remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」への意見

裁量労働制実態調査に関する専門家検討会 第2回を前に、参集者向けのメールを書きました。



裁量労働制実態調査に関する専門家検討会関連各位

田中重人と申します。東北大学文学研究科で准教授を務めております。
専門は社会学・社会調査法でありまして、今年2月以降、「労働時間等総合実態調査」の問題について調べています。

裁量労働制の実態をめぐる調査が今般企画されていると聞きおよんでおりますが、
そのことに関連して、日本での過去の裁量労働制に関する文献収集をおこなっております。
まだ整理しきれていないのですが、現在までにわかっている主なところを
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20181022 にまとめました。

連合総研や社会経済生産性本部、東京都立労働研究所、関西大学の森田教授などによる
実態調査があり、一部は東京大学社会科学研究所のデータアーカイブで公開されているようです。
調査手法としても、企業サーバのアクセス記録を解析するなど、新しい試みがあります。
リストにはふくめていないのですが、医学的な観点から裁量労働制の影響を取り上げた研究も、
学会報告が数件みつかります (医学中央雑誌データベース https://www.jamas.or.jp で検索できます)。

検討会においては、公開されている資料
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000357444.pdf
を拝読する限り、裁量労働制に関する先行する調査としてあがっているのは
労働時間等総合実態調査の他は労働政策研究・研修機構の調査だけのようであり、
これまでの研究の蓄積を無視したかたちで議論が進むことを危惧しております。
第1回の会合議事録 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000203825_00005.html
では「政府全体で今、EBPMを推進しております」と局長挨拶で述べられていますが、
EBPMというものは、本来は、まず既存の研究成果からわかるエビデンスを
網羅的に収集して検討するところから始まるもののはずです。
また、そもそも先行研究をおさえなければ、何についてのエビデンスが必要かということ自体が
わからないのですから、その意味でも文献のレビューは不可欠という認識でおります。

また、従来の労働研究でおこなわれてきた調査方法にこだわる必要は必ずしもなく、
情報科学や医学・疫学などの研究手法も検討されてしかるべきであろうと思います。

なお、「労働時間等総合実態調査」およびその前身と思われる「労働時間総合実態調査」
は、これまでにすくなくとも12回おこなわれてきたようなのですが、それらについて
入手可能な情報を検討した論文 (来年3月公刊予定) の原稿を
http://tsigeto.info/19a-draft.pdf で公開しています。
第1回の検討会で報告された厚生労働省による監察結果
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000357449.pdf
は、公表されている文献を検討せず、もっぱら省内での聞き取りに依存したもののように読めます。
これまで、厚生労働省からは、この調査がいつからどのようにおこなわれてきたのか、
労働政策にどう影響してきたのかといった基本的事項の説明が一切ありませんでした。
そのようなやりかたにも違和感があります。

いずれにしても文献レビューは合理的な意思決定の基本であり、
今回の検討会でも、まずは文献の網羅的収集とその批判的検討という手順を
踏んでいただけるよう切望する次第です。

2018年11月1日