remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

厚生労働省への問い合わせ

前々回の記事前回の記事 でとりあげたように、7月22日の厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」(第5回) 資料2、内容がよくわからない。ほかの資料とつきあわせて想像できることはいろいろあるのだが、どうも決定打にかけるので、作成組織 (厚生労働省) に直接聞いてみることにした。(本日17:26にメール送信)


Subject: 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ (第5回) 資料2についての質問

厚生労働省 厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、労使関係担当)付
参事官(企画調整担当)付統計企画調整室 統計企画係 御中

東北大学の田中重人と申します。
近年の公的統計の問題に興味をもって研究しております。
7月22日に開催されました「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」
の第5回会議につきまして、貴サイトで公開されている資料2
「母集団労働者数の推計について」を拝読しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf
(以下ではこれを「資料2」と略称します)。

この「資料2」の説明には、いろいろと理解しがたいことがあります。
あきらかに不合理な内容のところや、これまで公開資料でなされてきた説明と
大きくちがう部分があり、全体としてどのように理解すればよいか悩んでおります。

私が感じた疑問について、以下に質問を列挙しております。
これらの質問にお答えくださるとありがたいです。
なお、各質問について、詳細な説明をこのメールの末尾につけております。
かなりの長文になっていますが、そちらにもお目通しのうえでご回答いただければと思います。

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【質問】

(1) 「資料2」の説明によると、調査対象事業所の労働者数が増減した場合でも、
「集計に用いる層」は原則として変更しないことになっています。
この方法は、いつから使われているものでしょうか?

(2) 2019年7月19日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第9回) では、
抽出時と調査時で事業所規模がちがった場合には、調査時の規模区分で集計し、
その事業所の労働者数を母集団労働者数に反映させることになっています。
この方法は、現在も使われているのでしょうか? また、その際の母集団労働者数の
推計の方法は、ワーキンググループ第5回の「資料2」のものとおなじでしょうか?

(3) 2019年8月28日におこなわれた統計委員会点検検証部会 (第10回) では、
事業所規模だけでなく、産業の移動についても、その分の労働者の増減を母集団労
働者数推計に反映させると説明しています。この推計方法は、現在も使われている
のでしょうか? また、その場合、「集計に用いる層」は変更するのでしょうか?

(4) 「資料2」 p. 5 の説明では、「集計に用いる層」から別の層に移動した
事業所の労働者数だけがカウントされ、それ以外の移動がカウント対象にならない
ように見えます。その理解で正しいでしょうか?

(5) 2019年1月に公表された再集計(現在「本系列」と呼ばれているものの
2012年から2018年分)では、母集団労働者数推計についてどのような方法が
使われたのでしょうか?

(6) 2004年から2011年までの調査データについての「時系列比較のための推計値」
の計算では、母集団労働者数推計についてどのような方法が使われたのでしょうか?

(7) 「資料2」 p. 9 に、今後の検証内容の案が提示されています。この検証は、
すでに公開されているデータ (「本系列」「従来の公表値」および
「時系列比較のための推計値」) の母集団労働者数にどのような偏りがあるかを
あきらかにするものではないと理解しましたが、その理解で正しいでしょうか?
また、その場合、すでに公開されているデータの偏りについて、
別途検討する予定はありますでしょうか?

(8) 経済センサスの労働者数が誤っている可能性については、検証をおこなう
のでしょうか? それとも、経済センサスの値は正しいという前提での検証だけをおこなうのでしょうか?

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【各質問について解説】

(1) 『労働統計調査月報』の3巻5号 (1951年) p. 11,
31巻8号 (1979年) p. 26, 42巻10号 (1990年) p. 12 とその後
令和元年版までの『毎月勤労統計要覧』では、一貫して、事業所の規模変更に
ともなって集計規模区分を変更する、と記載していました。
このことから、従来は、事業所の規模変更によって
「集計に用いる層」を変更する方式だったことがわかります。
一方、令和2年版の『毎月勤労統計要覧』で記述が変わっていることから、
最近の2年ほどの間に集計方法を変え、「集計に用いる層」を原則として固定
しておくようになったものだとの推測が成り立ちます。
この推測が正しいのかどうか、また正しいとすれば、
変更の正確な時期はいつだったのかを知りたく存じます。

(2) 統計委員会点検検証部会 (第9回) 資料2「毎月勤労統計調査について」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000636435.pdf の p. 6 および
議事録 https://www.soumu.go.jp/main_content/000650925.pdf の p. 9
をご覧ください。

(3) 統計委員会点検検証部会 (第10回) 資料2-1
「8月28日の部会審議及びその後の委員から指摘を踏まえた質問等及び回答」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000641634.pdf の2枚目および
議事録 https://www.soumu.go.jp/main_content/000650927.pdf
pp. 15, 23 をご覧ください。

(4) 「資料2」 https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000966357.pdf
p. 5 の説明では、事業所規模別の母集団労働者数の増減については、
「条件 (A)」の表に基づいて判定を行うことになっています。
この表は「事業所規模の層 (k) (集計に用いる層)」をキーとして条件判定する
仕組みであり、k は原則として変更しないとの説明があります。
 たとえば、「100人~499人」層で集計されている労働者数499人の事業所s が、
ある月に労働者を52人増やして551人になると、条件 (A) に該当することになり、
母集団労働者数に sの労働者数×抽出率逆数×0.5 の移動が反映されます。
このとき、集計に用いる層kは変わらず、「100人~499人」のままです。
その翌月、sの労働者数が102人減ったとすると、551人→449人に事業所規模が
縮小しますが、これは条件 (A) の「100人~499人」層の条件に合致せず、
この規模縮小は母集団労働者数には反映しません。
 「資料2」に書かれている通りに条件 (A) を読めばこのようになるので、
バイアスのある推計方法をわざわざ採用している (この例の場合は、事業所規模
が拡大したときには母集団労働者数に反映するのに対し、縮小したときには
反映しない) ことになります。これはあまりにも不合理ですから、
本当にこの方法で推計しているのかどうか、確認したいのです。

(5) および (6) の疑問点は (1) と重なるものです。集計のおこなわれた
時期によって方法が異なると思われるため、再集計にあたって採用された
方法がどのようなものであったかを確認させてください。

(7) 「資料2」 p. 9 の「検証内容 (案)」では、検証すべき項目として、
②雇用保険データの補正の影響、③事業所規模の変化の発生頻度、
④事業所規模変更の影響、⑤抽出率逆数の違い (抽出時点/集計時点) の影響
を挙げており、これらについて、平成26年経済センサス-基礎調査から出発して
毎月の母集団労働者数の推計を行い、平成28年経済センサス-活動調査等との
当てはまりを確認する、としています。これらのなかには、現在公開されている
「本系列」「従来の公表値」「時系列比較のための推計値」の母集団労働者数が
経済センサスと乖離している現状についての検討がありません。
それは検討しないのかどうかを確認したく存じます。

(8) 経済センサスの労働者数と毎月勤労統計調査の推計母集団労働者数がずれる
場合、経済センサスのほうが誤っている可能性があります。特に、第二種事業所
については、毎月勤労統計調査は現地リスティングに基づき独自のサンプリング
をおこなっていますから、経済センサスが捕捉できていないタイプの事業所を
カバーして、より正確な結果を得ているかもしれません。この点について、
検証をおこなう予定があるかどうかを知りたいと思っています。

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以上、多項目にわたる質問で恐縮ですが、ご回答をよろしくお願い申し上げます。

2022年8月8日


署名省略

経過 [2022-08-12 追記]

2022-08-08
メール送信、当記事公開
2022-08-09
メール受信の連絡を担当部署から受領