remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

厚生労働省からの回答 PART III

前回までのあらすじ

毎月勤労統計調査に関する質問について、昨年10月4日に厚生労働省から受け取った回答 についての私からの3点の追加質問に対する 回答を昨年10月26日に受け取っていた。このときの回答では、1つ目の質問については「確認中」ということで、つぎのように「改めてご連絡をさせていただきたく存じます」との回答であった。

(1) について、「「集計に用いる層の変更」の変遷については確認中です。」
とのことですが、確認が終わりましたらご連絡くださいますでしょうか。

【回答】
確認ができましたら改めてご連絡をさせていただきたく存じます。

―――――
「厚生労働省からの回答 PART II」(2022-10-31)

https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221031/answer2

回答

この件について、今年7月20日に、確認結果を知らせていただいた。内容は、つぎのとおり。

東北大学 田中様


いつもお世話になっております。厚生労働省統計企画調整室でございます。


下記メールにて、確認ができましたら改めてご連絡をさせていただくとお伝えして
おりましたご質問内容について、回答が遅くなり恐縮ではございますが、以下のと
おり回答いたします。


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「集計に用いる層の変更」の変遷について、過去の担当者に聞き取り等を行った結果、
少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更せず、
労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する取り扱いとしていることが
分かりましたので、ご回答をさせていただきます。
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どうぞよろしくお願いいたします。


〔以下、過去メールの引用を省略〕
―――――
厚生労働省からの電子メール (2023-07-20)

というわけで、遅くとも平成20年 (=2008年) ごろまでに、事業所規模変化による層間移動を原則としてしない方式に変更していた ことが判明したわけである。これが何を意味するかは後述。

私のほうからは、つぎの返信を7月23日に返している:

厚生労働省 御担当者様
東北大学の田中重人です。


ご回答くださり、ありがとうございます。
また、先週金曜日 (7月21日) の毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ
第8回会合も傍聴させていただき、同趣旨のご説明があったことを確認しました。


少なくとも平成20年頃から集計に用いる事業所規模の層は原則として変更しない方式だったとしますと、
『毎月勤労統計要覧』等の記述は事実と異なっていたということになるのだと思いますが、
訂正は出されるのでしょうか?


また、この件とは別のことですが、先週金曜日のワーキンググループ第8回会合では、
母集団労働者数推計について、長い間おなじ方法でやってきた旨のご発言がありましたが、
これまでにいただいてきた説明では、集計時の所属層の抽出率を使うようになったのは2018年から
であり、今回検討の対象とした2016年までの調査では、今とは違う方法で計算していたものと思います。


〔以下、署名と過去メールの引用を省略〕
――――
厚生労働省への電子メール (2023-07-23)

これに対する返答は、いまのところ返ってきていない。

「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 第8回会合」というのは、厚生労働省からの上記の回答が返ってきた翌日 (7月21日) に厚生労働省で開かれたもの。この会議の議事録が最近 (9月8日) になって公開されたのだけれど、そこにも上記回答と同様の内容の説明がある。

〔角井統計管理官〕
この労働者数が大きく変化する場合に事業所規模の層を変更する方法について調べたところ、少なくとも平成20年ぐらいから行っているようでした。
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「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 議事録 - 厚労省」(2023-07-21)
(発信元:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html)

https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776

また、「長い間おなじ方法でやってきた旨のご発言」というのは、議事録ではつぎの部分にある (発言者は前と同じく角井統計管理官):

抽出率の倍率を抽出時点のもので推計するかということについてですが、これまでの推計方法は、実査をしながら、長い時間をかけてこういう形になってきたものですから、実査でどうなるかといった動きも考慮しながら、さらに理論的な考え方も含めて、両方見ながら考えていかなければと思っていました。
―――――
「第8回 毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ 議事録 - 厚労省」(2023-07-21)
(発信元:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35117.html)

https://www.gov-base.info/2023/09/08/201776

ここで問題になっているのは、抽出時点の抽出率を使うか、集計時点の所属層に設定された抽出率を使うかという点である。これは、 https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20211229/wg3 で述べたとおり、2017年までは前者でやってきた (統計学的にはこれが正しい) 方法を、2018年から後者 (統計学的に間違った方法) に切り替えたものである。5年前に突然おこなった変更を、「長い時間をかけてこういう形になってきた」と強弁するのはかなり苦しい。だいたい、この第8回ワーキンググループ会議で議題になっていたのは、2014年から2016年の数値の動きを追跡した資料 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33631.html 参照) であり、その当時の集計では、抽出時の抽出率を使っていたはずである。

問題点

毎月勤労統計調査の2018年調査までの報告書 (『毎月勤労統計要覧』) には、「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計」と書いてあった。これが「規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計」に変わったのは、2019年調査についての報告書からである。昨年8月6日に書いた https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220806/wg5plus では、これを根拠に、規模が変化した事業所のあつかいは2019年に変更されたのだろうと推測した。*1

しかし今回の厚生労働省回答 (およびワーキンググループでの口頭説明) では、2008年にはすでに事業所の集計規模区分を変更しない方式に変更していたというのである。これが正しいなら、層間移動事業所のあつかいを変更したにもかかわらず、従来の方式を継続しているかのような 虚偽記載を、10年以上にわたってつづけてきた ことになる。

なお、この方式 (事業所規模が変化しても集計規模区分を原則として変更しない) をとると、調査開始時の所属層からの流出だけは推定母集団労働者数に反映するが、それ以外の移動は反映しない。そのため、推定母集団労働者数に歪みを生じることになる。これについては、昨年7月24日の記事 (https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20220724/wg5#pop) でその恐れを指摘し、10月4日の厚生労働省からの回答 (https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20221009/answer) の (4) で、実際にそのとおりの計算になっていることを確認した。これに加えて、母集団労働者数を推定するときのウエイトとして集計時所属層に割り当てられた抽出率逆数を使うことにより、推定される母集団労働者数がセンサスの数値から大きくはずれて不自然な動きになることが、ワーキンググループ第8回会議 (2023-07-21) の資料「母集団労働者数の推計について」で報告されている。この件については、あらためて別記事で論じることにしたい。

つづき:

ワーキンググループ第8回会議 (2023-07-21) の資料と議事録についての解説記事を書きました:

履歴

2023-09-10
記事公開
2023-09-19
「つづき」を追記


*1:厚生労働省ウエブサイトでの説明ページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1c.html の記述は、2023年2月4日 までは「規模変更があった場合には、その都度、集計規模区分を変更し、その調査事業所の規模変更に伴う規模別労働者数の変動区分を推計」となっていた。これが 同年3月3日までに「規模区分の変化の有無を判断し、規模区分が変化した調査対象事業所の労働者数に基づき、規模別労働者数の変動分を推計」に書き換えられている。