remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

大和総研の研究に基づく12月16日朝日新聞DIGITAL記事に対する質問書

『朝日新聞DIGITAL』サイトに掲載された記事「正社員女性、出産しやすくなった? 20年間を調査、出生率上昇 被扶養者では低下 大和総研」(浜田陽太郎 https://www.asahi.com/articles/DA3S15503331.html 2022年12月16日 5時00分) に、専門用語の誤用および分析上の問題等があったので、下記の質問書を朝日新聞社に送りました。
(https://digital.asahi.com/info/inquiry/asadigi/shimbun.php のフォームから 2022-12-18 08:45 ごろ送信)


大和総研の研究に基づく12月16日記事について

12月16日『朝日新聞デジタル』記事「正社員女性、出産しやすくなった? 20年間を調査、出生率上昇 被扶養者では低下 大和総研」に問題があります。

(1) 記事のもととなった研究結果を報告する論文等の情報が記載されていません。

(2) 出生数の「20~44歳の女性加入者数に対する割合」を「粗出生率」と呼んでいますが、これは人口学用語の誤用です。「粗出生率」(clude birthrate) は「普通出生率」とも訳しますが、人口全体 (全年齢男女) に対する出生数の割合をいいます。この記事で算出しているのはおそらく再生産年齢の女性人口に対する出生数の割合を求める意図のものですが、それは「総出生率」(general fertility rate) と呼びます。

(3) 総出生率は、再生産年齢集団の内部の年齢分布を標準化していないため、年齢分布の変動に影響されます。現在の日本では30歳前後の女性の出生力が高いので、その年齢層の女性が多ければ総出生率は高く、少なければ低くなります。したがって、総出生率が変化した場合には、実質的な出生行動の変化によるのか、単に年齢分布が変動したことによるのかを識別する必要があります。たとえば、人数の多いいわゆる「団塊ジュニア」世代がその年に何歳であったかとか、時期によって若年層が正規雇用に就く確率が異なるなどの条件によって、「被保険者」「被扶養者」集団内の年齢分布が変化していた可能性があります。しかし、元の論文と思われる https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20221129_023435.pdf にはそのような分析がありません。

(4) そもそも、「被保険者」「被扶養者」間を妊娠や出産によって移動する女性が多いのですから、そのような流動的な集団の人口については、出生行動ではなく、集団間移動の影響をまず考えるべきです。退職する時期が出産前から出産後にかわれば「被保険者」集団での出生は増えるわけですが、それは集団間を移動するタイミングがすこし後ろにずれただけであって、「被保険者」の女性が出産しやすくなったとか、「子育てをしながら、正社員として共働きできるようになった」とかいうことではない可能性があります。もし出産後も長く「被保険者」集団にとどまる女性が増えたなら、分母の人口が増えるのですから、総出生率を引き下げる効果を持つはずです。


(以上)

追記

記事のもとになった大和総研の研究の報告は、おそらくつぎのもの:

著者3人の過去の文章をざっとチェックしたところでは、人口学をあつかったことはない模様です。網羅的にみたわけではありませんが。