remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

「3密」とは何だったのか

日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対策において重要な概念である「3密」あるいは「3つの密」について、政府文書、報道等でどのようにあつかわれてきたかの資料。適宜加筆します。

目次

前史

「3密」は通常「密閉」「密集」「密接」の3条件を使って定義されているが、そうした情報が出てくるのは2月末以降である。しかしそれ以前に、それにつながる発想が専門家の間で流通していたことが、公表されている資料から推測できる。

「よどんだ」環境

ひとつは、厚生労働省対策推進本部クラスター対策班・押谷仁によるグラフである。


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押谷 仁 (2020-03-29) COVID-19への対策の概念 (日本公衆衛生学会 クラスター対策研修会) p. 21
(https://www.jsph.jp/covid/menu1/ 参照)

https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf

このグラフの数値は、後述の 2月29日の厚生労働省Q&Aの数値 とおなじなのだが、凡例がちがう。厚生労働省Q&Aでは「換気の悪い環境」となっているところ、このグラフでは「空気のよどんだ閉鎖環境」となっている。「よどむ」は多義的な動詞であるが、付記されている英語でこれに対応するのは「humid」つまり「湿度が高い」という形容詞である。注釈で「北大西浦教授のグループの解析」とあるが、これは、次項で述べる、西浦博らによる3月3日プレプリントに掲載されている結果あるいはその初期バージョンではないかと推測できる。おそらく、2月末までに、当時のデータを分析した結果が厚生労働省クラスター班 (西浦もここに所属していた) で共有されていただろう。そしてそのデータの解釈として、(密閉でも密集でも密接でもなく) 湿度の高さが感染の確率を引き上げるという仮説がたてられていた可能性がある。(https://twitter.com/boxeur0211/status/1245206781510352901 参照。)

3月3日プレプリント

もうひとつ、3月3日にプレプリントサーバ medRxiv に投稿された Nishiura ほかによる論文がある。

この論文については https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200403/80pct で批判した。また6月に出版された雑誌『世界』934号の 「感染症対策「日本モデル」を検証する: その隠された恣意性」 という記事でも取り上げたので、それらをご覧いただきたい。


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Hiroshi Nishiura, Hitoshi Oshitani, Tetsuro Kobayashi, Tomoya Saito, Tomimasa Sunagawa, Tamano Matsui, Takaji Wakita, MHLW COVID-19 Response Team, Motoi Suzuki. Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19). doi:10.1101/2020.02.28.20029272 (Posted March 03, 2020)

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.28.20029272v1

このようなグラフが出てくる。前述の押谷仁が使っているグラフ、後述の厚生労働省Q&Aのグラフと見た目は似ているが、数値がちがう。

この論文自体は closed environment と open-air environment の比較をおこなったもの (要するに建物の内か外かの違い) なので、ここには「3密」のどの要素も入っていない。

厚生労働省Q&A

2月29日

「3密」の3つの構成要素を盛り込んだ文言が公開の文書ではじめて出てくるのは、2月29日の厚生労働省Q&Aである。問12「集団感染を防ぐためにはどうすればよいでしょうか?」への答えの中に、「換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まること」という表現が出現する。

多くの事例では新型コロナウイルス感染者は、周囲の人にほとんど感染させていないものの、一人の感染者から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在します(屋形船やスポーツジムの事例)。また、一部地域で小規模患者クラスターが発生しています。
※「小規模患者クラスター」とは、感染経路が追えている数人から数十人規模の患者の集団のことを言います。
急激な感染拡大を防ぐためには、小規模患者クラスターの発生の端緒を捉え、早期に対策を講じることが重要です。これまでの感染発生事例をもとに、一人の感染者が生み出す二次感染者数を分析したところ、感染源が密閉された(換気不十分な)環境にいた事例において、二次感染者数が特徴的に多いことが明らかになりました。(下のグラフ)
換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることは避けてください。また、イベントを開催する場合には、風通しの悪い空間や人が至近距離で会話する環境は感染リスクが高いことから、その規模の大小にかかわらず、その開催の必要性について検討するとともに、開催する場合にあっては、風通しの悪い空間をなるべく作らないなど、その実施方法を工夫するようお願いします。


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厚生労働省 (2020-02-29) 新型コロナウイルスに関するQ&A (一般の方向け)2月29日時点版
問12「集団感染を防ぐためにはどうすればよいでしょうか?」

http://web.archive.org/web/20200229174116/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q12

この時点で、

  • 換気が悪く (=密閉)
  • 人が密に集まって過ごす (=密接)
  • 集団で集まる (=密集)

という3要素がすでにそろっている。ただ、換気以外の要素については、その後「3密」のかたちで定着していった内容とはすこしずれている。

3月21日

その後、この項目は問14に移動し、表現が変更されて「3つの条件が同時に重なった場所(換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間(密閉空間・密集場所・密接場所)」という説明になる (カッコが閉じていないのは原文ママ)。

 多くの事例では新型コロナウイルス感染者は、周囲の人にほとんど感染させていないものの、一人の感染者から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在します(ライブハウス、スポーツジムや屋形船等の事例)。また、一部地域で小規模患者クラスターが発生しています。
 ※「小規模患者クラスター」とは、感染経路が追えている数人から数十人規模の患者の集団のことを言います。
 急激な感染拡大を防ぐためには、小規模患者クラスターの発生の端緒を捉え、早期に対策を講じることが重要です。これまでの感染発生事例をもとに、一人の感染者が生み出す二次感染者数を分析したところ、感染源が密閉された(換気不十分な)環境にいた事例において、二次感染者数が特徴的に多いことが明らかになりました。(下のグラフ)
 こうしたことから、これまで集団感染が確認された場に共通する「1.換気の悪い密閉空間、2.人が密集している、3.近距離での会話や発生が行われる」という3つの条件が同時に重なった場所(換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間(密閉空間・密集場所・密接場所)に集団で集まることは避けてください。
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厚生労働省 (2020-03-24) 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)3月21日時点版
問14「集団感染を防ぐためにはどうすればよいでしょうか?」
(グラフは省略)

http://web.archive.org/web/20200324014842/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q14

3月26日

3月26日時点版では、カッコの間違いが修正されるとともに、「「3つの条件を同時に重なった場所」を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます」というフレーズが加わっている。(ここにも文法の間違いがあるが、原文ママ)

 多くの事例では新型コロナウイルス感染者は、周囲の人にほとんど感染させていないものの、一人の感染者から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在します(ライブハウス、スポーツジムや屋形船等の事例)。また、一部地域で小規模患者クラスターが発生しています。
 ※「小規模患者クラスター」とは、感染経路が追えている数人から数十人規模の患者の集団のことを言います。
 急激な感染拡大を防ぐためには、小規模患者クラスターの発生の端緒を捉え、早期に対策を講じることが重要です。これまでの感染発生事例をもとに、一人の感染者が生み出す二次感染者数を分析したところ、感染源が密閉された(換気不十分な)環境にいた事例において、二次感染者数が特徴的に多いことが明らかになりました。(下のグラフ)
 こうしたことから、これまで集団感染が確認された場に共通する「1.換気の悪い密閉空間、2.人が密集している、3.近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件が同時に重なった場所(換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間(密閉空間・密集場所・密接場所))に集団で集まることは避けてください。
~ 皆さんが、「3つの条件を同時に重なった場所」を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。 ~
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厚生労働省 (2020-03-26) 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)3月26日時点版
問14「集団感染を防ぐためにはどうすればよいでしょうか?」
(グラフは省略) (強調部分は原文では太字)

http://web.archive.org/web/20200326170935/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q14

4月16日

Q&Aのこの項目は、4月16日時点版で削除された。その代わり、問2「緊急事態では、何をすればよいですか。」につぎのような説明が追加されている。

 何よりも、自分自身への感染を防ぐこと、他の人に感染させないことです。
  注意すべきは、通常のインフルエンザでは感染すると、発熱などの症状により感染を自覚し易いのですが、新型コロナウイルス感染症では多くの方が軽症で経過することが報告されています。特に若い世代は、症状が乏しいことが指摘されており、最近では、20歳・30歳代の方の感染者の方が高齢者より多くなっています。
 具体的には、第一に、不要不急の外出を避けること。「外出しなくても良いことは家で済ます」、その典型例は職場に行かずにテレワークで済ますことです。また「今日明日にしなくても済むことは、先に延ばす」ことです。第二に、「3つの密」を避けることです。3つとは「換気の悪い密閉空間」、「多くの人が集まる密集場所」、「2m以内の距離で会話や共同行為をする密接場面」です。


【3つの密を避けるための手引き】https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html#c5


 緊急事態宣言は、諸外国で見られる「ロックダウン(都市封鎖)」ではありません。医療機関への通院、食料・医薬品・生活必需品の買い物、必要限度内での職場への出勤、屋外での運動や散歩の健康維持などのための外出まで、自粛の対象にはなりません。ですから、食料品などの買い占めのような行動は控え、落ち着いた対応をお願いします。
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厚生労働省 (2020-04-17) 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)4月16日時点版
問2「緊急事態では、何をすればよいですか。」

http://web.archive.org/web/20200417053352/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q1-2

「ミングる」

NHK報道 (3月3日)

3月3日にNHKでつぎのような報道があった模様。

国の専門家会議のメンバーがキーワードとして挙げるのが、「ミングる」です。

耳慣れない言葉ですが、英語では「mingle」、「人と入り交じる」という意味の言葉で、感染の拡大を防ぐために「ミングる」をできるかぎり避けることが必要だとしています。

〔……〕

専門家会議のメンバーがキーワードとして挙げるのが、「ミングる」。英語では「mingle」、「人と入り交じる」という意味の言葉で、感染の拡大を防ぐために「ミングる」をできるかぎり避けることが必要だとしています。

〔……〕

新型コロナウイルスは感染してもおよそ80%の人は軽症ですみ、ほとんど症状が出ない人もいるとされ、北海道では、広い範囲で感染が確認されている状況から見て、感染しても症状が軽く、仕事や遊びなどで活動が多い若い世代で、気付かないうちに感染が広がっていたと考えられるとしています。

このため、特に10代から30代の若い世代に、知らず知らずのうちに感染を広げてしまわないよう、しばらくの間は多くの人と入り交じる、「ミングる」状況をできるだけ避けてほしいとしているのです。

専門家は具体的には、ライブハウスやスポーツジム、ビュッフェ形式の会食、クラブ、カラオケボックスなど、「風通しの悪い空間で、人と人とが至近距離で会話する場所やイベント」を挙げています。

専門家によると、満員電車では、駅で乗り降りする場合に一定程度、空気が入れかわる可能性があること、面と向かって会話することがあまりないことから、「風通しの悪い空間で至近距離で会話するイベント」ほどは、感染のリスクは高くないと考えられています。

〔……〕

それでも、専門家は可能なかぎり、時差出勤やテレワークなどで満員電車を避けることが望ましいとしています。

〔……〕

専門家会議は、今の段階では、「ミングる」状況を減らしていけば、感染拡大を収束に向かわせることができるとしています。

多くの人が行動を見直して、「人が集まる風通しの悪い場所」を避けるだけで、新型コロナウイルスの感染が拡大するスピードを抑え、重症化するリスクが高い人に感染させてしまう機会を減らすことができ、多くの人々の重症化を食い止めて、命が救えるとしています。
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NHK (2020-03-03) 「ミングる」避けて! 新型コロナウイルス対策 (16時38分)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200303/k10012311511000.html

NHKサイトにはこのようにあるのだけれど、専門家がこれを使っていた例は見当たらない。

「ミングる」使用例

実際の使用例としては、大学の卒業式の祝辞で言及された例が1件。

換気の悪い場所等で、みんながグループになって仲良く緊密に集うmingle(ミングる)によって、新型コロナウイルスは人から人へと伝わり易くなり、ウイルスが伝染した人の集団(クラスター)がつくられるとされています。クラスターのメンバーが他所でミングると、新たなクラスターがつくられ、急激に伝染が拡大します。新型コロナウイルス対策で厄介なのは、ウイルスを持っていても、病気の症状が明瞭ではない不顕性感染の人がいることです。明らかな症状を持っている人はもちろん、症状が現れていない人であってもミングることによって、感染のクラスターづくりを進めてしまう可能性があります。他人からウイルスをもらわないこととともに、もしかして持っているかもしれないウイルスを他人に伝えないという予防意識・行動が新型コロナウイルスのリスクを収束させる上でとても重要です。どうぞよろしくお願いします。
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志村 二三夫 (2020-03-19) 令和元年度 学位記授与式式辞に代わる贐(はなむけ)のことば (十文字学園女子大学 学長)

https://www.jumonji-u.ac.jp/news/20200319_01/

これ以外には、SNSや個人サイトで揶揄的な言及が見つかる程度である。朝日 (聞蔵II)、毎日 (毎索)、読売 (ヨミダス歴史館)、日経 (日経テレコン21) の各新聞データベースで「ミングる」を検索しても、記事はまったくヒットしない。

専門家会議の「見解」

3月2日

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、3月2日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策の見解」の中で、「1.この一両日で明らかになったこと」としてつぎのように報告している。

一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。 具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等です。このことから、屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されます。そして、患者集団(クラスター)が次の集団(クラスター)を生むことが、感染の急速な拡大を招くと考えられます。
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新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-02) 新型コロナウイルス感染症対策の見解 (3月2日)
「1.この一両日で明らかになったこと」
(強調部分は原文では太字に下線)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

そして、北海道について述べた「5.北海道の皆様ができること」において、つぎのように要請している

規模の大小に関わらず、風通しの悪い空間で人と人が至近距離で会話する場所やイベントにできるだけ行かないこと(例えば、ライブハウス、カラオケボックス、クラブ、立食パーティー、自宅での大人数での飲み会など


ただし、症状のない方にとって、屋外での活動や、人との接触が少ない活動をすること(例えば、散歩、ジョギング、買い物、美術鑑賞など)、手を伸ばして相手に届かない程度の距離をとって会話をすることなどは、感染のリスクが低い活動です。
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新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-02) 新型コロナウイルス感染症対策の見解 (3月2日)
「5.北海道の皆様ができること」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

ここで言及されているのは

  • 風通しの悪い空間 (=密閉)
  • 至近距離で会話する (=密接)

の2要素である。「密集」の要素への言及がないが、「至近距離で会話」は、その後使われる「密接」とほぼおなじ意味になっている。

3月9日

専門家会議の3月9日の「見解」では、「3つの条件が同時に重なった場」という表現が登場した。

6. みなさまにお願いしたいこと
 これまでに明らかになったデータから、集団感染しやすい場所や場面を避けるという行動によって、急速な感染拡大を防げる可能性が、より確実な知見となってきました。これまで集団感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場です。こうした場ではより多くの人が感染していたと考えられます。そのため、市民のみなさまは、これらの3つの条件ができるだけ同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとってください。
 ただし、こうした行動によって、どの程度の感染拡大リスクが減少するかについては、今のところ十分な科学的根拠はありませんが、換気のよくない場所や人が密集する場所は、感染を拡大させていることから、明確な基準に関する科学的根拠が得られる前であっても、事前の警戒として対策をとっていただきたいと考えています。
専門家会議としては、すべての市民のみなさまに、この感染症との闘いに参加して頂きたいと考えています。少しでも感染拡大のリスクを下げられるよう、別添の「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」を参考にしていただき、様々な場所や場面に応じた対策を考え、実践していただきたいと考えています。どうかご協力をお願いいたします。
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新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-09) 新型コロナウイルス感染症対策の見解 (3月9日) p. 4
〔強調部分は原文では太字に下線〕

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606000.pdf

この3月9日「見解」には6ページ以降に「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」が付属している。

 これまで感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間、②人が密集していた、③近距離での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場です。こうした場ではより多くの人が感染していたと考えられます。
 これら3つの条件がすべて重ならないまでも1つないし2つの条件があれば、なにかのきっかけに3つの条件が揃うことがあります。例えば、満員電車では、①と②がありますが③はあまりなされません。しかし、場合によっては③が重なることがあります。また、一連の活動のなかで多くの時間は3つ条件が揃わなくても、あるときにはそうした機会があることがあります。例えば通常の野外スポーツをしている際には3つの条件は揃いませんが、着替えやミーティングにおいては①から③の条件が重なることがあります。そのため、3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。

 また、上記の条件の他に、共用の物品を使用していたという場面もあります。こうした状況では接触感染がおこる場合があります。
 これまで、換気の悪い閉鎖空間で人が近距離で会話や発語を続ける環境、例えば、屋形船、スポーツジム、ライブハウス、展示商談会、懇親会等での発生が疑われるクラスターの発生が報告されています。
 なお、不特定多数が参加するイベントは、感染拡大のリスクが高いだけでなく、クラスターが発生したときに感染源の特定、接触者調査が困難となり、クラスターの連鎖につながるリスクが増します。イベントの特徴に応じて可能な場合には、主催者があらかじめ参加者を把握できているほうが感染拡大のリスクを下げることができます。


クラスター(集団)の発生のリスクを下げるための3つの原則
1. 換気を励行する:窓のある環境では、可能であれば 2 方向の窓を同時に開け、換気を励行します。ただ、どの程度の換気が十分であるかの確立したエビデンスはまだ十分にありません。
2. 人の密度を下げる:人が多く集まる場合には、会場の広さを確保し、お互いの距離を1-2 メートル程度あけるなどして、人の密度を減らす。
3. 近距離での会話や発声、高唱を避ける:周囲の人が近距離で発声するような場を避けてください。やむを得ず近距離での会話が必要な場合には、自分から飛沫を飛ばさないよう、咳エチケットの要領でマスクを装着するかします。


 これらに加えて、こまめな手指衛生と咳エチケットの徹底、共用品を使わないことや使う場合の充分な消毒は、感染予防の観点から強く推奨されます
―――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-09) 新型コロナウイルス感染症対策の見解 (3月9日) p. 6-7
「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」
〔強調部分は原文でも太字〕

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606000.pdf

ここであがっている3条件は

  • 換気
  • 人の密度
  • 近距離での会話や発声、高唱

であり、のちの「3密」を構成する「密閉」「密集」「密接」の3要素がそろっている。

「3(つの)密」

首相官邸「3つの「密」を避けて外出しましょう」(3月18日)

3月18日、首相官邸のTwitterアカウントが「3つの「密」を避けて外出しましょう」という呼びかけを掲載する。

【注意喚起】#新型コロナウイルス に関するお知らせです。集団発生のリスクを下げるために3つの「密」を避けて外出しましょう。
①換気の悪い密閉空間
②多数が集まる密集場所
③間近で会話や発声をする密接場面


詳細はこちらをご覧ください▼
https://kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_info.html
―――――
首相官邸(災害・危機管理情報) @Kantei_Saigai 2020-03-18 のツイート

https://twitter.com/Kantei_Saigai/status/1240057648835252224

このときのチラシが下記のものである。


―――――
首相官邸 (2020-03-20) 新型コロナウイルス感染症に備えて~一人ひとりができる対策を知っておこう~
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11473041/www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html
より「「密」を避けて外出しましょう」(PDF:1,228KB)

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11473041/www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf

上部に「「密」を避けて外出しましょう!」と大書してあり、その下に「①換気の悪い密閉空間」「②多数が集まる密集場所」「③間近で会話や発生をする密接場面」の3つがならんでいる。さらにその下には「新型コロナウイルスへの対策として、クラスター (集団) の発生を防止することが重要です」「イベントや集会で3つの「密」が重ならないよう工夫しましょう。」とあり、ベン図を示して「3つの条件がそろう場所がクラスター (集団) 発生のリスクが高い!」と書かれている。

3月23日の首相官邸メールマガジンにも同じチラシが載っている: https://www.kantei.go.jp/jp/mail/back_number/archive/2020/back_number20200323.html
なお、これらのチラシの「密集場所」のイラストに書かれている人混みはずいぶんまばらであり、ほとんどの人は手の届く距離には他人がひとりもいないように見える。この点で、先に専門家会議の3月9日「見解」に付されていた図 の「手の届く距離に多くの人がいる」とはちがっている。

このチラシについては、堀口逸子が次のように批判している。

例えば「3つの密を避けて外出しましょう」というポスターが作られていますね。
......
これを見て、みんな外に行きますよね。「~しましょう」という単語は、推奨する時に使うのです。「手を洗いましょう」とかですね。そしてここには「外出しましょう」と書かれています。

だけど、例えば、「外出するなら」または「人に会うなら」、「3つの密に気をつけて」と言えたら、出て行くなとは言われていませんが、行く時には気をつけなくちゃいけないんだというメッセージが伝わります。出ていいのだ、出るのを推奨している、とはならないですね。

こういう細かい表現に気をつけるのがリスコミでは大事なんです。



ーーわかりにくいメッセージになっている?


しましょう、という言葉は普通はしてはいけない時には使いません。



ーーこれを目で受け取ると、どういう風に受け止めてしまいますか?


「外出しましょう」と書いてあるから、外出していいんだと受け止めます。



ーーなるほど。本来はこういう所には行かないでね、と伝えたいのに。


3つが重なる所には行かないでね、というのが伝えたいメッセージなんです。「外出するな」は強すぎますけれども、「外出するなら」「人と会うなら」3つの密は避けてね、というなどですね。

このメッセージ一つ見ても、専門家が入っていないのだなと気づくところです。
―――――
岩永直子 (2020-03-26) 「同時に引き締めと励ましのメッセージを」 リスク・コミュニケーションの専門家が評価する日本の新型コロナ対応 (堀口逸子へのインタビュー) (BuzzFeed News 最後の更新 2020年3月30日)
(強調部分は原文でも太字)

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/risk-communication-horiguchi

この意見はかなり変である。専門家でなくても、日本語話者であれば、「~しましょう」が推奨の表現であることは知っている。このポスターは、そういうことを当然知っている人がつくったものである。日本政府は社会経済活動を維持することを重視していたのだから、このポスターはまさに「出ていいのだ、出るのを推奨している」という意図を伝えるためにつくられたと素直に受け取ればいいのではないだろうか。

なお、このような批判を反映したのか、その後、このポスターのキャッチフレーズは「3つの密を避けましょう!」に変更されている。
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11519832/www.kantei.go.jp/jp/content/000061234.pdf

「3つの密」から「3密」あるいは「三密」へ

3月18日の首相官邸チラシを受け、翌日には「三密」「3密」と略したツイートがあった。

なんだい、三密って密教の話しだしたのかと思ったぞい
―――――
馬主来4世 読みはパシクル手を洗う放射線治療医 @KH_HokujinIGRTC 2020-03-19 のツイート

https://twitter.com/KH_HokujinIGRTC/status/1240543149677633540

感染拡大中の中、3密の学校を再開させて良い根拠が何処にも見当たらない。
―――――
ふぁんきー @gS99c52ClfRrwzN 2020-03-19のツイート

https://twitter.com/gS99c52ClfRrwzN/status/1240589252670308352

より訴求力のあるメディアで「3密」ということばを取り上げた記事としては、3月22日の忽那賢志のYahoo!記事がある。

新型コロナ患者の8割は誰にも感染させていません。

感染を広げているのは残り2割の患者であり、この2割の感染者が広げた環境は多くが「密閉・密集・密接」の3要素を持つ空間(3密空間と勝手に命名)であったことも分かっています。

専門家会議にも出ている西浦博先生の査読前論文によると、このような「3密空間」にいる感染者は、いない感染者よりも18.7倍も他の人へ感染させやすいとのことです。

逆に「3密空間」にいない8割の感染者からはほとんど感染は広がっておらず、感染の連鎖は勝手に途切れていきます。

とにかく「3密空間」が感染拡大の大きな原因です。

〔……〕

オーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないためには、とにかく「3密空間」を避けることが大事になります。

これまでのクラスターの事例では若い方はあまり多くありませんが、これは若年者が軽症例が多いためクラスターの検知が困難であると考えられています。若者がクラスター発生に関わっていないわけではありませんし、むしろ見つかりにくいがゆえに気づかないうちに感染を広げてしまう危険性があります。

老若男女、全ての人が「3密空間」を避けることが新型コロナ対策では重要です。


逆に、この「3密を満たさない空間」では感染伝播は比較的起こりにくいと考えられます。

特に感染者が出ていない、あるいは少ない地域ではこうした「3密を満たさない空間」における活動の自粛は段階的に解除していくことも可能と考えられます。

例えば花見なども周囲の人との距離が保たれていれば感染のリスクが高くないと考えられます(ちなみにさっぽろ雪まつりは屋外の雪像周囲ではなく雪まつりのイベントに関連した屋内施設がクラスターになったと推定されています)。

飲食店でも常に窓を開けて換気を良くし席の間隔を広くするなど「3密空間」を避けることでクラスター発生のリスクを下げることができます。

都市閉鎖という大きな犠牲を払って感染を抑え込んだ武漢市と違い、社会の機能をなんとか維持しつつ感染者を抑え込むことができれば、日本は新型コロナ対策のモデルとして世界中から参考にされることでしょう。

日々大変な状況が続いていますが、みんなで協力してこの難局を乗り切っていきましょう。
―――――
忽那賢志 (2020-03-22) 新型コロナのオーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないために我々にできることは? (Yahoo! ニュース個人)

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200322-00169120/

「西浦博先生の査読前論文によると、このような「3密空間」にいる感染者は、いない感染者よりも18.7倍も他の人へ感染させやすいとのことです」とある部分は https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.28.20029272v1 へのリンクがはられているのだが、その論文にそんなことは書いていない ので、デマである。「「3密空間」にいない8割の感染者からはほとんど感染は広がっておらず、感染の連鎖は勝手に途切れていきます」という主張にも根拠はない。

その後、東京都知事の記者会見などで、「3密」という表現が広く使われるようになっていく。

先般23日の時点で「新たな対応方針」を発表させていただいたわけでございますけれども、その時に皆様方には引き続き、このように3つの「密」、「換気の悪い密閉空間」、「多くの人の密集する場所」、「近距離での密接した会話」、これら3つの密を避けていただく、そのような行動をお取りいただきたいと存じます。これを「ノー3密」と呼んでおります。
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東京都 (2020-03-25) 小池知事「知事の部屋」/記者会見 (20時00分~20時38分)

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2020/03/25.html

この東京都知事会見を受けて、NHKの番組でつぎのようなやりとりがあったらしい:

Q:「感染経路がわからない人が増えているということだが、そうなってくると、『3つの密』が重なる場所に気をつけるだけでは十分ではないのではないか」という質問が視聴者から寄せられています。

A:これについては、感染経路が見えているかどうかに関わらず、「3つの密」を避けることがもっとも重要なポイントだといえます。
新型コロナウイルスは人と人との接触でうつっていくわけですから、できる限り人との接触を控えるということが対策の基本となります。
ただ、これまでの研究で、新型コロナウイルスでは、感染した人のおよそ8割は、誰にも感染を広げていなかったことが分かっています。
つまり集団感染を防ぐことができれば、感染の広がりを大幅に抑えることができると考えられているんです。
そのためのに大切なのが「3つの密」、「3密」です。「密閉」された場所で、多くの人が「密集」し、近い距離で会話するなどの「密接」な環境、この3つの条件が重なるのをできる限り避けることで集団感染のリスクを減らせるとされています
感染経路が分からない場合、見えていないところで、集団感染が起こっているおそれがありますが、見えているかどうかに関わらず、新たな集団感染が起こるのを徹底して防ぐこと、つまり「3密」を避けることがもっとも重要なポイントです。
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NHK (2020-03-26) 【記者解説】東京での急増「爆発的な感染拡大」の兆しなのか? (7時52分)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200326/k10012350801000.html

3密回避以外にも重要なことがあるのではないか? という質問に、3密回避が重要です、と答えているので、ぜんぜん話が通じていない感じである。

専門家会議の「状況分析・提言」

3月19日

「3つの密」「3密」という用語は、3月中には専門家会議の文書には出てこない。3月19日の「状況分析・提言」は「3つの条件が同時に重なった場」「3つの条件が同時に重なる場」という長い表現を何度も繰り返して警戒を訴えている。

市民や事業者の皆様に、最も感染拡大のリスクを高める環境(①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる、という3つの条件が同時に重なった場)での行動を十分抑制していただくことが重要です。
〔以上 p. 7〕


もし大多数の国民や事業者の皆様が、人と人との接触をできる限り絶つ努力、「3つの条件が同時に重なる場」を避けていただく努力を続けていただけない場合には、既に複数の国で報告されているように、感染に気づかない人たちによるクラスター(患者集団)が断続的に発生し、その大規模化や連鎖が生じえます。そして、ある日、オーバーシュート(爆発的患者急増)が起こりかねないと考えます。そして、そうした事態が生じた場合には、その時点で取り得る政策的な選択肢は、我が国でも、幾つかの国で実施されているロックダウンに類する措置を講じる以外にほとんどない、ということも、国民の皆様にあらかじめ、ご理解いただいておく必要があります。
 したがって、我々としては、「3つの条件が同時に重なる場」を避けるための取組を、地域特性なども踏まえながら、これまで以上に、より国民の皆様に徹底していただくことにより、多くの犠牲の上に成り立つロックダウンのような事後的な劇薬ではない「日本型の感染症対策」を模索していく必要があると考えています。このため、地域別の予兆を少しでも早く把握しながら、もし、特定地域にオーバーシュートの兆しが見られた場合には、まずは、地域別の対応を徹底していただくとともに、全国的にも、より一層の行動変容が必要であると考えています。特に、これまでの事例を見ると、症状が軽い方が、感染に気がつかないまま、街を出歩いて感染を拡大させている可能性があり、こうした方々を含め、地域の皆さん全員が「3つの条件が同時に重なる場」を避けるなどの行動変容を徹底していただくことが極めて重要です。
 また、これまでにわかってきたこととしては、オーバーシュートのリスクを高めるのが、「3つの条件が同時に重なる場」を避けにくい状況が生じやすい、「全国から不特定多数の人々が集まるイベント」であるといえます。イベントそのものがリスクの低い場で行われたとしても、イベントの前後で人々が交流する機会を制限できない場合には、急速な感染拡大のリスクを高めます。また、規模の大きなイベントの場合は、会場に感染者がいた場合に、クラスター(患者集団)の連鎖が発生し、爆発的な感染拡大のリスクを高めます。現時点では、安全な規模や地域による基準を設けられるような科学的な根拠はなく、これまでの事例から判断するしかない状況です。「3 つの条件が同時に重なる場」を避けるなど適切な対応をとられれば、オーバーシュートを未然に防ぐこともあり得ますが、国内外の現在の感染状況を考えれば、短期的収束は考えにくく長期戦を覚悟する必要があります。
〔以上 pp. 9-10〕


7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方
 感染状況が収束に向かい始めている地域並びに一定程度に収まってきている地域では、後述するように、人の集まるイベントや「3つの条件が同時に重なる場」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動から、徐々に解除することを検討することになると考えます。ただし、一度、収束の傾向が認められたとしても、クラスター(患者集団)発生の早期発見を通じて、感染拡大の兆しが見られた場合には、再び、感染拡大のリスクの低い活動も含めて停止する必要が生じえます。
 感染状況が確認されていない地域では、学校における様々な活動や、屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用などを、適切にそれらのリスクを判断した上で、感染拡大のリスクの低い活動から実施してください。ただし、急激な感染拡大への備えと、「3つの条件が同時に重なる場」を徹底的に回避する対策は不可欠です。
〔以上 p. 11〕


Ⅲ.提言等
1.政府及び地方公共団体への提言
〔……〕
(3)「3つの条件が同時に重なった場」を避ける取組の必要性に関する周知啓発の徹底
 まん延の防止に当たっては、国民の行動変容を一層徹底していく必要があります。
このため、専門家会議としては、国に対しては、3つの条件が同時に重なった場を避けることの必要性についての周知広報の充実を求めます。
〔……〕
(5)学校等について
〔……〕
 また、日々の学校現場における「3つの条件が同時に重なる場」を避けるため、①換気の悪い密閉空間にしないための換気の徹底、②多くの人が手の届く距離に集まらないための配慮、③近距離での会話や大声での発声をできるだけ控えるなど、保健管理や環境衛生を良好に保つような取組を進めていくことが重要です
〔……〕
2.市民と事業者の皆様へ
(1)3つの条件が同時に重なった場における活動の自粛のお願い
 これまでに明らかになったデータから、集団感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場ということが分かっています。例えば、屋形船、スポーツジム、ライブハウス、展示商談会、懇親会等での発生が疑われるクラスターの発生が報告されています。
 皆さんが、「3つの条件が同時に重なった場所」を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。
〔……〕
(6)若者世代の皆様へのお願い
 若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは高くありません。しかし、無症状又は症状が軽い方が、本人は気づかずに感染を広めてしまう事例が多く見られます。このため、感染の広がりをできるだけ少なくするためには、 改めて、3つの条件が同時に重なった場に近づくことを避けていただきますようにお願いします。特に、オーバーシュート(爆発的患者急増)のリスクを高めるのが、「3つの条件が同時に重なる場」を避けにくい状況が生じやすい、「全国から不特定多数の人々が集まるイベント」であることもわかってきました。イベントそのものがリスクの低い場で行われたとしても、イベントの前後で人々が交流する機会を制限できない場合には、急速な感染拡大のリスクを高めますので、十分に注意して行動してください
〔……〕
(9)大規模イベント等の取扱いについて
 2月26日に政府が要請した、全国的な大規模イベント等の自粛の成果については、その効果だけを取り出した「まん延防止」に対する定量的な効果測定をできる状況にはないと考えていますが、専門家会議としては、以下のような観点から、引き続き、全国的な大規模イベント等については、主催者がリスクを判断して慎重な対応が求められると思います。
 全国規模の大規模イベント等については、
①多くの人が一堂に会するという集団感染リスクが想定され、この結果、地域の医療提供体制に大きな影響を及ぼしかねないこと(例:海外の宗教行事等)
②イベント会場のみならず、その前後などに付随して人の密集が生じること
(例:札幌雪まつりのような屋外イベントでも、近辺で3つの条件が重なったことに伴う集団感染が生じていること)
③全国から人が集まることに伴う各地での拡散リスク、及び、それにより感染者が生じた場合のクラスター対策の困難性
(例:大阪のライブハウス事案(16 都道府県に伝播))
④上記のリスクは屋内・屋外の別、あるいは、人数の規模には必ずしもよらないこと
などの観点から、大規模イベント等を通して集団感染が起こると全国的な感染拡大に繋がると懸念されます。
 このため、地域における感染者の実情やその必要性等にかんがみて、主催者がどうしても、開催する必要があると判断する際には以下①~③などを十分注意して行っていただきたい。
 しかし、そうしたリスクへの対応が整わない場合は、中止又は延期をしていただく必要があると考えています。
 また仮にこうした対策を行えていた場合でも、その時点での流行状況に合わせて、急な中止又は延期をしていただく備えも必要です。
①人が集まる場の前後も含めた適切な感染予防対策の実施、
②密閉空間・密集場所・密接場面などクラスター(集団)感染発生リスクが高い状況の回避、
③感染が発生した場合の参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力
 などへの対応を講ずることが求められます。
 (別添「多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例」参照)
〔以上 pp. 12-17〕
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-03-19)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(3月19日)
(強調部分は原文では太字に下線)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

この18ページの文書に、「3つの条件が重なった」等の表現は17回出現する。

4月1日

「3つの密」という用語が明確な定義をともなって専門家会議の文書にあらわれたのは、4月1日の「状況分析・提言」である。

①集団感染が確認された場に共通する「3つの密」を避ける必要性についての専門家会議から市民の方へのメッセージが十分に届かなかったと考えられること、②このところ、「コロナ疲れ」「自粛疲れ」とも言える状況が見られ、一部の市民の間で警戒感が予想以上に緩んでしまったこと、③国民の行動変容や、健康管理に当たって、アプリなどSNSを活用した効率的かつ双方向の取組が十分には進んでいないことなどの課題があった。
〔以上 p. 6〕


(2)地域区分の考え方について
〔……〕
①「感染拡大警戒地域」
〔……〕
<想定される対応>
オーバーシュート(爆発的患者急増)を生じさせないよう最大限取り組んでいく観点から、「3つの条件が同時に重なる場」2(以下「3つの密」という。)を避けるための取組(行動変容)を、より強く徹底していただく必要がある。
〔……〕
②「感染確認地域」
〔……〕
<想定される対応>
・人の集まるイベントや「3つの密」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動については、実施する。
・具体的には、屋内で50名以上が集まる集会・イベントへの参加は控えること
・また、一定程度に収まっているように見えても、感染拡大の兆しが見られた場合には、感染拡大のリスクの低い活動も含めて対応を更に検討していくことが求められる
③「感染未確認地域」
<想定される対応>
・屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用、参加者が特定された地域イベントなどについては、適切な感染症対策を講じたうえで、それらのリスクの判断を行い、感染拡大のリスクの低い活動については注意をしながら実施する。
・また、その場合であっても、急激な感染拡大への備えと、「3つの密」を徹底的に回避する対策は不可欠。いつ感染が広がるかわからない状況のため、常に最新情報を取り入れた啓発を継続してもらいたい。
〔以上 pp. 7-9〕


2.行動変容の必要性について
(1)「3つの密」を避けるための取組の徹底について
〇 日本では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするため、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「③市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。
 しかし、今般、大都市圏における感染者数の急増、増え続けるクラスター感染の報告、世界的なパンデミックの状況等を踏まえると、3本柱の基本戦略はさらに強化する必要があり、なかでも、「③市民の行動変容」をより一層強めていただく必要があると考えている。
〇 このため、市民の皆様には、以下のような取組を徹底していただく必要がある。
・「3つの密」をできる限り避けることは、自身の感染リスクを下げるだけでなく、多くの人々の重症化を食い止め、命を救うことに繋がることについての理解の浸透。
・今一度、「3つの密」をできる限り避ける取組の徹底を図る。
・また、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことを避けていただく。
・さらに、「3つの密」がより濃厚な形で重なる夜の街において、
 ①夜間から早朝にかけて営業しているバー、ナイトクラブなど、接客を伴う飲食店業への出入りを控えること。
 ②カラオケ・ライブハウスへの出入りを控えること。
〔以上 p. 9〕
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-01)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日)
〔強調部分は原文では下線〕

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

この文書8ページには「「3つの条件が同時に重なる場」2(以下「3つの密」という。)」とあり、そのページの脚注でもつぎのように解説されている。

2 「3つの条件が同時に重なる場」:これまで集団感染が確認された場に共通する「①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件が同時に重なった場のこと。以下「3つの密」という。
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-01)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 8

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

また、上記の9ページからの引用のあとには、つぎのようにある。

・ジム、卓球など呼気が激しくなる室内運動の場面で集団感染が生じていることを踏まえた対応をしていただくこと。
・こうした場所では接触感染等のリスクも高いため、「密」の状況が一つでもある場合には普段以上に手洗いや咳エチケットをはじめとした基本的な感染症対策の徹底にも留意すること。
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-01)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 9

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

「密」の状況が一つであってもリスクが高い場合があることを認識しながら、そうした場所を避けることは要求せず、手洗いや咳エチケット等で対処できると考えていたことがわかる。

これまでも、多くの市民の皆様が、自発的な行動自粛に取り組んでいただいているが、法律で義務化されていなくとも、3つの密が重なる場を徹底して避けるなど、社会を構成する一員として自分、そして社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこう。
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-01)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月1日) p. 12

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

ちょっと気になるのは、最終ページのこのくだりで、「3つの密が重なる場」という表現が出てくることである。「3つの密」は「3つの条件が同時に重なる場」だという定義なのだから、これでは「3つの条件が同時に重なる場が重なる場」ということになってしまう。ここの「3つの密」が鍵括弧でくくられていないことから推察するに、鍵括弧付きの場合だけが専門家会議の定義が適用される特殊な用語である、という考えなのかもしれない。

4月22日

次の、4月22日の「状況分析・提言」になると、「3つの密」の定義自体が変更されている。

〇 これまでの対策では、「3つの密2」を徹底して避けることを周知してきた。
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-22)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月22日) p. 2.

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf

同ページ下端の脚注では「3つの密」がつぎのように説明されている。

2 「3つの密」:これまで集団感染が確認された場に共通する「①換気の悪い密閉空間、②人が密集している、③近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件。これらを回避することで、感染のリスクを下げられると考えられる。
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-22)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月22日) pp. 2-3.

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf

ここでは「3つの密」は「3つの条件」そのものを指す用語となっており、それらが「重なった場」のことではない。また、「回避することで、感染のリスクを下げられる」とあるので、クラスター発生を防ぐためのものではなくなったことがわかる。

しかし、このように定義変更したのであれば、「これまでの対策では、「3つの密2」を徹底して避けることを周知してきた」というのは嘘である。これまでの対策で避けるように周知してきたのは「3つの条件が同時に重なった場」だけだったのだから。

文書から「3つの密」の用例を抜き出すと、以下のような感じである。

なお、8割削減の達成ができた場合には、1 か月後には、感染者数が限定的となり、より効果的なクラスター対策や「3つの密」の回避を中心とした行動変容で感染を制御する方法が一つの選択肢となり得る。不十分な削減では感染者を減少させる期間が更に延びかねないことを十分に理解した上で、できるだけ早期に劇的な接触行動の削減を行うことが求められる。
〔以上 p. 3〕


Ⅲ.提言
〔……〕
◎ 既に、緊急事態宣言が発出された状況下においては、「③市民の行動変容」については、都市部を中心に市中感染のリスクが拡大している中、「3密」に代表されるハイリスクの環境を徹底して回避するための行動制限に加えて、接触の8割を削減するという市民の行動変容をいかに徹底するかにより、まん延の区域の拡大を収束に向かわせることが求められる。
〔以上 p. 10〕


○ まん延の拡大防止に向け、確実に、人と人との接触機会が8割程度低減されなければならない。このため、引き続き、不要不急の外出の自粛や、「3つの密」を避けるための取組の徹底等について、市民の皆様にご協力を求めていくことが不可欠である。また官公庁においても、職務に支障を来さぬよう、テレワークやオンライン会議等の実施に努めるとともに、必要なシステム変更や、予算配分等に努めるべきである。

○ これまでに、外出禁止と都市封鎖(いわゆるロックダウン)を解除したことのある中国やシンガポールでは、日本において「3つの密」と表現しており実際にクラスターが発生する場となった環境(例えば、フィットネスジム、ライブハウス、夜間の接待飲食店など)を行動制限の解除後も休業とすることで2次感染防止を図っている。この結果、今までのところ、中国では大規模な再流行は発生していないと報告されている。
〔以上 p. 12〕


市民の皆様に心がけていただきたいことは、
①手洗い、咳エチケット等の感染防止対策の徹底、
②「3つの密」の徹底的な回避(人混みや近距離での会話、多数の者が集まる室内で大声を出すことや歌を避ける等)
③さらに、人と人との距離をとること(social distancing;社会的距離の確保、最近は physical distancing:身体的距離の確保とするように言われており、以下「身体的距離の確保」という。)
④不要不急の外出の自粛(特に、日本国内における地域を超えた不要不急の移動の自粛)
など、これまでにも繰り返し伝えてきた基本的な行動の徹底が基本である。
〔……〕
出勤が避けられない職場においては、常に「3つの密」が同時に重なる場を避けるとともに、人と人との距離をとることを意識した上で、職場や職務の実態に応じて、
①換気の徹底
②接触感染防止(電話・パソコン等の共有をできる限り回避、こまめに消毒等)
③飛沫感染の防止(会議のオンライン化、咳エチケットの徹底、対人距離の確保(2m以上)等)
④風邪症状を有する者の出勤免除、安心して休暇を取得できる体制の整備
といった取組を着実に定着させていく必要がある。なお、雇用主においては、感染の疑いがあると判断される特段の理由があるわけではないような従業員に対し、PCR検査の結果を提出させることは適切ではない
〔以上 pp. 13-14〕
――――
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 (2020-04-22)「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(4月22日)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf

特に、13ページで、回避すべき「3つの密」の例として「近距離での会話」があがっているのは特筆すべきことといえる。つまり、近くで会話する (=密接) 行為はそれだけで「3つの密」に該当するのであり、屋外 (=密閉でない) で少人数 (=密集でない) であっても徹底的に回避しなければならない事柄になったのである。

政府による「基本的対処方針」の制定過程

3月下旬に「新型コロナウイルス感染症対策本部」が再編され、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が出されるようになった。そこでの「三つの密」の定義は、専門家会議のものとは異なっている。

3月28日「基本的対処方針」

3月28日に最初の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が出た段階では、まだ「三つの密」ということばは使われていない。使われていたのは「3つの条件が同時に重なる場」である。

集団感染が生じた場の共通点を踏まえると、特に①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件が同時に重なる場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられる。
〔以上 p. 3〕


④ 都道府県は、密閉空間、密集場所、密接場面という3つの条件が同時に重なるような集まりについて自粛の協力を強く求めるとともに、全国的かつ大規模な催物等の開催については、リスクへの対応が整わない場合は中止又は延期することを含め、主催者による慎重な対応を求める。その上で、感染が拡大傾向にあり、オーバーシュートの予兆がみられるなどの地域では、期間を示した上で、外出や催物の開催の自粛について協力を迅速に要請する。その結果、感染が収束に向かい始めた場合には、感染拡大のリスクの低い活動から自粛の要請の解除を行うこととする。特に大都市圏では、人口数及び人口密度が高く、交通の要所でもあることを踏まえて、十分な注意を払うこととする。
〔以上 p. 7〕
――――
新型コロナウイルス感染症対策本部 (2020-03-28) 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11479787/www.cas.go.jp/jp/influenza/kihon_h.pdf

「密接場面」の定義など、細部は異なるものの、おおむね専門家会議が使ってきた「3つの条件が同時に重なる場」とおなじ意味である。もっとも、全14ページの文書中、この表現は2回しか出てこない。

[ここから 2020-09-22 追加]

この「基本的対処方針」を審議した諮問委員会 (3月27日) で、興味深い議論がおこなわれている。資料として提出されていた原案 (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1.pdf 最終的に「基本的対処方針」として翌日公表された上記の文面と変わらない) のなかの「3つの条件が同時に重なる」という表現について、飯泉嘉門全国知事会会長 (オブザーバー参加) が意見を述べているのである。

 次に、7ページの蔓延防止の関係であります。
〔……〕
④のところ、その3密があるわけでありますが、2行目にもありますように、この3つの条件を重ねる、アンドで書いてあります。しかし、それぞれ個人個人の置かれた状況は様々でありますので、できればアンドではなくてオアという形も考えるべく、その考え方の整理をぜひ行っていただきたいと思います。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第1回)議事録 (2020-03-27)
飯泉全国知事会会長発言

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1_2.pdf

これを受けて、諮問委員会会長の尾身茂がつぎのように議論を促している。

幾つか新たな提案があったと思います。私のサジェスチョンは、幾つかテクニカルあるいは非常に具体的な提案があったので、それについてまとめて、事務局のほうからレスポンスをいただいて、もう一つ最後、押谷委員のほうからかなり厳しい今の状況説明と、今、お話を聞いて共通のテーマは、自粛などの対策に協力してもらうためには、経済的な支援も必要だ、あるいは言っていることはいいのだけれども、これをどう実行させるかという本質的な問題があったと思うのです。したがって、非常に大事なので、はしょらないで少ししっかりと議論をしたいと思います。
〔……〕
あと大事な問題は3つの条件です。例の3密の条件を我々はアンドでやってきたのだけれども、オアにということも入れたらいいのではないか。あとはメンタル面のことをもう少しというのが非常に具体的なコメントだったと思います。その辺について、事務局のほうからどうぞ。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第1回)議事録 (2020-03-27) pp. 20-21
尾身会長発言

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon1_2.pdf

これに対する事務局(宮嵜雅則厚生労働省健康局長)と押谷仁委員の返答はつぎのとおりである。

〔事務局(宮嵜)〕
④もまさに委員の先生方との御相談ですけれども、3つの条件のアンドだけではなくオアをどうするかということについては、御議論が要るのかもしれませんと思っております。
〔……〕
○押谷構成員 これはここに書けという話ではないのですけれども、新たな我々の知見の情報共有です。3密だけではなくて、声出すようなことが危ないということが分かってきて、歌を歌うのはかなり危ないです。カラオケだけではなくて合唱団というのも出てきて、声を出すことはかなり共通項として出てきています。ライブハウスも声を出すということがかなり大きな要素なのだろうと思います。コールセンターがありましたけれども、コールセンターの人たちは朝、みんなで集まって発声練習をするらしいです。だから、こういう声を出すことがリスクであるということは、専門家会議で情報発信するべきことだと思いますけれども、そういうことも分かってきています。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第1回)議事録 (2020-03-27) pp. 23-24

アンドではなくてオアで、という飯泉の発言は、理由を明示していない。議事録からは会議の場で異論は出ていなことがわかるが、この「基本的対処方針」の原案の文面は修正されたわけではなく、「3つの条件が同時に重なる場」という表現が結局そのまま通っている。

ただ、それにとどまらず、押谷から、3密がなくても「危ない」(ここではクラスターが発生するという意味) との発言が出ていることが重要である。この時点で、「3つの条件が重なる場」に警戒対象を限定することには専門家からも疑義が呈されていたことになる。

[ここまで 2020-09-22 追加]

4月1日 対策本部会議

4月1日の 新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回)資料 には 同日の専門家会議「状況分析・提言」(全12ページ) がそのまま付されている。上記の引用を参照。

4月7日 諮問委員会会議

4月7日の第2回「新型インフルエンザ等対策有識者会議基本的対処方針等諮問委員会」では、この日の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」とともに、「基本的対処方針」の改正案が審議されている。

まずは、「三つの密」が同時に重なる場を避けることをより一層推進し、さらに、積極的疫学調査等によりクラスター(患者間の関連が認められた集団。以下「クラスター」という。)の発生を封じ込めることが、いわゆるオーバーシュートと呼ばれる爆発的な感染拡大(以下「オーバーシュート」という。)の発生を防止し、感染者、重症者及び死亡者の発生を最小限に食い止めるためには重要である。
〔以上 p. 1〕


 緊急事態の宣言は、新型コロナウイルス感染症の現状とともに、これまでの課題に照らし合わせて、法に基づく各施策を用いて感染拡大を防ぐとともに、この宣言の下、政府や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民が一丸となって、基本的な感染予防の実施や不要不急の外出の自粛、後述する「三つの密」が同時に重なる場を避けることなど、自己への感染を回避するとともに、他人に感染させないように徹底することが必要である。
〔以上 p. 2〕


集団感染が生じた場の共通点を踏まえると、特に①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件(以下「三つの密」という。)が同時に重なる場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられる。また、これ以外の場であっても、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことにはリスクが存在すると考えられる。激しい呼気や大きな声を伴う運動についても感染リスクがある可能性が指摘されている。
〔以上 p. 5〕


室内で「三つの密」が重なる状況を避ける。特に、日常生活及び職場において、人混みや近距離での会話、多数の者が集まり室内において大きな声を出すことや歌うこと、呼気が激しくなるような運動を行うことを避けるように強く促す。飲食店等においても「三つの密」が重なるような場面は避けること。
〔以上 p. 8〕


都道府県は、クラスターが発生しているおそれがある場合における当該クラスターに関係する催物(イベント)や「三つの密」が同時に重なる集まりについては、開催の自粛の要請等を強く行う。
〔以上 p. 10〕


職場においては、感染防止のための取組(手洗い、咳エチケット、事業場の換気励行、発熱等の症状が見られる従業員の出勤自粛、出張による従業員の移動を減らすためのテレビ会議の活用等)を促すとともに、「三つの密」を避ける行動を徹底するよう促す。。外出自粛等の要請にあたっては、「三つの密」がより濃厚な形で重なる繁華街の接客を伴う飲食店等には、年齢等を問わず、外出を自粛するよう促すとともに、まん延の状況や人の移動の実態等を踏まえ、域内のみならず、域外への外出も対象とする。
⑪ 特定都道府県は、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者については、十分に感染拡大防止策を講じつつ、事業の特性を踏まえ、業務の継続を要請する。事業においては、「三つの密」を避けるための必要な対策を講じることとする。
〔以上 p. 12〕


⑭ 政府及び地方公共団体は、飲食店については、施設の使用制限等の対象とはなってはいないが、「三つの密」が重なることがないよう、所要の感染防止策を講じるよう促す。キャバレー、ナイトクラブ等の遊興施設については、クラスター発生の状況等を踏まえ、外出自粛の周知を行う。
〔以上 p. 13〕


職場等における感染の拡大を防止するため、労働者を使用する事業者に対し、職場内においても「三つの密」を避けることとともに、事業場内及び通勤・外勤時の感染防止のための行動(手洗い、咳エチケット等)の徹底、在宅勤務(テレワーク)や時差通勤、自転車通勤の積極的な活用、事業場の換気等の励行、発熱等の風邪症状が見られる労働者への出勤免除(テレワークの指示を含む。)や外出自粛勧奨、出張による移動を減らすためのテレビ会議の利用等を強力に呼びかける。
〔以上 p. 14〕


医療機関及び高齢者施設等の設置者に対して、従事者等が感染源とならないよう、「三つの密」が同時に重なる場を徹底して避けるとともに、症状がなくても患者や利用者と接する際にはマスクを着用する、手洗い・手指消毒の徹底、パソコンやエレベーターのボタンなど複数の従事者が共有するものは定期的に消毒する、食堂や詰め所でマスクをはずして飲食をする場合、他の従事者と一定の距離を保つ、日々の体調を把握して少しでも調子が悪ければ自宅待機するなどの対策に万全を期すこと。
〔以上 p. 17〕
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第2回)(2020-04-07)
「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(案)」

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2.pdf

5ページに「①密閉空間……②密集場所……③密接場面……という3つの条件(以下「三つの密」という。)が同時に重なる場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられる」とあり、この部分が「三つの密」の定義となっている。この定義では、「三つの密」とは3つの条件のことを指すのであって、それらが「同時に重なる」場を指すのはない。この点で、専門家会議 (4月1日) の「3つの密」定義とはちがっている。

もっとも、直後は「が同時に重なる場では」とつづいており、文書中でも「三つの密」に警戒を呼びかける表現のほとんどは「重なる」場合に限定している。ただ、「重なる」場合に限定せずに「三つの密」自体を避けるよう要請する表現が、職場に言及した2か所と、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者に言及した1か所の合計3か所でみられる。職場での感染防止に関しては、通常よりも警戒する範囲を広げるべきだという意図が背後にあった可能性はある。

[ここから 2020-09-22 追加]

この点について、オブザーバーとして参加していた黒岩祐治 (全国知事会会長代理) から、つぎの意見が出ている。

全体を見渡してみて、3密ということがかなり強調されております。前回も知事会から申し上げたと思っているのですが、3密が同時に重なる場を避けるという表現と、3密を避けるという表現が出たり入ったりしているわけです。両方あるわけです。これが非常に誤解を生みやすいと私は思っております。3密が重なる場を避けるということが最初、非常に強調されましたから、若い人たちは特に外ならばいいのだろうという感じになりました。今はやはり3密を避けるといったことをもっともっと強調する。3密が重なるというのは、クラスターの可能性があるのだといったところにもっと押し込めるべきだと思います。
 全体の基本的対処方針を読ませていただきますと、重なるという言葉のほうが強調されているという感じがいたします。つい先日の総理の記者会見では、3密を避けるという言葉になっておりました。ここはやはり徹底していただいたほうが、今、国民の皆さんにお願いしていることとの整合性といった意味でも意味がある。私はそう思います。以上でございます。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第2回)議事録 (2020-04-07) pp. 11-12
黒岩知事発言

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf

これに対する押谷の応答はつぎのとおり

○押谷構成員 今の点について。確かにこの文書の中でもその辺が曖昧な部分があって、3密でなくても起こり得る場合があります。例えば12ページに繁華街の接客を伴う飲食店のところがあるのですけれども、これは必ずしも3密が全部そろっていない環境だと思います。人がたくさんいない、けれども1人の人が不特定多数の人とこういう接触をするという形なのです。歌を歌うとかも、必ずしも3密がそろっていない環境でも起きています。無観客のライブハウスでも起きているので、そういうことはもう少し表現の仕方を考えるべきかと思います。御指摘ありがとうございます。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第2回)議事録 (2020-04-07) p. 12

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf

これもやはり、3密でなくてもクラスターが発生するケースがある、という趣旨の発言である。

これらの議論を受けて、政府対策本部副本部長として出席していた西村大臣がつぎのように述べている。

国民の皆さんには、まさにもう3密が重なっているところではなくて、3密それぞれを避けるということをお願いしたいです。実はいろいろな人から、テレビでもやっていますが、ある商店街に人が多かったり、あるいは公園に若者も集まったり、確かにオープンな空間ですから、重なっていないということなのでしょうけれども、しかし、すごく近い距離で飲食を共にし、また会話をしておりますので、そういう意味では、もう3密それぞれを避けて頂きたい。今日の御意見を伺うと、人と人との接触を避けるということを強調しなければいけないのかなという印象を持っております。
飲食も、対策をやってもらわなければ困ります。地域の食堂やレストラン、カフェとかをやってもらわないと居場所がなくなるというお話もありましたし、できるだけ開けて頂きたいのですけれども、しかし、換気をよくしてもらったりとか、あるいは距離を空けて接触を避けるということで、今日の御意見を聞くとそういうことなのかなと思っています。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第2回)議事録 (2020-04-07) p. 18
西村国務大臣発言

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf

最後に尾身会長がつぎのようにしめくくり、事務局のあいさつがあって、議事録が終わっている。

○尾身会長 それでは、今日、基本的対処方針に対して様々な御意見をいただきましたけれども、これについては事務局のほうと、私がしっかりと皆さんの意見をあれして、修文をさせていただきますので、一任をしていただければと思います。
――――
新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会(第2回)議事録 (2020-04-07) p. 19

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/shimon2_2.pdf

[ここまで 2020-09-22 追加]

4月7日 「基本的対処方針」改正

この諮問委員会で決定した案が同日の対策本部会議に提出され、了承されて「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が改正された。下記に引用するのは、最終的に決定された「基本的対処方針」である。

まずは、「三つの密」を避けることをより一層推進し、さらに、積極的疫学調査等によりクラスター(患者間の関連が認められた集団。以下「クラスター」という。)の発生を封じ込めることが、いわゆるオーバーシュートと呼ばれる爆発的な感染拡大(以下「オーバーシュート」という。)の発生を防止し、感染者、重症者及び死亡者の発生を最小限に食い止めるためには重要である。
〔以上 p. 1〕


緊急事態の宣言は、新型コロナウイルス感染症の現状とともに、これまでの課題に照らし合わせて、法に基づく各施策を用いて感染拡大を防ぐとともに、この宣言の下、政府や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民が一丸となって、基本的な感染予防の実施や不要不急の外出の自粛、後述する「三つの密」を避けることなど、自己への感染を回避するとともに、他人に感染させないように徹底することが必要である。
〔以上 p. 2〕


 こうした対策を国民一丸となって実施することができれば、現在拡大している感染を収束の方向に向かわせることが可能である。具体的には、国民においては、不要不急の外出を避けること、「三つの密」や夜の街を極力避けること、事業者においては、業務継続計画(BCP)に基づき、出勤者の4割減少はもとより、テレワークなどを活用することで、さらに接触の機会を減らすことを協力して行っていく必要がある。30日間に急速に収束に向かわせることに成功できたとすれば、数理モデルに基づけば、80%の接触が回避できたと判断される。
〔以上 p. 3〕


集団感染が生じた場の共通点を踏まえると、特に①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件(以下「三つの密」という。)のある場では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられる。また、これ以外の場であっても、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことにはリスクが存在すると考えられる。激しい呼気や大きな声を伴う運動についても感染リスクがある可能性が指摘されている。
〔以上 pp. 5-6〕


室内で「三つの密」を避ける。特に、日常生活及び職場において、人混みや近距離での会話、多数の者が集まり室内において大きな声を出すことや歌うこと、呼気が激しくなるような運動を行うことを避けるように強く促す。飲食店等においても「三つの密」のある場面は避けること。
〔以上 p. 8〕


都道府県は、クラスターが発生しているおそれがある場合における当該クラスターに関係する催物(イベント)や「三つの密」のある集まりについては、開催の自粛の要請等を強く行う。
〔以上 p. 10〕


都道府県及び市町村は、まん延防止策として、「三つの密」を避けることを徹底させるとともに、クラスター対策及び接触機会の低減を、地域での感染状況及び医療提供体制を踏まえて、的確に打ち出す。
〔以上 p. 11〕


職場においては、感染防止のための取組(手洗い、咳エチケット、事業場の換気励行、発熱等の症状が見られる従業員の出勤自粛、出張による従業員の移動を減らすためのテレビ会議の活用等)を促すとともに、「三つの密」を避ける行動を徹底するよう促す。
〔以上 pp. 12-13〕


⑪ 特定都道府県は、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者については、十分に感染拡大防止策を講じつつ、事業の特性を踏まえ、業務の継続を要請する。事業においては、「三つの密」を避けるための必要な対策を講じることとする。
〔……〕
⑭ 政府及び地方公共団体は、飲食店については、施設の使用制限等の対象とはなってはいないが、「三つの密」が重なることがないよう、所要の感染防止策を講じるよう促す。食堂、レストラン、喫茶店などについては、換気、人と人との間隔を適切にとること等に注意するなど、「三つの密」を避けるための所要の感染防止を呼び掛ける。また、キャバレー、ナイトクラブ等の遊興施設については、クラスター発生の状況等を踏まえ、外出自粛の周知を行う。
〔以上 p. 13〕


職場等における感染の拡大を防止するため、BCPに基づく対応のさらなる強化、労働者を使用する事業者に対し職場内においても「三つの密」を避けることとともに、事業場内及び通勤・外勤時の感染防止のための行動(手洗い、咳エチケット等)の徹底、在宅勤務(テレワーク)や時差通勤、自転車通勤の積極的な活用、事業場の換気等の励行、発熱等の風邪症状が見られる労働者への出勤免除(テレワークの指示を含む。)や外出自粛勧奨、出張による移動を減らすためのテレビ会議の利用等を強力に呼びかける。
〔以上 p. 15〕


医療機関及び高齢者施設等の設置者に対して、従事者等が感染源とならないよう、「三つの密」が同時に重なる場を徹底して避けるとともに、症状がなくても患者や利用者と接する際にはマスクを着用する、手洗い・手指消毒の徹底、パソコンやエレベーターのボタンなど複数の従事者が共有するものは定期的に消毒する、食堂や詰め所でマスクをはずして飲食をする場合、他の従事者と一定の距離を保つ、日々の体調を把握して少しでも調子が悪ければ自宅待機するなどの対策に万全を期すこと。
〔以上 p. 17〕
――――
新型コロナウイルス感染症対策本部 (2020-04-07) 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11519832/www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h(4.7).pdf

おそらく上記の諮問委員会での議論を踏まえたのであろう、諮問委員会の時点での原案からはさまざまな変更がある。 [この文 2020-09-22 追加]


5ページで「①密閉空間……、②密集場所……、③密接場面……という3つの条件(以下「三つの密」という。)」となっている部分は諮問委員会での原案とおなじである。しかし、この後についていた「が同時に重なる場」とあった部分が「ある場」におきかえられている。

この直後に「では、感染を拡大させるリスクが高いと考えられる。また、これ以外の場であっても、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことにはリスクが存在すると考えられる」とあり、単なる人混み (密集だが密閉でも密接でもない) や近距離での会話 (密接だが密閉でも密集でもない) は「「三つの密」がある場」にあたらないようだ。ところが、8ページには「室内で「三つの密」を避ける。特に、日常生活及び職場において、人混みや近距離での会話、多数の者が集まり室内において大きな声を出すことや歌うこと……を避けるように強く促す」という表現もあり、ここでは「人混みや近距離での会話」は「三つの密」にふくむようである。

一見、用語法が混乱しているようにみえるが、どうやらこの文書では、単に「三つの密」といえば3条件を並列したものなのに対し、「「三つの密」のある場」といえば3条件が同時に重なった場合を示す、という使いわけのようだ。前者の意味で「「三つの密」を避ける」といえば、屋外で少人数が近距離で会話することも避けなければならない。しかし後者の意味で「「三つの密」のある場を避ける」といえば、そうした事例はふくまない。これはつまり、「「三つの密」が同時に重なる場」を「「三つの密」がある場」に書き換えたが、意味はまったくおなじだということである。……区別がつきにくくなっただけなので、書き換えないほうがよかったんじゃないか。実際、文中には、「「三つの密」が重なった場」という従前とおなじ表現も出てくる。

また、上記の5ページにおける定義の直後に「感染を拡大させるリスク」といっているのは要するにクラスターを発生させるリスクのことであり、そのあとで「大きな声を出すことや歌うことにはリスクが存在すると考えられる」「激しい呼気や大きな声を伴う運動についても感染リスクがある可能性が指摘されている」というのはクラスターにならないような (したがって社会全体の感染拡大にはつながらない) 小規模な感染のリスクについていっているのだ、というような解釈もできなくはない。

本文をこまかくみていくと、原案では「「三つの密」が同時に重なる場を避ける」あるいは「「三つの密」が重なるような場面を避ける」などとなっていたところの多くが、「「三つの密」を避ける」などの表現に変更された。「密閉」「密集」「密接」の3条件がそろっていなくても、ひとつでも条件があれば避けるべき、という方向に呼びかけ内容を変えたということである。つまり、原案にくらべて、活動の制限がより厳しくなっている。

一方で、飲食店については、「「三つの密」が重なることがないよう、所要の感染防止策を講じるよう促す」となっており、医療機関と高齢者施設については「「三つの密」が同時に重なる場を徹底して避ける」となっている。つまり、飲食店・医療機関・高齢者施設についてだけは、従来と同様に3条件が重なるところを避けることだけを要求するという二重基準になっていると解釈することができる。

4月7日「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」

おなじ日 (4月7日) に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」にも、「3つの密」が定義されている。

いわゆる「3つの密」8 を避ける行動の徹底等の感染拡大防止に向けた協力をお願いしながら、感染の連鎖を断ち切るためのクラスター対策を抜本的に強化する。
――――
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 (2020-04-07 閣議決定) p. 8

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/200407kinkyukeizaitaisaku.pdf

このページ下端の脚注ではつぎのようになっている:
――――

8 「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声をする密接場面」。
――――
新型コロナウイルス感染症緊急経済対策 (2020-04-07 閣議決定) p. 8

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/200407kinkyukeizaitaisaku.pdf

変更のいきさつ

このような定義の揺れはなぜ生じたのか。7月30日の読売新聞につぎの解説が載っていた。

 ◆「NO!!3密」 世界が追随
 ◇3月9日
 東京の屋形船、大阪のライブハウス。新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)を調べてきた厚労省クラスター対策班は、感染が起きる場には共通点があると気づいた。密閉、密集、近距離での会話という3条件だ。専門家会議は3月9日、これが重なる場を避けてほしいと初めて国民に呼びかけた。
 その後、近距離での会話を「密接」と翻訳した内閣官房が、国民が避けるべき場として「三つの密」と名付けた。小池百合子・東京都知事が週末の外出自粛を呼び掛けた同25日の記者会見で、「NO!! 3密」と書かれたボードを掲げ、一気に普及した。
 当初は、三つの密の「重なりを避ける」とされたが、後に一つでも「密」があれば避けると変更された。
 きっかけは、黒岩祐治・神奈川県知事が感じた疑問だった。花見の宴会自粛が求められていたが、屋外ならば密閉空間ではなく、「3密の重なり」には当たらない。「矛盾していないか」。4月7日、政府の基本的対処方針に意見を出す諮問委員会で変更を求めた。
 3密の回避はいまや「国際標準」になりつつある。WHOが7月18日、公式フェイスブックで、日本の3密にあたる三つのCを避けるよう求めた。「3C」とは「密集した場所」「人と密接する場面」「密閉され、閉ざされた空間」の英語の頭文字。日本発の3密回避に、世界が追随した。
――――
読売新聞 (2020-07-30) [検証コロナ 次への備え]警鐘次々 インパクト
(読売新聞社のデータベース「ヨミダス歴史館」による)

黒岩知事の当時の発言がウェブサイトに残っている。

「密閉・密集・密接が重なった所は感染の危険が高いから避けるように」とのメッセージが誤解を招いているのではないでしょうか?これは集団感染が起きやすい条件を提示したものであって、一人一人の感染の危険からすれば、この3つは「重なる」必要はありません。一つでも十分、危険です。「重なる」ことを条件にしているから、「ならば屋外は大丈夫か」と思ってしまうのではないでしょうか。

私が県民のみなさんに発しているメッセージでは「重なる」という言葉を使っていません。

昨日、全国知事会の飯泉会長が政府の対策本部で私のこの主張を伝えてくれました。政府の基本的対処方針の中に反映されることを期待しています。
――――
黒岩 祐治 (2020-03-28) 「重なる」でなくとも (神奈川県知事 黒岩祐治 Official Website)

https://kuroiwa.com/%e7%9f%a5%e4%ba%8b%e6%8a%95%e7%a8%bf/post-20200328/

18時からの安倍総理の記者会見。「密閉・密集・密接を避けるよう」と表現し、「重なる」の表現が消えました。神奈川県からの声が届いたようです。ただ、総理の表現が変わっているのに、NHKの画面が3密が重なる図を使っていたのは残念でした。
――――
黒岩 祐治 (2020-03-28) 「密」は1つで危険! (神奈川県知事 黒岩祐治 Official Website)

https://kuroiwa.com/%e7%9f%a5%e4%ba%8b%e6%8a%95%e7%a8%bf/post-20200328-2/

黒岩の発言からは、クラスターの発生さえ防げばよいという日本政府と専門家の方針に異議をとなえたものであったことがわかる。3条件が重なった場以外では確かに集団感染 (=クラスター) は発生しにくいのかもしれないが、個人の感染の危険が小さいわけではない。そこを周知しなければならないのではないか? と。で、28日には首相の記者会見の表現が変わったということである。

もっとも、すでにみたように、3月28日の「基本的対処方針」でも4月1日の対策本部会議資料でも、警戒の対象として呼びかけられていたのは、従来通りの「3つの条件が同時に重なった場」のままだったわけである。正式に警戒対象が変更されたのは、上述のとおり、4月7日ということになる。

議事録等がないので、どのような議論を経て変更することになったのか、クラスター重視の政府方針に対する黒岩知事の異議はちゃんと伝わったのかなど、いきさつはよくわからない。ただ、
安倍首相は4月7日会議のあとにつぎのようなコメントを出していた。「3密」の定義を変更してより広い範囲の行動規制を求めるようにしたとか、従来の方針を一挙に変更したとは考えていなかったようである。

密閉、密集、密接の3つの密を防ぐことなどによって、感染拡大を防止していく、という対応に変わりはありません。
――――
首相官邸 (2020-04-07) 新型コロナウイルス感染症対策本部(第27回)

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202004/07corona.html

ゼロ密

そういう具合なので、「3つの密」の警戒対象を変更したとはいっても、そのことが大々的に広報されたりはしなかった。当時の政府の関連ウェブページ

をみても、変更に関する注釈はなく、従前とおなじ情報が載っている。

そんななか、4月15日には、「3つの「密」を避けるための手引き」という4ページのパンフレットが首相官邸サイトで公開された。


――――
首相官邸 (2020-04-17) 3つの密を避けるための手引き!
(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11486824/www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html 参照)

http://web.archive.org/web/20200417142720/https://www.kantei.go.jp/jp/content/000062771.pdf

1ページ目に箇条書きで書かれているのはつぎの3項目 (強調部分は原文では赤字):

  • 新型コロナウイルスの感染拡大をふせぐため、咳エチケット、手指衛生に加え、「3つの密(密閉・密集・密接)」を避けてください。
  • 3つの密が重ならない場合でも、リスクを低減するため、できる限り「ゼロ密」を目指しましょう。
  • 屋外でも、密集・密接には要注意。人混みに近づいたり、大きな声で話しかけることなどは避けましょう。

ここで「3つの密(密閉・密集・密接) を避けてください」というのは、3つの条件がすべてそろった状態を避けよということであろう。つまり、4月6日以前の警戒対象に戻っている。

それとは別に「ゼロ密」という用語が出てくる。このことばの定義は書いていないのだが、3つの条件のどれも存在しない状態のことだろう。こちらは「できる限り」の範囲で目指せばいい (つまり優先度の低い) 目標となっている。

結論

「3密」は当初、3つの条件がそろわなければクラスターは発生しない、クラスターが発生しなければ感染は拡大しない、という仮説から始まった。大勢が狭い空間で騒ぐようなイベントであっても、換気さえ十分なら大丈夫。したがって従来の活動の多くは抑制する必要がない。3条件がそろってしまった場合でも、改善してどれかひとつの条件をクリアしさえすればいいのだから、対処は比較的容易である。

このような触れ込みではじまった3密回避運動は、すぐに挫折を迎えることになる。上述したように、4月7日の方針変更を直接もたらしたのは、クラスター重視の政府の方針に対して、個人レベルのリスクを軽視しているという自治体からの疑義であったのかもしれない。しかしそれとは別に、クラスター対策を重視する専門家たちからも、3条件が重ならなくてもクラスターが発生することを認める声が出ていた。同様の声は、その後公表される論文等にも出てくることになる。

「3つの密」の条件が必ずしもすべてそろわなくても, 大声での発声や歌唱などは感染リスクになりうる, また息の上がるような運動が感染リスクを高めたと思われる事例も発生している。至近距離での会話機会が多い接客を伴う飲食店などでは, 多くの人が密集していなくても1人が複数の人と密接に接触するような場合にクラスターが形成される可能性がある
――――
神代 和明 + 古瀬 祐気 + 押谷 仁 (2020-07-31) 新型コロナウイルス感染症クラスター対策 (病原微生物検出情報月報 (Infectious Agents Surveillance Report: IASR) 41: 108-110)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2523-related-articles/related-articles-485/9756-485r03.html

この文面だけであれば、ここでいう「感染リスク」はクラスターが発生するリスクではなく、ごく小規模な感染が生じるリスクだけを意味しているのだととることもできる。しかしこの著者たちが名を連ねている別の論文でつぎのように主張していることも考えあわせると、近距離での歌唱や会話や激しい呼吸が単独でクラスター発生の要因となる (=5人以上への感染を一度に生じさせうる) ことは認めていると考えるべきであろう。

We noted many COVID-19 clusters were associated with heavy breathing in close proximity, such as singing at karaoke parties, cheering at clubs, having conversations in bars, and exercising in gymnasiums. Other studies have noted such activities can facilitate clusters of infection
――――
Furuse Y, Sando E, Tsuchiya N, Miyahara R, Yasuda I, Ko YK, Saito M, Morimoto K, Imamura T, Shobugawa Y, Nagata S, Jindai K, Imamura T, Sunagawa T, Suzuki M, Nishiura H, Oshitani H (2002) "Clusters of coronavirus disease in communities, Japan, January-April 2020". Emerging Infectious Diseases. 26(9) (September) (Early Release)

http://doi.org/10.3201/eid2609.202272

ただ、このような意見変更の根拠となった分析結果は何も表示されていない。結論のセクションにこの文章が唐突に書いてあるだけなので、これが正しいのかは外部からは判断しようがない。

このような主張の変遷はきちんと広報されてこなかった。だから当然のことながら、多くの人々は、3条件が同時に重なった場所を避けることが「3密回避」だと思っている。少なくとも4月頭まで、政府と専門家がそのように宣伝しつづけたからである。それで感染リスクがじゅうぶん下げられるという科学的根拠がある前提で議論が展開されていることも多い。

新型コロナウイルス感染症の勢いが続いている。ウイルスは感染が広がりやすく密閉された空間では感染リスクは高いが、専門家は換気などの対策を徹底すれば感染は防げるとしている。
〔……〕
密集や密接に近い空間でもクラスター発生の報告がないのが電車だ。国土交通省によると、時速約70キロメートルで走る電車において窓を10センチ程度開ければ車内の空気は5~6分で入れ替わるという。また飛行機では3分程度で客室内の空気が入れ替わるよう換気している。3密を避けるのが原則だが、窓を開けたり外気を入れ替えるようエアコンを動かしたりすれば、密閉が解消できて集団感染は防げる。経路不明の感染者が多いものの、電車や飛行機での集団感染事例は聞かない。換気すれば集団感染は起こりにくいといえそうだ。
――――
日本経済新聞 (2020-08-15) 新型コロナ「正しく恐れて」 わかってきた特徴と対策:チャートで見る感染再拡大

https://www.nikkei.com/article/DGXZZO62684590V10C20A8000000/

一方で、「3密」の意味が当初とはちがってきていることを漠然と感じ取っている論者もいる。しかし、それが4月7日の方針変更によるものだとは知られていないので、いつの間にか理由なく規制対象が拡大したのだという認識が広まる結果になっている。

3密回避は当初、密閉、密集、密接の三つの密が重なる場所を避ける話だったのに、いつしか屋外でも社会的距離が求められ、育児、介護、医療など、密接が必要な現場にストレスを与えています。
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鵜飼 哲夫 (2020-06-09)[ああ言えばこう聞く]脳のクセを自覚する 脳研究者 池谷裕二さん (読売新聞 東京夕刊)
(読売新聞社のデータベース「ヨミダス歴史館」による)

この記事の履歴

2020-09-21
公開
2020-09-22
基本的対処方針等諮問委員会 (3月27日、4月7日) 議事録の情報を追加
2020-09-22
文面を修正