remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

Sheps (1965) Table 2 によるハテライトの女性年齢別婚姻内出生率 (ASMFR)

2016年3月31日の記事 【解題】高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証: 人口学データ研究史を精査 - remcat: 研究資料集 のつづき。

年齢別婚姻内出生率 (ASMFR) はハテライトのデータからえられるわけだが、ここでなぜか Bendel and Hua (1978) は、20代前半までに結婚した女性のデータだけに限定するのである。

〔……〕

〔……〕この操作の結果として、年齢が上がるにしたがって新婚の人がいなくなり、結婚から長い年数が経過した人が増えていくデータを使っていることになる。(現代でもそうであるが) 新婚直後がいちばん夫婦仲がよく、時間がたつにつれて仲が悪くなったり疎遠になったりするので、性行動もそれにしたがって変化する。実際、データ元の Sheps (1965) の Table 2 (上記) やその前の Table 1 はあきらかにその傾向を示しており、Sheps 自身も論文中でそのことを指摘している。Bendel and Hua (1978) 推定の25歳以上の部分は、結婚からの年数経過による性行動の不活発化という要因の影響を受けているのであり、加齢による受胎確率の低下を過大に推定していることになる

http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/pr

実際どのような感じなのかについて、Sheps (1965) の Table 2 のデータを使ってグラフを描いてみた (データは末尾の Appendix 参照)。北米ハテライトの1950-60年代のデータで、女性の年齢別の婚姻内出生率 (Age-specific marital natality rates) を、結婚時年齢別に集計したものである。

グラフ作成にあたって、以下の加工を加えた。

  • 各系列の最初の年を除外。これは、最初の1年は出生率が低めに出るからである (x歳で結婚した夫婦の子供の大部分は x + 1 歳以降の出産になる)
  • 各系列3年目以降から46歳までについて、前後1年ずつの範囲 (つまり3年間) の移動平均を計算。これは、出生率の高い集団においては年齢別出生率に周期的な変動があるからである (多くの女性が妊娠中であった年の翌年は出生率が上がるが、その間は新たな妊娠が起こらないので、さらにその次の年は出生率が下がる)

また、25歳以降に結婚した女性は人数が少ない (したがって標本誤差が大きい) ことに注意 (Appendix の表画像の * マークを参照のこと)。


図1. 女性の結婚年齢別にみた年齢別婚姻内出生率 (3年間移動平均、100人あたり)

図1からわかるように、新婚当初は60%前後の高い出生率を示し、その後下がっていくという共通のパターンがみられる。

30歳以降に結婚した女性の35歳前後の出生率が落ち込んでいるが、これは35歳時の出生率が26%と極端に低いことによる。もしこの26%を外れ値とみなして除外すると、39歳時までは50前後かそれ以上の出生率を保っていることになる。

結婚からの時間経過による出生率低下の効果を確認するため、この各系列の開始時をそろえてプロットしなおしたのが図2。


図2. 結婚からの時間の経過と婚姻内出生率 (3年間移動平均、100人あたり)

30歳以降に結婚した女性の出生率の一時的な落ち込み (前述) を除外すると、結婚後5年くらいの間は、どの結婚年齢の場合も60%前後と高い。結婚が遅いと出生率が低いといった傾向はない。

その後は、まず30歳以上で結婚した女性以外については、出生率が少しずつ低下していくことがわかる。この部分は、加齢のせいというよりは、結婚からの年数経過のせいであろう。

30歳以上で結婚した女性の出生率は、10年程度経過すると大きく下がっていく。15年程度経過したところで20代後半で結婚した女性の出生率が大きく下がり、20年程度経過したところで20代前半で結婚した女性の出生力が大きく下がる。実際の年齢に当てはめるとどのようになっているかを図1も併用して考えると、40歳すこし前くらいから、年齢による低下という要因が (結婚からの経過年数にかかわらず) おおきくはたらきはじめることになる。

3月31日の記事 でも論じたとおり、2015年の高校保健副教材で使用された「妊娠のしやすさ」グラフは、20代前半までに結婚した早婚女性のデータ (図1, 図2では点線の2本に相当) だけを抜き出して、それをもとに fecundability を推計した Bendel and Hua (1978) の論文 をもとにしている。それにさらに加工して22歳時のピークをつくったのが James Wood (1989)、それを不正確に写したのが O'Connor et al (1998)、20代のうちに急激に低下するように線を引きなおしたのが吉村泰典 (2013) であるが、このように一連の改変がおこなわれる以前に、すでに データが恣意的に選択されていた のであり、その時点で、20代中ごろから低下の始まるラインが出てくるのは必然であったことがわかる。

Appendix: Age-specific marital natality rates by age at marriage, per 100 married women

Source: M. C. Sheps (1965) "An analysis of reproductive patterns in an American isolate". Population studies. 19(1):65-80. http://dx.doi.org/10.1080/00324728.1965.10406005 Table 2 (page 68).

Image:

The area within red lines indicates the data used for the estimation of natural fecundability curve by Bendel and Hua (1978).

Table:

Maternal age at birth <20 20-24 25-29 30+ All
18 29 29
19 40 40
20 71 28 58
21 53 59 56
22 61 60 60
23 62 58 59
24 51 64 61
25 56 58 40 57
26 49 58 73 56
27 55 56 56 56
28 50 54 69 54
29 55 53 62 54
30 46 57 53 0 54
31 55 50 74 68 53
32 39 46 43 60 44
33 50 51 52 56 51
34 39 49 57 59 47
35 46 46 52 26 46
36 37 43 53 64 43
37 42 41 43 40 41
38 39 42 48 67 43
39 34 38 46 42 38
40 38 38 54 36 39
41 28 32 26 25 30
42 17 30 42 26 26
43 21 17 25 18 19
44 20 13 7 25 15
45 11 8 0 8 8
46 2 3 0 10 3
47 3 3 0 0 3