID-19 Global Pandemic</p><p>25 February (2021) 09:48 - 10:04<br /> Georg MUELLER, Univ. of Fribourg, Switzerland<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130060">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130060</a><br /> 245.4 Information Theory As a Toolbox for Comparative Analyses of Social Signals</p><p>25 February (2021) 10:00 - 10:15<br /> Jeffrey BROADBENT, University of Minnesota, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132384">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132384</a><br /> 290.5 Power, Knowledge and Networks in Climate Change Policy-Making: A Japanese Case</p><p>25 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Jose SILVA, Federal University of Campina Grande, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/110371">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/110371</a><br /> 492.1 National Sanitation Policy and Urban Planning: An Analysis from the Perspective of Disaster Sociology and Environmental Justice</p><p>25 February (2021) 10:45 - 11:00<br /> Tom DWYER, University of Campinas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114415">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114415</a><br /> 95.1 Preparing for ISA’S 75TH Anniversary ? Revisiting ‘a Brief History of the ISA’</p><p>25 February (2021) 10:45 - 11:15<br /> Masayuki KANAI, Senshu University, Kawasaki, Kanagawa, Japan<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118536">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118536</a><br /> 555.1 Rationality and Subjective Wellbeing in Different Institutional Contexts</p><p>25 February (2021) 11:30 - 11:45<br /> Oxana POSUKHOVA, Pavlina BALDOVSKAYA and Ludmila KLIMENKO, (1)Southern Federal University, Russian Federation, (2)Southern Federal University, Russia<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112234">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112234</a><br /> 639.4 Professional Dynasties: Social Monopoly or Knowledge Capitalization?</p><p>25 February (2021) 14:15 - 14:45<br /> David BARTRAM, University of Leicester, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112942">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112942</a><br /> 139.1 Age and Life Satisfaction: Getting Control Variables Under Control</p><p>25 February (2021) 14:30 - 14:45<br /> Aline DE SA COTRIM, Fundacao Getulio Vargas, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114468">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114468</a><br /> 96.2 Social Sciences and Migration Studies in Argentina and Brazil: A Comparison</p><p>25 February (2021) 14:30 - 14:45<br /> Camila Gabriel AMORIM, Pontificia Universidade Catolica de Minas Gerais, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130217">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130217</a><br /> 565.2 Theory of Life History and Theory of Life Course: Convergences and Contributions to the Study of Infrational Trajectories of Boys and Girls</p><p>25 February (2021) 15:00 - 15:15<br /> Leonardo DA SILVA, CEBRAP, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118986">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118986</a><br /> 582.4 The Political Polarization in Brazil and the New Right´s Publishing Strategy</p><p>25 February (2021) 15:00 - 15:15<br /> Yunmyung CHO, Yonsei University, Republic of Korea and Young-Mi KIM, Yonsei University, South Korea<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132245">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132245</a><br /> 521.4 Gender Ideology and Fertility in South Korea: Trends amid the Male Breadwinner Model in Transition?</p><p>25 February (2021) 16:00 - 16:15<br /> Jose Victor REGADAS LUIZ, Fundacao Oswaldo Cruz, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114817">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114817</a><br /> 97.1 The Crisis of Cold War Social Sciences and the Origins of Think Thanks in the United States</p><p>25 February (2021) 16:30 - 16:45<br /> Martin GAWSKI, Universidade Federal do Rio Grande do Sul, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116772">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116772</a><br /> 155.3 An Evidence-Based Code? Measuring the Impact of Empirical Socio-Legal Research on the Legislative Process of the 2015 Brazilian Code of Civil Procedure</p><p>25 February (2021) 16:45 - 17:00<br /> Miri GAL-EZER, Kinneret College on the Sea of Galilee, Israel<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132823">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132823</a><br /> 461.4 The RC36 Covid-19 Pandemic Survey: The Political-Economy Context for the Israeli Case Study</p><p>25 February (2021) 18:45 - 19:15<br /> Ram BHAGAT, International Institute for Population Sciences, India<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112567">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/112567</a><br /> 16.3 Census, Politics and Construction of Identities in India</p><p>26 February (2021) 09:00 - 09:15<br /> Mayya SHMIDT, Uppsala University, Sweden<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114420">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114420</a><br /> JS-46.1 What Is ‘Sharing’ in Sharing Economy?</p><p>26 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Olga SANMIGUEL-VALDERRAMA, University of Cincinnati, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130240">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/130240</a><br /> 566.2 Where Did I Go? Reflections on so-Called "Late Mothering"</p><p>26 February (2021) 09:25 - 09:50<br /> Ricardo COSTA DE OLIVEIRA, Universidade Federal do Parana, Brazil, Jose Marciano MONTEIRO, UFCG, Brazil and Monica Helena Harrich Silva GOULART, UTFPR/UFPR, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113434">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113434</a><br /> 222.3 Democracy, Family Transmission, Kinship and Political Power in the Bolsonaro Government</p><p>26 February (2021) 09:30 - 09:45<br /> Germano SCHWARTZ, UniRitter, Brazil and Renata COSTA, Unilasalle, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118446">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118446</a><br /> 156.3 Are Constitutions Dead?</p><p>26 February (2021) 10:00 - 10:00<br /> Marcia CANDIDO, Instituto de Estudos Sociais e Politicos (IESP-UERJ), Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119131">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119131</a><br /> 98.6 Sociology of Political Science: Internationalization Patterns and Gender Inequalities</p><p>26 February (2021) 10:00 - 10:15<br /> Mariana DE ARAUJO CUNHA and Christiaan MONDEN, Nuffield College and Sociology Department, University of Oxford, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114519">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114519</a><br /> 522.5 Only-Child Families in the Context of Fertility Decline: A Global Perspective</p><p>26 February (2021) 10:57 - 11:09<br /> Stefan LUCKING, Hans-Bockler-Stiftung, Germany<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119184">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119184</a><br /> 124.2 Algorithmic Decision-Making and Workplace Democracy</p><p>26 February (2021) 11:00 - 11:15<br /> Kate WILLIAMS, The University of Cambridge, United Kingdom; The University of York, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119312">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119312</a><br /> JS-52.2 Investigating Shared Value behind Digital Metrics of Research Engagement and Impact</p><p>26 February (2021) 11:15 - 11:30<br /> Gabriela DE BRITO CARUSO, Institute of Social and Political Studies, State University of Rio de Janeiro, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116315">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116315</a><br /> 99.3 The Institutionalization of Women's, Gender and Feminist Studies in Brazilian Social Sciences</p><p>26 February (2021) 11:15 - 11:30<br /> Marcin ZIELINSKI, Institute of Philosophy and Sociology, Polish Academy of Sciences, Poland<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132896">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/132896</a><br /> 250.3 The Silent Tool of a Devil ? on Data Weighting in Survey Practice.</p><p>26 February (2021) 11:45 - 12:00<br /> Nathalia LOURUZ DE MELLO, Pontificia Universidade Catolica do Rio Grande do Sul, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115049">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115049</a><br /> 479.5 Biography and Educational Trajectory of a Young Angolan Woman in Brazil.</p><p>26 February (2021) 14:15 - 14:30<br /> Jaime SANTOS JUNIOR, Federal University of Parana, Brazil and Marilda Aparecida MENEZES, Federal University of ABC, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118858">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118858</a><br /> 480.1 Biographies and the Limits of Censorship: Methodological Frontiers</p><p>26 February (2021) 14:15 - 14:30<br /> Ma HUIDI, Chinese National Academy of Arts, China<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115154">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115154</a><br /> 166.1 An Image of Leisure Sociology: "996" Phenomenon in China</p><p>26 February (2021) 14:45 - 15:00<br /> Kerry ARD and Thelma VELEZ, the Ohio State University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116536">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116536</a><br /> 297.3 Developing and Testing a Coupled Human & Natural Systems (CHANS) Social Movement Theory</p><p>26 February (2021) 16:00 - 16:15<br /> Byron VILLACIS, UC Berkeley, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117245">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117245</a><br /> JS-65.1 Population Censuses in Crisis: The Cases of US, Brazil and Ecuador</p><p>26 February (2021) 16:30 - 16:45<br /> Vicky DEMOS, University of Minnesota, Morris, USA, Marcia SEGAL, Indiana University Southeast, USA and Kristy KELLY, Columbia University | Drexel University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116399">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/116399</a><br /> 410.3 Advances in Gender Research (Volumes 27 and 28)</p><p>26 February (2021) 16:45 - 17:00<br /> Mina BAGINOVA, Charles University Prague, Czech Republic<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/107712">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/107712</a><br /> 587.4 Rising Against the Radical Rigth: New Feminist Wave in Central-Eastern Europe</p><p>26 February (2021) 17:00 - 17:00<br /> Julia CARTER, University of the West of England, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117102">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/117102</a><br /> 81.5 White Wedding Traditions and Inequalities in Britain</p><p>26 February (2021) 17:00 - 17:15<br /> Janine TREVISAN, IFRS Bento Goncalves, Brazil and Eduarda DEMARCHI, IFRS, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119491">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119491</a><br /> Religion, Gender and Politics in Brazil: The Case of the Ministry of Women, Family and Human Rights in Bolsonaro´s Government</p><p>27 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Kate WILLIAMS, The University of York, United Kingdom; The University of Cambridge, United Kingdom<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119317">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119317</a><br /> 279.2 Playing the Fields: Theorising Research Impact and Its Assessment</p><p>27 February (2021) 09:15 - 09:30<br /> Zeynep AYDAR, Albert-Ludwigs Universitat Freiburg, Germany<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115987">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115987</a><br /> 44.2 How to Transfer Artistic Knowledge? the Case of Turkish Musicians in Germany</p><p>27 February (2021) 09:30 - 09:45<br /> Roberta EBERHARDT, PUCRS - Pontificia Universidade Catolica do Rio Grande do Sul, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118947">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118947</a><br /> 374.3 Relations of Paid Domestic Work in Brazil</p><p>27 February (2021) 10:00 - 10:15<br /> Keiko IKEDA, Shizuoka University, Japan<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120335">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120335</a><br /> 498.5 Locally Accepted and Gender Sensitive: Gender Equity Center’s Engagement with Disaster Affected Communities in the Great East Japan Disaster, 2011</p><p>27 February (2021) 10:45 - 10:55<br /> Teresa LOPO and Vitor ROSA, CeiED - Interdisciplinary Research Centre for Education and Development, Portugal<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120094">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/120094</a><br /> 57.1 PISA As Big Science</p><p>27 February (2021) 11:00 - 11:15<br /> Liviu-Catalin MARA, University of Extremadura, Spain<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118240">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/118240</a><br /> 738.2 Researchers and the Universal Human Right to Enjoy the Benefits of Science</p><p>27 February (2021) 11:15 - 11:30<br /> Rahardhika Arista UTAMA, Northwestern University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114649">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/114649</a><br /> 116.3 How Bureaucratic Clientelism Undermines Redistribution in a Decentralized Democracy</p><p>27 February (2021) 11:25 - 11:45<br /> Zoila PONCE DE LEON, Washington & Lee University, USA<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115384">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115384</a><br /> 240.3 Two Paths to Reform: Political Parties and Technocrats in Latin American Healthcare Policy</p><p>27 February (2021) 14:15 - 14:30<br /> Mario DOMINGUEZ, Dpt. Sociologia. Universitat de Barcelona, Spain<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113829">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/113829</a><br /> JS-80.1 Linking the MICRO and MACRO Indicators of Social Inequalities in Comparative Analysis Among Countries: Provision of Care and Gender Inequality</p><p>27 February (2021) 15:00 - 15:15<br /> Paulo Henrique GRANAFEI, Universidade Federal de Uberlandia, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115543">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115543</a><br /> 425.4 Research Contracts and Controversies in Social Science</p><p>27 February (2021) 16:15 - 16:30<br /> Leticia GODINHO DE SOUZA, Marina AMORIM and Rosania Rodrigues SOUSA, Fundacao Joao Pinheiro, Brazil<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119111">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/119111</a><br /> 414.2 Gender Stereotypes and "Glass Ceiling" in a Strategic Career of the Brazilian Public Service</p><p>27 February (2021) 16:15 - 16:30<br /> Sue Ann BARRATT, The University of the West Indies, Trinidad and Tobago<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115504">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115504</a><br /> JS-84.2 Beyond the Misogyny Frame: Caribbean Media Coverage of Violence Against Women</p><p>28 February (2021) 11:00 - 11:15<br /> Jasmin JOECKS, Anna KUROWSKA and Kerstin PULL, (1)Universitat Tubingen, Germany, (2)University of Warsaw, Poland<br /> <a href="https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115773">https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2020/meetingapp.cgi/Paper/115773</a><br /> JS-86.2 Informal Childcare Vs. Formal Childcare and Its Impact on Maternal Employment in Germany and Poland</p> remcat 森を見なかったのは誰か:「積極的疫学調査要領」をちゃんと読む hatenablog://entry/26006613688630112 2021-02-07T21:42:00+09:00 2021-02-07T22:42:20+09:00 要約 厚生労働省「クラスター対策班」設置以来、日本のCOVID-19対策は、小規模な感染の見逃しを許容しながら大規模な集団感染を重点的に発見する「クラスター対策」を中心に据える所に特徴があると公式に説明されてきた。しかし、実際の「積極的疫学調査」の方法を指示する調査マニュアルを読むかぎり、小規模な感染より大規模な感染の発見を優先せよというような指示はない。むしろ、調査をおこなってきた現場では、小規模であるか大規模であるかにかかわらず、すべての感染連鎖を管理下におくことを目標とする建前で「クラスター対策」を展開してきた。もっとも、実際にすべての感染連鎖を調査することは不可能であるため、調査の現場… <div class="section"> <h3 id="abs">要約</h3> <p>厚生労働省「クラスター対策班」設置以来、日本のCOVID-19対策は、小規模な感染の見逃しを許容しながら大規模な集団感染を重点的に発見する「クラスター対策」を中心に据える所に特徴があると公式に説明されてきた。しかし、実際の「積極的疫学調査」の方法を指示する調査マニュアルを読むかぎり、小規模な感染より大規模な感染の発見を優先せよというような指示はない。むしろ、調査をおこなってきた現場では、小規模であるか大規模であるかにかかわらず、すべての感染連鎖を管理下におくことを目標とする建前で「クラスター対策」を展開してきた。もっとも、実際にすべての感染連鎖を調査することは不可能であるため、調査の現場では、対象となる「濃厚接触者」の範囲をきわめてせまく限定することにより、調査を実行可能な範囲におさえてきた。この調査対象の抑制策は、感染の規模にかかわらず適用される。このように、現場の「クラスター対策」は公式の「クラスター対策」と全然ちがう内容なのであるが、おなじ名前で呼ばれてきた。7月末になると、専門家は公式の「クラスター対策」を放棄し、小規模な感染への対策こそが重要という姿勢に転向する。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="toc">目次</h3> <ul> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#forest">&#x516C;&#x5F0F;&#x306E;&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x5BFE;&#x7B56;&#x300D;</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#tree">&#x73FE;&#x5834;&#x306E;&#x300C;&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x5BFE;&#x7B56;&#x300D;(&#x76EE;&#x7684;&#x307E;&#x305F;&#x306F;&#x5EFA;&#x524D;)</a></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#real">&#x679D;&#x5207;&#x308A;&#x306E;&#x6280;&#x6CD5;</a> <ul> <li>後ろ向き調査は優先度が低い</li> <li>「濃厚接触者」の絞り込み</li> <li>「現場のクラスター対策」の実像</li> </ul></li> <li><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210207/tree#change">&#x5C02;&#x9580;&#x5BB6;&#x305F;&#x3061;&#x306E;&#x8EE2;&#x5411;</a></li> </ul> </div> <div class="section"> <h3 id="forest">公式の「クラスター対策」</h3> <p>日本政府がCOVID-19の流行に対応するために2月以降採用してきたとされる「クラスター対策」。その基本的な戦略について、クラスター対策班を率いてきた押谷仁はつぎのように説明している。</p> <blockquote cite="http://web.archive.org/web/20200531102340/http"> <p>ひと言でいえば、日本の戦略は「森を見て全体像を把握する」ことで、ニューヨークをはじめ欧米諸国は「木を見る」方法だと言えます。</p><p> 欧米諸国は、感染者周辺の接触者を徹底的に検査し、新たな感染者を見つけ出すことで、ウイルスを一つ一つ「叩く」ことに力を入れてきました。</p><p>一方、日本の戦略の肝は、「大きな感染源を見逃さない」という点にあります。われわれがクラスターと呼ぶ、感染が大規模化しそうな感染源を正確に把握し、その周辺をケアし、小さな感染はある程度見逃しがあることを許容することで、消耗戦を避けながら、大きな感染拡大の芽を摘むことに力を注いできたのです。そのような対策の背景には、このウイルスの場合、多くの人は誰にも感染させていないので、ある程度見逃しても、一人の感染者が多くの人に感染させるクラスターさえ発生しなければ、ほとんどの感染連鎖は消滅していく、という事実があります。<br /> ―――――<br /> 押谷仁 (2020)「感染症対策「森を見る」思考を: 何が日本と欧米を分けたのか」(インタビュー) 『外交』61: 6-11.</p> <cite><a href="http://web.archive.org/web/20200531102340/http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2020/05/04_Vol.61_P6-11_Infectiousdiseasemeasures.pdf">http://web.archive.org/web/20200531102340/http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2020/05/04_Vol.61_P6-11_Infectiousdiseasemeasures.pdf</a></cite> </blockquote> <p>ここで押谷は、欧米と比較して日本の戦略の特徴を述べている。日本と状況の共通点が多い環太平洋諸国を無視しているのは奇妙であるが、それは措くとしよう。</p><p>接触者全員を徹底的に調査してすべての感染者を洗いだすのが欧米のやり方だとして、押谷はこれを「木を見る」方法と呼んでいる。これに対して、日本では「小さな感染はある程度見逃しがあることを許容する」が「大きな感染源を見逃さない」戦略をとってきたといい、「森を見て全体像を把握する」のだと形容している。</p><p>これはつまり、日本では感染が大規模かそうでないかによって調査の方法を変えており、大規模な感染のほうを優先的に発見していたという説明である。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="tree">現場の「クラスター対策」(目的または建前)</h3> <p>ところが、実際に日本の現場でおこなわれてきたのは、すべての感染連鎖を管理下におくことを目標とした「積極的疫学調査」であった。これは、押谷の表現では「木を見る」戦略にあたり、欧米とおなじ発想のものであったといえる。</p><p>国立感染症研究所の「積極的疫学調査要領」を見てみよう。これは <a href="https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410AC0000000114">&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x6CD5;</a> 第15条に基づいて保健所がおこなう調査の詳細を定めたマニュアルである。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf"> <p>○目的<br />  本稿は、国内で探知された新型コロナウイルス感染症の患者(確定例)等に対して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第15条による積極的疫学調査を保健所が迅速かつ効果的に実施するため、作成されたものである。</p><br /> <p>○新型コロナウイルス感染症におけるクラスター対策の概念<br />  新型コロナウイルス感染症が国内で観察されて以降、実際に各地で行われてきたクラスター対策は、感染源の推定(さかのぼり調査)及び感染者の濃厚接触者の把握並びに濃厚接触者の適切な管理(行動制限)という、これまでにわが国の感染症対策の中で確立されている接触者調査を中心としている。クラスターの発端が明確で、かつ濃厚接触者のリストアップが適切であれば、既に囲い込まれた範囲で次の感染が発生するため、それ以上のクラスターの連鎖には至らないとされている。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>○積極的疫学調査の考え方<br />  各自治体における新型コロナウイルス感染症に関する積極的疫学調査とは、個々の患者発生をもとにクラスターが発生していることを把握し、原則的には後方視的にその感染源を推定するととともに、前方視的に濃厚接触者の行動制限等により封じ込めを図ることである。なお、クラスターとはリンクが追える集団として確認できる感染者の一群という意味であり、クラスターが検出されることは、積極的疫学調査が順調に進んでいることを示しているとも言える。</p><p> クラスター対策としての積極的疫学調査により、直接的には陽性者周囲の濃厚接触者の把握と適切な管理(健康観察と検査の実施)、間接的には当該陽性者に関連して感染伝播のリスクが高いと考えられた施設の休業や個人の活動の自粛の要請等の対応を実施することにより、次なるクラスターの連鎖は防がれ、感染を収束させることが出来る可能性が高まる。推定された感染源については、そこから把握できていないクラスターの存在の有無について確認し、新たなクラスターの探査を行うことで、感染拡大の兆しに早期に対応できることが期待される。<br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2021-01-14) 「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(1月8日版) <a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html">https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html</a></p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf</a></cite> </blockquote> <p>ほぼおなじことを3回くりかえす冗長な構成である。実際に現場で使うマニュアルとしては質が低すぎる。もうちょっと簡潔なマニュアルを用意してもらえないものだろうか。</p><p>それはともかく、この文章からつぎのことがわかる。</p> <ul> <li>「クラスター」とは「リンクが追える集団として確認できる感染者の一群」を指す。その集団が大規模であるとか、1か所で感染したとかいう条件をふくまない。</li> <li>「クラスター対策」は、感染者の感染源をさかのぼって調査して推定することと、感染者の濃厚接触者を把握して行動制限することからなる。</li> <li>クラスター対策の目的は、クラスターの連鎖を防ぐことである。具体的には、「クラスターの発端が明確で、かつ濃厚接触者のリストアップが適切であ」る状態を実現することにより、つぎの感染を「既に囲い込まれた範囲」に限定することを目指す。</li> </ul><p>ひとつめの「クラスター」の定義は、誰から誰が感染したかという情報 (リンク) をたどることでつながりを再現できるネットワーク (にふくまれる感染者の集合) ということである。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201216/cluster#niid">&#x300C;&#x7A4D;&#x6975;&#x7684;&#x75AB;&#x5B66;&#x8ABF;&#x67FB;&#x8981;&#x9818;&#x300D;&#x306E;&#x53E4;&#x3044;&#x30D0;&#x30FC;&#x30B8;&#x30E7;&#x30F3;&#x3067;&#x306F;&#x3001;&#x3082;&#x3063;&#x3068;&#x308F;&#x3051;&#x306E;&#x308F;&#x304B;&#x3089;&#x306A;&#x3044;&#x5B9A;&#x7FA9;&#x306B;&#x306A;&#x3063;&#x3066;&#x304A;&#x308A;&#x3001;&#x89E3;&#x8AAD;&#x306B;&#x82E6;&#x52B4;&#x3057;&#x305F;</a> のであるが、結局それとあまり変わっていない。</p><p>公式の「クラスター対策」においては、ひとりの感染者から多数の2次感染が生じる場合を「クラスター」と呼んでいた (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#emerge">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#emerge</a>)。積極的疫学調査における「クラスター」の定義はこれとはまったくちがい、「感染連鎖」におきかえて理解してもほとんど意味の変わらないものになっている。</p><p>ある感染者が、発熱して病院で診察を受けるなどして、たまたまみつかったとしよう。保健所は、その人はどこで誰から感染したのか (感染源)、また感染したあとに誰にうつした可能性があるか調査することによって、感染の連鎖すなわち「クラスター」を追う。その調査によって、感染した (可能性のある) 人をすべて探すことができれば、それらの人の行動を制限して、さらに感染が広がることを防止できる。</p><p>引用文中、「クラスターの発端が明確で」という部分は、意味がとりにくいかもしれない。これは、現場での「クラスター対策」が地域別におこなわれることとあわせて考えると、理解可能である。ある感染連鎖が発見されて調査が進んできた場合、その感染連鎖のいちばん最初 (=発端) に位置していたのは誰か、ということが問題になる。現在までにわかっている範囲での最初の感染者がとりあえずいるはずであるが、今後調査が進めば、その人に感染させた人が発見されるかもしれない。その場合、その新しく発見された感染者からのびる、別の系統の感染者集団を見逃している可能性がある。しかし、現在わかっている最初の感染者が別の地域で感染してからその地域に入ってきた人であった場合、「別の系統」はその地域には入ってきていないものと考えることができるので、その地域の感染状況だけを考えるなら、「別の系統」のことは無視してよい。「発端が明確」とはおそらくそのような意味 (現在観察できている「発端」はその地域では本当に「発端」だったとみなしてよい) であり、その地域にCOVID-19が侵入してきたところからの感染の連鎖を抜かりなく同定できていることを指している。</p><p>以上のように、現場での「クラスター対策」は、「木を見る」(=すべての感染者を洗いだす) 戦略を指向している。「積極的疫学調査要領」には、大規模な感染の調査を優先するとも書いていないし、小規模な感染は見逃していいとも書いていない。そもそも、感染が大規模かどうかの区別を重視していないのである。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="real">枝切りの技法</h3> <p>とはいえ、実際にすべての感染者を洗いだすことができていたわけではない (できていればとっくに流行は終息していただろう)。全感染者のすべての行動履歴と接触者を調査するというのは保健所の調査能力をはるかにこえた話なので、実際に調査可能な範囲におさえる必要があった。これは、つぎのふたつの原則でおこなわれていたようである。</p> <ol> <li>感染可能期間前の接触よりも感染可能期間内の接触を優先的に調べる</li> <li>感染可能期間内の接触のうち、一定の条件を満たす「濃厚接触者」の調査を優先する</li> </ol> <div class="section"> <h4>後ろ向き調査は優先度が低い</h4> <p>前者については、クラスター対策班にも参加していた和田耕治がつぎのように説明している。</p> <blockquote cite="https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-12"> <p>「積極的疫学調査」では、「誰からもらったか」、そして、「誰にうつしたか」を見ていますが、どちらかというと「誰にうつしたか」の方が優先度が高い。感染者が増えてくると、誰からもらったかよりも、誰にうつしたかという調査を現場では優先します。</p><p>だから当然、「誰からもらったか」がわからない感染経路不明者は増えるのです。特に感染者の数が増えたところではそうなります。</p><p>増えている地域での感染経路不明者は、本当にわからない場合もあるし、教えてもらえない場合もあるし、保健所がそれどころではない場合もあって、どのケースに当てはまるかはわからないです。<br /> ―――――<br /> 岩永 直子 (2020-08-17) 「宴会2時間でも「大丈夫というわけではない」 新型コロナ第一波から学ぶべき教訓」(和田耕治インタビュー) BuzzFeed News</p> <cite><a href="https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-12">https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-12</a></cite> </blockquote> <p>「積極的疫学調査」というものの発想では、元来、感染源の探索は優先順位が低いのだということである。流行が大きくなく、余裕のあるときであれば感染源をいちいち探索することもありうるが、感染者数が大きくなってくれば、感染源の特定は後回しになり、やらなくなっていく。結果として、感染経路が不明のケースが増えていくのだという。</p><p>「積極的疫学調査要領」は、患者が複数発生している場合の「共通曝露源」の探索の重要性を説く一方で、「多くの場所で感染が発生しているような状況においては、特に後ろ向き調査による感染源推定の重要性は相対的に低下する」(この部分は1月8日版で追加されたようである) とも書いている。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf"> <p>(調査内容の原則)<br /> ○ 基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報を収集する。(調査票添付1、2、3-1、3-2)<br /> 〇 感染源推定については「患者(確定例)」が複数発生している場合には、共通曝露源について探索を行い、感染のリスク因子を特定した上で、適切な感染拡大防止策(共通曝露をうけたと推定される者への注意喚起を含む)を実施する。<br /> ○ 感染源推定については、流行早期や、患者の発生が増加中にある時期、また、減少中にある時期において実施し、さらなるクラスター発生の抑制を図ることが特に重要である。これらの時期においては、患者クラスター(集団)の検出及び対応という観点から、リンクが明らかでない感染者〔患者(確定例)など〕の周辺にはクラスターがあり、特に地域で複数の感染例が見つかった場合に、共通曝露源を後ろ向きに徹底して探していく作業が有効となる。患者発生が比較的少ない状況でこれらを実施することは地域の、ひいては日本全体の感染拡大の収束に直結する。一方で、感染が拡大した結果、感染リスクが高まる場面を通じて、実際に地域の多くの場所で感染が発生しているような状況においては、特に後ろ向き調査による感染源推定の重要性は相対的に低下する。<br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(令和3年1月8日版) <a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html">https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html</a><br /> 〔 〕部分も原文による</p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf</a></cite> </blockquote> <p>このように、後ろ向きの感染源の探索については漠然とした記述しかない。「徹底して探していく作業」と書いてはいても、具体的にどのようなケースで何をすべきかは指示がないのだ。また、感染源が推定できた場合に何をすべきかも、「適切な感染拡大防止策(共通曝露をうけたと推定される者への注意喚起を含む)を実施する」と書いてあるのみであり、どのように感染者を確定するのか、確定できた場合にどうするのかという指示はない。</p><p>後述の「濃厚接触者」(感染可能期間内の接触者の一部) についてはその具体的条件や発見した場合の対処を記しているのだが、それとは対照的である。これでは、まずは濃厚接触者についてマニュアルどおりの対応を一通りこなすことが最優先になるのが当然といえよう。感染源の探索は余裕があるときにしかおこなわれないだろうし、それをどこまでやるかも現場の裁量ということになるのだろう。</p> </div> <div class="section"> <h4>「濃厚接触者」の絞り込み</h4> <p>さて、では「前向き」の調査は徹底的にやっているのかというと、もちろんそんなことはない。「積極的疫学調査要領」によると、つぎのようである。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf"> <p>(用語の定義・解説)</p><p>〔……〕</p><p>●「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ。)の感染可能期間において当該患者が入院、宿泊療養又は自宅療養を開始するまでに接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。<br /> ・ 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者<br /> ・ 適切な感染防護なしに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者<br /> ・ 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者<br /> ・ その他: 手で触れることの出来る距離(目安として1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15 分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。</p><br /> <p>〔……〕</p><p>(積極的疫学調査の対象)<br /> ○ 積極的疫学調査の対象となるのは、用語で定義する「患者(確定例)」及び「濃厚接触者」である。〔……〕</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>○ 「患者(確定例)」の接触者の探索のための行動調査は、感染可能期間のうち、発症2日前(無症状病原体保有者の場合は検査陽性となる検体採取の2日前)から、入院、宿泊療養または自宅療養の開始までを原則とする。〔……〕</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>○ 調査対象とした「濃厚接触者」に対しては、速やかに陽性者を発見する観点から、全ての濃厚接触者を検査対象とし、検査を行う(初期スクリーニング)。検査結果が陰性であった場合であっても、「患者(確定例)」の感染可能期間のうち当該患者(確定例)が入院、宿泊療養又は自宅療養を開始するまでの期間における最終曝露日から14日間は健康状態に注意を払い、前向きのフォローアップとして、発熱や呼吸器症状、倦怠感等を含む新型コロナウイルス感染症の可能性のある症状が現れた場合、医療機関受診前に、保健所へ連絡するように依頼し、症状の軽重に拠らず、検査を実施する。(調査票添付3-3)<br />  なお、濃厚接触者の日々のフォローアップについて、HER-SYS への入力を対象者が実施することで毎日の電話連絡に代替する等、保健所と対象者とが連絡を取り合う際の作業は出来るだけ簡略化し、負荷を減らす工夫を図っていただきたい。</p><p>○ 「濃厚接触者」は感染しているリスクが高いとみなされている者であり、濃厚接触者の中から何らかの症状が出現した場合や、検査結果が陰性であっても症状があった場合で当該症状が増悪した場合における迅速な検査の実施は、集団単位での感染拡大を封じ込める対応として極めて重要である。</p><p>○ 一方で、原則として、無症状で経過する濃厚接触者は、初期スクリーニング以後は新型コロナウイルスの検査対象とはならない。自宅や施設等待機などの周囲への感染伝播のリスクを低減させる対策をとった上で、健康観察を行う。<br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2021-01-14) 「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(1月8日版) <a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html">https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html</a></p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf</a></cite> </blockquote> <p>濃厚接触者は、全員が検査を受ける。検査結果が陰性であっても、最終曝露日から14日間は健康観察をおこない、症状が出現したらまた検査である。このようにして感染していると診断されれば、「患者 (確定例)」としてあつかわれることになり、その人を対象にした「積極的疫学調査」がスタートする。</p><p>これ以外の接触者については、「積極的疫学調査要領」にはほどんど何も指示がない。唯一、「用語の定義・解説」の「濃厚接触者」の項の後の注意書きに「上記の濃厚接触者に該当する者の範囲を超えて、更に幅広い対象者に対してスクリーニング検査が行われる場合がある」とある。これも、「行われる場合がある」ということなので、濃厚接触者以外のスクリーニング検査を現場の裁量でおこなうことを想定したものではなさそうだ。</p><p>したがって、通常の業務としての積極的疫学調査の範囲では、濃厚接触者だけが別格のあつかいということになる。濃厚接触者といったん認定した者は検査と健康観察の対象にしなければならないが、それ以外の接触者はそうではない。</p><p>問題は、この「濃厚接触者」の認定の条件である。「積極的疫学調査要領」にのっている基準は、上記のように抽象的なもので、</p> <ul> <li>同居あるいは長時間の接触</li> <li>感染防護のない診察、看護、介護</li> <li>気道分泌液や体液に直接触れた可能性が高い</li> <li>近距離 (目安として1m) で、感染予防策なしで15分以上の接触</li> </ul><p>という4点。これをゆるくとらえるならば、</p> <ul> <li>電車で感染者とおなじ車両に15分程度いたものは、濃厚接触者</li> <li>感染者の診察・看護・介護をおこなった者は、きちんと訓練を受けて防護服等を完璧に着用していたのでないかぎり、濃厚接触者</li> <li>感染者の触れたもの (器具、書類、貨幣など) に触れた可能性のある者は、濃厚接触者</li> </ul><p>といったことになるだろう。</p><p>しかし、実態としては、この「濃厚接触者」の基準は、はるかにきびしい基準で適用されているらしい。たとえば、「マスクをしていた」と調査対象者本人が主張すれば、接触相手が濃厚接触者として認定されることはほとんどないと指摘されている。</p> <blockquote cite="http://medg.jp/mt/?p=10059"> <p>ポイントとなるのは、マスクしているか、していないかである。その際、マスクの質は問わない。あくまで聞くのはマスクの有無のみである。調査において「マスクをして会っていましたか?」と尋ねた場合、「マスクをして会っていました。」という返答だと陽性者と接触があった人であっても濃厚接触者にはならない。そして、マスクをしていた場所は感染場所にはならない。</p><p>例えば、職場でマスクしていた場合、職場の人たちは濃厚接触者には該当しないため、職場の人たちに対して追跡調査を行うことはないし、職場が感染場所になることはない。濃厚接触者に該当する人がいない場合、感染場所は不明ということになる。</p><br /> <p>〔……〕</p><br /> <p>別の症例を記す。「体調不良を訴え、検査したところPCR陽性と判明。行動調査をしたところ、「一人暮らしでマスクして出勤。ランチも一人で食べていた」という。<br /> この場合、「濃厚接触者なし」となる。陽性者については事業所に報告し、10日間の隔離療養となるが、職場の同僚を検査することはない。<br /> 心配した事業所からは、保健所に「社員を検査しなくて大丈夫か?」と相談される。保健所からは「濃厚接触者該当者がいないため保健所経由での検査対象にはならない」と返答するしかない。<br /> それでも心配した会社は自費で社員の検査を実施する。結果的に3人の陽性者がでた。病院から発症届が提出されると共に、事業所から保健所に今回の保健所の対応について疑問と苦言の連絡が入る。<br /> 現在の調査方法では、最初の陽性者と後者3人のどちらが先に感染したかは不明であると共に、全員マスクをしていたため、このケースは「感染経路不明」と分類される。<br /> ―――――<br /> 首都圏の保健所に勤務する保健師 (匿名) (2021-01-15)「濃厚接触者探し、クラスター対策の虚構:現場保健師の実体験から」医療ガバナンス学会メールマガジンMRIC</p> <cite><a href="http://medg.jp/mt/?p=10059">http://medg.jp/mt/?p=10059</a></cite> </blockquote> <p>この投稿は匿名であり、事例も特定されているわけではない。しかし、この1月には、つぎのような事例が報道されている。</p> <blockquote cite="https://www.tokyo-np.co.jp/article/81742"> <p>掛川市の事業所では、今月1日に従業員1人が発症。マスクを着用していたことなどから濃厚接触者がいないとされたが、事業所側が行政の検査対象にならなかった他の従業員80人のPCR検査を独自に実施。さらに10人の陽性が判明した。</p><p> 感染した11人が所属する部署は複数にまたがる。県疾病対策課の担当者は「食堂では、感染者同士が同じ時間帯に利用していなかった。飛沫感染の可能性もゼロではないが、事業所出入り口の扉を接触したことが主な原因」とみている。<br /> ―――――<br /> 東京新聞「<新型コロナ>静岡県内で新たに50人の陽性確認 出入り口の扉から感染拡大? 掛川市の事業所でクラスター」TOKYO Web. 2021年1月24日 07時59分</p> <cite><a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/81742">https://www.tokyo-np.co.jp/article/81742</a></cite> </blockquote> <p>もしこの担当者がいうように「事業所出入り口の扉を接触したことが主な原因」なのであれば、そもそも「マスクの着用」や「15分以上の接触」といった基準によって「濃厚接触者がいない」という判定をおこなうのが的外れである。たとえば出勤途中で鼻をかんで、その際に手に鼻水が付着し、そのまま事業所のドアを手で開けたのでドアノブにウイルスが付着していた、というような場合、そのドアノブに触れれば濃厚接触 (気道分泌液や体液に直接触れた) にあたるのであって、本人と接触 (会話など) をするかどうかは関係ないはずである。</p><p>また、飛行機の乗客の中に感染者がいた場合 (去年の3月23日のケース) について、つぎのような報告がある。</p> <blockquote cite="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/9930-488d01.html"> <p>B便の搭乗者(客席数177席, #1〔最初に判明した感染者〕を含め乗客乗員計148名)に関しては当初, 前および左右2列を濃厚接触者とし, 27日に航空会社から対象者の氏名と連絡先を入手した。28日に連絡がとれた濃厚接触者3名中2名が発熱を呈していたため, 居住する自治体へ情報提供しPCR検査を依頼した。なお, これらの濃厚接触者によると, #1は機内で激しい咳をしていたがマスクは未着用であった。<br /> ―――――<br /> 豊川貴生, 速水貴弘, 瑞慶山躍司, ほか「航空機内での感染が疑われた新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のクラスター事例」(国内事例) 国立感染症研究所『病原微生物検出情報』41(10): 187-188. <a href="https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/41/488.pdf">https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/41/488.pdf</a></p> <cite><a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/9930-488d01.html">https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/9930-488d01.html</a></cite> </blockquote> <p>このケースでは、感染者の座席の前・左・右のそれぞれ2席ずつにいた乗客だけが「濃厚接触者」として当初調査の対象となっていた。図示すると、つぎのような感じである。</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210207173312" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210207/20210207173312.png" alt="f:id:remcat:20210207173312p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 2020年3月23日神戸-那覇便での感染事例における当初の「濃厚接触者」の範囲</p> </blockquote> <p>通路を隔てた2つ先の座席が範囲にふくまれる一方で、すぐ斜め左前の座席が範囲に入らない (この座席には乗客はいなかったようであるが) など、何の合理性があるのかわからない範囲設定である。このケースでは、この範囲外からも感染者が次々とみつかたっため、調査範囲を拡大していき、最終的には全乗客乗員を対象として14人の感染を確認している。(<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20201105/bunshun</a> を参照されたい。なお、この報告を踏まえてか、「積極的疫学調査要領」1月8日版には、飛行機の場合の濃厚接触者判定基準が特に例示されている<a href="#f-48395648" name="fn-48395648" title="https://twitter.com/TenyuToranosuke/status/1354642850432966658 でご教示いただいた">*1</a>。)</p><p>COVID-19に関しては、当初から、接触感染が主要な感染経路のひとつであるとされてきた。また、通常の飛沫より細かい粒子によって、相当遠いところまでウイルスが運ばれることも、<a href="https://www.nhk.or.jp/covid19-shogen/occupation/occupation1/438642.html">3&#x6708;&#x306B;&#x306F;&#x6307;&#x6458;&#x3055;&#x308C;&#x3066;&#x3044;&#x305F;</a>。手洗いや換気が重視されてきたのはこのためである。しかし、日本の積極的疫学調査においては、このような感染経路への警戒は弱く、もっぱら近距離での長時間の会話等による飛沫感染に焦点をあわせた調査がおこなわれている。通常の飛沫感染では起こらないような広範囲の感染が起こることを発見し、警戒を早期に呼びかけたのは日本の対策の特徴だと賞賛されることも多いのであるが、調査の現場においては、そのような知識は活用されていないようである。</p> </div> <div class="section"> <h4>「現場のクラスター対策」の実像</h4> <p>「積極的疫学調査要領」においては、「クラスター対策」の目的を、すべての感染連鎖を管理下におくことと説明していた。しかし、実際の調査内容を具に見れば、感染の連鎖をたどる範囲はきわめてせまく設定されている。1件の感染者が発見された場合、確実に調査対象となるのは、「濃厚接触者」だけであり、その認定基準がきびしいからだ。基準が非合理的なので、感染者を大量に見逃しているのは確実である。その反面、範囲を絞り込むことによって、調査資源は節約できている。</p><p>これは確かに、押谷のいう「感染者周辺の接触者を徹底的に検査し」ようとする欧米型の対策とはちがう。しかし、「大きな感染源を見逃さない」という戦略ともほど遠い。小規模であるか大規模であるかにかかわらず、調査対象を絞り込んで省力化を図った接触者の追跡方法が、「現場のクラスター対策」の実像といえよう。</p><p>押谷の主張するような、公式の「クラスター対策」は、小規模な感染 (=木) の探索を省略して、大規模な感染 (=森) を摘発するものだったはずである。しかし、実際におこなわれてきた「現場のクラスター対策」においては、木であるか森であるかは関係ない。ただ、「マスクをしていたか」「感染者とどれくらい離れていたか」「いつ接触したか」「接触の時間は何分か」といった基準によって、個別の接触者を追跡するかどうかを決める「枝切り」をおこなっているのである。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="change">専門家たちの転向</h3> <p>小規模感染を無視して大規模感染の発見に注力するという意味での、公式の「クラスター対策」は、3月から5月ごろに盛んに宣伝された。いわゆる <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200621/sekai">&#x300C;&#x65E5;&#x672C;&#x30E2;&#x30C7;&#x30EB;&#x300D;</a> の重要な構成要素でもあった。しかし、ここまでみてきたように、現場での調査においては、ほとんど採用されてこなかったと考えてよさそうである。</p><p>小規模な感染の見逃しを許容しながら大規模な集団感染を重点的に発見する、という方針を本当に貫徹したらどうなるのだろうか? これは興味深い問いではあるが、実際に実行される可能性は日本ではほとんどない。というのは、日本政府とその意思決定に関わる専門家たちはすでに公式のクラスター対策を放棄しており、「現場のクラスター対策」を追認して、小規模な感染に着目して対策を練る方向に転換しているからである。</p><p>公表される文書をみていくと、変化は7月30日に突然おきたようにみえる。この日の厚生労働省アドバイザリーボード第4回会議議事概要に、つぎのようなやりとりが記録されている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000689758.pdf"> <p>(川名構成員)<br /> 〔……〕感染経路が不明の症例が50%以上あるという状況で、感染経路がはっきりしているものについては、その大部分が3密で説明できるとしても、残りの50%は3密で説明できないと解釈するのであれば、3密が中心であると限定的に評価していいのか。</p><p>(押谷構成員)<br /> ○ 大きなクラスターを形成しているのは、3密の環境が要因といっていいと思うが、そうでないものもかなりあり、それがリンクが分からないものが増えているということにつながっているのかなと思う<br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第4回)議事概要 (2021-07-30) <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_free17">https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_free17</a><br /> p. 5</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000689758.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000689758.pdf</a></cite> </blockquote> <p>ここで押谷が「大きなクラスター」といっているのは、一カ所で、一人の感染者が大勢に短期間のうちに感染させるような大規模集団感染のことであろう。「そうでないものもかなりあ」ること、そして感染経路不明のケースのかなりの部分は「そうでないもの」に該当する可能性があることを、ここで認めている。<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200408/making">COVID-19&#x611F;&#x67D3;&#x306E;&#x307B;&#x3068;&#x3093;&#x3069;&#x306F;&#x5927;&#x898F;&#x6A21;&#x306A;&#x96C6;&#x56E3;&#x611F;&#x67D3;&#x306B;&#x3088;&#x308B;</a> のであるとか、<a href="https://www.tokyo-np.co.jp/article/42600">&#x7D4C;&#x8DEF;&#x4E0D;&#x660E;&#x30B1;&#x30FC;&#x30B9;&#x306E;&#x80CC;&#x5F8C;&#x306B;&#x306F;&#x5927;&#x898F;&#x6A21;&#x96C6;&#x56E3;&#x611F;&#x67D3;&#x304C;&#x96A0;&#x308C;&#x3066;&#x3044;&#x308B;</a>、と決めつけて騒いでいた3月ごろの論調とくらべ、ずいぶんとトーンダウンしている。</p><p>このアドバイザリーボード第4回会議には、「クラスター事例集」として、小規模感染事例を集めた参考資料が提出されている。</p> <blockquote cite="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210102220901" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210102/20210102220901.jpg" alt="f:id:remcat:20210102220901j:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 国立感染症研究所 感染症疫学センター/実地疫学専門家養成コース (FETP) (2020-07-30) 「クラスター事例集」<br /> 第4回厚生労働省アドバイザリーボード 参考資料 <a href="https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_free17">https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_free17</a><br /> p. 7</p> <cite><a href="https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf">https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000654503.pdf</a></cite> </blockquote> <p>さらに、翌日の新型コロナウイルス感染症対策分科会第4回会議には、小規模な感染までふくめて「クラスター等」としてカウントした資料が出ている。このあたりの事情は、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july</a> で解説した。</p><p>さらに、8月7日には、分科会会長の尾身茂のつぎのような発言が明らかになっている。</p> <blockquote cite="https://bunshun.jp/articles/-/39538"> <p>尾身氏によれば現状は、市中感染といっても、不特定多数から不特定多数に「面」で拡大しているのでなく、夜の街で感染した従業員や客が、友人や家族に感染させ、さらに、その家族がお見舞いに足を運んだ親族の入院先で感染を広げている――というように「線」でつながって広がっている状況だという。<br /> ―――――<br /> 広野 真嗣 「「帰省は慎重に判断を」コロナ分科会・尾身茂会長が独自取材で吐露した“迷いと苦心”: “政府の追認機関”との批判もあるが…」文春オンライン 2020-08-07</p> <cite><a href="https://bunshun.jp/articles/-/39538">https://bunshun.jp/articles/-/39538</a></cite> </blockquote> <p>小規模な関連が長く連鎖して感染が拡大しているので、小規模な感染をおさえなければ感染は終息しない、という認識である。</p><p>おそらく、7月末までに、小規模感染を無視しても大規模感染さえおさえておけば流行は阻止できる、という公式の「クラスター対策」の発想は放棄され、むしろ小規模感染のほうをきちんと把握する方向で対策を建てなければならない、とする合意が、専門家の間で形成されたのだろう。しかし、どのような経過をたどってそうなったのかは、公開の資料からはうかがい知ることができない。</p> </div><div class="footnote"> <p class="footnote"><a href="#fn-48395648" name="f-48395648" class="footnote-number">*1</a><span class="footnote-delimiter">:</span><span class="footnote-text"><a href="https://twitter.com/TenyuToranosuke/status/1354642850432966658">https://twitter.com/TenyuToranosuke/status/1354642850432966658</a> でご教示いただいた</span></p> </div> remcat 第2波と第3波はどこがちがうのか: 「クラスター」の規模を比較する hatenablog://entry/26006613685191161 2021-01-31T01:25:59+09:00 2021-01-31T02:12:16+09:00 分科会資料として公開された7月と12月のクラスターのデータからいえる、「第2波」と比較した「第3波」の特徴は、 (1)「接待を伴う飲食店」クラスターの寄与の低下 (2)「職場」「教育施設」クラスターの寄与の上昇 ということになろう。「会食」についてはカテゴリーの対応関係次第で結果が変わるが、寄与が「職場」「教育施設」同様に上昇していた可能性はある。 <p>前回の記事でつぎのように書いた:</p> <blockquote cite="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters"> <p><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html#3">&#x65B0;&#x578B;&#x30B3;&#x30ED;&#x30CA;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x5206;&#x79D1;&#x4F1A;&#x306E;&#x8CC7;&#x6599;</a> (第21回会議、1月8日) をみてみたところ、</p> <ul> <li>グラフではなく表のかたちで記述されている</li> <li>PDFファイルからテキストがコピーできる</li> <li>クラスター数だけでなく感染者数がわかる</li> <li>こまかい分類にわかれており、解釈上の注意事項が書いてある</li> </ul><p>ものであった。</p><p>このようなまともな品質のデータが入手可能になったのは、日本のCOVID-19「クラスター対策」史上はじめてのことである。</p><p>これは決して誇張ではない。各種クラスターで何人の感染が生じたのかが正確にわかる状態で情報が出てきた例は、未だかつて一度もなかった。これまで公開されたデータで最良のものは、アメリカCDCの雑誌に掲載された報告 <a href="http://doi.org/10.3201/eid2609.202272">http://doi.org/10.3201/eid2609.202272</a> だが、これは正確な感染者数がわからず、<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200705/answer#paper">&#x30AF;&#x30E9;&#x30B9;&#x30BF;&#x30FC;&#x306E;&#x4EBA;&#x6570;&#x5206;&#x5E03;&#x306E;&#x5927;&#x96D1;&#x628A;&#x306A;&#x30B0;&#x30E9;&#x30D5;&#x304B;&#x3089;&#x63A8;&#x6E2C;</a> するしかなかった。クラスターの感染者数のデータが出た過去の例は <a href="https://f.hatena.ne.jp/remcat/20210106003739">7&#x6708;&#x306E;&#x7B2C;4&#x56DE;&#x5206;&#x79D1;&#x4F1A;&#x8CC7;&#x6599;&#x306E;&#x8868;</a> だけであるが、これはクラスターの全部を網羅しておらず、クラスターの定義も不明であった (たぶん「2人以上の集団感染」だと思うが、資料にはそうは書いていない)。<br /> ―――――<br /> 田中重人 (2021-01-09)「データに基づいて「クラスター対策」を評価する」</p> <cite><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters</a></cite> </blockquote> <p>いろいろと不十分ではあるのだが、7月と12月については、クラスターの種類別に感染者数がわかるデータがいちおう出たことになる。これらの期間は、それぞれいわゆる「第2波」「第3波」の感染拡大局面にあたっている。これらのデータによってクラスターの動向を比較すれば、第2波と第3波の性質のちがいや、それに対してとるべきであった対策について考察する材料になるだろう。</p> <blockquote> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210111222208" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210111/20210111222208.png" alt="f:id:remcat:20210111222208p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span></p><p>日本におけるCOVID-19感染者数の推移 (厚生労働省オープンデータ <a href="https://www.mhlw.go.jp/content/pcr_positive_daily.csv">https://www.mhlw.go.jp/content/pcr_positive_daily.csv</a> 2021-01-11ダウンロードしたファイルから作成)</p> </blockquote> <div class="section"> <h3 id="data">データ</h3> <div class="section"> <h4>第2波 (7月) のデータ</h4> <p>第2波 (7月) のデータは、 <a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/yusikisyakaigi.html#3">&#x65B0;&#x578B;&#x30B3;&#x30ED;&#x30CA;&#x30A6;&#x30A4;&#x30EB;&#x30B9;&#x611F;&#x67D3;&#x75C7;&#x5BFE;&#x7B56;&#x5206;&#x79D1;&#x4F1A;</a> の <a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf">&#x7B2C;4&#x56DE;&#x4F1A;&#x8B70; (7&#x6708;31&#x65E5;) &#x8CC7;&#x6599;</a> にある (PDFファイルの60枚目、7月1~28日のデータ)。</p> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210106003739" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210106/20210106003739.png" alt="f:id:remcat:20210106003739p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-07-31) 第4回会議資料より「7月のクラスター等発生状況について」(参考資料3) p. 60</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona4.pdf</a></cite> </blockquote> <p>「クラスター等」というのが何を指すかは、同資料には説明がないのだが、その後の報道等から、おそらく、1か所で2人以上の感染者がみつかった事例を指していると判断できる。 (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#july</a> 参照。同記事で、表の形式で数値を再利用可能にしたものも公開している。) 以下では、この解釈にしたがって議論を進める。</p> </div> <div class="section"> <h4>第3波 (12月) のデータ</h4> <p>第3波 (12月) のデータは、新型コロナウイルス感染症対策分科会の第21回会議 (1月8日) 資料 <a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona21.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/corona21.pdf</a> にある (PDFファイルの39-44枚目)。他の情報も加えて表形式にしたものは <a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters#data">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210109/december-clusters#data</a> 参照。また、もとの資料の当該部分をテキストにしたものを <a href="http://tsigeto.info/covid19/bunkakai21-p39-44.txt">http://tsigeto.info/covid19/bunkakai21-p39-44.txt</a> に置いてある。</p><p>このデータが示しているものは、「報道情報に基づくクラスターの情報をデータベース化したもの」から「令和2年12月以降に報告があったクラスター人数が5人以上のもの」を抽出した数値である。</p> </div> <div class="section"> <h4>比較可能部分</h4> <p>7月のデータはクラスターを網羅していない。また、12月のデータとは、分類も「クラスター」の定義もちがう。</p><p>まず、分類のどことどこが比較可能であるかを考えよう。7月データのクラスターの分類はつぎの4つである:</p> <ul> <li>接待を伴う飲食店</li> <li>会食</li> <li>職場</li> <li>学校・教育施設等</li> </ul><p>「接待を伴う飲食店」については、12月データにもおなじ項目がある。「職場」「学校・教育施設等」については、12月データにそれぞれ「職場関連」「教育施設」がある。これらの分類は対応しているものと考えることにしよう。</p><p>問題は「会食」である。</p><p>12月データにも「会食」という項目はあるから、外形的にはこれらがおなじものを指していると考えることはできる。</p><p>一方で、12月データではそれ以外に「飲食店」「カラオケ」「ホームパーティ」があり、それに「接待を伴う飲食店」をあわせて「飲食関連」となっている。7月のデータで「会食」といっていたものが「飲食店」での会合をふくまないとは考えにくいので、これら飲食関連のもの (から「接待を伴う飲食店」を除いたもの) が「会食」に相当すると考えたほうがいいかもしれない。</p><p>以下では、両方の可能性をあわせて検討することにする。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="compare">平均規模の比較</h3> <p>7月と12月のデータを対応させて、平均規模を記入してみた。</p> <div class="section"> <h4>表1: クラスター平均規模の変化</h4> <table> <tr> <th> 7月分類 </th> <th> 12月分類 </th> <th> 7月平均規模(M) </th> <th> 12月平均規模(L) </th> </tr> <tr> <th> 接待を伴う飲食店 </th> <th> 接待を伴う飲食店 </th> <td> 14.3 </td> <td> 11.8 </td> </tr> <tr> <th> 会食 </th> <th> 会食 </th> <td> 4.0 </td> <td> 8.4 </td> </tr> <tr> <th> 会食 </th> <th> 飲食店+カラオケ+会食+ホームパーティ </th> <td> 4.0 </td> <td> 9.6 </td> </tr> <tr> <th> 職場 </th> <th> 職場関連 </th> <td> 4.0 </td> <td> 11.6 </td> </tr> <tr> <th> 学校・教育施設等 </th> <th> 教育施設 </th> <td> 6.7 </td> <td> 14.3 </td> </tr> </table><p>ここで、7月データと12月データで「クラスター」の定義がちがうことが問題になる。7月データでは1か所で2人以上の感染者が出た場合 (たぶん)、12月データでは5人以上の場合なので、後者では、相対的に規模の大きいクラスターしかふくんでいないわけである。このため、通常は、後者のほうが平均規模は大きくなるはず。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="settai">「接待を伴う飲食店」クラスターの規模縮小</h3> <p>ところが、表1をみると、「接待を伴う飲食店」クラスターの平均規模は、7月では14.3人だったのに対し、12月には11.8人に減っている。もし規模別にみたクラスターの数がおなじ分布をしていれば、7月データに入っていた2-4人の小規模なクラスターが12月データでは入っていないのから、平均規模は拡大するはずである。にもかかわらず平均規模が減っているのだから、これは、7月と12月ではクラスターの規模の分布が異なり、大きなクラスターの割合が減って小さなクラスターの割合が増えていたことを示す。</p><p>このように規模が縮小したと同時に、「接待を伴う飲食店」クラスターの全感染者に占めるシェアも減っている。上の画像でみたように、7月1-28日の「接待を伴う飲食店」クラスターの人数は499人。この期間の日本全体の総感染者数は13254人なので、3.765%がこの種類のクラスターに属していたことになる。一方で、12月の同種クラスターの感染者は907人。12月の総感染者数は85891人なので、その1.056%である。7月にくらべて、12月のほうが、「接待を伴う飲食店」クラスターのシェアは小さい。</p> <div class="section"> <h4>表2: 全感染者中に占める「クラスター」のシェア (%)</h4> <table> <tr> <th> 分類 </th> <th> 7月(m) </th> <th> 12月(l) </th> <th> m/l</th> </tr> <tr> <th> 接待を伴う飲食店 </th> <td>3.765 </td> <td> 1.056 </td> <td> 3.565 </td> </tr> <tr> <th> 会食 (会食) </th> <td> 0.943 </td> <td> 0.156 </td> <td> 6.044 </td> </tr> <tr> <th> 会食 (飲食店+カラオケ+会食+ホームパーティ) </th> <td> 0.943 </td> <td> 0.881 </td> <td> 1.070 </td> </tr> <tr> <th> 職場 (職場関連) </th> <td> 1.607 </td> <td> 1.284 </td> <td> 1.251 </td> </tr> <tr> <th> 教育施設 (学校・教育施設等) </th> <td> 1.781 </td> <td> 2.042 </td> <td> 0.872 </td> </tr> </table><p><br /> 「接待を伴う飲食店」の流行への寄与は、第2波と第3波でずいぶんちがっている。このことは、分科会の第19回会議 (12月23日) 付属資料「現在直面する3つの課題」からも読みとれる。</p> <blockquote cite="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/cyokumen_3tsunokadai.pdf"> <p><span itemscope itemtype="http://schema.org/Photograph"><a href="http://f.hatena.ne.jp/remcat/20210112123424" class="hatena-fotolife" itemprop="url"><img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/remcat/20210112/20210112123424.png" alt="f:id:remcat:20210112123424p:image" title="" class="hatena-fotolife" itemprop="image"></a></span><br /> ―――――<br /> 新型コロナウイルス感染症対策分科会 (2020-12-23) 第19回会議資料 「現在直面する3つの課題」<br /> p. 7</p> <cite><a href="https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/cyokumen_3tsunokadai.pdf">https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/cyokumen_3tsunokadai.pdf</a></cite> </blockquote> <p>この画像は、縦横に並列されたグラフから一部を切り取ったものである。斜めの赤線2本は、図の全体に書き込まれた矢印の一部であるが、無視して見ていただきたい。なお、縦軸 (人数) の目盛りのちがいに注意。</p><p>画像いちばん上のグラフは、広く「歓楽街」での感染を数えたもののようで、「接待を伴う飲食店」は大部分ここにカウントされる (それ以外のさまざまな業種もふくむ) のだろう。その下に、「孤発」(たぶん感染源が不明という意味) や「家族内感染」のグラフがある。</p><p>5月後半以降の「第2波」では、歓楽街での感染数が多く、また早くから増加していて、早くピークに到達していた (7月はじめ) ことがわかる。「孤発」「家族内感染」はそれにくらべて増加が遅く、7月に入っても増加して、7月末から8月はじめにピークに達している。</p><p>これに対して10月以降の「第3波」では、歓楽街での感染数は第2波よりずっとすくなく、明瞭な「山」のかたちもなしていない。あえていえば10月後半から11月はじめにかけてすこし盛り上がってみえなくもないが、同時期に「孤発」「家族内感染」は急激に増えており、11月半ばまで増えつづけている。</p><p>第2波においては、「接待を伴う飲食店」あるいは「歓楽街」での感染者数の増加は、全体的な感染者の動向に先んじて起こり、また全感染者中に占める割合も高かった。クラスターの規模も大きく、発生した数も多かったようである。一方、第3波においては、「接待を伴う飲食店」クラスターは規模が小さくなっている。クラスター数は7月よりも12月のほうが多いが、全体的な感染者数が大きく伸びているのに比較すれば増加率は低く、総感染者にしめる割合が低下している。広く「歓楽街」での感染をとらえると、第2波よりもその規模が縮小しており、全体での感染者の増加への影響もみられない。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="size">2-4人規模と5人以上規模の比率</h3> <p>7月と12月の「クラスター」のデータに戻ろう。「接待を伴う飲食店」以外は、7月よりも12月のほうがクラスターの平均規模が大きい。これは、7月のデータでは「2人以上」の規模の集団感染を数えているのに対し、12月のデータでは「5人以上」に絞っているためであろう。</p><p>クラスター認定の基準を「5人以上」に引き上げてきびしくしたのであるから、この変更は、クラスターにふくまれる感染者を減少させる効果を持つはずである。ところが、表2でみたとおり、「教育施設」クラスターにおいては、基準がきびしくなった12月のほうが、全感染者に占めるシェアが大きい (7月に1.781%だったものが12月には2.042%)。これは、「教育施設」で発見されるクラスターが、全感染者の増加よりも速く増加してきたことを示している。</p><p>これに対して、「会食」「職場」のクラスターにおいては、12月のほうが7月よりも全感染者に占めるシェアが減少している (かつ、クラスターの平均規模は増加している)。これらがクラスター定義の変更によるものなのか、それとも実態としてこれらのクラスターのシェアが変化したのかが問題である。</p><p>2-4人規模の集団感染を「小規模クラスター」、5人以上規模の集団感染を「大規模クラスター」と呼ぶことにしよう。それぞれの平均規模をそれぞれ S と L であらわす。これらの両方をあわせたときの平均規模を M とする。</p><p>たとえば、表1の「職場」(職場関連) クラスターのデータでは、</p> <ul> <li>大規模クラスターの平均規模は L=11.6 (12月データより)</li> <li>大規模・小規模のクラスターを合計した全クラスター平均規模は M=4.0 (7月データより)</li> </ul><p>である。小規模クラスターの平均規模 S は不明だが、個別の規模は2,3,4のどれかであり、また感染は小規模なほうがより起こりやすいと考えると、規模4のクラスターより規模2のクラスターのほうが多いはずである。そうすると、平均Sは2から3の間の値をとる。</p><p>ためしに、小規模クラスターの平均規模を S=2.4 としてみよう。もし大規模クラスターと小規模クラスターの数がおなじであれば、全クラスター平均規模は M = (11.6+2.4)/2 = 7 となる。実際にはこの値は M=4 なので、小規模クラスターのほうが数が多い (ので全クラスター平均規模はそちらに引っ張られている) と考えるべきである。大規模クラスターがa個、小規模クラスターがb個あるとすると、全クラスター平均規模は (a×11.6 + b×2.4) / (a+b) なので、これが4となるようにa:bの比を求めればよい。答えは、a:b = 1:4.75 である。小規模のクラスターの数が大規模クラスターの4.75倍ある場合、全クラスター平均規模が4となる。</p><p>この場合、個数は小規模クラスターのほうが多いのだが、それらにふくまれる感染者数は平均的にすくないから、感染者数で比を考えるなら、大規模クラスターの比率はこれより大きくなるはずである。上記の「職場」クラスターの例では、大規模クラスターと小規模クラスターの感染者数の比は、1×11.6 : 4.75×2.4 すなわち11.6:11.4となる。感染者数でいうと、大規模クラスターのほうがすこし上回る計算になる。</p><p>一般的に書くと、クラスターの個数についての比は</p><p>b / a = (L-M) / (M-S)</p><p>それらにふくまれる感染者数の比は</p><p>bS/aL = S(L-M) / (LM-LS)</p><p>となる。2 &le; S &lt; M &lt; L だから、この比 bS/aL は、S が大きいほど大きくなる。つまり、S=2のときに最小値をとり、Sが増えるにつれて大きくなる。</p><p>このような計算をおこなうRスクリプトを下記に示す。実際のデータで報告される数値にあわせて、全クラスターの感染者数 bS+aL が大規模クラスターの感染者数 aL の何倍か、すなわち 1 + bS/aL を計算している。小規模クラスターの平均規模 S の値は2と3を投入して、下限と上限を求めることにする。</p> <pre class="code lang-r" data-lang="r" data-unlink><span class="synComment"># 2-4人規模クラスターの数は5人以上規模のクラスターの数の何倍か</span> <span class="synComment"># 引数: mean.small: 2-4人規模クラスターの平均規模</span> <span class="synComment"># mean.large: 5人以上規模クラスターの平均規模</span> <span class="synComment"># mean.all: 2人以上規模クラスターの平均規模</span> ratio.cluster <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> mean.small<span class="synSpecial">,</span> mean.large<span class="synSpecial">,</span> mean.all <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">return</span><span class="synSpecial">(</span> <span class="synSpecial">(</span> mean.large <span class="synStatement">-</span> mean.all <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">/</span> <span class="synSpecial">(</span> mean.all <span class="synStatement">-</span> mean.small <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">);</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synComment"># 2-4人規模クラスターでの感染者数は5人以上規模のクラスターの感染者数の何倍か</span> ratio.case <span class="synStatement">&lt;-</span> <span class="synType">function</span><span class="synSpecial">(</span> mean.small<span class="synSpecial">,</span> mean.large<span class="synSpecial">,</span> mean.all <span class="synSpecial">)</span> <span class="synSpecial">{</span> <span class="synStatement">return</span><span class="synSpecial">(</span> ratio.cluster<span class="synSpecial">(</span> mean.small<span class="synSpecial">,</span> mean.large<span class="synSpecial">,</span> mean.all <span class="synSpecial">)</span> <span class="synStatement">*</span> mean.small <span class="synStatement">/</span> mean.large <span class="synSpecial">);</span> <span class="synSpecial">}</span> <span class="synComment"># 接待を伴う飲食店</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">11.8</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">14.3</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">11.8</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">14.3</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># 会食 = 会食</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">8.4</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">8.4</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># 会食 = 飲食店+カラオケ+会食+ホームパーティ </span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">9.6</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">9.6</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># 職場 = 職場関連</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">11.6</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">11.6</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">4.0</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synComment"># 学校・教育施設等 = 教育施設</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">2</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">14.3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">6.7</span> <span class="synSpecial">)</span> <span class="synConstant">1</span> <span class="synStatement">+</span> ratio.case<span class="synSpecial">(</span> <span class="synConstant">3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">14.3</span><span class="synSpecial">,</span> <span class="synConstant">6.7</span> <span class="synSpecial">)</span> </pre><p>この方法で、クラスターの規模の分布に変化はないと仮定したときに、大規模クラスター (5人以上) の感染者数を何倍すると全クラスター (2人以上) の感染者数になるか計算した結果が、つぎの表3である。表1で検討したように、「接待を伴う飲食店」では規模の分布が7月と12月で変化しているのでこの推定は無意味であるが、いちおうおなじ式で計算したものを表示している (上限と下限が入れ替わっている)。</p> <div class="section"> <h4>表3: 全クラスター感染者数/大規模クラスター感染者数の推定</h4> <table> <tr> <th> 分類 </th> <th> 下限 </th> <th> 上限 </th> </tr> <tr> <th> 接待を伴う飲食店 </th> <td> 0.944 </td> <td> 0.966 </td> </tr> <tr> <th> 会食 (会食) </th> <td> 1.524 </td> <td> 2.571 </td> </tr> <tr> <th> 会食 (飲食店+カラオケ+会食+ホームパーティ) </th> <td> 1.583 </td> <td> 2.750 </td> </tr> <tr> <th> 職場 (職場関連) </th> <td> 1.655 </td> <td> 2.966 </td> </tr> <tr> <th> 教育施設 (学校・教育施設等) </th> <td> 1.226 </td> <td> 1.431 </td> </tr> </table><p><br /> 表2でみたように、感染者に占めるシェアの比を7月 (全クラスターに該当) と12月 (大規模クラスターに該当) の間で求めると、「職場」クラスターでは1.251であった。これは表3で推定した区間 (1.655, 2.966) にはおさまっていない。「職場」のシェアは、「クラスター」定義の変更によって説明できる範囲まで低下していないので、実態としては増加していたのだと考えないと説明がつかない。何も変化がなければ1.655以上の比となるはずのところ、実際には1.251だったのだから、この期間にすくなくとも1.323倍にシェアが拡大していたことになる。</p><p>「教育施設」クラスターでは、7月の感染者に占めるシェアは12月の0.872倍であった。7月のほうが小規模なクラスターまで広く数えていたにもかかわらず、12月よりも感染者シェアが低かったのである。もし感染者シェアに実態として変化がなかったとしたら、この効果は、すくなくとも1.226程度はあったはずである。7月から12月までの間に、「教育施設」クラスターのシェアは、実態としては1.406倍以上に増えていた計算になる。</p><p>「会食」については、7月と12月の「会食」カテゴリーが対応しているものと考えた場合、感染者シェアは7月の0.943%から12月の0.156%へと大きく下げており、その比は6.044であった (表2)。これは、表3で推定した区間 (1.524, 2.571) よりずっと大きい。この値を採用するなら、「会食」クラスターの7月から12月の間での低下は、「クラスター」定義を変更したために小さめに出たものではなく、本当に大きく低下していたことになる。</p><p>一方、7月の「会食」は12月の「飲食店」「カラオケ」「会食」「ホームパーティ」の合計に相当すると仮定した場合には、推定される区間が (1.583, 2.750) になる (表3)。この期間のシェアの比は1.070であった (表2) ので、下限を下回っている。シェアに変化がなければ1/1.583倍かそれ以下に減るはずのところ、実際には1/1.070倍にしか減らなかったのだから、この期間に1.479倍以上シェアが拡大していたことになる。</p> </div> </div> <div class="section"> <h3 id="diff">第2波と第3波のちがい</h3> <p>第2波の増加局面においては、歓楽街における感染の増加が先行しており、その一部が「接待を伴う飲食店」におけるクラスターだったとみることができる。7月のデータではこのクラスター (2人以上規模のもの) は全感染者数の3.765%を占めていた。</p><p>これに対して第3波では、「接待を伴う飲食店」クラスターは小さく、全感染者に占めるシェアも小さい (12月データで1.056%)。歓楽街における感染も第2波より小さく、時間的に全体の感染増加に先んじて増えたわけでもない。第3波では、すくなくとも第2波とおなじようには、歓楽街や「接待を伴う飲食店」での感染が流行に寄与していたわけではなさそうである。</p><p>かわりに増えたのは、「職場」と「教育施設」である。これらのクラスターが感染者数に占める割合は、7月データではそれぞれ1.607%と1.781%であり、「接待を伴う飲食店」クラスターの半分以下のシェアしか持っていなかった。しかし、これらは12月にはそれぞれ1.284%と2.042%のシェアである。大きくシェアを減らした「接待を伴う飲食店」の1.056%を上回っている。</p><p>「会食」については、カテゴリーの対応関係に不明なところがあるため、複数の推定をおこなった。その結果からは、7月と12月の間でシェアが大きく低下したか、逆に増大したかのいずれかといえる。増大している場合には、その程度は「職場」「教育施設」と同等かそれ以上である。ただし、感染者に占めるシェアそのものは、1%未満と小さい。</p><p>以上のように、分科会資料として公開された7月と12月のクラスターのデータからいえる、「第2波」と比較した「第3波」の特徴は、</p> <ul> <li>「接待を伴う飲食店」クラスターの寄与の低下</li> <li>「職場」「教育施設」クラスターの寄与の上昇</li> </ul><p>ということになろう。「会食」についてはカテゴリーの対応関係次第で結果が変わるが、寄与が「職場」「教育施設」同様に上昇していた可能性はある。</p> </div> <div class="section"> <h3 id="diss">留保事項</h3> <p>もっとも、この比較で本当に「第3波」の特徴をとらえられているかについては心許ない。というのは、7月、12月データのどちらも、「クラスター」として報告されているものは全感染者のごく一部にすぎないからである。1人だけの感染は報告されていないし、感染経路不明のケースも多い。また、報道資料からつくられているので、そもそも報道されていないケースはひろえていないことになる。たとえば、沖縄県でいくつかのクラスターが非公表になっていたことが1月になって報道されている。</p> <blockquote cite="https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/690135"> <p>沖縄県が新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)の一部を公表していなかった問題で、県は8日、昨年4月から発生した全てのクラスター86件を発表した。非公表だった37件は昨年7月から今年1月までに発生し、飲食関係が約半数の16件と最多で、職場、家庭と続いた。県は今後も、プライバシーへの配慮などを理由に一定期間は非公表にする場合があるとの考えを示す一方、基準はこれから議論するとした。</p><p>資料は6日現在。全クラスター86件で陽性者は990人。そのうち非公表37件の陽性者数は241人で、クラスターによる全陽性者数の4分の1を占めた。公表した49件は749人だった。</p><p> 37件の内訳は、職場9件、社会福祉施設3件、家庭6件、教育機関1件、その他2件。発生時期(最初の感染確認日)は、7月5件、8月7件、9月5件、10月6件、11月10件、12月4件だった。<br /> ―――――<br /> 「沖縄で発生したクラスター86件を全て公表 県、公表の基準を議論へ」沖縄タイムス+プラス 2021年1月9日 08:36</p> <cite><a href="https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/690135">https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/690135</a></cite> </blockquote> <p><a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#diss">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210103/vs#diss</a> などで議論してきたように、「クラスター」という概念は定義が錯綜しており、統一的な理解がない。自治体等に公表の義務はなく、公表する場合にもどのような情報をどこまで公表するかも決まっていない。公表した情報が報道されるかどうかは各メディアの判断による。このような状況では、一貫した基準でデータがつくられているとはいえないし、数え落としている「クラスター」がたくさんあるものと考えておくべきであろう。実際、分科会資料にあらわれた「クラスター」の分類も一貫していたわけではなく、おなじ時期の同じカテゴリーのクラスターの数が、資料によってまったくちがう動きを示していたりする (<a href="https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210106/eat">https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20210106/eat</a> 参照)。</p><p>しかし、現在のところ、「クラスター」の感染者の推移について、これ以上のデータはないわけである。わずかに見える氷山の一角から、水面下の氷の大きさを推し量るしかない。そこからみえてくる「第3波」の特徴は、以上のようなものになる。</p> </div> remcat