remcat: 研究資料集

(TANAKA Sigeto)

第4次男女共同参画基本計画「素案」に対する意見

9月14日までとなっていた第4次男女共同参画基本計画「素案」に対する意見募集 http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_sakutei/yojikeikaku/ikenboshu.html について、下記のような意見をオンラインで出しました。仙台 (8/24)、東京 (8/31) での公聴会で発言した内容と一部重なっていますが、その後に判明した事実も含め、根拠を示しながらわかりやすく問題点を訴える内容にしたつもりです。

第1部「基本的な方針」について

意見:

(1) 計画「素案」全体を白紙撤回すべき
(2) 産婦人科・生殖医療等の専門家が持込んだ資料はすべて再検討し、出典と妥当性について不審な点がないかを洗いなおすべき
(3) 検討の場から産婦人科・生殖医療の関係者は外すこと。もし専門家が必要なら、日本の学界にしがらみのない人を外国から呼ぶべき

理由:

すでに新聞等で報じられている通り、吉村泰典(日本産科婦人科学会、日本生殖医学会等の会長・理事等歴任、慶應義塾大学名誉教授、現内閣官房参与)氏が提供した「妊娠のしやすさ」(妊孕力) の改竄グラフが、産科婦人科・生殖医療関連の9つの学術団体から政府あてに出された要望書に使われ、それが文部科学省作成の高校副教材に掲載されるという前代未聞の不祥事が起きました。さらに、これらの団体は、ほかにもデータの不適切な利用によって、自らの利害に沿った方向に政策を誘導した疑惑が指摘されています (http://synodos.jp/education/15125 参照)。第4次男女共同参画基本計画素案の作成にあたっても、これらの団体から提供された改竄資料が大きな影響を与えたことが危惧されます。一般に、政策立案にあたって専門家、学術団体から意見を求める際には、それぞれの専門分野の知見を踏まえた妥当な意見が出されることを前提としていますが、今回の事件は、そのような前提が成り立っていなかったことを示しています。
 したがって、専門家がしかるべき役割をはたしていなかったことが明らかになった以上、いったん素案は撤回して、再度資料を吟味するところからやり直すべきです。当該団体が標的にしていたのは主に素案のII-6「生涯を通じた女性の健康支援」に該当する部分でしょうが、そのほかにもどこにどのような影響が表れているかがわからない以上、素案の全体を対象として検討しなおすべきです。
 現在のように高度に専門的研究・技術が発達している時代においては、専門家が組織的に嘘を政策に潜り込ませようと本気で画策した際には止めることは非常にむずかしいのです。日本産科婦人科学会、日本生殖医学会等がそのような反社会的行動に出ている疑いがあることに対して、ここできちんとした対処を示さなければ、今後の日本の政治は悪意を持った専門職集団に簡単に乗っ取られていくことになるでしょう。

第2部 政策編 II-6 「生涯を通じた女性の健康支援」について

意見:

全面的に再考すべき

理由:

日本産科婦人科学会、日本生殖医学会などの医学団体、およびそれらの団体で役員をつとめていた吉村泰典内閣官房参与などが不適切な改竄データを用いて政策に介入してきていることはすでに新聞等で報じられているとおりであり、この「素案」における II-6 はその影響を非常に大きく受けていることが危惧されます。実際、この II-6 にあがっている項目は、そのほとんどが、吉村氏が代表をつとめる一般社団法人「生命の環境研究所」サイト (http://yoshimurayasunori.jp) に掲載されている記事のテーマと重なっており、事実上、吉村氏ひとりの私案に基づいて作成された可能性があります。その一方で、性別を問わず必要となる健康維持のための制度や、(性差にかかわらない) 医学的な基礎知識を得るための教育、性的マイノリティの医療へのアクセス、医療の動向を監視するための統計制度の整備、労働災害の防止や労働安全衛生などへの言及がなく、医学界の利害(「性差医療」の推進、妊娠・出産等に関する健康支援、医療分野への女性の参画の拡大、女性アスリートの医療サポート体制など)に偏った、バランスを著しく欠くものとなっています。

第2部 政策編 I-5 「科学技術・学術における男女共同参画の推進」について

意見:

学術研究におけるジェンダー、平等、正義、社会制度、政策に関する研究を推進する旨を明記すべき

理由:

「素案」におけるI-5の各項目は、女性研究者・技術者の育成・採用・登用を促進するというものばかりです。しかし、そもそもジェンダーに関する平等や正義はどうあるべきものか、それを達成するためにどのような社会制度や政策が可能であり、どのような効果があるかといった事柄に関する研究と提言が、学術分野に本来期待されるものであるはずです。したがって、これらの分野をになう学術研究の促進と人材の育成を、第4次男女共同参画基本計画のなかに組み込むべきと考えます。

第2部 政策編 III-9 「男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備」について

意見:

家族に関する法制度について、現行法の問題点と改善の方向を明記すべき。特に、(A1) 協議離婚制度の廃止、(A2) 離婚にともなう財産分与の不平等の是正、(A3) 父親の強制認知と扶養義務の履行確保、(A4) 現行の養育費算定基準の見直し、の4点を緊急の課題としてあげること、さらに (B) 子の扶養義務を親に負わせる制度の廃止、を長期的に日本社会が目指すべき方向として掲げることを求める。

理由:

「素案」では「家族に関する法制については、今後最高裁判決が予定されていることから、第4次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(答申)において記述する。」と書いてあるだけで、内容がまったくわかりません。しかし、最高裁判決がどのようなものであるかにかかわらず、現時点までに家族法制度の問題については相当程度議論の蓄積があるのであり、それを「素案」に書かない理由がありません。
 上記「意見」にあげた (A1)〜(A4) の4点は、現在の日本の家族法制度(主として民法第4編)において、男女間の格差を生み出す要因となっていることが長年指摘されてきたものですが、これまでの男女共同参画基本計画ではほとんど無視されてきたところのものです。さらに、子供の扶養が第一義的に親の義務とされ、子供の生活費に対する公共支出が極めて低いという現状では、子供を持つことはすなわち経済的生活水準の低下を必然的に招くのであり、このことが子供を抱えた女性の貧困率の高さに直結しています。
 家族法におけるこのような問題点を考えれば、(A) とりあえずは現行法の、子に対する親の扶養義務を前提としたうえで、それを父親と母親とで平等に負担する制度をつくることが急務です。さらに長期的には、(B) 子供の生活を保持する責任は政府にあり、親にあるのではないことを法律上宣言し、すべての子供に一定の生活水準を保障する義務を政府に負わせるよう、家族制度を変革していく必要があります。

第2部 政策編 II-8 「貧困、高齢、障害等により困難を抱えた女性等が安心して暮らせる環境の整備」について

意見:

ひとり親家庭の経済状況を改善する手段として、(A1) 協議離婚制度の廃止、(A2) 離婚にともなう財産分与の不平等の是正、(A3) 父親の強制認知と扶養義務の履行確保、(A4) 現行の養育費算定基準の見直し、の4点を緊急の課題としてあげること、さらに (B) 子の扶養義務を親に負わせる制度の廃止、を長期的に日本社会が目指すべき方向として掲げることを求める。

理由:

ひとり親家庭の経済状況がよくない原因にはさまざまのものがあげられますが、その中には、日本の現状では離婚の際に裁判所等が関与しないために交渉力が強いほうが有利に交渉を進め、不公平な取り決め内容となることや、裁判所が関与する場合であっても財産分与や養育費の取り決めに使われている基準が衡平を欠くこと、定期金の支払いを取り決めてもその履行を強制する手段が乏しいことなど、家族法上の制度不備に起因する部分が大きいことが指摘されています。さらに、未婚で子供ができたときには、父親が認知を拒否することがすくなくないこと、認知をおこなった場合でも、その後の子供に対する扶養義務の確保がやはり難しいことが指摘されています。
 一方で、現行の家族法は、子の生活水準を親のそれに比例させることを義務づけています。したがって、豊かな親の子供が豊かな生活を送り、貧しい親の子供が貧しい生活を送ることは法律上の義務となっています。この現状は、出自からの平等を定めた憲法14条の趣旨に反するものです。「素案」57頁のII-8-1-(2)-イ-④では、「家庭の経済状況等によって子供の進学機会や学力・意欲の差が生じないよう」にすることだけを定めていますが、そもそも子供の間に経済状況の大きなちがいがあること自体がおかしいのです。
 長期的には、親の経済状況によって子の経済状況に格差が生じないようにすることが必要で、そのためには、上記意見 (B) のように、子の扶養義務を親に負わせる制度を廃止し、政府がすべての子供に一定以上の水準の生活を保障する必要があります。これは日本の家族法の根本的な変革になりますから、長い時間を要する可能性があります。それまでのとりあえずの処置としては、上記意見 (A1)〜(A4) に提示したような制度改革が必要でしょう。